児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

山口説(山口裕之「最高裁刑事破棄判決等の実情(上)−平成18年度−」判例時報 第1980号)を全面的に批判する

 まるで考えが足りなかった立法者の弁護をしているようですが。立法ミスだと言ってくれた方がすっきりします。
 こんな泥縄式の解釈だと最高裁も刑法が分かっていないという批判を受けることになります。最高裁が立法者と心中することはないでしょう。

山口調査官の説明はよく読むと、「実際上の不都合」(それも杞憂だ!)を強調するあまりに、理論上無理がある。これでは下級審が従わないのも無理はない。

山口裕之「最高裁刑事破棄判決等の実情(上)−平成18年度−」判例時報 第1980号
本決定は、右のとおりの判断に至った理由を特に判示していないが、次のような考え方によったものと思われる。
すなわち、「児童ポルノの製造」は、法七条三項のみならず、同条二項にも、同条五項にも規定されているところ、これらの条項では正に実行行為とされているもので、同条三項でも同様に考えるのが合理的である。

 なるほど「製造」とは児童ポルノを「新たに生成すること」であって、それは2項製造罪、3項製造罪、5項製造罪でも変わらない。
 しかし、3項製造罪の場合は、成立範囲を限定するために「姿態をとらせ」という犯人自身の行為を内容とする構成要件が付加されていることが法文上明かであるから、3項製造罪の実行行為は「姿態をとらせ」+「製造」であると理解するのが合理的である。
 むしろ、2項製造罪、3項製造罪、5項製造罪が同じく製造罪であるからといって、「製造」だけにとどまらず、その実行行為すべてが共通であるはずだとするのは不合理である。
 例えば、強姦罪準強姦罪の実行行為は、「姦淫」の点では共通であるが、強姦罪の実行行為にはは暴行脅迫が付加されているし、準強姦罪の実行行為には「心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせ」が付加されていて、両罪の実行行為が全部共通などとは言わないのと同じである。法文上、姦淫以外に付加されている行為要素も全部含めて実行行為となるのである。
 7条3項が「姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより」と規定している以上、3項製造罪の実行行為は「姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することに」に他ならないのである。

 なお、製造の各段階で製造罪の構成要件の具備が要求されることは大阪高裁h14.9.10も「本件の場合,児童ポルノ製造罪は撮影により既遂になると解するのが相当である。また,上記第1記載の児童ポルノの頒布,販売目的等による製造等を処罰することにした趣旨からみて,新たに児童ポルノを作り出すものと評価できる行為はいずれも製造に当たると解するのが相当であるところ,これを写真についてみてみると,上記のとおり児童ポルノ製造罪は撮影によって既遂となるが,現像,焼付けもまたそれぞれ製造に当たるものと解され,各段階で頒布,販売等の目的でこれを行った者には児童ポルノ製造罪の適用があり,ただ,先の行為を行った者が犯意を継続して彼の行為を行った場合には包括一罪となるものと解される。従って,本件では現像行為は不可罰的事後行為とはならないから,現像行為を製造とした原判決には法令適用の誤りはない」としているところであって当然の理である。包括一罪になるからといって、後の行為の要件が軽くなることはない。

山口裕之「最高裁刑事破棄判決等の実情(上)−平成18年度−」判例時報 第1980号
つまり、法七条三項にあっても、実行行為と観念すべきは、あくまで「児童ポルノの製造」であって(「児童に姿態をとらせ、これを描写することにより」といった要件を含めて実行行為を観念すると、当初の作成行為;例えば、前記の例でいえば、未現像フィルムの作成、メモリースティックの作成》のみが製造に当たるということになろう。)、「児童に姿態をとらせ、これを描写することにより」といった要件は、犯罪に該当するについて必要とされる実行行為のいわば付帯状況といったものと観念すべきものと思われる。

 唐突に出てくる「犯罪に該当するについて必要とされる実行行為のいわば付帯状況といったもの」とは何なのか?このような内容不明の構成要件要素を持ち出してこないと説明できないこと自体が、合理性を疑わせる。

 従来、構成要件における「状況」としては局外中立命令違反罪の「外国が交戦している際に」や鎮火妨害罪の「火災の際に」や水防妨害罪の「水害の際に」が有名であるが、これは犯人以外の者によって作出されたものであって、行為の要素は皆無である。

 しかし、3項製造罪の場合、「姿態をとっている際に」ではなく「姿態をとらせ」とされているのは明らかに製造犯人自身の行為である。「状況」の概念に含めることはできない。
 行為を内容とする構成要件要素は、実行行為である。

山口裕之「最高裁刑事破棄判決等の実情(上)−平成18年度−」判例時報 第1980号
そうすると、前記のハードディスクの作成についてみると、被告人について、ハードディスクの作成時には、「児童に姿態をとらせ、これを描写することにより」といった状況はないけれども、何もこの付帯状況は実行行為時に存しなければならないものとは考えられず、被告人がこのようにハードディスクを作成できたのも、正にに自ら「児童に姿態をとらせ、これを描写することによ」ったからというべきであって、右付帯状況を満たしているということができるわけである(したがって'被告人以外の者がこのメモリースティックの画像データをハードディスクにコピ−したり記憶させた場合、同人については「児童に姿態をとらせ、これを描写することにより」といった状況は観念できないから、法七条三項の罪は成立しないということになろう。その意味で、同罪は身分犯的な様相を呈するということになろう。)。

 ここでも唐突に「身分犯」と説明される。「姿態とらせて」を誰が「身分」と読めるのだろうか?
 刑法上の「身分」とは特定の犯罪の主体となりに必要とされる特殊な地位または状態をいうのであって、行為の前提であって、行為の要素は皆無である。

なお、3項製造罪について共犯事件が立件されたことは知らない。地裁の判決にはない。組織的な犯行は、提供・陳列という一定の目的をもって行われるからであろう。

山口裕之「最高裁刑事破棄判決等の実情(上)−平成18年度−」判例時報 第1980号
消極説によれば、法七条三項の罪に該当するのは、当初の作成行為だけということになろうが、未現像フィルムの作成やメモリースティックの作成は、それのみが企図されるということは考えにくく、通常、焼き付けられた写真やパーソナルコンピュータのハードディスクの作成、更にはフロッピーディスクやコンパクトディスクの作成までが企図されるのであり、にもかかわらず、当初の作成行為より後の作成行為は一切同罪の問題でないとするのは、非常識との感が強い。

 第一次製造と第二次製造を包括一罪にするのであれば、第一次製造のみを処罰できれば実際上の不都合はない。
 「後の作成行為は一切同罪の問題でないとするのは、非常識」というのは不可罰的事後行為の概念一般の問題であって、3項製造罪のみの問題ではない。

山口裕之「最高裁刑事破棄判決等の実情(上)−平成18年度−」判例時報 第1980号
それに、当初の作成行為に係る児童ポルノは、早晩消える運命にあり(いつまでも未現像フィルムのままで置かれることは考えにくく、また、メモリースティックも、容量が限られていることなどから、通常ほどなくしてその画像データをパーソナルコンピュータのハードディスクにコビーし「記憶させ」、'メモリースティックは上書きなりして使い回すものと思われる。)、通常押収されるのは後の作成行為に係る複写物と思われ、それは拡散の危険性のあるものであるのに、消極説によれば、犯罪行為によって生じた物とはいえないから、刑法一九条による没収もできないこととなり(法には特別の没収規定はない。)、問題がある.当初の作成行為については公訴を維持するだけの証拠が収集できないといった事態も考えられる。

 今になって中間媒体は「消えもの」だと言い出してはならない。
 携帯電話本体やネガフィルムのように、中間の媒体でも、ある程度の永続性があって、流通拡散する危険があるものは存在する。
 第一次製造(中間媒体)と第二次製造とを単純一罪にしないで包括一罪とする意味は中間の媒体の流通拡散する危険が看過できないからであって、第一次製造(中間媒体)と第二次製造を包括一罪にしておいて、中間媒体について「当初の作成行為に係る児童ポルノは、早晩消える運命にあり(いつまでも未現像フィルムのままで置かれることは考えにくく、また、メモリースティックも、容量が限られていることなどから、通常ほどなくしてその画像データをパーソナルコンピュータのハードディスクにコビーし「記憶させ」、'メモリースティックは上書きなりして使い回すものと思われる。)」などというのであれば、それは包括一罪説の自殺である。包括一罪説の形成過程を知らない無責任な説である。


 たとえ第一次製造の媒体が現存しなくても、第二次製造の媒体が存在することは、第一次製造の媒体が存在したことの重要な証拠となる。
 例えば、携帯電話用のminisdに記録された児童ポルノ画像が存在している場合は、携帯電話本体にも児童ポルノ画像が記録されていたことは容易に推認できるから、携帯電話本体の製造にかかる3項製造罪を認定することができ、証拠が集まらないという不都合はない。