児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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複数人が居住する家の居間で発見された○○について,所持を否認する被告人を現行犯人逮捕したことが適法とされた事例

 この程度の事情で所持罪の逮捕が適法になるということです。
 一人住まいだと厳しいですね。

      ○○○○○取締法違反被告事件
仙台高等裁判所判決平成15年10月30日
高等裁判所刑事裁判速報集平成15年172頁
 所論は,W方で発見された○○○○○は,Aを被疑者とする令状に基づく捜索により発見されたものであるから,Aの所持・所有にかかるものではなく,被告人の所持・所有にかかるものと断ずるだけの十分な根拠はないし,所持についての嫌疑を裏付けるための手順が尽くされたとは言い難いから,被告人を○○○○○所持罪の現行犯人として逮捕するだけの嫌疑はなく,逮捕の必要性も認められないので,被告人の逮捕は違法であり,この点は,緊急逮捕,通常逮捕のいずれであれ,同様である,というのである。
 原判決は,被告人が○○○○○に何らかの関わりがあるとうかがえたとしても,本件○○○○○が被告人の所持にかかるものとはいえないこと,W方には被告人以外に複数の者が居住していたという実態があり,かつ,本件捜索時にも6畳居間に女性が居たという事実があったことなどから,被告人と本件○○○○○の結び付きは明らかとはいえず,被告人の現行犯人逮捕はその要件を欠く違法なものであると判断する。
 そこで,改めて検討すると,原審及び当審で取り調べた証拠によれば,ビニール袋入りの本件○○○○○は,居間として使われていた6畳間のソファの上に,注射器2本とともにティッシュペーパーに包まれて無造作に置かれていたこと,本件捜索に当たった警察官らは,W方住宅はWの名義で借りられているものの,同住宅には被告人が住み,その他複数の者が出入りしていることを,事前に把握していたこと,本件捜索に赴いた際には,W方住宅では被告人ともう1人の女性が別々の部屋で寝ていたこと,被告人は住宅の居住関係について,Wはすでに居住しておらず,Wがいなくなってから自分が家賃を払って,中古車販売の事務所として使用しており,6畳間のステレオ,テレビや電気コタツは自分の物であるなどと,警察官に対し説明し,同住宅の住所を載せた被告人の名刺を見せたこと,本件○○○○○が発見された時に,被告人は警察官に対し,これは自分の物ではないが,誰の物かは言えないと述べていること,更にその時警察官が被告人の腕を見ると,○○○○○を使用したことによると思われる注射痕があったことが,それぞれ認められる。
 このような事実関係,すなわち,被告人が家賃を払って家財道具も置き,事務所として使用しているという説明から,W方住宅は捜索時には被告人が住んで使用していると判断されたこと,本件○○○○○は,そのような被告人が住む住宅内のソファの上にティッシュペーパーに包まれただけで,隠匿されていたという状態でなく,せいぜい一晩程度そこに置かれていたと判断できる状態であったこと,被告人の腕には○○○○○注射によると考えられる注射痕があり,また,被告人は本件○○○○○がそこにあることが意外であるといった態度を示さず,誰の物かは言えないと言っていた状況があったことからすれば,本件○○○○○は被告人が承知の下に置かれたもの,すなわち被告人が所持するものと判断するについて,十分な根拠があったというべきであるから,被告人を○○○○○所持の現行犯人として逮捕したことは適法である。
 なお,本件捜索時にW方には被告人以外の女性がおり,警察官らは複数の者が出入りしているとの情報を得ていたとしても,本件○○○○○が被告人の所有物であると認めることはともかく,少なくとも被告人が所持していると判断することに支障はないといえる。
 したがって,被告人の現行犯人逮捕は適法というべきであるから,それが要件を欠く違法なものであり,それに引き続き行われた採尿手続も違法性を帯びるとした原判決の判断は,是認できない。

大阪高等裁判所判昭和57年3月2日
判例時報1049号165頁
 しかしながら、原判決挙示の各証拠を仔細に考察してみても、被告人が暴力団榊原組若頭の指示を受けた同組組員とともに、昭和五四年八月上旬ころ、かねて賃借していた前記○○荘一六号室に、前記けん銃合計七丁と実包合計七〇発の入ったボストンバッグ及び猟銃一丁の入った布包を持ち込んだとする証拠は存在するものの、被告人において、これらが銃砲及び実包であるとの認識を有していたとの事実を認めるべき証拠は、遂にこれを発見することができない。そして、被告人と本件けん銃等とのかかわりあいとか、少なくとも当時における被告人と榊原組、なかんずく同組若頭との関係等が証拠上明確を欠いている本件において、被告人が、本件けん銃等を収納したボストンバッグ等の積載された乗用車を運転して自らが借りた○○荘一六号室に至り、同行した宮城をして右ボストンバッグ等を同室に持ち込ませたうえ、同人に同室の鍵を渡し「よろしく頼む。」とその保管方を依頼している事実があったからといって、そのことから、直ちに被告人において右ボストンバッグ等の在中物が銃砲及び実包であることを認識していたと推認することはむつかしいばかりでなく、その後の事態の推移、すなわち、右に対し、前記からは再三にわたり右ボストンバッグ等の保管方の確認とともに保管確保の依頼があったのに対し、被告人からの連絡は全くみられなかった状況からみても、被告人において右ボストンバッグ等の在中物が銃砲等であるとの認識がなかったと認められる余地がないとはいえないし、また、右○○荘一六号室の賃借の点にしても、その目的は、被告人が当時商事の商号で経営していた金融業の営業上の書類等を保管するためであって、現に、その部屋は、その後一貫してその目的に沿って使用されており、たまたま右物件が被告人において銃砲等であることを知らないまま、その保管場所として利用されたものに過ぎないと解することもできるのである。
 その他、原判決が掲げる全証拠を更に精査検討してみても、これらのみをもってしては、被告人が本件ボストンバッグ等の在中物を銃砲等であると認識していたと断定することは甚だ困難であって、原判決がその挙示する証拠だけで被告人を本件けん銃等の所持罪に問擬したのは、証拠に基づかずに事実を認定したものというべきであり、認定実と証拠との間に理由不備の違法があるといわざるをえず、この違法は刑訴法三七八条四号に該当することに帰するから、論旨は理由があり、原判は、この点において破棄を免れない。