児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

お財布携帯は、支払い用カードか?

http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0612/20/news103.html
FeliCaの暗号が破られた?――ソニーは完全否定
ファクタ出版は、同社が発行している経済誌「月刊FACTA」の1月号(12月20日発行)に「ソニー 暗号破られた『電子マネー』」という記事を掲載した。

 記事の内容は、電子マネーEdy」「Suica」や、おサイフケータイクレジット「iD」「QUICPay」「VISATOUCH」といったサービスに採用されている非接触IC「FeliCa」の暗号が破られたというもの。研究者らは情報処理推進機構IPA)に連絡し、IPAも暗号が破られたことを確認した、としている。

 有体物なら何でも良さそうなものですが、刑法は「電磁的記録」のうち「カード」に限定しちゃっているんですね。

刑法
第163条の2(支払用カード電磁的記録不正作出等)
人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する電磁的記録であって、クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカードを構成するものを不正に作った者は、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。預貯金の引出用のカードを構成する電磁的記録を不正に作った者も、同様とする。
2 不正に作られた前項の電磁的記録を、同項の目的で、人の財産上の事務処理の用に供した者も、同項と同様とする。
3 不正に作られた第一項の電磁的記録をその構成部分とするカードを、同項の目的で、譲り渡し、貸し渡し、又は輸入した者も、同項と同様とする。

夏井高人「【ネットワークと法の中心課題 11】 支払用カード罪新設のための刑法一部改正とその問題点」判例タイムズ1061号 64頁2001年8月15日
ここで不正作出の対象となるものは、「クレジットカード」又は「預貯金の引出用のカード」「その他の代金又は料金の支払用のカードを構成する」電磁的記鏡である。ここでいうカードは、立法の趣旨からして、物理媒体としてのカードを指すものと解すべきであるから、ネット上で流通する純然たるデジタル・データとしての(バーチャルを)カードを含まない。物理的なカードの構成要素となっている電磁的記録のみが本条の対象となる電磁的記録である。この物理的なカードは、外観上、有価証券であるとわかるものであることを要しないが、「代金又は料金の支払用」のカードのみが構成要件となっているので、有価証券としての実質を有しているものであっても、「代金又は料金の支払用」のカードに該当しないものは含まれない。
・・・・・
この間題を有価証券に相当する電磁的記録に限定して考察してみると、有価証券に相当する電磁的記録は、161条の2の電磁的記録に含まれないのである以上、それ自体としては、刑法上何らの保護も受けていないことになる。このことは、163条の2ないし5の新設によって、支払用カードの構成要素となっている電磁的記録に関連する犯罪行為が処罰されることになっても何ら変化はないのである。純然たる電磁的記録としての有価証券に相当する電磁的記録は、刑法的保護の外に置かれたままとなっている。このことは、例えば、物理カードを持たない純粋の電子的な有価証券(電子マネーなどを含む)が実際に存在し、今後も増加するであろうということを考えると、かなり大きな問題であるということができる。

文献としてはこんなところか

  • ポイント整理 実務のための刑法各論ノート(4)支払用カード電磁的記録に関する罪(163条の2〜163条の5) / 清水 真 捜査研究. 54(9) (通号 650) [2005.9]
  • 支払用カードの保護に関する刑法の一部改正 (特集 最近の刑事立法の動きとその評価--刑事実体法を中心に) -- (第二部/各論) / 今井 猛嘉 法律時報. 75(2) (通号 927) [2003.2]
  • 実例捜査セミナー マレイシア人クレジットカード偽造グループによる支払用カード電磁的記録不正作出事件の捜査処理について / 澤田 潤 捜査研究. 52(2) (通号 617) [2003.2]
  • 法令解説 クレジットカードなどの支払用カードの偽造犯罪に対する処罰規定を整備--刑法の一部を改正する法律 / 長瀬 敬昭 時の法令. (通号 1656) [2001.12.30]
  • 刑法の一部改正 支払用カード電磁的記録に関する罪の新設--支払用カードに対する社会的信頼を確保するための罰則の整備等 / 刑事法令研究会 Valiant. 19(11) (通号 218) [2001.11]
  • クローズアップ刑事法(7)刑法の一部を改正する法律--支払用カード電磁的記録に関する罪 / 川端 博 法学教室. (通号 253) [2001.10]
  • 緊急特別座談会 支払用カードの偽造等に対処するための刑法の一部改正をめぐって (刑事立法の動向) / 川端 博 ; 西田 典之 ; 河村 博 他 現代刑事法. 3(10) (通号 30) [2001.10]
  • 「刑法の一部を改正する法律」の概要--支払用カードに対する社会的信頼確保のための罰則整備 (特集 第151回国会成立の警察関係法律の解説) / 長瀬 敬昭 Keisatsu koron. 56(9) [2001.9]
  • 支払用カードの偽造等の犯罪に対処するための刑法改正の概要 / 長瀬 敬昭 旬刊金融法務事情. 49(21) (通号 1619) [2001.8.25]
  • 刑法の一部を改正する法律の概要--支払用カードの偽造等犯罪に対処するための罰則整備 / 井上 宏 NBL. (通号 719) [2001.8.15]
  • ネットワークと法の中心課題(11)支払用カード罪新設のための刑法一部改正とその問題点 / 夏井 高人 判例タイムズ. 52(18) (通号 1061) [2001.8.15]
  • 立法短信 支払用カードの偽造等の犯罪に対処するための刑法改正に関する法制審議会の答申について / 井上 宏 ジュリスト. (1195) [2001.3.1]
  • IT時代の支払用カード犯罪対策新法--偽造等に係る刑法改正案要綱について / 長井 圓 クレジット研究. (25) [2001.3]
  • 支払用カードの偽造等の犯罪に対処するための刑法改正に関する要綱案(骨子)の概要 / 長瀬 敬昭 旬刊金融法務事情. 49(4) (通号 1602) [2001.2.15]
  • Newsで学ぶ擬律判断入門(15)1支払い用カード電磁的記録不正作出罪・同供用罪及び窃盗罪 2通貨偽造罪・同行使罪 / 刑事実務研究会 Keisatsu koron. 60(5) [2005.5]