児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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(強姦罪の)法定刑の下限が二年で、強盗の五年より軽くなっているのも、このような事情、いいかえると被害者学的要素を考慮したものであって、性的な自由を財産よりも軽く見たわけではない。平野竜一「刑法各論の諸問題」法学セミナー 第205号p71

「性的な蓋恥感情・嫌悪感情が保護法益となっていると考えたとき、右の行為の犯罪性を理解できるように思われるしたがってまた、この場合の猥褻という概念も、被害者本人が性的な羞恥感情・嫌悪感情を持つようなものかどうかという観点から判断されなければならない。」というと、乳児には強制わいせつ罪は成立しないことになる。

平野竜一「刑法各論の諸問題6」法学セミナー 第205号
2まず、いわゆる性的な自由に対する罪から説明しよう。
?強姦罪は、性的な自由に対する罪の典型的なものである。
「暴行又は脅迫をもって一三歳以上の婦女を姦淫した」ときに成立する。
外国の立法では、「妻以外の姉女」に限っているものが多いが、わが法はこのような限定をおいていない。
暴行・脅迫は、抗拒を「不能」にする程度のものである必要はなく、抗拒を「著しく困難」にする程度のものであれば足りるとされている。
逆にいえば、ある程度の困難があっても、強姦罪は成立しない。
これは性的関係の微妙さを反映したものといえよう。
したがって、場合によっては、その程度であるかどうか判断が困難な場合もあるであろう。
法定刑の下限が二年で、強盗の五年より軽くなっているのも、このような事情、いいかえると被害者学的要素を考慮したものであって、性的な自由を財産よりも軽く見たわけではない。
それだけに、部会草案のように、『偽計又は威力」を用いての姦淫をひろく処罰しようというのには、疑問が大きい。
一三歳末浦の婦女に対しては、同意にもとづく場合でも、強姦罪が成立する。
この場合は、同意に法律上の意味を認めるべきでないという考えにもとづく。
これに対し、アメリカで認められている「制定法上の強姦罪」は、若干ニュアンスを異にする。
この場合は、婦女の年齢は、かなり高く(州によっては二○歳)定められているものが多い。
それは、早期に性的な経験を持つことから生じる悪影響から、婦女を守ろうとするものだといえよう。
部会草案は年齢を一四歳に引き上げたが、右のような考慮があったとすれば疑問である。
?暴行または脅迫をもって猥褻の行為をした場合が、強制猥褻罪である。
右の規定によると、強制猥褻罪は、暴行または脅迫を「手段として」猥褻行為を行なう場合であるようにみえるが、必ずしもそうではない。
むしろ「性的暴行罪」および「性的強要罪」とでも称すべきものである。
すなわち、とっさに婦女の陰部や乳房にふれる行為は、それ自体が強制猥褻罪を構成する。
したがって、強制猥褻罪を、性的自由に対する罪というだけでいいかも問題である。
暴行・脅迫を「用いた」場合は、たしかに自由に対する罪といいやすい。
しかし、とっさに陰部にふれた場合、「陰部にふれられない自由」が侵害された、というだけでは、自由の内容があまりにも無内容である。
性的な蓋恥感情・嫌悪感情が保護法益となっていると考えたとき、右の行為の犯罪性を理解できるように思われる
したがってまた、この場合の猥褻という概念も、被害者本人が性的な羞恥感情・嫌悪感情を持つようなものかどうかという観点から判断されなければならない。
まず、公然猥褻罪の場合の猥褻性は第三者の感情であるからこれとは必ずしも一致しない。
また、行為者自身の性的な感情は、犯罪成立の要件ではない。
最高裁判決は、婦女を裸にして写真をとった事件について、行為者の性的な欲望の満足のためではなく、復響のためであったから、強制猥褻罪は成立しないとした(最判昭和四五年一月二九日刑集二四巻一号一頁)。
しかし、被害者に性的な蓋恥心をいだかせることによって復響の目的をとげようとしたのであるから、たとい行為者に、自己の性的な感情を満足させる意図がなかったとしても、強制猥褻罪が成立するといわなければならない。
しばしば「猥褻の意思」が必要か、という問題の例として出されるのは、懲戒行為が被害者の性的な部分にふれた場合であるが、この場合のように懲戒の目的であったために、被害者が性的な差恥心を持つとは思わなかった、という場合と、右の判例の場合とはちがっているのである。