児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ購入者当罰説

 単純所持を処罰するより購入者を処罰する方が先だと思うんですが、控訴理由として構成してみました。
被告人に有利な主張に作り上げるのに苦労しました。

 こういう主張に対して、高裁はどう答えるか。
 購入は違法性がないとか、購入者は処罰する必要がないとか判示してくれても興味深いし、購入者も処罰する必要があると判示してくれれば、弁護人も被告人も嬉しいし。

1 はじめに
 児童ポルノ販売罪は、買主との必要的共犯・対向犯であって、買主の買い受け行為にも法益侵害・違法性が可罰的・当罰的であるにもかかわらず、買主のみを処罰するのは法の下の平等憲法14条)に反するから、児童ポルノ法の児童ポルノ販売罪にかかる規定は、憲法14条に違反して無効である。
 原判決は適用すべき罰条がないのに児童ポルノ販売罪の成立を認めたのであるから、法令適用の誤りにより原判決は破棄を免れない。

2 児童ポルノ取得行為の違法性
 児童ポルノ販売行為の相手方の取得行為も違法である。これを処罰しないのは立法の過誤である。
 もとより、わいせつ物の罪(刑法175条)の場合に、譲り受けた者が処罰されない理由は、
①わいせつ物の罪は反復継続性・営業犯性を予定しているが、譲受人には反復継続性・営業犯性が認められないこと、保護法益は社会的法益であるから多数回行われて初めて可罰的と評価されること、表現の自由に対する配慮したことによると解される。
② 講学上は、必要的共犯の一方だけを処罰する規定がある場合には、他方には刑法総論の共犯処罰規定は原則として処罰されないとされるから、わいせつ物の取得者は販売・頒布罪の共犯にも当たらない。
と説明されている。

 しかし、児童ポルノの場合は、児童ポルノに関する行為は、描写された者への性的虐待・商業的搾取(個人的法益の侵害)であるが故に処罰されるのである。児童ポルノ販売罪は個人的法益に対する侵害犯である。
 したがって、反復継続性・営業犯性は当罰性の要件とはならない。現に現行法では不特定多数に対する提供罪に加えて、不特定多数を要件としない1回性の提供罪(懲役3年)も設けられている。取得者には同等の(法定刑懲役3年程度の)違法性がある。

 また、児童ポルノに関する行為は描写された児童に対する虐待であるから、表現の自由に対する配慮もさほど必要ではなく、取得行為を不処罰にする必要性は乏しい。
 従って、取得行為には当罰性が認められるし、処罰しないのは立法の怠慢であって、現行法においても、販売・頒布罪の共犯ともなりうるというべきである。
 児童ポルノの害悪は、それが製造(撮影)されることによるものも著しいが、それが転転流通して拡散することによるものはさらに著しい。その意味では、法益保護の見地からは、流通を阻止することが強く求められているのであって、制定以来、立法者が譲受け行為を不処罰としていることは不徹底・児童ポルノの害悪を理解していないと言わざるを得ない。

 学説にも弁護人の見解を支持するものが見受けられる。

 曲田統「わいせつ物を購入する行為の可罰性について」現代刑事法2004年2月号

3 対向犯の一方のみを処罰することの不平等
 児童ポルノ販売罪における売主と買主は法益侵害・違法性はイコールである。民事的に言えば被害児童に対する共同不法行為である。
 現行法においては、一回性の提供罪が法定刑懲役3年とされていることをみれば、一回性の取得行為も法定刑懲役3年に相当する法益侵害・違法性がを備えていることが明かである。これを否定することは、児童ポルノ罪の法定刑が個人的法益の侵害を重視してわいせつ図画罪の法定刑に比べて非常に重くされていることを無視して、法益侵害を過小評価することになる。これでは児童ポルノ罪は立法事実を失ってしまう。

 だとすれば、取得行為については、旧法においても法定刑懲役3年で処罰する必要があり、被害児童に対する共同不法行為の一方のみを処罰する児童ポルノ法は形式的にも実質的にも不平等である。
 しかも、児童ポルノの場合に取得者を処罰しない合理的理由はないから、不合理な不平等である。
 従って、買主のみを処罰するのは法の下の平等憲法14条)に反するから、児童ポルノ法の児童ポルノ販売罪にかかる規定は、憲法14条に違反して無効である。
 原判決は適用すべき罰条がないのに児童ポルノ販売罪の成立を認めたのであるから、法令適用の誤りにより原判決は破棄を免れない。