児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

製造罪と児童淫行罪とは観念的競合とした(東京高裁H17.12.26)は上告棄却で確定

 三行半ですけどね。
 最高裁h18.2.20は刑集搭載予定だそうです。
 判例がいつ出るかで上告理由が変わるんです。

弁護人奥村徹の上告趣意のうち,最高裁平成17年(あ)第1342号同18年2月20日第三小法廷決定・刑集60巻2号登載予定違反をいう点は,同判例は原判決の宣告後になされたものであるから,刑訴法405条2号にいう判例に当たらず,その余の判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 ただ
  東京高裁H17.12.26
というよりも
  東京高裁H17.12.26(上告棄却)
といった方が重く聞こえる。

 さて、併合罪で起訴されている大阪高裁事件をどうするか。家裁の児童淫行罪の訴因に製造を匂わせ、地裁の製造罪の訴因に児童淫行罪を匂わせています。


追記
 判例になると思われるのは

  1. 性交自体を撮影している場合の児童ポルノ製造罪と児童淫行罪は観念的競合
  2. 同一児童に対する数回の製造罪は包括一罪
  3. 検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで、当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に、別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば、そのような措置も是認できる(合理的な理由が無ければかすがい外しは許されない)

でしょう。

児童買春、児童ポルノに係わる行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
東京高等裁判所判決平成17年12月26日
判例時報1918号122頁
第一 控訴の趣意に対する判断
 一 管轄違い及び二重起訴並びに憲法一四条違反をいう各論旨について(控訴理由第一ないし第三)
 その論旨は、要するに、本件児童ポルノ製造罪と同一被害児童に対する淫行罪(以下、「別件淫行罪」という。)とは科刑上一罪の関係にあるとして、これを併合罪として本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に管轄を認めた原判決には不法に管轄を認めた違法があり、また、別件淫行罪が既に家庭裁判所に起訴されているのであるから、地方裁判所に対する本件起訴は二重起訴であり、原判決には不法に公訴を受理した違法があり、さらに、被告人の行為についてのみ併合審理の利益を奪い、合算による不当に重い量刑をした原判決には憲法一四条一項違反の違法があるというのである。
 しかしながら、本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に起訴された訴因は、平成一六年一二月二日から平成一七年二月一七日までの間の前後六回にわたる児童ポルノの製造を内容とするものであり、他方、別件淫行罪について家庭裁判所に起訴された訴因は、平成一七年三月二六日の被害児童に淫行させる行為を内容とするものであって、これらの両訴因を比較対照してみれば、両訴因が科刑上一罪の関係に立つとは認められないことは明らかである。
 所論は、本件児童ポルノ製造の際の淫行行為をいわばかすがいとして、本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが一罪になると主張しているものと解される。ところで、本件児童ポルノ製造罪の一部については、それが児童淫行罪に該当しないと思われるものも含まれるから(別紙一覧表番号一及び四の各一部、同番号五及び六)、それについては、別件淫行罪とのかすがい現象は生じ得ない。他方、本件児童ポルノ製造罪のなかには、それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば、性交自体を撮影している場合である(別紙一覧表番号一の一部、同番号二及び三)。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり、また、その児童淫行罪と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は、併合罪ではなく、包括的一罪と解するのが、判例実務の一般である。)、かすがいの現象を認めるのであれば、全体として一罪となり、当該児童ポルノ製造罪については、別件淫行罪と併せて、家庭裁判所に起訴すべきことになる。
 かすがい現象を承認すべきかどうかは大きな問題であるが、その当否はおくとして、かかる場合でも、検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで、当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に、別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば、そのような措置も是認できるというべきである。
 一般的に言えば、検察官として、当該児童に対する児童淫行が証拠上明らかに認められるからといって、すべてを起訴すべき義務はないというべきである(最高裁昭和五九年一月二七日第一小法廷決定・刑集三八巻一号一三六頁、最高裁平成一五年四月二三日大法廷判決・刑集五七巻四号四六七頁)。そして、児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に比べて、法定刑の上限はもとより、量刑上の犯情においても格段と重いことは明らかである。そうすると、検察官が児童淫行罪の訴因について、証拠上も確実なものに限るのはもとより、被害児童の心情等をも考慮して、その一部に限定して起訴するのは、合理的であるといわなけれはならない。また、そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるといえる。ただ、そうした場合には、児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが別々の裁判所に起訴されることになるから、所論も強調するように、併合の利益が失われたり、二重評価の危険性が生じて、被告人には必要以上に重罰になる可能性もある。そうすると、裁判所としては、かすがいになる児童淫行罪が起訴されないことにより、必要以上に被告人が量刑上不利益になることは回避すべきである。
そこで、児童ポルノ製造罪の量刑に当たっては、別件淫行罪との併合の利益を考慮し、かつ、量刑上の二重評価を防ぐような配慮をすべきである。そう解するのであれば、かすがいに当たる児童淫行罪を起訴しない検察官の措置も十分是認することができる。したがって、憲法一四条違反の主張を含め、所論はいずれも採用できない。