児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

医療行為と性的傾向

 やっぱり傾向犯なんでしょうか。
 医療行為と準強制わいせつ罪を「わいせつの意図」で峻別するかのような判決です。
 

福岡高等裁判所判決平成21年5月28日
 (1) 「原判決の根本的な誤りについて」との所論について
 所論は,「被告人が行っていた乳房への接触,腟内への手指の挿入,陰部の画像撮影行為等は,外形的には診療行為としての側面を持つものであっても,その実態は,わいせつの意図の下に正当な診療行為を装って敢行されたものである。このような行為が,外形上,正当な診療行為と類似していることは当然のことであるから,原判決が,外形上正当な診療行為に類似した態様であることをもって,それが正当な診療行為である疑いをぬぐいきれないとして,わいせつの意図に出たものではないと判断したのは誤りである」という。
 しかし,原判決が本件起訴にかかる被告人の行為について,わいせつ意図があったとまで認めることができないとしたのは,それが外形上正当な診療行為に類似した態様であることだけを理由とするものではなく,診療録の記載,これを含む関係証拠によって認められる診療の経過,診療行為の態様,目的,診断内容,処置の方法,診療後の事情等に照らし,わいせつ意図があったと認めるには合理的疑いが残るとするものであり,その判断方法は,正当として是認することができる。
 すなわち,本件において,被告人が女性患者の乳房や膣内を含む陰部に触れた行為,その過程で陰部等の写真を撮影した行為は,産婦人科医としての正当な診療行為の過程でなされたものである。しかし,だからといって,そのような行為が常にあるいは当然に正当な診療行為と認められるものではないことは所論が指摘するとおりである。産婦人科医によるこれらの行為であっても,正当な診療行為と認める余地のないものであれば,その医師にわいせつ意図が推認され,準強制わいせつ罪が成立することになる。そして,行為者にわいせつ意図が認められるかどうかは,被告人が自認する場合のほかは,上記のような事情を総合して認定されることになる。上記のような接触行為の態様が診療行為としてはあり得ないものであったり,その状況において全く必要のないものであったりするなど,診療行為としてその必要性を合理的に説明できない場合や,撮影した陰部の写真等を診療業務や学術的研究とは関係なく,個人的に収集保存したり鑑賞したりしたような場合には,わいせつ意図を推認することができる。しかし,当該行為について,正当な診療行為とみる余地がある場合には,患者への説明が不十分であったり,患者のしゅう恥心やプライバシーへの配慮が欠けていたりして,診療方法として不適切とのそしりを免れないとしても,そのことだけで直ちに,わいせつ意図を推認することはできないというべきである。この点は,B事件及びC事件についてもいえる。
 これを本件における乳房触診,内診及び陰部等の撮影についてみると,上記のとおり,これらは,限られた診療時間内に行われた,問診から始まり,各種検査,診療録の記載,処置,治療薬の処方,患者への説明と進む通常の診察の流れの中で行われたものであって,わいせつ行為と認めるためには,それと認めるに足りるだけの特段の事情が求められるが,以下のとおり,被告人にわいせつ意図を推認するにはなお合理的な疑いを容れる余地があるというべきである