児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

幼児については性的感情の侵害が否定される場合があり得ることを示唆する文献を捜しています

 なかなか見つからないんですけど

田中壽寿子 性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック
P109
(4) わいせつ行為
被害者の性的自由を客観的に侵害する行為をいう。
なお,被害者の「性的羞恥心の侵害」の要否については見解が分かれている。必要説の立場から年少児にも性的基恥心の侵害を認めた事例(1)や,幼児に性的基恥心が観念できないため児童福祉法違反で処分した事例(2)がある。しかし被害者が幼児,知的障害者,睡眠中など,「性的基恥心」を抱かない場合にも,(準)強制わいせつは成立する。
例えば,幼児や知的障害者に対し小便の介助と称して陰部をなでる,パンツに入った虫を取ると称してパンツを脱がせて尻を祇める,被害者の睡眠中に陰部に指を入れるなど被害者が通常の判断能力を備えていれば当然性的基恥心を侵害されたと感じることが明らかな行為は,「わいせつ行為」に他ならない。
本罪は, 13歳未満の年少者の性的情操の保護をも立法趣旨とした
とえ被害者が同意していても,性的自己決定能力がないため真の同意とみなされず,本罪が成立するのであるから,被害者自身に正常な判断能力がない場合,一般人から見てわいせつな行為であって,被害者の性的自由が侵害されたと客観的に認められるときは,本罪の成立を認めるべきであるほ)。
なお,加害者側に特殊な性癖があり,性的興奮を得るため被害者の口に指を入れて嘔吐させた場合は,客観的な性的自由の侵害が認め難いので,暴行にすぎない(青森地判平18・3・16裁判所ウェブサイト)。

(1) 7歳女児に性的差恥心があると認めた判例として,新潟地判昭63・8・26判時1299号152頁がある。
(2) 2歳児に口淫させた事例で,性的差恥心が観念できないため児童福祉法違反で起訴した例がある(杉本尚子・前掲「2歳女児が被害者となったわいせつ事件の捜査・処理」)。
(3) 山中敬一『刑法各論[第2版]』(成文堂,平成21年) 145頁。

・・・
P113
(5) 故意
13歳未満であることの認識を要する。
風営法50条2項や児童福祉法60条4項のような一種の推定規定はない。
イ「13歳未満でも同意があるから良いと思っていた」場合,単なる法律の錯誤であり,故意は阻却されない。
ウ「13歳以上だと思っていた」旨弁解された場合
年齢の認識を基礎付ける事実の捜査を行う。
例えば,?被害者が被害時にランドセルを背負っていた,?被害者
が「男の人から,『どこの小学校に通っているのけと聞かれて,『○○小学校』と答えた」と供述する,?小学生向けの塾から出てきたところで、被害に遭っているなど。
被疑者の弁解を覆せない場合も,なお,他罪の成立を検討し得る。
?暴行・脅迫があれば本条前段に該当し得る。
?暴行・脅迫がない場合, 18歳未満の認識があり,支配的関係を
利用していれば児童福祉法違反,対償を供与していれば児童買春罪,
条例の内容によっては青少年健全育成条例違反等が成立し得る。
(6)被害者の同意
同意があっても,本罪は成立する。
(7)捜査上のポイント
本罪については,わいせつ行為の存在と年齢の認識さえ立証できれば良い。
わいせつ行為の存在については年少の被害者が認識し供述し得る範囲のシンプルな行為内容を確実に聴取して立証していくことが肝要である。
被疑者の「被害者の年齢に関する認識」については,被害者が一見して13歳未満(小学生以下)に見える場合は問題ない。しかし被害者が,体格が良く,大人びた服装や化粧のため13歳以上に見え得た場合,身体は第二次性徴期前であることや,会話の内容や所持品が幼稚であることなど13歳未満であると気付くはずの事情の有無を被害者から十分聴取しておくなどして,被疑者を取り調べる。

(杉本尚子「2歳女児が被害者となったわいせつ事件の捜査・処理」捜査研究739)
しかし,強制わいせつ罪の保護法益は,個人の性的自由である。
本件写真に写っていた被害者は,満面の笑みをたたえており.自らの行為の意味を全く理解できていないことは明らかで,性的感情を害されたといえるのか,そもそも性的感情を持っていたのかすら怪しい状態だったため,保護法益の侵害が認められるのかが問題であった。
文献の中には,幼児については性的感情の侵害が否定される場合があり得ることを示唆するものも見られ強制わいせつ罪として擬律した場合には,保護法益上の問題点をはらむことから,公判が紛糾してしまうおそれが認められた。
そこで,強制わいせつ罪以外での擬律ができないか検討した。

7歳で議論してるけど、現場では0歳ですけど。

松宮孝明「刑法各論講義 第3版」(2012年、成文堂)P112
問題は、自己または他人の'性欲を刺激興奮させまたは満足させるという行為の客観的属性が一義的に明らかでない行為にある。たとえば、一見すると親権者の懲戒行為のように思われたが、実際には、その親権者はサディスティックな性的意図で未成年者に暴行を加えており、したがってそれは、主としてあるいは同時に、「自己の性欲を刺激興哲させまたは満足させる意図」のもとに行われていたという場合である。本罪を「傾向犯」とする見解は、まさにこのような場合に犯罪の成否を分けるのは、行為者の性欲満足という意図でしかないと考えたのである(Vgl. E.M ezger. Strafrec .th 1931,S .l72.佐伯千偲『刑法における違法性の理論』225頁も参照。この点、客観的に相手方の性的羞恥心を害する行為を要求する見解は、 羞恥心を感じない幼児等に対する本罪の成立を説明できないし、反対に、医学的に適切な処置であっても説明不足のために患者が性的差恥心を答された場合には、本罪ないし準強制わいせつ罪( 178粂)が成立することになりかねない。なお、7歳の幼児について本罪の成立を認めたものとして、新潟地判昭和63.8.26 判時1299 -152 被害者が差恥を感じても臨床検査技師である被告人にわいせつ目的が認定されないとして178条の罪を否定したものに、京都地判平成18'12'18公刊物未登載がある。)。
しかし、「自己または他人の'性欲を刺激興奮させまたは満足させる性的意味を有していた」ことが一義的に明らかであるような行為であれば、行為者の動機のいかんに関わらず、その行為は被害者の性的自由を害する客観的意味を持つであろうし、逆に、そのような意味を有する行為であることがほとんど明らかにならないのであれば、行為者の「意図」のみを理由に本罪の成立を認めるのは「客観主義」「行為主義」に反するであろう。その意味で、「わいせつな行為」とは、まず、客観的に「自己または他人の性欲を刺激興奮させまたは満足させる性的意味を有する」行為であることが必要で、ある。
ゆえに、二義的な行為の場合でも、行為の具体的な脈絡から客観的にこの意味が判明しない場合には、「わいせつな行為」に当たらないと解するべきであろう。その結果として、「自己または他人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるj意図という特殊な主観的要素は不要で、あると同時に、客観的にみて行為がそのような性的意味を有することは本罪の構成要件要素として必要であり、その認識は、本罪の故意そのものの内容として必要であることになる。