児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

アクセス制御の話

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20040712#p1
 つまりこういうことだ。
 インターネットに接続されたwebサーバーは、webサイトの閲覧という特定利用について、アクセス制御がない。一般にサーバーの利用を許諾している。
 その状態で、同一サーバー上のあるファイルにアクセスすることを禁ずるというのは、密に機密情報が記録されたスタンドアローンのPCを他人に使わせるのと同じである。

     このファイルは秘密だから、見んといてや
などと利用範囲を限定して、スタンドアローンのPCを他人に使わせた場合には、たとえ機密情報にアクセスされても、暗号を解読されても、もはや不正アクセス罪は成立しない。

 「見て欲しくない情報」の保護について、電気通信回線を通じた場合だけ、刑罰法規で保護されるというのは、合理的でないし、そもそも不正アクセス罪の保護法益を超える。

だいたい、裁判所はというか、日本刑法は有体物を基調にできているから、同じサーバーの中で、「このファイルにはアクセスしてよい、このファイルは禁止」という客体の区別ができない。

わいせつ物公然陳列被告事件
大阪高等裁判所判決平成11年8月26日
判例タイムズ1064号239頁
判例時報1692号148頁
 また、所論は、ハードディスク内のわいせつ画像データのファイルがわいせつ物であり、それで特定することが可能であるのに、ハードディスク全体をわいせつ物と認定した原判決には、そこに蔵置されている無関係な情報をもわいせつ物とした誤りがある、という。
 しかし、ハードディスクは それ自体で一個の完結した記憶装置であるところ、本件ハードディスクの中に、わいせつ画像データと並んでこれと無関係なデータが記憶・蔵置されているとしても、わいせつ画像データは分散して記憶・蔵置されており、その磁気ディスク部分をこれと無関係なデータと物理的に峻別して特定することは極めて困難であると認められるから、原判決が本件ハードディスク全体を一個のわいせつ物とした判断に誤りがあるとは認められない。

東京高裁平成16年6月23日
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
2所論は,要するに,原判決は,被害児童ごとに法7条1項に違反する罪(児童ポルノ公然陳列罪)が成立し,結局これらは観念的競合の関係にあるとして,その罪数処理を行っているが,本罪については,被害児童の数にかかわらず一つの罪が成立するというのが従来の判例であるから,原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな法令適用の誤りがある,と主張する(控訴理由第16)。
 そこで,本件に即して検討すると,法7条1項は,児童ポルノを公然と陳列することを犯罪としているから,同罪の罪数も,陳列行為の数によって決せられるものと解するのが相当である。確かに,所論もいうように,児童個人の保護を図ることも法の立法趣旨に含まれているが,そうであるからといって,本罪が,児童個人に着目し,児童ごとに限定した形で児童ポルノの公然陳列行為を規制しているものと解すべき根拠は見当たらず,被害児童の数によって,犯罪の個数が異なってくると解するのは相当でない。
 そして,本件では,被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎないものと解される。したがって,この点に関する所論は正当であって,被害児童ごとに本罪が成立するとした原判決の法令解釈は誤りである。
 しかし,原判決は,成立した各本罪全体について,科刑上一罪の処理をした上で,全体を一罪として処断刑を算出しているから,その処断刑期の範囲は,当裁判所のそれと同一である。そうすると,この点に関する原判決の法令適用の誤りは,判決に影響を及ばすものとはいえない。
 論旨は,結局理由がない。

HDDの没収東京高裁H14.12.17東京高裁判例速報3186号
2 所論は,本件各パソコンには,本件ストーカー行為とは関係がない情報も多数含まれており,それが被告人にとっては重要な価値を有するから,これらを区別せず,パソコン全体を没収することは許されない旨主張する。しかしながら,上述のとおり,本件各パソコンは,いずれも本件ストーカー行為の犯行供用物件に当たり,かつ,被告人以外の者に属しないのであるから,これらをいずれも没収することができるというべきである。付言するに,没収は,目的物に対する所有権その他の物権を失わせ,これを国庫に帰属させる効果を生じさせるものであるから,有体物のみを対象とし,かつ,独立性を有しない物の一部分のみの没収は観念することができないのであり,ましてや,有体物でない,本件各パソコン中に記録されている電磁記録のうち,犯罪に関するもののみを抹消するなどして,これをもって没収とすることは,現行法上は,法が予定していないというべきである。なお,偽造・変造文書につき偽造・変造部分に限った没収が可能であるのは,当該部分に偽造・変造である旨の表示をすることによって社会的危険性を喪失させることが可能であると共に,その余の部分が独立の藤用を有する場合も少なくないことに照らし,法が特に認めたもの(刑訴法498条1項にその執行
方法の規定がある。)であって,独立性を有しない物の一部や,有体物でない電磁情報の一部に限り没収することは現行法は予定していないと解される。
そうすると,本件各パソコン中の本件ストーカー行為に関係する情報のみを没収すべきで,その余の没収は許されないとする所論は,独自の見解というべきで,採用することができず,本件各パソコンを没収することが,憲法29条,31条に違反する旨の主張も理由がない。

原田裁判長も、媒体が没収されたら、データの所有者は諦めてくれって判示してるし。

東京高裁平成15年6月4日
3 MOの没収について(控訴理由第2)
所論は,本件MOには被告人がホームページの作成・管理を依頼されている顧客のデータが保管されており,顧客のデータについては,被告人以外の者が,プライバシー権,肖像権,著作権,商標権という人格権,物権を有することが明らかであり,本件MOは細部が犯人以外の者に属するのであって,これを没収することは刑法19条に違反し,憲法31条,29条にも違反する,という。
所論のとおり,本件MOには,ホームページのバックアップデータと推認されるファイルも記録されているが,本件MOが没収されることによって被告人の請負ったホームページの作成,管理が不可能になったとしても,被告人が債務不履行責任を負い,発注者が,被告人や第三者に対し本件MOに保存されている発注者が提供したファイルを無断で使用しないよう請求することはできても,本件MO自体は被告人の所有物であり,発注者等が本件MOについて物権的な権利を有しているとは認められない。また,没収は,物の所有権を観念的に国家に帰属させる処分にすぎず,帰属した物の処分は別個の問題である。仮に国に帰属した後に,国が本件MOを発注者等の権利を害するような使用や処分をしようとした場合には,その行為の差し止めやファイルの複写,消去などを求め得る可能性はあるとしても,そのような可能性があることは没収の言い渡しを何ら妨げるものではない。
論旨はいずれも理由がない。