児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

バックアップも販売目的・一部他人のデータがあっても没収可能(最高裁H18.5.16)

 普通郵便で届きました。>>最高裁殿
原判決と併せて読んでもらえば意味がわかります。

 最高裁児童ポルノはあと3件滞留中

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=33026&hanreiKbn=01
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060519093340.pdf
最高裁H18.5.16
弁護人奥村徹の上告趣意のうち,憲法違反をいう点は,没収に係る光磁気ディスクが犯人以外の者に属するとは認められないから,前提を欠き,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認,原判決後の刑の廃止の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,光磁気ディスクの製造,所持に係る罪の成否について,職権で判断する。

1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,上記罪の成否に係る事実関係は,次のとおりである。
(1) 被告人は,自らデジタルカメラで撮影した児童の姿態に係る画像データをパーソナルコンピュータ上のハードディスクに記憶,蔵置させ,さらに,そこに保存された画像データを光磁気ディスクに記憶,蔵置させ,これを所持していた。当該画像データが記憶,蔵置された光磁気ディスク(以下「本件光磁気ディスク」という。)は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成16年法律第106号による改正前のもの。以下「法」という。)2条3項の児童ポルノであり,かつ,刑法175条が定めるわいせつ物であった。
(2) 被告人が本件光磁気ディスクを製造し,所持していた目的についてみると,被告人は,パーソナルコンピュータ上のハードディスクに保存された上記画像データについて,画像上の児童の目の部分にぼかしを入れ,ファイルのサイズを縮小する加工を施した上,そのデータをハードディスクに記憶,蔵置させ,そこに保存されるデータをコンパクトディスクにそのまま記憶させ,これを販売する目的であったところ,本件光磁気ディスクは,このハードディスクに保存される上記加工後のデータが何らかの事情で破壊されるなどして販売用のコンパクトディスクが作成できなくなる事態に備えて,上記加工前のデータを保存しておくバックアップのためのものであった。
2 このように,被告人は,本件光磁気ディスク自体を販売する目的はなかったけれども,これをハードディスクの代替物として製造し,所持していたものであり,必要が生じた場合には,本件光磁気ディスクに保存された画像データを使用し,これをコンパクトディスクに記憶させて販売用のコンパクトディスクを作成し,これを販売する意思であったものである。その際,画像上の児童の目の部分にぼかしを入れ,ファイルのサイズを縮小する加工を施すものの,その余はそのまま販売用のコンパクトディスクに記憶させる意思であった。そうすると,本件光磁気ディスクの製造,所持は,法7条2項にいう「前項に掲げる行為の目的」のうちの児童ポルノを販売する目的で行われたものであり,その所持は,刑法175条後段にいう「販売の目的」で行われたものということができる。上記各目的を肯認した原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官堀籠幸男
裁判官濱田邦夫
裁判官上田豊
裁判官藤田宙靖)

 これでMAC判決確定。

一審判決
2 弁護人は,本件における光磁気ディスクを単にバックアップ用として所持していたものであり,これ自体被告人に販売する目的がなかった旨を主張する。
しかしながら,前掲各証拠によれば,被告人が本件の光磁気ディスクを単にバックアップ用のみとして所持したものではなく,場合によっては販売する意思をも有していたことが認められるのであり,仮に,直接の販売の対象ではなく,単にバックアップ用として利用する意思しか有しないとしても,光磁気ディスクから複写物が生み出され,社会一般に流布される危険性は極めて高いものであって,これを販売の目的から除外する理由はなく,弁護人の上記主張は採用できない。

東京高裁平成15年6月4日
1 本件MOに関する法令適用の誤りについて
所論は,①本件MOはMacフォーマットで記憶されており,Macは稀な機種であるから,一般人は本件画像を閲覧できず,視覚で認識できないから「児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの」とはいえず,児童ポルノに当たらない(控訴理由第7),②「製造」とは,撮影,編集等により新たに児童ポルノを作り出すことをいうところ,電子データも児童ポルノであり,MOに蔵置されたデータは,撮影されてコンパクトフラッシュカードにいったん蔵置されたデータを,ハードディスクを経由して無編集でコピーしたものであるから,MOの作成は不可罰的事後行為ないし所持罪を構成するものにすぎず,製造罪(法7条2項)には当たらない(控訴理由第9),③MOはバックアップ用であり,その製造・所持には販売目的がない(控訴理申第10),という。
まず,①の点については,いわゆるマッキントッシュのパーソナルコンピュータは我が国においても広く普及していることは公知の事実であり,それらの機器を使用すれば視認は容易であるし,本件MOの画像データは汎用性の高い形式のファイルで保存されているから,他のパソコンに転送して表示させることも容易であり,「視覚により認識することができる方法により描写したもの」(法2条3項各号)に当たるものと認められる。②の点は,全く同一のデータを異なる媒体にコピーした場合であっても,その媒体は新たな取引の客体となり得るのであって,「製造」というを妨げない。デジタルカメラで撮影し,コンパクトフラッシュカードにその映像を蔵置した行為も当然製造に当たるところ,犯意を継続させてMOにそのデータを転送すれば,両者が包括一罪として評価されることになるが,そうであるとしても,後のMOの作成行為が不可罰となるわけではない。③の点も,本件MOがバックアップ用であるとしても,被告人は,必要が生じた場合には,そのデータを使用して,販売用のCDRを作成する意思を有していたのであり,電磁的ファイルの特質に照らすと,児童ポルノの画像データのファイルが蔵置されている媒体を所持することにより,容易にそのファイルをそのままの性質で他の媒体に複製して販売することができるから,法益侵害の実質的危険性は直接的で,かつ切迫したものといえる。もっとも,本件において,実際には,元のファイルをそのまま複製するのではなく,目をぼかす,サイズを縮小するなどの加工を経た画像ファイルを記録した媒体を販売に供しているが,ファイルサイズの縮小は,機械的に処理できるものであり,目のぼかしも容易な加工であり,児童ポルノと評価される部分は,ほぼそのまま複写されることになるから,MOのファイルは,相当な加工の過程を経て商品となる原材料のような性質のものではなく,販売用の児童ポルノと同質のものであり,MO自体は販売目的を有しなくても,販売目的の所持ということができるものと解すべきである。とりわけ,このことは,製造罪についてみれば明らかである。すなわち,児童の心身に有害な影響を直接与える行為は,児童ポルノの撮影行為であろうが,それによって得られるフイルムや画像ファイルなどの生のデータをそのまま販売するのではなく,これに加工を施した上で販売する意思であれば,撮影をしただけでは販売目的の製造は既遂とならず,販売用の加工を施して商品として完成させなければ製造罪には当たらないということになり,法の趣旨を損なう結果となる。したがって,ここでいう販売の目的には,後にそれに同質性を損なわない程度の加工を施した上で販売する目的を有するような場合も含むものと解するのが正当であり,所持罪についても同様に解される。
以上のとおりであるから,論旨はいずれも理由がない。

追記
最高裁WEBに載りましたので、省略部分を含めて全文紹介します。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=33026&hanreiKbn=01
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060519093340.pdf
販売用のコンパクトディスクを作成するためパーソナルコンピュータ上のハードディスクに保存される画像データのバックアップのため,児童ポルノであり,かつ,わいせつ物である光磁気ディスクを製造,所持した行為について,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成16年法律第106号による改正前のもの)7条2項の児童ポルノを販売する目的及び刑法175条後段にいう「販売の目的」があるとされた事例