加藤隆之 人権判例から学ぶ憲法P251
自己鑑賞目的所持規制の合憲性
ところが、新法であっても、児童ポルノの購入、無償譲受行為、ネット上の閲覧行為、さらに、設問(A)のような自己鑑賞目的での所持行為(以下、単純所持という)についてまでは、処罰の対象とされていない。このような観点から、一部の学説は、依然として児童ポルノ法の厳格性が足りないと批判している。
このような行為の規制のうち、(A)の規制では、単純所持規制を取り上げている。このような規制は、個人のプライパシー権を強度に制約するものであるから、その規制に反対する見解も有力である。だが、児童を対象とした性表現である児童ポルノは、児童の肉体と精神に甚大な害悪をもたらすものであるため、このような規制も許されると考えるべきである。
なぜ、なら、児童ポルノは、その「製造」そのものが著しい児童虐待であるのみならず、その繰り返される出版や「個人鑑賞」によっても、児童に対する人格権侵害が継続するからである。個人鑑賞者の存在は、その児童に著しい恐怖と不安感を与え、その「鑑賞行為」自体がプライパシー権侵害となる。また、児童は有効な同意をなし得ないため、仮に、児童ポルノの作成や鑑賞について承諾があったとしても無効である。
それゆえ、児童ポルノは表現の自由に含まれると解すべきであるが、この表現に対しては、わいせつ表現をはるかに超える厳しい規制が容認されるべきである。児童虐待を伴って製造された児童ポルノーー児童ポルノの範囲をこれに限定するとすれば、それは表現の自由を享受しないと考えるべきであるーーーはこれを購入、個人鑑賞することも許きれず、その存在が社会的に抹殺されなければならないのである。
このように、児童ポルノについては、単純所持行為も処罰するというのが、もはや世界的な趨勢となっている。少なくとも多くの先進国では、このような厳しい規制がおかれている。