児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

代理による告訴取消

 告訴した告訴権者に代理人が登場したので、調べています。
 本当は、本人に告訴取消書を書いてもらうのがベストですが、そういかないときもあるのです。

刑訴法第240条〔代理人による告訴・告訴取消し〕
告訴は、代理人によりこれをすることができる。告訴の取消についても、同様である

強姦被告事件高松高等裁判所判決昭和27年8月30日
高等裁判所刑事判例集5巻10号1604頁
       高等裁判所刑事裁判速報集22号
       主   文
 本件控訴を棄却する。
       理   由
 弁護人宮崎忠義の控訴趣意は別紙記載の通りである。
 控訴趣意第一点について。
 論旨は本件については告訴の取消があつたから原審は本件公訴の提起が起訴条件を欠くものとして公訴棄却の判決をなすべきであるに拘らず不法に公訴を受理もで実体判決をしたのは違法であると主張する。仍て本件記録を検討して考察するに本件の被害者鴻上弘子及びその法定代理人(父)鴻上浅吉は夫々独立して昭和二十五年二月二十四日司法警察員に対し告訴をしたものであるところ(司法警察員作成に係る鴻上弘子の第一回供述調書及び鴻上浅吉の告訴調書参照)、右鴻上浅吉は同年三月九日法定代理人としての告訴を取消したことは同人の司法警察員に対する第二回供述調書により明かであるけれども、同調書に徴するも右浅吉が弘子自身のなした告訴をも弘子の代理人として取消したものとは未だ認められない。尤も同供述調書中所論の如く「娘とも相談の上で先方のことわりを容れ云々」の供述記載が存するけれども、原審第六回公判調書中の証人鴻上浅吉、同鴻上弘子の各供述記載に徴すれば右浅吉は右告訴の取下につき娘弘子と全然相談していない事実を認めることができ、その他記録上窺える諸般の情況より判断するも原判決説示の如く弘子が父浅吉に対し自己のなした告訴の取消方を依頼し浅吉が弘子の代理人として同女のなした告訴の取消をしたものとは到底認められない。尚論旨は鴻上浅吉は弘子の法定代理人であるから同女の特別の委任を要せずして同女の告訴取消の行為をなすことができると主張するけれども、刑事訴訟法第二百四十条(代理人により告訴の取消ができる旨の規定)に所謂代理人は告訴権者の授権を必要とするものと解すべきであり法定代理人といえども本人の委任がない限り法定代理人として本人のなした告訴を取消すことはできないものと謂わなければならない。然らざれば被害者本人に告訴権を認めた趣旨を沒却することとなるであろう。これを要するに原判決が判断する如く鴻上浅吉が弘子の代理人として弘子のなした告訴を取消した事実は認められないから本件公訴の提起は適法であり従で原判決に所論の如き違法は存せず、論旨は理由がない。
(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

営利(結婚)誘拐被告事件
最高裁判所第2小法廷判決 昭和35年8月19日
最高裁判所刑事判例集14巻10号1407頁
最高裁判所裁判集刑事135号83頁
法曹時報12巻10号156頁
       主   文

 原判決中、被告人らに関する部分を破棄する。
 本件を広島高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 被告人両名の弁護人森川金寿、同曾我部東子の上告趣意第一点(そのうちの一のイ)について。
 所論は要するに、本件は親告罪であるが、第一審判決及び原判決は、本件公訴の提起前に告訴の取消があつた事実を看過し、実体判決をした違法があると主張するものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 しかし右の点につき、当裁判所は職権をもつて調査するに、第一、二審裁判所が、被告人ら両名及び第一、二審までの相被告人Aの三名に対し有罪とした本件結婚誘拐の罪が親告罪であることは、刑法二二九条の規定によつて明らかである。そこで記録を調べるに本件の告訴は昭和二九年九月二九日附府中警察署長宛提出された被害者B名義による告訴状(記録八八〇丁)によるものであるが(尤も、第一審証人府中警察署警察官Cは、別に同日Bの口頭による告訴がありその告訴調書が作成され、右告訴状は実際は昭和二九年一〇月一六、七日頃同警察署に提出されたものであつて、その日附を昭和二九年九月二九日に遡らせたものである旨供述しているが、右告訴調書なるものは記録上存在せず、右日附遡及の点もにわかに措信できない)、他面右Bの父Dは、本件の公訴提起前である昭和二九年一〇月八日、同警察署司法警察員Eに対し、口頭をもつて告訴の取消を為し、これに基づき右警察員による告訴取消調書が作成(刑訴二四一条、二四三条)されていることが明らかである(記録九八五丁)。
 そこで父Dのした右告訴取消が、第一審で無罪と判断された非親告罪である不法監禁の事実に対する部分の告訴取消だけではなく、第一、二審で有罪とされた本件親告罪である結婚誘拐の事実に関する告訴をも取消したものであり、且つその取消が被害者Bの代理人として為したもの(刑訴二四〇条)であるとするならば、本件結婚誘拐の事実に対する公訴の提起は、その適法条件を欠き無効のものといわなければならない。
 よつて以下右告訴取消の範囲並びに該取消が適法のものか否かについて検討する。
 (イ)先づ取消の範囲について考えるに、該告訴取消調書中の「告訴事実」の項において、「F、G及びA等が共謀して私の長女B当二十才を騙して誘い出し結婚して呉れと言うて娘Bを監視づきでF方に閉じ込めどうしても家に帰して呉れず云々」と記載しあり、次に「告訴取消事由」の項において、本件告訴を取消すに至つた事情と経緯が記載されてあるのであるが、その要旨は「Fの父H及び祖父Iが共に謝罪し来り、なお隣保班長であるJ、K、Lの三名並びにD方の親族Mらの奔走により本件を円満解決するようにとの勧説及び斡旋があり、Fの方で今後一切Fは娘Bを手がけぬこと、Bとは結婚しないことを約束したので、私も円満に話しを済ませ、告訴を取消すことを約束したので、告訴を取消したい」との趣旨の記載があつて、これらを総合すれば、本件告訴取消の対象範囲は告訴事実の全部、即ち誘拐行為より不法監禁の事実にわたる一連の全事実の告訴取消であるように解せられるのであつて、該調書冒頭前文記載の「不法監禁被疑事件について」との記載は右全事実を含めた事件名の表示に過ぎないものと解するを相当とするのではないかと思料されるのである。もしそれ右告訴取消は不法監禁の事実だけを取消したものであるとするならば、却つて右告訴取消調書中、誘拐行為については取消はしないとの明確な趣旨が記載されるを相当と考えられるのであるが、該調書中のいづこにもかゝる記載は発見できないのである。
 (ロ)次に告訴取消についてのDの代理権の有無について考えるに、前記告訴取消調書中の「告訴の年月日時」の項の「昭和二十九年九月二十九日午後六時」との記載と前記告訴状の日附とが一致している事実、及び本件事案のような場合、殊にその取消に至つた前記の事情経緯に鑑みると、告訴取消については、D家はその近親特に被害者本人であるBの意思を無視して取消すことは通常為し得ないところと思料されるのである。そして刑訴二四〇条の代理人による告訴取消の場合につき、当該代理権の存在の証明について格段なる要式を規定していないところ等から考えて、その代理権の存した事実は実質的に証明せられる限りにおいて、当該告訴取消は適法有効のものと解するを相当とすべきである。
されば本件告訴取消に、当のBの委任状の添付または該取消調書に「代理」の記載がないとの一事によつて直ちに該告訴取消を無効と断ずべきものではない。それ故、本件代理権の有無の事実は十分に解明されなければならないところである。しかるに記録によれば、Bは第一審において証人として尋問を受け、被告人らに対して厳重処罰を望む旨の供述(記録一二二丁)はあるが、、本件告訴取消に同意し父にその代理を任せたか否かの点についての判断の資料とはなし難く、また父Dは第一審で証人として尋問を受けているが、告訴取消についての代理権の有無の点については何等の供述なく、また被害者Bの兄Nの第一審証人としての供述中、告訴取消は父の独断でやつたものと思う旨の供述(記録一〇二九丁)もあるが、他方には、父から告訴取消について意見を求められたことがあり、別段これに対し意見を述べないで、父親に一任する形であつたとの趣旨の供述(記録一〇二九丁)をもしているのてあつて、これを素直に取れば告訴取消は、B本人をも含めてD家近親一同父Dにその処置を一任したものと解せられないことはないのである。これを要するに、父Dのした告訴取消につきB本人の同意の有無特にその代理権授与事実の有無につき明確にこれを何れとも断定するについての資料は存在しないのである。