児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

逮捕の必要性~柏崎簡易裁判所判事恩田剛「逮捕勾留プラクテイス」

 出頭しないで居ると、逮捕の必要性が増すそうです

第5 逮捕の必要性
l 犯罪発覚後相当期間を経過しての逮捕状請求
問題21
被疑者の尿から, a-PVPの成分が検出された旨の鑑定書があるが, その鑑定書が作成されたのが3か月前のものである場合,逮捕状の請求に当たり留意すべき点は何か。
結論
逮捕の必要性の有無に留意すべきです。
解説
発覚した犯罪の事案の軽重にもよりますし, また,捜査の実情としてみた場合‘捜査官署が管轄する地域での他の事件の発生状況等捜査の繁忙度にも大きく影響してくるところではありますが. そうはいっても,犯罪発覚後いつでも逮捕状を請求してもよいというものではありません。
被疑者に住居があり,請求までの期間に,罪証隠滅や逃亡の気配がなく,その後もそれらのおそれがほぼ認められないというケースでは,その期間が長期化すればするほど,逮捕の必要性は低くなっていくということもいえますし, 請求までの期間の長短は刑訴規則143条の3に規定する逮捕の必要性の判断基準としての「その他諸般の事情」として考慮されるものと考えられます。
本設問の事例は, いわゆる危険ドラッグの使用事案であり, 近年社会問題となっていることに加え, こうした薬物使用による重大交通事故の発生等,社会に与える影響も大きく, その犯罪結果が重大であることも多いことから,処罰の厳罰化が進んでいること,事案の性質上逮捕密行性の高い薬物犯罪であり罪証隠滅が比較的容易であることなどから, 一般的に,逮捕の必要性が高いものと思われます。
個々の具体的事案にもよりますが.本設問のような薬物使用の事案では,尿鑑定から逮捕状の請求まで3か月経過したということだけでは,単に立件を忘れて事件を放置したような場合を除いて,直ちに明らかに逮捕の必要がないとはいえないものと思われます。
いずれにしても,期間の経過は,逮捕の必要性判断に影響を与えるので,請求に当たっては慎重で速やかな対応が必要になります。

2比較的軽微な事件の被疑者が捜査機関の出頭要請に応じない場合の逮捕の必要性
問題22
一般道で時速25キロメートル超過の速度違反をした道路交通法違反の被疑者が, 反則金を納付しないまま,警察官からの3回にわたる呼び出しに,何らの理由も告げずに出頭しない場合,逮捕の必要性は認められるか。
結論
住居や職業等の諸般の事情を総合考慮した上で,逮捕の必要性が認められる場合があります。
本設問のような比較的軽微な道路交通法違反は. そもそもの法定刑も懲役6月以下又は罰金10万円以下と低く(道交法22条1項118条1項1号), その速度も一般道で時速25キロメートル超過ですから本来反則事件ですが,被疑者が告知通告を無視し,反則金を納めずにいる-68-第1章通常逮捕などのケースでは, その後の任意の呼び出しにも応じないということも少なくありません。
そこでこうした被疑者については.逮捕をすべきかを検討しなければならなくなるわけですが, このような場合.逮捕の必要性の観点から,正当な理由のない不出頭(以下,特に断らない限り「不出頭」という。)をいかに考えるかについては,大きく分けて従来から以下のような考え方があります。
A説:罪証隠滅又は逃亡のおそれとは別に,不出頭それ自体で逮捕の必要性が認められるとするもの
B説:不出頭の回数が増えていくに従い,罪証隠滅又は逃亡のおそれが高まり,逮捕の必要性も強くなるとするもの
C説:不出頭は逮捕の必要性を認める事由にならないとするもの
 刑訴規則143条の3において「被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし,被疑者が逃亡する虞がなく,かつ.罪証を隠滅する虞がない『等』明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,逮捕状の請求を却下しなければならない。」と規定されていますが, A説によれば, この『等』があるのは,逮捕の必要性の判断基準として逃亡又は罪証隠滅のおそれのほかにも, 正当な理由のない不出頭等これに準ずる事情がある場合をも含む趣旨であるとされ,この考え方によれば,不出頭により逮捕の必要性が認められることになります。
しかし, このA説の考え方には否定的な見解が多いです。
B説によれば, 『等』については,逃亡又は罪証隠滅のおそれはないが,被疑者を逮捕してまで取り調べることが健全な社会常識に照らして明らかに相当性を欠くと認められるような特段の事情が存在する場合を指しているものと考えることになります。
このB説の考え方によれば,不出頭は直ちには逮捕の必要性を認める事情にはなりません。
ただし,正当な理由のない不出頭は,逃亡又は罪証隠滅のおそれを推測する一つの徴表たる事実であることは間違いないので, こうした不出頭を何度も繰り返すようであれば, その回数によっては逃亡又は罪証隠滅のおそれが強くなるものと考えられるので,逮捕の必要性を認める事情の一つになり, これに被疑者の生活状況や職業の有無等のほかの事情を併せて考慮し逮捕の必要性が認められることもあるということになります。
他方, C説によれば,不出頭は逮捕の必要性とは一切関連しないという考え方になりますが, これは理論上も実務的にも妥当とは言い難いというべきでしょう。
判例によれば, 旧外国人登録法違反(指紋押なつ拒否事件)で逮捕された外国人が逮捕されたことを違法として国家賠償法に基づき損害賠償を請求した事件で,警察官から5回にわたり任意出頭を求められたにもかかわらず,正当な理由なく出頭せず,被疑者の行動に組織的な背景が存することがうかがわれるなどした事情があったことから.明らかに逮捕の必要がなかったとはいえない旨判示していますが(最判平10~9.7裁判集189.613), これはB説の見解と概ね同じものだということができます。
従前の実務も概ねB説の見解によってきたものと思われます。
請求側・捜査側の留意点
逮捕の必要性を認める一つの事情となる程度に至る不出頭の回数は,実務的には, 4~5回,少なくとも3回は必要だと考えられています(前掲判例の事案では5回です。)。
ですから,呼出の経緯不出頭の結果その間に被疑者から何らの連絡がないなどの被疑者の対応を記載して報告書にするとともに, これに,呼出状の写し,地域課警察官への調査依頼とその調査結果,電話聴取報告書等の疎明資料を添付するなどして, その不出頭状況を明確にしておくことが望ましいといえます。
また,上記報告書に,不出頭状況に加え,被疑者が暴言を吐くなどし強硬に出頭を拒絶している態度, そのほかの逮捕の必要性(単身であり定職がないこと, 職業運転手であり免許取消し等の行政処分を受け解雇されるおそれがあること,経済的に破綻していることなど)について判明している限りで記載しておくと さらに参考になるものと思われます。