強制わいせつ罪と3項製造罪が併合罪(訴因不特定)だという主張が、不利益とされてない。多数罪の事件なので、処断刑期に変更はない。
最決H21.8.28
決定
上記の者に対する強制わいせつ児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成 21年 3月 3日仙台高等裁判所が言い渡した判決に対し被告人から上告の申立てがあったので,当裁判所は,次のとおり決定する。
理由
弁護人奥村徹の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法 405条の上告理由に当たらない
よって,同法 414条, 386条 1項 3号,刑法 21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
平成 21年 8月28日
最高裁判所第二小法廷
これは、児童淫行罪と3項製造罪は併合罪(管轄違)だという主張が、不利益とされてない。これは併合罪になれば処断刑期は13年(観念的競合なら10年)になるし、併合審理の利益もなくなることになる(刑期は足し算になる)のに、OK。
最決H21.10.21
決定
上記の者に対する児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成19年3月8日札幌高等裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から上告の申立てがあったので,当裁判所は,次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する
理由
弁護人奥村徹の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でないか,実質は単なる法令違反の主張であり,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。なお,所論にかんがみ,児童福祉法34条1項6号違反の児童に淫行をさせる罪と児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下 「児童ポルノ法」という。)7条3項の児童ポルノ製造罪の罪数関係及びこれに関連する管轄の問題について,職権で判断する。
ところが、これは、数回の4項提供罪は併合罪(訴因変更許可の違法)だという主張が、不利益とされた。
最決H21.7.7
弁護人奥村徹の上告趣意のうち,福岡高等裁判所那覇支部平成16年(う)第49号同17年3月1日判決を引用しての判例違反及び東京高等裁判所平成17年(う)第2131号同年12月26日判決を引用しての判例違反をいう点は,いずれも原判決ないし引用の判例が所論のような趣旨を示したものではないから前提を欠き,東京高等裁判所平成15年(う)第361号同年6月4日判決及び大阪高等裁判所平成20年(う)第121号同年4月17日判決を引用しての判例違反をいう点は,罪数判断に関して被告人にとり不利益な主張をするもので不適法であり,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
これはこういう主張です。
11/5のわいせつ販売が先行して起訴され、あとの余罪が、訴因変更請求で追加されたときに、H20/1/1のわいせつ販売と、ほかのわいせつ販売・児童ポルノ提供とが併合罪であれば、公訴事実の同一性がないから、訴因変更は無効になって、追加された余罪は、処罰対象から外れるから、かなり軽くすべきだという主張です。
起訴状 犯行日
11/5起訴 H20.1.1 わいせつ販売
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12/1 訴因変更 H20.1.2 わいせつ販売
12/1 訴因変更 H20.1.3 わいせつ販売
12/1 訴因変更 H20.1.4 わいせつ販売 児童ポルノ提供
12/1 訴因変更 H20.1.5 わいせつ販売 児童ポルノ提供
12/1 訴因変更 H20.1.6 わいせつ販売 児童ポルノ提供
12/1 訴因変更 H20.1.7 わいせつ販売 児童ポルノ提供
12/1 訴因変更 H20.1.8 わいせつ販売
12/1 訴因変更 H20.1.9 わいせつ販売 児童ポルノ提供
12/1 訴因変更 H20.1.10 わいせつ販売
12/1 訴因変更 H20.1.11 わいせつ販売 児童ポルノ提供
12/1 訴因変更 H20.1.12 わいせつ販売 児童ポルノ提供
12/1 訴因変更 H20.1.13 わいせつ販売 児童ポルノ提供
12/1 訴因変更 H20.1.14 わいせつ販売
12/1 訴因変更 H20.1.15 わいせつ販売
12/1 訴因変更 H20.1.16 わいせつ販売
12/1 訴因変更 H20.1.17 わいせつ所持 児童ポルノ所持
これは、「罪数判断に関して被告人にとり不利益な主張をするもので不適法であり」とされています。
不利益変更禁止があるから刑期は延びないし、この理由が当たれば、だいぶ軽くなって、被告人は喜ぶはずだし、どうせここで罪数が増えても、ほかにも併合罪となる罪がたくさん起訴されていて実際上この主張によって処断刑期が延びることはないのですが、「併合罪」は不利益主張。
結局、併合罪だという上告理由が不利益主張として排斥されるかどうかは、上告してみないとわからないのです。
併合罪の主張も当たれば大きいという判例もあります。
出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反被告事件
最高裁判所第3小法廷判決昭和53年7月7日
最高裁判所刑事判例集32巻5号1011頁
最高裁判所裁判集刑事211号625頁
裁判所時報746号1頁
判例タイムズ371号73頁
判例時報904号126頁
警察研究54巻6号37頁
別冊ジュリスト82号192頁
法曹時報32巻9号153頁
法律時報51巻1号178頁
ところで、 法五条一項は、金銭の貸付を行う者が所定の割合を超える利息の契約をし又はこれを超える利息を受領する行為を処罰する規定であるところ、その立法趣旨はいわゆる高金利を取り締まつて健全な金融秩序の保持に資することにあり、業として行うことが要件とされていないなど右罰則がその性質上同種行為の無制約的な反覆累行を予定しているとは考えられない。したがつて、法五条一項違反の罪が反覆累行された場合には、特段の事情のない限り、個々の契約又は受領ごとに一罪が成立し、併合罪として処断すべきである。
原判決は本件各所為がいわゆる営業行為としてされたことを理由に包括して一罪と評価すべきものとしているのであるが、同項違反の罪におけるように営業行為として反覆累行されること自体が行為の悪質性を著しく増大させるものである場合には、営業行為としてされたことをもつて包括的な評価をすべき事由とするのは相当でないと解される。記録を調べても、本件各所為を一罪と評価すべき特段の事情は認められない。
このように、本件各所為については個々の契約又は受領ごとに一罪が成立し、それらを併合罪として処断すべきであるとすると、右各所為は三年以下の懲役又は三〇万円以下の罰金にあたる罪であるから、その公訴時効は各犯罪行為の終わつた日から三年の期間を経過することにより完成するものである。そして、記録によると、検察官の前示控訴趣意で主張されているとおり、検察官指摘の各所為については公訴時効が完成していると認められる。 そうすると、原判決が本件各所為を包括して一罪と認めたのは違法であり、その結果、本件公訴事実につき公訴時効が完成しているか否かを審査することなく、公訴時効が完成している訴因についても実体上の審理を遂げ、その一部を有罪その余を無罪としたことも違法であつて、右の違法は原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
当たれば大きいし、外れても不利益変更もなく「被告人にとり不利益な主張をするもので不適法であり」と判示されるだけなんだから、被告人に結果的に不利益にならないかぎり、主張すべきだと思いますね。