児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童買春罪の実行行為は①児童等との対償供与の約束・対償供与+②①に基づく性交等であるから、①の時点でも児童等の認識が必要であること~山形地裁h29.8.17を題材に

 控訴中の事件で主張しました。検察官の答弁は理由なく「弁護人独自の見解である」となっています。
 前提として対償供与約束が実行行為であることはこういう説明です

1 児童との対償供与の約束の時点で児童の認識が必要である
(1)「対償供与の約束」の実行行為性
(2) 買春罪の実行の着手
(3)他罪との関係からの説明
①周旋罪・勧誘罪との関係
②買春誘引罪(インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律*12)
③ 略図
(4) 実行着手としての約束の内容
(5)「対償供与の約束」の時点で、児童性についても認識が要件となること
(6)「事後の故意」による説明
①大コンメンタール刑法第3巻p172
②山中敬一刑法総論第2版p309
③高橋則夫刑法総論第2版p186
④刑事法辞典p346
⑤大塚仁刑法概論(総論)第3版p202
⑥立石刑法総論第4版p206
⑦斉藤信治刑法総論第5版p106
⑧岡野光雄刑法要説総論p187
⑨大野要説刑法総論[ 改訂版]p219
山口厚刑法総論第2版 p375
(7)実質的理由(東京高裁H15.5.19)

 ところが、山形地裁h29.8.17は、児童買春罪の実行行為は  
  ①児童等との対償供与の約束・対償供与
  ②に基づく性交等
であるという理解を欠いたまま、性交時点での年齢認識があるから児童買春罪が成立するとした点で、法令適用の誤りがあります。
「「18歳」と書かれた被害児童のツイッターのプロフィール」とか「被害児童は,公判廷において,「被告人とはツイッターのダイレクトメッセージでやり取りをして,援助交際をすること,すなわち,被告人から1万5000円の支払を受けて性交をすること,を合意した上で落ち合った」というので、対償供与の約束はDMであって、その時点では児童とは聞いてないですよね。
 とすると、「「被害児童」が18歳に満たない児童であることを知りながら,被害児童に対し,現金1万5000円の対償を供与する約束をして,」という事実認定は、証拠がないので、事実誤認になります。
 さらに、「被害児童は,公判廷において,「被告人とはツイッターのダイレクトメッセージでやり取りをして,援助交際をすること,すなわち,被告人から1万5000円の支払を受けて性交をすることを合意した」という認定をすると、その時点では児童とは知らなかったので、「「被害児童」が18歳に満たない児童であることを知りながら,被害児童に対し,現金1万5000円の対償を供与する約束をして」という認定と矛盾することになるので、理由齟齬です。

 約束は実行行為じゃない(行為の状況だ、身分だ)という新説が出てきそうですが、他罪でも約束は実行行為ですので、児童買春罪だけ別に解するのはずっこいです。

(8)他罪の「約束」における認識
売春防止法
※刑事裁判実務大系 風俗営業・売春防止(売春 勧誘)
判例法研究8特別刑法の罪「売春防止法
②賄賂約束罪

 検察官の答弁書が来ましたが、困ったら保護法益に遡って論じるという感じ、初耳の独自の見解です。

某高検検察官答弁書
法令適用の誤りの主張について
控訴審弁護人は,被告人には,対償供与約束の時点で児童であることの認識がなかったのであるから,仮に被告人が性交時に被害児童が18歳未満である可能性を認識していたとしても,児童買春には該当しないと主張するようである。
しかし,そのような主張は,控訴審弁護人独自の見解に基づくものであり,児童買春の実行行為の核心部分である性交時に被害児童が18歳未満であることを認識していれば,児童買春の故意に欠けるところはない。このことは,法律2条2項1号の文理上も明らかであり, また, 「この法律は,児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。」との立法趣旨からも当然である。

という反論があるらしいが、淫行(青少年条例違反)より、2.5倍も重い法定刑になっていることからは、児童買春罪が金でいうことを聞かせるという性的搾取であって、対価性が重視された犯罪であることは明らかで、約束・供与というのも実行行為の核心です。
 ちなみに、この控訴審判決は事実誤認で無罪になっています。


 山形地裁h29.8.17は1審で確定していますが、こういう控訴理由で控訴しておけば無罪になった可能性があります。

裁判年月日  平成29年 8月17日  裁判所名  山形地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(わ)263号
事件名  児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号  2017WLJPCA08176002
出典
エストロー・ジャパン
裁判年月日  平成29年 8月17日  裁判所名  山形地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(わ)263号
事件名  児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号  2017WLJPCA08176002
 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官笹川修一及び弁護人(私選)伊藤三之各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
 被告人を罰金50万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由

 (罪となるべき事実)
 被告人は,平成28年9月25日午後10時52分頃から同月26日午前零時12分頃までの間,山形県東根市〈以下省略〉aホテル308号室において,A(当時16歳。以下「被害児童」という。)が18歳に満たない児童であることを知りながら,被害児童に対し,現金1万5000円の対償を供与する約束をして,被害児童に対し,性交をし,もって児童買春をしたものである。
 (証拠の標目)
 (括弧内の甲の番号は証拠等関係カードの検察官請求証拠の番号を示す。)
 ・第2回公判調書中の証人である被害児童の供述部分
 ・Bの警察官調書(甲4)
 ・捜査報告書6通(甲1,2,12,14,17,19)
 ・写真撮影報告書2通(甲3,5)
 ・身上調査照会回答書抄本(甲9)
 (事実認定の補足説明)
 1  争点
 関係証拠によれば,被告人が,平成28年9月25日午後10時33分頃,山形県天童市内のスーパーマーケットの駐車場で被害児童と落ち合い,その後被告人運転の自動車で判示の同県東根市内のホテルに向かい,同日午後10時52分頃から翌26日午前零時12分頃までの間,このホテルの一室で,被害児童に対し,現金1万5000円の対償を供与する約束をして,被害児童に対し,性交をしたことは明らかである。
 この点に関し,弁護人は,「被告人は,被害児童が18歳未満であることを知らなかったので,無罪である」旨主張し,被告人も,当公判廷で,これに沿う供述をするので(争点は年齢の知情性である。),判示事実を認定した理由を補足して説明する。
 2  被害児童の証言について
   (1)  被害児童の証言要旨
 被害児童は,公判廷において,「被告人とはツイッターのダイレクトメッセージでやり取りをして,援助交際をすること,すなわち,被告人から1万5000円の支払を受けて性交をすること,を合意した上で落ち合ったが,ホテルに向かう車中で,被告人から『何歳』と聞かれたので,『16』と答えたところ,『ああ,そうなんだ』と言われた」などと証言する。
   (2)  被害児童の証言の信用性について
 被害児童は,ホテルに向かう車中で被告人に対し自己の年齢が16歳であると告げたことを含め,被告人と落ち合ってからホテルで性交して別れるまでの状況について,その時々のエピソードを交えながら,具体的に語っている上,その内容も自然の流れに沿っており,合理的である。殊に,ホテルで性交を終えた後,被害児童がしたバイクの免許を取得したいなどという話の流れで,被告人から自動車の免許は取得しないのかと聞かれ,「来るとき言ったけど16だから免許取れない」みたいに言ったら,被告人が「ああ,そうだった,ごめんね」と言ったという点は,かなり具体的なものである。
 さらに,被害児童は,本件の4日後の平成28年9月29日に補導されているが(甲1),被害児童によると,被害児童は,同年8月終わりくらいから援助交際を開始し,補導されるまでに15人くらいの男性との間で援助交際をしたが,被告人は最後から2人目の相手であったので,結構覚えているというのであり(甲17参照),現に,被害児童は,被告人との援助交際に関し,補導から2日後の同年10月1日の段階から,警察官に対し,「ホテルに向かう車中で,相手から年齢を聞かれたため『16歳です』と本当の年齢を伝えた」と述べている(甲2)。それとともに,被害児童は,その前後に援助交際に及んだ被告人以外の6名の相手方男性について,性交の場所等が判然としない者についてはその旨述べる一方,性交の場所等を覚えている者については,その場所を明らかにするとともに,それらの者に自己の本当の年齢を告げた状況を具体的に語っており,その供述は相手方男性らの各供述とも一致している(甲19。なお,甲19の信用性を疑わせる事情はない。)。このように,被害児童は,当初から一貫して,ホテルに向かう車中で被告人に自己の年齢を告げた旨を述べるほか,被告人と他の援助交際の相手方男性とを区別しながら供述しており,被害児童が約1か月間に15名程度の男性と援助交際をしていたことを考慮しても,被害児童において,他の相手方男性との間でしたやり取りを,被告人との間でしたものと混同・誤解するなどして誤った供述をしているとは到底考えられず,他に被害児童が混同等をしているとうかがわせる証跡もない(もとより,被害児童において,故意に,被告人を陥れる虚偽の証言をする理由もない。)。
 以上によれば,被害児童の証言は信用性が高い。
   (3)  弁護人の主張について
   ア これに対し,弁護人は,①売春当事者は,後腐れがないように,互いの年齢等の個人的な情報については教えもしないし,聞きもしないのが当然である,②仮に被害児童が16歳であることを正直に告げると,相手方男性が援助交際を思いとどまること等が懸念されるから,被害児童にとって自己の年齢は相手方男性には知られたくない情報であった,などと指摘して,被告人に本当の年齢を告げたという被害児童の証言は不自然であって信用できないと主張する。しかしながら,①の点は,年齢は,氏名や住所,電話番号などとは異なり,それを明らかにすることによって直ちに自身の身元が特定される類いの情報ではないから,弁護人がいうような「売春当事者は,後腐れがないように,互いの個人的な情報については教えもしないし,聞きもしない」との前提に立ったとしても,なお年齢を明らかにすることが不自然とはいえない。むしろ,年齢は,援助交際のようにその場限りの性交をしようとする男女が,初対面から性交に至るまでの場の雰囲気を悪くしないように交わす当たり障りのない話題としてありがちなものといえ,そのような男女間で性交に先立ち年齢に関するやり取りをすることもそれなりにあり得るといえる。次に,②の点は,被害児童によると,ホテルに向かっていない場合等には,年齢を正直に言うと,相手方男性が援助交際を思いとどまって帰ってしまうのではないかと思い,18歳といううその年齢を告げていたが,ホテルに向かっている場合やホテルに着いている場合には,もはや相手方男性が帰ることはないと考え,正直に16歳と答えていたというのであり,この供述はそれなりに筋の通ったものといえる。したがって,被害児童において,被告人とホテルに向かっている段階で,被告人から聞かれるがまま,16歳と答えたとしても特に不自然ではない。加えて,何より,被害児童は,現に,他の援助交際の相手方男性に対しても,性交前の,ホテルに向かう車中やホテルの室内で,自己の本当の年齢を告げているのである(甲19)。以上によれば,被害児童が援助交際の相手方男性に年齢を教えることはあり得ないかのようにいう弁護人の主張は採用できない。
   イ また,弁護人は,被害児童は,ホテルに向かっていない場合には,18歳といううその年齢を告げていたと供述する一方,本件においては,向かうべきホテルも決まっていない段階であるのに,被告人に対して16歳である旨答えたとも供述しており,その供述は相互に矛盾して,信用できないと主張する。しかしながら,被害児童は,どこのホテルに行くかを決めた上で,そのホテルに向かう車中で16歳であると告げた旨を明確に述べているのであるから,その供述に特に矛盾はなく,弁護人の主張は被害児童の証言を正しく理解したものとはいえない。結局,弁護人の主張は,被告人が供述する事実経過を前提に,これと異なる被害児童の証言が信用できないというものに帰すると思われるが,被害者が証言している事実経過(まず,向かう先のホテルを決め,その後,被告人が合流場所に早く来たことや被害児童の年齢に話題が及んだという経過)も特段不自然ではなく,被害児童の証言の信用性は左右されない。
   ウ さらに,弁護人は,被害児童は,公判廷において,当初,平成28年9月9日以降に援助交際を行った7ないし8名の中で年齢を聞いてこなかった者もいると供述していたのに,弁護人から検察官調書にはその全員から年齢を聞かれたと記載されていることを指摘されると,合理的根拠も示せないまま,全員から年齢を聞かれたと供述を変遷させており,年齢を聞かれて16歳だと教えた人とそうでない人との区別についての被害児童の記憶は極めて曖昧であり,信用できないと主張する。確かに,被害児童の証人尋問において,弁護人が指摘するようなやり取りがあったことは認められるが,被害児童は,その理由に関し,証人尋問までの時間の経過によって記憶が曖昧になったことをうかがわせる説明をしている上,本件前後から証人尋問までの間に約半年が経過していることに鑑みると,それも無理からぬものがある。むしろ,上記(2)のとおり,被害児童は,ホテルに向かう車中で被告人に自己の本当の年齢を告げた旨を補導当初から一貫して供述している上,少なくとも補導当初の段階では,被告人と他の援助交際の相手方男性とをきちんと区別しつつ供述していたと認められる。以上によれば,弁護人の主張を加味して検討しても,被害児童の証言の信用性は揺るがない。
 3  被告人の供述について
 これに対し,被告人は,ホテルに向かう車中で被害児童に年齢を尋ねたことも被害児童から年齢を聞いたこともないなどと供述するが,この供述は,信用できる被害児童の証言と明らかに異なるものであり,被告人の供述が逮捕当初から一貫していることや,被告人が「18歳」と書かれた被害児童のツイッターのプロフィールを見ていないと述べるなど,自己の有利に働き得る事情について否定する供述をしていることなどを斟酌しても,被害児童の証言と対比して,信用できないといわざるを得ない。
 なお,弁護人は,被告人は,逮捕の1週間くらい前に,山形県山辺町内の教員が児童買春で逮捕されたことを地元紙で知り,その記事の内容は被告人のケースと酷似していたから,仮に被告人が被害児童の年齢が16歳であったと知っていたなら,被害児童とのやり取りを削除することも考えられるところ,被告人は,そうした証拠隠滅工作を全くしていないから,被害児童の年齢を知らなかったといえると主張する。確かに,被告人は,当時市議会議員を務めるなど,それなりの社会的地位にあったから,仮に被害児童が16歳であったことを知っていたら,県内の小学校教諭が児童買春で逮捕されたという報道(甲16参照)に接し,自分も逮捕されるのではないかと恐れて被害児童とのやり取りを削除することも十分考えられるところではある。しかし,被告人が被害児童とやり取りをしていたツイッターのアカウント(●●●)は当時凍結されており,その内容を確認することさえできなかったと認められるから(甲14),被告人において,被害児童とのやり取りを削除しようにも削除できなかったと考えられる(さらに,地元紙の記事の内容(甲16)を見ると,被告人のケースに類似してはいるものの,直ちに被害児童を類推させるものとまではいい難いから,自分が捕まることはないと考えて削除しなかった可能性もないとはいえない。)。したがって,弁護人の指摘の点は,必ずしも被告人の供述を裏付け,これを補強するものとはいえない。
 4  結論
 以上の次第で,信用できる被害児童の証言によれば,被害児童は,被告人と性交に及ぶ前に,被告人に対し,自己の年齢が16歳である旨告げ,被告人もこれを認識していたと認められる。
 よって,被告人は,被害児童が18歳に満たない児童であることを知りながら,被害児童に対し,現金1万5000円の対償を供与する約束をして,被害児童に対し,性交をしたといえ,判示事実は優に認定できる。
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律4条,2条2項1号に該当するところ,所定刑中罰金刑を選択し,その所定金額の範囲内で被告人を罰金50万円に処し,その罰金を完納することができないときは,刑法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。
 (求刑 罰金50万円)
 山形地方裁判所刑事部
 (裁判官 兒島光夫)

スタンガン使用の強制性交等致傷被告事件(性交は未遂)について「この種類型の中で重い事案とまではいえず,執行猶予も考え得る事案といえる。」として酌量減軽して保護観察執行猶予とした事例(山形地裁H30.6.1)

 「この種類型の中で重い事案とまではいえず,執行猶予も考え得る事案といえる。」とされています。裁判員の感覚。わからないので量刑DBに頼ってる感じです。

 強制性交等致傷罪の法定刑が「6年以上」となっているのは酌量減軽すれば執行猶予も付けられるということだと聞いています。

第一八一条(強制わいせつ等致死傷)
2第百七十七条、第百七十八条第二項若しくは第百七十九条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。

裁判年月日 平成30年 6月 1日 裁判所名 山形地裁 
事件番号 平29(わ)144号
文献番号 2018WLJPCA06016003
 上記の者に対する強制性交等致傷被告事件について,当裁判所は,検察官藤原武及び同大場広幸並びに主任弁護人仲野純一及び弁護人武田朋泰(いずれも国選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
 被告人を懲役3年に処する。
 この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,A(以下「被害者」という。)(当時47歳)と強制的に性交をしようと考え,平成29年8月30日午前8時45分頃,山形県酒田市〈以下省略〉所在のB方において,持っていたスタンガン(平成30年押第1号の1)を被害者の後頚部に押し当てて1回放電する暴行を加え,その反抗を抑圧して被害者と性交しようとしたが,被害者が隙を見て逃げ去ったため,その目的を遂げず,その際,前記暴行により,被害者に全治約1週間を要する後頚部第1度熱傷の傷害を負わせたものである。
 (証拠の標目)(以下の括弧内の甲の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を,職の番号は証拠等関係カードにおける職権証拠調べに係る証拠の番号を示す。)
 ・被告人の公判供述
 ・更新用記録媒体(職3)
 ・被害者の検察官調書抄本(甲34)
 ・統合捜査報告書(甲33,35,36,38)
 ・スタンガン1台(平成30年押第1号の1。甲31)
 (適用法令)
 罰条 刑法181条2項(180条,177条前段)
 刑種の選択 有期懲役刑を選択
 酌量減軽 刑法66条,71条,68条3号
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 保護観察 刑法25条の2第1項前段
 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
 (法律上の自首の成否について)
 争点である法律上の自首の成否について検討すると,①酒田警察署のC警察官は,被告人が警察に出頭するよりも前に被害者の上司からの届出を受けて本件を知り,被告人が犯行にスタンガンのようなものを用いたことや,男性である被告人が女性である被害者を実家に呼び入れて犯行に及んだことなどから,本件が強制性交等致傷事件ではないかと強く疑ったというのであるが,この判断は一般人の目から見ても合理的といい得るように思われる。
 しかし,この点をさておくとしても,②被告人は,自身の供述によっても,a町の駐在所に出頭した当初は強制性交等の意思があったことを申告することができずにいたが,酒田警察署が本件を強制性交等致傷事件として捜査していることを聞いていた寒河江警察署のD警察官から,遠回しにとはいえ促されて,強制性交等の意思があったことを申告するに至ったというのであるから,自発的な申告とはいえない。
 よって,②の理由により,法律上の自首は成立しないと判断した。
 (量刑の理由)
 1 本件は,前科のない被告人が,単独で,凶器を用いて被害者と強制的に性交をしようとしたが,未遂に終わり,その際,被害者にけがを負わせたという強制性交等致傷1件の事案である。
 2 事件に関する事情をみると,この種事案の悪質性や本件被害者の精神的な苦痛の大きさに鑑みれば,被告人を実刑にすることも十分考えられる。
 他方で,本件の行為態様は,被害者の背後からその首にスタンガンを押し当て,放電するというものであるが,放電は1回,1秒ほどの短時間にとどまっている。そして,被告人は,性交はおろか,わいせつ行為さえしていない。
 また,被告人は,スタンガンの電池を新品に交換するなどの相応の準備をしているが,スタンガンを放電すれば被害者が必ず気絶することを前提にするなど,幼稚なところもあり,用意周到とまではいえない。
 このような事情に鑑みると,本件はこの種類型の中で重い事案とまではいえず,執行猶予も考え得る事案といえる。
 3 その上で,被告人が罪を認めて反省していること,犯行後自ら警察に出頭して強制性交等の意思があったことを自白するなど,捜査に貢献したといえること,被告人が現在更生に向けた取組を開始し,更生に向けた兆しが見られることなどを考慮し,被告人の再犯防止を期するため,保護観察を付することを条件に刑の執行を猶予することにした。
 (求刑 懲役5年)
 平成30年6月29日
 山形地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 兒島光夫 裁判官 馬場崇 裁判官 小野寺俊樹)

妊娠中絶した師弟関係の児童淫行罪で7700万円の損害賠償を請求した事例(水戸地裁)

 執行猶予になってるようです。

「教諭から性行為」提訴、茨城 妊娠中絶の元生徒、損害賠償求め
2018.10.11 共同通信 
 茨城県内の県立高校で2016年、男性教諭に性行為をされ、妊娠中絶手術などで心身に回復不能な被害を受けたとして、元女子生徒が県と元教諭に慰謝料など約7700万円の損害賠償を求めて水戸地裁に提訴していたことが11日、分かった。同日、地裁(前田英子裁判長)で第1回口頭弁論が開かれ、県は争う姿勢を示したとみられる。
 訴状によると、元教諭は16年9月に進路指導室などで2度性行為をし、元生徒は後に人工妊娠中絶手術を受けた。さらに幻覚や抑うつなどの解離性障害の症状が悪化し、学校に通えなくなって大学進学も断念せざるを得なかったと主張している。
 元教諭は17年1月に児童福祉法違反容疑で県警に逮捕され、同2月に懲戒免職処分となった。同6月に同法違反罪で懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を受け、既に確定した。
 県高校教育課は「プライバシーの問題があるのでコメントできない」としている。
共同通信社

学習塾を経営していた被告人が,その生徒である小中学生3名が塾内のトイレで用便中の姿を隠しカメラで撮影し,そのデータをDVD等の電磁的記録媒体に保存するなどして児童ポルノを製造したという事案で1罪として処理されている事例(名古屋地裁h30.6.15)

 westlaw公訴事実がわからないので意味無い。
 併合罪加重もされてないし。科刑上一罪の処理もないので、単純一罪なのかな。

裁判年月日 平成30年 6月15日 裁判所名 名古屋地裁 裁判区分 調書判決
事件名 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反
文献番号 2018WLJPCA06156005
主文

 罪となるべき事実の要旨
 訴因変更請求書に記載のとおりであるから,これを引用する。
 適用した罰条
 1 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項,2条3項3号
 2 刑法25条1項
 量刑の理由
 本件は,学習塾を経営していた被告人が,その生徒である小中学生3名が塾内のトイレで用便中の姿を隠しカメラで撮影し,そのデータをDVD等の電磁的記録媒体に保存するなどして児童ポルノを製造したという事案である。
 その犯行は,塾経営者という立場を利用し,被害者らの無防備に付け込んだ悪質なものである上,被告人は,平成25年にも盗撮の罪で罰金刑を受けているほか,本件犯行以外にも平成27年以降同様の行為を多数回繰り返していたことがうかがわれ,この種の犯行についての常習性が認められるのであるから,刑事責任を軽視することはできない。もっとも,被告人には上記の1件以外に前科がなく,真摯に反省していると認められ,また,保釈された後は自己の歪んだ性癖を改善するために精神科病院に通院をしているというのであって,これらの事情も併せ考慮すると,主文掲記の懲役刑を科すものの,その執行については今回に限り猶予するのが相当である。
 (求刑 懲役1年6月)
 平成30年7月2日
 名古屋地方裁判所刑事第5部
 裁判所書記官 A
 (裁判官 村瀬賢裕)

原告は,被告法人の運営するグループホームに入所していたところ,被告法人の職員であった被告Y10と約1年4か月にわたり性的関係を継続した結果,妊娠して中絶するに至った(以下では,原告と被告Y10との間で継続された性的関係について「本件性的関係」という。)。本件は,原告が,本件性的関係により妊娠,中絶に至ったことが障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律に規定された性的虐待に当たるとして,①被告Y10,被告法人の理事ら及び監事らに対しては不法行為等に基づき,②被告法人に対しては不法行為(使用

原告は,被告法人の運営するグループホームに入所していたところ,被告法人の職員であった被告Y10と約1年4か月にわたり性的関係を継続した結果,妊娠して中絶するに至った(以下では,原告と被告Y10との間で継続された性的関係について「本件性的関係」という。)。本件は,原告が,本件性的関係により妊娠,中絶に至ったことが障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律に規定された性的虐待に当たるとして,①被告Y10,被告法人の理事ら及び監事らに対しては不法行為等に基づき,②被告法人に対しては不法行為使用者責任を含む。)及び債務不履行に基づき,③被告県及び被告市に対しては国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条等に基づき,慰謝料,逸失利益及び弁護士費用等合計1190万4792円等の支払を求め、被告Y10及び被告法人については,330万円を認容した事案(長野地裁松本支部H30.5.23)

「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」


裁判年月日 平成30年 5月23日 裁判所名 長野地裁松本支部 裁判区分 判決
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2018WLJPCA05236005


長野県塩尻市〈以下省略〉 
原告 
X 
同訴訟代理人弁護士 
上條剛 
同 
出井博文 
同 
西尾智美 
長野県下伊那郡〈以下省略〉 
  
被告 
社会福祉法人Y1会(以下「被告法人」という。) 
同代表者理事 
Y2 
長野県下伊那郡〈以下省略〉 
  
被告 
Y2(以下「被告Y2」という。) 
長野県下伊那郡〈以下省略〉 
  
被告 
Y3(以下「被告Y3」という。) 
長野県下伊那郡〈以下省略〉 
  
被告 
Y4(以下「被告Y4」という。) 
長野県下伊那郡〈以下省略〉 
  
被告 
Y5(以下「被告Y5」という。) 
長野県下伊那郡〈以下省略〉 
  
被告 
Y6(以下「被告Y6」という。) 
長野県下伊那郡〈以下省略〉 
  
被告 
Y7(以下「被告Y7」という。) 
長野県下伊那郡〈以下省略〉 
  
被告 
Y8(以下「被告Y8」という。) 
長野県飯田市〈以下省略〉 
  
被告 
Y9(以下「被告Y9」という。) 
長野県伊那市〈以下省略〉 
  
被告 
Y10(以下「被告Y10」という。) 
上記10名訴訟代理人弁護士 
長谷川敬子 
長野県塩尻市〈以下省略〉 
  
被告 
塩尻市(以下「被告市」という。) 
同代表者市長 
A 
同訴訟代理人弁護士 
山根伸右 
同 
石曽根清晃 
長野市〈以下省略〉 
  
被告 
長野県(以下「被告県」という。) 
同代表者知事 
B 
同訴訟代理人弁護士 
髙橋聖明 
同訴訟復代理人弁護士 
樋川和広 
 

主文

 1 被告Y10及び被告法人は,原告に対し,連帯して330万円及びこれに対する平成28年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告の被告Y10及び被告法人に対するその余の請求,並びに被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告市及び被告県に対する請求を,いずれも棄却する。
 3 訴訟費用の負担は次のとおりとする。
  (1) 被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告市及び被告県に生じた訴訟費用は原告がこれを負担する。
  (2) 原告に生じた訴訟費用はこれを8分し,その1を被告Y10,その1を被告法人,その余を原告の負担とする。
  (3) 被告Y10に生じた訴訟費用は,これを10分し,その3を被告Y10の,その余を原告の負担とする。
  (4) 被告法人に生じた訴訟費用は,これを10分し,その3を被告法人の,その余を原告の負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
 
 
事実及び理由

第1 請求
 被告らは,原告に対し,連帯して,1190万4792円並びに被告法人,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y10及び被告市は平成28年1月31日から,被告県は平成28年2月2日から,被告Y9,被告Y7及び被告Y8は平成28年2月11日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 事案の概要
 原告(療育手帳の障害程度区分B2)は,被告法人の運営するグループホーム(以下「GH」という。)に入所していたところ,被告法人の職員であった被告Y10と約1年4か月にわたり性的関係を継続した結果,妊娠して中絶するに至った(以下では,原告と被告Y10との間で継続された性的関係について「本件性的関係」という。)。
 本件は,原告が,本件性的関係により妊娠,中絶に至ったことが障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律(以下「法」又は「障害者虐待防止法」という。)に規定された性的虐待に当たるとして,①被告Y10,被告法人の理事ら及び監事らに対しては不法行為等に基づき,②被告法人に対しては不法行為使用者責任を含む。)及び債務不履行に基づき,③被告県及び被告市に対しては国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条等に基づき,慰謝料,逸失利益及び弁護士費用等合計1190万4792円並びにこれに対する本訴状送達日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 なお,被告法人,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y9,被告Y7,被告Y8及び被告Y10をまとめて「被告法人ら」,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y7をまとめて「被告理事ら」,被告Y9及び被告Y8を「被告監事ら」という。
 2 前提事実等(当事者間に争いがないか,証拠(末尾掲記)及び弁論の全趣旨により,容易に認めることができる事実)
  (1)ア 原告(平成5年○月○日生)は,IQ65,療養手帳の障害程度区分B2(軽度)の知的障害を持つ女性である。(甲12ないし14)
   イ 被告Y10は,平成23年4月頃に被告法人に雇用され,被告法人が運営するGHにおいて世話人として稼働していたものであり,平成27年3月10日付けで自主退職した。(乙C2,被告Y10本人)
   ウ 被告法人は,障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下「障害者支援法」という。)に規定する障害者福祉サービス事業(同法5条11項),相談支援事業(同条18項)等を行うことを目的として設立された社会福祉法人であり,多機能型事業所a施設第Ⅰ及びⅡ,共同生活援助事業所b施設第Ⅰ及びⅡ等を運営している。
   エ 被告Y2は,被告法人の理事長であり,a施設第Ⅰ及び第Ⅱの施設長並びにb施設第Ⅰ及びⅡの責任者でもある。(甲2)
   オ 被告Y3は,本件性的関係が持たれていた当時,被告法人の理事兼理事長職務代理であったものであり,c施設の施設長である。
   カ 被告Y5,被告Y6,被告Y7及び被告Y4は,本件性的関係が持たれていた当時,被告法人の理事であったものである。
   キ 被告Y9及び被告Y8は,本件性的関係が持たれていた当時,被告法人の監事であったものである。
   ク 被告市は,後記(6)の法16条1項に基づく虐待通報(以下「法16条通報」という。)がされた平成27年3月当時,原告に対し障害福祉サービスや計画相談等の支援決定をしていたものである。
  (2)ア 原告は,平成24年3月にd養護学校高等部を卒業し,被告法人との間で多機能型施設(就労移行支援及び就労継続支援B型)及び共同生活援助を内容とする居住型共同生活援助事業契約を締結した(以下「本件契約」という。)。原告は,本件契約に基づき,同年4月1日,b施設Ⅰの第4GHに入所した。(甲1,2)
   イ 本件契約の概要は,原告が日中はa施設Ⅰにおいて活動支援(野菜集荷やスイーツ作り等)のサービスを受けるとともに,それ以外の時間はb施設ⅠのGHにおいて入居サービスを受けるというものである(甲2。以下では前記各施設を合わせて「本件施設」といい,b施設ⅠのGHは番号のみで表記する。)。事業者は,サービスの提供に当たって,入所者の生命,身体,財産の安全・確保に配慮するものとされている(本件契約書9条)。(甲1,2)
   ウ 原告は,本件契約締結の際,被告法人から寄付金120万円の納付を求められ,平成27年3月に本件施設を退所するまでに合計90万円を支払った。(争いなし)
  (3) 原告は平成25年3月末頃に第5GHに移動し,その頃被告Y10も第5GHの世話人となった。被告Y10には平日の週4日宿直があり,土曜日も宿直に入ることがあった。
  (4)ア 被告Y10は,同年10月某日の宿直中,原告が生活する個室内で原告と避妊をせずに性行為を行った。この時以降,被告Y10は,概ね週4日ある宿直日には,午後11時頃から翌朝6時頃まで原告の個室内で過ごし,その間に性行為を行うようになった。(甲27,被告Y10本人)
   イ 被告Y10は,平成26年4月に第4GHに異動したが,週4日ある宿直の日には窓から原告の個室に入り,それまでと同様に性行為を行っていた。(甲27,乙B1〔25,26頁〕,被告Y10本人)
   ウ 原告が実家に帰省した際には,被告Y10と原告は一緒に出掛け,ホテルで性行為を行うこともあった。(乙A1の129ないし139,214ないし218,233,被告Y10本人)
  (5) 原告は,平成27年2月末頃,妊娠していることが判明した。被告Y10は原告に対し子供は育てられない旨伝え,原告は同年3月18日に中絶手術を受けた。(甲28,乙B1,被告Y10本人)
  (6) 原告母は,同年3月5日,本件施設が所在する伊那市を通じて被告市に対し,被告法人の職員である被告Y10によって入所者である原告が妊娠させられたことや,原告の計画相談や申請等は被告法人が行っていたためどうなっているか分からないこと等を相談した(法16条通報)。
 被告市においては,コアメンバー会議(福祉課長,障がい福祉係長,障がい福祉係員を構成員とする会議)が開催され,同月6日には被告Y10が原告と性的関係を持ったことは法2条7項2号の「福祉施設従事者等による性的虐待」には当たらないと判断され,その旨が原告母に伝えられた。(乙B1,7)
 その後,被告市の担当者は,被告県の助言を受け,原告本人からの事実確認,被告施設の事業所訪問及び被告Y2ほか2名の職員からの事実確認を実施するとともに,被告Y10と面談等による事実確認を行い,同年6月4日,被告県に対し,法17条に基づく報告(以下「法17条報告」という。)を行った。(乙C1)
  (7) 被告県の担当者は,同年8月27日に被告法人の事実所を訪問し,被告Y2以外の職員からの事実確認を行うとともに,同年11月2日には被告Y10と面談して事実確認を行った。原告本人から直接に事実確認することは試みられたが,代理人弁護士との調整がつかなかった。被告県は,被告Y10が原告と性的関係を持ったことが性的虐待に当たるか否かの判断を留保したまま,平成28年2月3日,被告法人に対し,①職員が夜間勤務時間内にGH入所者の居室において入所者と性行為を行うという不適正な行為があったこと,及び②①について管理者が把握しておらず,また防止するための適切な措置が講じられていなかったことにつき,改善計画の策定及び提出を求める行政指導を行った。(乙C4)
  (8) 被告市は,平成28年1月16日,指定特定相談支援事務所すみれの丘の計画相談支援専門員作成のサービス等利用契約のとおり,就労継続支援A型及び計画相談支援の支給決定を行った。
 3 争点及びこれに関する当事者の主張
  (1) 被告Y10の不法行為責任の有無
 本件性的関係により原告が妊娠,中絶に至ったことが不法行為に当たるがか争点である。
 (原告の主張)
   ア 原告は,10歳6か月程度の知的能力水準しかなく,抽象的思考や合理的判断に乏しく,流され易く,自己判断に乏しく他者に頼ってしまうといった障害特性を有していた。被告Y10は,そのような原告に対し,自分の勤務時間内に職場であるGH内の原告の個室において,ある日の深夜に突然,身体的な接触行為を行い,その2日後には性的関係を結び,その後約1年4か月に渡り婚姻の意思もないのに避妊をすることなく週4回程度のペースで頻繁に性行為を行った結果,原告を妊娠させ,中絶させた。
   イ 被告Y10の前記一連の行為は,原告の性的自己決定権を侵害するものであり,「障害者福祉施設従事者等(法2条4項,以下「施設従事者」という。)による性的虐待」(法2条7項2号,以下「性的虐待」という。)に当たり,障害者虐待防止法,障害者基本法,障害者支援法等の関係法令に基づき,当該サービスの提供を受ける障害者に対して負う安全配慮義務及び安全確保義務に違反する。
   ウ 被告らは,原告と被告Y10は自由意思に基づく恋愛関係にあったから不法行為は成立しない等と主張するが,極めて例外的な場合を除き,障害者福祉施設従事者等とその利用者である障害者との間に恋愛関係は成立しない。被告らが主張する程度の事実は不法行為の成立を否定する理由にはならない。
 (被告法人らの主張)
   ア 障害者の有する障害の内容及び程度は様々であるところ,法2条7項2号に規定する性的虐待とは,支援を受けるべき障害者に対し,支援擁護すべき立場にある者がその立場を利用し,判断能力に乏しい障害者を欺罔し,あるいは抑圧などして行う性的関係であり,すなわち障害者の尊厳を害する行為を禁止するものである。
 原告と被告Y10との間には愛情に基づく恋愛関係が存在しており,そのような関係の中で性行為が行われたものであるから,例え原告が妊娠し,中絶に至ったとしても,性的虐待には当たらない。
   イ 原告の障害の程度は軽微であり,自力でJR飯田線及び中央線を利用して帰省や通勤を行い,スマートフォンの使用に習熟し,他者と必要な連絡を取ることができ,日常の意思疎通にも問題がない。本件施設の作業においては,職員がいなくとも他の利用者に指示を出し,自らがリーダーとなって各種料理を調理する能力を有している。男性入所者Cと交際中に別の男性入所者からの告白を断る等,交際相手を自分の意思で選択する能力を有していた。また,e養護学校在学中に性に関する出前講座を受けた際には,義父から受けた性的虐待を講師に相談することができたし,GH入所後に出会い系サイトを利用して性的関係を持った男性から性病を移されたことを被告法人の職人に相談することもできたことからして,原告にはトラブルがあれば他者に相談して解決する能力が備わっている。
 (被告市の主張)
 前記(被告法人らの主張)アのとおり。
 原告にはB2の知的障害があり,抽象的思考や合理的判断に乏しいところがあるものの,障害の程度は軽微であり,好悪の感情に基づき自己決定をすることはできる。
 また,原告は悩みを抱えると被告法人の職員や姉に相談していたのであり,他者に相談して問題を解決する能力を有していたが,被告Y10との交際は悩みとして相談していない。
 (被告県の主張)
 否認ないし争う。
  (2) 被告法人の使用者責任不法行為責任及び債務不履行責任の有無
 (原告の主張)
   ア 使用者責任
 被告Y10は被告法人の被用者であり,被告Y10の前記(1)(原告の主張)の不法行為は職務の執行について行われたものであるから,被告法人は使用者責任を負う。
   イ 被告法人の安全配慮義務違反等(不法行為責任及び債務不履行責任)
 (ア) 障害者虐待防止法は,障害者福祉施設の設置者等に対し,障害者福祉施設従事者等に対する研修の実施その他障害福祉施設従事者等による障害者虐待を防止するための措置を講ずべき義務を定めている(同法15条)。また,被告法人は,本件契約書9条1項に基づき,原告の生命,身体,財産の安全・確保に配慮すべき義務を負っていた。具体的な注意義務違反及び安全配慮義務違反の内容は後記(イ)ないし(カ)のとおりである。
 (イ) 被告法人は,女性利用者が入所しているGHの利用者の世話人を女性に限定することができたのに,漫然と男性である被告Y10を原告が入所するGHの世話人に配置した。
 (ウ) 被告法人は,女性利用者の入所するGHに男性の世話人を配置する場合には,その適性を調査,審査したり,宿泊勤務の基準やガイドラインを制定したり,世話人が施設利用者との個人的な交際を禁じたり,世話人と利用者の連絡先の交換や世話人が利用者の個室に立ち入ることについて規則を定めたり,朝礼等で指示を出したり注意喚起をしたりすべきであったのに,これらの措置を何ら講じることなく,職員個人の判断に委ねていた。
 (エ) 被告法人は,職員の勤務状況や職場での行動をチェックする体制を構築せず,世話人による宿泊勤務が適切に行われているかを把握するための措置をとらなかった。
 (オ) 被告県は,平成24年度から毎年障害者虐待防止・権利擁護研修を実施するとともに,障害者虐待防止センターの職員の出前講座を実施し,さらに厚生労働省が実施した研修会の資料を紹介しているところ,被告法人では,平成26年度の被告県主催の障害者虐待防止の研修会に職員を参加させたことがあるだけで,積極的に障害者虐待防止の研修会への参加や外部講師による研修会の実施をすることはなく,障害者虐待防止マニュアルやチェックリストを活用することもなかった。被告県が公開している研修資料を理解していれば,被告Y10の行為が性的虐待に当たることは明白である。
 加えて,女性利用者に適切な福祉サービスを提供するとともにその性的自己決定権や性的安全を守るために,職員と利用者の適切な人間関係の形成に関する研修,知的障害の特性についての研修,妊娠・中絶についての研修,性行為による感染症リスクについての研修,これらを踏まえて利用者が性的自己決定に関し適正な判断ができるようにするためにはどのような点に注意を払わなければならないか等の研修を実施するとともに,身体が成熟している女子障害者の特質を職員に理解させる必要があったのに,これらの職員研修を実施しなかった。
 (カ) 被告法人は,職場の掲示板や回覧板,朝礼,職員会議,ケース会議等において,職員に対し,性的虐待をしてはならないことを周知し,遵守させるような措置をとらなければならなかったのにこれを怠った。
 (被告法人の主張)
   ア 前記(1)(被告法人らの主張)のとおり,本件性的関係は性的虐待に当たらない。
   イ 被告Y2は,日頃の研修,職員会及びミーティング等を通じ,障害者の尊厳ある生き方を実現するための支援の意義を理解させ,適切な措置を講じていたし,平成26年度(平成27年1月27日開催)の被告県主催の障害者虐待防止に関する研修にも参加している。
   ウ 被告法人はGHの密室内で女性利用者の頬や体を触るなどの行為をした職員を解雇したことがあり,被告Y2はこの経緯を他の職員に説明し,再発防止のため内部研修を行った。
   エ 女性利用者のいるGHの世話人を女性に限定するのは非現実である。
   オ 被告Y2は,原告が本件施設入所後に出会い系サイトを利用して性病にり患した際には性に関する指導を行ったし,原告が男性利用者Cと交際を始めたときには,Cが養護学校時代に同級生を妊娠中絶させた事件を原告にも説明して注意喚起し,避妊の指導もしている。
  (3) 被告Y2,被告理事ら及び被告監事らの責任の有無
   ア 被告Y2の注意義務違反の有無(不法行為責任)
 (原告の主張)
 被告Y2は,被告法人が運営する施設の理事長として職員を指導監督する立場にあり,また被告法人との委任契約に基づく善管注意義務及び忠実義務に基づき,施設従事者等による障害者虐待を防止し,入所者の生命,身体及び財産の安全を保持するために職員を指導監督するなど適切な措置を講じる義務があったのにこれを怠った。
 (被告Y2の主張)
 前記(2)(被告法人の主張)のとおり。
   イ 被告理事らに対する不法行為責任の有無
 (原告の主張)
 (ア) 被告理事らは,被告法人との委任契約に基づく忠実義務及び善管注意義務に基づき,職員によって入所者が性的虐待を受け,妊娠中絶に至らないよう,入所者の身体の安全を確保し,職員による性的行為の防止を徹底すべき注意義務を負っていた。
 (イ) 具体的には施設従事者等がその利用者である障害者に対し虐待をしないよう研修の実施その他適切な措置を講ずるべき義務を負っていたのに何ら措置を講じなかった。
 (ウ) 仮に被告理事らがそれらの措置を直接執ることができなかったとしても,理事長である被告Y2がそれらの措置を講じなかったことについて監督義務違反を負う。
 (エ) 特に被告Y3は,単なる理事にとどまらず,被告法人の理事長職務代理であり,c施設施設長を務め,他の理事らが無報酬であるのに対し,被告Y2と同様に職員給与の支給を受けていたことからすれば,被告Y2に匹敵する注意義務違反を負っていたといえる。
 (被告理事らの主張)
 被告法人においては,職員の日常の労務管理や入所者,利用者の日常の処遇に関すること等は理事長である被告Y2の専決事項となっており,他の理事は報告を受けるだけであったので,職員への研修,障害者への安全確保などの管理体制を徹底し,障害者虐待防止のための措置を講じる安全配慮義務を負わない。
   ウ 被告監事らに対する不法行為責任の有無
 (原告の主張)
 被告監事らは,被告Y2及び被告理事らの業務執行の状況を監査すべき職務を負うところ(平成29年法律第52号による改正前の社会福祉法(以下「社会福祉法」という。)40条1号),被告Y2及び被告Y3が障害者虐待(特に性的虐待)を防止するために必要な措置を講じていないことを知りながら,その状況を監査して注意を与えなかった。
 (被告監事らの主張)
 前記イ(被告理事らの主張)のとおり。
  (4) 被告市の責任の有無
 (原告の主張)
   ア 被告市は,法16条通報を受けたときは,障害福祉サービス事業等の適正な運営を確保することにより,当該報告にかかる障害者に対する障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の防止並びに当該障害者の保護及び自立支援を図るため,社会福祉法その他関係法律の規定による権限を適切に行使する作為義務を負う(同法19条)。
   イ 被告市の担当者は,平成27年3月5日,虐待通報を受けた直後にコアメンバー会議を組織したものの,原告及び被告Y10からの事情聴取,原告母や被告Y2からの直接の事情聴取,被告施設の視察や原告のケース記録の精査等の事実確認のために必要な措置を十分に講じることなく,被告Y2による電話での説明内容を前提に,原告と被告Y10ともに恋愛関係にあることを認めていること等を理由として,同月6日には本件性的関係が性的虐待に当たらないと判断した。これは調査権限の裁量を逸脱,濫用したものとして違法である。
   ウ 被告市の担当者は,虐待非該当の判断をした時点では,本件性的関係は原告が帰省した時に施設外で行われていたと認識していたところ,同年5月7日に原告本人から聴取した結果,被告施設内で性行為があったという新事実が発覚した。また,原告母は,電話及び直接出向いて本件性的関係に関する事情聴取や調査をするよう求めていたのに,被告市の担当者は同月26日になるまで本件施設に訪問して調査せず,同月29日まで被告Y10から直接事情聴取をしなかった。同月7日に新事実が発覚した時点で被告市の担当者が原告及び被告Y10から事情を聴取して事実関係を究明していれば,本件性的関係が性的虐待に当たるとの判断に至った可能性は高かったのに,被告市の担当者が必要な調査を行わず,虐待非該当の結論を維持したことは,調査権限の逸脱,濫用に当たり違法である。
   エ 被告市は,障害者総合支援法1条,2条1項1号及び2号に基づく責務として,法16条通報を受けた場合には,法19条に基づき,次のような対応を採ることが求められていたところ,原告に対しては適切な措置を講じることなく放置した。
 (ア) 被告法人の施設からの分離
 障害福祉サービス事業者の施設入居者から障害者虐待の通報があった場合には,入居者と施設側の信頼関係が破壊されていることが懸念されるので,当該入居者を施設から分離するため,他の施設を手配する必要があった。また,当該障害者の個別の事情によっては適切な場所に保護すべき場合もある。
 被告市の担当者は,原告及び原告母から事情を聴いて他の施設を手配すべきなのに,虐待非該当と即断し,そのような手配をしなかった。
 (イ) サービス等の利用契約の策定や市町村による支給決定
 被告法人は原告の相談支援事業者を兼ねていたところ,施設従事者による障害者虐待事案において,計画相談員が当該施設内にいる場合には,当該障害者にとって必要な自立支援給付が途切れることのないよう他の計画相談員を手配し,新たな支援計画が迅速に策定されるよう配慮すべきであった。しかしながら,被告市の担当者は,虐待非該当と判断したことにより,新たな相談支援事業者を紹介しなかった。
 原告は平成28年1月18日に新たな支給決定を受けることができたが,被告市の担当者が性的虐待に当たると判断していれば,より早期にサービス等利用計画が策定されて支給決定が得られたはずである。
 (ウ) 就労支援・訓練支援の継続
 知的障害者に対する就労支援は継続性が極めて重要であるところ,原告が本件施設を退所して就労支援を受けることができなくなった以上,被告市の担当者は就労支援が途切れないよう他の適切な施設や障害福祉サービスを検討するなどの配慮をすべきであったのにこれを怠った。
 原告は,本件施設での訓練により可能となっていた字の読み書き,簡単な計算,1日のルーティン(朝起きて着替える等)等ができなくなり,精神的な混乱を来した。
 (エ) 他の適切な施設の照会や施設移転への配慮
 被告市は,原告に対し,その障害の程度や個別事情に合致した適切な施設及び障害福祉サービスを手配し提供すべき義務がある。
 被告市の担当者は,原告が義父から小中学生時に性的虐待を受けていたことを認識していた上,原告母が平成27年3月9日に加えて同年4月13日にも,原告が自宅で生活することは支障があるので,他の施設やアパート等を紹介してほしいと相談したにもかかわらず,適切な施設等を紹介しなかった。
 (オ) 必要な情報提供
 被告市の担当者は,原告及びその家族に対し,施設や就労,訓練,補助金の案内等障害者にとって必須な情報を提供すべきなのにしなかった。
 (被告市の主張)
   ア 前記(1)(被告市の主張)のとおり被告Y10と原告は,自由な恋愛関係に基づき本件性的関係を結んだものであり,性的虐待ではない。
   イ 被告市は,法16条通報受理後速やかに調査を開始し,関係者に対し調査をした結果,本件性的関係は,被告Y10が地位を利用して原告と性的関係を持ち続けたものではないと判断したのであり,法19条に基づく調査・監督権限を適切に行使しており違法はない。
   ウ 原告の障害福祉サービス利用台帳などの記録によれば,原告の知的障害の程度は軽微であり,自由意思を抑圧された場合にはこれを拒否して他者に相談できる能力を有していると確認でき,また原告母や被告Y10,被告法人から任意に聴取した結果,1年半にわたり原告と被告Y10が真剣に交際していたと認められ,被告Y10が結婚の意思を持っていたことから,被告市は本件性的関係が障害者虐待には当たらないと判断したものであり,このような判断に誤りはない。
   エ 原告は,平成27年3月6日時点で,被告市の担当者が被告Y10及び原告から直接事情を聴取することなく性的虐待に当たらないと判断したことが違法であると主張するが,厚生労働省地域生活支援推進室作成による「市町村・都道府県における障害者虐待の防止と対応」(以下「本件マニュアル」という。)では障害施設従事者等ではなく障害福祉施設等から事実確認をすることとされていたのであるから,被告市の担当者が被告Y2から事実確認をしたことは何の問題もない。また,被告市の担当者は,虐待通報を受けた当日に2回,翌日朝に1回,原告母に電話をかけたが連絡がつかず,自宅に訪問しても面会できず,やっと原告母と電話で連絡が取れたものの,原告から直接話を聞くことを拒否された。そのような状況において,原告母も原告と被告Y10が1年半前から交際していたという被告Y2から聴取した内容に沿う話をしたため,原告と被告Y10は恋愛関係にあり本件性的関係は性的虐待には当たらないと判断したのであり,このような判断過程に違法はない。
   オ 被告市の担当者は,原告母に対し,事実確認のために原告との面談又は電話での聴取を求めたが,原告母が拒否したため実現できなかった。被告市の担当者としては,原告の任意の協力が得られなかった以上,原告本人からの事実確認を断念せざるを得なかった。
   カ(ア) 平成27年3月6日に原告母と電話で話した時点で,原告が本件施設から自宅に戻っていることを確認しており,施設分離の必要はなかった。義父は住民票から除かれおり同居していなかったし,仮に義父が実家の近所に居住していたとしても,被告市は原告が母の下にいることが最も安全であると判断したのであり,何ら問題はない。
 (イ) 被告市は,松本圏域内の市村と共に,障害者総合支援法に基づき,障害者がその有する能力及び適性に応じて自立した日常生活又は社会生活が営めるよう地域の障害者,障害児の保護者又は障害者の支援を行う者からの相談に応じ,必要な情報の提供及び助言その他の便宜供与をするとともに,障害者に対する虐待の防止及びその早期発見のための関係機関との連携調整その他障害者の権利擁護のために必要な援助を行うために総合相談支援センター「ボイス」を設置し,これに委託して障害者の居住・就労・生活等の各種支援を行っている。被告市の担当者は,原告の今後の生活の支援をすべく,平成27年3月9日,原告の母親に対し,ボイスと協力して相談に応じることを伝え,以後,ボイスと連携して原告の支援に当たっていたのであり,現に原告は就労継続支援A型事務所fに通所している。よって,被告市の担当者が原告を放置した事実はない。
  (5) 被告県の責任
 (原告の主張)
   ア 都道府県は,法17条報告を受けたときは,障害福祉サービス事業等の適正な運営を確保することにより,当該報告に係る障害に対する障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の防止並びに当該障害者の保護及び自立支援を図るため,社会福祉法その他関係法律の規定による権限を適切に行使する作為義務を負う(同法19条)。
 被告県の担当者は,平成27年3月5日に伊那市を通じて法17条報告を受けたとみるべきであるから,この時点から前記作為義務を負ったといえる。
 法19条の規定ぶりからして,都道府県の調査義務は市町村のそれと並列関係にあり,二次的,補充的なものではない。
   イ 被告県の担当者が,同月9日,独自に前記アの調査権限を行使することなく,かつ,被告市の判断を十分に吟味することもなく,被告市が施設従事者虐待と判断しなかったことをもって対応終了としたことは調査義務違反に当たる。
   ウ また,被告県の担当者は,同年4月28日に対応を再開したものの,被告市に対し,適切かつ迅速に調査するよう指示することも,被告県自ら調査を行うこともしなかったのであり,このことは調査権限の裁量の逸脱,濫用に当たり連法である。
 (被告県の主張)
   ア 県の調査義務は二次的・補充的なものであること
 法16条が,障害者虐待通報を受け付け,事実調査をするのは市町村の障害者虐待対応窓口であると規定していることからすれば,一次的な調査義務者は市町村である。都道府県は,緊急性が認められるケースや障害者施設の協力が得られないケースなどの例外的な場合を除き,市町村により虐待であると判断されたケースについて報告を受け(法17条),市町村の調査により虐待の有無が判断できない場合に独自の調査を行う二次的・補充的な立場である。
   イ 法17条報告を受けた後の対応
 被告県の担当者は,同年6月4日,被告県は被告市から法17条報告を受け,同年6月12日にケース会議を開催し,被告県として調査に入るか否かを検討した上で,被告市に対して調査継続を指示し,助言することに決定し,同年7月3日には被告市と合同での会議を開催し,同月24日には独自の調査を行っていくこととし,原告本人との面談を調整したが,実施には至らなかった。
 そして,被告県は,「職員が夜間勤務中にグループホーム入居者の居室において入居者と性交を行うという不適切な行為を行った事実が確認された」との調査結果に基づき,平成28年2月3日,被告法人に対し,改善計画の提出を求める指導を行った。
 以上のとおり,被告県は法17条報告を受けた後,適切に調査権限及び監督権限を行使しており,権限不行使の違法はない。
   ウ 法17条報告を受ける前の対応
 被告県は,同年3月5日に伊那保健福祉事務所から「グループホーム世話人が入居者(原告)と恋愛関係になり,原告が妊娠したことにつき,原告母から行政に対して指導を求める苦情があった」との連絡を受けた以降,伊那保健福祉事務所を通すなどして,適宜,被告市に対し助言・監督を行っていた。同年4月28日には被告市に対し関係者から事情を聴取して事実確認をし,再度報告するよう連絡している。
 同年3月5日に連絡を受けた時点で,原告が本件施設内ではなく自宅に戻っていることを確認し,緊急に保護する必要がないことを確認していたことからすれば,被告県が自ら調査に着手せず,被告市に対する助言・監督を行ったことには何ら権限不行使の違法はない。
   エ 同年3月6日時点で原告が自宅に戻っていることが確認されており,施設分離を問題とする余地はなかった。支援計画の策定,就労支援,他の施設の紹介その他必要な情報の提供はまずもって被告市の責務である。被告市から相談はなかったし,原告及び原告の母からも要請はなかった。
  (6) 損害の有無及び額
 (原告の主張)
   ア 慰謝料 900万円
 被告Y10は,平成25年10月以降約1年4か月の長期にわたり,真摯に交際する意思もなく,自己の性欲を満たすため,原告の知的障害に乗じて避妊もせずに週4回のペースで性行為及びわいせつ行為を繰り返した。このような被告Y10の行為は性的虐待に当たる。その結果,原告は妊娠,中絶せざるを得なくなったのに,被告Y10は何ら配慮さえしなかった。以上の被告Y10の行為は極めて悪質であり,原告は精神的苦痛を被った。
 さらに,原告の母が,法16条通報をしたのに,被告市は法律上の権限を適切に行使しなかった。被告市から法17条報告を受けた被告県も法律上の権限を適切に行使しなかった。また,被告法人も適切な措置を講じなかった。その結果,原告は適切な対応を受けることができず,精神的苦痛を受けた。
   イ 逸失利益 92万4792円
 原告は,平成26年11月から平成27年1月までの間,被告法人の下で作業を行い,毎月,平均3万8533円の収入を得ていたが,被告Y10の性的虐待により,被告法人を退所せざるを得なくなり,就労して収入を得ることができなくなった。逸失利益が生じた期間は2年間である。
 (計算式)
 3万8533円×24か月=92万4792円
   ウ 寄付金相当額 90万円
 被告法人は,原告が入所する際,原告が死亡するまで被告施設で過ごすために120万円の寄付金を支払うよう求めた。原告は,被告法人が生活の場を保障しなくなったときは返還してもらうという解除条件を付けて平成26年12月までに90万円を支払った。原告は,被告Y10の性的虐待により被告法人の施設を退去せざるを得なくなり,前記解除条件が成就した。
 仮に前記主張が認められないとしても,被告法人の職員による不法行為によって施設から対処せざるを得なくなった原告に対しては損害として賠償されるべきである。
   エ 弁護士費用 108万円
 本件の相当な弁護士費用は108万円を下らない。
   オ アないしエの合計 1190万4792円
   カ 遅延損害金利
 被告法人は喫茶店を経営し,クッキーの製造,販売もしており,外形上営利法人と変わらない。また,喫茶店は「場屋取引」(商法502条7号)に該当するので,被告法人の行為は商行為を行うものといえ,商人に該当する(商法4条1項)。
 したがって,本件の損害賠償金の遅延損害金利率は商事法定利率によって計算されるべきである。
 (被告法人ら,被告市,被告県の主張)
 否認ないし争う。
第3 争点に対する判断
 1 認定事実
 前記前提事実に加え,証拠(末尾掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 原告の知的障害の内容及び程度等
   ア 平成23年2月時点の原告の知能指数はIQ65であり,平成24年4月時点のWISCⅢより算定された知的能力水準は10歳6か月程度であり,知的障害の程度は中度とされた(甲12,13)。療養手帳の障害の程度区分はB2(軽度)であり,行動障害はない。
   イ 「厚生労働省による知的障害者実態調査における知的障害の程度に関する判定資料」によれば,18歳以上のIQ51~75の知的障害者の障害の程度は,小学校5,6年程度の学力にとどまり,抽象的思考や合理的判断に乏しく,事態の変化に適当する能力は弱いが,職業生活はほぼ可能とされている。(甲14)
   ウ(ア) 原告は,e養護学校高等部1年生の時から被告Y10と性的関係を持つまでに,4人の男性と交際し,交際相手と性的関係を持った経験があった。(甲27,証人●●●)
 (イ) 原告は,平成22年1月頃,e養護学校高等部で性をテーマとした授業を受けた際,小中学生の頃に義父に体を触られるなどしたことを告白・相談したことがあった。
 (ウ) 原告は,平成24年6月及び7月に養護学校時代の先輩に誘われて出会い系サイトを利用し,そこで知り合った若い男性二人から車中で迫られるままに性行為に応じた結果,性病にり患し,同年8月頃に被告法人の職員に相談したことがあった。(甲27)
  (2) 平成25年3月末頃,原告は第5GHに移動し,その頃被告Y10も同GHの世話人となった。
 同年10月のある火曜日の夜,被告Y10は原告と話をしている最中,原告の意思を明確に確認することなく,キスをしたり,体を触ったりした(甲27,被告Y10本人)。この時,原告は嫌だなと感じていた(甲27,乙C11,12)。
 次の被告Y10の宿直の夜,世話人室の横を通らなければ共用トイレに行けないので,原告は悩んで友達に相談したが,「トイレに行かないわけにはいかないでしょう」と言われ,トイレに行くことにした(乙C11)。トイレから戻ると被告Y10がおり,後ろから抱き付かれ,その状態で歩いて居室に戻った。被告Y10は,原告の意思を明確に確認することなく性的関係を持った。性行為後に被告Y10は「好きなんだよね」というようなことを言ったが,この時点で原告は付き合っているとは思っていなかったし,好きでもなかった。この時から,被告Y10が宿直の日には原告の居室に来て性的関係を持つようになり,しばらくして被告Y10から告白されて,交際が始まった。原告と被告Y10が最後に性的関係を持ったのは平成27年1月半ば頃である。(乙B1〔29頁〕,甲27,被告Y10本人)
 被告Y10は,原告と性的関係を持ち始めた頃は避妊をしたこともあったが,避妊具を一,二箱使い切った頃から避妊をしなくなった。(甲27,被告Y10本人)
  (3) 平成25年3月当時の第5GHの入所者は男性7名,女性3名で,世話人は被告Y10と女性職員2人が配置されていた。世話人は日中にGH内で勤務するほかに,宿直としてGHに宿泊することとなっており,被告Y10は週4日宿直としてGHに宿泊していた。
 なお,被告Y2は,宿直を勤務時間とは考えておらず,非常事態に備えた待機当番であって,非常時以外は自由に行動してよいこととしていた。(乙C2,3)
  (4) 前記(2)の事実認定の補足説明
 被告Y10から体を触られた時の状況及び交際が始める経緯に関する原告の陳述書等(甲27,乙C11,12)の内容は自然かつ具体的であり,他者の影響を受け易い点を考慮しても信用できる内容である。
 これに対し,被告Y10は,初めて原告にキスをしたり,体を触ったりしたときに「嫌だったら言ってほしい」と確認したが拒否されなかったと述べ,その翌々日に初めて性行為を行った直後に交際を申し込み,原告がこれを了承して,交際が始まった旨主張する。しかし,被告Y10は当初GH内で性行為を行ったことを隠匿していた(乙B1)。また,平成27年5月29日に実施された被告市による事実確認においても,交際が始まってしばらくして性的関係を持ったと述べており,同年11月2日の被告県による面接調査でも原告との関係が始まったきっかけは被告Y10が好意を持って告白して付き合い始めたと回答していたところ,陳述書(乙A7,8)や尋問においては前記主張に沿う供述等をするなど重要部分で大きく変遷している。よって,前記認定に反する被告Y10の供述等は信用できない。
 2 争点(1)(被告Y10の不法行為責任の有無)について
  (1) 原告は,本件性的関係及びこれにより原告が妊娠,中絶に至ったことが原告の性的自己決定権を侵害し,また障害者虐待防止法その他関係法令に基づき障害者福祉施設従事者等がその利用者である障害者に対して負う安全配慮義務及び安全確保義務に違反し違法である旨主張する。これに対し,被告法人ら及び被告市は,本件性的関係が原告と被告Y10の自由な恋愛関係に基づくものである以上,不法行為は成立しない旨主張する。
  (2) 障害者虐待防止法は,障害者虐待を防止すること等をもって障害者の権利利益を擁護に資することを目的として定められ(1条),「何人も,障害者に対して,虐待をしてならない。」(3条)と規定している。そして,特に同法における「障害者虐待」の主体を擁護者,障害福祉施設従事者等及び使用者と限定した上(2条2項),当該障害福祉施設に入所し,その他当該障害福祉施設を利用する障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障害者に対し,わいせつな行為をすること又はわいせつな行為をさせることが「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」であると定義し(法2条7項2号),第3章において障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を防止するための仕組みが規定されている。このような法の規定によれば,障害者福祉施設従事者等が当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障害者に対してわいせつ行為をすること及びわいせつ行為をさせることは,当該障害者が障害の影響を受けることなく同意したと認められるような極めて限定的な場合を除き,原則として禁止されており,障害福祉施設従事者等が障害者虐待をした場合には,当該障害者の権利利益を侵害するものとして,私法上も不法行為を構成すると解される。
  (3) 確かに,前記1(2)及び原告と被告Y10のLINEのやりとり(乙A1の1ないし347,2の1ないし54)によれば,原告と被告Y10が性的関係を持った後に恋愛関係に発展していたと認めることはできる。
 しかし,前記1(2)によれば,被告Y10は,最初の時点で,明確に原告の意思を確認した上で性的接触をしたり,性的関係を結んだりしたとは認められないし,約1年4か月にわたり継続した交際期間中,ほとんど避妊をすることもなく週4回程度性行為を行っていること等の本件事実関係に照らせば,原告が障害の影響を受けることなく,被告Y10との性行為に応じていたとはおよそ認められない。
  (4) これに対し,被告法人ら及び被告市は,原告には好悪の感情に基づき交際相手を選択して性的自己決定をする能力があったと主張するが,障害者福祉施設従事者等による障害者虐待として規制されているのはわいせつ行為であって,交際すること自体ではない。異性と交際することと性的関係を結ぶことでは,障害者がさらされるリスクや自衛のために要求される判断能力の程度は大きく異なる。
 また,被告法人ら及び被告市は,原告がトラブルがあれば他者に相談して問題を解決する能力を有していたところ,本件性的関係をトラブルとして相談していない等と主張するが,原告は,前記1(1)ウ(イ)のとおり,義父からのわいせつ行為というトラブルに遭遇しても適時に相談できていないし,同(ウ)の出来事からは性的自己決定の未熟ささえ認められる。
 したがって,被告法人ら及び被告市が指摘する点は,不法行為の成立を否定する理由にはならない。
  (5) 以上によれば,被告Y10には,原告と本件性的関係を結んだことについて,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
 3 争点(2)(被告法人の責任の有無)及び争点(3)ア(被告Y2の不法行為責任の有無)について
  (1) 前記2のとおり,本件性的関係は,被告Y10の宿直時にGH内で行われたものであるから,被告法人の事業の執行について行われたと認められる。原告の帰省時に外出先で性行為をしたことがあったとしても,これは事業執行性の認められる一連の行為の一環として行われたものといえる。
 したがって,被告法人は,前記2の被告Y10の不法行為について,使用者責任を負う。
  (2) 原告は,被告法人及び被告Y2が障害者虐待防止法その他関係法令及び本件契約に基づき原告に対する安全確保義務等を負っていたところ,これを怠ったと主張する。
 確かに,被告法人においては,利用者と世話人が連絡先を自由に交換し連絡を取り合うことが規制されておらず,宿直中の世話人が宿直を行う際のルールも何ら定められておらず,その間の世話人の言動を検証する仕組みは全く整えられていなかった(乙B1〔25頁〕)。
 しかしながら,施設従事者と利用者の契約上の関係性からして,施設従事者が利用者である障害者と交際したり,避妊もせずに性的関係を結ぶことが一般的にあり得ることとはいえないし,本件施設の職員や被告Y2が原告と被告Y10の交際に気づいていておらず,本件マニュアルにおいて,施設従事者と利用者との関係に関する内部統制システムの構築が要請されていなかったという本件事情の下では,被告法人及び被告Y2が本件性的関係を具体的に予見し得たとは認められない。
  (3) 以上によれば,被告法人に対する使用者責任に基づく損害賠償請求には理由があるが,被告法人に対するその余の請求及び被告Y2に対する不法行為に基づく損害賠償請求はいずれも理由がない。
 4 争点(3)イ(被告理事らの不法行為責任の有無)について
  (1) 原告は,被告理事らには,法人との委任契約に基づく忠実義務及び善管注意義務として,職員により入所者が性的虐待を受け,妊娠中絶に至らないように安全確保すべき義務や障害者虐待防止研修等の適切な措置を講じるべき義務があったと主張する。
 社会福祉法38条では,理事は全ての社会福祉法人の業務について社会福祉法人を代表するとされ,同法39条では,社会福祉法人の業務は,定款に別段の定めがない限り,理事の過半数をもって決するとされている。しかしながら,被告法人では,被告Y2のみが理事として登記されており,定款によって業務執行の決定権限は理事長である被告Y2の権限とされているものと認められる。
 職員らに受講させるべき研修の選択は,日常の業務執行に関する事項であって,被告理事らが決定権限を持つ事項ではないので,原告の前記主張は採用できない。
  (2) 原告は,被告理事らには被告Y2の業務執行に対する監督義務違反があった旨主張する。
 しかし,証拠(甲5,6,被告Y2本人)によれば,平成25年4月から平成27年3月までに開催された理事会では,被告法人の予算や事業,新役員の提案や新たに建設するGHに関する決議が行われたことが認められるが,理事会の議案その他の方法により,被告理事らに対して世話人の宿直の体制や研修の実施状況等に関する報告が行われたとは認められず,被告理事らにおいて世話人が女性利用者と性的関係を結ぶことについて具体的な予見可能性があったとは認められない。
 したがって,被告理事らに監督義務違反があったとは認められない。
  (3) よって,原告の被告理事らに対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。なお,被告理事らと原告との間に契約関係はないので,債務不履行に基づく損害賠償請求も理由はない。
 5 争点(3)ウ(被告監事らの不法行為責任の有無)について
 原告らは,被告監事らには障害者虐待を防止するために必要な措置を講じていなかったことを知りながらこれを放置した点に注意義務違反がある旨主張するが,被告監事らにおいて障害者虐待防止のために必要な措置が講じられていないことを認識し,又は認識し得たと認めるに足りる証拠はない。
 よって,原告の被告監事らに対する不法行為責任は理由がない。なお,原告と被告監事らとの間に契約関係はないので,債務不履行責任に基づく損害賠償請求も理由がない。
 6 争点(4)(被告市の責任)について
  (1) 前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認めることができる。
   ア 原告母は,平成27年3月5日,伊那市に対し,原告が妊娠していること,相手は世話人の被告Y10であること,原告と被告Y10が1年半ほど恋愛関係にあったこと,被告Y10は責任を持てないと述べており,被告法人は成人のことなので関与しないと述べたが納得できないので行政から指導してほしいこと,計画相談や申請等は被告法人が行っていたのでどうなっているのか分からないことなどを電話で訴えた。(乙B2,乙C7)。
   イ 伊那市から法16条通報を受けた被告市は,同日,被告市社会福祉課の課長,係長,保健師及び係員3名の合計6名で構成員するコアメンバー会議を開催し,障害福祉サービス利用台帳等の記録を確認した上,本件性的関係が合意に基づき行われていれば性的虐待には当たらないという方針のもと,原告に対し,被告Y10との交際関係の有無と妊娠の事実確認等を行うこととした。当日中,被告市の担当者が原告母の携帯電話に2回架電したが応答はなかった。(乙B1,7)。
   ウ(ア) 被告市は,翌6日朝にも原告母の携帯電話に架電したがつながらず,原告宅を訪問するも原告及び原告母は不在だった。(乙B1)
 (イ) その後,被告市は,被告Y2から電話を受け,被告Y10は原告と恋愛関係にあり,子供ができた責任を取るために結婚すると申し出ている旨知らされた。(乙B1)
 (ウ) 被告市は,原告母の携帯電話に架電し,原告母から,①原告が被告Y10と1年半ほど前から交際関係にあったと認めていること,②被告Y10は同月5日に原告宅を訪問し,婚姻の意思はないと述べたこと等を聴取するとともに,被告Y10に気持ちの変化があったことを伝え,話し合いに応じるよう助言し,同月9日に被告法人と原告及び原告母が話し合う場を調整した。(乙B1)
 (エ) 被告市は,以上の経過を踏まえ,コアメンバー会議を開催し,以下の理由から,本件性的関係が原告の意思に反して行われたとは考え難く,恋愛感情に基づくものであると判断できるため,法2条7項2号に規定する「福祉施設従事者等による性的虐待」に当たらないという結論を出した。(乙B1,7)。
  a 原告は意思決定が自立しており,自ら解決できない問題を他者に相談できる能力を有していること
  b 原告と被告Y10は1年半もの長期間にわたり交際していたこと
  c 被告Y10が原告と結婚する意思を持っていること
 (オ) その後,原告母から被告市に電話があった際,被告市の担当者は,原告母に対し,原告と被告Y10は交際関係から性的関係を結んでいるので性的虐待には当たらないと判断した旨伝えた。このとき,原告母から,交際関係にあったことを理由に性的虐待でないと判断するのであれば,原告に嘘を言わせて被告Y10及び被告法人に制裁を加えたいという発言があった。(乙B1)
   エ 被告市は,同月9日,原告母の携帯電話に連絡をしたところ,原告母は原告を被告法人の施設に戻すつもりはないと述べた。被告市は,被告法人の施設の他に即時に入所可能なGHはなく,今後の生活及び日中活動についてボイスと協力して相談に応じるので来所するよう伝えた。
   オ 同月19日,原告母から原告が中絶手術を受けた旨の報告があった際,被告市は今後のことを相談するために同月26日に福祉課に来所するよう伝えたが,原告及び原告母は来所しなかった。(乙B1)
   カ 同年4月13日,原告母が被告市の福祉課に来所し,本件性的関係は性的虐待であると再度訴えた。また,原告が自宅で生活することは大変負担に感じるので,アパートを借りて一人暮らしをさせたいという申し出があった。
   キ 同月27日,原告母はボイスを訪れ,原告の日中活動の場とGH又は一人暮らしの支援に関する相談を行った。その際,原告母から被告市に対する訴訟提起を検討しているという話があったことを受け,被告市は伊那市を通じて被告県の障がい者支援課に相談した。被告県からは,被告市に対し,交際の経緯や正式な交際だったのか等を原告,原告母,被告Y10及び被告Y2から事実確認するよう助言があった。
   ク 被告市は,同月30日に被告Y2に電話で事実確認を行った。同年5月7日には,原告に対し直接事実確認を実施し,本件性的関係が被告法人の施設内で行われていたことが聴取された。さらに,今後のことについては,一般就労は人間関係が怖いので福祉就労を考えていること,一人暮らしをしてみたいが実家も嫌ではないこと,就労は市内の事業所を見学し,住まいはもう少し考えてみることが聴取された。
 被告市は,同月26日に被告法人の事業所を訪問し,被告Y2ほか職員2名から事実関係を確認した。同月29日に被告Y10と面談したところ,被告Y10は施設内で性行為を行ったことを認めた。(乙B1〔12,13,21ないし29頁〕)
   ケ 被告市は,同年6月4日,被告県に対し,被告市の調査の結果,施設従事者と施設利用者との間で性行為があり,利用者が妊娠したが,双方が交際していたことを認めており,妊娠発覚後には施設従事者が施設利用者との結婚を決意したことなどから一概に虐待とは判断しかねるが,夜間の緊急支援体制加算の対象時間内に施設内で性行為が行われていたことについては,施設の管理体制に問題があるという内容の法17条報告を行った。(乙C1)
   コ 原告は,ボイス職員の案内で,同年5月26日には就労継続支援B型事務所を見学し,同年6月19日には就労移行支援事務所を見学し,同月24日には同施設の体験も行ったが,いずれも通所を希望しなかった。同年9月からはボイス職員に付き添われてハローワークで求職活動などを行ったが,カフェでの体験を希望したため,同年11月12日には就労移行支援事務所のカフェギャラリーの見学が行われた。さらに,同年12月3日に就労継続支援A型事業所の見学を行い,同月14日から4日間の体験を経て,原告は同施設への通所を希望した。
 原告の希望を受け,ボイスは指定特定相談支援事務所の計画相談支援専門員を手配し,平成28年1月18日,被告市は同相談員により作成されたサービス等の利用計画のとおりに就労継続支援A型及び計画相談支援の支給決定を行った。
   サ ボイスは,松本市障害保健福祉圏域障害者相談支援事業実施要綱及び松本市障害保健福祉圏域障害支援事業委託契約に基づき,被告市,松本市など松本圏域3市5村の自治体が,中信社会福祉協会に事業委託して設置している総合相談支援センターであり,平成27年当時から被告市が行うべき相談支援事業を実施していた。(乙B4,5)
  (2) 原告は,被告市が平成27年3月6日時点で本件性的関係が障害者虐待には当たらないと判断したことは,調査権限の裁量を逸脱するものであり違法であると主張する。
 確かに,被告市は,法16条通報を受けた翌日,交際関係にある男女が合意に基づき性的関係を結んだものであり,被告Y10が婚姻の申出をしていることを理由に性的虐待には当たらないと判断しているところ(前記(1)ウ),交際や性的関係が始まった経緯について,原告本人や被告Y10から直接事実確認調査をすることなく,交際期間が約1年半(なお,実際には1年4か月である。)であったことを根拠に原告の同意に基づく性的関係であったと判断した点は拙速であるというほかない。本件マニュアルでは,加害者側に対する事実確認方法として,まず虐待を行ったとされる職員の勤務する施設から話を聞くこととされており,これ自体は当該職員の供述の矛盾点を見破る上で有意なことと考えられるが,直接の当事者でない施設が事情を正確かつ具体的に把握しているとは限らない。被告法人は,原告の妊娠が発覚するまで原告と被告Y10が性的関係を持っていることも,交際していたことも把握していなかったのであるから,被告Y2の話は被告Y10から聴取した内容の伝聞供述でしかない。また,原告母も数日前に原告の妊娠を知ったに過ぎず,被告市との電話でのやり取りも具体性を欠くものであった。
 もっとも,被告市は,平成27年5月に原告本人及び被告Y10に対し直接事実確認調査を行っていること(前記(1)ウ)等を考慮すれば,同年3月6日時点で一度障害者虐待に当たらないと判断したことをもって調査権限の裁量を逸脱濫用するものであったとはいえない。
  (3) また,同年5月7日の原告からの事実確認により,GH内で性行為が行われたと新事実が発覚した時点で被告Y10に対する事実確認をしていれば性的虐待に当たるとの判断に至った可能性が高かったのに,必要な調査をせずに虐待非該当の判断を維持したことが調査権限の不法行為に当たり違法であると主張するが,被告市は同月29日に被告Y10に対する事実確認調査を行っていることからすれば,必要な調査を怠ったとは認められない。また,かかる調査において被告Y10はGH内での性行為を認めており,被告市はこれを踏まえて再度コアメンバー会議で協議して虐待非該当という判断をしていることからすれば,より早い時点で被告Y10に対する事実確認を行っていれば,結論が変わったとも認められない。
  (4) 原告は,被告市が原告に対する支援が絶たれたことを知りながら,これを放置した等と主張するが,前記(1)エないしク,コ及びサによれば,被告市は,ボイスを通じて適切に相談支援を行い,新たなサービス等利用計画の作成を手配し,その計画とおりに就労継続支援A型及び計画相談支援の支給決定していることが認められ,被告市が原告に対する支援をせずに放置したとの事実は認められない。
 原告は,被告市が障害者虐待に該当すると適切に判断していれば,より迅速に生活の場や日中活動の場が提供されたはずである旨主張するが,前記(1)コによれば,原告及び原告母はボイス職員の案内により,複数の事業所を見学,体験した上で通所先を決めており,より早い段階で日中活動の場が決まったとは認められない。また,平成27年3月9日時点で被告法人の施設ほかに空きのあるGHはなく(前記(1)エ),同年5月7日に原告が一人暮らしもしてみたいが実家暮らしも嫌ではないのでもう少し考えている旨述べていたこと(前記(1)ク),被告市は原告も元義父が実家の近くに居住していることは把握しておらず,原告及び原告母からそのような申し出もなかったこと(証人六井,証人清水),原告は現在も実家に居住していることからすれば,被告市が障害者虐待に当たると判断していたとしても,他のGHや一人暮らしのアパートなどが手配されていたとは認められない。
  (5) 以上によれば,被告市がその裁量を逸脱濫用して法19条に規定する調査権限等を行使しなかったとも,支援を怠ったとも認められず,被告市に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は理由がない。
 7 争点(5)(被告県の責任)について
  (1) 認定事実
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
   ア 被告県は,平成27年3月5日,伊那市を通じて,施設従事者等による性的虐待の疑いのあるケースの第一報があったとの報告を受けた。翌6日には,原告と被告Y10は正式に交際しており,今後結婚することになったこと,性行為はGH内では行われていないこと,原告母も社会的制裁は求めていないことなどから,被告市は性的虐待ではないと判断し,これ以上介入しない方針であるとの報告があった。被告県は,同月9日,伊那市を通じて,被告市に対し判断経緯などを確認した上,被告市の対応経過及び判断を了承し,引き続き個別支援の継続を依頼した。(乙C5,6,7,8,9)
   イ(ア) 同年4月13日,原告母から被告市に対して再度障害者虐待であると訴えがあり,同月27日には原告母がボイスに対する相談の中で,被告市に対する訴訟提起を検討している旨の発言が見られた。(乙C10)
 (イ) 被告県は,同年4月28日,伊那市を通じて被告市から前記原告母の訴えについて相談を受け,センター打合せを行った上,原告と被告Y10の関係,堕胎や結婚の話が破談になった経緯等について,原告,原告母,被告Y10,被告法人の職員等に事実確認を行うよう指示した。被告県は,被告市が被告Y2及び原告から聴取した内容をセンター打合せで検討した上,同月11日,被告市に対し,被告法人の職員からも話を聞き,コアメンバー会議で協議して公平中立に判断するよう助言した。(乙C10)
 (ウ) 同月14日,被告市から改めてコアメンバー会議で検討した結果,障害者虐待ではないと判断したとの報告があったので,被告県は,同年5月15日にセンター打合せを行い,被告Y10や被告Y2以外の職員に対し事実確認を行うよう助言した。(乙B1,乙C10)
 (エ) 被告市は被告Y10や被告法人の職員に対し事実確認を行った上,同年6月4日,被告県に対し,法17条の報告書を提出した。(乙B1,乙C1,10)
   ウ 被告県は,同年8月27日に被告法人の事業所を訪問して現地確認を行い,被告Y2以外の職員からも事情を確認するとともに,同年11月2日には被告Y10と面談して事実確認を行った。被告県は,原告本人から直接事実確認しようと試みたが,原告母や代理人弁護士と調整がつかなかったため,同年12月25日,性的虐待に当たるか否かの判断は留保して,被告法人への行政指導を行うこととした。(乙C2,3,10,20)
   エ 被告県は,平成28年2月3日,被告施設に対し,①職員が夜間勤務時間中に,GH入所者の居室において入所者と性行為を行うという不適切な行為があったこと,②①について管理者は把握しておらず,また防止するための適切な措置が講じられていなかったことにつき,改善計画の策定,提出を求める行政指導を行った。(乙C4)
  (2) 原告は,被告県が平成27年3月9日時点で独自に調査権限を行使することなく,かつ,被告市の判断を十分に吟味することもなく,対応を終了したことが調査権限の裁量を逸脱濫用したものとして違法であると主張する。
 しかし,前記(1)アの被告市による報告内容に照らせば,この時点で被告県が被告市の判断を支持し,被告県独自の調査を行わなかったとしても,調査権限の裁量を逸脱濫用したものとして違法であるとはいえない。
  (3) また,同年4月28日に本件性的関係に関する対応を再開した後にも,被告県は被告市に対して適正かつ迅速に調査をすることを支持しなかったと主張するが,前記(1)イ(イ)ないし(エ)によれば,被告県は被告市に対して適切に助言していたと認められるし,同年6月4日以降も原告本人からの事情聴取を試みつつ,被告法人の施設に対する実地調査確認や被告Y10に対する事実確認調査を行っていたと認められる。
  (4) 以上によれば,被告県がその裁量を逸脱,濫用して法19条に規定する調査権限を行使しなかったとは認められず,被告県に対する国賠法1条1項に基づく損害賠償請求は理由がない。
 8 争点(6)(損害の有無及び額)について
  (1) 寄付金
 原告は,被告法人に対して支払った寄付金90万円は,原告が死亡するまで被告法人の施設で生活の場の提供を受けられることが解除条件となっていたところ,被告Y10の性的虐待により原告は被告法人の施設を退去せざるを得なくなり,解除条件が成就した旨主張する。
 被告法人の施設利用者の被告法人に対する寄付金交付の法的性質は贈与であると考えられるが,かかる贈与契約において,原告が主張するような解除条件が付されていたとは証拠上認められない。
 もっとも,原告は,被告法人の求めに応じて90万円の寄付金を支払いながら,被告法人及びその職員であった被告Y10の不法行為により,入所からわずか3年ばかりで退所せざるを得ない状況に置かれたことは,後記(3)の慰謝料額算定において考慮する。
  (2) 逸失利益
 原告は,被告法人の施設を退去せざるを得なくなった結果,作業収入を得ることもできなくなったとして,2年分の作業収入額が逸失利益に当たると主張するが,本件において原告の労働能力が損なわれたとは認められないから,逸失利益は認められない。
 もっとも,平成28年1月18日に改めて就労支援A型及び計画相談支援の支給決定を受けるまでの間,就労支援を受けて作業収入を得ることができなくなった点は,後記(3)の慰謝料額算定において考慮する。
  (3) 慰謝料
 本件においては,被告Y10が避妊もせずに本件性的関係を約1年4か月間継続し,原告が妊娠したこと,被告Y10は原告に対し一貫して子供を育てることはできないと伝え,その結果原告は中絶を決断したこと,原告は障害年金等から工面して被告法人に対し寄付金90万円を分割払いしたこと(被告Y2本人),原告は被告法人のGHを退所することとなり,日中活動支援が一定期間中断したことなどが認められ,その他本件に関する一切の事情を斟酌すれば,原告の精神的苦痛を慰藉するために相当な慰謝料額は300万円と認められる。
  (4) 弁護士費用
 本件の相当な弁護士費用は300万円の1割である30万円と認める。
  (5) 遅延損害金利
 商人であるかどうかは,その法人の法律上の性質から決定される(最判昭和63年10月18日)。社会福祉法人は営利を目的とする法人ではないので(社会福祉法人法1条),被告法人に商事法定利率が適用されることはない。
第4 結論
 以上によれば,原告の請求は,被告Y10及び被告法人に対し,連帯して330万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成28年1月31日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,よって主文のとおり判決する。
 長野地方裁判所松本支部
 (裁判官 中井裕美 裁判長裁判官松山昇平は転補のため,裁判官佐々木亮は転官のため,いずれも署名押印することができない。裁判官 中井裕美)

児童ポルノの静止画像を入れた記憶媒体を売却していたというような事例については,画像ソフトによる加工がされた(例えば,画像処理により恥毛等の第二次性徴を消した等)との主張がなされる可能性が一層強くなるので,事案に応じて,捜査段階から,コンピュータ画像の専門家や医師の意見を聴取するなどして立証に備えるべきである。北岡克哉Q&A 実例 証拠収集の実際

 CG事件は静止画像なので大多数無罪になっています。
 動画の事件の場合は、タナー判定要らないと思うんですよ。画像と自白で有罪になる。

北岡克哉Q&A 実例 証拠収集の実際
72児童ポルノビデオテープの画像に関する留意事項
A警察署警察官甲らは、レンタルビデオショップの店員であるxが同店経営者yとともに、いわゆる児童ポルノであるビデオテープを販売しているとの情報を得て捜査に着手した。甲らはXのビデオショップから少女が全裸で陰部を広げている模様等が撮影されたビデオテープを押収したが,XやYを取り調べても,撮影対象を特定することができなかった。
甲らは,Yらを児菫買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(当時。以下「児菫ポルノ法」という。なお,現児童買春・児童ポルノ禁止法)違反の被疑事実で処罰するために,どのような立証を行う必要があるか。
A 大阪高裁H12.10.24判決をモデルとした事案である。原審で有罪判決を受けた被告人側から控訴がされ、弁護人側から①本件ビデオの被撮影者が何人であるかは特定されておらず,それらが人間であることについてすら合理的な疑いを容れる余地がある,②思春期遅発症や小人症等の可能性を考えれば,被撮影者が18歳未満の児童であると断言することはできない,③児童ポルノ法自体が違憲である,④児童ポルノ法違反の規制対象となる児童ポルノは,被撮影者が具体的に特定できていなければならない等の主張がされたが,本判決は,弁護人側の主張をいずれも排斥した。
本項では,特に,①及び②について,画像以外に手がかりがない場合の立証及びその程度・方法,という観点に着目してみたい。
本判決て.は,①被撮影者の実在性について,「捜査報告書写真撮影報告書、Xの警察官調書及び被告人の警察官調書など,原判決が挙示する関係証拠によれば,本件各ビデオテープにおいては,本件各写真の被撮影者である少女が性交又は性交類似の行為を行っている模様や全裸になって陰部を拡げている模様などが撮影されていることが認められるから,本件各ビデオテープ°の被撮影者が実在する人であることは明らかである。」とした。
そして,②の年齢立証の問題については,「上記関係証拠ことに捜査報告書窓いし写真撮影報告書中の本件各写真から窺われる各被撮影者の容貌,体格,発育状況などに照らすと,本件各ビデオテープ・の各被撮影者はいずれも児童であると認められる。
なるほど,当審証人である医師Aの証言及び同人作成の前記鑑定書によれば,本件各写真の被撮影者が思春期遅発症や小人症である可能性を医学的に否定することはできず,各被撮影者の年齢が18歳未満であると,100パーセントの確率で断言することはでき難いという。
しかし,もとより,刑事訴訟における証明は,医学等の自然科学における証明とは異なり,裁判官に合理的葱疑いを容れない程度に確実であるとの心証を抱かせれば足りるものであるところ,医師Aの当番証言によれば,本件各写真の各被撮影者が,思春期遅発症や小人症などであることを窺わせる徴候はないというのであるから,上記の証言及び鑑定書によっても,本件各写真,ひいては本件各ビデオテープの各被撮影者が18歳未満の者であることに合理的恋疑いを容れる余地はないというべきである。」と判示して認定した。
実務上も,いわゆる児童ポルノの被撮影者が誰かということはむしろ特定できないことがほとんどであると思われ,その場合,その実在や年齢が18歳未満であることを数学的な意味で100%の確率で立証することは不可能であろう。
本判決は,このような自然科学的な立証が不能な場合であっても,裁判官に合理的な疑いを容れない程度に真実であるとの心証を抱かせれば足りるとし,ほとんど画像一本から事実を認定しているが,極めて常識的な判断であると考えられる。
設例でも,上記判決で示された考え方に立ち,当該画像のみで立証が足りる場合が多いであろうが,ビデオのような比較的長時間にわたる連続した画像の場合に比して,例えば,児童ポルノの静止画像を入れた記憶媒体を売却していたというような事例については,画像ソフトによる加工がされた(例えば,画像処理により恥毛等の第二次性徴を消した等)との主張がなされる可能性が一層強くなるので,事案に応じて,捜査段階から,コンピュータ画像の専門家や医師の意見を聴取するなどして立証に備えるべきである。

少女は無職少年に頼まれ、他人に見せない約束で動画を提供した。動画が出回っていることを知り、県警に相談したが、拡散がきっかけとなり、通っていた高校を退学した。


 犯人を処分しても、画像は回収できません。
 リベンジポルノ罪の可能性があります。

https://mainichi.jp/articles/20181010/k00/00m/040/102000c
LINEで裸の動画拡散 容疑の14人家裁送致
毎日新聞2018年10月9日 21時15分(最終更新 10月9日 21時30分)
 無料通信アプリLINE(ライン)を通じて少女の裸の動画を高校生らの間で拡散させたなどとして、名古屋地検豊橋支部は9日、児童買春・ポルノ禁止法違反(製造、提供、公然陳列)などの疑いで15、16歳の男女14人を名古屋家裁に送致した。
 愛知県警によると、無職少年(16)が6月、当時15歳の友人の少女にスマートフォンのカメラで撮影させた動画を男子高校生らに提供。この高校生がライングループで動画を共有し、さらに受け取った生徒が同級生らに拡散させるなどしていたという。

 少女は無職少年に頼まれ、他人に見せない約束で動画を提供した。動画が出回っていることを知り、県警に相談したが、拡散がきっかけとなり、通っていた高校を退学した。

 県警が8月、児童買春・ポルノ禁止法違反容疑などで14人を書類送検していた。(共同)

被告の職員である原告が,同じく被告の職員である女性に対し,セクハラ行為をしたことを理由として,処分行政庁から,停職6月の懲戒処分を受けたことについて,原告と当該女性職員は交際関係にあったことから懲戒理由となったセクハラ行為は存在しないこと,本件処分の手続には告知・聴聞の欠如及び懲罰委員会規程に定める手順の不履践等の違法があるとして,本件処分の取消しを求めたが、職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いて,本件女性職員の意に反し強いて性的関係を結んだ事実は認められず,本件処分は処分


「本件女性職員は,本件性的関係を結んだ後,原告に対し,前記1(9)認定に係る日常的なやりとりのメール,病院への送迎や金銭の交付を求めるメール,さらに原告の来訪や原告との身体的接触を求めるメールを送信していること,殊に,原告から関係の解消を提案された後も,前記1(11)認定のとおり,原告の来訪や原告との肉体関係を求めるメール及び原告との交際関係の継続を望み,原告への強い愛情を表すメールを毎日大量に送信しているのであって,当該メールの内容は,原告と本件女性職員との交際が,本件女性職員の自由な恋愛感情に基づくものであることを如実に示すものであって,当該メールの内容からは,本件女性職員が,心ならずも肉体関係を持ってしまったことを正当化して,本件性的行為を強いられた自分を納得させる女性特有の心理作用に基づいて原告との交際を継続したなどということは到底うかがえず,他に被告の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。」という判示がある

【文献番号】25560790

懲戒処分取消請求事件
長野地方裁判所平成28年(行ウ)第8号
平成30年6月29日民事部判決
口頭弁論終結日 平成30年2月7日

       判   決

原告 a
同訴訟代理人弁護士 伊藤浩平
同 伊藤奈々子
被告 駒ケ根市
同代表者兼処分行政庁 駒ヶ根市長 b
同訴訟代理人弁護士 長谷川洋二


       主   文

1 被告に所属する駒ヶ根市長が平成25年9月20日付けで原告に対してした停職6月の懲戒処分を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
 主文と同じ。
第2 事案の概要
 本件は,被告の職員である原告が,同じく被告の職員である女性に対し,セクハラ行為をしたことを理由として,処分行政庁から,平成25年9月20日付けで,同年9月20日から平成26年3月19日まで停職6月の懲戒処分(以下「本件処分」という。)を受けたことについて,原告と当該女性職員は交際関係にあったことから懲戒理由となったセクハラ行為は存在しないこと,本件処分の手続には告知・聴聞の欠如及び懲罰委員会規程に定める手順の不履践等の違法があるとして,本件処分の取消しを求める事案である。
1 関係法令等の定め
(1)地方公務員法29条
ア 1項
 職員が次の各号の一に該当する場合においては,これに対し懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる。
1号 この法律若しくは57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例,地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
3号 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合
イ 4項
 職員の懲戒の手続及び効果は,法律に特別の定がある場合を除く外,条例で定めなければならない
(2)駒ヶ根市職員の懲戒に関する条例(昭和29年12月27日条例第33号。以下「本件条例」という。)
ア 1条(目的)
 この条例は,地方公務員法29条2項及び4項の規定により,職員の懲戒の手続き及び効果に関し規定することを目的とする。
イ 5条(停職の効果)
1項 停職の期間は,1日以上6月以下とする。
2項 停職者は,停職の期間中もその職を保有するが,職務に従事しない。
3項 停職者は,停職の期間中いかなる給与も支給されない。
(3)駒ヶ根市懲戒処分等の指針(以下「本件指針」という。)
ア 基本事項
 本件指針は,職員の非違行為等の懲戒処分又は指導上の措置の量定の標準例をその別表に掲げたものである。
イ 懲戒処分等の種類
懲戒処分
 地方公務員法29条及び本件条例により職員の非違行為に対して懲罰として行う処分。
(ア)免職 勤務関係から排除する処分
(イ)停職 1日以上6月以下の間,職務に従事させない処分
(ウ)減給 6月以下の間,給料の月額の10分の1以下に相当する額を給与から減ずる処分
(エ)戒告 非違行為に係る責任を確認させ,その将来を戒める処分
ウ そして,本件指針の別表では,「1 一般服務」の「(13)セクシュアル・ハラスメント」について,その「非違行為内容」は,「暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし,又は職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び,若しくはわいせつな行為をした」ものとされ,その場合の,「懲戒処分又は指導上の措置の量定の標準例」は,「免職又は停職」と規定されている。
2 前提事実等
 以下の事実は当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠(以下,書証の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。
(1)当事者
ア 原告は,昭和62年4月,被告に採用され,以後,被告職員として,秘書広報課,区画整理課などに所属し,平成22年7月当時は,企画財政課企画振興係長であった。
イ 駒ヶ根市長(処分行政庁)は,原告に対する懲戒処分の処分権者である。
(2)原告に対する本件処分
ア 処分行政庁は,平成25年9月20日,原告に対し,地方公務員法29条1項1号及び3号の規定により,平成25年9月20日から平成26年3月19日まで停職するとの懲戒処分(本件処分)をした。
イ 原告が処分行政庁から交付された処分説明書によれば,本件処分は,原告が,平成22年7月24日,KOMA夏ダンスパレードに参加した際,当時,緊急雇用創出事業による同課臨時職員であった女性職員(以下「本件女性職員」という。)に対して,自宅アパートまで送ると言って,本件女性職員の自宅アパートに上がり込み,本件女性職員に対し性的行為を行い(以下「本件性的行為」又は「本件性的関係」という。),その後,平成23年11月に原告の妻の知るところとなるまで不適切な関係を継続していたものであるが,当該行為は,本件女性職員に対する,職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いて,本件女性職員の意に反し強いて性的関係を結んだものと認められ,本件指針のセクシュアル・ハラスメントに関する非違行為の免職又は停職事由に該当するところ,情状酌量の余地もあることから,免職に次ぐ重い処分として,地方公務員法29条1項1号及び3号の規定により,停職6月を課すこととするというものであった(甲2)。
(3)原告の審査請求と駒ヶ根市公平委員会の裁決
 原告は,平成25年11月13日付けで,駒ヶ根市公平委員会に対して審査請求をしたが,同委員会は,平成27年10月27日付けで,原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(4)本件訴訟の提起
 そこで,原告は,平成28年4月25日,本件処分の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。
3 争点
(1)本件処分の処分理由の有無
(2)本件処分の手続の違法性の有無
4 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件処分の処分理由の有無)について
〔原告の主張〕
ア 原告は,平成22年7月当時,企画財政課の企画振興係長であり,本件女性職員は,企画財政課の情報推進係であり,係が異なっていたため,原告と本件女性職員は,上司,部下の関係にはなく,実際,原告が,本件女性職員に対して,職務上の指示,命令等をしたことはなかった。また,原告が,本件女性職員の採用等について,被告に対して意見等を述べたことはない。そもそも本件女性職員は,緊急雇用創出事業により被告に雇用されており,同事業は,法令により雇用期間が最大1年と定められているから,平成21年9月1日に採用された本件女性職員は,平成22年8月30日に退職とならざるを得ず,この点について,原告が何らかの影響を及ぼすことは不可能である。
 したがって,原告が,本件女性職員に対して,上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いた事実は認められない。
イ 原告と本件女性職員が,平成22年7月24日に本件性的関係を持ち,その後,平成23年11月17日に原告の妻に発覚するまでの間,交際関係を継続したことは事実である。しかし,原告と本件女性職員との上記関係は,本件女性職員の自由な意思に基づく合意の上でのものであり,原告が,職場における上司,部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いることにより,強いて性的関係を結んだ事実はない。
ウ したがって,本件処分は,存在しない事実を理由としてされた事実無根のものであるから,明らかに違法であり,取消しを免れない。
〔被告の主張〕
ア 原告は,平成22年7月当時,企画振興係長の地位にあり,本件女性職員は,企画財政課の臨時職員という立場であり,直接的な職務関係という意味では,本件女性職員は原告の直接の指揮系統下にはなかった。しかし,原告は,当時,企画財政課の統括課長という立場にもあり,本件女性職員が所属する課をも統括する地位にあった。また,所属部署の実際の室内の配置においても,本件女性職員の席は,原告の席の隣に位置しており,原告は,常に本件女性職員の職務状況を監視監督し得る立場にあった。さらに,本件女性職員は,臨時職員であって,平成22年8月30日で雇用関係が切れるという極めて脆弱な雇用状況にあった。以上の事実関係に鑑みれば,原告は,本件女性職員に対して,上司・部下等,職場におけるその地位を利用した関係に基づく影響力を用いることのできる事実上の関係にあった。
イ 本件女性職員は,平成22年7月24日の夜,KOMA夏ダンスパレード後の懇親会が終了して帰宅し,トイレに行きたかったことから,自宅の玄関のドアをそのままにしていたところ,原告が勝手にドアを開けて部屋に入ってきて,両肩をつかまれながら,ベッド上に押し倒されたが,職場の上司であるため,かかる状況をきちんと把握できない混乱した中で抵抗したものの,原告から無理矢理に犯されることによって本件性的関係を持ったものである。
 したがって,原告は,本件女性職員の意に反して,強いて性的関係を結び若しくはわいせつな行為をしたことが認められる。
ウ 本件女性職員は,本件性的関係を結んだ後,約1か月後には,原告に対して好意を抱くようになり,原告との交際関係を継続し,原告から毎月4万円程度の金銭の援助を受けるようになった。
 しかし,これは,本件女性職員が,心ならずも肉体関係を持ってしまったことを正当化して,自分は原告から愛されているのだと自ら信じ込ませることによって,本件性的行為を強いられた自分を納得させるための女性特有の心理作用に基づくものであって,本件性的関係が本件女性職員の意思に反したものであることを否定する根拠とはならない。
エ 原告は,この点について,平成22年7月24日の原告と本件女性職員との本件性的関係は合意に基づくものである旨主張する。
 しかし,原告によれば,性的行為の前に本件女性職員はシャワーや風呂に入らなかったというのであるが,本件女性職員が原告に対して好意を抱いていたのであれば,汗にまみれた身体を洗い流すために必ず風呂又はシャワーを浴びるはずであり,これをしないことは性的行為を行う男女間の常識に反するものであり,このことは,原告が,無理矢理,本件性的関係を求めたことを推認させる間接事実である。また,原告によれば,性交直前に「本当にいいの?」と聞いたというのであるが,本件女性職員が原告との性的行為を望んでいたのであれば,原告がわざわざそのような確認をするはずがない。また,原告によれば,本件女性職員からはコンドームの装着等,避妊に関する話が全く出ていないというのであるが,合意に基づく性的行為の場合には,妊娠への不安感からコンドームの装着の要求がされるのが通常であって,本件女性職員から避妊に関する話が出なかったということ自体が,本件性的関係が本件女性職員の意思に反したものであったことを推認させる。さらに,原告によれば,原告は,本件性的行為の後,朝4時頃に帰宅する際に,ベッドにいた本件女性職員に対して鍵を閉めておくように言い,本件女性職員がこれを了解したというのであるが,初めて男女の関係になった女性であれば,好きな男性が部屋を出て行く際に,ベッドに入ったままでいるということは考えられない。
 したがって,原告と本件女性職員との本件性的関係が合意に基づくものであった旨の原告の上記主張は虚偽にほかならない。
(2)争点2(本件処分の手続の違法性の有無)について
〔原告の主張〕
ア 行政手続についても,憲法31条所定の適正手続の保障が及ぶところ,本件処分は,停職6月という重い処分であり,被処分者に甚大な不利益を与えるものであることから,原告に対して,告知と聴聞がされる必要があることは明らかである上,本件では,本件処分の処分理由とされる事実自体に争いがあったのであるから,本件処分に先立ち,原告に対し,予定される不利益処分の内容,不利益処分の原因となる事実(処分理由)及びその根拠について告知した上で,聴聞の機会を十分に保障すべきであった。
 しかるに,原告は,本件処分当日に,処分行政庁から,突然,停職6月の本件処分を告げられたものであり,告知と聴聞がされていないことから,本件処分は,手続的に違法であり,取消しを免れない。
イ 駒ヶ根市職員懲罰委員会規程によれば,同委員会は,駒ヶ根市職員の懲戒処分に関し公正な処理を行うため設置され,委員会の構成は,委員長1人,副委員長1人,委員7人以内とされ,委員長に副市長,副委員長に総務部長を充て,委員は,市職員のうちから市長が任命することとされている(同規程2条)。委員は,職員の服務規律と秩序維持及び職員の懲戒処分に関する事項について,任命権者の諮問により必要な事情調査及び審議に当たることとされ(同規程3条3項,6条),委員長は,必要に応じ関係職員の出席を求め説明又は意見を聴くことができるとされている(同規程7条)。
 しかし,本件において,懲罰委員会は,必要な事実調査をしていない上,2回目の懲罰委員会の開催後,3回目の懲罰委員会開催前に,懲罰委員会外で,本件処分の処分理由とされた事実を認定した。
 このように,本件処分は,駒ヶ根市職員懲罰委員会規程が定める手順を履践せずに行われたものであり,手続的に違法であり,取消しを免れない。
〔被告の主張〕
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記第2の2の前提事実等のほか,証拠(本文中に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件女性職員(■)は,もともと神奈川県内に居住していたが,駒ヶ根市に転居し,平成21年9月1日に,被告に,緊急雇用創出事業にかかる企画財政課の臨時職員として採用された。
 原告は,当時,企画財政課の改革と協働のまちづくり推進室長として在籍し,本件女性職員と席が近かったことから,同人と言葉を交わすことはあったが,特に親しいということはなかった(甲11,23,原告本人)。
(2)原告は,その後,職場の飲み会などで,本件女性職員と,たまたま近くの席に座ることが何度かあり,当初は,世間話をする程度であったが,平成22年に入った頃からは,本件女性職員から,既婚男性と交際していることや,神奈川県から駒ヶ根市に来たのは,当該既婚男性から距離を置きたいとの考えもあったことなど,徐々に,個人的な話もされるようになった(甲11,23,乙27,原告本人)。
(3)原告は,平成22年4月頃からは,本件女性職員から,交際中の既婚男性のことや,駒ヶ根市での生活のことなど,プライベートな相談を受けるようになり,同年5月頃からは,職場の飲み会の際には,ほぼ毎回,本件女性職員が隣に座ってプライベートな話をするなど,次第に親しくなっていった(甲11,23,乙27,原告本人)。
(4)原告及び本件女性職員は,平成22年6月28日,職場の飲み会に参加した。
 飲み会が終了したのが午後11時頃であったことから,原告は,同じ課の男性職員とともに,本件女性職員を自宅まで送ったところ,上記男性職員が,本件女性職員の部屋を見たいと言い出し,本件女性職員がこれを了解したことから,原告及び男性職員は,本件女性職員の自宅に入って,10分程世間話をしてから,辞去した。
 原告は,本件女性職員の自宅を辞去して上記男性職員と別れた後,本件女性職員ともう少し話をしたいと考え,再び,本件女性職員の自宅を訪ねたところ,本件女性職員は原告を招き入れた。
 原告と本件女性職員は,隣り合い,肩と肩が触れ合うようにして座り,飲み物を飲みながら,仕事のことや生活のことなどを話しているうちに,自然と,どちらからともなく接吻を交わした(甲11,23,乙27,原告本人)。
(5)前記(4)の接吻を交わした日以降,原告と本件女性職員は,それまで以上に話をする頻度が増すなど,親密さを深めていき,平成22年7月初め頃からはメールのやり取りもするようになり,原告が自宅にいる時間などにも本件女性職員からメールが入るようになった(甲23,原告本人)。
(6)原告及び本件女性職員を含む被告の職員は,平成22年7月24日,駒ヶ根市の市民夏祭りである「KOMA夏」のダンスパレードに参加し,パレード終了後,職場の飲み会が三次会まで行われたが,原告と本件女性職員とは,一次会の途中から三次会が終了するまで隣に座って話をしていた。
 三次会が午後11時頃に終了したことから,原告は,本件女性職員を自宅まで送ったところ,本件女性職員から,「寄っていきませんか」と自宅に招き入れられた。
 原告と本件女性職員は,身体が触れ合うように隣り合って座り,缶ビールを飲みながら話をする中で,どちらからともなく自然に接吻を交わし,その後,本件性的関係を持った。なお,原告は,妻子があることもあってか,本件性的行為をする前に,本件女性職員に対して,「本当に良いの。」と尋ねたが,本件女性職員はうなずき,本件性的行為を受入れた(甲11,23,乙10,27,原告本人)。
(7)原告と本件女性職員とは,本件性的関係を持った後,互いに,原告を「aくん」と,本件女性職員を「■」と呼び合うようになり,また,本件女性職員は,原告に対し,以前より頻繁にメールを送信するようになり,同年8月初旬以後は,日に数件,多いときには日に数十件のメールを送信するようになった。
 原告は,職場の飲み会や出張があるときなど,遅い時間に帰宅しても問題がない日を中心に,月に数回程度,本件女性職員の自宅を訪れ,性的関係を持った(甲6,11,23,原告本人)。
(8)本件女性職員は,平成22年10月,教育委員会に異動となり,原告と職場が離れ,原告のスケジュールが把握できなくなったことから,原告に対し,スケジュールを予め知らせるとともに,本件女性職員の自宅に寄れそうな日を知らせるよう求めるようになった(甲11,23,乙27,原告本人)。
(9)本件女性職員は,平成22年11月頃,前記(2)の交際中の既婚男性と別れたことから,原告に対し,いつでも本件女性職員の自宅に来てほしいからと述べて,自宅の鍵を渡した。
 原告は,本件女性職員の自宅の鍵を受け取ってからは,従前よりも頻繁に本件女性職員の自宅を訪れるようになり,その際は,ほぼ毎回性的関係を持った。
 また,原告は,本件女性職員を経済的に援助するために,毎月4万円ないし5万円程度の金銭を渡した。
 この間,原告と本件女性職員とは,平成23年1月には,安曇野方面に1泊2日の旅行をした。
 そして,本件女性職員は,原告に対して,〔1〕「朝ごはん食べ終わったよ aくんは今日は何をするの?」,「君に日本酒をかったよ」,「妻籠宿いいね aくんと一緒に行こうね」,「aくん,何してる?」,「■はaくんに甘えたいの」,「aくんも早く隣に来てね おやすみ」などと,日常的なやりとりのメール,〔2〕「3時に病院へ行くので迎えに来てくれる?」,「aくんはストーブ(判決注:原告の妻を意味する。)に贅沢させるためや手抜きして楽させるために,苦労して稼いだお金渡してるの?どぶに捨てた方がマシだよ」,「aくんはかつて2ヵ月も■に未納なんだからね ストーブを優先して。ストーブにはそんなに渡す必要がないのに。その分をストーブの方から引いといてください。年末に10万持っていかないといけないのだから。」などと,病院への送迎や金銭の交付を求めるメール,〔3〕「早く一緒に寝ようね」,「■…先に寝るけど 早くとなりに来てね」,「湯タンポ抱いて暖まっても暖まらないんだよ ■一人では 早くとなりに来てね」などと,原告の来訪や原告との身体的接触を求めるメールを送信するなどした(甲6,11,23,乙27,原告本人)。
(10)ところが,平成23年11月17日,原告の妻が,原告の携帯電話のメールの内容を見たことから,原告の妻に原告と本件女性職員との関係が発覚した。
 原告は,本件女性職員に対し,原告の妻に本件女性職員との関係が発覚したことから,今後,関係を続けていくことはできない旨述べた。しかし,本件女性職員は,原告に対し,妻と別れて本件女性職員と一緒になるよう要求し,原告が妻と別れることはできないと回答すると,原告の自宅に行って原告の妻と話をするなどと述べた(甲11,23,乙10,27,原告本人)。
(11)本件女性職員は,原告から関係の解消を提案されて以後,精神的に不安定となって,そのような精神状態であることを原告に示したり,その原因が原告にあるとして原告を非難するなどした。
 その一方で,本件女性職員は,原告に対し,〔1〕「一緒に眠ってね 早く隣に来てさっきみたく抱きしめてね」,「aくん愛しています」,「aくん,■と一緒に寝てください。早く隣に来てね」,「■はaくんがいないと眠れないんだよ。ストーブは■があまりにも本気で、aくんも今までの浮気とは違ってaくんを取られそうで,今まで二人の関係をよくすることに何の努力もしてこなかったくせに,これからの生活のためにaくんにすがりつくストーブが許せない。」,「一緒に寝てほしい。一緒にいたい。何でもいつも話していたい。」,「一緒に暮らさせて。お願いします。」,「抱きしめてください」,「抱きしめてね 一緒に眠ってね」などと,原告の来訪や原告との肉体関係を求めるとともに,原告の妻を非難するメール,〔2〕「aくんと生きてきた時間が■の中で一番充実して輝いていた時間です」,「今,この時も一緒に居たいです。aくんのそばに…」,「ただ…ただ aくんの傍にいたいのです 一緒に居たいのです どうしてこんなにも一緒に居たいのかは自分でもわかりません。愛しているから…それは間違いのない変えがたい事実なのですが」,「aくんなしに,楽しいことはないし 幸せなんてないんだよ。一緒にいたい。」,「■も野尻湖にaくんと一緒に行きたかった ストーブとは会話やメールしないでね」,「本当のaくんでずっといてくれれば■に接してくれれば,こんなにならなくてすんだのにね 時々 現れる本当のaくんがもっとたくさんの時間になってほしいです。昨日と今日は きっと精一杯で対応してくれたのだと信じています。」,「aくんを 信じて 愛したのがそんなに悪いことだとは今でも思ってないよ。愛に満たされた素敵な時間だったよね」などと,原告との交際関係の継続を望み,原告への強い愛情を表すメール,〔3〕「一月の超詳細の予定表を作成ください。(一時間刻みの表) そして,10日くらいまではお手数ですが先にメールにて頑張ってうってください。■のことを大事に思ってくれてるというならそれくらい何でもないことでしょう。」,「予定表来ない」,「10日まではお手数ですが携帯メールで打ち込んで送ってくださいね」などと,原告の詳細なスケジュールを求めるメールを,毎日,大量に送信した(甲6,11,23,乙27,原告本人)。
(12)本件女性職員は,平成23年12月以後,3回程,原告の自宅を訪れ,裏庭に座り込んだり,原告宅に住むことを求めて居座ろうとしたり,原告の妻と離婚して本件女性職員との関係を継続することを要求したりするなどした。 
 また,本件女性は,平成24年1月28日及び29日の2日間に,原告の携帯電話に約80回電話をかけ,また,原告の妻の携帯電話や原告の自宅の固定電話にも,深夜から早朝まで電話をかけ続けたりするようになった(甲7,11,23,乙11,27,原告本人)。
(13)原告は,平成24年2月,原告訴訟代理人弁護士に対して,本件女性職員との関係について相談し,同弁護士は,同月8日,本件女性職員に対し,受任通知を発送し,今後は,原告への直接の連絡や訪問は差し控えるよう連絡した(甲8,11)。
(14)被告は,平成24年2月16日付けで,本件女性職員の母親から,本件女性職員が原告から力づくで肉体関係を結ばされたとの内容の書面を受領した。
 そこで,被告は,原告,本件女性職員,同人らの当時の同僚から事情を聴取した。
 原告は,当初から一貫して,本件女性職員とは,双方の自由な意思に基づく合意の上での性的関係であったと説明した。これに対して,本件女性職員は,原告から強引に本件性的関係を結ばれ,その後,何度も関係解消を提案したが,原告からはうまく関係を継続させられたなどと説明した。
 また,原告及び本件女性職員の当時の同僚は,「2人は間違いなくつきあっていたように見えた。2人でいる時は楽しそうにしていたので,関係があったことは薄々承知していた。二人には,やめたほうがよいと忠告していた。自業自得ではないでしょうか。」などと述べた(甲9~11,18,乙9)。
(15)本件女性職員は,平成24年9月頃,原告を被疑者として強姦罪の被害届を提出し,その後,刑事告訴をしたが,長野地方検察庁飯田支部検察官は,平成25年5月20日,原告に対する強姦被疑事件については,嫌疑不十分を理由として不起訴処分とした(甲5)。
(16)本件女性職員は,平成25年2月,原告を相手方として,原告の本件女性職員に対する本件性的行為が強姦又は本件女性職員の意思に反するものであることなどを理由として損害賠償を求める訴訟を提起した(長野地方裁判所飯田支部平成27年(ワ)第6号損害賠償請求事件)。
 同裁判所は,平成28年10月11日,本件性的関係を持った後の本件女性職員と原告の関係は,自由な恋愛感情による交際関係ということができ,本件性的関係についても,本件女性職員の意思に反してされたものではない旨判示して,本件女性職員の請求を全部棄却する旨の判決をし,同判決は,同月28日,確定した(甲21,22)。
(17)処分行政庁は,原告が,平成22年7月24日,KOMA夏ダンスパレードに参加した際,本件女性職員に対して,自宅アパートまで送ると言って,本件女性職員の自宅アパートに上がり込み,本件女性職員に対し本件性的関係を結び,その後,平成23年11月に原告の妻の知るところとなるまで不適切な関係を継続したが,当該行為は,本件女性職員に対する,職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いて,本件女性職員の意に反し強いて性的関係を結んだものと認められ,本件指針のセクシュアル・ハラスメントに関する非違行為に該当するとして,平成25年9月20日,原告に対し,平成25年9月20日から平成26年3月19日まで停職するとの本件処分をした(甲2)。
2 争点1(本件処分の処分理由の有無)について
(1)前記1認定の事実によれば,平成22年7月24日の本件性的行為及びその後の原告と本件女性職員との性的関係の継続は,いずれも原告と本件女性職員との間の自由な意思に基づく合意の上で行われたものというべきであるから,原告が,職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いて,本件女性職員の意に反し強いて性的関係を結んだものということはできない。
 したがって,本件処分は,処分理由を欠く懲戒処分であって,違法というほかない。
(2)被告の主張について
ア 被告は,本件女性職員は,平成22年7月24日の夜,KOMA夏ダンスパレード後の懇親会が終了して帰宅し,トイレに行きたかったことから,自宅の玄関のドアをそのままにしていたところ,原告が勝手にドアを開けて部屋に入ってきて,両肩をつかまれながら,ベッド上に押し倒されたが,職場の上司であるため,かかる状況をきちんと把握できない混乱した中で抵抗したものの,原告から無理矢理に犯されることによって本件性的関係を持ったものである旨主張し,証拠(甲10,11,13,乙3,7,9,12,20,22)中には同主張に沿う部分がある。
 しかし,本件性的関係を持った経緯は,前記1(1)ないし(6)認定のとおりであって,前記1(7)認定のとおり,原告と本件女性職員とは,本件性的関係を持った後,互いに,原告を「aくん」と,本件女性職員を「■」と呼び合うようになったこと,前記1(9)認定のとおり,本件女性職員は,平成22年11月頃,いつでも自宅に来てほしいからと述べて,原告に対して,自宅の鍵を渡し,平成23年1月には,原告と安曇野方面に1泊2日の旅行に出掛け,その間,本件女性職員から原告に対して,前記1(9)認定に係る日常的なやりとりのメール,病院への送迎や金銭の交付を求めるメール,さらに原告の来訪や原告との身体的接触を求めるメールを送信していること,さらに,前記1(11)認定のとおり,本件女性職員は,原告から関係の解消を提案された後も,原告の来訪や原告との肉体関係を求めるメール及び原告との交際関係の継続を望み,原告への強い愛情を表すメールを毎日大量に送信しており,これらの事実は,本件性的関係が本件女性職員の意思に反することとはそごするものというべきである。この点を考慮すれば,被告主張に沿う上記証拠部分は,反対証拠(甲10,11及び18のうち原告供述部分,乙10,11及び27のうち原告供述部分,甲23,原告本人)に照らして措信し難く,他に被告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
イ 被告は,本件女性職員は,本件性的関係を結んだ後,約1か月後には,原告に対して好意を抱くようになり,原告との交際関係を継続し,原告から毎月4万円程度の金銭の援助を受けるようになったが,これは,本件女性職員が,心ならずも肉体関係を持ってしまったことを正当化して,自分は原告から愛されているのだと自ら信じ込ませることによって,本件性的行為を強いられた自分を納得させるための女性特有の心理作用に基づくものであって,本件性的関係が本件女性職員の意思に反したものであることを否定する根拠とはならない旨主張する。
 しかし,本件女性職員は,本件性的関係を結んだ後,原告に対し,前記1(9)認定に係る日常的なやりとりのメール,病院への送迎や金銭の交付を求めるメール,さらに原告の来訪や原告との身体的接触を求めるメールを送信していること,殊に,原告から関係の解消を提案された後も,前記1(11)認定のとおり,原告の来訪や原告との肉体関係を求めるメール及び原告との交際関係の継続を望み,原告への強い愛情を表すメールを毎日大量に送信しているのであって,当該メールの内容は,原告と本件女性職員との交際が,本件女性職員の自由な恋愛感情に基づくものであることを如実に示すものであって,当該メールの内容からは,本件女性職員が,心ならずも肉体関係を持ってしまったことを正当化して,本件性的行為を強いられた自分を納得させる女性特有の心理作用に基づいて原告との交際を継続したなどということは到底うかがえず,他に被告の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
ウ 被告は,本件性的関係が原告と本件女性職員との合意に基づくものであれば,本件性的行為の前に本件女性職員がシャワーや風呂に入らないはずがないこと,原告が性交直前に「本当にいいの?」とわざわざ確認するはずがないこと,妊娠への不安感のため本件女性職員から避妊に関する話が出るはずであること,本件性的行為の後,原告が部屋を出て帰宅する際に,本件女性がベッドに入ったままでいるということは考えられないことから,原告と本件女性職員との本件性的関係が合意に基づくものであった旨の原告の主張は虚偽である旨主張する。
 しかし、原告主張に係る上記の各点は,いずれも,本件性的行為が,原告と本件女性職員との間の自由な意思に基づく合意の上で行われたことと必ずしも矛盾・そごするものではなく,ひいては,本件性的行為が本件女性職員の意思に反するものであることを推認するに足りる事情ということもできない。 
エ したがって,被告の前記アないしウの各主張はいずれも採用することができない。
(3)以上によれば,原告が,職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いて,本件女性職員の意に反し強いて性的関係を結んだ事実は認められず,本件処分は処分理由を欠く違法なものである。
 したがって,その余の争点について検討するまでもなく,本件処分は取消しを免れない。
3 結論
 よって,原告の本訴請求は理由があるから,主文のとおり判決する。
長野地方裁判所民事部
裁判長裁判官 田中芳樹
裁判官林由希子及び裁判官有本祥子は,転勤のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官 田中芳樹

貸室の賃貸人である原告が、被告に対し、被告が、貸室で違法な撮影を行い、警察による家宅捜索がなされるなどしたため、貸室の新たな賃借人が決まらないなどして、不法行為に基づく損害賠償及び民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案(東京地裁H29.11.30)

被告は、本件貸室において、違法撮影をしたことや違法な児童ポルノDVDが押収されたことを否認しており、本件貸室において家宅捜索が行われたことから、違法な児童ポルノDVDが大量にあったと推認することはできず、本件貸室から違法な児童ポルノDVDが押収されたことを裏付ける客観的な証拠はない。その他、原告が指摘する点を考慮しても、被告が、本件貸室において、違法な撮影行為を行っていたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告が、本件貸室の使用に当たり、違法行為を行ったことを裏付ける具体的な証拠はなく、本件貸室で警察による家宅捜索がなされたことや被告が逮捕されたこと自体、違法な行為とは認められない。とのことです

文献番号】25550504
賃貸契約違法行為による損害賠償請求事件
平成29年11月30日民事第13部判決
口頭弁論終結日 平成29年10月12日
       判   決
原告 a
被告 b
同訴訟代理人弁護士 白川久雄
       主   文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
 被告は、原告に対し、433万5120円及びこれに対する平成29年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、貸室の賃貸人である原告が、被告に対し、被告が、貸室で違法な撮影を行い、警察による家宅捜索がなされるなどしたため、貸室の新たな賃借人が決まらないなどして、不法行為に基づく損害賠償及び民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実
(1)原告は、平成18年2月、有限会社cとの間で、東京都渋谷区α△丁目△△-△所在のd△△△号室(以下「本件貸室」という。)の賃貸借契約を締結し、有限会社cに本件貸室を引渡した(甲2の1)。
(2)有限会社cは、平成18年6月15日、株式会社c(以下「c」という。)に商号変更した(甲9)。
(3)cは、平成28年7月30日、本件貸室を退去した。
3 争点及び当事者の主張
(1)被告の違法行為
【原告の主張】
ア 被告は、本件貸室を写真撮影スタジオに改造し、平成18年3月ころから平成22年4月ころまでの4年間にわたり、違法撮影(アダルトビデオ・DVD等)を行っていた。
イ 平成28年5月、本件貸室を含めた3室において、警察による家宅捜索が行われ、本件貸室内において大量の違法な児童ポルノDVDが発見された。これに関連して、被告やcの代表取締役eは、逮捕勾留され、上記事件は、新聞・雑誌などで報道された。これらの経緯等は、インターネットで検索することができる。
ウ cは、平成28年7月30日、本件貸室を退去し、近くのスタジオに移転した。
エ 原告は、平成28年8月から、本件貸室のテナント募集を行っていたが、同年12月中旬ころまで、賃借人が決まらなかった。
オ 平成28年12月21日、本件貸室の入居者が決まり、原告は入居予定者と賃貸借契約を締結した。入居予定者は、平成29年1月13日に入居する予定であったが、同月12日、原告に対し、解約通知をして入居せず、原告との間の賃貸借契約を解約した。入居予定者は、年商30億円を超える会社であったが、本件貸室に関連する上記事件を知って、対外的な信用も考慮し、本件貸室に入居することを断念し、解約するに至った。
カ 平成29年5月に至っても、本件貸室への賃借人は未だ決まらず、その見込みもない。
【被告の主張】
ア 被告は、本件貸室において、平成18年3月から平成22年4月までの間、違法撮影をしたことはない。被告は、当時、芸能プロダクションを経営し、撮影やDVDなどの作品製作は一切していない。
イ 本件貸室で、大量の違法な児童ポルノDVDが摘発されたことはなく、押収されたのは、パソコンや所属モデルの書類などであった。
(2)原告の損害
【原告の主張】
ア 本件貸室の賃料は、月額36万1260円である。
イ 被告の違法な行為により、本件貸室の新たな賃借人から解約されるに至り、未だ、本件貸室への入居者が決まらないことから、原告は、平成29年1月分から同年12月分までの合計433万5120円(36万1260円×12か月分)の損害を被っている。
【被告の主張】
ア 株式会社タガミサンビューティ(以下「タガミ」という。)が本件貸室の賃貸借契約を解約した理由が、本件貸室での平成28年6月の一連の騒動であったとしても、一般的に、本件の一連の騒動は、それを知った借主が賃貸借契約を解約するに至るまでの理由とはならないというべきであり、同社による賃貸借契約の解約による損害は、被告が労働者派遣法違反被疑事実により逮捕されたこととの間に因果関係はない。
イ 本件の一連の騒動について、当時のテレビやインターネットなどでの報道内容をみると、被告らが所属モデルに対してアダルトビデオへの出演強要をしたということをことさらに強調した内容であるところ、実際にはそのような出演強要の事実など一切ない。事後的にこのような報道などのためにタガミが賃貸借契約を解約し、仮に原告に損害が生じたとしても、相当因果関係はない。
ウ 原告は、タガミから賃料4ヶ月分の違約金を受領し、平成29年9月2日の時点で、本件貸室に新たな賃借人が入居していることから、原告に損害は発生していない。
第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲1ないし14,乙1ないし4、枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。
(1)cは、芸能プロダクションの経営を目的とする株式会社であり、本件貸室を事務所として使用していた。
(2)平成19年10月12日、被告が代表取締役を務める株式会社f(以下「f」という。)が、本件貸室を使用するようになり、原告から、その旨の許可を得ていた(甲5)。
(3)平成28年5月中旬ころ、本件貸室、d○○○号室及び□□□号室において、警察による捜索差押が行われた。
(4)平成28年6月、被告やcの代表取締役のeは、逮捕された。被告の被疑事実は労働者派遣法違反であった。
(5)そのころ、被告が逮捕されたことに関して、所属モデルの女性をアダルトビデオの撮影に派遣したなどとの報道がなされた。
(6)cは、平成28年7月30日、本件貸室を退去した。
(7)原告は、平成28年8月から、本件貸室のテナント募集を行った。
(8)タガミは、平成28年11月ころ、店舗移転を計画し、物件を探していたところ、本件貸室を紹介された。
(9)原告は、平成28年12月21日、タガミとの間で、本件貸室を次の内容で賃貸する旨の賃貸借契約を締結した(甲6の1)。
ア 賃貸借期間 平成29年1月13日から平成31年1月12日まで
イ 解約予告 3ヶ月前
ウ 賃料 月額30万円(別途消費税)
エ 敷金 90万円
オ 償却 1年未満の解約時は賃料の1ヶ月分(別途消費税)
カ 特約条項
(ア)本契約開始日は平成29年1月13日であるが、賃料発生は平成29年2月1日からとする。ただし共益費と光熱費は平成29年1月13日より発生する。
(イ)初回契約期間未満にタガミの都合により解約・解除となった場合には、免除したフリーレント中の賃料相当額を違約金としてタガミは原告に支払うものとする。
(10)タガミは、平成29年1月初めころ、本件貸室の前の賃借人がfであり、平成28年6月ころの騒動の当事者であることを知って、社内で協議し、その騒動から日が浅いうちに本件貸室に支店を移転するのはどうかとの意見が出て、賃貸借契約を解約することとし、平成29年1月12日、原告に対し、解約通知をして入居しなかった(甲6の2)。
(11)原告とタガミは、平成29年1月12日、次のとおり、本件貸室の賃貸借契約について、次のとおり合意した(甲6)。
ア タガミの要望により、下記の精算明細にて即時解約を行うことを原告は承諾する。契約時に預託された敷金90万円は精算に充て、原告はタガミに返還しないものとする。タガミは、精算時不足金額12万8345円を平成29年1月20日までに原告の口座に振り込むものとする。
イ 敷金90万円
清算金102万8345円
内訳 3月分賃料 32万4000円(税込)
   3月分共益費 3万7260円(税込)
   4月1日から12日の賃料 12万9600円(税込)
   4月1日から12日の共益費 1万4904円(税込)
   早期解約による償却32万4000円(税込)
   フリーレント違約金 19万8581円(税込)
   ※1月13日から1月31日まで賃料相当額
不足額 12万8345円(税込)
(12)タガミは,平成29年1月20日ころ、前記(11)の合意に基づき、12万8345円を支払った。
(13)原告は、平成29年7月、本件貸室の賃貸借契約を締結し、賃借人が本件貸室に入居した。 
2 争点(1)(被告の違法行為)について
(1)原告は、被告が、本件貸室を写真撮影スタジオに改造し、平成18年3月ころから平成22年4月ころまでの4年間にわたり、違法撮影(アダルトビデオ・DVD等)を行っていたなどと主張し、本件貸室のあるビルの管理人であるgの陳述書(甲11)を証拠として提出する。その陳述書の内容は、平成28年5月23日に警察署の摘発があり、本件貸室で刑事の家宅捜索があり違法な児童ポルノDVDが大量に見つかり押収されるのを目撃したというものであり、前記認定事実によると、本件貸室において、家宅捜索が行われたことが認められる。
 しかし、被告は、本件貸室において、違法撮影をしたことや違法な児童ポルノDVDが押収されたことを否認しており、本件貸室において家宅捜索が行われたことから、違法な児童ポルノDVDが大量にあったと推認することはできず、本件貸室から違法な児童ポルノDVDが押収されたことを裏付ける客観的な証拠はない。その他、原告が指摘する点を考慮しても、被告が、本件貸室において、違法な撮影行為を行っていたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告が、本件貸室の使用に当たり、違法行為を行ったことを裏付ける具体的な証拠はなく、本件貸室で警察による家宅捜索がなされたことや被告が逮捕されたこと自体、違法な行為とは認められない。
(2)そうすると,その余の点を検討することなく、原告の請求には理由がない。
3 結論
 よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第13部
裁判官 西野光子

監護者性交事件につき娘を含む家族から、被告人を実刑に処することがないよう求める嘆願書が出た事例(懲役6年 大津地裁h30.7.31)

 児童淫行罪の量刑の2倍くらいになっているようです。
 1件で起訴されて余罪として考慮されるので、起訴されていない性行為の回数・期間を争うことがあります。

■28263965
津地方裁判所
平成30年07月31日
国選弁護人 西村一
主文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、妻及びその父母のほか、実の娘であるAと同居して同人の寝食の世話をし、指導、監督をするなどして同人を現に監護する者であるが、同人が18歳未満の者であることを知りながら、同人と性交をしようと考え、平成30年3月上旬頃、滋賀県B市●●●所在の当時の同居先において、自室で就寝しようとする同人(当時15歳)に対し、現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交をしたものである。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法179条2項、177条前段に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し、刑法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件犯行は、監護者が被監護者に対し性交をする類型の中にあって、出生から継続的に養育に携わってきた実の娘を対象としている点に重大な特徴がある。
 また、被告人は、娘が小学校の高学年の頃から性的行為に応じさせるようになり、その延長上で常習的に本件性交の犯行に及んでいる点にも重大な特徴がある。
 しかも、以上の振る舞いは、妻ら家族と同居する環境で繰り返されていたと認められるし、被告人は、本件に先立つ頃に一度、娘に対する性的接触を察知した妻から厳しく注意され、制止されていたにもかかわらず、自身の性的欲求を満たすためになおも本件に及んだものと認められる。動機に酌量の余地がないことはもとより、守り育てるべき娘の貞操を強い犯意のもとで蹂躙し、その尊厳を著しく傷付けた悪質な犯行であることを指摘せねばならない。
 監護を担う実の親の立場であれば決して揺るがせてはならない倫理に、真っ向から背いたものとして、被告人は、厳しい非難を免れないというべきである。
 もっとも、娘を含む家族から、被告人を実刑に処することがないよう求める嘆願書が提出されたことにも示されているとおり、従前、被告人は、子どもらの養育において、性的に逸脱した部分を除くその余の領域においては様々に尽力し、よって良好な家庭を支える役割を果たしてきたと認められるから、そのような態度もなくかえって家族を虐げていた経緯の事案などと同等の重い評価までは当たらない。そこで、前科もない被告人が罪を認めて反省の態度を示していることとも併せて斟酌し、刑事責任の評価を抑えることができないか検討したが、倫理に背き、規範を逸脱した程度が非常に大きい本件の罪質に照らし、この点の斟酌を深いものとするには至らなかった。
 主文の刑はやむを得ないと判断した次第である。
(求刑・懲役7年)
刑事部
 (裁判長裁判官 伊藤寛樹 裁判官 加藤靖之 裁判官 平井美衣瑠)

「アパートの階段踊り場」は、大分県迷惑行為防止条例の「公共の場所」に当たるか?→不起訴不相当→再び不起訴

 アパートの階段とか廊下って、(痴漢・盗撮目的などで)正当理由なく立ち入ると住居侵入になるおそれがあるんだから、公共の場所には当たらないと思います。

大分県迷惑行為防止条例
(卑わいな行為の禁止)
第三条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接人の身体に触れること。
二 衣服等で覆われている人の下着又は身体(次号において「下着等」という。)をのぞき見し、又は撮影すること(次号に規定する方法により行われる場合を除く。)。
三 衣服等を透かして見ることができる写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器を使用して、下着等の映像を見、又は撮影すること。
四 前三号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、正当な理由がないのに、公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室その他公衆が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所に当該状態でいる人の姿態をのぞき見し、又は撮影してはならない。

合田悦三「いわゆる迷惑防止条例について」(『小林充・佐藤文哉先生 古稀祝賀刑事裁判論集 上巻』)
禁止の場所
「公共の場所」については、「道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場、飲食席、遊技場その他の公共の場所」とされている。有償・無償を問わず不特定多数の者(公衆)が、自由に出入りし利用することができる場所を指すのであり(曾出・前掲331)、飲食店が閉店中であるなど公開されていないときは該当しない(安冨五六頁)。 同様に「公共の乗物」については、「汽車、電卓、乗合自動車、船舶、航空機その他公共の乗物」とされている。 有償・無償を問わず不特定多数の者(公衆)が、自由に利用することができる乗物を指す。 タクシーや貸切りのバス・列車は含まれない(會田・335頁)。

住居侵入被告事件
最高裁判所第2小法廷判決平成21年11月30日
分譲マンションの各住戸のドアポストにビラ等を投かんする目的で,同マンションの集合ポストと掲示板が設置された玄関ホールの奥にあるドアを開けるなどして7階から3階までの廊下等の共用部分に立ち入った行為は,同マンションの構造及び管理状況,そのような目的での立入りを禁じたはり紙が玄関ホールの掲示板にちょう付されていた状況などの本件事実関係(判文参照)の下では,同マンションの管理組合の意思に反するものであり,刑法130条前段の罪が成立する。
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集63巻9号1765頁
       裁判所時報1496号337頁
       判例タイムズ1331号79頁
       判例時報2090号149頁
       LLI/DB 判例秘書登載

盗撮容疑の男性、不起訴不当議決 検察審査会 /大分県
2018.04.28 朝日新聞
 2017年6月、大分市内のアパートで女性のスカート内を盗撮したとして、県迷惑行為防止条例違反(盗撮)の疑いで
 書類送検され、大分区検が不起訴にした男性について大分検察審査会は24日付で不起訴不当と議決した。今後、大分区検が再捜査して改めて起訴するか判断する。

 議決要旨などによると、男性は同年6月15日午後6時ごろ、大分市のアパートの階段踊り場で、携帯電話のカメラを使い、女性のスカート内を動画撮影した疑いがある。県警が同年9月に書類送検し、区検が同年11月に不起訴にしていた。
県条例では、不特定かつ多数の人の出入りがある公共の場所や乗り物での盗撮行為を規制している。区検はアパートの階段や踊り場は公共の場所に該当しないとしたが、検察審査会は該当すると判断した。
 県条例を巡って県議会は3月、特定の人しか利用しない場所や乗り物での盗撮も規制するよう条例を改正し、6月から施行する。(小林圭)

追記 再び不起訴

盗撮容疑の男性が2度目の不起訴 /大分県
2018.10.06 朝日新聞
 (大分地検) 県迷惑防止条例違反(盗撮)の疑いで書類送検され、不起訴になった男性を検察審査会が不起訴不当と議決していた事件で、大分区検は5日、再び男性を不起訴にした。男性はアパートの階段踊り場で女性のスカート内を動画で撮影したとして昨年9月に書類送検されたが、アパートの踊り場は(条例が盗撮の規制対象とする)公共の場所に該当しないとして同11月に不起訴になっていた。
・・・・・
改めて不起訴 大分区検=大分
2018.10.06 読売新聞
 県迷惑行為防止条例違反(卑わいな行為の禁止)容疑で書類送検された後に不起訴となり、大分検察審査会が「不起訴不当」と議決した男性について、大分区検は5日、改めて不起訴とした。理由は明らかにしていない。
 審査会の議決要旨などによると、男性は昨年6月、大分市のアパートの階段や踊り場で、女性のスカート内を携帯電話で盗撮したとして書類送検された。区検は、階段や踊り場は同条例が適用される「公共の場所」ではないと判断したが、審査会は「公共の場所と考えられる」と指摘していた。
・・・

大分県/盗撮容疑の男性 再び不起訴処分 大分区検
2018.10.06 西日本新聞
 大分区検は5日、県迷惑行為防止条例違反(盗撮)容疑で逮捕され、大分検察審査会が不起訴不当と議決をした男性について、再び不起訴処分とした。

 審査会によると、男性は昨年6月、大分市内のアパートの階段前で、携帯電話の動画撮影機能を使って女性のスカート内を撮影した疑いで逮捕された。

 同条例は「公共の場所」での盗撮を禁止。区検は現場を公共の場所に当たらないとして不起訴処分にしたが、審査会は公共の場所に当たると判断し、不起訴不当と議決していた。 (長美咲)

「大人のお付き合い」という書き込みを売春誘引罪で検挙した事例

 売春防止法5条3号の「誘引罪」と思われます。
 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律違反の相談で駆け込んだというだけでは免責されないでしょうね。
 「看護師」と報道されると、罰金になったときに業務停止等の行政処分になる恐れもあります。

売春防止法
第五条(勧誘等)
 売春をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者は、六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三 公衆の目にふれるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。

売春相手募った容疑で書類送検=静岡
2018.10.05 読売新聞
 天竜署は4日、浜松市天竜区、看護師の女(21)を売春防止法違反の疑いで静岡地検浜松支部書類送検した。発表によると、女は今年2月中旬、インターネットの掲示板に売春の相手を求める書き込みをした疑い。容疑を認めている。
 女は8月、売春相手の同市中区の会社員男(32)から、裸の画像をインターネット上に公開される「リベンジポルノ」の被害を受けたとして同署へ相談していた。男は8月28日、リベンジポルノ被害防止法違反の疑いで同署と県警人身安全対策課に逮捕された。
 県警は「リベンジポルノの被害者であっても、売春はれっきとした犯罪」(幹部)としている。
・・・・・・・・


売春防止法違反の疑い-天竜署が書類送検
2018.10.05 静岡新聞
 天竜署は4日、売春防止法違反容疑で浜松市天竜区の看護師の女性(21)を静岡地検浜松支部に書類送致した。同署は8月下旬、リベンジポルノ防止法違反の疑いで同市中区の男性会社員を逮捕しており、女性はその被害者だった。
 女性の送致容疑は2月中旬、インターネット掲示板に売春相手を募集する内容の文章を書き込んだ疑い。
 同署によると、女性は旅行などに使う数万円を得る目的で「大人のお付き合い」などと繰り返し書き込み、複数の男性と関係を持っていたとみられる。
 リベンジポルノ防止法違反で逮捕された男性とは数カ月にわたり繰り返し会っていたという。
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事件・事故=リベンジポルノ防止法違反の疑い
2018.08.29 朝刊 静岡新聞

アリスクラブのDVD単純所持罪で件数を稼ぎました。~児童ポルノ摘発、上半期過去最多 「自撮り」で被害4割

 今年前半は、捜索を回避したいという相談が多かったんですが、「可能性低い」と回答する弁護士に当たって対応してないうちに、捜索されましたという相談が、最近増えています。

 製造提供事件の購入者をバンバン検挙するでしょうね。
 結構、余罪の福祉犯・性犯罪も出てくるようです。

https://digital.asahi.com/articles/ASLB35KJWLB3UTIL044.html
2014年施行の改正児童買春・児童ポルノ禁止法で、罰則が新設された単純所持容疑の摘発が急増したのが要因とみている。

 改正法は写真や動画を提供する目的で所持するだけでなく、性的な好奇心を満たす目的で所持した単純所持も処罰対象にした。単純所持を含む「所持等」は今年上半期の摘発数は393件で、前年の31件を大幅に上回った。うち338件は国内最大規模とみられる児童ポルノDVDのネット販売店を警視庁が摘発した事件だった。
・・
子どもの裸を撮影する「製造」の摘発は38件少ない686件、「提供・公然陳列」は43件減の344件だった。

 被害が判明した子ども615人のうち、中学生と高校生が約7割を占めた。自ら撮影した「自撮り画像」を送ってしまったのは240人で約4割を占めた。

 一方、SNSを通じて何らかの犯罪に巻き込まれた18歳未満の子どもは856人。昨年より63人少ないが、高校生は19人増えた。

 SNSを使って被害に遭った子どもで、有害情報を閲覧できないようにするフィルタリングの利用の有無が判明したのは740人。うち、85・5%の633人はスマートフォンなどの契約時から利用していなかった。容疑者と会った子ども702人の理由は「金品目的」と「性的関係目的」を合わせると4割を超えた。

 被害に遭った子どもが使っていたSNSで最も多かったのは、短文投稿サイト「ツイッター」で342人(前年同期比15人増)。学生限定のチャット型交流サイト「ひま部」94人(同1人増)、無料通信アプリ「LINE」42人(同20人減)、チャットアプリ「マリンチャット」38人(同22人増)などだった。(小林太一)

犯収法28条2項か29条2項の「通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、」の提供罪

犯収法28条2項か29条2項の「通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、」の提供罪の疑いだと思いますが、正当事由は下記のような解説です。

逐条解説 犯罪収益移転防止法(平成21年、東京法令出版)p341
「通常の商取引又は金融取引」以外の「正当な理由」としては、例えば、相続が発生し、被相続人名義の預貯金通帳等を相続人の一人が保管していたところ、遺産分割が終了し、当該預貯金を別の相続人が相続することと決まった場合において、遺産の精算過程で当該預貯金通帳等を有償で当該別の相続人に引き渡すような場合や、金融機関の合併等により、今は存在しない金融機関名の通帳等をその希少価値からコレクタ-が有償にて取得する場合等が考えられる。

犯罪による収益の移転防止に関する法律
第二十八条
1 他人になりすまして特定事業者(第二条第二項第一号から第十五号まで及び第三十六号に掲げる特定事業者に限る。以下この条において同じ。)との間における預貯金契約(別表第二条第二項第一号から第三十七号までに掲げる者の項の下欄に規定する預貯金契約をいう。以下この項において同じ。)に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として、当該預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報その他特定事業者との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けるために必要なものとして政令で定めるもの(以下この条において「預貯金通帳等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
2 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。
第二十九条
1 他人になりすまして第二条第二項第三十号に掲げる特定事業者(以下この項において「資金移動業者」という。)との間における為替取引により送金をし若しくは送金を受け取ること又はこれらを第三者にさせることを目的として、当該為替取引に係る送金の受取用のカード、送金又はその受取に必要な情報その他資金移動業者との間における為替取引による送金又はその受取に必要なものとして政令で定めるもの(以下「為替取引カード等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、為替取引カード等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
2 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に為替取引カード等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、為替取引カード等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181002-00050200-yom-soci
捜査関係者などによると、区議は2016年2月上旬頃、インターネットで見つけた金融業者にメールで借金を申し込んだ。その後、業者を名乗る男から電話があり、「あなたのキャッシュカードを送ってもらえれば口座に現金を入金した上、カードを送り返す」と言われた。
区議は、都内の信用金庫に開設した口座から自分の預金を引き出した上で、指示通り、カードを指定の住所に送った。しかし、その後、業者と連絡が取れなくなったという。

児童買春罪において、買春犯人は対償供与・対償供与の約束の相手方が児童であることを認識していることを要することの論証。

 簡単だよ。
 児童買春罪というのはこういう定義で、

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
第二条(定義)
1 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
第四条(児童買春)
 児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

 対償供与・対償供与の約束の相手方というのは
次の各号に掲げる者=
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
だから、
 買春犯人は、

対償供与・対償供与の約束の相手方が
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者

であることを認識している必要がある。
以上
 保護法益とか立法趣旨から実質的理由を書き足しとけば、加点されるだろう。
 実質的にも、児童でない場合には罰則がないこと(売春防止法)との対比で、児童と認識した上で対償供与の約束する点が、児童買春罪として重い非難を受ける理由である。

 東京高裁H15.5.19は児童買春周旋罪についてではあるが、「児童売春周旋罪が成立するためには,被周旋者において,被害児童が18歳未満の者であることを認識していることを要する。」としている。児童買春罪が重く処罰されるゆえんは、児童を買う点にあるので、買春者において対償供与の約束時点で児童の認識が必要となるのである。

 ところで,児童買春周旋罪が成立するためには,周旋行為がなされた時点で,被周旋者において被害児童が18歳未満の者であることを認識している必要があると解するのが相当である。すなわち,児童買春周旋罪は,児童買春をしようとする者とその相手方となる児童の双方からの依頼又は承諾に基づき,両者の間に立って児童買春が行われるように仲介する行為をすることによって成立するものであり,このような行為は児童買春を助長し,拡大するものであることに照らし,懲役刑と罰金刑を併科して厳しく処罰することとしたものである。このような児童買春の周旋の意義や児童買春周旋罪の趣旨に照らすと,同罪は,被周旋者において児童買春をするとの認識を有していること,すなわち,当該児童が18歳未満の者であるとの認識をも有していることを前提にしていると解されるのである。実質的に考えても,被周旋者に児童買春をするとの認識がある場合と,被周旋者が前記のような児童の年齢についての認識を欠く結果,児童買春をするとの認識を有していない場合とでは,児童買春の規制という観点からは悪質性に差異があると考えられる。もっとも,このように解することについては,客観的には児童の権利が著しく侵害されているのに,周旋者が児童の年齢を18歳以上であると偽ることにより児童買春周旋罪の適用を免れることになって妥当ではないとの批判も考えられるが,このような場合でも周旋者を児童淫行罪や売春周旋罪により処罰をすることが可能であるし(なお,児童の年齢や外見によっては,そもそも18歳以上であると偽ることが困難な場合も考えられる。),前記のような児童買春の周旋の意義や児童買春の規制という観点からすると,被周旋者において,前記のような児童の年齢についての認識を有しているか否かは,やはり無視することができない事情である。