きょうはここまで。
名誉毀損罪の話が、エロ犯罪になっています。裁判例の紹介で、どの辺が犯罪として処罰されているかを説明したかったのですが。
WINNYで話題の中立的幇助と、児童ポルノ陳列罪が思い掛けず出逢っています。
ここまで書いたところで、
素人である読者には理解できない
という根本的な問題が持ちあがりました。
(6)児童ポルノ公然陳列罪 横浜地裁H15.12.15*12(被告人控訴 公刊物未掲載)
風俗情報交換用に設けた画像掲示板に、他人が児童ポルノ画像を投稿し、掲示板管理者である被告人が、児童ポルノ公然陳列罪の正犯(懲役2年執行猶予4年)とされた事例である。各投稿者はおのおの児童ポルノ公然陳列罪の正犯として処罰(罰金)されている。
「弁護人の主張に対する判断」においては、「不真正不作為犯の作為義務の内容についても検察官が『など』の中に『削除しなかった』ことも含まれると釈明したことにより,それが明確化されたといえるから訴因の特定に欠けるところはないと解される」と判示しており、不真正不作為犯であることが明言されているが、画像掲示板の作為義務の発生根拠や内容については何ら判示されていない。
被告人は通信インフラ未整備の外国にいたため公訴事実に記載された違法画像の全てを認識していないこと、プロバイダーの無料サービスを利用して掲示板を設置していたので、料金支払いなどの積極的管理行為が認められないこと、cgiプログラムの仕様上管理者は画像を削除できなかったことなど、いわば放置されていた画像掲示板に違法画像が投稿された事案であって、不作為犯性が強い事件である。
(7)児童ポルノ公然陳列罪 東京高裁H16.6.23*13(被告人上告 公刊物未掲載)
前記横浜地裁H15.12.15の控訴審判決である。
東京高裁は原判決の事実認定に加えて、「① 被告人が本件掲示板を開設した目的は,主としてp近郊のs地区における児童買売春を含む買売春を中心とした風俗情報を提供,交換することにあった。このことは,被告人が直ちに経済的な利益を目論んでいたといったものではないが,本件掲示板の開設によって,被告人自身の買売春に関する知識も増加させることができ,被告人の自尊心,名誉欲等をも満足させるものであったと推認することができるから,その意味において,前記開設の目的は,自己の利益を図る目的であったということができる。
② 被告人は,閲覧者の性的な興味をそそり,アクセスを容易にするために,その名称にわざわざ「あやしい」という形容詞を使用し,また,本件画像掲示板を,パスワードを入力しなければアクセスできない仕組みにしてはいたものの,本件掲示板内の「パスワード発行所」にアクセスすれば,容易にパスワードを入手できるようにすることによって,パスワードを介したアクセスの制約は殆どない状態にしておいた。そして,被告人自身,本件掲示板に売春婦の情報やその裸の写真を掲載したほか,平成12年10月ころには児童買春に関する情報の書き込みを行った。
③ 被告人は,以上のような本件掲示板の状況からして,わいせつな画像や児童の裸の写真(児童ポルノ)の画像が送信,貼付されることや,その画像を見るなどして閲覧者が増えれば,それに伴って前記のような行為も増加することも予想していたが,それでも構わないと考え,そのような事態を回避する方策を全くとらなかった。被告人は,平成13年1月ころ,本件掲示板を見て児童ポルノの画像が貼付されているのを知り,掲示板管理者としての権限で削除することは可能であったものの,削除すると,画像送信者から見放される結果を招きかねず,他方,放置しておけば,本件掲示板にアクセスする者が増えるなどと考えて,敢えて削除しなかった。その結果,本件掲示板の児童ポルノ画像を見た他の者が同種行為に及ぶようになった。しかし,被告人は,そのうちの一部を確認したものの削除せずに放置し,その余の同種画像については本件掲示板を点検しなかったために確認しないままで推移させた。さらに,被告人は,平成13年11月中旬ころ,本件掲示板に児童買春に関する情報や児童ポルノ画像が掲載されていることが日本のテレビ局で報道されたことを聞き知り,警察に摘発される不安を抱いたものの,その後も児童ポルノ画像を削除したり,本件掲示板を閉鎖したりすることはしなかった。」という事実を追加ないしは強調して、当該掲示板開設の目的、運用管理状況等を考慮して、掲示板開設から維持管理にいたる一連の行為に実行行為性を認めている。
そして「被告人の本罪に直接関係する行為は,本件掲示板を開設して,原判示のとおり,不特定多数の者に本件児童ポルノ画像を送信させて本件ディスクアレイに記憶・蔵置させながら,これを放置して公然陳列したことである。そして,本罪の犯罪行為は,厳密には,前記サーバーコンピュータによる本件ディスクアレイの陳列であって,その犯行場所も同所ということになる。したがって,この陳列行為が作為犯であることは明らかである。そして,原判示の被告人の管理運営行為は,この陳列行為を開始させてそれを継続させる行為に当たり,これも陳列行為の一部を構成する行為と解される。この行為の主要部分が作為犯であることも明らかである。確かに,被告人が,本件児童ポルノ画像を削除するなど陳列行為を終了させる行為に出なかった不作為も,陳列行為という犯罪行為の一環をなすものとして,その犯罪行為に含まれていると解されるが,それは,陳列行為を続けることのいわば裏返し的な行為をとらえたものにすぎないものと解される。なお,更に付言すると,被告人は,児童ポルノ画像を本件ディスクアレイに記憶・蔵置させてはいないが,前記のように,金銭的な利益提供をするなど,より強い程度のものではなかったとはいえ,本件掲示板を開設して前記のように前記送信を暗に悠憑・利用していたのである。この行為は,陳列行為そのものではないから,開設行為以外の点は原判決の犯罪事実にも記載されていないが,陳列行為の前段階をなす陳列行為と密接不可分な関係にある行為であるから,これも広くは陳列行為の一部をなすものと解される。そして,これが作為犯であることは明らかである。」と判示して、作為犯であると評価している。
つまり、掲示板開設から維持管理にいたる一連の行為について「作為」による陳列罪の「正犯」となると判示したものである。
主として画像掲示板管理者の管理行為という「作為」に注目し、違法な情報を削除しなかったという「不作為」を副次的、いわば「色づけ」に使い、全体としては「作為犯」と評価した点は筆者と見解を一にする。
しかし、掲示板開設・管理行為の不道徳性をいくら強調してもそれは違法ではないし、たとえ、被告人が積極的に投稿を呼びかけたとしても、他人によって児童ポルノ画像が投稿もされていない時点で児童ポルノ公然陳列罪の「正犯」の実行の着手を認めるのは乱暴であろう。
また、児童ポルノ公然陳列罪の法的性格については状態犯説を否定して継続犯説を採用している。
(8)まとめ
各裁判例では、違法情報の投稿や上演という源発信者の行為が行われた場合、管理者の責任を論じるにあたっては、さかのぼって源発信者の行為に到るまでの掲示板や劇場の維持管理行為(作為)までに着目して、作為犯としての刑事責任を論じていることがわかる。裏返せば、このような作為が認められず純粋な不作為しかない場合には刑事責任が否定されている。
5 私見
(1)刑法的評価の対象とされるべき行為
最初に違法情報を掲載した者が掲載した時点で正犯となるのは疑いないところであって、確かにプロバイダーが提供する情報伝達作用に違法情報が載せられる可能性はあるにはあるが、他人が実際にこのような犯罪行為に及ぶことは通常予想できないから、プロバイダーの維持管理行為だけでは、他人により違法情報が掲載される現実的な危険性(実行行為性)は認められない。
また、犯罪を構成するような情報が掲載されない段階での情報伝達作用は、表現の自由・通信の秘密で保障されるまさに合法な行為であるから、判例のようにその点を作為の実行行為と評価することは許されない。
したがって、プロバイダーが責任を問われるとしても、あくまでも違法情報の存在を認識・認容した時点よりも後の行為である。
(2)作為犯か不作為犯か?
源発信者から発信された違法情報が維持・拡散されるのは、プロバイダーが提供する情報伝達作用によるのであり、プロバイダーは情報伝達作用を維持するために積極的に活動しているのであるから、その刑事責任を問うとすれば基本的には「作為犯」を論じるべきである。
もっとも、その犯罪性は、違法情報を認識しながら故意に削除せず、さらに拡散した点に求められるから、その意味では、不作為犯的な要素も考慮され、作為義務の議論が必要となる。
(3)正犯か従犯か?
通常の中立的プロバイダーの場合、発信された違法情報が維持・拡散されるのは、プロバイダーが提供する情報伝達作用によるのであるから、源発信者は、あたかも情を知らない郵便配達人を介して、違法な情報を流布しているのと同様の構造であって、プロバイダーは、間接正犯における被利用者である。プロバイダーが情を知った場合に考えられる責任は、「故意ある幇助的道具」としての従犯責任である。
実質的に考えても、通信の秘密の要請や物理的限界により内容を常時監視し、発見即時に削除することは不可能であるという意味で、流通する情報については第一次的責任を負うのは源発信者であって、プロバイダーの責任は副次的である。
正犯の既遂時期の関係でも、源発信者における名誉毀損罪等は、情報の発信時点で既遂となっており、仮にプロバイダーが故意に違法情報を放置したとしても、それは正犯者である源発信者の発信行為による結果に他ならないから、もはや正犯とはなり得ない。
(4)従犯となる要件
問題は、プロバイダーが違法情報の存在を知ったら、即、従犯になるのかであるが、
第1種電気通信業者のようにプロバイダーは、通信の秘密・検閲禁止等の義務を負っている場合もあり、通信内容について常時監視義務を負うわけではないから、この視点から、知情すれば即、従犯というのも極論であろう。
さらには、民事責任については、プロバイダー責任制限法によって責任範囲が限定されており、刑罰法規の補充性・謙抑性も考慮しなければならない。
これは、刑法学上「中立的行為による幇助」*14として議論されているところであって、筆者には明確な結論を示すことはできない。・・・・・・・