児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

3項製造罪(単純製造罪)の合憲性

 一発目なので、憲法判断も入れています。
 文言上は姿態とらせれば全部アウトなんです。ちょっと広いかなと思いますが、実務上は、島戸検事がいうように違法性阻却=社会的相当性で絞ってくるでしょうね。

法令適用の誤り〜7条3項は過度に広汎な規制
1 はじめに
 7条3項は、流通させる目的がない撮影行為・真剣な交際に基づく撮影行為をも懲役3年という重い罰則をもって規制するものであるから、表現の自由に対する過度に広汎な規制であるから無効である。

2 児童ポルノ撮影行為は表現の自由憲法21条)で保証される。
 児童の姿態を撮影する行為は、たとえ、生成される写真などが児童ポルノであっても、表現の自由憲法21条)によって保護される。
 すなわち、改正前においても、販売等の目的がない撮影行為は適法であった。現行法であっても「姿態をとらせて」でなければ適法である。
 前記大阪高裁平成12年10月24日も、その上告審判決である最高裁h14.6.17も、児童ポルノ法と憲法21条の関係を判断しており、児童ポルノがあるが故に全く表現の自由で保護されないわけではないことは明らかである。
 従って、児童ポルノを撮影する行為についても、表現の自由との関係で、その保障の範囲を論じなければならない。

2 3項製造罪の保護法益=個人的法益に尽きる
 そもそも児童ポルノ罪の保護法益は被描写者の権利に尽きる(個人的法益)。
 さらに、2項製造罪・5項製造罪との比較において、3項製造罪では販売等流通の目的がないのだから社会的風潮とは無縁であり、純粋な個人的法益である。これは弁護人の持論であるが、最近、同法の研究者である永井氏も判例等の研究によって、同じ結論であることを明らかにした。

永井善之「サイバー・ポルノ規制と刑法・児童ポルノ法の改正」大阪経済大学法学研究所紀要200412

3 3項製造罪の立法趣旨
 島戸検事は、撮影自体が児童の性的搾取であるからとか製造時点では流通目的はなくても抽象的に流通する危険があるからと説明する。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08

 他方、島戸検事は一定の場合に3項製造罪が成立しない余地を認める。

島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」現代刑事法'04.10

4 規制すべき行為=流通の潜在的危険がある場合に限る。
 3項製造罪の保護法益が純粋に個人的法益であって、島戸検事がいうように3項製造罪の処罰の根拠を性的搾取や児童ポルノ流通の危険に求めるならば、児童と真剣な交際をしている者が、児童の承諾のもとでその裸体の写真を撮影する等、児童の承諾があり、かつこの承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には処罰する必要がない。
 また、真剣な交際は法律上の婚姻関係が典型であるが、女性の場合は満16歳(本法での「児童」)であっても婚姻可能であることを考えると、16〜17歳の婚姻した児童の姿態を夫婦間で記録する場合には処罰の必要はない。

 しかるに、7条3項はこのような場合にも処罰対象としている。真摯な交際における撮影行為、夫婦間の撮影行為も処罰する点で、過度に広汎な規制である。

 これは、いわゆる青少年条例が規制対象から婚姻した児童を除外しているのと均衡を欠く。成人男性と妻(17)との間で性行為をして撮影すると、性行為は処罰されないが、撮影行為は処罰されて、夫が逮捕されるのである。
 3項製造罪が何の限定も設けていないことは、児童に対する性的行為のすべてが処罰されるわけではなく「広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいう」と限定解釈をする最高裁判決にも反する。

福岡県青少年保護育成条例違反被告事件
【事件番号】最高裁判所大法廷判決/昭和57年(あ)第621号
【判決日付】昭和60年10月23日

5 まとめ
 7条3項は真摯な交際における撮影行為、夫婦間の撮影行為も処罰する点で、過度に広汎な規制であるから、憲法21条に違反して無効である。
 しかるに3項製造罪を認めた原判決には法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。