掲示板開設行為が正犯だったり、従犯だったりするので、再検討しています。
判例状況としては、児童ポルノについての東京高裁の厳しい判決(上告中)があって、その理屈でいえば、名誉毀損や陳列罪だけじゃなくて、流布型の犯罪一般について、掲示板管理者を正犯として検挙することが可能になっています。
たとえば、著作権侵害の内容を放置している掲示板管理者を著作権法違反で検挙するとか
も可能な状況です。
2 「陳列」に不作為は含まない
「陳列」(7条1項)とは作為をいい、不作為を含まないことは国語辞典でも明かである。
また、同項で同一法定刑で規定されている「頒布」「販売」「貸与」、2項で規定されている「製造」「所持」「運搬」「輸入」「輸出」も文理上すべて作為を予定している。(児童ポルノ頒布等)
第7条
(1) 児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
(2) 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
(3) 第一項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。大辞林 第二版 (三省堂)
ちんれつ 【陳列】
(名)スル
(人に見せるために)物品を並べること。
「―棚」「―室」「商品を―する」にもかかわらず、不作為をも処罰することは、罪刑法定主義に反するといわなければならない。
かつ、掲示板の管理者にこのように重い責任(知らないうちに掲載された内容について故意の刑事責任を負う)を負わせることは、表現の自由に対する過度に広汎な規制であるから、公然陳列罪の不真正不作為犯を認めることは憲法21条1項に違反する。一般に公然陳列罪の既遂時期は、不特定多数の者が認識可能になった時点(わいせつ図画の罪について最高裁決定H13.7.16)である。
最高裁決定H13.7.16
同条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される。陳列罪の実行着手から既遂時期をみると、実行行為の本質は、不特定又は多数の者が認識できない状態から、不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことである。
「見えない状態」から「見える状態」にすることである。
これは児童ポルノ罪の保護法益(=被描写者の権利)からみても明かである。児童ポルノの被描写者は、すでにその姿態が「児童ポルノ」画像に納められているのであるが、それが動かない限り・拡散しない限り法益侵害はないから犯罪は成立しない。公然陳列行為によって、さらなる拡散があり、新たな法益侵害が生じるから、公然陳列罪として処罰されるのである。
不作為の場合は、このようなあらたな法益侵害や、「見えない状態」から「見える状態」にすることは無いから、公然陳列行為は認められない。3 判例
わいせつ物陳列の裁判例によれば、陳列罪の実行行為の重要部分はアップロード行為だという。大阪地裁H11.2.23
大阪地方裁判所第二刑事部、平成10年(わ)第6382号 わいせつ図画公然陳列被告事件、平成11年2月23日判決(確定)*1
4 弁護人の主張(3)について、刑法1条1項にいう「日本国内において罪を犯した」場合とは、犯罪構成事実の全部が日本国内で実現した場合に限られず、その一部が日本国内で実現した場合も含むと解される。
本件においては、日本国内において、わいせつな画像のデータのアップロード行為、すなわち、わいせつ図画の設置行為について実行の着手があり、また、右画像を不特定多数人に閲覧させるための会員制度の設営行為も日本国内からなされ、現実に日本国内において不特定多数人が右データを再生閲覧しているのであるから、犯罪構成事実の重要部分が日本国内で実現しており、刑法1条1項に規定する国内犯に該当するということができる。大阪高裁H11.8.26も法益侵害状態の「作出」を要件としている。放置は含まない。
特に、「アクセスしてきた不特定多数の者に右データを送信して再生閲覧させたことをも認定、判示しているのは、それが既遂に達するための不可欠な要素であるとして判示したとみるべきではない」としていることは、閲覧不可能な状態から閲覧可能な状態にすることのみを陳列罪の実行行為ととらえていることが明らかである。
被告人の行為は、第三者によって作出された陳列の結果を、放置していたにすぎない。
同じく状態犯である窃盗犯に例えると、第三者による窃盗被害品を、情を知って支配した場合、独立の犯罪として「盗品等に関する罪」に問われる可能性はあっても、窃盗罪の正犯・共犯は成立しないのと同じ理屈である。大阪高裁H11.8.26
【事件番号】大阪高等裁判所判決/平成9年(う)第1052号
【判決日付】平成11年8月26日
さらに、所論は、原判決は、本件ハードディスクにつき電話回線を使用して閲覧可能な状況を設定したことに加え、わいせつ画像の情報にアクセスしてきた不特定多数の会員らに右データを送信して再生閲覧させ、了知させたことも公然陳列の実行行為の一部としてとらえているが、これは、従来、抽象的危険犯として理解されてきたわいせつ物公然陳列罪を、他者の行為が介在する一種の結果犯と構成するもので、同罪に異質な類型を持ち込む矛盾を犯すものである、という。
しかし、すでに説示したように、本件におけるわいせつ物公然陳列罪が既遂に達した時期は、被告人が、わいせつ画像データを記憶・蔵置させたハードディスクをホストコンピューターの管理機能に取り込み、会員による右データへのアクセスが可能な状態にした時点であると解すべきであり、原判決が、右のアクセス可能な状態に置いたことのみならず、アクセスしてきた不特定多数の者に右データを送信して再生閲覧させたことをも認定、判示しているのは、それが既遂に達するための不可欠な要素であるとして判示したとみるべきではなく、本件において被告人がわいせつ物を公然陳列したという犯行態様を、その犯情にかかわる結果部分を含め、具体的に認定、適示したに過ぎないとみるのが相当である。したがって、原判決の右認定が、同罪を所論のような結果犯と構成したものとは認められないから、所論はその前提を欠いており失当である所論は、要するに、被告人が、わいせつ画像データをコンピューターのハードディスク内に記憶・蔵置させて、ホストコンピューターの管理機能に組み込み、電話回線を使用して、パソコン通信の設備を有する者が閲覧可能な状況を設定し、これにアクセスしてきた者に、右データを再生閲覧させた方法は、刑法一七五条にいう「陳列」に該当しない、というのである。
しかし、わいせつ物を公然陳列したというためには、これを不特定又は多数の者が閲覧することができる状態に置くことをもって足りるところ、本件において、被告人は、わいせつ画像データをコンピューターのハードディスク内に記憶・蔵置させて、ホストコンピューターの管理機能に取り込み、会員が、電話回線を通じてパソコンにより被告人のホストコンピューターのハードディスクにアクセスしさえすれば、いつでも、容易に右ハードディスク内に記憶・蔵置されたわいせつ画像のデータをダウンロードすることなどにより、右データをわいせつ画像としてパソコンのディスプレイ上に顕現させ、閲覧することが可能な状態を作出し、もってわいせつ画像が社会内に広範に伝播することを可能にし、健全な性風俗が公然と侵害され得る状態を作出したものであるから、被告人が、本件ハードディスクを右のような状態に置き、ホストコンピューターにアクセスしてきた不特定多数の会員に、右データをダウンロードさせて再生閲覧させた所為が、わいせつ物の陳列に該当するとした原判決の認定・判断に誤りはない。なお、弁護人は、弁論で、本件においては、典型的なわいせつ物公然陳列罪の特徴として認められる陳列と観覧の「同地性」や情報伝達の「同時性」がみられないから、同罪は成立しないと主張するが、本件においては、被告人によって前記のとおり健全な性風俗が公然と侵害され得る状態が作出されている以上、陳列という要件は満たされているというべきであって、所論の「同地性」や「同時性」が、同罪成立のための必要不可欠な要件になるものと解することはできない。また、本件所為が陳列に該当するとして、わいせつ物公然陳列罪の成立を認めることが、弁護人が弁論で指摘するように事後法の禁止や法津主義の原則に反するなどといえないことは明らかである岡山地裁H9.12.15も同旨である。
岡山地裁H9.12.15
【事件番号】岡山地方裁判所判決/平成9年(わ)第220号*2
【判決日付】平成9年12月15日
【参照条文】刑法175
【参考文献】判例タイムズ972号280頁
判例時報1641号158頁
二 わいせつ図画の存在について
刑法一七五条に言う「公然の陳列」とは不特定又は多数の者が観覧しうる状態に置くことと解するべきである。4 本件の場合
まず、画像掲示板の現象を観察してみると、次のような経過である。アップロード者の公然陳列罪については、アップロード開始時に着手、閲覧可能時に既遂が認められる。
ところで、アップロード者と連絡のない画像掲示板の管理人に何らかの作為義務が発生するとすれば、それは管理者を含む一般人が閲覧可能になった後である。
しかも故意責任を問うとすれば、管理人が当該画像を現実に認識した後である。
しかし、たとえば、「管理人が当該画像を現実に認識した時」ないしはそれ以後に作為義務が発生するとしても、「その物の内容が不特定又は多数の者が認識できる状態に置かれた状態」は、その作為義務発生の前後で全く変化がない。
管理者が当該画像を認識しようがしまいが、作為義務が発生しようとしまいが、作為義務違反が認められようがいまいが、全く変化がない。「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くこと
という判例は「その物の内容を不特定又は多数の者が認識できない状態から、認識できる状況に置くこと」を意味するから、画像掲示板の管理者の不作為では、「その物の内容を不特定又は多数の者が認識できない状態から、認識できる状況に置くこと」は認められないから、陳列罪の実行行為は認められない。
公然陳列罪は状態犯である。既遂後に残る法益侵害状態は陳列罪で評価されており別罪を構成しない。既遂後の関与に共犯が成立する余地はない。
だとすると、本件は窃盗既遂犯人を既遂後に見つけながら止めなかったスーパーマーケットの店員や殺人既遂後に殺人犯人を見つけながら止めなかった警察官の責任と同じであって、窃盗正犯の責任を問うことは無理である。7 着手時期
陳列罪の着手時期の解釈においても、原判決は早すぎる。
公然陳列罪の着手時期の判例を知らないが、陳列=画像を不特定多数に閲覧可能にすることでってそれによって保護法益侵害(児童の権利)の具体的危険性が認められる時点であるといえる。大辞林 第二版 (三省堂)
ちんれつ 【陳列】
(名)スル
(人に見せるために)物品を並べること。
「―棚」「―室」「商品を―する」インターネットホームページによる公然陳列の場合は、当該画像のアップロード開始時である。
何故なら、それより遡るとすれば、ネット接続時、掲示板表示時等が観念できるが、いずれも法益侵害の危険性が看取できないし、陳列の準備行為を処罰する陳列目的所持罪・陳列目的製造罪の成立範囲が不当に狭くなるからである。
他方、それより後の時点としては、アップロード完了時が観念できるが、それでは既遂時とあまりにも近接するので不都合である。
しかるに原判決は、掲示板開設行為を着手とする。なお,更に付言すると,被告人は,児童ポルノ画像を本件ディスクアレイに記憶・蔵置させてはいないが,前記のように,金銭的な利益提供をするなど,より強い程度のものではなかったとはいえ,本件掲示板を開設して前記のように前記送信を暗に慫慂・利用していたのである。この行為は,陳列行為そのものではないから,開設行為以外の点は原判決の犯罪事実にも記載されていないが,陳列行為の前段階をなす陳列行為と密接不可分な関係にある行為であるから,これも広くは陳列行為の一部をなすものと解される。そして,これが作為犯であることは明らかである。
これでは、犯人が児童ポルノ画像を持っていないにもかかわらず、まだ児童ポルノ画像が製造されていない(法益侵害の危険性がない)かもしれないにもかかわらず、児童ポルノ陳列罪の着手が認められることになり、早すぎる。
掲示板開設行為自体はどうみても適法であるのに、それを実行の着手とするのは表現の自由に対する過度に広汎な規制であるから、公然陳列罪の不真正不作為犯を認めることは憲法21条1項に違反する。8 表現の自由との関係
インターネット上に掲示板を設置することは表現の自由(憲法21条)によって保障される。
ところが、掲示板に違法となるおそれがある内容を掲載された場合に、被害者からの削除要求もないのに即時に削除義務を負わせるときは、管理者は四六時中監視するか、疑わしい場合には削除するか、掲示板の設置を断念するかという選択を迫られることになり、また、投稿者の投稿を差し控えるようになった、インターネット上の表現行為が著しく萎縮する。
また、管理者が負う責任は、児童ポルノ陳列罪にとどまらず、わいせつ図画、名誉毀損罪、信用毀損罪にも広がる。素人にこれらの内容の削除を求め、適切に削除しなければ故意犯が成立するというのは、不可能を強いるものである。
これでは、ネット上の表現の自由が保障されているとはいえない。
従って、表現の自由の観点からも、掲示板管理者の不作為が刑事責任は極めて限定的に解さなければならない。さらに、画像掲示板への投稿の場合、投稿者を児童ポルノ公然陳列罪の正犯として処罰すれば、プロバイダーによる削除も期待できるから、立法目的は達成できる。掲示板管理者を処罰する必要はない。
9 文献
わいせつ図画所持罪については、目的を持って機材を用意していても、わいせつ文書が存在しない以上、成立しないという。
陳列罪についても同様である。
条解刑法P45410 公然わいせつ罪に関する文献・判例
(1) 最高裁S56.7.17
公然わいせつ犯人に、照明を当てる行為は幇助である。およそ劇場なるところは、窓がないから、照明がなければ暗黒であって、舞台上でわいせつ行為が行われようと、誰にも見えない。照明があって初めて公然性を充たす。それでも、判例では照明行為は幇助とされる。
本件でも、投稿者(正犯)が投稿した児童ポルノ画像を仮に故意に放置したとしても、投稿者による陳列行為に、場所を提供し続けているだけだから、暗黒の中に置かれたわいせつ物に照明を当ててるのと同じ行為である公然わいせつ幇助被告事件の略式命令に対する非常上告事件
【事件番号】最高裁判所第2小法廷判決/昭和56年(さ)第3号
【判決日付】昭和56年7月17日(2) 福岡高裁S27.9.17
【事件番号】福岡高等裁判所判決/昭和27年(う)第933号、昭和27年(う)第934号、昭和27年(う)第935号
【判決日付】昭和27年9月17日