児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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法9条「児童を使用する者」の意義について

 児童ポルノ罪にも適用されるような規定ですが、実際上、製造罪だけじゃないですか?
 9条が適用される場合は未必の故意もない場合に限られるわけですが、どんな場合なんでしょうか?昨今、かなり神経質でしょうに。


1 はじめに
 「児童」「使用関係」といえば、児童福祉法60条3項であって、同条同項と同じ解釈である。

2 立法者の見解=児童福祉法60条3項と同義
145回-参-法務委員会-08号 19990427
高野博師君 第九条は、「児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。」。この条文を置いた趣旨は何でしょうか。
○委員以外の議員(林芳正君) お答え申し上げます。
 九条は、先生の御指摘のとおり知情のことを書いておりますが、この法案の第五条から第八条までに規定する各種の犯罪はいずれも故意犯でございます。ですから、児童であるという認識、すなわち定義のように十八歳未満の者であるという認識がなければ処罰ができない、これが故意犯の原則でございます。
 しかしながら、児童を使用する者については児童の年齢に関する調査や確認義務があるというふうに考えられまして、このような者について児童の年齢を知らないことのみを理由に処罰を免れさせる旨は妥当ではないという判断をいたしまして、これらの者については、当該児童が十八歳未満の者であることの認識がない場合においてもその認識がないことについて過失があれば処罰をするということを規定したものでございます。
高野博師君 それでは最後に、第九条の「児童を使用する者」とはどういうことか。児童福祉法第六十条にも同様の規定がありますが、そこで言う「児童を使用する者」と同じ内容と考えていいのでしょうか。
○委員以外の議員(林芳正君) まさに先生御指摘のとおり同様の定義だということでございますが、今先生がおっしゃられたように、「児童を使用する者」については、児童福祉法第六十条の第三項に同様の規定がありまして、これに倣ったのがこの法案のこの言葉でございます。
 児童福祉法の同規定におきます「児童を使用する者」の意義については、判例上、児童と雇用契約関係にある者に限らず、児童との身分的もしくは組織的関連において児童の行為を利用し得る地位にある者、またあるいは特にその年齢の確認を義務づけることが社会通念上相当と認められる程度の密接な結びつきを当該児童との間に有する者などという判例になっております。こういうことでございまして、本案における「児童を使用する者」の意義は、先生御指摘のとおりこれと同じものでございます。

145 - 衆 - 法務委員会 - 12号 平成11年05月14日
○林(芳)参議院議員 御答弁申し上げます。
 「児童を使用する者」というのは九条の規定にございますが、これは児童福祉法の六十条の三項に同様の規定がございまして、本法案はこれに倣って作成をいたしたところでございます。
 同規定におきます「児童を使用する者」というのは、判例がございまして、「児童と雇用契約関係にある者に限らず、児童との身分的若しくは組織的関連において児童の行為を利用し得る地位にある者」、こういうふうな判例になっております。あるいは、「特にその年齢の確認を義務づけることが社会通念上相当と認められる程度の密接な結びつきを当該児童との間に有する者」というふうなことが判例になっておりまして、本法案における「児童を使用する者」の意義もこのとおりでございます。
○福岡委員 そうしますと、今その判例に従うということですから、実際的には、法的な意味で従属制があるとか親権に服するとかということよりもっと広い概念だということですね。事実上支配をしているというような関係に立つ者がそういうことをしたということですね。わかりました。
 それで、次にそれに関連しまして、第九条の規定全体を見てみますと、私は、本来、第五条ないし八条の罪というものは故意犯だと思うんですよ。故意犯を前提として、その年齢を知らなかった、十八歳未満であるということを知らなかったということに過失がある場合は処罰をするという、いわゆる過失犯を設定した規定だというふうに全体として認識するわけですけれども、それで間違いないでしょうか。
○林(芳)参議院議員 お答え申し上げます。
 結論から申し上げますと、委員の御指摘のとおりでございますが、五条から八条までに規定する犯罪は故意犯でありますから、児童である、この場合は十八歳未満でございますが、その認識がなければ処罰ができないというのがこの原則でございますけれども、児童を使用する者については年齢に関する調査確認義務があるというふうに考えられますので、このような者については、児童の年齢を知らないということを理由にしてのみ処罰を免れさせるのは妥当でないという判断をいたしまして、これらの者については、認識がないことについて過失があれば処罰するということにいたしたところでございます。
○福岡委員 そうしますと、この規定の仕方を見ると、何か、裁かれる被告人側の者が過失がないことについて立証責任を負うというようにも読めるんですよ。要するに、原則として、知らないことは処罰される、ただし、知らないことについて過失がない場合には免れるというような感じになりますから。ところが、実際は刑事訴訟法の大原則は、すべて構成要件的なもの、過失もいわゆる構成要件ですから、それについては検察側の立証の義務があるということははっきりした事実ですね。したがって、その点をやはり変更しているというわけじゃないでしょうか。そこのところだけ明確にしていただきたいんです。
○林(芳)参議院議員 お答え申し上げます。
 これも委員のおっしゃるとおりでございまして、このような規定には児童福祉法六十条三項というのもございますが、本条はこれに倣ったものでございます。これは解釈上、学説等いろいろあるようでございますが、我々といたしましては、憲法の三十一条に規定されております検察官の立証ということの原則にのっとりまして、検察官が過失を立証すべきであるというふうに考えております。

145 - 衆 - 法務委員会 - 12号 平成11年05月14日
○笹川委員 御婦人の皆様でそこまでおわかりにならないのが当然でありまして、知っている方がおかしいのかもわかりませんが、これは現実としてそういうことがあるのですよ。例えば年齢の問題がありますのでね。
 例えば十八歳未満で当然これはひっかかるわけですから。例えば外国に行って、年を聞いた、幾つ、十八だと言った。安心してしまった。ところが、実際は十五だった。そうすると今度、向こうの家族とか悪い人が、十五だったからあなたは法律に触れますよということになり得ないのかなということの心配をちょっとお尋ねしただけであります。
○大森参議院議員 まず、先生、マフィアと、それから、善良な人が行くので被害に遭うというところ、今お尋ねしましたら、御婦人であるからわからないとおっしゃったんですけれども、御婦人であるからわからないのかどうか、ちょっと確かめたいので、もう一度そこのところを教えていただけませんでしょうか。
○笹川委員 今の発議者の答弁の中で、マフィアその他がわかりにくいというお話があったので、私は、そういうことが起こり得るんですということを申し上げただけの話であります。
 例えば、「過失がないときは、この限りでない。」九条にありますね。いかなることがあっても処罰を免れないんだけれども、過失がないときというのをお尋ねしようと思ったんだけれども、時間の関係でなるたけ早くやめたいと思ったから。では、IDカードを見せなさい、ドライバーライセンスを見せなさいと言って年齢が確認できたらいいですよ。こんなことをしてはいけないんだけれども、仮にそうしたときに、できないでしょうから、幾つと聞いたときに、いや、十八と言った、だからおれは「この限りでない。」に入ると思うけれども、相手は、そんなこと言わなかった、私は正真正銘十四歳でしたと言われたときに、私は、申し上げたようなことがアメリカでもあったし、日本でも起こり得ますと。
 だから、国外犯の処罰というのはやはり難しい面がありますよということは、皆さんの勉強会の中でそういう話が出ましたかということをお聞きしただけであります
○林(芳)参議院議員 お答えを申し上げます。
 私も先生がおっしゃることは、男性でございますのでというわけでもありませんが、よくわかるつもりでございまして、その意味で、この九条を置いておりまして、児童を使用する者以外は、この反対解釈として、過失の場合は認められないということ、除かれるということに一応して、これは国外犯にも適用がございますので、御懸念のところは、その辺のラインで、あとは運用のところできちっとやってもらわなければいけないというふうに考えておるところでございます

3 児童福祉法60条3項の解釈
 特異な見解を取る必要はない。特定児童との人間関係をいうのである。単にビデオで見たとか見て知っているだけでは、使用関係とはいわない。
児童福祉法違反被告事件
【事件番号】東京家庭裁判所決定/昭和39年(少イ)第24号
【判決日付】昭和40年3月26日
【判示事項】児童福祉法第六○条第三項の「児童を使用する者」の意義について詳細に判示した事例
【参照条文】児童福祉法34−1
      児童福祉法60−2
      児童福祉法60−3
【参考文献】家庭裁判月報17巻11号169頁
そこで、先ず右「児童を使用する者」という概念について考えるに、一方において児童福祉法第三四条第一項がその各号の禁止行為(本件も後述のようにその一に該当する)の主体として広く「何人も、左の各号に掲げる行為をしてはならない」と定め、その違反に対する罰則として同法第六〇条第一、二項をおき、同条第三項の「児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、前二項の規定による処罰を免かれることができない。……」という規定は右第一、二項の補充規定とみられること、他方において同法第六〇条第四項が「法人の代表者又は法人若しくは人の……従業者が、その法人又は人の業務に関して、第一項又は第二項の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各同項の罰金刑を科する。
……」として間接的な責任を認めていることを対比考量し、なお、これに、同法第三四条第一項第九号が同項第一号ないし第八号の定型的行為を補足する一般的規定として「……児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、これを自己の支配下に置く行為」を禁じており、換言せば右第一項第一号ないし第八号の規定は、右第九号にいう有害行為のために児童を自己の支配下に置く行為なる概念の具体化であるとみられること等を綜合して考えると、右にいう「児童を使用する者」
とは、一方において例えば適法有効な雇傭関係に基いて児童を使用している者に限られないと共に、他方において例え形式的には児童との間に何等かの使用関係を有するような者でも実質的には児童を支配する関係にたつていない者はこれに含まれない(この場合には前記第六〇条第四項の軽い責任||罰金刑のみ||が生じ得るにとどまるものと解すべく、これを要するに右「児童を使用する者」に該るか否かは、当該違反行為につき身分上、組織上、その他その原因を問わず、児童を自己の実質的支配の下においていたか否かによつて判断するのが相当であると解する。

4 使用関係の認定の根拠
三訂版「執務資料 福祉犯罪の捜査」P36
2 「児童を使用する者」の範囲
児福法三四条一項各号違反の主体は、児童を使用する者に限られていないから、児童の年齢不知を主張する者は、併せて、使用者でない旨を主張する。年齢不知については、その無過失を厳格に解している判例の態度からみて、使用者性の有無が犯罪の成否の重要な要素とならざるを得ないわけである。
「児童を使用する者」について判例は、
雇用契約によるとその他の事由によるとを問わず、児童の行為を利用し得る地位にある者(広島高松江支判昭二六、一、二二、同旨横浜家判昭三七、四、一三)。
○ 児童との身分的若しくは組織的関連において児童の行為を利用し得る地位にある者(大阪高判昭三一、二、二一)。
○少なくとも児童との身分的若しくは組織的関係において児童の行為を利用し得る地位にある者を総称するものと解すべきであるから、本件のように被告人は偶然他人から頼まれ児童を貸席業者に雇うよう斡旋紹介して引渡したにすぎなく、児童と右説示のような特殊な関係がなかったものであるから被告人は同項にいわゆる『児童を使用するもの』に当たらないと解する(大阪高判昭三二六、二八)
としている。
したがって、使用者性の立証としては、
○名義人の特定と実質的な経営者の特定
○採用時の面接者の特定
○賃金の支給者の特定
○業務の指示、命令権者の特定
○ 面接、採用、業務内容、賃金の決定者とこれに関与している者の特定
○当該児童の割既契約、アパート賃貸借契約の保証人の特定
○売春代金等の分配者の特定
など、被疑者と被害者との身分関係を具体的に明らかにし、前掲各判例の趣旨を踏まえ、使用者性を認定することが必要である。

5 本件について
(1) 年令認識について(法9条の不適用による故意阻却)
 法9条により、犯人と被撮影者との間に使用関係がある場合には、有過失の場合にも、販売罪が成立する。
(児童の年齢の知情)
第九条 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。
 しかし、反対解釈として、使用関係が無い場合には、年令認識がないかぎり、故意は認められない。
 ところで、被告人は撮影者ではなく、撮影状況についても知り得ないのだから、本件児童ポルノの被撮影者について、正確な年令を認識しえなかったことは証拠上明らかである。したがって、仮に、被撮影者のなかに真に18歳未満の者がいるとしても、過失により知らなかっただけである。
 しかも、被告人と本件児童ポルノの被撮影者との間には使用関係はない。
 したがって、被告人には児童ポルノの故意に欠ける。

 弁護人は法9条の不適用による故意阻却を主張する。

 なお、念のために、過失すらないことも主張する。被告人には年令確認の方法が無かったからである。

(2) 年令認識について(法9条の適用による犯罪阻却の主張)(刑訴第335条第2項)の主張
 法9条により、犯人と被撮影者との間に使用関係がある場合には、有過失の場合にも、販売罪が成立する。この場合の過失犯も処罰する趣旨であろう。
(児童の年齢の知情)
第九条 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。
 本件の場合、公訴事実では年令認識(「18歳未満であることを知りながら」)が主張されていないことからみて、被告人と児童の間に使用関係がある(=過失犯)と主張していると解される。児童ポルノ法の使用関係の解釈については定説がないから、使用関係の主張もありうるところである。
 なお、検察官が判断を回避するために使用関係のある者はいないという場合に備えて、弁護人は被撮影者について、仮に被告人との使用関係がっても、年令認識を欠いたことについて過失がないことを主張する。

 しかし、被告人は被撮影者の年令を知らず、かつ、知らないことについて、過失がない(正確な年齢を知ろうとしても知り得ない)から、過失犯の成立も認められない。

 なお、児童ポルノ法9条但書は、児童を使用する者において児童の年齢を知らないことにつき「過失のない」ことが、刑訴第335条第2項にいう「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実」にあたる旨を規定するものであるから、法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときとして、これに対する判断を示さなければならない(刑訴335条第2項)。

 すでに述べたように、法9条の趣旨は、児童福祉法60条と同じであるから、刑訴法上の扱いも、同じである。
【ID番号】00019347
      児童福祉法違反被告事件
【事件番号】最高裁判所第1小法廷判決/昭和28年(あ)第3015号
【判決日付】昭和33年3月27日
【判示事項】児童福祉法第六○条第三項但書にいう「過失のない」ことと刑訴第三三五条第二項にいう「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実」
【判決要旨】児童福祉法第六○条第三項但書は、児童を使用する者において児童の年齢を知らないことにつき「過失のない」ことが、刑訴第三三五条第二項にいう「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実」にあたる旨を規定するものである。
【参照条文】児童福祉法34−1
      児童福祉法60−1
      児童福祉法60−2
      児童福祉法60−3
      刑事訴訟法335−2
【参考文献】最高裁判所刑事判例集12巻4号658頁
      家庭裁判月報10巻4号72頁
      最高裁判所裁判集刑事123号823頁
       理   由
児童福祉法三四条六号は、何人も、児童すなわち満一八歳に満たない者に淫行をさせる行為をしてはならない、との禁止規定を設け、同六〇条一項は、右禁止規定に違反した者に対する罰則を定めている。そして、同条三項は、「児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、前二項の規定による処罰を免れるこ
とができない。但し、過失のないときは、この限りでない」と定めている。
これらの規定を対照し総合して理論的に考えると、児童を使用する者の本件犯罪について、前記六〇条三項本文は、児童の年齢を知らないことは、刑訴三三五条二項にいう「法律上犯罪の成立を妨げる理由……となる事実」とならない旨を定めると共に、前記六〇条三項但書は、児童の年齢を知らないことにつき過失がないことは、右犯罪成立阻却事由となる旨を定めたものと解するを相当とする。それゆえ、これと趣旨を同じくする原判決は結局正当である。)

 念のため、法9条「使用する者」の意義、刑訴335条2項の適用について判断されたい。

 したがって、裁判所は、描写された者について、
① 児童ポルノ法9条但書は、児童を使用する者において児童の年齢を知らないことにつき「過失のない」ことが、刑訴第335条第2項にいう「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実」にあたるか否か
② 法9条の「使用する者」の意義
③ 被告人との使用関係の有無
④ 被告人の年令認識の有無
⑤ 年令を知らないことについての過失の有無
⑥ 児童ポルノ罪の過失の有無
を判断しなければならない。