児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

マスターテープについて販売・提供目的を認めて逮捕した事例(富山県警)

 大阪高裁H18.10.21(確定)で、わいせつ・児童ポルノについて、所定の目的が認められています。

http://www2.knb.ne.jp/news/20070201_10141.htm
わいせつ図画販売目的で名古屋の男逮捕
 販売する目的でわいせつな動画が保存されたDVDレコーダーを持っていたとして、県警と富山中央警察署は、1日までに、名古屋市の28歳の男を逮捕しました。
 男は複製したDVDをインターネットで販売していました。

阪高裁H18.10.20
第5「控訴理由第5」の法令適用の誤りについて
所論は,要するに,有体物を販売する場合は,写真集やハードディスクドライブという媒体ごとに流通するのであるから,流通する単位で犯罪の成否を決するべきであるところ,原判示3の複製途中の(未完成の)外付けハードディスクドライブ2台は,いまだ流通する単位となっていないから,児童ポルノ提供目的所持ないしわいせつ図画販売目的所持の客体になり得ず,また,被告人には未完成品を売るという意思はないから,提供ないし販売目的が欠けており,そのような行為を処罰することは,表現の自由として保障されてきたわいせつ物の製造行為を不当に規制することから憲法21条に違反している,というのである。
しかし,本件の複製途中のハードディスクドライブは,未完成ではあるが,それ自体,わいせつ図画に該当する1個の有体物であり,これがわいせつ図画の販売目的所持の客体になり得ないというのは根拠のない主張というほかない。所論は,媒体は同一でも追加で記録されたファイルについては別罪を構成する旨の裁判例がある旨主張しているが,所論が指摘する裁判例児童ポルノの製造罪について述べたものであって,所論を根拠付けるものではない。
次に,提供ないし販売目的がないという点について,被告人の意思は,複製が完了し,内容をチェックした上,提供ないし販売するというものであったところ,そのような意思であっても提供ないし販売目的に該当することは,最高裁判所平成18年5月16日決定(ハードディスクの代替物として製造,所持していた児童ポルノであり,かつ,わいせつ物である光磁気ディスクについて,必要が生じた場合にそこに保存された画像データを使用し,これをコンパクトディスクに記憶させて販売用のコンパクトディスクを作成し,これを販売する意思であった場合に,光磁気ディスクの製造,所持について児童ポルノの提供目的ないしわいせつ物の販売目的がある旨を判示したもの)等に照らしても明らかであるから,所論は採用できない。

第6「控訴理由第6」の法令適用の誤りの主張こついて
所論は,要するに,原判示3の内蔵ハードディスクドライブについて,被告人には当該内蔵ハードディスクドライブ自体を販売する目的はなく,複製した外付けハードディスクドライブを販売する目的しかなかったのであるから,このような場合には,内蔵ハードディスクドライブについて販売目的があったとはいえない,というのである。
しかし,この点については,上記最高裁判所決定が判示するところであり,原判決の説示は相当である。なお,所論は,上記最高裁判所決定は,将来複製して販売する目的があった場合について述べたものであり,本件のように複製途中の場合は,所持ではなく製造と評価されるかどうかが問題になるのであるから別論である旨主張しているが,複製途中の場合に製造に該当することがあるとしても,そのこと故に所持が成立しないことになるわけではない(この点に関する原判決の説示は誤っている。)のであり,将来複製元を複製して販売する目的があった場合において,複製元の所持について販売目的があったとする上記最高裁判所決定からすれば,現実に複製を行い始めた場合において,複製元の内蔵ハードディスクドライブの所持について販売目的があったといえることは,なおのこと明らかである。

(ここで,原判決が,原判示3の外付けハードディスクドライブ2台について,児童ポルノ提供目的所持の成立を否定した点について触れておくと,児童ポルノを製造する行為について,複製元の内蔵ハードディスクドライブから複製先の外付けハードディスクドライブに複製途中の場合であっても,当該外付けハードディスクドライブが児童ポルノに該当し,提供目的も認められる以上,検察官が,製造ではなく所持として起訴することに何ら問題はないというべきである。製造を起訴するとすれば,製造の開始から終了までの行為を公訴事実に挙げなければならないのに対し,所持を起訴するとすれば(まさに本件公訴事実のように)一時点の行為を公訴事実に挙げればよいのであるから,立証の便宜を考慮するなどして所持で起訴することは,検察官の合理的な訴追裁量の範囲内であって,所持と製造が別罪を構成するかどうかの問題とはもとより無関係である。「所持と製造が別罪を構成しない」というのは,両罪がともに成立することはないという意味であるから,原判決には誤解があるといわざるを得ない。)


一審判決が無罪にしたのを有罪にできると言っていて不快ですね。