「欧州評議会サイバー犯罪条約と我が国の対応について」
経済産業省
2002年4月
はじめに
電子商取引の進展、電子政府の具体化に代表される、社会・経済のコンピュータ・ネットワーク利用の高度化の進展により、コンピュータ・システム上で処理されるデータ及びネットワーク上でやりとりが行われるデータの質・量は急速に深化・拡大している。
コンピュータ・システム及びそれによって処理されるデータのセキュリティの確保、すなわち秘密性、完全性、可用性の保護については、システム管理者、利用者の自己責任に基づく適切な組織的対応及び技術的対応体制の確立がまずもって行われる必要があるが、一方で、セキュリティを侵害する行為を禁圧するのに必要な処罰を与える刑事法制の整備及びこれを実質的に担保する刑事手続法制(以下、「サイバー刑事法制」という。)の整備も重要となる。
コンピュータ犯罪は、通常、対象が有体物ではなく情報であるが、情報はそれ自体としては可視性・可読性がないこと、作成主体をそれ自体から特定することが困難なこと、処理・加工が容易で犯罪の証跡が残りにくいといった特徴があり、さらにインターネットを始めとするネットワークを悪用する犯罪は、匿名性が高い、犯罪の痕跡が残りにくい、被害が同時に広範囲に及び得る、国境を超えることが容易であるいう特徴を有する。したがって、サイバー刑事法制は、かかる犯罪の特徴に対応したものである必要があり、ことに、インターネットのグローバル性に鑑みれば、実体法の内容について国際的な調和が必要であると当時に、手続法は、国際共助・協力が円滑に行われることを確保するものである必要がある。
我が国におけるコンピュータ関連犯罪に対応するために刑事法制の整備としては、昭和62 年の刑法改正により、電磁的記録不正作出罪、電子計算機損壊等業務妨害罪、電子計算機使用詐欺罪、電磁的記録毀棄罪などが新たに設けられた。また、電気通信回線に接続している電子計算機に対する不正アクセス行為等を可罰化するための法整備としては、平成11 年の不正アクセスの禁止等に関する法律の制定がこれまでも行われてきたところである。
他方、国際的には、G8 リヨングループ・ハイテク犯罪サブグループにおいて、特にTraceability(追跡可能性)の確保についての議論が熱心に行われてきており、また、欧州評議会では、1997年以来、サイバー犯罪についての調査検討が進められ、昨年11 月8 日の欧州評議会閣僚委員会会合で、「サイバー犯罪に関する条約」が正式に採択され、同月23 日に開催された署名式典で各国に開放された。欧州評議会加盟国、米国、カナダ等と並んで、我が国も同日、同条約に署名した。本条約は、サイバー犯罪からの社会の保護を目的とする国際的な法的枠組みを定めるものであり、サイバー犯罪の深化・蔓延に効果的かつ迅速に対処するために国際協力を行い、共通の刑事政策を採択することを目指している。具体的には、コンピュータ・システムへの不正なアクセス、不正な傍受等一定の行為を犯罪とすることを締約国に義務づけた上で、これらの一定の犯罪についての裁判権の設定、これらの一定の犯罪及びコンピュータ・システムという手段によって行われる他の犯罪についての犯罪人引き渡し並びに捜査、訴追及び司法手続における法律上の援助等について規定している。
<サイバー刑事法研究会構成員>
〔座 長〕 山 口 厚 東京大学大学院法学政治学研究科教授(刑法)
井 窪 保 彦 阿部・井窪・片山法律事務所弁護士
歌 代 和 正 インターネット・イニシアチブ・ジャパン株式会社
システム技術部部長
佐 伯 仁 志 東京大学大学院法学政治学研究科教授(刑法)
酒 巻 匡 上智大学法学部教授(刑事訴訟法)
中 原 志 郎 日本電信電話株式会社
第五部門担当部長
夏 井 高 人 明治大学法学部教授(法情報学)
松 尾 正 浩 株式会社三菱総合研究所
ビジネスソリューション事業本部主任研究員
丸 橋 透 富士通株式会社 法務・知的財産権本部
法務部法務企画部担当課長
村 島 俊 宏 村島・穂積法律事務所弁護士
(敬称略、50 音順)
<サイバー刑事法研究会 オブザーバ>
経済産業省 大 野 秀 敏 商務情報政策局 情報セキュリティ政策室室長
経済産業省 早 貸 淳 子 商務情報政策局 情報経済課課長補佐(2001 年8 月まで)
経済産業省 西 江 昭 博 商務情報政策局 情報経済課課長補佐
経済産業省 久 米 孝 商務情報政策局 情報セキュリティ政策室 課長補佐
経済産業省 山 本 文 土 商務情報政策局 情報セキュリティ政策室 課長補佐
経済産業省 山 下 隆 也 経済産業政策局 知的財産政策室 課長補佐
経済産業省 服 部 誠 経済産業政策局 知的財産政策室 課長補佐