児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

販売罪と犯罪収益隠匿罪(名古屋地裁半田支部H15.5.8)

 意外なところで意外な判決。これは、罪数や犯罪収益隠匿罪についてまともに議論された判決なので、論告・弁論・判決は一読の価値があります。
 罪数侍のような弁護人です。同好の士です。 
 判決では、代金前払いの販売の場合、出荷未了の場合、その代金は犯罪収益かという論点について判示されています。
 なお、児童ポルノ販売目的所持罪に販売罪が訴因変更で追加されています。両罪は1罪ではありませんから、この点も争うべきでした。
 さらに、この被告人と同姓同名の者が最近児童ポルノ販売罪で逮捕されていました。
 これくらいは公開してもいいですよね。保管検察官殿。

1 弁護人は,第2の事実につき次のとおり主張するので,以下補足して説明する。
(1) 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「犯罪収益規制法」という。)10条1項前段の「犯罪収益」(同法2条2項1号)といえるためには,前提となる犯罪が完了していることを要する。しかるに本件振込入金行為は,いずれも児童ポルノ販売罪が既遂に達する前の行為であるから,入金された対価は犯罪収益にはあたらず,犯罪収益の帰属を仮装する罪は成立しない。
(2)犯罪収益規制法10条1項前段の「犯罪収益等の取得につき事実を仮装した」とは,同法の趣旨がいわゆるマネーロンダリング防止にあることからすると,一旦犯罪収益として帰属した後に仮装行為をすることをいうと解するべきところ,本件においては,販売対価が当初から第三者名義の貯金口座に振込入金されて被告人に帰属したのであり,帰属後の仮装行為はないから,同罪は成立しない。
2 弁護人の主張(1)について
犯罪収益規制法2条2項1号は,財産上不正な利益を得る目的で犯した児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項の罪(児童ポルノ販売罪.別表59号)の犯罪行為により得た財産を「犯罪収益」にあたると規定しており,児童ポルノ販売罪の未遂罪は処罰の対象とされていないから,児童ポルノ販売罪を前提犯罪とする「犯罪収益」といえるためには,児童ポルノ販売罪が既遂に達していることを要すると解される。
 しかしながら、このことは,犯罪収益規制法10条1項に規定する犯罪収益の取得につき事実を仮装する行為を実行する段階において,前提犯罪である児童ポルノ販売罪が既遂に達していることを要すると解するものではない。すなわち、児童ポルノ販売罪の実行行為により得た財産の取得につき事実を仮装し,その後に児童ポルノ販売罪が既遂に達した場合は,その既遂時点において,当該仮装行為が,「犯罪収益の取得に関する仮装行為」と法的に評価されることになると解するべきである。
 なぜなら,まず第1に,犯罪収益規制法10条は,金融機関を経由することによって犯罪収益をクリーンな外観を有する財産に変えて前提犯罪との関係を隠匿,あるいはこれらの財産を隠匿する行為は,将来の犯罪活動に再投資されたり,事業活動に投資されて合法的な経済活動に悪影響を及ぼすなどのおそれのある犯罪収益の保持・運用を容易にすることから,これを処罰する趣旨の規定であるところ,犯罪収益の取得は,経験上必ずしも前提犯罪の完了後に行われるものではなく,犯罪遂行の過程においてされることが往々にしてあるから,このように解釈しなければ法め趣旨は達成できない。
第2に,前提犯罪の完了を目指して着手した実行行為により得た財産は,取得時点において,既に将来犯罪収益となることが予定されているものであるから,その帰属を仮装する行為は,後に当初の予定どおり前提犯罪が完了したときには,遡って犯罪収益につき事実を仮装した行為にあたると評価するのは自然であり,かつ合理的な見方であるといえるからである。よって,弁護人の主張は採用できない。
3 弁護人の主張(2)について犯罪収益規制法10条1項において犯罪収益の取得につき事実を仮装する行為が処罰の対象とされたのは,犯罪収益の帰属を仮装することが一般的にその捕捉を困難にすることから,その仮装自体を捉えて処罰しようとしたからである。したがって,犯罪収益の取得につき事実を仮装する行為には,犯罪収益の取得にあたってその帰属を仮装する行為も当然含まれると解するべきである。これを本件についてみると,被告人は、児童ポルノ販売の対価を取得するにあたり,購入者をして被告人の管理する第三者名義の郵便貯金口座に代金を振り込ませ,被告人への犯罪収益の帰属をあたかも第三者に帰属したかのように仮装したのであるから,これが同条の処罰の対象となる仮装行為にあたるのは明らかである。よって,弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用の補足説明)
弁護人は,第2の罪の行為は,児童ポルノ販売行為の一部分を構成するものであるから,第1の罪の行為のうちその対象となる児童ポルノ販売行為とは一個の行為と評価すべきであり,第1の罪と第2の罪とは一個の行為で数個の罪名に触れる場合(観念的競合)にあたると主張する。観念的競合にいう一個の行為と評価できるかは,自然的観察の下で社会的見解において検討すべきところ,第2の罪の実行行為は,児童ポルノ販売の対価を第三者名義の口座に振込入金させる行為であり,第1の罪の児童ポルノ販売の実行行為は,顧客との間で児童ポルノを有償で譲渡するとの合意をし,それに基づき顧客に児童ポルノを引き渡す一連の行為である。これら各行為を全体的,自然的に観察すると,一個の行為と評価することはできず,複数の行為が存在するというべきである。
よって,両罪は併合罪の関係に立つと考える。

 罪数は怖いですね。
 東京高裁H15.6.4原田MAC判決に従えば児童ポルノ罪だけだったら、所持と販売は併合罪ですから、所持→所持+販売の訴因変更は不可です。控訴すれば、販売罪は全部落ちたのにね。訴因を見る限り、所持の客体・時期と販売の客体・時期は違いますし、法益も個人的法益ですからね。

当初訴因
  H14.11.19児童ポルノ所持(CDROM5枚)
変更後
  H14.11.19 児童ポルノ所持(CDROM5枚)
  H14.4~7月 児童ポルノ販売(8名11回CDROM62枚)

東京高裁平成15年6月4日(原田判決)
2 罪数関係の誤りをいう論旨について(控訴理由第8,第11,第13,第14)
所論は,
児童ポルノ罪は,個人的法益に対する罪であるから,被害児童毎に包括して一罪が成立し,製造・所持は販売を目的としているから,製造罪,所持罪,販売罪は牽違犯であり,これらはわいせつ図画販売罪・わいせつ図画販売目的所持罪と観念的競合になり,結局,一罪となるが,原判決は,併合罪処理をしており,罪数判断を誤っている(控訴理由第8),
などという。
 まず,①の点は,児童ポルノ製造罪及び同所持罪は,販売等の目的をもってされるものであり,販売罪等と手段,結果という関係にあることが多いが,とりわけ,児童ポルノの製造は,それ自体が児童に対する性的搾取及び性的虐待であり,児童に対する侵害の程度が極めて大きいものがあるからこそ,わいせつ物の規制と異なり,製造過程に遡ってこれを規制するものである。この童法趣旨に照らせば,各罪はそれぞれ法益侵害の態様を異にし,それぞれ別個独立に処罰しようとするものであって,販売等の目的が共通であっても,その過程全体を牽連犯一罪として,あるいは児童毎に包括一罪として,既判力等の点で個別処罰を不可能とするような解釈はとるべきではない。
 もっとも,わいせつ図画販売目的所持罪と同販売罪とは包括一罪であるから,結局,原判示第2ないし第4の各罪は一罪として評価されるべきであり,この点で原判決には法令の適用を誤った違法があるが,処断刑期の範囲は同一であるから,判決に影響を及ぼすものではない。