児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

日米英における児童ポルノの定義規定(調査と情報681号)は訂正してもらいます。

 京都地裁H12.7.17は1審で確定してるので、判例とは言えないんですが、この論稿だと、「上記最高裁判所判決は、具体的な判断基準を示していないが、上記事案の第1審判決13が、以下の判断基準を判示している。」というのであたかも大阪高裁・最高裁も追認しているような誤解を招きます。そんな高裁判決も最高裁もありません。
 京都地裁の事件は個人売買の写真集の事件で、最高裁判決の事件はアダルトビデオ屋の事件でした。そんなこと上級審判決の冒頭にある原判決の表示を見ればすぐわかるのに。判決書に当たってないとこうなります。
 この基準を権威づけるために、故意にやったのかもしれません。

 国会図書館に連絡したら、訂正するそうです。まさに、国権の最高機関の調査能力を示しています。最近の国会での児童ポルノ・児童買春改正議論でもなぜか京都地裁判決が取り上げられてましたが、この「調査と情報」が影響を与えている可能性があります。

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/pdf/0681.pdf
日米英における児童ポルノの定義規定(調査と情報681号)
国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 681 (2010. 6. 8.)
判例の立場
(2)「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の判断基準
判例の立場
(1)規制法の憲法適合性
被告人が販売目的で児童ポルノに該当するビデオテープを所持していたとして第1 審で有罪、控訴棄却の上で上告された事案について、最高裁判所は、まず、原判決が認定するような児童ポルノであるビデオテープに対して、規制法第7 条第2 項を適用して処罰することが「憲法21 条、13 条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和57 年(行ツ)第156 号同59 年12 月12 日判決・民集38 巻12 号1308 頁、昭和57年(あ)第621 号同60 年10 月23 日判決・刑集39 巻6 号413 頁)11の趣旨に徴して明らか」と判示している。その上で、規制法第2 条第3 項第2 号および第3 号にいう「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の文言について、「一般の通常人が具体的場合に当該行為がその適用を受けるかどうかを判断することが可能な基準を示しているということができ、不明確であるとはいえない」と判示し、憲法第21 条および第31 条に違反するという主張を退けている12。
(2)「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の判断基準
上記最高裁判所判決は、具体的な判断基準を示していないが、上記事案の第1審判決13が、以下の判断基準を判示している。

・・・衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真または映像に児童ポルノ法二条二項にいう「性器等」、すなわち、性器、肛門、乳首が描写されているか否か、児童の裸体等の描写が当該写真またはビデオテープ等の全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に加え、児童の裸体等の描写叙述方法(具体的には、?性器等の描写について、これらを大きく描写したり、長時間描写しているか、?着衣の一部をめくって性器等を描写するなどして性器等を強調していないか、?児童のとっているポーズや動作等に扇情的な要素がないか、?児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性があるか等)をも検討し、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを一般通常人を基準として判断すべきである。そして、当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがあるというべきである。


11 原告が輸入しようとした書籍等が関税定率法所定の輸入禁制品(風俗を害すべき書籍等)に該当する旨の税関長の通知等について争われた昭和59 年12 月12 日最高裁判所大法廷判決、および青少年に対する淫行等を禁じた福岡県青少年保護育成条例について争われた昭和60 年10 月23 日最高裁判所大法廷判決を指す。
12 平成14 年6 月17 日最高裁判所判決(『最高裁判所裁判集 刑事』第281 号, 平成14 年1-7 月分, pp.577-578.)
13 平成12 年7 月17 日京都地方裁判所判決(『判例タイムズ』1064 号, 2001.9.15, pp.249-254.)。 なお、この判決の引用部分は、森山ほか編著 前掲注(2), pp.178-180.でも紹介されている。


追記
 人知れず訂正されています。

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/pdf/0681.pdf
(2)「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の判断基準
地方裁判所レベルであるが、以下のような判断基準を示した裁判例がある13。
・・・衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真または映像に児童ポルノ法二条二項にいう「性器等」、すなわち、性器、肛門、乳首が描写されているか否か、児童の裸体等の描写が当該写真またはビデオテープ等の全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に加え、児童の裸体等の描写叙述方法(具体的には、①性器等の描写について、これらを大きく描写したり、長時間描写しているか、②着衣の一部をめくって性器等を描写するなどして性器等を強調していないか、③児童のとっているポーズや動作等に扇情的な要素がないか、④児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性があるか等)をも検討し、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを一般通常人を基準として判断すべきである。そして、当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがあるというべきである。

13
平成 12 年7 月17 日京都地方裁判所判決(確定)(『判例タイムズ』1064 号, 2001.9.15, pp.249-254.)。なお、この判決の引用部分は、森山ほか編著 前掲注(2), pp.178-180.でも紹介されている