児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪は傾向犯だという最決S45.1.29は変更されていないこと

 必要説・傾向犯説で書けと言われたのでp140ほど書きました。
 不要説って、わいせつ行為の定義で困るだろうと思います。

(1)最近の傾向犯の判例
最近も、性的意図・傾向を強制わいせつ罪の成立要素とする判例が相次いでいる

?広島高裁h23.5.26*1
?東京高等裁判所H28.2.19*2(上告中)
弁護人は,?被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,?原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,?被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
しかしながら,?については,本件起訴状に記載された罪名及び罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。

?広島高裁岡山支部H22.12.15*3
ところで,原判示第3の事実は,被告人が,当時16歳の被害者Aを脅迫し,同人に乳房及び陰部を露出した姿態等をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影させたなどの,強制わいせつ罪に該当し得る客観的事実を包含しているが,強制わいせつ罪の成立には犯人が性的意図を有していることが必要であるところ,原判示第3の事実に,被告人が上記性的意図を有している事実が明示されてはいない。

?福岡高裁h26.10.15*4
第1理由不備,理由齟齬,公訴の不法受理の論旨について
論旨は,次のとおりである。すなわち,?原判示第1の1,第2のl,第3の1,第4の1,第5の1,第6の1及び第7の1の各事実(以下,これらを併せて「原判示各1の事実」という)には,被告人の性的傾向を示す「わいせつ行為をしようと企て」との文言がないので,強制わいせつ罪の構成要件を満たしているとはいえないから,原判決には理由不備の違法がある,・・・というのである。
そこで,検討する。
?については,原判示各1の事実の具体的内容は,いずれも被告人が公園のトイレや駐輪場などで,各被害児童に対し,衣服を脱がせて臀部又は陰部を露出する姿態をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影したというものであり,その外形的行為自体から,被告人がその性欲を満足させるという性的意図のもとに行ったことが推認されることのほか,罪となるべき事実の末尾には「もってわいせつな行為をした」旨の記載があることにも鑑みると,所論がいうような「わいせつ行為をしようと企て」との文言がなくとも,強制わいせつ罪の構成要件該当事実は過不足なく記載されているといえるから原判決に理由不備の違法はない。

?東京高裁h13.9.18*5

(2)東京高裁h26.2.13を聞きかじりで誤解してはならない
 東京高裁h26.2.13はよくよく読むと性的意図がある事例についての判断であって、性的意図不要説の判例ではない。

強制わいせつ致傷被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成25年(う)第1678号
【判決日付】 平成26年2月13日
【判示事項】 被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者にその旨の認識があれば強制わいせつ罪の成立に欠けるところはなく,行為者の性的意図の有無は被害者の性的自由という強制わいせつ罪の保護法益の侵害とは関係を有しない旨判示した事例
【判決要旨】 客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,強制わいせつ罪の成立に欠けるところはない。
犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図の有無は,被害者の性的自由の侵害という法益侵害とは関係を有しない。
【参照条文】 刑法176前段
刑法181−1
【掲載誌】高等裁判所刑事裁判速報集平成26年45頁

理由

本罪の基本犯である強制わいせつ罪の保護法益は被害者の性的自由であると解されるところ,同罪はこれを侵害する行為を処罰するものであり,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,同罪の成立に欠けるところはないというべきである。
本件において,被告人の行為が被害者の性的自由を侵害するものであることは明らかであり,被告人もその旨認識していたことも明らかであるから,強制わいせつ致傷罪が成立することは明白である。被告人の意図がいかなるものであれ,本件犯行によって,被害者の性的自由が侵害されたことに変わりはないのであり,犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図の有無は,上記のような法益侵害とは関係を有しないものというべきである。

しかし、検察官によれば、東京高裁H28の事案は性的意図が認定されており、いわば上記の判示は本来不要な「勇み足」だという。

東京高等裁判所H28.2.19の検察官答弁書
判例
なお,控訴趣意書18頁記載の東京高判平成26年2月13日東京高刑裁速報3519号は,確かに,なお書きとして,強制わいせつ罪の成立に性的意図は不要であるかのような説示をしている。しかし,当該事件は,まさに同事件の被告人が犯行当時性的意図を有していたか否かが争点であり,同事件の第一審判決は,同事件が性的意図を欠いた報復目的で行われたとする同事件の第一審弁護人の主張を排斥し,同事件の被告人に性的意図と共に報復目的が併存していたことを認定しているところ,控訴審たる東京高等裁判所判決も,同事件が報復目的のみで行われたとする同事件の控訴審弁護人の主張を排斥して,第一審の判断を支持し,同事件の被告人に性的意図と共に報復目的が併存していたことを明確に認定した上,更に,なお書きで,上記の説示をし,弁護人の控訴を棄却したのである。そこで,上告審弁護人は,上告趣意として,同東京高判が最判昭和45年1月29日刑集24巻1号1頁に反していると主張したが,最高裁判所第二小法廷は,当該判例違反の論旨は原判決に影響のないことが明らかな事項に関する判例違反の主張であって刑訴法第405条の上告理由に当たらない旨判示して,決定で上告を棄却し,同事件の被告人からの異議申立てをも決定で棄却したのである。よって,上記東京高判の存在にもかかわらず,最判昭和45年1月29日刑集24巻1号1頁は,判例として変更されてはいないことになる。

 上記東京高裁H26の事案は下記の通りであり、性的意図と復讐意図が併存する事件であった。

事案
東京地裁h25.9.9
(罪となるべき事実)
被告人は,数年にわたり共に音楽活動を行い,一方的に好意を寄せていた被害者から.バンドを脱退し,被告人との関わりも絶つ旨告げられた。そこで,被告人は,被害者に対する自己の思いが拒絶され,自己が心血を注いでいたバンド活動も継続できなくなったことから,被害者に対して復讐したいとの感情を抱くに至り,被害者に強制わいせつ行為をしようと考え,平成28年7月3日大阪市北区,において,被害者に対して口付近にテープを巻き付けて口を塞ぐなどの暴行を加え,着衣を脱がせて乳房をもみ膣内に手指を挿入し,その際,被害者に全治まで約日間を要する頭部打撲,頚部打撲等の傷害を負わせたものである。
(事実認定の補足説明)
1.本件の争点は,本件犯行当時,被告人が性的意図を有していたか否かである。
当裁判所は,被告人は性的意図を有していたものと判断したので,以下その理由を説明する。
・・・・
・また,弁護人は,被告人が被害者と性交しようとしていないことや,解放されたい一心で被害者が口淫ならしてもよい旨述べた際,被告人が特段の反応を示さなかったことを踏まえると,被告人が性的意図を有していたとは認められないとも主張するが,被告人がこれらの行為に及ばなかった点については様々な理由が考えられるのであり,必ずしも性的意図を否定するものではない。
3よって,本件犯行当時,被告人が性的意図を有していたことは明らかである。

 かくして併存事例に関する上記東京高裁の判示は不要説ではない