児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ製造罪等の訴因でLINEIDで被害者を特定する方法を適法とした事例(某地裁h27.1.8)

 こういうのを争うと、冒頭段階で空転します。
 で、判決書ではどうなってるのかというと、「甲野花子」とかの実名表示になっています。なんなんだ。

(公訴棄却の主張に対する判断)
検察官は,?判示第1に係る起訴状記載の公訴事実(訴因変更後のもの)において,被害児童について,その氏名を記載せずに,「イ!ンターネットアプリケーション「LINE」において,当時,「花子」という名前を使用し,「abcd1234」のIDを使用していた甲県県在住の女性(当時13歳)」と記載し,?判示第2に係る起訴状記載の公訴事実(訴因変更後のもの)において,被害児童について,その氏名を記載せずに,「インターネットアプリケーション「LINE」において,当時「efgh5678」のIDを使用していた乙県在住の女性(当時14歳)」と記載した上で,上記「LINE」において問ーのIDを複数人が使用することはあり得なし、から,上記各公訴事実の記載によって被害児童はそれぞれ1名に特定されており,訴因の特定に欠けるところはない旨主張し,これに対し,弁護人は,上記「LINE」は民間企業が運営するサービスであって,IDから利用者を確認する方法がないから,被害児童の特定は甚だ不完全であって,訴因は特定されておらず,刑事訴訟法256条3項に違反しており,公訴棄却されるべきである旨主張している。
そこで,検討するに,特に個人的法益に対する犯罪について起訴状(公訴事実)で訴因を明示するに当たっては,行為の客体である被害者が特定されることが重要であるところ,そのためには被害者の氏名を表示するのが最も簡明かつ確実な方法であり,これを原則とすべきである。
もっとも,本件では,被告人が各被害児童の氏名を認識していなかったことがうかがわれるところ,本件各犯行の性質内容等に照らすと,被告人が各被害児童の氏名を把握した場合には,インターネット上で、各被害児童の児童ポルノに係る写真画像データに結び付けてその氏名を明らかにするなどして各被害児童の名誉等に危害を加え,各被害児童が再被害を受ける具体的なおそれがあると認められるから,各起訴状(公訴事実)において,氏名を表示する方法以外の方法で各被害児童が特定される必要性が高かったといえ,検察官が上記各起訴状(公訴事実)に各被害児童の氏名を記載しなかったこと自体に違法な点はないというべきである。
そして,上記各起訴状記載の公訴事実については,上記「LINE」において同ーのIDを複数人が使用することはないことが関係証拠上認められ,上記「LINE」において使用していたID,年齢,性別及び居住地域等による被害児童の識別の精度は高いといえることに加えて,その各行為の日時(あるいは始期及び終期),場所,脅迫の態様,児童ポルノや記録媒体の種類内容等の具体的記載にも照らすと,いずれも他の犯罪事実との区別は十分可能であり,訴因の特定に欠けるところはないというべきである(なお,弁護人が引用する裁判例は,本件とは事案を異にしており,適切ではなし、)。
よって,上記の弁護人の公訴棄却の主張は採用できない。

 参考裁判例

東京地裁h25.11.12*1
東京地方裁判所
平成25年11月12日
理由
(犯罪事実)
 被告人は
第1 平成24年3月12日午後4時27分頃から同日午後4時28分頃までの間、東京都〔以下省略〕X公園内男子トイレ個室内において、同トイレに連れ込んだ、Aの〔続柄省略〕(当時7歳)に対し、同人が13歳未満であることを知りながら、そのパンツを引き下ろして陰部を露出させた上、その陰部を手指で触るなどした。
以下省略

(公訴棄却申立てについて)
 検察官は、判示第1及び第2の各犯行に係る公訴事実において、被害者を特定する事項として、被害者本人の氏名は表示せずに、被害者の実母の氏名、実母からみた被害者の続柄、犯行当時の被害者本人の年齢をそれぞれ表示しているところ、弁護人は、上記表示によっては被害者が特定されていないから、上記各犯行に係る公訴の提起は違法であるとして、その棄却を求めている。
 そこで検討するに、確かに、被害者がいることを要件とする犯罪の訴因を明示するにあたり、一般的には、被害者本人の氏名を表示して被害者を特定するのが簡明かつ確実といえ、その特定方法を原則的な取扱いにするのが相当である。
 しかしながら、被害者本人の氏名に基づいて被害者を特定する方法と、被害者の実母の氏名に基づいて被害者を特定する方法とを比べた場合、いずれも人の氏名に基づいた特定方法であることに違いがない上、被害者本人とその実母は他者が介在しない直接的な親族関係にあるから、いずれの特定方法によっても、被害者の識別の精度にほとんど差異は生じないはずである(この点、弁護人は、実母の婚姻回数によっては、同じ続柄の子が複数名存在する可能性がある旨の指摘をするが、本件においては、被害者を特定する事項として、犯行当時の被害者本人の年齢も併せて表示されているから、仮に同じ続柄の子が複数名存在したとしても、そのために被害者の識別が困難になるとは考えがたい)。
 加えて、通常、年少児童が親と同居してその監護の下に社会生活を送っており、両者を一体的に把握することが容易であることも踏まえれば、上記各犯行の被害者を実母の氏名に基づいて特定しても、審判対象の画定及び被告人の防御権保障の点において相当性を欠くことにはならないというべきである。
 したがって、上記各犯行に係る公訴の提起が違法であるとはいえないから、弁護人の公訴棄却の申立てには理由がない。


参考文献
 酒巻 被害者氏名の秘匿と罪となるべき事実の特定_町野朔先生古稀記念 刑事法・医事法の新たな展開 (2014年 信山社

 性犯罪事犯等の刑事手続における被害者氏名等の秘匿 警察学論集67巻9号