児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「出会い系サイト」で被害 亀山市が緊急校長会 中3女子誘拐

 フィルタリングの対象となった特定サイトを避ける児童も出てくるから、フィルタリング万能じゃないんですよ。
 携帯から書き込めるサイト全部にフィルタリングを掛けるしかないですよね。

http://www.isenp.co.jp/news/20070508/news04.htm
市内の小中学校では、全校集会や朝礼で生徒、児童に事件を報告し、携帯電話の利用に注意を呼び掛けた。市内十四校の校長を集め緊急会議を開いた市教委は「これまでも校長会や教育指導担当者の会議で、インターネットの利用に関して注意を促してきたが、事件が起きてしまった以上、対応が不足していたと言わざるを得ない。ただ、携帯電話を持つことは禁止できないし、好奇心の強い年齢の子どもたちに対し、再発防止は非常に難しい」と話している。

 県教委は七日、子どもに出会い系サイトなどを利用できないようにするため、有害情報の閲覧制限をするフィルタリングソフトの活用を通知で保護者に促した。昨年七月改正の県青少年健全育成条例で、保護者に努力を義務づけた「同ソフトの活用による有害情報の遮断」を徹底する。

自首事件は後回し?

 逮捕は免れたものの、処分が決まるまで被疑者は自宅で悶々。
 せっつかれるので、弁護人から定期的に捜査の状況は聞いていますが、変化ありません。
 逮捕されちゃえば早いんですけどね。それは嫌ですもんねぇ。
 1年かかった人がいました。取り調べは散発的に3回。起訴猶予
 

アドレス掲載の会社員逮捕=ポルノサイト紹介で、全国初−大阪府警

 以前にも苫小牧支部(掲示板にurlを貼った)の判決があります。
 有体物説ですから、アドレス先のサーバーのディスクアレイ(児童ポルノ画像あり)の陳列ということになります。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070508-00000149-jij-soci
アドレス掲載の会社員逮捕=ポルノサイト紹介で、全国初−大阪府警
 調べによると、容疑者らは2003年6月、児童のわいせつ画像を載せたサイトのアドレスを紹介する会員制のHP「奇跡を呼ぶ掲示板 秘密の入口」を開設。今年1月から3月にかけ、会員に女児の全裸の画像を載せたサイトを教え、閲覧させた疑い。 

 そのサーバー(児童ポルノ画像あり)の管理者は陳列罪の正犯だとして、アドレスだけ教えるのは正犯か幇助かという問題があるでしょう。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200705080062.html
児童ポルノ愛好家のためのサイト運営者を逮捕、起訴
 児童ポルノ愛好家のための有料の会員制サイトを開設し、児童ポルノが掲載されたインターネット上の掲示板のアドレスを提供したとして、大阪府警は8日、サイト運営者の男(46)ら2人を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ公然陳列幇助(ほうじょ))の疑いで逮捕した、と発表した。会費は永久会員は3万4千円、単年度会員は同2万6千円などで、03年6月以降、約2450人から1千万円以上を集めていたという。

 「よくわかる」を見ても、陳列罪か提供罪か、正犯か幇助犯かが微妙で、よくわかりませんね。

よくわかる改正児童買春・児童ポルノ禁止法

よくわかる改正児童買春・児童ポルノ禁止法

よくわかる改正児童買春・児童ポルノ禁止法
Q50 児竜ポルノの画像を閲覧できるサイトにハイパー・リンクを設定した場合にはどのような犯罪が成立しますか。
事案にもよりますが、児童ポルノ公然陳列罪(第7条第4項)の共同正犯、幇助犯や、児童ポルノを不特定多数の者に提供する罪(第7条第4項)の共同正犯、幇助犯が成立する可能性があります。
たとえば、事案によっては、その児童ポルノサイトにアクセスすることが困難であったのが容易になったとみることができますから、ハイパーリンクを張る行為について、やはり従前とは別に提供の対象が広がり、取得可能性が新たに設定されるという意味で、新たな対象として不特定多数の者に対する提供があったと評価することも可能です。そして、新たな取得可能性が広がったという程度、児童ポルノサイト開設者との意思の連絡の有無等にもよりますが、不特定又は多数の者に提供する罪の正犯、共同正犯又は幇助犯が成立しうると考えられます。
また、公然陳列罪について、ハイパーリンクを張ることによって、当該サイトヘのアクセスが困難であったのが容易になったのであり、従前とは別に閲覧対象が広がり、認識可能性が新たに設定されるという意味で、新たに公然と陳列したと評価することも可能です。たとえば、会員制の方式をとり、パスワードを入力しなければアクセスできないような児童ポルノの画像について、このパスワード入力の段階を踏まなくても直接画像に到達できるようなリンクを張った場合、新たな公然陳列があったとみることができ、もとの画像の公開者との意思の連絡がない場合は公然陳列罪の単独正犯、意思の連絡がある揚合は公然陳列罪の共同正犯が成立すると考えられます。また、このように会員以外は画像に到達するのが不可能な場合でなくても、全く手がかりのない状態からアドレスを入力して画像に到達するのは、通常著しく困難であり、これを可能にする点で、不特定多数の者が閲覧するのを容易にしているといえ、もとの画像の公開者との意思の連絡がある場合は公然陳列罪の共同正犯、意思の連絡がない場合は公然陳列罪の幇助犯が成立すると考えられます。

 この「よくわかる改正・・・」というのは、必ずしも裁判所の見解ではありません。最近の最高裁判例の解説では「反対説」と紹介されています。
 
 なお、サイバー犯罪条約児童ポルノ関係でリンク集についての言及があるんですが、落ち着いたら調べます。

 日弁連の意見書で奥村は「9条1b」は担保されていないと書いています。
 ところが児童ポルノ法の改正でもPASSしているところです。留保もできないのにどうするのかと思っていました。

日弁連
第9条 児童ポルノに関連する犯罪
 締約国は、自国の国内法により、権限なしに故意に行われる次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。 
(a)コンピュータ・システムを通じて配布するために児童ポルノを製造すること。
(b)コンピュータ・システムを通じて児童ポルノの取得を勧誘し又はその利用を可能にすること。
(c)コンピュータ・システムを通じて児童ポルノを配布し又は特定の者に送信すること。
(d)自己又は他人のためにコンピュータ・システムを通じて児童ポルノを取得すること。
(e)コンピュータ・システム内又はコンピュータ・データ記憶媒体内に児童ポルノ保有すること。
2. 1の規定の適用上、「児童ポルノ」とは、次のものを視覚的に描写するポルノをいう。
(a)あからさまな性的なふるまいを行う未成年者
(b)あからさまな性的なふるまいを行う未成年者であるようにみえる者
(c)あからさまな性的なふるまいを行う未成年者を表現する写実的画像
3. 2の規定の適用上、「未成年者」とは、十八歳未満のすべての者をいう。ただし、締約国は、より低い年齢の者のみを未成年者とすることができるが、十六歳を下回ってはならない。
4. 締約国は、1d及びe並びに2b及びcの規定の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる。
・・・・
b 「提供」("offering")は、EM95によれば、「他人に児童ポルノを取得するよう誘うこと("soliciting") をカバーする」とされていることから、勧誘行為を意味すると解される。
 「利用可能にする」("making available")は、EM95によれば児童ポルノサイトの設立やそのようなサイトへのリンクを設けることを意味する。
・・・・・
 次に、行為に着目すると、国内法では、1bについては、取得勧誘・利用可能行為は、コンピュータ・システムを通じない場合も含めて、法には特別の規定はないから、全く担保されていない。そもそも取得行為自体も処罰されていない。

追記
 幇助の公訴事実としてはこういう内容になると思います。

(犯罪事実
被告人は,甲が平成 年月日ころから同年月日ころまでの間,被告人方において,パーソナルコンピューターに接続したインターネットを利用し,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態並びに児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であっていずれも性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノの画像データ合計○○個の画像データを,上記電子掲示板に送信して記憶・蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,上記画像データの閲覧が可能な状況を設定し,児童ポルノを公然と陳列した際,その情を知りながら同年月日ころ,上記被告人方において,上記電子掲示板に掲載されている児童ポルノである画像データ×個のurlを××が管理する電子掲示板に掲載し、もって,甲らの上記犯行を容易にさせてこれを幇助した。

 リンクは処罰されないという意見があるようですが、幇助というのはもともと無限定なので、「リンクは処罰しない」という特別規定がない限り、リンクを張るにしても、リンクを送信するにしても、このように評価されてしまうと、幇助としての処罰は可能だと思います。
 とすると、
? 処罰範囲の不明確(罪刑法定主義表現の自由
? 状態犯説(事後従犯説)
? リンクは処罰されない(サイバー犯罪条約の国内化の状況)
で戦うしかないですね。

 なお、URL+passの送信が販売罪や公然陳列罪の正犯とされたこともありますから、正犯と幇助の区別も怪しいものです。

奈良地裁H14.11.26
 被告人は平成年月日ころ,先に株式会社MS銀行S支店の被告人名義の口座に代金を振り込んだMに対して,自己のホ−ムページアドレス及びパスワードをメールで送信して,同人をして,番地所在の上記M方に設置されたパーソナルコンピューター内のハードディスクにダウンロードさせる方放で,児童を相手方とする性交に係る児童の姿健を露骨に撮影した児童ポルノである画像データ9画像,他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態を露骨に撮影した児童ポルノである画像データ4画像,衣服の全都又は一部を着けないで性器等を露出した児童の姿態を露骨に撮影した児竜ポルノである画像データ22画像を含む画像データ40画像を販売した

阪高裁平成15年9月18日
児童ポルノ画像を不特定多数のインターネット利用者に閲覧させようと企て,当時の被告人方において,被告人所有のパーソナルコンピューターを操作し,同年11月20日ころ,東京都所在の株式会社管理のサーバーコンピューターに対し,ホームページを開設し,児童を相手方とする性交に係る児童の姿態を露骨に撮影した9画像,他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態を露骨に撮影した4画像及び衣服の全部又は一部を着けないで性器等を露出した児童の姿態を露骨に撮影した22画像の各画像データを送信し,同サーバーコンピューターの記憶装置であるディスクアレイ内に記憶,蔵置させた上,被告人が別に開設したホームページにアクセスした不特定多数のインターネット利用者に対し,電話回線等を使用し,上記各画像データを受信して再生閲覧することが可能な状況を設定し,同月21日ころ,上記ホームページにアクセスしてきた京都市所在のB1ら不特定多数の者に対して,上記画像データ35画像が蔵置されたホームページのアドレス及びパスワードを教示するなどし,そのころ,B1をして,上記児童ポルノの画像を同人方に設置されたパーソナルコンピューターに受信させて再生閲覧させるなどし,もって,児童ポルノを公然と陳列したものである。

まあ、全国初の単発の児童ポルノ事件について、思いつきでいろいろ主張しても、バッサリ退けられますので、判例とか調査してある程度裁判所を追い込まないと悩んでもくれないという感じです。ものが児童ポルノですから。