児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・強姦・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(強姦罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例違反)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

裁判員裁判の原判決後の示談を考慮して減軽された事案(東京高裁H22.5.26)

 397条2項で破棄されたようです。量刑不当の破棄はたいてい2項で、1項破棄は希です。
 刑期が1年短縮されて、未決の法定通算(4ヶ月弱)もあります。

第397条〔原判決破棄の判決〕
1 第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由があるときは、判決で原判決を破棄しなければならない。
2 第三百九十三条第二項の規定による取調の結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。

 刑事訴訟も一審中心で、こういう条文があるので、原審で出せた証拠は出せなくなります。示談を引き延ばす事なんてありません。
 非裁判員事件だと、原審の終わりあたりで示談できるかできないかというときは、裁判所は判決期日を延ばしたりして結果を待ってくれることがあるんですが、裁判員事件では、それをやらないので、控訴審で立証させてもらわないと、無駄になります。

第381条〔同前−量刑不当〕
刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて刑の量定が不当であることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
第382条の2〔同前−量刑不当・事実誤認に関する特則〕
やむを得ない事由によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠によつて証明することのできる事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であつても、控訴趣意書にこれを援用することができる。
?第一審の弁論終結後判決前に生じた事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものについても、前項と同様である。
?前二項の場合には、控訴趣意書に、その事実を疎明する資料を添附しなければならない。第一項の場合には、やむを得ない事由によつてその証拠の取調を請求することができなかつた旨を疎明する資料をも添附しなければならない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100526-00000568-yom-soci
中山隆夫裁判長は、「1審判決直後に被害女性の1人と示談が成立しており、被告に有利な事情として判断するのが相当」と述べ、1審判決を破棄して懲役12年を言い渡した。高裁が裁判員裁判の1審判決を破棄したのは初めて。
 被告は1審判決後、静岡県内で起こした強姦事件の被害者1人に180万円を支払うことで示談が成立。弁護側は控訴審で、示談成立などを理由に1審判決は刑が重すぎると主張していた。
 この日の判決は、「女性の人格を無視した犯行を繰り返し、被害者の苦痛は甚大」として懲役13年とした1審判決について、「言い渡しの時点では相当で、重すぎるとは言えない」と指摘。「裁判員制度は量刑に国民の健全な社会常識を反映させることが目的で、(示談などの)情状面の証拠も原則として1審で評価を受けるべきだ」とも述べたが、今回のケースについては「被害者と弁護人の交渉過程を見れば、示談の成立を引き延ばすなど作為的なものは全くうかがえず、成立が判決後になったのはやむを得なかった」とし、「1審判決時に示談が成立していれば、より短い刑が言い渡されていたと考えられ、1審判決の量刑は現時点では重すぎる」と結論づけた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100526-00000542-san-soci
中山裁判長は「1審の量刑判断は事実に基づき適切に評価しており、不当なところはない」と1審の正当性を指摘。その一方で、1審判決後、被害者女性と示談が成立したことについて「裁判員裁判の1審中心主義からすれば、示談を直ちに有利な事情と考えるわけにはいかないが、1審判決時点で示談が存在していれば、より短期の懲役刑が言い渡されていたと考えられる」として減刑した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100526-00000034-mai-soci
控訴審で弁護側は「1審の量刑が重すぎる」と主張した。これに対し、中山裁判長は「言い渡し時点では重すぎて不当であるとは言えない」と指摘。さらに「1審判決後の示談成立を被告の有利な事情と取り扱うのは裁判員制度の趣旨にもとる」と述べた。一方で、交渉経過を踏まえ、示談成立が1審判決後になったことはやむを得ないと判断。「判決前に示談が成立していれば、より短い刑になったと考えられる」と結論付けた。

石井一正「刑事控訴審の理論と実務」P443
裁判員裁判の導入に伴って原判決後の情状による破棄(法397条2項いわゆる2項破棄)の解釈・運用にも変容が必要か否かも実務上大きな影響を持つ問題である。前に述べたように,現在の控訴審の運用においては,事実の取調べとして原判決後の情状の取調べがかなり多用されているし,破棄理由の中で2項破棄の占める割合は高い。
 裁判員裁判の対象事件とりわけ殺人未遂や危険運転致死の罪などにおいて,控訴審で被害者に対する示談・弁償がなされ,あるいはこれに伴って被害感情が宥和し,被告人に有利なこれらの情状を立証することによって,原判決の量刑を減軽する弁護活動が行われるであろうことは,十分予測できる。
 現在の2項破棄の運用については,前に述べたとおりである(361頁参照)。そこで指摘したように,現在の運用が法文から離れてゆるやかにすぎないかという批判はあり得るところであるが,一方で,この規定が弁護士層の強い要望により制定されたものであり,原判決後の情状の立証が現実にも控訴審における重要な弁護活動になっている事情を考慮すると,2項破棄に関しては,多少ゆるやかな運用が許されるという見方もあろう。そして,現在では,この見方にそれほどの抵抗はないといえるであろう。もっとも,裁判員裁判の導入等により,現状でよいかは,これまた大きな問題である。
 ところで,司法研究ほか前掲の諸論稿は,裁判員裁判の導入に伴って2項破棄の解釈・運用にも変容が必要であると説いている。裁判員裁判における量刑判断の尊重あるいは当事者は量刑事情も第一審で立証すべきものであるなどという点からいえば,量刑不当の審査と同列ではないかとするのである。この見解によれば,2項破棄も従来より厳格に運用されるべきことになる。これに対し裁判員裁判が導入されても2項破棄の解釈・運用に大きな変更をもたらさないとの見解もあることが指摘されている。
 この問題も困難な問題であり,今後の議論が期待されるが,2項破棄はもともと事後審の例外であり,また原判決後の情状によって原判決を破棄することは裁判員裁判の址刑判断を尊重しなかったことには当たらないとすると,この部分の解釈・運用には大きな変容はないとする見解が相当であろうか。量刑不当による破棄が少ない現状を視野に入れると,この部分の多少ゆるやかな運用は量刑政策全体として落ち着きが良いとも思われるのである。