他人が投稿した児童ポルノ画像で掲示板管理者が陳列罪になった事件で、東京高裁H16.6.23は、掲示板開設時に実行の着手を認めています。既遂時は、他人の投稿時。
読み方によっては、間接正犯の実行の着手について利用者標準説ともとれる。
東京高裁H16.6.23
2当裁判所の基本的な判断
(1)本件で問題とされているのは,児童ポルノの陳列であるが,陳列行為の対象となるのは,前記のような児童ポルノ画像が記憶・蔵置された状態の本件ディスクアレイであると解される。
(2)原審以来被告人の行為の作為・不作為性も問題とされているが,被告人の本罪に直接関係する行為は,本件掲示板を開設して,原判示のとおり,不特定多数の者に本件児童ポルノ画像を送信させて本件ディスクアレイに記憶・蔵置させながら,これを放置して公然陳列したことである。そして,本罪の犯罪行為は,厳密には,前記サーバーコンピュータによる本件ディスクアレイの陳列であって,その犯行場所も同所ということになる。したがって,この陳列行為が作為犯であることは明らかである。そして,原判示の被告人の管理運営行為は,この陳列行為を開始させてそれを継続させる行為に当たり,これも陳列行為の一部を構成する行為と解される。この行為の主要部分が作為犯であることも明らかである。確かに,被告人が,本件児童ポルノ画像を削除するなど陳列行為を終了させる行為に出なかった不作為も,陳列行為という犯罪行為の一環をなすものとして,その犯罪行為に含まれていると解されるが,それは,陳列行為を続けることのいわば裏返し的な行為をとらえたものにすぎないものと解される。なお,更に付言すると,被告人は,児童ポルノ画像を本件ディスクアレイに記憶・蔵置させてはいないが,前記のように,金銭的な利益提供をするなど,より強い程度のものではなかったとはいえ,本件掲示板を開設して前記のように前記送信を暗に悠憑・利用していたのである。この行為は,陳列行為そのものではないから,開設行為以外の点は原判決の犯罪事実にも記載されていないが,陳列行為の前段階をなす陳列行為と密接不可分な関係にある行為であるから,これも広くは陳列行為の一部をなすものと解される。そして,これが作為犯であることは明らかである。
(3)被告人の故意は,前記認定から明らかなように未必的な故意であって,本件陳列行為開始時点からあったと認定でき,この点の原判決の判断は正当である。
ところで、間接正犯の実行の着手時期については、被利用者標準説が判例ですね。
大審院(上告審)大正 7年11月16日
毒薬混入の砂糖を小包郵便に付したときは、名宛人がこれを受領した時において、右毒物を飲食することができる状態においたものであり、毒殺行為の着手があったということができる。
大審院刑事判決録24輯1352頁
大審院刑事判決抄録78巻10045頁
殺人未遂ノ件
大審院大正七年(れ)第二八九一號
大正七年十一月十六日宣告
また花井卓藏博士の判例をまげてしまいそうです。
またというのは、「大審院大正5年(れ)第2605号同年12月18日判決・刑録22輯1909頁及び大審院昭和8年(れ)第75号同年4月12日判決・刑集12巻5号413頁」も花井先生だったから。
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/B7D7738C071DEEAF49256D7200269E05?OPENDOCUMENT
判例 H15.03.11 第三小法廷・判決 平成14(あ)1198、1239 信用毀損,業務妨害,窃盗被告事件(第57巻3号293頁)
弁護人奥村徹の事件受理申立て理由,同弁護人の刑法233条にいう「信用」の意義に関する上告趣意について
所論は,原判決の刑法233条にいう「信用」の意義に関する判断が,同条の解釈を誤り,所論引用の大審院の各判例に違反するというのである。2 所論引用の大審院の判例のうち,大審院大正5年(れ)第2605号同年12月18日判決・刑録22輯1909頁及び大審院昭和8年(れ)第75号同年4月12日判決・刑集12巻5号413頁は,人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信頼を毀損しない限り,信用毀損罪は成立しないとしたものであるから,原判決は,上記大審院の各判例と相反する判断をしたものといわなければならない。
しかし,【要旨】刑法233条が定める信用毀損罪は,経済的な側面における人の社会的な評価を保護するものであり,同条にいう「信用」は,人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信頼に限定されるべきものではなく,販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含むと解するのが相当であるから,これと異なる上記大審院の各判例は,いずれもこれを変更し,原判決を維持すべきである。
花井先生、後輩に判例覆されて、怒ってるかもしれないな。墓参りでも行くか?