児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

製造罪の罪数

 こんなことを主張したことがあります。
 

 被撮影者が複数いる場合、原判決は被撮影者1人1罪としているが、製造罪を個人的法益としても包括一罪とすべきである。
 すなわち、たとえ児童ポルノの罪の保護法益を何らかの個人的法益としても、販売罪は反復継続を予定していることから、複数被害者がいても包括一罪とされる。個人的法益ではあるが、1人1罪ではなく包括一罪とされる程度のものだというのである。(弁護人は児童保護に欠けると思うが、各地の裁判所はそういうのである。)

鳥取地裁刑事部
弁護人:奥村 徹
平成13年8月28日宣告
平成13年(わ)第93号
 ところで,児童ポルノ(児童回春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の俸護等に関する法律2条3項に定義された児童ポルノをいう。)を販売等する行為は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与えるのみならず,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に事大な影響を与えるものであるから,かかる行為を規制,処罰することとしたものであって,対象とされた児童の保護を主たる目的としているとはいえ,このことから当然に被撮影者の児童1名につき1罪が成立するものではなく,罪数を決するに当たっては,その構成要件的評価によるべきところ,児童ポルノの販売ないし販売目的による所持は,反復継続する行為を予想するものであるから,同一の意思のもとに行われる限り,個々の販売や所持は,これを包括して1罪と解するのが相当である。

 だとすれば同様に、製造罪も反復継続されることが予定されているのであるから、複数児童が撮影されても包括一罪である。製造は販売等の目的を持って行われる場合にのみ処罰されるのである。販売を継続反復させるためには、製造も継続反復させなければ、品切れ・新作切れになるから、製造罪も反復継続を予定していると言わざるを得ないのである。

 もとより児童ポルノ法の根源である子供の権利条約は、児童の商業的搾取を禁止しようとするものである。「商業的」というからには、継続反復することが禁止されていることは明らかである。
 実際、市中に出回る児童ポルノにはシリーズものとして継続して製作されているものも多いし、被告人もまさにかかる撮影を重ねながら、継続反復を意図していたのであるから、製造罪も反復継続を予定していたというべきである。

 さらに、大阪地裁判決は、「販売罪は、披撮影者である児童ごとに犯罪が成立するものではなく、基本的には、児童ポルノ販売行為を基準に罪数が判断される」としている。

事件番号:平12年わ第2321号
大阪地方裁判所第11刑事部2係判決
弁護人:奥村 徹
平成一三年二月ニー日宣告
第三 訴因変更の可否について
 弁護人は、児童ポルノ販売罪については、被撮影者たる個々の児童の権利が保護法益であり、被撮影者ごとに犯罪が成立するところ、当初の起訴状訴因の事実(判示二、四の販売事実)と六月一六日付け訴因変更請求書記載の事実(判示一ないし五の販売事実)は公訴事実の同一性を欠くから訴因変更を許可されるべきではなかつた旨主張する。
 しかし、児童ポルノ販売罪は、披撮影者である児童ごとに犯罪が成立するものではなく、基本的には、児童ポルノ販売行為を基準に罪数が判断されるうえ、本件のような形態の事案については、販売の日時、場所、相手方、販売対象のビデオテープが異なつても全体として包括一罪と解すべきであるから、当初訴因と変更請求された訴因との公訴事実は同一であり、前記弁護人の主張は採用できない。
 その他、弁護人が訴因変更に閑し主張する点はいずれも採用できない・

 この論法が正しければ、製造罪は、基本的には、児童ポルノ製造行為を基準に罪数が判断されるはずである。

 ところで、児童ポルノの製造とは、「児童ポルノを新たに作り出すこと」であり、新規の撮影はもちろんのこと、既存のメディアを編集して創り出すことも含む。必ずしも児童を前にしての撮影行為に限定されないことに注意する必要がある。

警察庁執務資料
イ 製造
「製造」とは、第2条第3項に定義する「児童ポルノ」(第4を参照すること)を新たに作り出すことをいう。その手段は特に限定されていない。作り出された物が新規な物であるかどうかは、社会通念によって決定されるほかはない。

 つまり製造というのは、撮影→編集→オリジナルテープ・原版完成までを包摂する概念である。撮影は、被撮影者ごとに行われる可能性があるが、それは製造罪の実行行為の一部分であり、それ以後は複数児童分まとめて行われる。
 実際、児童ポルノに限らずビデオ作品や写真集一般について、製造工程のうち、編集と原版作成に手間がかかるのである。(これを統轄するのが(映画)監督である。)
 図示するとこうなる。
 だとすれば、大阪地裁判決にしたがえば「製造行為を基準に罪数を判断される」のであるから、罪数判断においては、被撮影者の数ではなく、「製造工程の数」すなわち、出来上がった(又は販売する目的だった)「児童ポルノの数」で判断すべきである。
 ある児童ポルノに、2人の児童が撮影されていれば、2人一緒に撮影した場合でも、別々に撮影して編集した場合でも、2罪ではなく包括一罪である。
 でないと、新規撮影は全く行わずに、既存メディア(ビデオ、写真等)の編集のみで社会通念上の新たな児童ポルノが創り出された場合に、撮影行為基準では破たんするのである。(「行為」がないことになる。)

 したがって、本件でも、製造された児童ポルノのタイトル数によって罪数を決めるべきであり、やはり、被撮影者の数で決めるのは法令の適用を誤ったものである。

 結局、数人の児童に対して撮影行為を行った場合は、併合罪ではなく包括一罪(せいぜい、児童ポルノ1タイトル1罪)として処理すべきである。

 この結論がおかしい、製造罪は個人的法益侵害として1人1罪とするのであれば、販売・頒布についても、同様に被撮影者1人1罪とすべきことを宣言すべきである。製造罪と販売罪はどう考えても同じ法益であり、同じ程度に児童を保護するものだからである。
 これは同法が定める児童ポルノ販売罪の場合、複数児童が撮影されていても、数回販売が繰り返されても、包括一罪である。1万人、1億人撮影されていても、数万回、数億回反覆継続して販売しても1罪とされる。個人的法益といってもこの程度である。

事件番号:平成12年わ第2321号
大阪地方裁判所第11刑事部2係判決
平成一三年二月ニー日宣告
第三 訴因変更の可否について
 弁護人は、児童ポルノ販売罪については、被撮影者たる個々の児童の権利が保護法益であり、被撮影者ごとに犯罪が成立するところ、当初の起訴状訴因の事実(判示二、四の販売事実)と六月一六日付け訴因変更請求書記載の事実(判示一ないし五の販売事実)は公訴事実の同一性を欠くから訴因変更を許可されるべきではなかつた旨主張する。
 しかし、児童ポルノ販売罪は、披撮影者である児童ごとに犯罪が成立するものではなく、基本的には、児童ポルノ販売行為を基準に罪数が判断されるうえ、本件のような形態の事案については、販売の日時、場所、相手方、販売対象のビデオテープが異なつても全体として包括一罪と解すべきであるから、当初訴因と変更請求された訴因との公訴事実は同一であり、前記弁護人の主張は採用できない。