児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ公然陳列罪の実行の着手時期・間接正犯の可否

 被告人が開設した画像掲示板に、他人が児童ポルノを投稿した場合ですが、投稿がないかぎり、児童ポルノ公然陳列罪は完成しないから、共犯(幇助)か間接正犯しかない。
 間接正犯だとすると被利用者を道具として支配していないとだめなんですが、果たして、掲示板管理者は投稿者を支配しているといえるか?
 投稿者が、画像掲示板を見ると必ず児童ポルノを投稿する人で、そういう人の存在を知っていないかぎり、無理なんじゃないか。
 じゃ、被利用者との連絡がない以上、共犯としても、幇助しかないよね。

 原判決は、一定目的をもって、画像掲示板を開設した時点で着手を認めている

2当裁判所の基本的な判断
(1)本件で問題とされているのは,児童ポルノの陳列であるが,陳列行為の対象となるのは,前記のような児童ポルノ画像が記憶・蔵置された状態の本件ディスクアレイであると解される。
(2)原審以来被告人の行為の作為・不作為性も問題とされているが,被告人の本罪に直接関係する行為は,本件掲示板を開設して,原判示のとおり,不特定多数の者に本件児童ポルノ画像を送信させて本件ディスクアレイに記憶・蔵置させながら,これを放置して公然陳列したことである。そして,本罪の犯罪行為は,厳密には,前記サーバーコンピュータによる本件ディスクアレイの陳列であって,その犯行場所も同所ということになる。したがって,この陳列行為が作為犯であることは明らかである。そして,原判示の被告人の管理運営行為は,この陳列行為を開始させてそれを継続させる行為に当たり,これも陳列行為の一部を構成する行為と解される。この行為の主要部分が作為犯であることも明らかである。確かに,被告人が,本件児童ポルノ画像を削除するなど陳列行為を終了させる行為に出なかった不作為も,陳列行為という犯罪行為の一環をなすものとして,その犯罪行為に含まれていると解されるが,それは,陳列行為を続けることのいわば裏返し的な行為をとらえたものにすぎないものと解される。なお,更に付言すると,被告人は,児童ポルノ画像を本件ディスクアレイに記憶・蔵置させてはいないが,前記のように,金銭的な利益提供をするなど,より強い程度のものではなかったとはいえ,本件掲示板を開設して前記のように前記送信を暗に悠憑・利用していたのである。この行為は,陳列行為そのものではないから,開設行為以外の点は原判決の犯罪事実にも記載されていないが,陳列行為の前段階をなす陳列行為と密接不可分な関係にある行為であるから,これも広くは陳列行為の一部をなすものと解される。そして,これが作為犯であることは明らかである。
(3)被告人の故意は,前記認定から明らかなように未必的な故意であって,本件陳列行為開始時点からあったと認定でき,この点の原判決の判断は正当である。

 しかし、「陳列」とは、(不特定多数の者に)認識しうる状態に置くことと解するのが判例であるところ、本件のように他人の投稿を待つ場合には、掲示板開設時から投稿直前までは、児童ポルノ画像は影も形もないのであるから、開設行為をもって、実行の着手と解することは不合理である。

2 判例
(1)大審院大正 7年11月16日
 しかも、掲示板開設行為を実行行為とすると、第三者の行為を介する点で、間接正犯となるが、間接正犯の場合の実行の着手時期については、被利用者を基準とするのが判例であり、原判決は判例違反も明白である。
【文献種別】 判決/大審院(上告審)
【判決年月日】 大正 7年11月16日*1
【事件番号】 大正7年(れ)第2891号
【事件名】 殺人未遂ノ件
第一法規提供判示事項】
1. 毒薬混入の砂糖を小包郵便に付したときは、名宛人がこれを受領した時において、右毒物を飲食することができる状態においたものであり、毒殺行為の着手があったということができる。

(2)名古屋高裁S41.3.10
 名古屋高裁S41.3.10で陳列罪の客体となりえないとされた「未現像フィルム」以前の段階である。
 仮に本件画像掲示板が「児童ポルノ専用掲示板」であったとしても、掲示板を設けるというのは、従来型の陳列行為でいえば、児童ポルノ専門映画館を開設・維持しただけであって、それだけでは陳列罪の実行の着手は認められない。
 原判決は名古屋高裁S41.3.10にも違反する。

(3)大阪高等裁平成11年8月26日
 大阪高裁H11は本件のようなサーバー蔵置型の公然陳列の場合、「陳列罪が既遂に達した時期は、被告人が、わいせつ画像データを記憶・蔵置させたハードディスクをホストコンピューターの管理機能に取り込み、会員による右データへのアクセスが可能な状態にした時点」で着手を認めるものと解される。
 原判決はこの点でこの判例にも違反する。
阪高裁H11は、会員からの投稿を受け付ける掲示板型の公然陳列について、「会員をしてハードディスク内にアップロードさせたわいせつ画像データについても、これらを会員に閲覧させ収益を上げるという自らの用途に資する目的で、ハードディスクに蔵置させ続け、会員がいつでもアクセス、ダウンロードして閲覧することが可能な状態にしつつ、これを積極的に管理していたものと認められるから、被告人は、右わいせつ画像データ全部について、わいせつ物公然陳述罪の責任を免れない」としており、他人が投稿した画像についえては、積極的な管理を要件として、公然陳列罪が成立しているとしているが、本件では、投稿後の積極的管理行為は全くないから、原判決はこの点でこの判例にも違反する。

 大阪地裁H11.3.19のいう実行行為は、サーバーへの送信行為であって、これが国内で行われているから日本刑法が適用されるという。サイト開設行為は実行行為ではない。

 児童ポルノ法では、陳列目的所持・製造・運搬罪などが処罰されているが、これは、「陳列」という児童ポルノ罪の保護法益の侵害が顕著である行為(頂点・本丸的行為)に至る準備行為を処罰して、一連の行為を網羅的に処罰するものである。
 ところで、7条の規定からもわかるように、陳列に先だつ行為については、製造・所持・運搬等が予定されているが、本件のように、掲示板の開設という陳列(仮に児童ポルノが陳列されることを目論んでいたとしても)を予想した行為の時点で陳列罪の実行の着手を認めると、製造・所持・運搬等はずべて陳列罪に包摂されることになり、存在意義が無くなる。
 また、製造・所持・運搬等はずべて陳列罪に包摂されることは、製造→所持→陳列という児童ポルノ罪のフルコースを辿った場合に陳列罪のみ1罪が成立することになり、東京高裁H15.6.4の罪数判断とも抵触する。


 さらに、原判決は、投稿者が正犯として処罰されることと、掲示板管理者も正犯となることは矛盾しないとする。

(2)所論は,要するに,①本件児童ポルノの陳列は,被告人の行為とは無関係に,本件掲示板を閲覧した者が児童ポルノ画像を送信して本件掲示板に貼付したものであるから,被告人の行為と児童ポルノ画像が本件掲示板に掲載されていることとの間には因果関係がなく,児童ポルノ公然陳列罪が成立することはないのに,これが成立するとした原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認ないし法令適用の誤りがある(控訴理由第11),②被告人が,本件掲示板を閲覧した者が児童ポルノ画像を送信し,本件掲示板に貼付することを予想することは困難であった上,被告人がc国内に居住してからは,その通信事情や被告人が本件掲示板に掲載された児童ポルノ画像を削除するのに必要なパスワードを亡失したことにより,画像削除の可能性(作為可能性)は失われたのに,これがあるとした原判決には判決に影響を及ばすことの明らかな事実誤認がある(控訴理由第12),と主張する。
 しかし,①前記説示のとおり,被告人は,本件掲示板開設に当たり,これを閲覧した者が児童ポルノ画像を送信し,本件画像掲示板に貼付することを予想した上で,自らの利益のために,それでも構わないとしてこれを容認し,更にはこれを暗に慫慂し,利用していたのであるから,被告人の行為と本件児童ポルノ公然陳列との間に因果関係があるのは明らかである。所論は,当裁判所とは異なる見解を前提とするものであるから,採用できない。
 ②被告人は,本件掲示板を閲覧した者が児童ポルノ画像を送信し,本件画像掲示板に貼付することを予想していたものであって,所論はその前提を欠く上,所論に照らしても,被告人がc国内に居住後,児童ポルノ画像を削除する可能性が失われたといえないことも明らかである。所論は失当である。
 論旨は理由がない。

 しかし、本件は、投稿者を被利用者とする間接正犯であるところ、判例によれば、故意犯を利用する場合には、「会社の代表者が使用人Cに命じて同人を自己の手足として判示米を自ら運搬輸送した」というような完全な支配関係が要件とされている

      食糧管理法違反被告事件
【事件番号】最高裁判所第1小法廷判決/昭和25年(れ)第96号
【判決日付】昭和25年7月6日

 本件において、仮に「被告人は,本件掲示板開設に当たり,これを閲覧した者が児童ポルノ画像を送信し,本件画像掲示板に貼付することを予想した上で,自らの利益のために,それでも構わないとしてこれを容認し,更にはこれを暗に慫慂し,利用していた」という事情があったとしても、投稿者とは全く連絡がないのであるから、判例にいうような支配関係は認められない。

 さらに、最高裁h9.10.30*2遠藤裁判官の意見によれば、被利用者が情を知った後は、道具性が失われるから利用者の責任は未遂になるという。

 本件では、そもそも、投稿者は、規範的障害を乗りこえてあえて児童ポルノ陳列行為を行っているのであるから、道具性は全くなく、被告人の行為を正犯と認めることは出来ない。
 原判決には判例違反があるから原判決は破棄を免れない。