児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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準強姦致傷被告事件(姦淫あり 前科なし)懲役8年(東京地裁h21.11.20)

       準強姦致傷被告事件
東京地方裁判所判決平成21年11月20日
       主   文
 被告人を懲役8年に処する。
 未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
       理   由
(犯罪事実)
 被告人は,芸能事務所のスカウトを装い,声優志望であった中学1年生の被害者(当時13歳)に睡眠薬を飲ませ眠らせて性交しようと計画し,平成21年6月13日,プロフィール撮影のためなどと嘘をついて同人を東京都豊島区(以下略)ホテル△△△○○○号室に連れ込み,同日午後4時30分ころから午後6時10分ころまでの間,同所において,同人に対し,女性ホルモンの薬などと偽って睡眠薬であるハルシオン約15錠を飲ませて昏睡状態にし,心神を喪失させた上,その両手首と両膝をそれぞれ粘着テープで縛り上げ,陰部に手指等を挿入するなどの暴行を加えて性交し,その際,前記暴行により全治まで約2週間を要する両手首・両大腿・両下腿挫傷,子宮頚部挫滅の傷害を負わせたものである。
(法令の適用)
罰条          刑法181条2項(178条2項,177条)
刑種の選択       有期懲役刑を選択
未決勾留日数の算入   刑法21条(90日を算入)
訴訟費用の処理     刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,芸能事務所のスカウトマンを装い,声優志望の13歳の被害者をだましてホテルに連れ込み,睡眠薬を飲ませて強姦し,全治約2週間の傷害を負わせたという,準強姦致傷の事案である。
  検察官は懲役8年を求刑し,弁護人は懲役5年に処するのが相当であると主張した。
2 検察官が論告で指摘する次の点は,量刑を考える上で重要である。
 (1) 本件は,13歳という低年齢の被害者に対し,その年齢を知った上で,その精神的な未熟さにつけ込み,芸能事務所のスカウトマンを装ってだまして,ホテルに連れ込んだ上,あらかじめ準備しておいた睡眠薬を大量に飲ませたという,計画的な犯行である。
   この点について,弁護人は,弁論で,計画性はないと主張する。しかし,被告人も認めるとおり,被告人は,遅くとも,本件犯行当日,睡眠薬を飲ませて眠らせ,わいせつ行為や性交をする目的で,睡眠薬を持って被害者との待ち合わせ場所に赴いているのであって,計画的な犯行であることは明らかである。
 (2) 被告人は,睡眠薬により被害者の自由を完全に奪った上,そのような被害者に対し,その手足を粘着テープで縛るなどして,無理矢理性交したり,様々なわいせつ行為に及んでいるのであって,その犯行態様は,極めて卑劣で悪質である。
 (3) 傷害の結果自体は全治約2週間と比較的軽いものにとどまっているとしても,13歳という低年齢の女性の体内にも傷害を負わせていること,また,被害者やその親が極めて強い精神的苦痛を受けていることなどを考慮すると,本件の結果は重大であるといわざるを得ない。
 (4) 犯行の動機は,被害者の心情を考慮しない,身勝手なものである。
 (5) さらに,約15錠もの多量の睡眠薬を被害者に飲ませていること,その睡眠薬により昏睡状態に陥った被害者を,縛った状態のまま放置して逃走していることなど,被害者を危険な状態に陥れている事情も,量刑を考える上で,軽視することができない。
 (6) なお,検察官は,被告人が再犯に及ぶ可能性が高いと主張するが,高いとまでは認めることはできない。一方,弁護人は,統計資料を根拠に,被告人には再犯の可能性がないと主張するが,被告人が再犯に及ぶ可能性がないと断定することもできない。
3 そうしてみると,被告人に対して,酌量減軽して法定刑の下限である懲役5年を下回る刑に処することは到底考えられず,また,弁護人の求める懲役5年など,法定刑の下限に近い刑期も軽すぎて相当ではない。
4 次に,弁護人の主張する,被告人の事情について検討する。
 (1) 被告人の生育歴については,被告人が最終陳述で認めるとおり,被告人に有利な事情として考慮することは,相当ではない。
 (2) 被告人の父親が監督・指導を誓っていることは弁護人指摘のとおりであるが,具体的な方策が明らかでなく,この点を被告人に有利に考慮することはできない。
 (3) 被告人が法廷で反省する旨述べていること,被告人に前科がないことが被告人に有利な事情であることは,弁護人指摘のとおりである。
5 そこで,以上を前提に,具体的な刑期について検討すると,検察官が論告で指摘する事情,特に,本件が13歳という低年齢の女性を,それと知って及んだ犯行であること,計画的な犯行であること,犯行態様は極めて卑劣で悪質なものであること,被害者やその親の精神的苦痛が極めて大きいことなどの事情を考慮すると,法廷で反省する旨述べていること,前科がないことなど,被告人に有利な事情を考慮しても,被告人に対しては,懲役8年の刑に処するのが相当と判断した。
(求刑 懲役8年)
  平成21年11月20日
    東京地方裁判所刑事第1部
        裁判長裁判官  秋吉淳一郎
           裁判官  高木順子
           裁判官  冨田環志