児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

傾向犯説というのは、保護法益の理解の差から出てくるんだよ(川崎一夫 演習ノート刑法各論全訂第2版)

 判例によれば強制わいせつ罪は風俗犯だということでいいですね

2 保護法益についての理解は,「わいせつな行為」の意義の把握にあたって影響を与える。
「わいせつな行為」という表現は社会的法益に対する罪の一種で
ある公然わいせつ罪の規定(刑174条)においても用いられており,その「わいせつ」の意義に関しても同じく社会的法益に対する罪の一種であるわいせつ文書頒布罪のそれと軌をーにして理解されている。
したがって,「徒らに性欲を興奮または刺激せしめ,且つ普通人の正常な性的基恥心を害し,善良な性的道義観念に反すること」を行うことが,公然わいせつ罪における「わいせつな行為」である。
強制わいせつ罪の[わいせつな行為」の意義に関して,本罪を社会的法益に対する罪に分類する第1説によるのであれば,公然わいせつ罪のそれと同義に解することにはなんらの矛盾も存しない。
しかし,本罪を個人的法益に対する罪に分類する第2説からは,このような定義をそのまま採用することはできないように思われる。
強制わいせつ罪における違法性は,被害者個人の性的自由ないしは基恥心をその意に反して害する点にもとめられるべきであるから「わいせつな行為」もそのような侵害行為として理解きれなければならない。

3 強制わいせつ罪は故意犯であるから,「わいせつな行為」であることの認識を必要とする。
このような故意のほかに,行為者が自己の性欲を刺激興奮させ,または満足させる意図を有していることを必要とするかどうかが問題とされている。
本罪の違法性は,このような主観的要素によって基礎づけられるとして,本罪を傾向犯ないしは目的犯と解する見解がある。
これによれば,たとえば婦人科医が診療行為として患者に対し接触する行為は,この主観的要素が欠落しているために,わいせつな行為とはいえないとされることになる。
この見解が患者の承諾によって違法性が阻却きれると考えるのではなし主観的要素の欠落によって違法性を肯定できないとするのは,本罪を個人的法益に対する罪ではなく社会的法益に対する罪とする理解を基礎にしていると思われる。
本罪を風俗犯とするかぎり,行為者の側において行為のわいせつ性の認識(故意)のほかに,性的風俗に敵対する態度が認められねばならないと考えられるからである。
このことは婦人科医についてだけではなしもちろん一般人が主体となっている場合にも同じことがいえる。
しかし,本罪を個人の性的自由に対する罪とする見解においては,このような主観的要素の有無にかかわらず,行為の違法性を認めることができると思われる。
したがって,報復・侮辱虐待の目的による場合でも本罪の成立を肯定してよいとされるであろう。
しかし,最高裁判例は,この場合に本罪の成立を否定している(最判昭和45・1・29)。
(川崎一夫)