児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノが野放し状態にあり、簡単に手に入る

 だそうです。警察の努力不足。

http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/backnumber.php3?&d=20041231&j=0032&k=200412319997
<社説>女児誘拐殺人*子ども守る手だて急務
2004.12.31 北海道新聞朝刊全道 2頁 朝二 (全1022字) 
 この事件は異常者による特異な犯罪として片付けられない。
 児童ポルノが野放し状態にあり、簡単に手に入る。こうした子どもの人権無視の横行が、重大犯罪につながった面も否めない。犯罪の芽をひとつひとつ摘み取らねばならない。
 子どもたちの命を守る手だてを家庭や学校、地域などみんなで真剣に考えたい。

盗撮はOKで、承諾撮影はNGなのか?

 改正で7条3項の製造罪というのができて、検挙起訴事例も出ているわけですが

児童ポルノ提供等)
第七条 
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。

 この製造罪については、島戸検事の解説しかない。
 要するに、何か、ポーズを取らせて撮影すること。

島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」現代刑事法'04.10
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。描写される児童が当該製造について同意していたとしても同様である(8〉。
(8) もっとも、児童と真筆な交際をしている者が、児童の承諾のもとでその裸体の写真を撮影する等、児童の承諾があり、かつこの承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には、違法性が阻却され、犯罪が成立しない場合もあり得る。


島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
「姿態をとらせ」
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。
いわゆる盗撮については、本項の罪に当たらない(22)。一般的にそれ自体が軽犯罪法に触れるほか、盗撮した写真、ビデオ等を配布すれば名誉毀損の罪も成立し得るし、他人に提供する目的で児童ポルノを製造すれば、第7条第2項、第5項により処罰されることとなる。
22)盗撮された児童は、盗撮の事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ・あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえないし、提供目的を欠く場合、盗撮の結果が児童の心身に悪影響を及ばす危険が具体化しているともいえないから、盗撮を手段とした単純製造の行為を直ちに児童ポルノに係る罪として処罰する必要はない。他人に提供する目的がある場合は、第7条第2項又は第5項の罪が成立する。
23)もっとも、例外的に、児童が他者に対して執拗、積極的に自身の児童ポルノを作成させるよう働きかけたような場合に、製造罪の共犯が成立することは理論上考えられる。

 他方、捜査研究2004年12月号の大橋検事は、児童買春に伴う盗撮事例を指摘しており、改正法によれば処罰対象となったとも読めるのだが、島戸検事によれば、盗撮の場合は単純製造罪は成立しない。

ハイテク犯罪の捜査 捜査研究2004.12.
近時の携帯写メールや安価なデジタル・カメラ(ビデオ)の普及により,最近は,一般サラリーマンはおろか,高校生ですら.容易に児童ポルノを製造(盗撮)できるようになり,デジタル児童ポルノ製造の容易化・一般化・低年齢化の傾向化が現れてきている。素人による児竜ポルノの製造は.いわゆる「ハメ撮り」の形態が多く.児童買春の機会になされることが多い。

 こういうところは、弁護人に付け込まれるし、裁判所の判断も微妙。どうして盗撮ものはOKなのか?どうせ児童ポルノを撮影するなら、「盗撮」だというのでしょうか?

 児童ポルノ罪の保護法益は、基本的に個人的法益ですが、被害者が承諾しても犯罪阻却しないが、被害者が承諾していない場合は犯罪不成立だという。
 取締の必要性から単純製造罪での処罰範囲を拡げようとすると、被害者の承諾・協力を強調することになって、処罰根拠が薄まります。
 なんなんだこの改正法は?

「女児見ると変な気分に」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050101-00000013-san-soci

 大阪市内の連続強制わいせつ事件の国選弁護事件で、
   低学年の女の子をみると
   カーッとなって、
   自分の行動を制御できない
という被告人がいて、法廷でもそう供述した。
 被告人がそういうのだから弁護人も制御能力欠如による責任無能力を主張したのですが、

1 責任能力について
 被告人は接見時においても公判廷においても、「女の子にいたずらしたらあかんことはわかっています。しかし、好みの女の子を見かけると、頭が『かーっ』となって、自分の行動を自分ではコントロールできないのです。自分が何をしているのかはわかっているのですが、どうしようもできないのです。」と述べ、犯行当時、理非善悪の判断に従って行動する能力がなかったか、あるいは著しく劣っていたことは明かである。
 そこで、心神喪失または心身耗弱による責任阻却または軽減を主張する。

裁判所は
   低学年の女の子をみると
   カーッとなって、
   自分の行動を制御できない
   というのでは心神喪失心神耗弱も認めない
という判断で長期の実刑でした。

 彼もそろそろ社会復帰すると思うのですが、施設内処遇で
   低学年の女の子をみると
   カーッとなって、
   自分の行動を制御できない
という精神状態は、改善されたのでしょうか?
 
 ところで、大阪地裁の事件で、6才の児童の裸体を撮影したという児童ポルノ製造事案の弁護をしましたが、どうして強制わいせつで立件しないのかは最後まで疑問でした。
 「告訴なしてで、実質的には強制わいせつ罪の一部起訴じゃないのか?」という疑問があります。

阪高裁 平成14年9月10日(公刊物未掲載)
②被告人は,被害児童の撮影を自己の性欲を満たすために行ったものであり,しかも,被害児童は6歳であるから,暴行脅迫がなくとも,これを裸にして撮影した被告人の行為は強制わいせつの実行行為にあたるところ,強制わいせつ罪は親告罪であり,公訴を提起するには,被害児重ないしその保護者の告訴が必要であるが,本件においては被害児童の保護者は犯人を告訴しない旨供述しているのであるから,強制わいせつ罪より法定刑の軽い児童ポルノ製造罪で起訴して処罰することは,強制わいせつ罪が親告罪とされている趣旨に反し許されないのに,被害児童の保護者の告訴のないまま起訴した点において(控訴理由第7),原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものである。
(中略)
②についは,児童ポルノ製造罪の保護法益は上記第1記載のとおりであり, この処罰の目的は,個人の性的自由を保護法益とする強制わいせつ罪のそれとは異なることは明らかであり,児童ポルノ製造罪が強制わいせつ罪の構成要件の一部とはいえず,また,児童ポルノ製造罪が親告罪とされなかったのは,親告罪とすると,加害者やその背後の組織からの報復を恐れて告訴できなかったり,あるいは保護者に対する金銭的な示談で告訴を取り下げさせたりすることが通常の性犯罪以上に予想され,所期の目的が達成ができないためであり,従って,本件において,被害児童の保護者に被告人を告訴する意思がないのに本件公訴を提起したことは,強制わいせつ罪が親告罪とされている趣旨を潜脱することにはならない

 この事件は保護者が娘をモデルに供していたので告訴はでてませんでした。
 告訴を追完されるような事件でこんな主張したらだめですよ。