児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

保釈された者について,刑訴法96条3項所定の事由が認められる場合には,刑事施設に収容され刑の執行が開始された後であっても,保釈保証金を没取することができる

 これはありうる話で、先日も、保釈事件が上告棄却されたときに被告人が引っ越していたことがありました。送達とかでバレちゃう。
 そのとき大阪高決S58を見て、収監されるまで保釈取消が無いことを祈りました。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=38255&hanreiKbn=01
事件番号 平成21(し)443
事件名 保釈保証金の一部を没取する決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
裁判年月日 平成21年12月09日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却
判例集巻・号・頁

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成21(く)461
原審裁判年月日 平成21年09月18日
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091211104044.pdf
本件抗告の趣意は,保釈された者が確定判決に基づき刑事施設に収容された後においても保釈保証金を没取することができるとした原決定は,大阪高等裁判所昭和38年(く)第6号同年2月2日決定・大阪高等裁判所刑事判決速報昭和38年1号20丁裏と相反する判断をしたというものである。原決定が上記判例と相反する判断をしたことは,所論指摘のとおりである。
しかしながら,刑訴法96条3項は,保釈された者について,禁錮以上の実刑判決が確定した後,逃亡等の所定の事由が生じた場合には,検察官の請求により,保証金の全部又は一部を没取しなければならない旨規定しているが,この規定は,保釈保証金没取の制裁の予告の下,これによって逃亡等を防止するとともに,保釈された者が逃亡等をした場合には,上記制裁を科することにより,刑の確実な執行を担保する趣旨のものである。このような制度の趣旨にかんがみると,保釈された者について,同項所定の事由が認められる場合には,刑事施設に収容され刑の執行が開始された後であっても,保釈保証金を没取することができると解するのが相当である。これと同旨の原決定は正当である。
したがって,所論引用の判例を変更し,原決定を維持するのを相当と認めるから,所論の判例違反は,原決定取消しの理由とならない。

阪高決S38.2.2というのはここに顔を出しています。

大阪高等裁判所決定昭和51年1月28日
高等裁判所刑事判例集29巻1号24頁
判例タイムズ335号357頁
判例時報812号124頁
法学研究(慶応大)51巻7号114頁
しかしながら、保釈保証金は、逃亡等所定の場合には没取の制裁があることによつて保釈中の者に心理的な強制を加え、公判廷への出頭及び適正な裁判の遂行を確保し、さらに禁錮以上の実刑判決確定後はその刑の執行を担保するためのものであるから、保釈を許された者が、禁錮以上の実刑判決を受けてその確定後に、刑の執行のため呼出を受けながら正当な理由がなく出頭せずあるいは逃亡したときは、刑訴法九六条三項によりその補償金の全部又は一部を没取することができるのであつて、たとえその決定前に収監されることがあつたとしても、没取の妨げとなるものではない。論旨は、収監後においては保釈保証金はその目的を失いこれを没取することはその趣旨を超えるものである旨主張するが、収監後はもはや将来の収監確保を考える余地のないことは当然であるけれども、前述のとおり、もともとこの場合の保釈保証金は、没取の制裁のもとに刑の執行を担保するためのものであるから、正当な理由がなく呼出に応じなかつた事実があれば、その制裁として、その後の収監の有無にかかわらず没取の許されることはいうまでもないことであつて、それが保釈保証金の趣旨を越えるものでないことも明白である、それゆえ、論旨の援用する当裁判所昭和三八年(く)第六号同年二月二日決定の見解には賛成することはできず、本件請求を認容した原判断は正当であつて、論旨は理由がない。

判例タイムズ335号357頁
 収監後における保釈保証金没取の可否については、本判決の掲記する大阪高裁昭和38年(く)第6号同年2月2日決定(公刊物不登載。横井大三・刑訴裁判例ノート(1)182頁でその内容が紹介されている。)が消極的立場をとつたことを契機として、横井大三・前掲書、坂本武志・捜査法大系261頁、須田賢・本誌296号370頁が積極説をとり(なお、香城敏磨・判例解説法曹時報27・9・304註5参照)、これに対して、綿引伸郎調査官は、刑訴規則91条1項2号との関係上、現行法上は本問につき消極に解したうえ、これを不合理として規則改正の必要があるとする見解を表明している(昭和43年度判例解説175頁)。
 この間にあつて、東京地決昭48・9・26判時734号111頁が積極説をとり、これに対する上級審である東京高決昭48・10・8月報5・10・1382もこれを支持する立場をとつている。本決定も積極説をとることを明らかにしたものである。