児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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不倫相手である被害者Vに対し、Vやその家族に危害を加える旨脅迫してVを全裸にさせたという強要被告事件(山形地裁h29.7.14)

 強制わいせつ罪ではないのは、性的意図がないからか。

山形地方裁判所平成29年07月14日
上記の者に対する強姦、脅迫、監禁、強要、傷害被告事件について、当裁判所は、検察官大場広幸及び同齋藤克哉並びに弁護人藤井正寿(国選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1 平成28年3月4日午前9時30分頃から同日午前9時45分頃までの間に、山形県A町(以下略)付近道路から同県B市(以下略)の東方約10メートル先駐車帯に至るまでの道路を走行中の普通乗用自動車内において、助手席に乗車させていた●●●(当時45歳。以下「被害者」という。)に対し、「今日、おめえの娘、家いるだろう。今から娘のことを殺しに行くから。」、「娘を殺されたくなかったら、脱げ。それくらいできんだろう。」などと語気強く言い、被害者に、その要求に応じなければ被害者の親族の生命、身体に危害を加える旨告知して脅迫し、その頃、同駐車帯に駐車させた同自動車内において、被害者に着衣を全て脱がせて全裸にさせ、もって人に義務のないことを行わせた。(同年9月16日付け起訴状記載の公訴事実)
(事実認定の補足説明)
第1 判示第1(強要)の事実について
 1 争点
  弁護人は、被告人の脅迫行為と被害者が裸になった結果との間には因果関係がなく、また、被告人は、脅迫行為によって被害者に義務なき行為を行わせる認識がなかったことから、故意もなく、被告人は無罪であると主張する。
  そこで、判示第1の事実を認定した理由を補足して説明する。
 2 前提事実
  関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
  被告人は、妻子があったが、平成22年秋頃、店で買物中の被害者(夫と子があった。)に声を掛けて知り合い、いわゆる不倫関係となった。
  被害者は、ほどなく、気に入らないことがあると大声を上げるような被告人の態度を疎ましく感じ、被告人と別れたいと思うようになったが、そのことを遠回しに伝えようとしても、被告人が機嫌を悪くしたり大声で怒鳴ったりするため、被告人のそうした言動等を恐れ、明確に別れを告げることができずにいたところ、かえって、被告人から、毎日メールをするように求められるなど、束縛を強められることになったが、被害者は、被告人の方から、被害者から離れていくことを期待して、可能な限り、それに応じないようにしていた。
  他方、被告人は、被害者からのメール等が減ってきたように感じ、被害者の自分への愛情が感じられなくなったことから、たびたび被害者を問い詰めるようになり、被告人からの問い掛けに黙ってしまう被害者に対し、しばしば、ぶっ殺すとかお前の家庭をめちゃくちゃにしてやるなどと言うようになった。
  判示第1は、こうした状況下で起きたとされる出来事である。
 3 被害者の証言について
 (1) 被害者の証言の要旨
  被害者は、要旨、以下のような証言をする。すなわち、
  本件当日(平成28年3月4日)は、被告人から呼び出されて、午前9時過ぎに、被告人と落ち合い、被告人の車の助手席に乗り込んだ。被告人は、車を発車させると、「俺との関係はもう終わりにさせるのか。」と聞いてきたので、何も言わずに黙っていたところ、被告人は、「おめえ、ただでは済ませねえからな。おめえの周りをめちゃめちゃにしてやるからな。」と強い口調で言い、さらに、午前9時半頃、J店の交差点を右折して時速120キロで車を走らせながら、「今日、おめえの娘、家いるだろう。今から娘のことを殺しに行くから。」と怒鳴ってきた。私は、被告人が本気だと思い、「お願いだから、それだけはやめて。」と叫んだところ、被告人は、強い口調で「娘を殺されたくなかったら、脱げ。脱いで外さ立で。それくらいできんだろう。」と言ってきた。私が黙ってしまうと、被告人は「分かった。今から娘を殺しに行くから。」と言って、スピードを上げて、赤信号を無視してB方面に走り出したため、私は「分かったから、脱ぐからやめて。」と叫んだところ、被告人は、電話ボックスの前辺りに車を止め、「脱いで、そこさ立で。」と電話ボックスの方を指さした。私は、少し戸惑い、ためらったが、助手席で全裸になり、助手席のドアを開けて片足だけ地面についたところ、被告人が私の手首をつかみ、脱いだ服を私に投げてきて、車を発車させたので、助手席で服を着た。その時刻は午前9時45分頃であった。
 (2) 被害者の証言の信用性
  被害者の証言は、本件被害の状況をかなり具体的に語るものである上、その内容も自然の流れに沿った合理的なもので、当時の被告人と被害者との交際状況(前記2)ともよく整合する。しかも、被害者の同僚女性は、本件翌日(平成28年3月5日)、被害者から、被告人から服を脱がないと娘を殺すぞと言われ、服を全部脱いだなどと聞いた旨供述するところ(甲56、57)、同僚女性は、被害者だけでなく被告人とも知り合いで、判示第3・第4の犯行の前には被告人の依頼に応じて被害者の意向を聞くなどもしており、殊更に被告人に不利な虚偽の供述をする立場になく、その供述内容も真摯で、被害者と相謀って虚偽の供述をしていると疑う証跡もないから、その供述は信用できる。そうすると、被害者の証言は、信用できる同僚女性の供述に裏付けられている。以上によれば、被害者の証言は、犯行時刻の点や被害者が全裸になった点も含め、十分信用できる。
 (3) 弁護人の主張について
  これに対し、弁護人は、被害者が、被告人の脅迫文言やそれに対する自身の応答について、検察官の誘導によって初めて供述している部分が複数あり、事件から約8か月経過していることを踏まえると、記憶状態が悪く、信用できないと主張する。しかしながら、被害者は、被告人から娘を殺すと言われたため、娘を殺されないように服を脱いで全裸になったという核心部分については明確に証言し、この点について信用できる同僚女性の供述とよく整合している上、弁護人指摘の部分の証言内容を見ても、誘導によって誤った記憶を喚起している節はないから、被害者証言の信用性を左右するものではない。
  また、弁護人は、被害者が、真実、被告人から脅迫を受け、娘を殺されないために裸になったのであれば、被告人への憎しみの気持ちがかなり強かったと思われるのに、その後も被告人と性交していたから、娘を殺されないために全裸になったとする被害者証言は信用できないと主張する。しかしながら、被害者は、この件の後も、判示第2(脅迫)の事実で被告人が逮捕されるまでの間は、被告人の言動等を恐れて、被告人に明確に別れの意思を告げることができないまま、不本意ながらも被告人との交際を継続していたと認められるから、その間に被告人と性交に及んだ事実があったとしても、直ちに被害者証言の信用性を左右するものではない。
  その他弁護人が指摘するところを考慮しても、被害者証言の信用性に疑いは生じない。
 4 被告人の供述について
 (1) 被告人の供述の要旨
  これに対し、被告人は、要旨、以下のような供述をする。すなわち、
  本件当日は、被害者が午前10時頃にパチンコ店に遅れてやって来て、私の車に乗車した。車内で、被害者に自分に気持ちがあるのかをずっと話し、さらに、きちんと話をしようと車を止め、10分くらい同じ話をしたが、被害者は黙って怒っているような態度だったので、私もいらっとして車を発車させた。そして、被害者に何とかしゃべってもらおうと、「おめえの娘家にいるだろ、殺しに行くから。」みたいなことを言った。被害者は、黙って怒っているような表情であったが、二、三分して、「気持ちあるのを見せるのはどうしたらいいの。」と聞いてきた。そこで、私が厳しい口調で「気持ちがあるんだったら服ぐらい脱げるだろ。」みたいなことを言い、駐車帯に車を止めたところ、被害者は、やけになったような感じで、上半身の服をすごい勢いで脱ぎ、上半身裸の状態で助手席のドアを開けて外に出ていこうとしたので、私は止めた。
 (2) 被告人の供述の信用性
  被告人の供述は、要するに、被害者に対し娘を殺すと言った事実を認めつつも、被害者が上半身裸になったのは、自分(被告人)への気持ちを示すためであり、娘を殺されないためではないというものである。そこで検討すると、被告人によれば、被害者の娘を殺すと言ったのは、何とか被害者にしゃべってもらおうと思ったからというのであるが、上記のような強い脅迫文言を述べる理由として甚だ不合理である。また、被告人によれば、被害者は、そうした脅迫文言を述べられたにもかかわらず、特にこれに応答することもせず、その二、三分後には、被告人に対して好意を示そうとしたことになるが、この経過もいささか不自然である。加えて、女性である被害者が被告人から求められてもいないのに、白昼、上半身裸で車外に出ようとした点も不自然といえる。以上によれば、被告人供述は、到底信用できない。
 5 結論
  信用できる被害者の証言等によれば、被告人は、被害者に対し、「今日、おめえの娘、家いるだろう。今から娘のことを殺しに行くから。」、「娘を殺されたくなかったら、脱げ。」などと脅迫し、被害者は、被告人に娘を殺されないように、被告人の言葉に従い、全裸になったとの事実が認められる。したがって、被告人の上記脅迫行為と被害者が全裸になったこととの間に因果関係があったといえる上、被告人は、このような経過を十分に認識していたと認められるから、故意に欠けるところもない。
  よって、判示第1の事実は優に認定できる。
刑事部
 (裁判長裁判官 兒島光夫 裁判官 馬場崇 裁判官 須藤奈未)