児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書の締結について承認を求めるの件

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1D94596.htm
参議院審議終了年月日/参議院審議結果 平成16年 4月21日/承認

 児童ポルノ法の改正はどうなっているんでしょうか?
http://www.okumura-tanaka-law.com/www/okumura/child/031019.htmでは弱腰姿勢を批判しています。
2)改正案
 改正案は、立法義務がある上記①②については明文規定を置いているが、③については規定していない。
 また、上記の留保可能部分は全部留保する結果となっている。
 結局、改正案は条約の規定に対して、総じて消極的である。
(3)児童ポルノ取得勧誘罪の可罰性について。
 ここで上記③の取得勧誘罪の創設について検討する。
 取得勧誘罪・利用可能にする罪については留保できないが、そもそも可罰性の根拠は何なのか。また、取得行為(留保可能)を処罰しないで取得勧誘等(留保不可)のみを処罰することの合理性についても検討しなければならない。
 思うに、条約では取得行為・送信配付行為ともに処罰することを前提にしているので、取得勧誘罪はそれらの前段階の関与形態として処罰を求めているものと解される。
 もとより現行法が児童ポルノを譲り受ける行為を処罰していないのは、わいせつ物の罪(刑法175条)の体裁を借用したものであって、積極的な理由はない。
 わいせつ物の場合に、譲り受けた者が処罰されないのは、わいせつ物の罪は反復継続性・営業犯性を予定しているが、譲受人には反復継続性・営業犯性が認められないこと、保護法益は社会的法益であるから多数回行われて初めて可罰的と評価されることによると解される。また、講学上は、必要的共犯の一方だけを処罰する規定がある場合には、他方には刑法総論の共犯処罰規定は原則として処罰されないとされるから、取得者は販売・頒布罪の共犯にも当たらない。
 しかし、児童ポルノ罪の場合は、児童ポルノに関する行為は、描写された者への性的虐待・商業的搾取(個人的法益の侵害)であるが故に処罰されるのであるから、必ずしも、反復継続性・営業犯性は当罰性の要件とならないし、また、取得者を共犯として処罰しない理由はない。従って、児童ポルノの取得行為には当罰性が認められるし、販売・頒布罪の共犯も成立しうると解すべきである。
 
 また、条約上、取得勧誘行為の主体を販売者に限定せず、販売罪とは別個に児童ポルノ取得勧誘行為を処罰する理由は、取得行為自体の可罰性に基づくものと解されるところ、取得勧誘行為による法益侵害は取得行為そのものの法益侵害よりも間接的であるから、取得勧誘行為を処罰して、取得行為は処罰しないというのは一貫性に欠けるし、取得勧誘行為の処罰理由を説明できない。
 この意味で、立法論として、取得勧誘行為の処罰を検討するにあたっては、取得行為の処罰の可否を議論することが不可避である。改正案はこの議論を避けるために取得勧誘行為の処罰化を見送ったとも観測される。
 
(4)まとめ
 結局、改正案は条約に対して総じて極めて消極的な対応であるだけでなく、必要な議論を先送りにして、条約上の立法義務を十分に果たしていないと評価せざるを得ない。