児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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被害児童が誘った場合でも、児童淫行罪の成立を認めた事例(立川支部H25.5.29)

 児童淫行罪と強姦が観念的競合になっていますが、児童が任意に淫行しているのではないので、児童淫行罪の成立には疑問があります。

東京地方裁判所立川支部平成25年05月29日
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、Aと、その母親と婚姻する際、養子縁組し、同人らと同居して、養父としてAらの養育、監護等を行っていたものであるが、A(当時12歳、姓はB)が13歳未満の児童であることを知りながら、養父の立場を利用して、
 1 平成19年3月31日、長野県北佐久郡立科町[以下省略]のC貸しコテージ(省略)号室において、
 2 同年4月28日頃、東京都八王子市[以下省略]のD方において、
それぞれ同女を被告人と性交させて姦淫し、もって13歳未満の女子を強姦するとともに、満18歳に満たない児童に淫行をさせる行為をしたものである。
(争点に対する判断)
 1 争点
 本件において、被告人が、判示1、2の日時場所において、判示の当時12歳の養女Aと性交したことに争いはない。本件の争点は、被告人が養父の立場を利用してAに性交をさせたかどうかである。
 検察官は、Aの供述に依拠して、被告人は、養父の立場を利用してAに性交させたと主張している。一方、弁護人は、被告人は、Aに誘われて同女と性交したに過ぎず、養父の立場を利用して同女に性交をさせたものではない旨主張している。そして、被告人も、捜査段階以来、同旨の供述をしている。
 当裁判所は、Aに誘われたという被告人の供述の信用性を否定することはできないけれども、これを前提にしても、被告人は、養父の立場を利用してAに性交をさせたと認められると判断したので、以下、その理由を示す。
 2 前提事実
 4 養父の立場の利用について
 被告人の上記供述によると、本件各性行為は、直接にはAが被告人を誘ったことに端を発していることになる。しかし、そのことを考慮してもなお、これらの性行為は、被告人が、Aに養父の立場を利用してさせたものというべきである。
 すなわち、Aは、当時12歳の被告人の養子で、被告人と同居し、生活全般を被告人らに負っていたのだから、その行為が好感をもって受け入れられたとすると、より多くの好意・愛情を獲得するため、同様の行為を更に積極的に行うようになることは、見やすい道理である。被告人が、当初、ためらいを覚えながら胸を触ることから始め、自宅で、Fのいない所で、胸を愛撫したり、接吻をしたり、更には、陰部にまで触るようになったという経過は、そのことをよく物語っている。そして、その行為が、最終的に性行為そのものにまで発展することも、行為の展開の過程から、容易に想像のつくところである。被告人も、そのような過程を通じて、被告人がAの誘いを受け入れ性的行為を行うことが、Aの行為を更にエスカレートさせていくことを実感として感じたものと合理的に推認できる。
 その年齢からも、立場からも、Aの被告人に対する性的関心は、その意味を十分理解した通常の男女間の恋愛感情に基づくものとは異なる、未熟な好奇心や裏返しの愛情の希求に基づくものであり、一方、被告人のAに対する性的関心も、相手の知慮浅薄に乗じた、社会的に許される余地のないものであることを考え併せると、被告人がAに対して性的行為を繰り返したことは、それ自体が、通常の性交の場合に包摂される程度を超え、養父の立場を利用して、同人に性交をするよう働きかけたものというべきである。
 そして、被告人は、最終的に、Aと性交するに至っているのであるから、養父の立場を利用して、同人に淫行をさせたものというほかはない。
 5 結論
 以上の次第であるから、被告人は、養父の立場を利用して、Aに淫行させる行為をしたものと認められ、被告人には、児童福祉法60条1項、34条1項6号の罪が成立する。
(量刑の理由)
 本件は、被告人が、当時12歳の養女に対し、養父としての立場を利用して、2回にわたり、被告人と性交させて姦淫したという、強姦及び児童福祉法違反の事案である。
 被告人は、被害者の養父であり、被害者を保護し、その健全な育成に努めるべき立場にあったのに、被害者が、その未熟さから、被告人を誘うような行動をしてきたことに乗じ、自己の性欲を満たすだけのために、性的行為を繰り返し、被害者の行動をエスカレートさせて、遂に同女に性交させて姦淫するに至ったもので、誠に思慮を欠いた身勝手・悪質な犯行である。それまで性体験のなかった被害者を姦淫したという結果自体甚だ重大なものである上、本件は、その後、被告人と被害者が性行為を繰り返す端緒となった事件であり、もとより、被害者の現在の深刻な精神症状は、その大部分が本件後に長期間にわたって続いた両者の関係に負うものと考えられ、これを本件の責任の基礎に据えることはできないけれども、本件がその切っ掛けを作ったことを軽く見ることはできない。被害者や被害者の実母が被告人の厳重な処罰を希望しているのもよく理解できる。
 こうした事情に照らすと、被告人の刑事責任は相当に重い。
 そうすると、他方、被告人が被害者と性交したことを認めて反省の態度を示していること、前科前歴がないこと、被告人がその親族らの協力を得て、被害者側に弁償金として300万円の支払を申し出たことなど、被告人のために酌むことのできる事情を考慮しても、被告人に対しては、相当長期間の懲役刑を科すほかはなく、主文の刑を科するのが相当と判断した。
 よって、主文のとおり判決する。
刑事第1部
 (裁判長裁判官 福崎伸一郎 裁判官 深野英一 裁判官 櫻井真理子)