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プルトニウム・ウラン混合酸化物燃料(MOX燃料)を原子力発電所に装荷することの禁止を求めた住民らの仮処分命令の申立てが認められなかった事例

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福島地方裁判所決定平成13年3月23日
判例時報1775号114頁
【ID番号】 05650076
       主   文
 一 本件各仮処分申請を却下する。
 二 申請費用は債権者らの負担とする。

       理   由
第一 申立て
 債務者は、福島県双葉郡大熊町大字夫沢字北原二二番地福島第一原子力発電所使用済核燃料貯蔵プール内所在、福島第一原子力発電所三号機用MOX燃料集合体三二体を同発電所三号機に装荷してはならない。
第二 事案の概要
 一 本件は、債務者が福島第一原子力発電所三号機へ装荷しようとしているプルトニウムウラン混合酸化物燃料(以下「MOX燃料」という。)は、品質管理データが捏造または改竄されている疑いが強く、品質が保証されていないから、このようなMOX燃料を原子力発電所に装荷することは債権者らの生命身体に重大な危険をもたらすものであると主張して、人格権に基づき、MOX燃料装荷の差止めを求めた事案である。
 二 前提となる事実(証拠を掲げた部分以外は当事者間に争いがない。)〈編注・本誌では証拠の表示は省略ないし割愛します〉
第三 当裁判所の判断
 一 プルサーマルの安全性について
 当事者が、本件仮処分事件における主要な争点としたところは、上記第二、三、(3)のとおりであるが、債権者らは、軽水炉ウラン燃料を使用することに最適化されて設計されたものであり、ウラン燃料のみを使用する場合よりもMOX燃料を使用した場合の方が安全上不利な条件がいくつも重なり、苛酷事故を起こす危険性が非常に高くなるとも主張し、プルサーマル一般の危険性についても言及するので、まずプルサーマルの安全性について検討する。
 (1) 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。
 軽水炉においては、取出時点までの積算値で見れば、ウラン燃料でも核分裂量の約三分の一は燃焼中に生成したプルトニウムの寄与であり、燃焼末期について見れば、一般的にプルトニウムの寄与率がウランのそれを上回っている。このようにプルトニウムは結果として既に利用されているものであり、軽水炉においてプルトニウム核分裂反応を使用すること自体は新しい問題ではない。
 海外ではMOX燃料を一九六〇年代より軽水炉に装荷しており、これまで一二〇〇体以上、燃料集合体燃焼度として約五万八〇〇〇MWd/tまでの使用実績が報告され、現在では、フランス、ドイツ、スイス等で実用規模で継続的に使用されている。これらについては、ウラン燃料と異なる燃料破損の事例は報告されていない。
 国内でも、新型転換炉ふげん発電所でMOX燃料に関する多くの実績を有し、昭和五六年以来、累計五〇〇体以上が装荷され、燃料集合体最高燃焼度約三万三〇〇〇MWd/tを達成しているが、全て健全に使用されている。また、軽水炉については少数体装荷として、敦賀発電所一号炉(BWR)で、MOX燃料二体が昭和六一年から平成二年まで三サイクル(燃料集合体燃焼度で約二万六〇〇〇MWd/t)、美浜発電所一号炉(PWR)で、MOX燃料四体が昭和六三年から平成三年まで三サイクル(燃料集合体燃焼度で約二万三〇〇〇MWd/t)にわたり照射されている。これらはいずれも、燃料取出し後の照射後試験により、燃料棒外観、酸化膜厚さ、伸び、燃料棒断面金相、FPガス放出率等について詳細調査が実施され、その結果、燃料棒としての照射挙動はウラン燃料棒と同等であること、ペレットの照射挙動もウランペレットと顕著に異なるところは見られないこと及び照射された全ての燃料が健全であったことが確認されている。
 (2) 原子力安全委員会は、平成七年六月一九日、同委員会原子炉安全基準専門部会が取りまとめた「発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について」と題する報告書を承認し、MOX燃料を炉心の三分の一程度まで装荷した場合における軽水炉炉心の安全評価指針を公表し、「MOX燃料の特性、挙動は、ウラン燃料と大きな差はなく、また、MOX燃料及びその装荷炉心は従来のウラン燃料炉心と同様の設計が可能であると認められるので、安全評価に当たって、従来ウラン炉心に用いている判断基準並びにMOX燃料の特性を適切に取り込んだ安全設計手法、安全評価手法を適用することは差し支えないものと判断する。」ことを明らかにした。
 上記の報告書において、同委員会原子炉安全基準専門部会は、上記(1)のとおり、MOX燃料の使用についてはこれまで相当の実績があり、また、安全上の課題も特に見当たらないことから、今後、軽水炉において取替燃料の一部としてMOX燃料を使用する上で、基本的な技術は確立されているとの判断を示した。燃料設計については、MOX燃料には上記第二、二(3)イのとおり、プルトニウムの特性から物性及び照射挙動が変化する要因があるため、設計においてはこれらを適切に取り込む必要があるが、プルトニウムを含有するペレットの主要な物性はこれまでの研究等により把握されており、また、MOX燃料ペレットの照射に伴うふるまいについても、その製造方法の相違までも含めて照射後試験等により詳細なデータが採取されていることなどから、MOX燃料についても、ウラン燃料に用いているものと同様の燃料設計手法等にMOX燃料の特性を適切に取り込むことにより、挙動を評価することは可能であるとの判断を示した。また、炉心の核設計についても、上記第二、二(3)イのような核的特性を適切に考慮する必要があるが、代表的な炉心における設計例の検討結果から、MOX燃料集合体の装荷率が三分の一程度であれば、ウラン燃料炉心と同等の特性を有する炉心設計は可能と考えられるとの判断を示した。
 上記は、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会が、高度の科学的、専門技術的知見に基づき、現在の科学的技術水準に照らし安全上妥当なものとした見解であり、その判断の基礎となった科学的知見に不合理な点があるとか、調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるなどの具体的な主張立証がない限り、本件仮処分における裁判所の判断においても尊重すべきものである。以下においては、上記の見解を前提として本件争点について判断することとする。債権者らも、上記第二、三のとおり、プルサーマルの安全性自体については、本件仮処分の主要な争点とはしないことを明らかにしているところである。
 (3) もっとも、債権者らは、MOX燃料の特性により、安全上不利な特性があり、これにより安全余裕が切り縮められ、事故発生の可能性が増大し、また、事故による放射能被害を拡大するおそれがあるとも主張するので、この点について疎明されている事実をあげれば、次のとおりである。
 上記(2)の原子力安全委員会の見解に、《証拠略》を総合すれば、MOX燃料の特性は基本的にはウラン燃料と変わらないものであり、差異のある特性については、燃料設計の段階において、影響の可能性を考慮して適切な設計を採用することで解決されているか、あるいは定量的な評価を実施し安全上問題のないことが、原子力安全委員会において確認されていることが認められる。具体的には、以下のとおりである。
 ア プルトニウムウランよりも中性子と反応し易いために、MOX燃料棒の出力がウラン燃料棒の出力よりも高くなるとの点(上記第二、二(3)イa①)については、燃料集合体内においてウラン燃料棒とMOX燃料棒を適切に配置することによって、燃料の発熱分布を平坦化するように燃料設計がなされている。
 イ プルトニウム中性子を吸収し易いために、制御棒に吸収される中性子の数が減り、制御棒の効き具合に影響を与えるとの点(上記第二、二(3)イa②)については、最も効きの良い制御棒一本が炉心に入らなくても、残りの制御棒だけで原子炉を未臨界にできるなど、制御棒の停止能力に大きな余裕を持たせるように設計されている。
 ウ 原子炉の圧力が上昇するような異常が生じた場合には、ボイド係数等がより負となるため、従来よりも出力が大きくなる傾向にあるとの点(上記第二、二(3)イa③)については、原子力安全委員会は、ボイド係数等の値を評価結果をより厳しくする側に設定して安全評価を実施して、ウラン燃料炉心の場合と同様に安全であることを確認している。
 エ 燃料ペレットの融点及び熱伝導率がプルトニウム含有率の増加に伴い低下するとの点(上記第二、二(3)イb①)については、原子力安全委員会が、これらの特性の違いをふまえて安全評価を実施した結果、その程度は、本件MOX燃料程度のプルトニウム含有率に対しては、融点の低下が数十度であり、熱伝導度の低下も小さく、実際のペレット温度は融点に対して十分余裕(約一〇〇〇℃)のあることを確認している。
 オ 核分裂で生じるガス(FPガス)の放出率がウランペレットよりも若干高いとの点(上記第二、二(3)イb②)については、燃料棒内に予め封入するヘリウム量を適切に設定すること、燃料棒内の空間部分(ガス溜めの機能を果たし、プレナムと呼ばれる。)の体積を増加させることにより、燃料取り出し時の燃料棒内の圧力上昇を緩和させ、ウラン燃料と同等となるよう設計されている。
 カ ペレット内のプルトニウム含有率の不均一が製造時に生じ得る可能性があるとの点(上記第二、二(3)イb③)について
 ペレット内のプルトニウム含有率の不均一とはプルトニウムスポット(プルトニウム含有率が局所的に高い領域)の問題であり、国際的な研究機関によってプルトニウムスポットが燃料の破損しやすさに与える影響を定量的に明らかにする実験(どの程度の大きさのプルトニウムスポットが燃料の破損しやすさに影響を与えるかを明らかにする実験)が行われており、その代表的なものに、米国アイダホ国立工学研究所において行われたSPERT実験(the Special Power Excursion Test)及び日本原子力研究所がNSRR(Nuclear Safety Research Reactor)において行った実験がある。米国アイダホ国立工学研究所のSPERT実験によっては、五五〇ミクロン径のプルトニウムスポットについて、出力が急激に上昇する過酷な状況(反応度投入事象)を模擬した実験においても燃料の破損しやすさに大きな影響を及ぼすことがないことが確認されており、国内のNSRRの実験においても、一一〇〇ミクロン径までのプルトニウムスポットについて、燃料の破損しやすさに影響を及ぼさないことが確認されている。原子力安全委員会は、これらの実験結果に基づき、上記(2)の報告書において、「現実に想定される程度のプルトニウム・スポットが燃料の破損挙動に及ぼす影響は無視し得る」との見解を示している。
 二 本件MOX燃料ペレットの外径寸法に係る抜取検査における不正操作の有無について
 (1) 本件MOX燃料の品質確認の経過について
 《証拠略》によれば、債務者らは本件MOX燃料の品質について以下のような確認作業を行った経過が認められる。
 ア 債務者と元請企業である東芝は、本件MOX燃料の製造にあたり、平成六年から平成一〇年の間、八回(内四回は東芝のみで実施)、ベルギーに技術担当者を派遣してベルゴニュークリア社の工場の監査、調査を実施した。そこにおいて、債務者らは、JEAG四一〇一(社団法人日本電気協会策定に係る原子力発電所の安全性及び信頼性を確保するために必要な品質保証基準)に準じて、品質保障システム、組織、文書管理、調達管理、材料管理、工程管理、検査・試験管理、不適合管理、是正措置、品質記録、監査等の品質保証体制について、国内の燃料加工工場と同等であり、問題のないこと、特に品質部門の独立性が確保されていることを確認した。
 イ そして、本件MOX燃料の製造に先立って、債務者と東芝は、平成六年度から平成七年度にかけて、製品の品質を保証する観点から、要求される仕様を満足する製品を生産できることを確認するために、ベルゴニュークリア社及びFBFC社において、MOX燃料のペレット製造、燃料棒製造及び燃料集合体組立という各製造工程毎に実際の部材又は模擬燃料棒を使用して製造確認試験を行った。
 まず、ベルゴニュークリア社のペレット製造工程については、約八〇キログラムのMOX粉末を使用して、BWR仕様のMOX燃料ペレットを製造させ、寸法、密度、外観、不純物、化学成分、等価核分裂性物質濃度、プルトニウム均一度等の確認を行った。特に、ペレット外径寸法については、ペレット毎に六点を測定した結果が仕様に適合していることを確認した。
 次いで、燃料棒製造工程については、上記のMOX燃料ペレットを用いて、燃料棒(長尺、短尺併せて二六本)を製造させ、寸法、わん曲、外観及び端栓溶接部等を検査し、その健全性に問題のないことを確認した。
 最後に、FBFC社による燃料集合体組立工程については、模擬燃料棒を用いて燃料集合体一体の組立・解体を実施し、組み立てた燃料集合体の健全性に問題のないことを確認した。
 ウa さらに、債務者は、本件MOX燃料の製造期間中、検査員をベルゴニュークリア社及びFBFC社の工場に、合計約六カ月間(延べ五名)駐在させ、加工工程毎に品質を確認するための立会検査を実施した。立会検査に際しては、債務者の検査員の他、東芝の品質管理担当者及び日本ニユクリア・フユエル社の検査担当者も立会検査を行い、常に三名以上の体制で検査を実施した。
 ペレットの外径寸法の立会検査の方法は、債務者らの検査員が任意のブレンダー(ブレンダーとは、同一の焼結工程により生産されたペレットの集まりのうち、品質管理を行う単位であり、一ブレンダーにつきペレット数は約七〇〇〇個である。)を指定し、指定されたブレンダーについてベルゴニュークリア社の抜取検査において抜き取られたペレットから債務者らの検査員が指示したペレットを再抜取りしたうえで、外径寸法を測定するものである。この再測定は、債務者らの立会検査員三名の面前で行われ、ベルゴニュークリア社の検査員がペレットを取り扱う手先、測定値表示パネルが検査員らの視認可能な範囲内にあり、その測定結果は検査員らの目前の表示パネルに機械的、自動的にデジタル値として表示される仕組みとなっていた。
 上記の立会検査においては、ベルゴニュークリア社が抜取検査を実施した二八五二個のペレットの内四四八個について実施され、これら全てのペレットについて外径寸法が仕様値に適合することが確認された。
  b なお、債権者らは、上記の立会検査において仕様値を外れた不合格ペレットが確認されなかったのは、不合格ペレットが含まれていたにもかかわらずベルゴニュークリア社の検査員が巧みに不正を行った結果であるとか、立会検査とは名ばかりの一時的な視察だったのではないかとの疑いがあるなどと主張する。しかしながら、上記のとおり、債務者らの立会検査における抜取り及びその測定は、三名の検査員らの面前で行われ、測定結果は、人為的に加工する余地なく目の前の表示パネルに機械的、自動的にデジタル値として表示され、立会人がそれを確認できるようになっており、仕様外の測定結果が表示された場合には、ベルゴニュークリア社の検査員のみならず債務者らの立会検査員三名も直ちに確認できる状況にあったのであるから、わずか一〇〇〇分の一ミリメートル単位の測定値について、債務者らの三名の検査員の注視の下に、秘密裡にペレットの測定位置を操作するなどして不正計測を行うことは現実には不可能というべきであり、債務者らの検査員らが誠実に職務を行わなかった疑念を生じさせる証拠は何もないのであるから、債権者らの主張は理由がない。
 また、債権者らは、BNFL社でも、関西電力と元請企業である三菱重工業による立会検査が行われたが、不正を抑止することができなかったと主張する。しかしながら、《証拠略》によれば、ペレット外径に関する関西電力三菱重工業の立会検査は、任意のロット(BNFL社におけるロットは、ブレンダーと同義語であり、一ロットにつきペレット数は約三〇〇〇個から約四〇〇〇個である。)からのサンプリングではなく、検査当日に工程中にある数ロットの中からのサンプリングに限定されており(三菱重工業において六〇個、関西電力において四〇個にすぎない。)、作業実態の確認という観点からは不十分であったと言わざるを得ない。
 さらに、債権者らは、上記の立会検査において、一ペレット当たりの測定点が一か所(以上)であったことについて、測定点が不足していると主張する。しかしながら、債務者においては、製造確認試験が実施され、設計基準を満足するMOX燃料ペレットを製造することが確認されているため、立会による再度のMOX燃料ペレットの外径測定においては、少なくとも一か所を測定すれば品質の確認を行うことができ、かつ立会による外径の再検査は一か所の測定でも不正に対する十分な抑止力があるとの判断のもとに、一か所以上の不特定測定で足りるとしたもので、それなりの合理的判断というべく、品質確認に欠けるところはない。
 エ 上記第二、二(6)アのとおり、平成一一年九月一四日、関西電力より、BNFL社が製造した高浜発電所三号機用MOX燃料ペレット外径に係る品質記録に改竄のあることが公表されたことから、通商産業省は、債務者に対して、本件MOX燃料の品質管理状況の確認を行うように指示した。
 これを受けて、債務者は、同年九月一五日から二〇日まで、東芝とともに、担当技術者をベルギーに派遣し、現地工場において、データ採取システム、元データ等の確認を行うなどして、本件MOX燃料の品質管理状況について調査し、その結果を、同月付け「福島第一原子力発電所三号機並びに柏崎刈羽原子力発電所三号機用MOX燃料品質管理データの確認結果について」と題する報告書を作成して、通商産業省に報告した。
 上記調査においては、特に、ペレットの外径寸法については、デジタル式マイクロメーターにより測定された測定値は自動的にコンピューターのデータベースに登録されること、コンピューターのデータベース中の測定データ数が報告されているデータ数と一致することなどを確認した。
 オa その後、上記第二、二(6)ウのとおり、同年一二月一六日、関西電力高浜発電所四号機用MOX燃料にも、三号機用MOX燃料と同様にペレットの品質管理データに改竄のあることが判明したため、通商産業省は、債務者に対して、再度、本件MOX燃料の品質管理状況の確認を行うように指示した。
 債務者は、直ちに担当技術者を八名、東芝の技術者五名と共にベルギーに派遣し、また、フランス国内に二つのMOX燃料工場を有し、ベルゴニュークリア社のMOX燃料についても豊富な技術的知見を有するコジェマ社の協力を得て、本件MOX燃料の品質記録の再確認作業を行った。さらに、確認作業の実施に当たっては、世界各国において検査やISO九〇〇〇品質システムの認証を行っており、原子力施設においても実績を有するベルギーの認証機関であるAVI(AIB−Vincotte International)による立会確認を得た。そして、その結果を取りまとめ、平成一二年二月付け「福島第一原子力発電所三号機並びに柏崎刈羽原子力発電所三号機用MOX燃料に関する品質管理状況の再確認結果について」と題する報告書を作成して、通商産業省に報告した。
  b 上記調査においては、ベルゴニュークリア社の従業員教育及びデータのセキュリティ管理等、不正発生の未然防止について再確認作業が行われた。その結果、ベルゴニュークリア社においては、全作業者に対し、各作業内容に応じた導入教育、維持教育、特殊教育を実施し、作業者認定制度が採用されており、作業員の能力が適正に維持されていることが確認された。また、データのセキュリティ管理についても、これを担当する抜取検査員、測定検査員、品質管理者は、製造部門から独立した品質部門に所属していること、ペレットの外径寸法測定については、品質管理者から発出される作業指示書に従い、測定検査員が各ペレットの計測を行うが、その際品質管理者は、測定するペレットデータの記憶領域をコンピューターのデータベース毎に指定しており、測定検査員が足でペダルを踏むことによって、この記憶領域に品質記録データが登録されること、検査データは一旦コンピューターに登録されるとデータの変更はできないこと、品質管理者による品質データ評価に際しても、データベース上の品質管理データは「read only」となっており、品質管理データを書き換えることはできないこと、以上のとおりセキュリティ管理上特段の問題がないことが確認された。
 また、いわゆるコピー&ペーストによるペレット外径測定データの複製のような不自然なデータの繰り返しがないことについては、データの複製を行ったような場合には、品質管理データの中に同一パターンの数字の並びが存在することに注目し、コンピューターを用いて、検索を実施して、同一パターンの数字の並びが生じている頻度は、並びの大きさに応じて確率的に予想される範囲内であり、不自然な分布、数字の並びがないことが確認された。
  c 債務者による上記の再確認作業については、第三者機関であるAVIにより、ベルゴニュークリア社の品質保証システムに問題のないこと、債務者及び東芝が過去に工場の監査や立会検査を確実に実施したこと、ベルゴニュークリア社におけるペレット外径測定は、サンプリングから、測定、評価の過程を通じて、データの意図的な変更を防止するようになっていること、ペレットの品質確認のためのサンプリングが適正に行われていること、ペレット外径の品質管理データにおけるコピー&ペーストタイプの改竄がないこと、本件MOX燃料ペレットの不純物等に関する元データにつき品質管理記録に遡及できること、本件MOX燃料の品質記録が設計仕様に適合していることが確認された。
  d なお、債権者らは、AVIはベルギー国立研究所が発生母体であり、ベルギー国立研究所はベルゴニュークリア社に五〇パーセントの出資をしており、本件MOX燃料の品質管理検査においても、同位体組成の検査依頼を受けていた組織であるので、ベルゴニュークリア社と関係があり、到底第三者機関とはいえないと主張する。
 しかしながら、ベルゴニュークリア社に五〇パーセント出資しているのはベルギー政府であり、発生母体なる用語の趣旨が不明瞭である上、《証拠略》によれば、AVIは、製造メーカー等による資本参加はなく、組織の独立性及び活動の透明性を基本的基準とする審査を経て、ベルギーの認定登録機関による認定を受けており、EC委員会当局によって公表された独立検査機関として欧州検査・認証機構(CEOC)の創設メンバーであるとともに、ISO九〇〇〇認証機関の国際ネットワークであるIQネットに設立メンバーとして参加する等、各方面において組織の独立性が認められている機関であることが認められ、債権者らの主張は採用できない。
 カ 通商産業省においても、債務者から上記平成一二年二月付け「福島第一原子力発電所三号機並びに柏崎刈羽原子力発電所三号機用MOX燃料に関する品質管理状況の再確認結果について」と題する報告書の提出を受け、同年三月一四日から一七日まで、原子力専門家及び職員をベルギーに派遣し、ベルゴニュークリア社において直接関係者からの聴取を行ったり、現地工場においてデモンストレーションを視察したり、AVIを訪問して確認を行ったりして、債務者の再確認の結果を検証した。その結果、現地調査に同行した専門家からは、現地での聴き取り、工場でのデモンストレーションの視察、関連文書の検証等を実施し、債務者の再確認作業の実施状況に関して問題となる点は見られない、ベルゴニュークリア社の品質管理体制は過去の実績から見て、また、品質管理マニュアルや検査記録等に関して今回聴取した範囲において良好なものと見受けられ、問題は見られないとの意見を得た。
 キ 通商産業省は、BNFL社製MOX燃料データの不正問題を通じて浮き彫りとなった諸課題を検討し、そこから学ぶべき教訓を抽出し、輸入燃料体検査制度を中心とする安全規制のあり方及び電気事業者が輸入燃料体を利用する際に行うべき品質保証活動のあり方について検討するため、電気事業審議会基本政策部会に、原子力の専門家や弁護士らを委員とする「BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会」を設置した。同委員会は、同年三月二一日に第一回会合を開催して以来、合計三回の会合を開催して、検討を行い、その結果を取りまとめ、同年六月二二日付け「BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会報告」を公表した。
 上記報告の提言を受けて、同年七月一四日、電気事業法施行規則、通達の改正等により、輸入燃料体検査制度に関して、①燃料体検査申請書に「品質保証に関する説明書」の添付を義務付けること、②設置(変更)許可取得後にMOX燃料体の製造を行うこと、③MOX燃料の製造前に検査申請を行うこと、④当分の間、海外燃料工場の品質保証活動の確認の際、第三者機関を活用することを骨子とする制度改正がなされた。
 ク 本件MOX燃料は、既に平成一一年八月五日に申請済みであったから、上記改正の適用対象とはならなかったが、債務者は、通商産業省の指示により、上記改正の趣旨に従って、平成一二年八月一日付け「福島第一原子力発電所三号機用MOX燃料品質保証に関する説明書」を追加提出した。
 上記第二、二(5)カのとおり、通商産業大臣は、審査の上、平成一二年八月一〇日、本件MOX燃料に係る輸入燃料体検査について、これを合格とした。
 (2) BNFL社製MOX燃料データの不正問題について
 ア 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。BNFL社の工場におけるペレット外径寸法の抜取検査の方法は、製造ラインから出てきた完成品一ロット(上記(1)ウb)毎に、ランダムにサンプリングされた二〇〇個のペレットの外径が、レーザーマイクロメータを用いて測定、記録される。測定及び記録については、資格認定を受けた一名の検査員が測定値を読み上げ、その値を別の運転員がコンピューターに手動で入力していた。
 最終的には、高浜発電所三号機用MOX燃料については一九三ロットの内二八ロットに、高浜発電所四号機用MOX燃料については一九九ロットの内三ロットに不正があったと判断されているが、その不正の方法は、測定の手間を厭うて、以前に採った別のロットの測定結果のデータをコンピューターから呼び出して数字を一部書き換えたりして操作し、データの捏造を行ったというものである。さらに、検査員は、測定値が規格値をわずかに超えた場合には、ペレットを九〇度回転させて再測定するというようなことも行っていた。
 イ 関西電力が、不正発生の原因究明、再発防止対策等について総合的に取りまとめ、通商産業省に提出した、平成一二年六月一四日付け「BNFL社製MOX燃料問題に関する調査結果について」においては、データ不正の発生に至ったBNFL社の品質保証体制に組織的、構造的な欠陥があったとして、次のとおり指摘している。
  a 品質管理部門の独立性の不足
 ペレットの検査は、運転員(Operator,製造担当者の意)の内、検査員として資格認定された者が行っていた。即ち、検査員は、運転員と同じ製造部門に所属し、運転員として管理される一方、検査内容は品質管理部門に報告するという仕組みであり組織上の役割分担が曖昧であった。
 要領書には、検査員が実施すると記載されていたが、資格認定されていない運転員が測定作業を実施している場合があった。
  b 品質管理データのセキュリティ
 品質管理データが手入力であり、データの不正入力が容易であった。また、品質管理データへのアクセスを制限する措置がとられず、誰でも検査データにアクセスが可能であった。
  c 品質管理教育の不足
 検査員、運転員に対する品質管理の重要性に関する教育が十分とは言えず、検査員の中にはペレット抜取外径検査においてランダムに抜き取ることの意味を十分に理解していない者がいたり、不正を働いた検査員は、外径については製造過程で全数選別をしているので無駄な抜取検査をしているとの認識を示していたほどであった。
  d 作業環境
 検査は、ペレットの位置合わせが目の疲れる作業であり、二〇〇個という数の多さからくる長時間(二〇〇個のペレットの検査時間は約二時間程度)の単調な行為の繰り返しである。それに加えて、読み取り値は六〇〇点の数値をパソコンに手入力する必要があり、不正行為が入りやすいシステムであった。それにもかかわらず、ペレット外径検査作業における自動化が行われず、作業環境が改善されなかった。製造開始前の工程審査の際に、三菱重工業がペレット抜取検査の自動化を要請したものの、BNFL社は改善は困難であるとしてこれを受け入れなかった。
 ウ 上記(1)キのとおり、通商産業省は、電気事業審議会基本政策部会に、「BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会」を設置し、同委員会は同年六月二二日付け「BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会報告」を取りまとめた。上記報告においても、BNFL社の品質保証体制について、「データ不正問題発生の最大の原因が、BNFL社における品質保証体制の組織的、構造的欠陥にあることは論を待たない。英国の規制当局も指摘するように、BNFL社については品質管理部門の独立性の不足、品質管理データのセキュリティの問題、品質管理教育の不足、作業に対する管理監督の不足等、多くの品質保証活動上の問題が浮かび上がっている。」と指摘している。さらに、「今回のBNFL社MOX燃料データ改竄事件は、」「検査担当者が検査の重要性を理解せず、人間工学的観点から妥当性を欠く作業環境のもとで手間を省きたいという個人的動機から行ったものである。こうした事態の発生は、品質保証活動の責任者による現場管理が不十分であるなど品質保証体制が脆弱であることの証左であり、このような企業は原子力分野で事業を実施する資格がない。」として、BNFL社の企業体質を厳しく批判している。
 エ 平成一一年九月七日、BNFL社の工場において、製造中の高浜発電所三号機用MOX燃料の通常のX線による検査中に、燃料棒二本に異物が確認され、不合格とされた。BNFL社は、燃料棒中の異物を故意に入れられた可能性があるとし、外部専門調査機関に依頼して徹底した調査をしたところ、異物が確認された九月七日の数日前に、他の作業員の一人がデータ不正を認め、会社による追求がさらに進捗しようとしていた時期であり、データ不正に関与した人物が、会社の追求が自分に及ぶことを恐れ、異物混入事件を引き起こすことにより追求の矛先をデータ不正の件からそらそうとしたとの判断に達している。
 オ 以上のとおり、BNFL社においては、会社の組織上品質管理部門の独立性が不十分であり、品質管理データのセキュリティに対する配慮に欠け、品質管理教育も不足しており、人間工学的観点から妥当性を欠く作業環境でありながら、管理者においてその改善に対する関心も薄かったもので、燃料棒への異物混入事件からは一部従業員の間の極端なモラルの荒廃すら窺われるところであり、上記各報告書も指摘しているとおり、BNFL社の品質保証体制に組織的、構造的な欠陥があったことが、BNFL社製MOX燃料データの不正問題の原因の一つであると言わざるを得ない。
 (3) ベルゴニュークリア社製MOX燃料の製造、使用実績及び品質保証体制について
 ア 製造、使用実績
  a 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。
 ベルゴニュークリア社は、昭和四八年にMOX燃料の成型加工工場の操業を開始し、長年の製造経験を有し、特に、ウラン粉末とプルトニウム粉末を二段階で混合する製造法(MIMAS法)を開発した以降は生産実績を伸ばし、平成一一年末現在の欧州における累積生産量の七八パーセントがMIMAS法によるものであり、その内三六パーセントがベルゴニュークリア社の生産による。ベルゴニュークリア社は、昭和六一年にMIMAS法によるMOX燃料の工業規模での生産を開始したが、平成元年にほぼ年産三五tHM(ton Heavy Metal燃料中の重金属(ウランプルトニウム等)の合計重量トン)の公称能力(許可容量四〇tHM/年)に達した後、安定してこの水準を維持している。この間、フランス、ドイツ、ベルギー、スイスにわたり、一七基の加圧水型原子炉(PWR)、二基の沸騰水型原子炉(BWR)用にMOX燃料を製造している。平成一一年九月までに、ベルゴニュークリア社は、二一万二三〇〇本以上の燃料棒を製造し、これから七九六体のPWR用燃料集合体、二八八体のBWR用燃料集合体が製造されている。ベルゴニュークリア社で製造したMOX燃料の照射実績としては、既に五〇〇体以上の燃料が三五GWd/tHM以上の燃焼度に達しており、最高燃焼度は集合体平均で五一GWd/tHMとなっている。この間、MOX燃料ペレットの不具合により燃料が破損したという例はない。
 これに比較して、BNFL社は、平成五年に操業を開始し、その年間製造能力はベルゴニュークリア社の四分の一以下で、製造実績は平成七年末の統計で、約一〇tHMとなっており、両者の製造実績には桁違いの差がある。
  b 債権者らは、ベルゴニュークリア社の製造設備が旧式で、生産能力の点で大きな問題があると主張するが、同社の製造能力に疑いを差し挟むに足るだけの具体的な立証がない。
 また、債権者らは、ベルゴニュークリア社におけるMIMAS法による燃料ペレットの製造実績は主としてPWR用であり、本件のようなBWR用のMOX燃料の製造実績は十分ではないと主張する。しかしながら、BWR用燃料とPWR用燃料の差異は、燃料集合体に何種類のプルトニウム濃度のペレットが使用されるかという問題に係るものであって、燃料ペレット製造技術上の差異はなく、ペレットレベルで見れば、PWR用燃料、BWR用燃料いずれについても製造技術に変わるところはなく、ベルゴニュークリア社におけるPWR用MOX燃料製造実績は、BWR用の本件MOX燃料ペレット製造に関しても、十分に意味のあるところであり、債権者らの主張は理由がない。
 さらに、債権者らは、プルトニウム粉末とウラン粉末の混合方法につき、ベルゴニュークリア社の開発したMIMAS法は、BNFL社の開発したSBR法よりも、プルトニウム均一度の点で劣る、プルトニウム均一度の検査の頻度について、ベルゴニュークリア社がBNFL社に劣ると主張する。しかしながら、《証拠略》によれば、粉末混合法の差によって生じるプルトニウム均一度の差異が安全性に影響を及ぼすものではないこと、MIMAS法は技術的に十分確立され、安定した性能が広く認められているところから、粉末混合ロット毎に一ないし数サンプルを採取するという抜取頻度は、その製造実績に見合う合理的なものとして、一般に妥当性が認められていることが認められ、債権者らの主張は理由がない。
 その上、債権者らは、債務者が今後のMOX燃料の加工委託先をベルゴニュークリア社からメロックス社に変更したことについて、ベルゴニュークリア社の製造能力に疑念を抱いたことによるのではないかと主張するが、メロックス社が燃料棒加工から燃料集合体組立までを一元的に処理し得る会社であることに加えて、商業ベースに基づく判断であるという債務者の説明に特段疑問を差し挟む余地はなく、債権者らの主張は理由がない。
 イ 品質保証体制
  a 《証拠略》によれば、ベルゴニュークリア社は、国際原子力機関が定めた「原子力プラントにおける安全のための品質保証の実施基準」に適合する品質マニュアル、ISO九〇〇二の認証を一九九五年に取得し、一九九八年にその更新を受けていることが認められる。
 また、債務者は、BNFL社製MOX燃料データの不正問題を契機として出された通商産業省の指示に従い、ベルゴニュークリア社の従業員教育及びデータのセキュリティ管理等、不正発生の未然防止策について、再確認作業を行い、上記(1)オbのとおり、ベルゴニュークリア社においては、全作業者に対し、各作業内容に応じた導入教育、維持教育、特殊教育を実施し、作業者認定制度が採用されており、作業員の能力が適正に維持されていること、データのセキュリティ管理についても、これを担当する抜取検査員、測定検査員、品質管理者は、製造部門から独立した品質部門に所属していること、ペレットの外径寸法測定については、品質管理者から発出される作業指示書に従い、測定検査員が各ペレットの計測を行うが、その際検査データはコンピューターに登録されて、不正に変更される余地がないシステムとされ、さらに品質管理者による品質データ評価に際しても、これを不正に書き換えることができないシステムとされており、セキュリティ管理上の問題がないことが確認された。以上の点は、上記(1)オcのとおり、第三者機関であるAVIによっても確認された。
  b 以上のとおりであり、BNFL社に対して、品質保証体制に組織的、構造的な欠陥として指摘された、上記(2)のような、品質管理部門の独立性の不足、品質管理データのセキュリティの問題、品質管理教育の不足等の問題点について、ベルゴニュークリア社においては、十分な対応が取られているものと認められる。
 (4) 本件MOX燃料ペレットの外径寸法管理について
 ベルゴニュークリア社においては、本件MOX燃料ペレットの外径寸法について、以下のとおり管理されていた。
 ア 製造部門における工程管理
  a 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。
 ベルゴニュークリア社では、本件MOX燃料ペレットの焼結後に、外径寸法仕様値である一〇・三五〇±〇・〇二〇ミリメートルの仕様に適合するよう研削を行っていた。研削後の燃料ペレットの外径寸法については、製造部門が全数レーザー計測装置で測定し、仕様値を外れるようなペレットについて自動的に取り除くとともに、外径寸法の公差よりさらに微小な製造管理値(仕様公差〇・〇二〇ミリメートルよりも小さい値)を設定してそれを超えた場合には仕様を満足するように研削機の微調整を実施していた。
  b 債権者らは、上記の製造部門で測定した全数データが保存されていないことをもって、ベルゴニュークリア社の品質管理能力が低位であることを示すものであると主張する。しかしながら、かかるデータは、製造会社の工程管理上の測定値にすぎず、それによって砥石の幅を調整し、研削をより仕様値に適合させる意味を有するとしても、品質管理データのように保存する義務のないものである。電気事業審議会基本政策部会に設置されたBNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会の報告書においても、「(BNFL社の)自動計測データは全数コンピュータ内に残されていたが、製造管理に使用するデータについては、下記の品質管理データとは異なり、これをどの程度の期間保持するかについては純粋に製造業者の社内システムの問題である。したがって、今回のBNFL社の自動計測データの場合には、発注者にとっては、たまたま残されていたということである。」と述べているところである。したがって、債権者らの主張は理由がない。
  c 債権者らは、品質部門の抜取検査おける外径測定データの標準偏差につき、BNFL社製の高浜発電所四号機用MOX燃料のそれが〇・〇〇四二ミリメートルであるのに対し、ベルゴニュークリア社製の本件MOX燃料のそれが〇・〇〇五ミリメートルであり、標準偏差は検査データのばらつき度合いを示すものであるから、製造工程における仕様値管理は、ベルゴニュークリア社がBNFL社に劣ると主張する。しかしながら、債務者の福島第一原子力発電所三号機がBWR型であるのに対し、関西電力の高浜発電所の原子炉はPWR用型で型式を異にすることから、燃料ペレットの外径寸法仕様値(上下限値)が異なる。即ち、両者の許容公差幅、即ち、仕様上限値と下限値の幅を見れば、本件MOX燃料が〇・〇四〇ミリメートルであるのに対し、関西電力用MOX燃料が〇・〇二五ミリメートルであり、大きく異なるのであるから、このような事情を無視して、標準偏差のみをもって品質精度を論じることは意味がない。
  d また、債権者らは、レーザー計測装置の測定桁数につき、BNFL社のそれが一万分の一ミリメートル単位であるのに対し、ベルゴニュークリア社のそれは一千分の一ミリメートル単位であり、精度においてベルゴニュークリア社がBNFL社において劣ると主張する。しかしながら、仕様の範囲は、両社とも、一千分の一ミリメートル単位で決められていたのであるから、両者を比較して測定桁数の優劣ないし精度を論じる意味はない。
 イ 品質部門における抜取検査
  a 本件MOX燃料の外径寸法については上記アのような製造工程管理が行われたが、さらに製造後に品質部門においてデジタル式マイクロメーター(機械式ゲージ)による抜取検査が行われた。その具体的な手順は、上記(1)オbのとおりである。
  b サンプリングの方式、検査水準
 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。
 サンプリングの方式や検査水準は、発注者と製造者とが、ISO、JIS、MIL等の規格を参考として、製造者の過去の実績をも踏まえて合意することとなる。本件においては、MIL−STD−一〇五Dに基づいて定められた。MOX燃料ペレットの外径寸法抜取検査においては一ブレンダー当たり約七〇〇〇個の燃料ペレットから三二個以上を抜き取るサンプリング方式が採用された。そして、仕様を外れるペレットが一つでもあった場合には、当該ブレンダーを不合格にする(0、1)判定が採用された。この抜取検査はAQL(合格品質水準)〇・一五パーセントに相当し、ベルゴニュークリア社に関する製造、検査の経験を考慮して、妥当な水準として債務者、東芝、ベルゴニュークリア社の間において設定された。
  c 債権者らは、抜取方法は、MIL規格に従えば、一ブレンダー約七〇〇〇個のペレットから三二個を抜き取るものであるが、実際には、最初の三ブレンダーについては八〇個以上、その他は三二個以上とし、ブレンダーによって何種類かの抜取数を用いていたこと、始めから「ゆるい検査」を適用したこと、これらの点は規格に従っていないと主張する。
 なるほど、《証拠略》によれば、ベルゴニュークリア社が抜取検査において各ブレンダー毎に抜き取るペレットの個数については三二個以上という契約条件を充足する範囲において同社が決定したものであり、その結果規格個数(三二個)以上の抜取りを行っているブレンダーがあったことが認められるが、同一の判定基準(本件の場合「(0、1)判定」)を用いる限り抜取個数が多いほど不合格ペレットが確認される可能性が高くなるため結果として抜取個数の多い検査の方がより厳しいものとなる。したがって、MIL−STD−一〇五Dによって定められる以上の個数を抜き取ることは、その検査の信頼性を高めるといいうるものでこれを低下させるものではない。
 また、検査の厳しさについては「ナミ」「キツイ」「ユルイ」の三通りの選択が可能であり、MIL−STD−一〇五D規格においては「責任者がとくに他の指定をしない限り検査はナミ検査から始める」とされているので、債務者は、ベルゴ社の製造実績及び製造に先立って行った製造確認試験の結果に照らしてベルゴ社の品質レベルが十分に高いと判断し「ユルイ検査」を適用することを指定したもので、規格に従っていないとはいえない。
  d さらに、債権者らは、柏崎刈羽原子力発電所三号機用MOX燃料の抜取検査や不合格ブレンダーの扱い等を根拠に、ベルゴニュークリア社の抜取検査が、規格に準拠するように求める原子力安全委員会決定の安全審査指針に違反するかのようにも主張するが、上記指針において規格基準への準拠が求められているのは安全機能を有する構築物系統及び機器についてであり、燃料ペレットはその対象外であるから、この点に関する債権者らの主張は理由がない。
 ウ 以上のとおりであり、ベルゴニュークリア社の、本件MOX燃料ペレットの外径寸法の製造部門における工程管理や品質部門における抜取検査に、特段不合理な点、不十分な点は認められない。
 (5) ベルゴニュークリア社にも不正操作を行わざるを得ない事情がある、不正操作を行い得る事情があるとの債権者らの主張について
 ア 債権者らは、ベルゴニュークリア社にも、MOX燃料の特性に由来する、BNFL社と同じく不正操作を行う共通の基盤があるとして、以卞のとおり主張する。
 即ち、MOX燃料では、放射線ウラン燃料より多く発生し、臨界に至らないように厳重に管理する必要があることから、製造工程、検査工程全体を環境と隔離して、従業員の被曝を低減しなければならず、検査はグローブボックス内で行われ、少量ずつの検査が頻繁にあり、それぞれの検査には迅速さが要求されるなど、検査員は非常に困難な作業を強いられる。また、製造上も、MOX燃料ペレットの外径研削は、臨界管理の観点から、ウラン燃料ペレットの湿式研削と異なり、乾式で行われることから外径調整が難しいという困難性がある。こうした製造、検査に際しての困難が、BNFL社での不正の基盤にあるが、ここで述べた困難は、MOX燃料の特性に由来するもので、BNFL社だけにある問題ではなく、ベルゴニュークリア社にも共通する。
 しかしながら、MOX燃料ペレットを製造、検査するに当たって、ウラン燃料とは異なった困難な点があることは、債権者らの主張のとおりである(上記第二、二(3)ウ)が、BNFL社においては、品質保証体制に組織的、構造的な欠陥として指摘された、上記(2)のような、品質管理部門の独立性の不足、品質管理データのセキュリティの問題、品質管理教育の不足等の多くの問題点が不正事件を惹起した原因として指摘できるのであり、これと事情を異にする、ベルゴニュークリア社において、MOX燃料ペレットを製造、検査するに当たって、同様の困難性があるからといって、不正操作を疑わしめる根拠とはならない。
 イ また、債権者らは、ベルゴニュークリア社には、裁判の結果新工場を建設することができなくなり、旧式の工場で製造能力の限界値で生産を行っていた、不合格ペレット等をリサイクルできる容量が限られていた、自動化の遅れから工場労働者の被曝量を低減するために、品質管理検査は極力短時間で行わなければならなかった、一つでも不良品が見つかれば約七、〇〇〇個のペレット全てを不合格にするという抜取方式を採っており、ペレットを一つも不合格にできないというプレッシャーが検査員にかかっていたなど、不正操作を行わざるを得ない状況があると主張する。
 しかしながら、債権者らの指摘する点は、その主張内容自体からして、ベルゴニュークリア社においては上記の(3)イのとおりの適切な品質保証体制を確立していることに鑑みると、不正操作を行わざるを得ないというに足るほどの事情とは認められない。しかのみならず、不合格ペレット等をリサイクルできる容量が限られていたとの点については、《証拠略》によれば、ベルゴニュークリア社のスクラップのリサイクル可能容量は、一次ブレンドの七〇パーセントを超える容量のリサイクルが可能であること、ベルゴニュークリア社で採用されているMIMAS法の利点の一つは、二段階混合を採用しており、一次ブレンド、二次ブレンドの両方においてスクラップを再導入できることから、スクラップを簡単にリサイクルできる点にあることが認められ、事実に反する主張である。また、自動化の遅れから工場労働者の被曝量を低減するために、品質管理検査は極力短時間で行わなければならなかったとの点については、《証拠略》によれば、ベルゴニュークリア社の放射線防護は、線量低減を目指して絶え間ない改善がなされており、特に、一九九五年から一九九九年にかけて、広範な放射線遮蔽設備及び遠隔操作設備の設置を含む工場の改修が行われたことが認められ、債権者らの主張は、事実に基づかないものである。
 ウ さらに、債権者らは、ベルゴニュークリア社の測定方法は、検査員が人為的にペレットを回転させるなどして、仕様範囲のデータが得られるまでペダルを踏まずにデータを入力しない、逆に、何度もスイッチを踏むことにより、コンピューターにアクセスしないで、データのコピーをするなどの不正操作が可能であり、これを防止するための機械的なシステムは備わっていないと主張する。
 なるほど、不正操作を行う手段があり得ることは債権者ら主張のとおりではあるが、そのことが直ちに不正操作の蓋然性を窺わせるものではない。特に、上記(1)ウaのとおり、債務者の立会検査においてベルゴニュークリア社が抜取検査を実施した二八五二個のペレットの内四四八個全てのペレットについて外径寸法が仕様値に適合することが確認されていること、ベルゴニュークリア社においては上記の(3)イのとおりの適切な品質保証体制を確立していることからして、ベルゴニュークリア社においては、様々な不正の形態に対して適切な抑止機能が働いていたと考えられ、債権者らの主張は理由がない。
 (6) 債権者らが不正操作を強く示唆するとする証拠について
 ア 小山英之による、本件抜取検査外径データの分析について
  a 証人小山英之及び同人作成の陳述書によれば、大阪府立大学講師で数理工学を専攻する小山英之は、本件MOX燃料ペレットの抜取検査による外径測定データについて、以下のとおりの分析を行ったことが認められる。
 小山の考え方は、次のようなものである。債務者は、本件MOX燃料ペレットの抜取検査による外径測定データを四ミクロン単位のロット毎のヒストグラムの形式で公表している。しかし、実際の抜取検査の測定単位は一ミクロン単位である。これを四ミクロン単位に加工することによって、データの異常な形状が隠される可能性がある。そこで、二次予測の手法により、四ミクロン単位のデータから一ミクロン単位のデータを予測する。そして、ベルゴニュークリア社の製造能力が優秀であるなら、データは、正規分布(多くの要因がランダムに作用する状況において一般的に見られる分布)に従うはずであるから、予測した一ミクロン単位のデータの分布を正規分布と比較すると、データの異常の有無が判明する。しかも、予測値は、比較的おとなしい形となるので、予測値が正規分布から相当ずれた場合、現実のデータの分布は著しく正規分布からずれていると結論できる。
 このような考え方の下に、データの分析を行ったところ、一六ロット(抜取検査の単位はブレンダーであるが、公表されたヒストグラムはいくつかのブレンダーから構成される製造ロット単位となっている。)のデータの内、予測値による分布が正規分布からある程度ずれたと認められるものが二ロットあり確実にずれているものが四ロットあった。四つの異常を示す分布図はさらに二つのパターンに分かれる。一つは推定分布に第二の山が見られるものでロット一六〇四が例となる。これは一〇・三六〇ミリメートル付近に第二の山があるがこれが実際にはもっと大きいはずである。もう一つのパターンは中心付近に異常にデータが集められた形をしているものでロット一六〇七がその例となる。
 小山は、正規分布からずれがあることから、製造過程が思った程に優秀でないか、抜取検査に不正操作が行われたものであると結論付ける。
 なお、ベルゴニュークリア社でいう「ロット」は、BNFL社でいう「ロット」(上記(1)ウb)とは異なる意味であり、同一組成の粉末から同一の焼結工程により生産されたペレットの集まりのことを意味する。上記(1)ウaのとおり、ブレンダーが、同一の焼結工程により生産されたペレットの集まりのうち、品質管理を行う単位の意味であるから、ロットは複数のブレンダーから構成されることとなる。
  b しかしながら《証拠略》によれば、ベルゴニュークリア社における本件MOX燃料の製造工程においては仕様を外れるペレットを製造ラインから除外する自動全数選別プロセス及び製造管理上の管理値(内側管理:仕様公差〇・〇二〇ミリメートルより小さい値)を基準として砥石の幅を調整する特段のプロセスが付加されて工程管理が行われていることが認められ、多数のロット(あるいはブレンダー)を対象とする場合はともかくとして、個々のロット(ないしはブレンダー)の分布は砥石調整という要因により、正規分布になるとは限らない。このこと自体は、小山も自認するところである。製造工程の途中において可能な限り仕様中心値に近付けるように砥石調整による製造努力が行われている結果、砥石の調整と共に多く出現する検査数値が変化してグラフ上の「第二の山」を形成することになったり、あるいは中心値により多く集まる形状を示すこととなったりすることには十分な合理性があり、特段不自然ということはできない。したがって、個々のロット単位のデータが正規分布に従うはずであるという小山の分析の前提自体、本件においては、採用できないので、小山の分析をもって、不正操作が行われたことを強く示唆する疎明がなされているということはできない。
 イ 本件MOX燃料ペレットの抜取検査において不合格となったブレンダーが0であったことについて
  a 債権者らは、一般的な統計理論によれば、本件MOX燃料の抜取検査において不合格となったブレンダーが0であったという事実は異常であり、何か不正な操作が行われない限りあり得ないと主張する。
 《証拠略》によれば、小山らは、一般的な統計理論の手法を用いて、以下のとおりの推論を行ったことが認められる。
 一つのロット(あるいはブレンダー)にN個のペレットがあり、不良率がpで、不良品数がpNであった場合に、この中からn個を抜き取ったときに、x個の不良品が混ざっている確率P(x)はいくらかという問題については、数理統計学の理論により、超幾何分布として、一般的な回答式が用意されている。この式から、合格になる確率(合格確率)は、不良率(不良品が混ざっている比率、ペレット全数に対する仕様外ペレット数の割合)の関数として曲線(OC曲線)で描くことができる。不合格となる確率は、(1−合格確率)となる。以上の式により、ロット(あるいはブレンダー)の不良率から不合格確率が決まり、逆に不合格確率から、不良率を推定することができる。
 本件MOX燃料ペレットの外径寸法データの方が、BNFL社製の高浜発電所四号機用MOX燃料ペレットのそれよりも、標準偏差が大きいことから、ベルゴニュークリア社の方が、ばらつき度合いが大きく、精度がよくない傾向がある。高浜発電所四号機用MOX燃料ペレットの不良率は少なくとも一・二五パーセントであったことから、本件MOX燃料ペレットの不良率を一・〇パーセントと想定しても決して高くはない。不良率一・〇パーセントを前提として、上記の一般的な統計理論を当てはめると、全てのブレンダーが合格する確率は、統計的な常識からはあり得ない数値となる。
 また、本件MOX燃料ペレットの抜取検査は、上記(4)イbのとおり、AQL(合格品質水準)が〇・一五パーセントに相当するとされているが、AQLは設備能力と経済性との兼ね合いから決まるものなので、実際の不良率はAQLよりもずっと小さいということはあり得ないこと、柏崎刈羽発電所三号機用MOX燃料ペレットにつき不合格が出ていることなどから、本件MOX燃料ペレットの不良率をAQLと同等の〇・一五パーセントとみなすことは妥当である。AQLである〇・一五パーセントを前提としても、上記の一般的な統計理論を当てはめると、不合格確率は約四・八パーセントとなって、BNFL社製の高浜発電所四号機用MOX燃料ペレットのAQL一パーセントに対応する不合格確率約一・二パーセントの四倍にも達することになる。
  b しかしながら、小山らの上記推論は、ベルゴニュークリア社の不良率を、BNFL社の不良率あるいはAQLと同等とみなすという条件を前提としたものであるが、その前提条件自体に十分な根拠が認められない。
 まず、BNFL社の不良率と同等であるとする点であるが、小山らは、本件MOX燃料ペレットの外径寸法データの方が、BNFL社製の高浜発電所四号機用MOX燃料ペレットのそれよりも、標準偏差が大きいことから、ベルゴニュークリア社の方が、ばらつき度合いが大きく、精度がよくない傾向があるという。
 しかしながら、抜取検査における不合格ペレットの発生割合は、単に標準偏差(ばらつき度合)のみによって左右されるものではなく、製造工程における許容公差の幅(仕様上限値と仕様下限値の幅)や製造平均値との関係等に左右される。そして、上記(4)アcのとおり、債務者の福島第一原子力発電所三号機がBWR型であるのに対し、関西電力の高浜発電所の原子炉はPWR型で型式を異にし、燃料全体の構造及び使用条件が異なるため、燃料ペレットの外径寸法仕様値(上下限値)はそれに即してそれぞれ異なった値に設定されている。関西電力用高浜発電所四号機用MOX燃料と本件MOX燃料の許容公差幅即ち、仕様上限値と下限値の幅を見れば前者が〇・〇二五ミリメートル(八・一七九〜八・二〇四ミリメートル)であるのに対し、後者は〇・〇四〇ミリメートル(一〇・三三〇〜一〇・三七〇ミリメートル)であるから本件MOX燃料に比較して、関西電力用高浜発電所四号機用MOX燃料の方が許容公差が小さいため、関西電力用高浜発電所四号機用MOX燃料においては、許容公差の範囲に適合しない不良ペレットの発生割合がより大きくなるであろうことは容易に推定される。
 また、ペレット外径寸法データの平均値が許容公差内のいかなる位置にあるかによって、不合格ペレット発生の割合が左右される(例えば、許容公差の中央に位置する場合と限界値に近接して位置する場合とを対比すれば後者の方が不合格ペレット発生率が高くなる。)これを本件MOX燃料と関西電力用高浜発電所四号機用MOX燃料との対比においてみれば、本件MOX燃料ペレットの外径寸法平均値は一〇・三五一ミリメートルと許容公差のほぼ中央に位置するのに対し、関西電力用高浜発電所四号機用MOX燃料のそれは八・一九五ミリメートルで(《証拠略》記載のデータから算出し得る。)、仕様上限値側に偏って位置する。この平均値と標準偏差との関係において不合格ペレット発生の程度を比較推算すると、上記のように平均値が偏って位置する関西電力用高浜発電所四号機用MOX燃料の場合には、本件MOX燃料と桁違いの頻度で不合格ペレットが発生することとなるともいえる。
 (なお、債権者らは、製造工程における全数データの平均値は、抜取検査データの平均値よりも小さく仕様範囲のほぼ中央にある旨主張するが、ここでの推論においては所与の数値としてベルゴニュークリア社とBNFL社との抜取検査データを比較分析しているに過ぎず、債権者らのかかる主張は上記の論争にとっては意味がない。)
 要するに、BNFL社及びベルゴニュークリア社における各抜取検査によって確認されたペレット外径寸法の標準偏差が同等である場合においても、許容公差幅が小さい場合、あるいは外径寸法の平均値が仕様上不限値に近い場合には、燃料ペレットの不良率が桁違いに異なることは十分に考えられる。
 したがって、本件MOX燃料ペレットの外径寸法データの方が、BNFL社製の高浜発電所四号機用MOX燃料ペレットのそれよりも、標準偏差が大きいことを根拠に、ベルゴニュークリア社の不良率をBNFL社の不良率と同等とみなすという、小山らの立論は採用できず、他に、ベルゴニュークリア社の不良率をBNFL社の不良率と同等とみなすに足る十分な根拠が認められない。
  c 次に、本件MOX燃料ペレットの不良率をAQLと同等とするとした点であるが、ベルゴニュークリア社において、AQLが〇・一五%と設定されていることの意味は、平均不良率の許容範囲の上限が画されているにすぎない。したがって、AQL〇・一五%とは、現実に〇・一五%の不合格ペレットが存在することを意味するものでなく、実際の品質管理においては不合格ペレットを限りなくゼロに近づける努力が払われていることは容易に推認できるところであり、小山らが、AQLと同等とするとした根拠は、いずれも十分な説得力を持つものではない。
  d また、債権者らは、上記aの一般的統計理論により、不合格となったブレンダーが0であったことから、不良率を推定すると、ベルゴニュークリア社不良率は、BNFL社のそれよりも、著しく小さくなければならず、ベルゴニュークリア社とBNFL社との製造能力、品質管理能力を比較した場合、そのようなことはあり得ないと主張する。
 しかしながら、BNFL社とベルゴニュークリア社の、標準偏差に代表される製造能力が同等である場合であっても、許容公差幅が小さい場合、あるいは外径寸法の平均値が仕様上下限値に近い場合には、燃料ペレットの不良率が桁違いに大きくなり得ることは、上記bで検討したとおりである。そして《証拠略》によれば、BNFL社とベルゴニュークリア社の抜取検査データの平均値及び標準偏差と仕様上下限値に基づいて、数学的手法で不良率を以下のとおり推定できることが認められる。
 上記アbのとおり、本件MOX燃料ペレットの製造に際しては、砥石の幅を調整する人為的プロセスが製造ラインに付加されたため、個別ロット(ないしブレンダー)各々については、必ずしも正規分布となるとは限らないものの、多数のブレンダー(ペレット全数)を対象にすれば、それぞれの研削の過程において砥石調整を受けているときのデータか否かは偶発的要因の一つとなるにすぎないから、全体がそれによって支配されることはなく、正規分布を適用することは、統計処理上妥当である。そこで、ベルゴニュークリア社の抜取検査におけるペレット外径寸法の標準偏差(〇・〇〇五mm)及び外径寸法の平均値(一〇・三五一mm)を本件MOX燃料ペレット全数にあてはめ、その分布が正規分布に従うと仮定した場合の分布状況によれば、仕様を外れるペレットの割合は約〇・〇一%程度と推定される。ところが、BNFL社について同様の方法で、仕様を外れるペレットの割合を推定すると、約一・七パーセントとなる。
 以上のとおりであるから、両者の間に、極端な製造能力の差がなくとも、不良率が桁違いに異なることは十分にあり得ることであり、不良率の差から両者の間に極端な製造能力の差がなければならないことを当然の前提とする債権者らの主張は、その前提を欠くものというべきであり、採用できない。
 (7) データの公開について
 ア 債権者らは、本件MOX燃料ペレット外径寸法の製造工程における全数データ及び品質管理の抜取検査データの公表を強く求め、債務者がこれを一般公開して、統計的手法により不正計測のないことを明らかにしない限り、不正計測の事実を推認すべきであると主張する。
 イ 製造工程における全数データについて
 《証拠略》によれば、ベルゴニュークリア社においては、本件MOX燃料ペレット製造時の外径の全数データは、平均値、標準偏差等の二次データも含めて保存していないことが認められる。
 上記(4)アbで検討したとおり、かかるデータは、製造会社の工程管理上の測定値にすぎず、それによって砥石の幅を調整し、研削をより仕様値に適合させる意味を有するとしても、品質管理データのように保存する義務のないものである。電気事業審議会基本政策部会に設置されたBNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会の報告書においても、「(BNFL社の)自動計測データは全数コンピュータ内に残されていたが、製造管理に使用するデータについては、下記の品質管理データとは異なり、これをどの程度の期間保持するかについては純粋に製造業者の社内システムの問題である。したがって、今回のBNFL社の自動計測データの場合には、発注者にとっては、たまたま残されていたということである。」と述べているところである。
 したがって、ベルゴニュークリア社において、かかるデータを保存していないことについて、特段非難されるべきではない。
 ウ 品質管理の抜取検査データについて
  a 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。
 ベルゴニュークリア社は、品質管理の抜取検査データは同社の企業秘密に属し、これを公開することにより競争上の地位が害されるおそれがあるとして、同社の現地工場から一切どこにも持ち出すことができないとの立場を取り、上記データの一般公開を拒絶している。もっとも、契約関係者である債務者や東芝あるいは規制当局である通商産業省に対しては、工場内でデータを見せることは可能であるとする。債務者は、平成一一年一二月一六日通商産業省からの再度の本件MOX燃料の品質管理状況の確認を行うようにとの指示を受け、ベルゴニュークリア社の現地工場において、本件MOX燃料の品質記録の再確認作業を行った際には、東芝と共に、品質管理の抜取検査データの開示を受け、開示されたデータにより、コンピューター検索により元データにコピー&ペーストのような不自然なデータの繰り返しがないことの確認等を行った。また、第三者機関であるAVIも、データの再確認作業を行った(上記(1)オのとおり)。
 債務者は、元請企業である東芝の契約上の地位を引き継いだ日本ニユクリア・フユエル社を通じて、平成一二年一月一九日、ベルゴニュークリア社に対し、品質管理の抜取検査データの一般公開を求めたが、同社は上記のとおりの立場から、これを拒絶した。しかし、折衝の結果、外径寸法データの全体及び各ロット毎のデータ数、平均値、最大・最小値、標準偏差、四ミクロン区分とした測定値の分布を示したヒストグラムを公開することについては、ベルゴニュークリア社の了解が得られ、債務者作成の平成一二年二月付け「福島第一原子力発電所三号機並びに柏崎刈羽原子力発電所三号機用MOX燃料に関する品質管理状況の再確認結果について」と題する報告に上記のデータが登載され、公表された。
  b なお、債権者らは、本件MOX燃料ペレット外径寸法の抜取データに係る一般公開の範囲が四ミクロン単位のヒストグラムとされたことについて、ベルゴニュークリア社の意向ではなく、債務者の意向によるものであるとして、それに沿うル・モンド紙の記事を提出し、債務者自身がデータの操作を隠蔽しようとしていたことが明らかになったと主張する。
 しかしながら、右記事の取材の方法は、記事内容から、ベルゴニュークリア社の担当部長に対する電話によるインタビューであることが認められ、そのような取材方法の不確かさや当該部長が上記の記事内容を否定していることによれば、上記の新聞記事の内容の正確さにははなはだ疑問があり、採用できない。
  c 原子力の安全性の確保は多数の公衆の生命身体の安全性にかかわるものであるから、原子力発電所で使用される原子燃料の品質が問題とされたような場合には、可能な限り具体的なデータを明らかにして各方面における検証を可能とするように努めることが原子力分野で事業を実施する企業の責務というべきであり、平成一二年一一月一日付け「日本原子力学会倫理規定(案)」の行動指針においても、「原子力の安全に係る情報は積極的に社会に公開しなければならない。会員は、その情報がたとえ自分自身の所属する組織に不利な情報であっても、決して隠してはならない。」と謳われているところである。ベルゴニュークリア社は、aで認定のとおり、本件抜取検査データを企業秘密に属するとしてその一般公開を拒絶しているのであるが、ペレット外径寸法の検査データが重大な製造ノウハウにかかわるものとはおよそ考えがたく、現に競争相手企業であるBNFL社がこれらのデータを一般公開していることに鑑みれば、ベルゴニュークリア社の上記のような姿勢は非難されてもやむを得ないものがある。また、債務者においては、上記aで認定のとおり、平成一二年二月付け報告書を作成する過程において、ベルゴニュークリア社と本件抜取検査データを一般公開すべく折衝した経緯は認められるものの、債権者らが、上記のような原子力の安全に係る情報の公開が極めて重要であるとの見地から、本件仮処分手続において、本件抜取検査データの公開を訴えたにもかかわらず、発注者の立場で、ベルゴニュークリア社に対し、重ねて特段の要請を行い、同社の頑なな対応に翻意を促し、本件抜取検査データを公開させるべく努めた形跡が窺えないことは、原子力発電所という潜在的に危険な施設を設置稼働する立場にある者として、必ずしも充分な対応とはいい難い。
 しかし、本件仮処分手続における当事者双方の立証の問題として考察すると、債務者が、上記bで認定のとおり、債務者自身が抜取検査データの開示を妨害したような疑いは認められないこと、債権者らが本件仮処分手続において本件抜取検査データが立証上必要であるとする理由は、製造工程における全数データが存在せず、これと抜取検査データとの分布状況の比較という統計手法が採れない以上、上記(6)アで検討した分析を二次予測の手法によらず、現実のデータの分布でもって正規分布と比較するために必要であるということに尽きるのであり、正規分布と比較することによってデータの異常が判明するという前提自体が採用できないことは、上記(6)アbで判断のとおりであるから、立証の上で絶対不可欠の証拠とも言い難いこと、以上の諸点からすれば、債権者らが主張するように、債務者が本件仮処分手続にデータを提出して、統計的手法により不正計測のないことを明らかにしない限り、不正計測の事実を推認するなどという心証形成の方法を採れないことは明らかである。
 (8) 結論
 ア 上記(1)で認定したところを概括すると、債務者は、元請企業である東芝と共に、本件MOX燃料の製造にあたり、ベルゴニュークリア社の工場監査・調査を実施し、その品質保証体制、特に品質管理部門が独立していることを確認し、製造確認試験を行って、仕様を満足するMOX燃料を製造できることを確認し、さらに、本件MOX燃料の製造期間中には、加工工程毎に品質を確認するための立会検査を実施し、各検査項目毎に仕様を満足することを確認した(上記(1)ア、イ、ウ)。特に、上記立会検査においては、ベルゴニュークリア社が外径寸法の抜取検査を実施した二八五二個のペレット全部の中から任意に指定された四四八個の全てについて、仕様値に適合することが確認されている。その後、BNFL製MOX燃料データの不正問題が起こり、債務者は、二度にわたる通商産業省の指示を受け、東芝と共に、MOX燃料品質管理データの信頼性の再確認作業を行った。再確認作業において、一般的な品質保証体制の十分であることが詳細に再確認された他、特に、MOX燃料ペレットの外径寸法の抜取検査データについては、データのセキュリティ管理が万全であること、コンピューター解析によりBNFL社において行われたようなデータの複製による不正行為のないことなどを確認した。この再確認作業にあたっては、債務者は、MOX燃料につき豊富な技術的知見を有するコジェマ社の協力を得て行った上、国際的に信用の高い認証機関であるAVIによる立会確認を得た(上記(1)エ、オ)。通商産業省においても、ベルギーへ原子力専門家を派遣して、ベルゴニユークリア社やAVIにおいて、債務者の上記の再確認作業を検証し、同旨の結論に達した(上記(1)カ)。通商産業省は、BNFL社製MOX燃料データの不正問題の反省を踏まえて改正された電気事業法施行規則、通達の趣旨に則り、債務者に資料等の提出を求めた上審査し、平成一二年八月一〇日、本件MOX燃料に係る輸入燃料体検査を合格とした(上記(1)キ、ク)。
 以上のとおり、債務者は、ベルゴニュークリア社の品質保証体制について懇切な確認を行っており、特にBNFL社製MOX燃料データの不正問題が起こってからは、特に、MOX燃料ペレットの外径寸法の抜取検査データ信頼性の再確認に意を用い、第三者機関の立会確認も得て慎重に検討した結果、特段不正操作を疑う事情がないことを確認したものである。何よりも、立会検査において、抜取検査の対象である全てのペレットの中から任意に指定された四四八個の全てについて仕様値に適合することが確認されたという厳然たる事実は、ベルゴニュークリア社の抜取検査データの信頼性を充分に推認させるものである。
 イ 債権者らは、BNFL社製MOX燃料データ不正問題が起こったことから、ベルゴニュークリア社においても同様のデータの不正操作が行われたのではないかとの強い疑念の下に本件仮処分を申請したものであることは記録上明らかであるが、上記(2)で検討したとおり、BNFL社においては、組織上品質管理部門の独立性が不十分であり、品質管理データのセキュリティに対する配慮に欠け、品質管理教育も不足しているなど、品質保証体制に組織的、構造的な欠陥があったと言わざるを得ないところであるが、上記(3)、(4)で検討したとおり、ベルゴニュークリア社においては、BNFL社の問題点として指摘された諸点について十分な対応が取られ、その品質保証体制に特段の問題が認められないのであるから、BNFL社において不正があったことから、ベルゴニュークリア社の製造した本件MOX燃料に不正の疑いを投げかけることはできない。
 債権者らは、ベルゴニュークリア社にも不正操作を行わざるを得ないBNFL社と共通の基盤があるなどと主張するが、その具体的に指摘する点は、ベルゴニュークリア社の不正操作を疑わしめる根拠とはならないことは、上記(5)で説示したとおりである。
 ウ また、債権者らが、不正操作を強く示唆するとする証拠についても、本件抜取検査データの分析については、各ロット毎の抜取検査データを正規分布と比較することにより異常が判明するという前提自体が誤りであり(上記(6)ア)、不合格となったブレンダーが0であることの異常を指摘する点は、ベルゴニュークリア社の製品不良率をBNFL社の製品不良率あるいはAQLと同等とみなすという前提に十分な根拠がない(上記(6)イ)のであるから、いずれも採用できない。
 本件において、債務者が本件抜取検査データを証拠として提出できないことから、不正計測の事実を推認するなどという心証形成の方法を採り得ないことも上記(7)で説示のとおりである。
 エ 以上検討した結果によれば、本件MOX燃料ペレットの外径寸法に係る抜取検査に不正操作があったとは認めることができない。
三 以上のとおり、上記第二、三(3)イの争点について検討するまでもなく、債権者らの本件MOX燃料が安全性に欠けるとする主張は理由がないというべきであるから、本件各申請を却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 生島弘康 裁判官 高橋光雄 久保孝二)