児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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(当時22歳。以下「A」という。)が泥酔していたため抗拒不能であるのに乗じ,同人を姦淫したものである。」という準強姦事件について犯人性が否定された事件(さいたま地裁H29.10.26)

さいたま地方裁判所平成29年10月26日第4刑事部判決

       判   決

 上記の者に対する準強姦被告事件について,当裁判所は,検察官秦智子並びに私選弁護人中原潤一(主任),同神林美樹及び同山本衛各出席の上審理し,次のとおり判決する。


       主   文

被告人は無罪。


       理   由

第1 本件公訴事実
 本件公訴事実は,「被告人は,平成28年8月26日午後11時30分頃から同月27日午前1時39分頃までの間に,東京都大田区α×丁目×番××号β×Fにおいて,■(当時22歳。以下「A」という。)が泥酔していたため抗拒不能であるのに乗じ,同人を姦淫したものである。」というものである。
第2 争点
1 本件起訴の有効性
 弁護人は,本件起訴に関し,〔1〕Aの告訴には要素の錯誤があってその意思表示は無効であり,親告罪において告訴が欠如する,あるいは,〔2〕親告罪における告訴権者の意思を蹂躙したものとして,公訴権の濫用があると主張し,いずれにせよ公訴棄却の判決がなされるべきとする。
2 被告人の犯人性
 弁護人は,被告人がAを姦淫した事実は認められないから被告人は無罪であると主張し,被告人もそれに沿う供述をしている。Aが本件公訴事実記載の日時場所において同記載のとおり誰かに姦淫されたことは証拠上容易に認定できるから,本件公訴事実に関する争点は被告人がその犯人であるといえるかである。
第3 本件起訴の有効性について(以下,日付は平成28年とする。)
1 本件告訴の有効性
 関係証拠によると,Aが,本件起訴前である12月9日,本件公訴事実に関する犯罪事実を申告し(内容としては,被告人を含む二人の者が共同して抗拒不能の状態にあるAを姦淫した旨の集団準強姦),被告人を厳重に処罰するよう求める旨の記載がある埼玉県吉川警察署長宛ての告訴状をb警察官(以下「b警察官」という。)に提出したことが認められる。そして,Aは,告訴状を提出した当時,被告人の処罰を求める気持ちであったこと自体は否定しておらず,当公判廷においてその旨の証言をした。
 この点,弁護人は,Aは被害弁償を受けることを希望して本件の捜査を求めるに至っており,こうしたAの動機は捜査機関にも明示されていたところ,検察官も警察官も弁護人からの示談の申入れをAに伝えず,その結果Aは示談の申入れがないものとして告訴の意思表示をしたものであり,要素の錯誤があるから無効である旨の主張をする。しかし,弁護人の主張は,前提とする事実関係についての主張の当否はおくとして,要するに,Aが告訴をするに至った動機の形成過程に錯誤があった旨の主張と解すべきものであるところ,Aが告訴をするに至った動機等は告訴の効力に影響を及ぼすものではないというべきである。したがって,本件告訴は有効であるから,この点に関する弁護人の主張に理由はない。
2 検察官による本件起訴の有効性
(1)関係証拠によれば,本件事件の捜査を担当した溝口修検察官(以下「溝口検察官」という。)が,12月5日頃,被告人の弁護人から,被害者の連絡先教示を求められたこと,溝口検察官は,Aの意向確認をするように警察官に依頼し,同月6日,Aの聴取等を担当していたb警察官がAにラインメッセージを送信して弁護人への連絡先教示の希望の有無を確認したこと,Aはb警察官に対して連絡先教示をしないでほしい旨を回答し,b警察官が溝口検察官にその旨伝えたこと,12月9日,溝口検察官がAの取調べを行った際,被害状況の確認とともに処罰感情があることを確認し,その後にAが告訴したこと,本件起訴日である12月21日,溝口検察官が再度Aの取調べを行った際,Aに対して被告人を起訴する予定であることを告げた上で改めてAの処罰意思を確認したこと,以上の事実が認められる。
(2)以上の事実関係のうち,b警察官がAに対して送信したラインメッセージは,具体的には,「弁護士から,『被害者の連絡先を教えろ』という連絡がありました」「2人共否認しているのに,何を話すつもりなのか分かりませんが」「こういう時,一応被害者の方の意思を確認するようになっていまして」「教えたらどうなるか,ということなんですけど,弁護士から電話が来ます」「示談の話をするのか,謝罪をするのか知りませんが,否認しているので...何がしたいのかは分かりません」などの内容を含むものであり,これによれば,弁護人が被害者の連絡先を教示するように求めてきていること,弁護人の意図としては,被害者に直接連絡を取って示談交渉を含む何らかの働きかけをすることにあるとの趣旨が十分に読み取れるものといえる。すなわち,溝口検察官において,Aに対して弁護人から示談の申入れがあったことを伝えたかどうか,b警察官に対して弁護人から示談の申入れがあった旨伝達したかどうかは明らかでないとしても,Aに対しては,示談交渉の可能性も前提に連絡先教示の希望の有無についての意思確認が行われたといえる。そうすると,A自身も認めるように,弁護人から示談の話がされる可能性があることを理解し得る状況にありながら,Aは弁護人に対する連絡先教示について消極的な態度を維持し続けたことが認められる。
 しかるに,被害者が犯人に対する処罰を望みつつ,同時に犯人からの被害弁償を受けたいと考えることは両立し得ることであるし,本件でも,Aにおいて,本件起訴までの間に,溝口検察官に対して示談の成否と関連付けて告訴意思に変更があり得る旨の意向を示した形跡がないことも加味すると,弁護人の主張を考慮しても,本件起訴に至る判断が不合理であるとして告訴権者であるAの意思を蹂躙したとみるべき事情があったとまでは認められない。
(3)以上によれば,検察官が公訴権を濫用したとみる余地はなく,この点に関する弁護人の主張も理由がない。
第4 被告人の犯人性
・・・
第5 結論
 以上を総合すれば,被告人が公訴事実記載の犯行を行ったとするにはなお合理的な疑いが残るというべきであり,結局本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役4年6月)
平成29年10月26日
さいたま地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官 佐々木直人 裁判官 四宮知彦 裁判官 片山嘉恵