児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

監禁罪の客体

 強制わいせつ罪について保護法益を自己決定権とか自由とかと理解するとき、乳幼児についてはどうなのか?

判例コンメンタール3P14
(逮捕及び監禁)
第20 条不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3 月以上7 年以下の懲役に処する。
2 保護法益
本条の罪の保護法主主は、個人の行動 (場所的移動)の自由であり、逮捕罪も監禁罪も、継続犯であると解されている。

3 客体
(1 ) 本罪の客体は、自然人に限られる。生まれたばかりの嬰児のように任意に行動する能力を有しない者については本罪の客体とはならないが、任意に行動する能力を有する者である以上、責任能力や意思能力等を欠く者であっても、本罪の客体となるとするのが通説であり、判例上も、生後1 年7 月の幼児に対する監禁罪の成立を肯定している(京都地判S45.10.12)

京都地方裁判所判決昭和45年10月12日
刑事裁判月報2巻10号1104頁
判例タイムズ255号227頁
判例時報614号104頁
別冊ジュリスト83号28頁
別冊ジュリスト117号24頁

弁護人の主張に対する判断
 弁護人は、監禁罪は人の行動の自由を侵害する行為であるが、本件被害者は、本件犯行当時生後一年七月を経たばかりの幼児であつて、行動の自由の前提要件とされる行動の意思が認められないから、本件監禁罪の客体とはならない、と主張する。
 おもうに、監禁罪は、身体、行動の自由を侵害することを内容とする犯罪であつて、その客体は自然人に限ら上るが、右の行動の自由は、その前提として、行動の意思ないし能力を有することを必要とし、その意思、能力のない者は、監禁罪の客体とはなりえないと解する説が有力にとなえられている。
 たしかに、監禁罪がその法益とされている行動の自由は、自然人における任意に行動しうる者のみについて存在するものと解すべきであるから、全然任意的な行動をなしえない者、例えば、生後間もない嬰児の如きは監禁罪の客体となりえないことは多く異論のないところであろう。
しかしながら、それが自然的、事実的意味において任意に行動しうる者である以上、その者が、たとえ法的に責任能力や行為能力はもちろん、幼児のような意志能力を欠如しているものである場合でも、なお、監禁罪の保護に値すべき客体となりうるものと解することが、立法の趣旨に適し合理的というべきである。
 これを本件についてみるに、前掲各証拠を総合すると、被害者は、本件犯行当事、生後約一年七月を経たばかりの幼児であるから、法的にみて意思能力さえも有していなかつたものと推認しうるのであるが、自力で、任意に座敷を這いまわつたり、壁、窓等を支えにして立ち上が、歩きまわつたりすることができた事実は十分に認められるのである。されば、同児は、その当時、意思能力の有無とはかかわりなく、前記のように、自然的、事実的意味における任意的な歩行等をなしうる行動力を有していたものと認めるべきであるから、本件監禁罪の客体としての適格性を優にそなえていたものと解するのが相当である。そして、その際同児は、被告人の行為に対し、畏怖ないし嫌忌の情を示していたとは認められないけれども、同児が本件犯罪の被害意識を有していたか否なは、その犯罪の成立に毫も妨げとなるものではない。
 弁護人の主張はこれを排斥する