児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

管理者とupした者は共同正犯。upした回数の併合罪(横浜地裁h20.1.17)

 判例秘書から抜粋。

横浜地方裁判所判決平成20年1月17日
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1
ホームページの企画立案,製作,提供及び運営管理等を業とする株式会社Dの代表取締役であり,同社が管理運営するインターネット掲示板「」の業務全般を統括するものであるが,同社従業員Eら及びF,Gほか1名と共謀の上,別表1の番号1ないし3記載のとおり,平成19年1月21日ころから同年2月14日ころまでの間,前後3回にわたり,東京都新宿区<以下略>上記D事務所において,同所に設置された同社管理に係るサーバコンピュータの記憶装置であるハードディスクに,インターネットに接続したコンピュータを有する上記Fほか2名がアップロードした男女の性器等を露骨に表したわいせつ図画の画像データ合計3画像を記憶・蔵置させるなどし,上記わいせつ画像をインターネットに接続したコンピュータを有する不特定多数の者に閲覧可能な状況を設定し,同月18日,上記わいせつ画像データにアクセスしてきたHほか不特定多数の者に対して,上記データを送信して閲覧再生させ,もってわいせつな図画を公然と陳列し
(事実認定の補足説明)

わいせつ文書陳列罪について
弁護人は,判示第1の罪について,同罪の実行正犯は画像送信者らであって,被告人は本罪の実行行為に当たる行為をしておらず,インターネット掲示板の開設及び運営によって,実行行為以外の方法により上記画像送信者らの実行行為を容易にしたにすぎないから,被告人にはわいせつ文書陳列罪の幇助犯が成立するにとどまる旨主張するので,この点について補足して説明する。
(1)
関係各証拠により問題なく認められる事実は,概ね以下のとおりである。

被告人は,平成14年12月ころ,自宅において,インターネットに接続したコンピュータの利用者(以下「利用者」という。)からいわゆるアダルト画像データのアップロードを受けて掲示するインターネット掲示板として「」(以下「本件掲示板」という。)を開設した。被告人は,本件掲示板において,利用者が画像データを送信すると,被告人の管理するサーバコンピュータの記憶装置に上記画像データが記憶・蔵置されるとともに,即時に利用者が画像データを閲覧可能な状態となるシステムを採用し,上記のとおり閲覧可能な状態となった画像データを閲覧することができない状態に変更する(上記状態への変更を指して「削除」という。)には,管理画面にパスワードを使用してログインすることを要するようシステムを調えた。さらに,本件掲示板を,大別して「Adult」及び「Admin」と題する各カテゴリ(後に「Not
Adult」と題するカテゴリが追加された。)に分け,「Adult」カテゴリにおいてはカテゴリ内を「女子校生」,「熟女・人妻」等の詳細な小カテゴリに分けた上で,利用者が,画像の内容に沿った小カテゴリに向けて画像データをアップロードできるようにし,上記アップロードの際には,利用者自身が「スレッド」と呼ばれる小タイトルを付けて更に詳細な分類を設けられるように設定し,また,「Admin」と題するカテゴリにおいては,利用者から運営などに関する投稿を受け付けるとともに,同カテゴリ内に「削除依頼掲示板」を設けて,利用者が閲覧可能な状態に置かれている画像データの削除を希望する場合に画像を特定して削除依頼を書き込み,被告人の削除を促すことができるようにした。

被告人は,本件掲示板開設当初から,本件掲示板内に,利用者に対し,男女の性器等が露骨に表示された画像データ(以下,上記と同種の画像を指して「わいせつ画像」という。)の投稿を差し控えるよう呼びかける趣旨の文章を掲示していた。しかし,本件掲示板には,開設からほどなくわいせつ画像データがアップロードされるようになり,削除依頼掲示板にそのようなわいせつ画像について削除を依頼する文章が書き込まれるようになった。被告人は,これらの削除依頼を受けて,削除依頼があった画像については削除するなどしたが,本件掲示板における上記アのシステム自体を変更したり,本件掲示板全体にわたってわいせつ画像を積極的に探索し,削除するなどの行動はとらなかった。

J(以下「J」という。)は,本件掲示板開設からほどない時期から,本件掲示板にわいせつ画像が掲載されているのを見て,頻繁に削除依頼掲示板に画像削除を促す書き込みをしていたが,平成15年2月ころ,被告人から本件掲示板の削除担当者になることを依頼されて,これを了承し,削除作業に当たるようになった。Jは,上記削除作業に当たるに際し,被告人にどのような画像を削除するべきか尋ねたところ,被告人から「削除依頼の掲示板に削除依頼の書き込みがきたものについて,依頼の画像を消してください。」などと言われたことから,被告人が,わいせつ画像であっても削除依頼が来ていないものであれば掲示板上に残して,誰でも見られる状態にするつもりであると感じたが,「分かりました。」などと述べてこれを了承した。

同年春ころ,被告人の依頼を受けたE(以下「E」という。)が本件掲示板のシステム構築を改善し,これによって本件掲示板により多くの画像を長期間にわたり掲載することが可能となり,次第に本件掲示板への投稿画像数も上昇して,平成16年ころには,本件掲示板は相当の知名度を有するようになった。

被告人は,上記のとおり本件掲示板の知名度が上昇したことなどから,平成16年2月ころ,広告代理店と契約し,月額約200万円(なお,平成17年半ば以降は月額約300万円)の広告料を受け取るようになった。

平成16年9月,被告人は自己を代表取締役として株式会社Dを立ち上げ,判示のD事務所等にサーバコンピュータを設置し,本件掲示板の管理人として,JやEと共同して,削除依頼掲示板への書き込みへの対応やシステム上の不具合の修復,システムの改善等の本件掲示板の管理運営業務に当たるようになった。このころには,本件掲示板上の画像を削除することができるのは被告人,E,JらD関係者のみとされ,主にJが削除作業を担当し,削除状況について被告人に報告するなどしていた。

同年12月ころ,Eは,本件掲示板内にわいせつ画像がかなり目立つと感じるようになったことから,本件掲示板のシステムを変更し,利用者がアップロードした画像データを直ちに閲覧可能な状態に置くことなく,これをいったん保留状態として,管理者が上記保留状態にある画像データを確認し,閲覧に供することに問題がないと判断したもののみを閲覧可能な状態とするシステムを導入してはどうかと被告人に提案した。しかし,被告人は,上記のようなシステムを採用し,アップロードされた画像データ中からわいせつ画像データ等を除いたもののみを閲覧可能な状態に置くこととすれば,わいせつ画像を期待してアクセスする利用者の期待を裏切ってアクセス数の減少につながり,広告料収入に影響する可能性があり,他方で,上記のようなシステムを採用した上で,なおわいせつ画像データを閲覧可能な状態に置き続ければ,その全責任を被告人自身が負うことになると考えて「いや,いいよ。」などと述べてこれを断った。

平成18年ころには,相当数のわいせつ画像データが本件掲示板にアップロードされるようになり,スレッドの中には,その2ないし3割をわいせつ画像が占めるものもみられるようになった。上記わいせつ画像のうち一部については,削除を依頼する書き込みがされたり,削除担当者が発見するなどして削除されたが,多くのものについては,削除されず長期間にわたり本件掲示板上に掲載され続けた。

上記の状態はその後も継続し,平成19年1月から2月ころには,本件掲示板には1日当たり約1万件の画像データがアップロードされ,上記の画像中の約数パーセントをわいせつ画像が占める状態であった。

そのころ,F,Gほか1名は,インターネットに接続したコンピュータを使用して本件掲示板を閲覧し,判示の各犯行年月日ころ,本件掲示板に,順次,判示の各わいせつ画像をアップロードし,同データは判示のサーバコンピュータの記憶装置(合計2台)に順次記憶・蔵置され,利用者が閲覧可能な状態となった。
(2)前記認定に基づく判断

実行行為について
検察官は,「同社(株式会社D)管理に係るサーバコンピュータの記憶装置であるハードディスクに,インターネットに接続したコンピュータを有する不特定多数の者がアップロードした男女の性器等を露骨に表したわいせつ画像の画像データ合計3画像を記憶・蔵置させるなどし,上記わいせつ画像をインターネット上に接続したコンピュータを有する不特定多数の者に閲覧可能な状態を設定し」たことをもって本件実行行為として訴追している(なお行為の終期は明示されていないが,平成19年2月18日における閲覧行為時点までを実行行為として訴追する趣旨と善解される。)ところ,検察官が記憶・蔵置行為をアップロード行為と分けて上記のとおりの文言により記載していることや,上記記載に係る行為態様,検察官が論告において「わいせつ画像を削除するか否かの主導権を自己の手中に収める本件掲示板の管理運営」と主張していること等からみて,検察官は,本罪の実行行為につき,わいせつ画像データを記憶・蔵置したサーバコンピュータの記憶装置をインターネットを介して公然陳列する行為に加え,サーバコンピュータの記憶装置にわいせつ画像を記憶・蔵置する(させる)行為部分についても,陳列の対象たるサーバコンピュータの記憶装置にわいせつ性を帯びさせる行為であると同時に不特定多数の者に閲覧可能にする管理運営行為の一部として本件陳列の実行行為に含めて訴追していると解される(このことは,検察官が弁護人らからの釈明に対応して証拠請求した送信者2名に対する判決に係る公訴事実〔甲39,40〕において,同人らの実行行為には記憶・蔵置行為を含むことが明らかであるところ,「…送信し,……記憶・蔵置させ,……閲覧可能な状況を設定し」と記載し,送信行為後の記憶・蔵置について本件同様の表現をして実行行為としていることからも窺うことができる。)。なお,検察官は,送信者が実行正犯であるとの主張に対する釈明として,わいせつ画像データが蔵置されている記憶装置を閲覧可能な状況に設定することを実行行為として捉えているとして,一次的には,株式会社D従業員らとの共謀による正犯が,二次的には各送信者らとの共同正犯が成立すると主張しているが,実行行為部分については特に上記と異なる主張をしていないから,結局,検察官の訴因に関する主張は,上記内容の実行行為を前提として,被告人及び株式会社D従業員らによる実行共同正犯であるとする一次的主張と,これに各送信者らをも共犯者らに加えた実行共同正犯とする予備的主張があるものと解される。

そこで,まず,検察官の主張する実行行為中,わいせつ物の公然陳列行為部分についてみると,前記認定によれば,被告人は,判示の各犯行年月日において,株式会社Dの代表取締役として本件掲示板の管理運営を統括する立場にあり,インターネット利用者から送信された画像をサーバコンピュータに記憶・蔵置させ,不特定多数の利用者に閲覧可能とするシステムのもと,本件掲示板を管理運営していたと認められる。上記管理運営行為は,単にサーバコンピュータを自己の管理下に置くにとどまるものではなく,同社従業員らと共同して,本件掲示板に関するシステムの不具合を修復したり,削除依頼掲示板への書き込みに対応したりするなど,被告人らによる積極的主体的な行為を含むものであるから,上記の管理運営行為が被告人らによる作為と評価できることは明らかである。

そうすると,被告人は,上記のとおり作為と評価される本件掲示板の管理運営行為により,サーバコンピュータの記憶装置内に記憶・蔵置したデータを不特定多数のインターネット利用者が閲覧可能な状態に置き,これにより,判示の犯行年月日において,判示の各わいせつ画像データを記憶・蔵置したサーバコンピュータの記憶装置の陳列行為をインターネットを介して開始し,これを継続したものであるから,被告人らの上記行為はわいせつ物の公然陳列行為に当たり,本罪の実行行為の一部を構成する。


次に,検察官の主張する実行行為中,わいせつ画像を記憶・蔵置する行為部分についてみると,確かに,弁護人らの主張するとおり,被告人は本件各わいせつ画像データの送信行為をしたものではない。しかし,前記認定のとおり,被告人は,インターネット利用者らにより画像データが本件掲示板に送信されることを当然の前提とした上で,インターネット利用者らにより送信された画像データがサーバコンピュータの記憶装置に機械的に記憶・蔵置されるよう本件掲示板のシステムを設定し,上記設定のもと,株式会社Dの従業員らと共同して,判示の各犯行年月日において,本件各わいせつ画像データの送信を受け,上記のとおり送信された画像データを含む掲示板全体を自己の主体的な行為として不特定多数の者の閲覧に供していたのであって,後述する本件犯行時までの本件掲示板の管理運営行為の状況,被告人の故意及び各送信者らの認識等にも照らし,上記記憶・蔵置(その継続を含む。)は,本件掲示板の管理運営行為の一部として被告人らの行為と評価できる部分を含むということができる。


他方,各アップロード者にとっては,上記記憶・蔵置行為は,画像データの送信行為に引き続く機械的作用であり,上記記憶・蔵置行為は,上記画像データの送信行為と一連の本件掲示板の利用行為として,各アップロード者らの行為と評価できる部分を含むということができる。


そうすると,画像データの記憶・蔵置行為は,被告人らについては管理運営行為の一部として各アップロード者らにより送信された各わいせつ画像データを閲覧可能な状態にする行為の一部として評価され,他方,各アップロード者らについては,わいせつ画像データの送信に引き続く機械的作用により本件サーバコンピュータの記憶装置にわいせつ性を帯びさせ,その公然陳列を開始継続させる行為として評価されることになり(これは,弁護人の主張及び検察官が前記Fらを訴追していることからも明らかである。),これらは各人の行為に分断することが困難な不可分一体の行為として,本罪の実行行為の一部を構成するということができる。


そうすると,被告人は,上記のとおり記憶・蔵置行為の一部及び公然陳列行為を行ったものであり,これらは本罪の実行行為(又はその一部)を構成するものであるから,被告人に実行行為に当たる行為がないとする弁護人らの主張は採用できない。

故意について
前記認定のとおり,被告人は,自ら本件掲示板を開設し,これを管理運営していたものであって,本件掲示板のシステムを熟知していたものであるから,インターネット利用者から画像データが送信された場合,当該画像データが判示のサーバコンピュータの記憶装置に記憶・蔵置され,不特定多数の者に閲覧可能な状態となることの認識に欠けるところはない。


また,被告人は,前記認定のとおり,本件掲示板の開設からほどなく,本件掲示板にわいせつ画像データがアップロードされ,削除掲示板にそれらのわいせつ画像について削除依頼が書き込まれているのを見て,本件掲示板にわいせつ画像データがアップロードされていることを認識したものであり,その後も,本件掲示板の管理運営を通じて,相当数のわいせつ画像データが日々アップロードされていることを認識していたと認められるところ,被告人は,上記の認識を有しながら,削除担当者に対し,削除依頼のあった画像のみを削除するよう指示し,また,Eから,わいせつ画像データのアップロードを減らすべく本件掲示板のシステムの変更を提案された際にこれを明示的に拒絶するなど,閲覧可能な状態にあるわいせつ画像データのうち削除依頼のないものについてはアップロードされるままに放置する方針を採っていたと認められるから,インターネット利用者からわいせつ画像データのアップロードを受けることについての認識及び認容にも欠けるところはない。


そうすると,被告人は,わいせつ画像データが送信され,自己の管理するサーバコンピュータの記憶装置に記憶・蔵置されて,上記記憶装置がわいせつ物に当たる状態となること及び上記記憶装置に記憶・蔵置されたわいせつ画像データが不特定多数人に閲覧可能な状態となることにつき認識認容していたものといえるから,被告人には本罪の故意が認められる。


この点について弁護人は,被告人は本件掲示板運営に当たり「削除ガイドライン」を定め,本件掲示板にわいせつ画像データがアップロードされた場合,これを削除する旨を定め,かつ,本件掲示板内にわいせつ画像データのアップロードを差し控えるよう呼びかける掲示を掲載し,さらに,過去にわいせつ画像データをアップロードした者のIPアドレスやメールアドレスを記録し,同IPアドレスやメールアドレスによる画像データのアップロードは受け付けないシステムを構築していた旨を指摘しており,上記指摘は,被告人に,わいせつ画像データのアップロードを受けることや,これを閲覧可能な状態に置くことの認容がないと主張する趣旨であると解される。


確かに,関係証拠上,被告人がわいせつ画像に関して弁護人の指摘するような方策をとっていた事実が認められる。しかし,本件掲示板においては,前記認定のとおり,数年間にわたり,多数のわいせつ画像データが日々アップロードされる状態が続いていたと認められるのであって,被告人が,上記の状態を認識しながら,上記方策のほかに,わいせつ画像データがアップロードされ,閲覧可能な状態に置かれる事態を防止するための策を採らず,さらにはEがわいせつ画像データのアップロードを防止するための有用かつ簡単な策として示した案を明示的に拒絶してさえいるのであるから,被告人に上記認容がなかったとみることは到底できないのであって,弁護人の主張は採用できない。


また,弁護人は,被告人には判示の各画像の具体的認識がないから本罪の故意がない旨も主張するが,上記のとおり本罪の故意としては記憶装置にわいせつ画像データが記憶・蔵置されることにより同装置がわいせつ物に該当する状態となること及びこれを公然陳列することの認識認容で足り,個々の画像の具体的認識を要するものではないから,弁護人の上記主張も採用することができない。


(なお,ここで故意と表現しているものは,被告人の自白をもとにしてその主観面を検討したものであり,本件各わいせつ画像がアップロードされる以前の段階で本罪が成立するか否かについてはその自白に対応する補強証拠の存否の検討が必要である。)


アップロード者らとの共犯関係について
本件各わいせつ画像データを判示のサーバコンピュータの記憶装置に送信したのはFら3名であることは前記認定のとおりであるところ,上記アでみたとおり,同人らによる上記送信行為は,同人らにとってはわいせつ画像データの記憶・蔵置行為と一連の本件掲示板の利用行為としてわいせつ物陳列の実行行為の一部を構成し得るものであるとともに,上記記憶装置にわいせつ性を帯びさせる行為として被告人らが実行行為を開始する不可欠の前提行為を構成するものである。また,前記のとおり,同人らによる画像データ送信後の上記データの記憶・蔵置は,同人らの行為と評価される部分及び被告人らの行為と評価される部分を含み,両者が一体を成すものと認められる。
ところで,Fらによる上記データのアップロード当時,本件掲示板において,投稿画像の数パーセントをわいせつ画像が占め,わいせつ画像が2割から3割を占めるスレッドも多くみられ,これらのわいせつ画像が削除されることなく長期間にわたり本件掲示板上に掲載され続けていたことは前記認定のとおりであるところ,上記のわいせつ画像の掲載状況に加え,本件掲示板が,その開設当時から「Adult」と題するカテゴリを設け,これを更に詳細なカテゴリ及びスレッドに分類するなど,いわゆるアダルト画像(そのうち,性器等を露骨に表示したものがわいせつ画像と評価される。)データのアップロードを呼びかけることが明らかな体裁であったことも併せて考慮すれば,本件当時,本件掲示板は,実質的には利用者に対し本件掲示板へのわいせつ画像データのアップロードを動機付け,又はこれを呼びかける外観を呈していたと評価される。上記外観は,被告人が,わいせつ画像データのうち,削除依頼のないものについてはアップロードされるまま放置する方針のもと,数年間にわたり本件掲示板を管理運営し続けたことにより作出されたものであるから,被告人は,上記状態を積極的に招来したものというべきである。
また,被告人は,前記のとおり,本件掲示板上への広告の掲載により広告収入を得ていたものであり,本件掲示板においてわいせつ画像を閲覧できることを期待してアクセスする者の存在を認識し,上記期待に応えることでアクセス数を維持又は増加させ,ひいては上記広告収入を維持又は増加させることを意図して,わいせつ画像について前記の方針を採り,上記のとおりわいせつ画像データのアップロードを呼びかけるような外観を招来したものであるから,被告人に,インターネット利用者らによるわいせつ画像データのアップロード行為を自己のために利用する意図があったことは明らかである。
他方,上記Fらについてみると,同人らは,本件掲示板を閲覧して判示の各画像を自らアップロードしたものであって,被告人の作出した本件掲示板の前記外観により上記アップロードを動機付けられたものと推認される上,本件掲示板の性質や同人らが付した各わいせつ画像の名称等に照らし,上記アップロードにより,当該わいせつ画像が不特定多数のインターネット利用者に閲覧可能な状態となることを認識し,これを望んでいたものと認められる。
そうすると,被告人は,自己のためにする意思でインターネット利用者にわいせつ画像データのアップロードを呼びかけ,上記Fら3名は,それぞれこれに呼応して,自己の送信したわいせつ画像が本件掲示板上で閲覧可能な状態となることを認識しながら,これを望んで,本罪の不可欠の前提を成す各わいせつ画像データの送信行為をそれぞれ行い,これを受けた被告人らと一体となって本件記憶装置に各わいせつ画像を記憶・蔵置させた上,同装置の陳列行為に及んだものであるから,被告人とFらとの間の意思の連絡及び相互利用関係並びに被告人の正犯意思に欠けるところはなく,被告人には,本罪につき,上記Fらとの共同正犯が成立する(なお,各アップロード者と被告人らとの共同実行行為は,各アップロード者ごとにそれぞれ別個の行為であるから,3個の陳列行為が認められ,これらは併合罪となると解される。)。

なお,本件掲示板につき,本件各わいせつ画像がアップロードされる以前の段階において,判示のサーバコンピュータの記憶装置に絶えずわいせつ画像がアップロードされ,上記記憶装置がわいせつ物に当たる状態が継続していた事実が具体的に立証されたとまでは認め難く,わいせつ物の陳列が専ら被告人及び株式会社D従業員らによる行為であるとして各アップロード者を除いた上記被告人らのみによる正犯を認めるには足りないといわざるを得ない。そうすると,上記Fらによる本件各わいせつ画像データの送信行為なくしては本罪の実行行為は開始されず,この意味で,上記送信行為は前記のとおり本罪の実行行為の不可欠の前提を成すものと評価されることになる。加えて,本件実行行為のうち,記憶・蔵置行為部分については,前記のとおり各アップロード者の行為部分を切り離して被告人らの行為部分のみを観念するのが困難であるところ,上記Fらを被告人らの道具・手足とも単なる前提とも評価することができない以上,これらの者による記憶・蔵置行為部分を被告人に帰責するには意思の連絡を要することとなる。したがって,検察官の一次的主張を認めることはできず,予備的主張に係る各アップロード者との各実行共同正犯を認めるのが相当である。