まあこう書いちゃうと、観念的競合にしかできなくて、もし裁判所が併合罪の判断になったときに、救えませんよね。
公訴事実記載例1
被告人は平成21年11月31日午前10時40分ころ,大阪市北区天満公園公衆男子トイレ内において,A(当時6歳)に対し,同児が13歳未満の児童であることを知りながら,同児をして,着用していたズボン及びパンツを引き下ろさせるなどしてその陰部を露出させ,性欲を興奮させる姿態をとらせ,これを所所携のデジタルカメラで撮影して電磁的記録媒体であるメモリーカードに視覚により認識することができる方法により描写し,もって13歳未満の児童に対し,わいせつな行為をするとともに,同児童に係る児童ポルノを製造した
じゃあ、併合罪にしてやろうとして、こう書くと、「撮影行為」がダブりますから、変な弁護士が来たときに、観念的競合と疑われます。結構、よく見る記載例です。
公訴事実記載例2
第1 被告人は平成21年11月31日午前10時40分ころ,大阪市北区天満公園公衆男子トイレ内において,A(当時6歳)に対し,同児が13歳未満の児童であることを知りながら,同児をして,着用していたズボン及びパンツを引き下ろさせるなどしてその陰部を露出させ,性欲を興奮させる姿態をとらせ,これ所所携のデジタルカメラで撮影してもって13歳未満の児童に対し,わいせつな行為をした第2 前記日時場所において、同児童に対してその陰部を露出させ,性欲を興奮させる姿態をとらせ,これを所携のデジタルカメラで撮影して電磁的記録媒体であるメモリーカードに視覚により認識することができる方法により描写し,もって同児童に係る児童ポルノを製造した
そういう疑いを生まないようにこう書くと、普通の裁判所と普通の弁護士なら、併合罪だと信じるでしょう。
公訴事実記載例3
第1 被告人は平成21年11月31日午前10時40分ころ,大阪市北区天満公園公衆男子トイレ内において,A(当時6歳)に対し,同児が13歳未満の児童であることを知りながら,同児をして,着用していたズボン及びパンツを引き下ろさせるなどしてその陰部を露出させ,もって13歳未満の児童に対し,わいせつな行為をした第2 前記日時場所において、同児童に対してその陰部を露出させ,性欲を興奮させる姿態をとらせ,これを所携のデジタルカメラで撮影して電磁的記録媒体であるメモリーカードに視覚により認識することができる方法により描写し,もって同児童に係る児童ポルノを製造した
しかし、撮影というのは、画像記録行為なわけで、それは従来はわいせつ行為と評価されていたので、記載例3というのは、記載例2の第1の強制わいせつ罪の事実をぶった切っただけですよね。
公訴事実記載例2
第1 被告人は平成21年11月31日午前10時40分ころ,大阪市北区天満公園公衆男子トイレ内において,A(当時6歳)に対し,同児が13歳未満の児童であることを知りながら,同児をして,着用していたズボン及びパンツを引き下ろさせるなどしてその陰部を露出させ,性欲を興奮させる姿態をとらせ,これを所携のデジタルカメラで撮影してもって13歳未満の児童に対し,わいせつな行為をした
そんなんで、処断刑期を10年から13年に引き上げるのはおかしいですよね。
でもね、↓を観念的競合だと主張すると、これまでの傾向として、裁判所は併合罪だと判断すると思います。そんな机上の理屈で破棄して被告人に得させたくない。
公訴事実記載例3
第1 被告人は平成21年11月31日午前10時40分ころ,大阪市北区天満公園公衆男子トイレ内において,A(当時6歳)に対し,同児が13歳未満の児童であることを知りながら,同児をして,着用していたズボン及びパンツを引き下ろさせるなどしてその陰部を露出させ,もって13歳未満の児童に対し,わいせつな行為をした第2 前記日時場所において、同児童に対してその陰部を露出させ,性欲を興奮させる姿態をとらせ,これを所携のデジタルカメラで撮影して電磁的記録媒体であるメモリーカードに視覚により認識することができる方法により描写し,もって同児童に係る児童ポルノを製造した
で、観念的競合と言わせるにはどうするかというと、
公訴事実記載例1
被告人は平成21年11月31日午前10時40分ころ,大阪市北区天満公園公衆男子トイレ内において,A(当時6歳)に対し,同児が13歳未満の児童であることを知りながら,同児をして,着用していたズボン及びパンツを引き下ろさせるなどしてその陰部を露出させ,性欲を興奮させる姿態をとらせ,これを所所携のデジタルカメラで撮影して電磁的記録媒体であるメモリーカードに視覚により認識することができる方法により描写し,もって13歳未満の児童に対し,わいせつな行為をするとともに,同児童に係る児童ポルノを製造した
とか、
公訴事実記載例2
第1 被告人は平成21年11月31日午前10時40分ころ,大阪市北区天満公園公衆男子トイレ内において,A(当時6歳)に対し,同児が13歳未満の児童であることを知りながら,同児をして,着用していたズボン及びパンツを引き下ろさせるなどしてその陰部を露出させ,性欲を興奮させる姿態をとらせ,これ所所携のデジタルカメラで撮影してもって13歳未満の児童に対し,わいせつな行為をした
を併合罪だと主張してみるのです。
判例は構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価するというのだから、どういう罪名がついているかは関係なく、行為の個数が決まるはずです。
最高裁判所大法廷判決昭和49年5月29日
しかしながら、刑法五四条一項前段の規定は、一個の行為が同時に数個の犯罪構成要件に該当して数個の犯罪が競合する場合において、これを処断上の一罪として刑を科する趣旨のものであるところ、右規定にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいうと解すべきである。
これを本件についてみると、被告人が本件自動車を運転するに際し、無免許で、かつ、酒に酔つた状態であつたことは、いずれも車両運転者の属性にすぎないから、被告人がこのように無免許で、かつ、酒に酔つた状態で自動車を運転したことは、右の自然的観察のもとにおける社会的見解上明らかに一個の車両運転行為であつて、それが道路交通法一一八条一項一号、六四条及び同法一一七条の二第一号、六五条一項の各罪に同時に該当するものであるから、右両罪は刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にあると解するのが相当であり、原判決のこの点に関する結論は正当というべきである。以上の理由により、当裁判所はこれに反する限度において所論引用の最高裁判所の判例を変更して、原判決の判断を維持するのを相当と認めるので、結局、判例違反の論旨は原判決破棄の理由とはなりえないものである。
そこで、触る行為と撮影行為は社会的見解上一個の行為ではなく、併合罪であって、併合罪関係の数罪を一個の訴因と記載したので不適法だと主張してみる。
そうすると、裁判所は、弁護人の主張を排斥して、一個の行為だ、撮影行為もわいせつ行為だ、不利益主張だ・・・というわけです。わからない難しいことを指摘されたときは弁護人の主張を屁理屈だと排斥して弁護人を攻撃しておく。仙台高裁H21.3.3はその典型。これで観念的競合の判例ができた。