児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

携帯電話で撮影→送信メールサーバ→受信メールサーバという構成の3項製造罪(姿態とらせて製造)について、そういうミクロ的観察は失当である。 端的に、受信メールサーバのみの製造罪を論じれば足りる。(大阪地裁H19.7.5)


 弁護人の主張。

 公訴事実は「受信メールサーバのみを製造した」と記載されている。

公訴事実
被告人所有に係る携帯電話機内蔵のカメラを使用して姿態を撮影記録し,同撮影に係る画を,電子メールで送信し,上記画像データを被告人が登録したlDとパスワードにより独占的に使用することのできるいわゆるメールボックスと呼ばれるメールサーバーコンピュータの記憶装置であるハードディスク内の被告人に割り当てられた領域に記憶,蔵置させ,もって,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することが出来る方法により描写した児童ポルノである電磁的記録媒体を製造したものである。

 しかし、常識で考えれば、
  被害児童の姿態
  ↓ ①
  携帯電話
  ↓ ②
  携帯電話会社の送信メールサーバ
  ↓ ③
  受信メールサーバ
という3回の製造過程があって、
  携帯電話
  携帯電話会社の送信メールサーバ
  受信メールサーバ
の3個が児童ポルノと化したと思われるが(各製造罪は包括一罪)、その各過程に「姿態をとらせて」など3項製造罪(姿態とらせて製造)の要件を具備しなければならないのであるから、そのように記載しなければならない。
 このような中間省略記載は、
  被害児童の姿態
  ↓ ①
  携帯電話
  ↓ ②
  携帯電話会社の送信メールサーバ
  ↓ ③
  受信メールサーバ
という製造過程において途中で技術的支障が生じた場合に少なくとも被害児童の携帯電話という児童ポルノが製造されているのに製造罪が未遂となったり、犯人が自発的に途中でやめたときに中止未遂となることになり、法益保護に欠ける。東京高裁h15.6.4*1大阪高裁H14.9.10*2も同旨である。

 さらに、最近の裁判例では「姿態をとらせて」は実行行為であるから(東京高裁H17.12.26*3、札幌高裁H19.3.8*4)、ダビングの際にも「姿態をとらせて」が満たされなければならない。携帯電話→サーバの複製過程には「姿態をとらせて」がない。

 判例タイムズの解説でも、「従来はこのような行為の理解が曖昧なまま刑事手続が進められる例も散見されたように思われる。」として注意喚起されているところですが、大阪地裁はそれには従わないようです。

わいせつ図画販売、同販売目的所持、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】平成17年(あ)第1342号
【判決日付】平成18年2月20日
【出  典】判例タイムズ1206号93頁
。このように,児童ポルノの製造においては,「撮影して写真を製造する」といった,社会通念的にはーつの固まりと見られそうな行為であっても,その過程で児童ポルノに当たる物が順次製造されるごとに製造行為が観念でき,当初から意図されていた物(上記例では,焼き付けられた写真)が製造されるまでに複数の製造行為が連なっていると理解されることが少なくないことに注意すべきであると思われる(このように複数が連なっている製造のそれぞれを,以下では便宜,第1次製造,第2次製造,第3次製造などという。もっとも,同一の者が犯意を継続してこれらの行為を行ったような場合にはその全体が包括一罪となると考えられるが,そのような場合には,必ずしも常に個々の行為を各別に特定して訴追しなければならないわけではないといえよう。この点については,近時の最一小決平17.10.12刑集59巻8号1425頁,判タ1197号145頁等を参照されたい。従来はこのような行為の理解が曖昧なまま刑事手続が進められる例も散見されたように思われる。)。そこで,本件においても,画像データをメモリースティックに記憶させた行為のみならずそれをハードディスクにコピーした本件行為も,「児童ポルノの製造」自体には当たるといえそうに思われるものの,ハードディスクの製造行為の際には「児童に姿態をとらせ」てはいないことから,このような場合には本罪は成立しないとの主張がされたものである。