児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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嘉門優「強制わいせつと痴漢行為との区別について」季刊刑事弁護93号

 都市伝説である「下着の中に手を差し入れたら強制わいせつ罪、そうでないのは卑わい行為」というへんの話を学問的に分析されているようです。
 強制わいせつ罪のわいせつ行為については、学説は強度を問わずに「性的自由・性的羞恥心を害する行為」というのが多くて、卑わい行為と全面的にかぶることになっています。学者は定義とその影響をあまり考えていなかったようです
 大法廷h29.11.29はわいせつ行為の定義を断念する一方で、軽いのは卑わい行為で、法定刑に見合うだけの強度があるのがわいせつ行為だと説明しています。痴漢する人に、法定刑を考えろというのでしょうか。
 次稿の非接触型というのは、陰部見せつけるとか、精液かけるとか、脅して裸画像送らせるとか、用便中の姿態を凝視するとかでしょうか。

はじめに
本稿執筆のきっかけとなったのは、川上博之弁護士(大阪弁護士会)から提示された問題意識、つまり、強制わいせつ罪と「いわゆる迷惑防止条例における痴漢行為処罰規定」’との区別、より具体的には、「背後からいきなり被害者のでん部を着衣の上から1回触った行為」についても、強制わいせつ罪が成立しうるのかというものであった。両罪の法定刑は大きく異なる(強制わいせつ罪は6月以上10年以下の懲役、迷惑防止条例違反〔大阪府の場合〕は6月以下の懲役または50万円以下の罰金)だけでなく、とくに、致傷結果が発生した場合、強制わいせつ致傷罪(刑法181条1項)となるか、あるいは、痴漢行為と傷害罪の併合罪となるかによって、被告人の刑責に重大な影響をもたらす。にもかかわらず、区別基準が必ずしも明らかではなく、実務上、検察官の起訴裁量による部分が大きいとされてきた。そこで、本稿では、これまでの裁判例の分析を踏まえて、両罪の区別基準をより具体的に示すことを試みることとしたい。

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わいせつ行為と卑わい行為の区別
第二に、個人に対する性的侵害の重大性に関する裁判例の分析を行う。
類型化にあたっては、性的領域への侵入の程度、性的侵害の重大性という観点から「接触」という要素を重視し、接触型と非接触型に分類した(次頁表参照)。
なお、本稿の問題関心が痴漢行為との区別であることとの関係上、接触型を中心に扱うこととし、非接触型についての詳細は別稿に譲ることとしたい。
強制わいせつ罪におけるわいせつ行為の典型例として、第一に、被害者の「肛門、口」への行為者の「男性器」の挿入行為(A類型)が挙げられるが、2016年改正に伴い、これらは新177条の適用対象となった20.一方、被害者の「膣、肛門、口」への行為者の「指や異物」の挿入行為は依然として、強制わいせつ罪の適用対象である(B類型)。
そして、直接、性的部位に触れる行為(C類型)についても、被害者への性的な侵襲性が比較的高いために、強制わいせつ罪が認められる傾向にある一方24、被害者の性的部位を「着衣の上から」触る場合(D類型)、通常は痴漢行為と分類される。
ただし、態様が「執よう」な場合、つまり、着衣の上からでも「弄んだ」といえるような態様である場合、強制わいせつ罪とされてきた25.また、被害者の「非性的部位」に触れる場合(E類型)にも本罪が成立することがあり、その典型例は唇への接吻である26°ただし、接吻だけでは「性欲を刺激、興奮又は満足させる行為」とはいえず、相手方の意思に反して「無理やり」行われたといいうる場合にのみ強制わいせつ罪とされてきた27.他方、唇以外の非性的な部位(頬やあご等)にキスする場合には、その行為が、通常は性欲刺激・興奮・満足に結びつくとは評価しえないため28、無理やり行ったとしても、強制わいせつ罪を肯定すべきではないとされる29.同様の理由から、他の非性的部位(被害者の指や大腿部など)をなめたり触ったりする行為についても、無理やり行ったとしても強制わいせつ罪は認められない30.以上のように、強制わいせつ罪のわいせつ行為は、接触部位、接触行為の性的意味合い、態様の執よう性といった観点から、「性欲を刺激、興奮又は満足させる行為」と評価しうるかどうかが判断されている。
したがって、そのような行為ではないと認められ、かつ、公然性が肯定されれば、原則的には、痴漢行為処罰規定の適用対象となる。
その典型例は、被害者の身体を「着衣の上から」触る類型である。
前述の強制わいせつ罪の実務から、①性的部位を着衣の上から触ったが、態様が執ようでない場合は、強制わいせつ罪ではなく、条例上の痴漢行為として処罰されることになる3'。
また、②着衣の上から執ように撫で回したとしても、触ったのが「非性的部位」である場合は、基本的には条例上の痴漢行為とされてきた(ただし、前述の唇への接吻行為を無理やり強要した場合は強制わいせつ罪となりうる)32。
なお、③非性的部位を着衣の上から触ったが、態様が執ようではなかった場合には、痴漢行為ともならず、無罪とされた事例がある33.本事案では、着衣の上から数秒間、腰部を触ったという事案であり、この場合、「卑わいな言動」にすら当たらないとされた。
結論
判例において、強制わいせつ罪が軽微な性的侵害に対しても広く適用される傾向にある。
しかし、条例に痴漢行為処罰規定がある以上、両罪の区別を意識しながら、強制わいせつ罪のより限定的な適用が実務上より意識されなければならない。
本稿で示したように、両罪を区別するために、より法定刑の重い強制わいせつ罪について、第一に、「具体的な個人の意思に反して直接的に強制する」という個人的法益に対する罪としての要素として、「被害者の抗拒を著しく困難にならしめる程度に至っていること」が要求され、その程度には達しないが、「被害者の抗拒を抑制する程度」には達していた場合は痴漢行為となる。
第二に、強制わいせつ罪の場合、個人に対する「重大な性的侵害」が要件となり、具体的な判断基準として、客観的に見て「性欲を刺激、興奮又は満足させる行為」であることが要求される。
そうではなく、公然と「いやらしくみだらな言動」がなされた場合には、迷惑防止条例の痴漢行為として処罰される可能性があると思われる。
今回、紙幅の都合上、両罪の罪質や各要件について詳細な検討ができなかったことから、次槁において非接触型のわいせつ行為も含めて論じる予定である。