児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ禁止法:改正案の課題 与党と民主、異なる「単純所持」定義

毎日新聞も、記者が変わると論調変わります。

 議員の皆さんが「判例」という京都地裁判決H12は、いろいろ言って結局児童ポルノ該当性を肯定するための理由付ですし、その後別件で修正されているので、あてになりません。
 葉梨さん、その「判例に照らせば」といいつつ世間の反応を見て、国会の発言を修正してますが、サンタフェ類似の写真集やDVDがこれまで3号ポルノで有罪にされていることをご存じないんでしょうね。これでは現場の警察が困ります。
 児童ポルノの被告人は争わない傾向がありますし、ハードなDVDと一緒にソフトな写真集を販売・所持している場合は、どうせ包括一罪なので量刑変わらないし。
 今後写真集の事案で葉梨さんを証人として呼んでも、来てくれないでしょうし。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090720ddm012040023000c.html
 これに対して、葉梨康弘議員(自民)は「有名な女優であろうが、大手の出版社であろうが関係ない」とし、「児童ポルノであるかどうか分からないものについては廃棄していただくことが当たり前だと思う」と答弁した。ただ、葉梨氏は後に自分のホームページで「衆議院法制局に問い合わせたところ、サンタフェ児童ポルノに当たらないのでは、とのことだった」とのコメントを書いた。

 葉梨氏は毎日新聞の取材に対して「判例に照らせば、『性欲を興奮させまたは刺激するもの』には当たらないのではないかということだった。私もそう思う」と話した。

 児童虐待防止法(00年施行)の議員立法にかかわった保坂展人議員(社民)は「米国では児童ポルノの定義について、『純文学的、芸術的、政治的または科学的な価値を欠くもの』などと厳密に規定している。日本のようなあいまいな定義では、捜査機関による恣意(しい)的な運用の恐れがある。欧米では、それでも捜査に悪用されているという。与党案の『自己の性的好奇心を満たす目的』といった主観的な判断を捜査機関に委ねていいのか」と批判する。

 仮に、「サンタフェ」をギリギリ合法の基準(分水嶺?)とした場合、困る判決があります。
 写真集の事案は、法施行前は合法(わいせつ図画非該当)だったものに関する事件なので、そんなにえげつないのは無いんですよね。
 「サンタフェ」もほとんど裸ですしねぇ。

児童ポルノ写真集の事案(有罪)
京都地裁H12
京都地裁H13
京都地裁H13
京都地裁H14
京都地裁H14
京都地裁H15
神戸地裁H15
千葉地裁H16
さいたま地裁H13
さいたま地裁H13
さいたま地裁H13
さいたま地裁H13
福島地裁H15
神戸地裁H15
福島地裁H16
京都地裁H15
東京地裁H14
東京地裁H14
高松地裁H19
福島地裁H18
東京地裁H19

 次から児童ポルノ控訴趣意書書くときに、この辺の境界線を聞いてみることにします。
 でも、写真集の事件は珍しいし、奥村に回ってくるのは、犯情悪質なのが多いので、次は陰部露出の3号ポルノの3項製造罪の控訴事件で、その次は1号ポルノの3項製造罪の控訴事件なんで、なかなか難しそうです。

朴俊錫「特集:韓国における情報法の現代的課題 韓国におけるオンラインサービス提供者の法的責任論が進むべき方向」知的財産法政策学研究 第23号

 管理者の民事責任についての論文です。

韓国における上記の法的不安を解消するために、オンラインサービス提供者の責任論は、利用者によるすべてのタイプの侵害行為につき、統介されることが望ましい。最善の方向は、オンラインサーピス提供者の責任制限に関する統合法を制定することである

性欲を興奮させ又は刺激するものの判例は大阪高裁H14.9.12

 白井裁判長が法廷で怒っていたのを覚えています。
 国会議員の先生方は京都地裁H12.7.17でサンタフェはOKかという議論をしてましたが、大阪高裁H14.9.12に照らして、サンタフェはどうなんですか?



 京都地裁H12.7.17は、「当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがある」という。「緩和説」

京都地方裁判所平成12年7月17日
判例タイムズ1064号249頁
 三 判断の方法
 そして、性欲を興奮させ又は刺激するものであるか否かの判断は、児童の姿態に過敏に性的に反応する者を基準として判断したのではあまりにも処罰範囲が拡大してしまうことから、前記のとおり、児
童ポルノの定義から最高裁判所判例の掲げる「普通人の正常な性的羞恥心を害し」という要件が割愛されているとしても、法の一般原則からして、その名宛人としての「普通人」又は「一般人」を基準として判断するのが相当である。
 もっとも、三号児童ポルノの範囲が拡大すると、表現の自由や学問の自由等の憲法上の権利を制約することになりかねないという懸念もあろう。児童ポルノ法三条も、この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならないと定めているところである。
 そこで、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真または映像に児童ポルノ法二条二項にいう」性器等」、すなわち、性器、肛門、乳首が描写されて
いるか否か、児童の裸体等の描写が当該写真またはビテオテープ等ガ全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に加え、児童の裸体等の描写叙述方法(具体的には、(1)性器等の描写について、
これらを大きく描写したり、長時間描写しているか、(2)着衣の一部をめくって性器等を描写するなどして性器等を強調していないか、3児童のとっているポーズや動作等に扇情的な要素がないか、
(4)児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性があるか等)をも検討し、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを一般通常人を基準として判断すべきである。そして、当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがあるというべきである。
(裁判長裁判官・今井俊介、裁判官・芦高 源、裁判官・綿貫義昌)

 そこで、写真集の事案で、上記京都地裁の基準を主張すると、
「全裸あるいは半裸姿の児童が,乳房,陰部等を露出しているものがその相当部分を占めているのであって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当することは明らかである」とか「芸術的価値のあるものであっても,これを児童ポルノに該当するものとすることは差し支えない」として、「緩和説」を否定した。(二元説)(京都地裁H14.4.24)


京都地裁平成14年4月24日
4 弁護人は,本件各写真集の被撮影者の姿態は,一部少数者を除き,一般人の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当しないと主張する。しかしながら,本件各写真集は,いずれも全裸あるいは半裸姿の児童が,乳房,陰部等を露出しているものがその相当部分を占めているのであって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当することは明らかである。したがって,弁護人の主張は理由がない。
6 弁護人は,前記「」,「!」,「」の各作品は芸術作品であるから児童ポルノに該当しないと主張する。
 しかしながら,芸術的価値のあるものであっても,これを児童ポルノに該当するものとすることは差し支えないから,弁護人の主張は,その余について判断するまでもなく理由がない。
京都地方裁判所第1刑事部
裁判官
古川博

 その控訴審の大阪高裁H14.9.12は、「芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響」と判示しているので、再び「緩和説」に戻っている。

阪高裁平成14年9月12日判決
(2)の点についても,所論は,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響について,個々の写真ごとに検討すべきであるとの前提に立った上,本件各写真集は,いずれも,
1表現方法に性器等を強調する傾向がない,
2性欲を興奮又は刺激する内容がない,
3児童のポーズに扇情的な要素がない,
4児童の純真さを表現するという撮影者の意図が明らかである,
5装丁も芸術作品に相応しいものである
から,児童ポルノに当たらないと主張する。
しかしながら,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響については,本件各写真集をそれぞれ全体的に見て検討すべきである上,本件各写真集は,いずれも,全裸あるいは半裸姿の児童が乳房,陰部等を露出している写真が相当部分を占めており,上記1・2及び4は妥当しないし,また,そのため,仮に,上記3及び5が妥当するとしても,本件各写真集が児童ポルノに当たらないとはいえない。したがって,所論は採用できない。
大阪高等裁判所第4刑事部
裁判長裁判官白井万久
裁判官大西良孝
裁判官磯貝祐一

H20児童買春法違反事件受理・処理状況人員調(全国地検集計)

 被疑者は同房の人の話とかで「起訴猶予になりますよね」とか「略式命令ですよね」とか聞いてきますが、手堅い統計に従って、
   児童買春罪で検挙されると97%は刑事処分。(起訴猶予率3%)
   3項製造罪で検挙されると、50%は公判請求。
   4項提供罪で検挙されると、41%は公判請求。
と覚えておきましょう。

      受理  公判請求 略式 起訴猶予
児童買春罪 1100   213   587   34
           19%   53%  3%
3項製造罪 344   172    75   28
           50%    22%  8%
4項提供罪 199   82    40   6
           41%    20%  3%

パンツをはいていても3号ポルノで、唇が触れていなくても1号ポルノとされた事例

 これは上告棄却されていて、重要判例になっています。
 

名古屋高裁金沢支部平成17年6月9日
2しかしながら,まず所論1が指摘する6個の3号児童ポルノの画像について見ると,被害児童がベッド上で,スカートを腰まで捲り上げて四つん這いあるいは,仰向けの状態になり,両足を開いてパンティーを露出させ,しかも,パンティーの陰部に当たる部分を殊更に細くして,陰部が見える状態にした画像であることが認められるのであり,そうすると,これらは社会通念上衣類の一部を着けていない状態であると認定することができる。

また,所論2が指摘する1個の1号児童ポルノの画像については,確かに,被害児童の唇は被告人の陰茎に触れてはいないものの,被告人の陰茎に手を添え,唇を被告人の陰茎のすぐそばに近付けているのであるから,その行為は正に口淫行為の一場面と見ることができ,性交類似行為として1号児童ポルノに該当すると認められる。

撮影行為を伴う強制わいせつ事件で、3項製造罪を立件しなかった事件

 H16改正以降でも、3項製造罪は立てない検察官が多いですよね。
 強制わいせつ罪の法定刑が重いので、撮影行為は量刑理由として主張すればいいというのが伝統的な処理です。
 3年に一回現れる立法者の皆さんは、これに児童ポルノ製造罪を適用せよというのでしょうが、強制わいせつ罪だけで十分な量刑を得られるし、製造罪の立証をしても重くならないし、証拠が分厚くなるだけだし、罪数わからないし・・・というのが現場の考え方なんでしょうね。

さいたま地裁 H19 懲役2年  実刑 08才
さいたま地裁 H19 懲役1年 04月 実刑 08才
名古屋地裁 H17 懲役1年 06月 実刑 13才
神戸地裁 H18 懲役3年 06月 実刑 04才
神戸地裁 H17 懲役19年   11才
神戸地裁 H17 懲役3年 02月  06才
那覇地裁 H18 懲役4年   14才
さいたま地裁 H19 懲役5年 06月 実刑80 11才
神戸地裁 H18 懲役2年  実刑30 10才
広島地裁 H20 懲役3年  執行猶予5年 12才
東京地裁 H20 懲役3年  執行猶予5年 12才
東京地裁 H20 懲役2年 10月 実刑20 05才

奥村弁護士が持ってる裁判例を全部いただけますか?という若い弁護士からの問い合わせ

若い奴「私選受けたのですが、量刑理由とか量刑がわからなくて・・・」
奥村「それはもっともだと思いますが、刑事確定訴訟記録法の保管検察官がうるさいから、全部というのは無理。事案を教えてくれれば、照会しなくても同種事案の裁判例を紹介できるが・・・」
若い奴「全部いただきたいんですよ。」
奥村「全部は必要ないでしょ。夏休みに高裁所在地を全部回れば、だいたい集まるよ」
若い奴「そんな暇も費用もありませんから。」
奥村「そこにあるのになあ。費用は依頼者に請求すればいいし・・・」
若い奴「弁護士法で奥村先生に照会しますから結構です。」
奥村「・・・・」

 またかよっ。
 最初の照会は丁寧だったので、丁寧な回答をして、回答自体が東京高裁に証拠採用され、判決にも触れられていたが、その次からは、なんか、強制的に回答を求めるような内容でしたし、その後もわからない。
 回答を得るのが目的なんだから言い方あるやろ。

原因はストレスですかね?

 精神科医や心理カウンセラーのカウンセリングを受けた数人の被告人についてそう指摘されました。
 ストレスを適切に発散する方法を知らなかったとか。
 プラス、小児性愛傾向で、児童ポルノ・児童買春にという説明。

 じゃあ、その辺をあちこち矯正すれば、治るんですかね?

7/22の「JAMS THE WORLD」は児童ポルノ問題らしい。

 奥村弁護士は台本通り話します。
http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
http://www.j-wave.co.jp/contents/navigator/yashio.htm

 地方中継をしていることもありますが、大阪では聴けません。

http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
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児童ポルノ禁止法について(ゲスト:奥村徹さん)
児童ポルノを巡る事件が後を絶たない中、国会では厳罰化を進める児童ポルノ禁止法の改正案が提出されていましたが、今回の解散騒ぎの影響で廃案になり、秋以降の国会に再提出される見通しになっています。
そこで今夜は、児童ポルノ禁止法の改正案に、問題はなかったのかについて、児童ポルノ問題に詳しい弁護士の奥村徹さんをお迎えしてお話を伺います。


追記
 誤解が無いように書いておきますが、スタジオに持参した画像は、児童ポルノに該当する画像を、画像掲示板等や公共図書館で入手して持参したものです。
 これを取得する行為、特定少数に閲覧させる行為は、現行法上合法ですので。