児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

管理者の刑事責任って

 裁判所では、結局、幇助か正犯かは結論出ませんでしたが、未必の故意で正犯という判例も、確定的故意で幇助という判例も生きています。
 こうなると、警察より先に見つけて削除・通報するしかないわけで、爆発物取締罰則を思い出しました。

爆発物取締罰則
第7条〔発見者の不告知〕
爆発物を発見したる者は直に警察官吏に告知す可し違ふ者は百円以下の罰金に処す

 さらに、重大法益の場合、過失犯も処罰されるわけで、立法論としては、過失犯処罰に向かう可能性もあります。

訴因変更の違法で余罪が落ちるかも

 迷ったら追起訴にしておけばいいんですよね。
 この事件は一審途中で訴因変更の違法に気づいたので、追加分は追起訴されて、一応審判対象に入って、免訴になったり有罪になったりしています。
 控訴審併合罪だと気づいたときは、やはり、違法な訴因変更は無効だから、余罪が落ちてしまうので、破棄減軽されるでしょう。この場合の併合罪主張は被告人に有利に働く。
 落とされた余罪については、公訴時効は止まっているので、起訴可能ですが、不利益変更禁止が働くので、一部差戻しの場合と同じく、総合して前の一審判決を超える量刑はできないことになるでしょう。
 まあ、控訴審は原判決を救済しようとするので、一罪の判決をくれると思います。

詐欺,恐喝未遂,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律違反被告事件
最高裁判所第3小法廷決定平成18年11月20日
誤って併合罪関係にある事実を追加する内容の訴因変更請求をした場合,検察官が訴因変更請求書を裁判所に提出した時点から,その請求に係る事実について公訴時効のの進行が停止する。
最高裁判所刑事判例集60巻9号696頁
判例タイムズ1227号190頁
 1 原判決の認定及び記録によると,本件出資法違反被告事件の訴訟経過は,以下のとおりと認められる。
(1)検察官は,平成10年11月13日,出資法5条2項違反の事実1件について被告人を起訴した。
(2)検察官は,出資法5条2項違反の行為が反復累行された場合には包括一罪になるとの見解に基づいて,平成10年12月10日,同日付け訴因変更請求書で,当初の訴因に平成9年11月28日から平成10年7月23日までの間に犯したとする出資法5条2項違反の事実20件を追加する内容の訴因変更請求をした。
(3)第1審裁判所は,平成11年2月19日の公判期日において,弁護人に異議がないことを確認して訴因変更を許可し,以後訴因変更後の公訴事実について審理が重ねられた。
(4)第1審裁判所は,平成15年9月16日の公判期日において,当初の訴因と追加分の訴因との間には公訴事実の同一性がないから,訴因変更許可決定は不適法であるとして,職権で訴因変更許可取消決定をし,追加分の訴因に係る証拠について証拠の採用決定を取り消す決定をした。
(5)検察官は,平成15年10月9日,訴因変更許可取消決定により排除された事実を公訴事実として改めて被告人を起訴し,その後の公判期日において,同事実についての審理が行われた。
(6)第1審判決は,訴因変更請求を公訴の提起に準ずるものとして刑訴法254条1項前段を類推適用するのは相当といえず,本件訴因変更請求には公訴時効の進行を停止する効力がなく,前記(5)の公訴事実については公訴提起の時点で既に公訴時効の期間が経過していたとして,被告人を免訴した。
(7)これに対して検察官が控訴を申し立て,原判決は,訴因変更許可決定がされた段階で,本件訴因変更請求に刑訴法254条1項前段が準用されて公訴時効の進行が停止し,訴因変更許可取消決定がされた時点から再び公訴時効が進行を始めたものと解されるから,前記(5)の公訴事実について公訴時効は完成していないとして,第1審判決を破棄した上で自判し,被告人に有罪を言い渡した。

 訴因変更請求があったら、弁護人は一応、公訴事実の同一性=罪数を調べてください。控訴理由で使えるかもしれないから。
 控訴理由って量刑不当だけじゃないですから。

製造罪と他罪とは併合罪(東京高裁H15.6.4)

 特定の行為をピンポイントで処罰しようとする特別法ですから、これは道理だと思っています。
 この裁判長の原田國男判事自身、東京高裁H17.12.26で児童淫行罪とは観念的競合と言っちゃってるんですが、一応、判例です。

東京高裁平成15年6月4日
2 罪数関係の誤りをいう論旨について(控訴理由第8,第11,第13,第14)
所論は,
児童ポルノ罪は,個人的法益に対する罪であるから,被害児童毎に包括して一罪が成立し,製造・所持は販売を目的としているから,製造罪,所持罪,販売罪は牽連犯であり,これらはわいせつ図画販売罪・わいせつ図画販売目的所持罪と観念的競合になり,結局,一罪となるが,原判決は,併合罪処理をしており,罪数判断を誤っている(控訴理由第8),などという。
 まず,①の点は,児童ポルノ製造罪及び同所持罪は,販売等の目的をもってされるものであり,販売罪等と手段,結果という関係にあることが多いが,とりわけ,児童ポルノの製造は,それ自体が児童に対する性的搾取及び性的虐待であり,児童に対する侵害の程度が極めて大きいものがあるからこそ,わいせつ物の規制と異なり,製造過程に遡ってこれを規制するものである。この立法趣旨に照らせば,各罪はそれぞれ法益侵害の態様を異にし,それぞれ別個独立に処罰しようとするものであって,販売等の目的が共通であっても,その過程全体を牽連犯一罪として,あるいは児童毎に包括一罪として,既判力等の点で個別処罰を不可能とするような解釈はとるべきではない。

 強制わいせつと観念的競合なんていう判決を見ると、罪数処理も動くんだなあと思います。

青少年問題に関する特別委員会H19.11.6から

 削除義務の法定を目指しているように思えます。
 削除義務については、裁判所も手を触れない状況なのに、最後は、警察に対応してもらっているそうです。怖い番犬をけしかけて追い散らしているだけですね。
 試しに、違法であって表現の自由が最も弱い児童ポルノについて管理者の責任の法定を検討してみればどうか。
 違法な児童ポルノが何者かによってサーバに蔵置されて公然陳列されている場合、誰から見ても違法なので、「契約者との関係で削除できない」なんて弁解できませんよね。そういう場合の管理者の取るべき態度を法定するんですよ。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/0073_m.htm?OpenDocument&sFrom=0073
第3号 平成19年11月6日(火曜日)
会議録本文へ
平成十九年十一月六日(火曜日)
   参考人
   (教育評論家)
   (法政大学キャリアデザイン学部教授)       尾木 直樹君
   参考人
   (NPO法人ジェントルハートプロジェクト理事)  小森美登里君
   参考人
   (財団法人インターネット協会副理事長)      国分 明男君
   参考人
   (“ののいちっ子を育てる”町民会議事務局)    桝谷 泰裕君


○吉田(泉)委員 ありがとうございました。
 それでは、三つ目の面ですが、サイトの運営者、いわゆるプロバイダーとか電子掲示板の管理者、こちら側はどうやって規制するかということについて、これは主として、有害情報の削除という問題について国分さんの方にお伺いしたいと思います。

 先ほどのお話ですと、一年前から協会の方でインターネット・ホットラインセンターというサービスをやっておられる。一年間で六万件ぐらい情報が寄せられたということであります。

 一つは、そのうち、いただいた資料によりますと、違法情報というのが九千件余りあったということであります。違法情報ですから、恐らくこのほとんどは警察に通報されたんだろうというふうに思います。ところが、一年たって、では、そのうち幾ら検挙されたのかというと十八件ということだそうですね、このデータによりますと。それから、捜査中が四百件あるということであります。

 国分さんの方でこれだけの情報を警察に流して、警察の対応が今言ったような状態だということですが、通報された情報への警察の対処を協会としてはどう評価されているんでしょうか。もうちょっと人手をふやして一生懸命対処してくれ、こういう気持ちなのかどうか、お伺いしたいと思います。

○国分参考人 警察の中の捜査状況というのは、私どもに対してもいろいろ説明はありませんので、よくわかりませんが、いろいろお聞きするところによりますと、警察、各県警の体制といいますか、こういうサイバー犯罪に対する体制というのがまだ弱いというようなことを聞いております。したがいまして、割と違法情報の掲載等を頻繁に繰り返しているような、比較的大きいといいますか、影響力のあるサイトに対しては重点的に摘発をされているように見受けられます。

 私どものインターネット・ホットラインセンター自身もなかなか体制的に厳しいものがありますが、警察におかれましても、そういう状況は、特に従来の犯罪ではなくて新しい分野ですから、いろいろとあろうかと思います。

 それで、ここには書いてありませんが、私どもの使命としましては、警察へ通報すると同時に、そういう違法・有害情報がネット上に掲載されているものを削除していただくということもありますので、それにつきましては、国内に存在するプロバイダーといいますか、運営者に対しては、比較的、一〇〇%とまではいきませんが、八〇%なり、かなり高い数字になっております。

 あと、もう一つの問題は、インターネットというのは国際的なネットワークでありますので、違法情報が、国内だけじゃなくて海外にある、特に児童ポルノとかわいせつないろいろな画像等が、しかもそれは日本人向けにつくられているサイトであったりしまして、それは国際的なレベルで解決していかなければいけないような状況にあります。

○吉田(泉)委員 そろそろ時間ですので、最後になると思いますが、今、削除の要請も随分やっておられるということでした。それで、八割近い方が削除をしてくれているんだということでしたが、別途資料を見ると、例えば、自殺関係のサイトに限ると二割しか協会が要請しても削除してくれないというようなデータもあります。

 それで、韓国では、要請しても削除しないという場合は行政処分の対象としている。非常に踏み込んだ国もあるわけであります。日本は、要請して削除してくれなかったらどうしようもないという段階ですが、この削除義務というのをもう少しはっきりさせた方がいいと思うんですが、いかがでしょうか、国分さん。

○国分参考人 インターネット協会はあくまでも民間の組織でありますので、インターネット協会のホットラインセンターが削除要請をするというのは、私どものところで違法であるかどうかをちゃんと分析しまして、法律のアドバイザー、特に刑事畑の弁護士の方々にお願いしておりますが、そういうところでちゃんと検討した上で、これは違法ですよ、ですから削除してくださいということをお願いしているので、それなりに尊重していただけるのではないかと思っておりますが、それをやっていただけないとなると、やはり警察の方にお願いをして、刑事事件として対応をしていただくということになろうかと思います。
○吉田(泉)委員 終わります。

真実17歳について、児童とは知らなかったという弁解

 体見ても17歳と18歳は区別できませんので微妙な事例です。
 被害児童の供述はたいてい「ちゃんと17歳と言いましたから、知っていたはずです」とできあがっていますが、聞き違えとか聞き逃しもありますしね。
 被害児童は、5万で買春犯人の言いなりになるのだから、怖いお巡りさんに「17歳と言ったよな」と軽く責められればやっぱり言いなりなんじゃないかと思うんですよ。
 他方、被疑者もいい人なので、怖いお巡りさんに「17歳って聞いたよな」と軽く責められればやっぱり言いなりなんですよね。

17歳買春で自衛官逮捕=「年は知らなかった」−岐阜県警
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071113-00000097-jij-soci
 17歳の少女を買春したとして、岐阜中署は13日、児童買春・ポルノ処罰法違反の容疑で、航空自衛隊岐阜基地岐阜県各務原市)所属の3等空曹(32)を逮捕した。「年は知らなかった」と話し、容疑を一部否認している。
 調べでは、容疑者は9月25日午後11時半ごろ、同県北方町の無職少女の自宅で、この少女が18歳未満と知りながら現金5万円を渡す約束をしてわいせつな行為をした疑い。同容疑者はすきを見て、現金を払わずに逃げたという。
 2人は携帯電話の出会い系サイトで知り合った。現金を受け取れなかったことを少女が知人の女性に話し、女性が警察に相談して発覚した。 

「わいせつで輸入禁止」見直しか=メイプルソープ写真集−最高裁

 やっぱり警察の「わいせつ」と税関の「わいせつ」が違うのはおかしいですよね。
 奥村も児童ポルノの輸入について上告してますが、児童ポルノは国内外で違法なので、あまり関係ありません。
 最近はデータとして税関検査なしに国境を越えることができますから、税関の表現規制の実効性は乏しいと思います。

http://news.goo.ne.jp/article/jiji/life/jiji-13X790.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071113-00000105-jij-soci
「わいせつで輸入禁止」見直しか=メイプルソープ写真集−最高裁
 国内で出版された故ロバート・メイプルソープ氏の写真集について、海外からの持ち込みを禁じた東京税関の処分の是非が争われた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は13日、当事者双方の意見を聞く弁論を来年1月22日に開くことを決めた。写真集をわいせつと認め、処分を適法とした二審判決が見直される可能性が出てきた。
 一、二審判決によると、写真集は1994年に出版された。版元の社長が99年9月、米国出張の際に商品見本として持ち出したが、帰国時に成田空港の税関で持ち込みを禁じられ、国を相手に提訴した。
 一審東京地裁は2002年1月、「すでに国内で芸術的な書籍として流通していた」として禁制品に当たらないとし、輸入禁止処分取り消しと70万円の賠償支払いを命じた。 これに対し、二審東京高裁は03年3月、「男性の性器を露骨に写したわいせつな図画だ」と認定し、一審判決を取り消して請求を棄却した。 

輸入禁制品該当通知取消等請求事件
東京地方裁判所平成14年1月29日
(1) 原告は、税関検査の対象となる出版物は、外国で頒布、販売されたもののみであって、我が国で頒布、販売されていた出版物でいったん外国に持ち出された後に改めて我が国に持ち込まれるものは含まれないと主張する。
(2) そこで、関税法及び関税定率法の定めについて検討すると、前記第2・1のとおり、貨物を輸入しようとする者は、当該貨物について必要な税関検査を受け、その許可を得なければならないところ(関税法67条)、「輸入」とは、「外国から本邦に到着した貨物(外国の船舶により公海で採捕された水産物を含む。)又は輸出の許可を受けた貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては、保税地域を経て本邦に)引き取ること」をいうのであり(関税法2条1項1号)、「外国貨物」とは、「輸出の許可を受けた貨物及び外国から本邦に到着した貨物で輸入が許可される前のもの」(同項3号)であるから、税関検査が必要か否かは、結局、当該貨物の生産地が外国であるか我が国であるかには無関係に、当該貨物が外国から我が国に到着した貨物であるか否かによるのであり、我が国で生産されたからといって直ちに税関検査の対象にならないとはいえないというべきである。このことは、関税定率法21条1項が定める輸入禁制品には、風俗を害すべき書籍、図画等のほか、麻薬及び向精神薬等の規制薬物(同項1号)、けん銃等の銃器類(同項2号)、偽造貨幣等(同項3号)及び特許権等を侵害する物品(同項5号)が含まれており、これらはいずれも我が国で生産されたからといって、それらがいったん外国に持ち出された後に再度我が国に持ち込まれた場合にその流入を阻止することができないとすると極めて不当な結果となることからも裏付けられる。
(3) しかし、前記1・(1)で説示したとおり、税関検査により許可が得られなければ、当該貨物を輸入しようとする者は、以後当該貨物を適法に我が国に引き取ることができなくなるのであって、当該貨物が表現物である場合には、上記の限りにおいて、税関検査は、表現の自由に対する制約となるのであるから、表現の自由の重要性にかんがみると、関税定率法21条1項4号の適用範囲については、規定の趣旨を実現するのに妨げにならない限度において、できるだけ制限的に解釈されなければならない。また、前記1・(3)で説示したとおり、関税定率法21条1項4号の立法目的からして、4号物品該当性の判断に当たっては、当該表現物のわいせつ性の有無及び程度のみならず、当該表現物が我が国に流入することにより、我が国における健全な風俗にいかなる害悪をどの程度及ぼすかという観点も考慮すべきであり、たとえわいせつ性が認められ得るようなものであっても、それが我が国における健全な風俗に影響を与えないのであれば、当該表現物を規制する必要はないから、4号物品には該当しないというべきである。
  そして、我が国においては頒布、販売等がされず、初めて外国から我が国に持ち込まれた書籍等の表現物のわいせつ性が問題となる場合には、これが我が国に持ち込まれた後に、流通に置かれるか否か、どのような流通をすることになるか、それによって我が国における健全な風俗にどのような影響が生じるかの判断は、予測にとどまらざるを得ない要素が大きい点で困難性が認められ、その結果、前記1・(3)のとおり、例えば、輸入者が個人的鑑賞のためと申し立てるにとどまるときには、個人的鑑賞のみに供することが確実であると認められない限りは、当該輸入者の申し立てる主観的意図にかかわらず、当該表現物が4号物品に該当するとの判断をせざるを得ないこととなって、あたかも一律にわいせつ性の認められる表現物の輸入を規制しているかのような結果を招くことも無理からぬことである。これに対し、わいせつ性が問題となると思われる書籍等の表現物であっても、それが既に我が国において出版等がされ、流通に置かれていたものがいったん外国に持ち出され、その後我が国に持ち込まれる場合には、当該表現物の流通によって我が国における健全な風俗がいかなる影響を受けていたのかが現に生じた客観的な事実として存在し、特段の事情の変化がない限り、再びこれが持ち帰られたとしても、それによって生ずる事態は以前に生じたところと異なるものではないと考えられるから、税関長においては、現に生じた客観的事態を十分に吟味し、従前の当該表現物の流通により、我が国における健全な風俗が害されたと認められる場合にのみ、当該表現物の輸入を許さないことができると解すべきである。これをさらに具体的に述べると、当該表現物の流通につき、その形態が公然としたもので当然に捜査機関の目に触れるものであるにもかかわらず、わいせつ物としての取締りを受けてその流通が止んでいたというような事情もなく、継続して通常の流通に置かれていたのであれば、前記のとおり表現の自由の重要性に基づき制限的な解釈をすべきことに照らして、従前の我が国での通常の流通の事実により、我が国における健全な風俗を害していなかったものと推定すべきであって、従前、当該表現物の流通によって我が国における健全な風俗がいかなる影響を受けていたか、また、当該表現物が我が国に持ち帰られることによって、それが持ち出される前の状態にいかなる変化が生じるかを具体的に検討し、それらを総合的に判断した結果、従前の流通によって我が国における健全な風俗が害されたと具体的に認められるか、その後の事情変更等の結果、当該表現物を輸入した場合には我が国における健全な風俗を害するものと認められる場合に初めて、当該表現物は4号物品に該当するというべきである。
  この点に関し、被告らは、我が国で出版等がされ流通に置かれていた書籍等であっても、いったん外国に持ち出された後に我が国に持ち帰る場合には税関検査の対象となり、それにわいせつ性が認められれば、それが我が国にあった時点の状態や今回新たにどのような影響が生ずるかにかかわらず、一律に関税定率法21条1項4号に該当すると主張するが、被告らの主張は、関税法67条、同法2条1項1号及び3号の形式的な解釈を根拠とし、一律に関税定率法21条1項4号に該当するとの結論を導く点において、表現の自由の保障に対する配慮を欠くものであって採用することはできない。
(4) 前記第2・2・(1)及び(2)のとおり、本件写真集の原書は世界有数の出版社から刊行されたものであるところ(原書自体はamazon.com等のインターネット書店などにおいて我が国でも購入可能であることは、当裁判所に明らかな事実である。)、本件写真集は、平成6年11月1日に出版されてから本件通知処分がされた平成11年10月までの間の約5年間にわたって、900冊以上販売されているが、その間、全国紙や写真専門誌において芸術的観点からの紹介や批評がされており、その宣伝及び流通の形態は一般の健全な芸術的書籍と同様の形態で公然と行われ、国立国会図書館のような公的機関においても一般の閲覧に供されていたにもかかわらず、原告が本件写真集の販売行為に関して刑法175条のわいせつ物頒布罪等に処せられたことはなく、本件通知処分後も原告が警察から警告を受けたものの、過去の販売行為については何らの刑事手続も執られていないことが認められる。これらのことからすると、本件写真集は、単に官憲の目に止まらなかったために取締りを免れていたものではなく、それが専ら芸術的な書籍として流通し、健全な風俗への影響がないものとの評価が確立していたために取締りの対象とならなかったものと認めるのが相当である。そして、本件通知処分に至るまで特段の事情の変化も認められないところであり、原告は、本件写真集を刊行した会社の取締役であるから、これを再び我が国に持ち帰っても、従前同様芸術的な書籍として流通に置き、既に確立したと同様の評価を受けるものと認められるから、これによって我が国における健全な風俗が害されるとは認め難く、そうである以上、本件写真集は4号物品には該当しないというべきである。
(5) 以上によれば、本件通知処分は関税定率法21条1項4号の要件に該当しない本件写真集についてされたものであると認められるから、その余の点を判断するまでもなく違法な処分であって取り消されるべきであるというほかない。

輸入禁制品該当通知取消等請求控訴事件
東京高等裁判所平成15年3月27日
既に我が国において頒布,販売されているわいせつ表現物であっても,それがいったん外国に持ち出され改めて我が国に持ち込まれることによって,我が国の健全な性的風俗が害されるおそれが高まることは明らかであり,捜査機関の捜査能力には限界があることを考慮すれば,それまでわいせつ物頒布罪等の適用等によって対処されていないからといって,今後ともそのような対処がされることがないということはできない。
 したがって,我が国において既に頒布,販売されたわいせつ表現物については,それがいったん外国に持ち出された後に我が国に持ち込まれたとしても,これを税関検査の対象として輸入禁制品に該当するか否かを審査することは,税関検査の目的を逸脱するものではない