児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

村瀬正明「埼玉県内と東京都内において相次いで敢行された同種盗撮行為が,それぞれ常習として敢行された「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例」違反に該当する併合罪である旨判示された事例」(東京地判平16.12.20公刊物末登載)研修685号

 罪数に関する裁判例として紹介しておきます。

弁護人は,被告人は,埼玉県条例及び東京都条例と常習一罪の関係にある愛知県条例違反の罪により略式命令を受け,埼玉県条例及び東京都条例の公訴提起前に確定しているから,刑訴法337条1号の「確定判決を経たとき」に当たるとして免訴の言渡しをすべきであると主張しました。



平成17年7月7日,東京高等裁判所も「条例制定権の趣旨・地域的効力等に照らすと本件各罪を常習一罪に問う余地はない」などとして本判決の判断を是認し,弁護人の控訴を棄却する判決を宣告しています。

 埼玉・東京・愛知と3件を股に掛けて盗撮してまわっていたみたいです。常習性には争いがないようです。

捜査の端緒あれこれ。

 匿名の電話やメールで、一番多い相談です。
 携帯とかメールの記録というのはありふれているので紹介するまでもない。

 最近あったのは、

売春組織を摘発して、売春婦に児童がいて、遊客が組織御用達のホテルに車で入った。
ホテルのナンバー控えから、遊客が特定された。遊客逮捕。

 類似事例としては、

別件で補導された被害児童がホテルと日時と車種を供述して、
ホテルのナンバー控えから、遊客が特定された。遊客逮捕。

 車から足がつくのをおそれてホテルの近くの路上駐車した・・・(結局検挙された)という検挙事例もありましたから、捕まるときは捕まる。

 買春で検挙された男が
  この女の子そっくりの写真がオークションで売られていました
と供述して、オークション会社に照会して、販売者・撮影者が逮捕された。
 教えた買春犯人は少し減軽

というのもありました。

 失敗事例。

警察が、児童ポルノ画像の「制服」をもとにして聞き込み捜査で学校を特定して、学校に被害児童の特定を求めたが、「個人情報保護」を理由に拒まれ、そのルートでの特定は不奏功。

 ハイテク捜査の実態です。
 

「街頭募金」詐欺容疑で立件、大阪府警が全国初

 これじゃ解釈が理解できません。

 普通の弁護人なら
   募金者を特定せよ
って求釈明しまっせ!
 個人的法益に対する罪の場合、がんばって特定しないと。

http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050729i515.htm
 詐欺事件の立件は、個々の被害者を特定して被害を積み上げるのが通例だが、府警が突き止めた募金者は11人。募金総額も約3万円で、「相当の量刑を求めるには厳しい被害額」(府警幹部)だった。
 そこで、府警は、一定期間内の募金総額を詐取の意図を持って集めた「一つの金」ととらえ、この間の募金者を「一人の被害者」と解釈。被害額を膨らませるとともに、被害者特定という捜査上のハードルも越えた。

http://www.sankei.co.jp/news/050729/sha098.htm
≪刑法理論として勇断≫
 土本武司白鴎大法科大学院教授(刑事法)の話「募金したすべての人を特定して全員から『だまされた』という供述を得ないまま、一部の被害者の供述だけで不特定多数の通行人の募金を含む総額約2000万円に詐欺罪を適用したことは、刑法理論としては勇断だ。裁判では2000万円全額について有罪とされるかどうかは分からない。だが検察官はまず2000万円全額について起訴し、後は公開の法廷で判断が下されるべきだ。司法の在り方として、国民に問題点が明らかにされるのが望ましい」(共同)

土本先生、理論的にも応援してあげなくちゃ。


追記
参考判例

大阪高等裁判所判決昭和50年8月27日
高等裁判所刑事判例集28巻3号310頁
判例タイムズ329号307頁
判例時報807号105頁
判例タイムズ335号118頁

共同暴行罪に限つていえば、その主たる被害法益は、被害者の身体の安全という一身専属的な個人的法益にあるということになる。
してみればその罪数は、被害者ごとに一罪が成立すると解さなければならない。
・・・・
しかしながら、本件共同暴行罪を包括一罪と解すべきでないことは先に判示したとおりであるから、これが包括一罪であることを前提とする所論は採用することができないこと明らかであるので、ここでは被害者ごとに一罪が成立することを前提として、訴因における特定の問題を検討する。
刑訴法二五六条三項が訴因の特定明示を要求しているのは、検察官に対する関係では公訴提起の対象宇即ち攻撃の目標を明らかにし、裁判所に対しては審判の対象、範囲を明確にし、被告人に対しては防禦の範囲を示すことを目的とするものであるから、被害者ごとに一罪が成立する本件犯罪においては、必ずしも氏名による特定を要しないとしても何らかの方法で被害者を特定することが要求されるわけではあるが、被害者とされている者の全員が被害を受けたことが明白な事案においては、訴因において被害者を特定することの実質的必要性は、もつぱらそれ以外の者と区別することに主眼があると思われるので、被害者らの集団の範囲が確定されている限り、その集団の内部における個々の被害者の特定に不充分な点があつたとしても、起訴状における訴因の明示としては、一応の目的を達しているものと解されないではない。
・・・・
このように、被害者らの集団にいた者が全て被害を受けたとは断定できない場合には、単に起訴状に、反帝学評系の学生ら約五〇名に共同して暴行を加えたと記載し、被害者らの集団を確定してそれ以外の者と区別するだけではなく、さらにその集団内部において被害を受けた者を氏名その他の方法で特定しない限り、審判及び防禦に支障を来たし、訴因の特定明示を要求する刑訴法二五六条三項の趣旨に反し適法なものということはできない。

参考文献 
 たまたま携帯していた「公判法体系」に土本説が出ていました。(^_^)V
 児童ポルノでも訴因特定の問題としての被害者特定の争点があるもので。

土本武司「訴因の特定」公判法大系I p142
客体の記載
「人」については、具体的な特定人を記載すべきである。特定さえされていれば、必ずしも氏名を表示することを要しない。

内ゲバ事件のように被害者が完全黙秘だったり、被害者が捜査に協力しない場合には、個人的法益に対する罪で処罰することは困難だと指摘されており、公衆に対する詐欺事犯の特質、態様を考慮に入れた社会的法益を保護法益とする特別規定を設けることが必要なんでしょうね。