児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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無断で性行為の様子などをビデオで撮影したと主張した事件で、人格権に基づく妨害排除請求権及び妨害予防請求権に基づき,本件各ビデオの引渡しを請求することができると判示した事例(宮崎地裁H28.3.28)

損害賠償請求事件(本訴、反訴)
宮崎地方裁判所判決平成28年3月28日
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
 主 文
 1 原告の本訴請求を棄却する。
 2 原告は,被告に対し,100万円及びこれに対する平成24年2月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 原告は,被告に対し,別紙物件目録記載の各物件を引き渡せ。
 4 被告のその余の反訴請求を棄却する。
 5 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
 6 この判決は,2項に限り,仮に執行することができる。
 事実及び理由
第1 請求
 1 本訴
(1) 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成26年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 仮執行宣言
 2 反訴
(1) 原告は,被告に対し,200万円及びこれに対する平成24年2月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原告は,被告に対し,別紙物件目録記載の各物件を引き渡せ。
(3) 上記(1)項につき,仮執行宣言
第2 事案の概要
 原告と被告は,平成24年2月17日,性行為を行い,原告は性行為の様子などをビデオで撮影した。被告は,平成25年12月下旬頃,強姦の事実で原告を告訴した。
 1 本訴
 本訴は,原告が,上記告訴は虚偽告訴であると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害200万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成26年5月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 2 反訴
 反訴は,被告が,原告は被告に無断で性行為の様子などをビデオで撮影したと主張して,
(1) 不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害200万円及びこれに対する不法行為の日である平成24年2月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,
(2) 人格権に基づく妨害排除請求権または妨害予防請求権に基づき,上記映像を記録したデジタルビデオカセットの引渡しを求める事案である。
 3 前提事実(末尾に証拠を掲記するほかは当事者間に争いがない。)
(1)ア 原告は,アロママッサージ店を経営する者である。
 イ 原告と被告(平成24年当時□□□)は,同年2月頃,ソーシャルネットワーキングサービスを提供するウェブサイトでメッセージを取り交わしたことで知り合った。
(2)ア 被告は,同月17日,原告が経営するアロママッサージ店の店舗兼居宅(以下「本件店舗」という。)に,営業時間外である午前2時頃に訪れた。
 イ 原告は,同日,本件店舗で,被告に対してマッサージを行い,被告と性行為をした。
 ウ(ア) 原告は,この際,被告がマッサージを受け,性行為をしている様子をビデオで撮影した。
(イ) 別紙物件目録記載2のデジタルビデオカセットは,被告が着衣を付けずにマッサージを受けている様子を記録したものであり,同目録記載1のデジタルビデオカセットは,原告と被告の性行為の様子を記録したものである(以下,同目録記載1の物件を「本件ビデオ1」,同目録記載2の物件を「本件ビデオ2」,同目録記載の各物件を「本件各ビデオ」という。)。
 エ 原告と被告が会ったのは,このとき一度だけである。
(3) 被告は,平成25年12月下旬頃,宮崎南警察署に対し,本件店舗において原告に強いて姦淫されたという事実で,原告を告訴した(以下「本件告訴」といい,本件告訴に係る事実を「本件告訴事実」という。)。
(4) 宮崎南警察署の警察官は,平成26年1月7日,本件告訴事実と概ね同内容の被疑事実で原告を逮捕した。原告は,同月28日まで勾留され,同日,処分保留で釈放された。
(5) 宮崎地方検察庁は,本訴提起後である平成26年8月29日,本件告訴事実につき,公訴を提起しない処分をした。
(6) 原告は,現在,本件各ビデオを所持して占有している。
・・・
 4 争点5 被告は原告に対し本件各ビデオの引渡しを請求できるか
(1) 被告の主張
 ア 原告が本件各ビデオを所持し続ける限り,被告は平穏な生活を送ることができず,著しい精神的苦痛を受け続けなければならない。
 以上から,被告は,原告に対し,人格権に基づく妨害排除請求権に基づき,本件各ビデオの引渡しを請求できる。
 イ また,本件各ビデオを公表することが刑事罰をもって規制されているとしても,本件各ビデオの映像記録が一旦インターネット等に流出すれば,拡散を防止することは著しく困難である。
 以上から,被告は,原告に対し,人格権に基づく妨害予防請求権に基づき,本件各ビデオの引渡しを請求できる。
 ウ 所有権の絶対性も,他者の人格権を侵害する場合には制限を受ける。本件各ビデオには,原告の違法行為によって撮影された映像が記録されているから,原告が本件各ビデオを所持すること自体が違法と評価されるべきである。
 エ 検察庁には,本件各ビデオの写しが不起訴記録として保管されているから,刑事事件の防御のために必要であることは,本件各ビデオの引渡請求権を否定する理由にはならない。
 オ 本件の経緯からして,被告が本件各ビデオを公表することは想定できず,本件各ビデオに原告の容貌が記録されていたとしても,原告の名誉またはプライバシーが侵害されるおそれはない。
(2) 原告の主張
以下の事情を考慮すれば,本件各ビデオの引渡請求は認められない。
 ア 本件各ビデオの所有権は原告にある。
 イ 原告は,公訴時効期間が経過するまでは,検察審査会により強制起訴されることもあり得る。強制起訴となった場合,本件各ビデオは,原告の言い分を裏付ける唯一の客観証拠である。
 ウ 原告は本件各ビデオを第三者に見せるなどしておらず,被告の主張する権利侵害のおそれは,抽象的なものにすぎない。
 エ 本件各ビデオを第三者に公表するなどすることは,「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」により,刑事罰をもって規制されている。原告が,刑事罰を科される危険を冒してまで,本件各ビデオを公表するなどすることは想定し難い。
 オ 本件各ビデオには,原告の素顔が記録されており,本件各ビデオに写っている男性が原告であると容易に特定できる。本件各ビデオが公表された場合,原告の名誉及びプライバシーも侵害される。
第3 争点に対する判断
 4 争点4(被告の損害)について
 被告が,裸体や性行為の様子という,私的な姿を同意なく撮影され,映像記録を消去するよう求めても原告がこれを保持していることなど,本件に現れた事実関係に照らせば,原告が本件各ビデオを無断撮影したことによる被告の精神的苦痛に対する慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。
 よって,争点4に関する被告の主張は,100万円の損害の発生を認める限度で理由がある。
 5 争点5(被告は原告に対し本件各ビデオの引渡しを請求できるか)について
(1) 争点3に説示したとおり,被告は,原告が被告の同意なく裸体や性行為の様子を撮影し,被告が映像記録の消去を要求したにもかかわらず原告がこれを保持していることについて,継続的に精神的苦痛を受け,人格的利益を損なわれている。
そして,裸体や性行為の様子という私的な映像が記録されていることから,被告の人格的利益が損なわれている状態は,時の経過や事後的な金銭賠償によって一定の回復が図れるものではない。
また,本件各ビデオに記録されている電磁的記録は,複製等が容易であり,有体物と比較して情報が流出する危険性が高い。
さらに,原告は,被告から本件各ビデオの映像記録を消去するよう明確に求められても,これに応じず,本件各ビデオを保持しており,被告が,原告に対して,現に行われている侵害行為を排除し,将来生ずべき侵害を予防するためには,本件各ビデオの引渡しを求める方法によるほかない。
以上のような本件の事情のもとでは,被告は,人格権に基づく妨害排除請求権及び妨害予防請求権に基づき,本件各ビデオの引渡しを請求することができると解される。
(2)ア 原告は,本件各ビデオの所有権は原告にあるので,被告の本件各ビデオの引渡請求は認められないと主張する。
 しかし,争点3に説示したとおり,本件各ビデオは,撮影行為が被告に対する不法行為に当たるものである。そうすると,当該撮影行為によって得られた記録媒体に対する所有権の法的価値は,当該記録媒体の引渡しを認めることにより保護される人格的利益と比較して,高いものとはいえない。
 イ(ア) また,原告は,本件各ビデオは,本件告訴事実について原告の言い分を裏付ける唯一の客観証拠であると主張するところ,刑事事件において原告の防御上の不利益が生じないように最大限の配慮がされるべきであることは言うまでもない。
(イ) もっとも,原告は,捜査機関に対して被告との性行為を撮影した映像記録を提出しており,宮崎地方検察庁検察官は,既に,本件告訴事実について,公訴を提起しない処分をしている(甲2,3)。
(ウ) また,強姦罪の公訴時効期間は10年であるところ(刑法177条前段,同法12条1項,刑事訴訟法250条2項3号),宮崎地方検察庁には,原告と被告との性行為を撮影した映像記録が,不起訴記録として,不起訴の裁定をした日から10年間保存されている(甲3,乙12,弁論の全趣旨)。
(エ) また,被告は,来店から約1年10か月間,被害に遭ったと申告せず,別件事件の捜査をしていた警察官から事情を聞かれて初めて被害に遭ったと申告している。そして,被告は,本訴に応訴するものの,反訴において告訴事実そのものについて損害賠償を求めるなどしていない。このように,被告は,本件告訴事実について極力公の法廷で明らかにしようとしない姿勢でいる。
(オ) そうすると,本件告訴事実につき,制度上,検察審査会による強制起訴があり得るとしても,以上のような本件事情のもとでは,刑事事件の防御のために本件各ビデオの原本が必要であるという要請は,抽象的なものにとどまるといわざるを得ない。
 ウ また,原告は,本件各ビデオを第三者に見せるなどしておらず,本件各ビデオを第三者に公表するなどすることが刑事罰をもって規制されているので,情報流出のおそれは抽象的なものにすぎないと主張する。
 しかし,上記のとおり,被告は,本件各ビデオを原告が保持していることにより人格的利益を損なわれている。また,本件各ビデオには電磁的記録が保存されており,原告が意図しない情報流出の危険性がある。そして,上記のとおり,原告による本件各ビデオの所持及び本件各ビデオに係る電磁的記録の流出によって損なわれる被告の人格的利益は,事後的な金銭賠償によって回復が図れるものではない。
 以上から,本件各ビデオを第三者に見せる意図があるか否かは,引渡請求権の成否を左右する事情とはいえない。
 エ また,原告は,本件各ビデオには原告の素顔が記録されており,人物特定が容易であるから,本件各ビデオを引き渡し,これが公表された場合,原告の名誉及びプライバシーも侵害されると主張する。
 しかし,本件各ビデオの内容,本件各ビデオ撮影から本件各訴訟提起までの経緯,本件各訴訟における被告の訴訟活動などに照らすと,被告が引渡しを受けた本件各ビデオを保持し続け,これが公表されることは想定し難く,原告の名誉またはプライバシーが侵害されるおそれは,抽象的なものにとどまるといわざるを得ない。
 6 よって,争点2(原告の損害)について判断するまでもなく,反訴請求は主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し,本訴請求及びその余の反訴請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,仮執行の宣言につき同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
宮崎地方裁判所民事第1部
 裁判官百瀬 梓 (印)

別紙
 物件目録
1 デジタルビデオカセットパナソニック MiniDV DVM60)1本
表面のラベルに「□□□□□□□□□□ 背中からタオルをはいだ状態~パンストバイブに感じてかつてないヤラしいSEXにもだえる □□□□□□□□□」、横面ラベルに「□□□□□□□□□□□□□□□ 2012-2-17 2:00 3:52 ②」と記載されたもの
2 デジタルビデオカセットパナソニック MiniDV DVM60)1本
表面のラベルに「□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ プロフを持ち出されきろくなし アニメ声の可愛い子」、横面ラベルに「□□□□□□□□□□□□□□□ 2012-2-17 2:00撮影 ①」と記載されたもの
以上