児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

女性に対し,その後方から,自己の陰茎を手淫しながら接近し,Aに向けて射精して自己の精液をその着衣に付着させた行為を暴行罪とした事例(前橋地裁H27.6.19)

 女性に対し,その後方から,自己の陰茎を手淫しながら接近し,Aに向けて射精して自己の精液をその着衣に付着させた行為を暴行罪とした事例(前橋地裁H27.6.19)
 強制わいせつ罪にしたのもあるんですけど、判例DBにはでてませんね
 親告罪の一部起訴の問題があります。

前橋地方裁判所
平成27年6月19日刑事第1部判決
       判   決
 上記の者に対する強制わいせつ致傷,暴行,強制わいせつ,窃盗被告事件について,当裁判所は,検察官萩谷葉子及び同高橋俊輔並びに私選弁護人小和瀬聡(主任)及び同中本真理各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       理   由
(罪となるべき事実)
(以下,「同」年月日とされているものは,括弧内の起訴状の日付の記載を除いた直近の年月日の記載と同じ年月日を示すものとする。)
 被告人は,インターネット上の動画サイトに投稿された様々な種類のわいせつ動画を見ては、性的満足を得るためにその内容を自ら模倣して実行したいと考え,
第1(平成26年10月31日付け起訴状記載の公訴事実)
 平成26年3月24日午後8時35分頃,群馬県高崎市内のラーメン店■駐車場において,A(当時33歳)に対し,その後方から,自己の陰茎を手淫しながら接近し,Aに向けて射精して自己の精液をその着衣に付着させるなどの暴行を加え,
第2(平成27年1月26日付け起訴状記載の公訴事実)
 路上で見かけた通行中のB(当時17歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え,同年8月26日午後2時5分頃,同市■路上において,Bに対し,その背後からいきなり抱きつき,両手で着衣の上からその両胸を揉みながら引き倒した上,スカートに手を入れてその右大腿部を触るなどの暴行を加え,もって強いてわいせつな行為をし,
第3(平成27年2月27日付け起訴状記載の公訴事実)
 同月27日午後10時頃,同市内の■C方ベランダにおいて,C所有又は管理のブラジャー等4点(時価合計約2000円相当)を窃取し,
第4(平成26年12月3日付け起訴状記載の公訴事実)
 鉄道の駅付近で女性を物色中に見つけたD(当時22歳)に対して強いてわいせつな行為をしようと考え,数百メートルの距離を追跡した上,同年9月12日午後8時50分頃から同日午後8時55分頃までの間,前橋市■路上において,Dに対し,その背後からいきなり抱きつき,地面に両膝をついて座り込んだ状態のDの背後から,その口を手で押さえるなどしながら,胸元から着衣及び下着内に右手を差入れてその乳房を揉み,さらに,Dのショートパンツの中に右手を差し入れて下着の上から陰部を触るなどの暴行を加え,もって強いてわいせつな行為をし,その際,Dに対して全治約1週間を要する両膝擦過創の傷害を負わせ,
第5(平成26年10月10日付け起訴状記載の公訴事実)
 同月21日午後9時頃,同県高崎市内のスーパー店内■において,E(当時18歳)に対し,その左後方から,自己の陰茎を手淫しながら接近し,Eに向けて射精して自己の精液をその着衣に付着させる暴行を加え
たものである。
(証拠の標目)《略》
(法令の適用)
 被告人の判示第1,第5の各所為はいずれも刑法208条に,判示第2の所為は同法176条前段に,判示第3の所為は同法235条に,判示第4の所為は同法181条1項(176条前段)にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第1,第3,第5の各罪についてはいずれも懲役刑を,判示第4の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中180日をその刑に算入することとする。 
(量刑の理由)
平成27年6月19日
前橋地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官 高山光明 裁判官 齊藤学 裁判官 伊藤愉理子

強制性交等罪の衆議院法務委員会での審議

 児童虐待性的虐待)にかかる児童淫行罪の一部が刑法に取り込まれたんですが、児童淫行罪も残るので、どっちになるかなあと。

193-衆-法務委員会-21号 平成29年06月07日

平成二十九年六月七日(水曜日)
    午前九時二分開議
 出席委員
   委員長 鈴木 淳司君
   理事 今野 智博君 理事 土屋 正忠君
   理事 平口  洋君 理事 古川 禎久君
   理事 宮崎 政久君 理事 井出 庸生君
   理事 逢坂 誠二君 理事 國重  徹君
      赤澤 亮正君    安藤  裕君
      井野 俊郎君    池田 佳隆君
      大野敬太郎君    奥野 信亮君
      門  博文君    金子万寿夫
      神山 佐市君    菅家 一郎君
      城内  実君    國場幸之助君
      鈴木 貴子君    田所 嘉徳君
      辻  清人君    野中  厚君
      橋本 英教君    藤原  崇君
      古田 圭一君    宮川 典子君
      宮路 拓馬君    簗  和生君
      山田 賢司君    若狭  勝君
      阿部 知子君    枝野 幸男君
      階   猛君    山尾志桜里
      大口 善徳君    吉田 宣弘君
      池内さおり君    畑野 君枝君
      藤野 保史君    木下 智彦君
      松浪 健太君    上西小百合
    …………………………………
   法務大臣         金田 勝年君
   内閣府副大臣       石原 宏高君
   法務副大臣        盛山 正仁君
   内閣府大臣政務官     豊田 俊郎君
   法務大臣政務官      井野 俊郎君
   文部科学大臣政務官    樋口 尚也君
   厚生労働大臣政務官    堀内 詔子君
   最高裁判所事務総局人事局長            堀田 眞哉君
   最高裁判所事務総局刑事局長            平木 正洋君
   政府参考人
   (内閣府大臣官房審議官) 大塚 幸寛君
   政府参考人
   (警察庁長官官房総括審議官)           斉藤  実君
   政府参考人
   (警察庁長官官房審議官) 西川 直哉君
   政府参考人
   (警察庁長官官房審議官) 高木 勇人君
   政府参考人
   (法務省大臣官房審議官) 高嶋 智光君
   政府参考人
   (法務省大臣官房司法法制部長)          小山 太士君
   政府参考人
   (法務省刑事局長)    林  眞琴君
   政府参考人
   (法務省人権擁護局長)  萩本  修君
   政府参考人
   (文部科学省大臣官房審議官)           神山  修君
   政府参考人
   (文部科学省大臣官房審議官)           瀧本  寛君
   政府参考人
   (スポーツ庁スポーツ総括官)           平井 明成君
   政府参考人
   (厚生労働省大臣官房審議官)           中井川 誠君
   政府参考人
   (厚生労働省雇用均等・児童家庭局児童虐待防止等総合対策室長)  
     山本 麻里君
   法務委員会専門員     齋藤 育子君
    ―――――――――――――
委員の異動
六月七日
 辞任         補欠選任
  赤澤 亮正君     田所 嘉徳君
  安藤  裕君     橋本 英教君
  國場幸之助君     金子万寿夫
  辻  清人君     神山 佐市君
  藤原  崇君     簗  和生君
  山田 賢司君     池田 佳隆君
  枝野 幸男君     阿部 知子君
  藤野 保史君     池内さおり君
  松浪 健太君     木下 智彦君
同日
 辞任         補欠選任
  池田 佳隆君     山田 賢司君
  金子万寿夫君     大野敬太郎
  神山 佐市君     辻  清人
  田所 嘉徳君     赤澤 亮正君
  橋本 英教君     安藤  裕君
  簗  和生君     藤原  崇君
  阿部 知子君     枝野 幸男君
  池内さおり君     藤野 保史君
  木下 智彦君     松浪 健太君
同日
 辞任         補欠選任
  大野敬太郎君     國場幸之助君
    ―――――――――――――
六月七日
 裁判所の人的・物的充実に関する請願(大口善徳君紹介)(第一七二五号)
 同(階猛君紹介)(第一八〇〇号)
 同(宮川典子君紹介)(第一八〇一号)
 治安維持法犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(赤嶺政賢君紹
介)(第一七九三号)
 同(階猛君紹介)(第一七九四号)
 同(篠原孝君紹介)(第一七九五号)
 同(福田昭夫君紹介)(第一七九六号)
 同(古川元久君紹介)(第一七九七号)
 同(真島省三君紹介)(第一七九八号)
 同(本村伸子君紹介)(第一七九九号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 政府参考人出頭要求に関する件
 刑法の一部を改正する法律案(内閣提出第四七号)
     ――――◇―――――

○鈴木委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 この際、お諮りいたします。
 本案審査のため、本日、政府参考人として内閣府大臣官房審議官大塚幸寛
君、警察庁長官官房総括審議官斉藤実君、警察庁長官官房審議官西川直哉君、
警察庁長官官房審議官高木勇人君、法務省大臣官房審議官高嶋智光君、法務省
大臣官房司法法制部長小山太士君、法務省刑事局長林眞琴君、法務省人権擁護
局長萩本修君、文部科学省大臣官房審議官神山修君、文部科学省大臣官房審議
官瀧本寛君、スポーツ庁スポーツ総括官平井明成君、厚生労働省大臣官房審議
官中井川誠君及び厚生労働省雇用均等・児童家庭局児童虐待防止等総合対策室
長山本麻里君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議あり
ませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――

○鈴木委員長 次に、お諮りいたします。
 本日、最高裁判所事務総局人事局長堀田眞哉君及び刑事局長平木正洋君から
出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――

○鈴木委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。宮崎政久君。

○宮崎(政)委員 自由民主党宮崎政久です。
 性犯罪を厳正に対処するための刑法の一部を改正する法律案について質疑を
させていただきます。
 明治四十年に現在の刑法が制定されて今日まで百十年が経過して、今回初め
て、性犯罪の構成要件などを大幅に見直す改正となりました。何が罪となるの
か、いかなる重さで処罰されるのか、これは国の意思でありまして、主権者で
ある国民が定めるところであります。
 この委員会で刑法の理念を審議して、議論して、そしてその結果が議事録に
も記載されることは、ここにいる私たち国会議員の大きな責務であると認識を
しております。
 本日、私を含めまして十名の質疑者が立ちますが、この法案を速やかに成立
させるべきであるという点では、与党も野党も共通した思いを持っているとこ
ろであると思っております。充実した審議を求めて、まず私から先陣を切らせ
ていただきたいと思います。
 今回の改正内容、どれも重要なのでありますけれども、私は、特に二点、評
価をしたいと思っております。
 一つは、法定刑の下限を引き上げたという点であります。
 これまで強姦罪は、強盗罪と比較をされて、財物を奪う強盗と性的自由を奪
う強姦とで、なぜ強姦の方が刑が軽いのか、こういう批判をされてきました。
また、法定刑の下限が懲役三年以上であることから、検察官の求刑も低目にな
るということもあり、執行猶予つきの判決が出やすいという現実もあったこと
は事実であります。
 性犯罪の被害に遭いますと、被害に遭われた方は、学校や会社に行けなくな
ってやめてしまったり、異性と交際ができなくなって結婚を諦めてしまった
り、その被害の結果は極めて甚大であります。
 それなのに、被告人が裁判を経て執行猶予つきの判決を受けるということに
なれば、被害に遭われた方からすれば、言ってみれば無罪放免になったような
印象を受けますので、それが司法に対する不信感になったり、被害の回復を阻
害するという面があったわけであります。
 もう一つは、親告罪でなくしたという点であります。
 被害に遭われた方が警察に相談に行くということはその時点で相当な勇気を
振り絞っているわけでありまして、警察に行きさえすれば、後は捜査をして、
裁判になってくれるというふうに信じておられるわけであります。にもかかわ
らず、親告罪だということで、改めて、これを事件にするかどうかはあなたが
決めてくれというようなことを言われるのは、被害者の方にとっては苦痛以外
の何物でもないし、せっかく勇気を出して警察に行ったのに途中で心が折れて
しまったり、悪い場合には、加害者からの逆恨みを恐れて告訴を断念するとい
う事態もないわけではないわけであります。
 また、事件が進展する中で、告訴を取り下げるならば被害弁償を支払うとい
う持ちかけを受けて、泣く泣く告訴を取り下げて示談金を受け取ることになら
ざるを得ないケースというものもあります。
 本来であれば、罪を犯した者は刑事責任を負って、さらに損害賠償という民
事上の責任を負うのが当然であるはずなのに、親告罪であったがために刑事か
民事か二者択一を迫られる、こういった被害に遭われた方もこれまで多かった
わけです。
 こういったこと自体、言ってみれば二次被害という状況でありますし、その
後の被害の回復をしていただくのに多大な悪い影響を及ぼした現実がありまし
た。
 今回、このこと以外にも大きな前進となる本改正をすることには、性犯罪の
被害に遭われた多くの皆さんが声を上げてくださったことが推進力となってき
たことは事実であります。
 これは、与野党問わず、被害に遭われた皆さんの声を聞いたと認識をしてお
りますけれども、私ども自由民主党においても、私は事務局長をさせていただ
いておりますが、司法制度調査会において、性犯罪の被害に遭われた方、これ
を支援されている方、法改正の運動に取り組んでおられる方、また熱意を持っ
てこの問題に取り組んでいる弁護士さん、こういった多くの皆様から幾度とな
くヒアリングをさせていただいて、その声を聞かせていただきました。
 被害を声に出して人々に訴えるというのはとてもつらく苦しいことであるこ
とは、想像にかたくないわけであります。性犯罪の被害に遭われた皆さんが長
い年月をかけて訴えてきた地道な取り組みの成果が今ここでようやく一旦結実
しようとしていることに対して心から敬意を表して、また感謝の思いを胸にい
たしまして、質疑に入りたいと思います。
 本改正の概要等大枠につきましては、先日の衆議院の本会議において金田法
務大臣から丁寧に御答弁をいただいております。本日は、刑事実務にわたる部
分、言ってみれば細目的、技術的な事項にわたる部分も多くありますので、政
参考人、主として刑事局長にお答えいただきたいと思っております。
 まず、今回の刑法改正に至る経緯と改正の趣旨を端的に御説明ください。

○林政府参考人 近年、現行法の性犯罪に関する罰則は、必ずしも現在の性犯
罪の実態に即したものになっていないという指摘がなされておりました。そこ
で、性犯罪の実情等に鑑みまして、事案の実態に即した対処をすることができ
るようにするため、今回の所要の法整備を行うものでございます。
 経緯でございますけれども、今回の改正に当たりましては、まず、平成二十
六年十月から、刑事法研究者、法曹三者そして被害者支援団体関係者などから
成ります性犯罪の罰則に関する検討会を開催して検討を行いました。その検討
結果を踏まえまして平成二十七年十月に法制審議会に諮問を行いまして、平成
二十八年九月に法制審議会から答申がなされましたので、この答申を踏まえま
して法務省におきまして必要な検討、準備を行い、本法案の提出に至ったもの
でございます。

○宮崎(政)委員 ありがとうございます。
 それでは、ここから法文の具体的な構成要件等について質問をしてまいりた
いと思います。
 まず、改正後の刑法第百七十七条でありますけれども、強姦罪を改め強制性
交等罪は、実行行為について、性交、肛門性交または口腔性交をしたと定めて
おりますけれども、この三つ、性交、肛門性交、口腔性交のそれぞれの定義に
ついて御説明をお願いします。

○林政府参考人 まず、性交とは、膣内に陰茎を入れる行為をいいます。肛門
性交とは、肛門内に陰茎を入れる行為をいいます。また、口腔性交とは、口腔
内に陰茎を入れる行為をいいます。

○宮崎(政)委員 この強制性交等罪の条文、定めた定義は今のような形であ
りますが、この形態で、女性が加害者となって男性に性交等を強いる場合も含
まれているということが明らかになっているのかどうか、御説明をお願いしま
す。

○林政府参考人 本条におきましては、誰の陰茎を誰の膣内、肛門内、口腔内
に入れるかについては文言上限定しておりませんので、自己の膣内等に被害者
の陰茎を入れる行為を含むと解することができると考えて用いておるところで
ございます。
 したがいまして、今回の法案における性交、肛門性交または口腔性交とは、
相手方の膣内、肛門内もしくは口腔内に自己の陰茎を入れる行為のほかに、自
己の膣内、肛門内もしくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為を含むものであ
ると考えております。

○宮崎(政)委員 さまざまな態様にも対応していくような形で今回の法改正
がされておりますので、この辺の趣旨は法務当局でも十分周知を図っていただ
きたいと思っております。
 次に、法定刑の下限の引き上げについて伺いたいと思います。
 強姦罪の法定刑の下限を懲役三年から五年に、被害者が死傷した場合につい
てはその法定刑の下限を懲役五年から六年にそれぞれ引き上げるという内容に
なっております。
 まず、その趣旨を御説明ください。

○林政府参考人 強姦罪の法定刑については、例えばその下限が引き上げられ
ました平成十六年の刑法改正に係る国会審議及び公訴時効等が改正されました
平成二十二年の刑法等改正に係る国会審議の際にも、衆参両議院における附帯
決議におきまして他の罪の法定刑との均衡や被害の重大性を踏まえたさらなる
検討が求められているなど、さまざまな指摘がなされてまいりました。
 そして、平成二十六年十月から当省において開催いたしました性犯罪の罰則
に関する検討会における検討、あるいはその後の法制審議会における調査審議
におきましても、強姦罪の法定刑の下限を引き上げるべきであるという意見が
多数を占めたところでございます。
 平成十八年から平成二十七年までの実際の量刑を見ましても、法定刑の下限
が懲役五年とされておりますところの強盗罪及び現住建造物等放火罪よりも強
姦罪の方が重い量刑がなされる事件の割合というものが高くなっております。
 このように、法定刑の引き上げを求める指摘が多くなされ、現に重い量刑が
なされている状況を踏まえますれば、強姦罪の悪質性、重大性に対する現在の
社会一般の評価は、少なくとも強盗、現住建造物等放火の悪質性、重大性に対
する評価を下回るものではないと考えられ、現時点において強姦罪の法定刑の
下限は低きに失して、国民の意識と大きく異なることとなっていると言わざる
を得ないわけでございます。
 そこで、強制性交等罪についての法定刑の下限を、強盗罪、現住建造物等放
火罪と同様に懲役五年に引き上げることが適当であると考えたものでございま
す。
 また、その結果的加重犯である強制性交等致死傷罪につきましても、強制性
交等罪の法定刑の下限との均衡を図る観点から、懲役六年に引き上げることが
適当であると考えたものでございます。

○宮崎(政)委員 冒頭、一番に指摘をさせていただきましたけれども、法定
刑の下限を引き上げる、これによって裁判実務のあり方なども影響を受けるこ
とは間違いありません。ですから、そういったことを、一つ一つの裁判に対し
立法府が注文をつけるというわけではありませんけれども、ぜひ十分に配慮
した形での訴訟の運営がなされるべきであるということも指摘したいと思いま
す。
 あわせて、ちょっと刑事局長にお聞きしたいのは、現行法の百七十八条の
二、集団強姦罪等につきましては今回の法改正に合わせて廃止をするというよ
うな形になっております。その趣旨を御説明ください。

○林政府参考人 現在、集団強姦等の罪の法定刑の下限は四年、同罪に係る強
姦等致死傷の罪の法定刑の下限は六年とされております。
 今回の法改正では、強姦罪を改正する強制性交等罪の法定刑の下限を懲役五
年に、強姦等致死傷罪を改正する強制性交等致死傷罪の法定刑の下限を六年に
それぞれ引き上げることとしておりまして、集団強姦等の罪及び同罪に係る強
姦等致死傷の罪を廃止したといたしましても、集団強姦等の罪については、現
在の法定刑より下限が引き上げられることになります。
 同罪に係ります強姦等致死傷の罪につきましては、現在の法定刑の下限と同
じこととなるわけでございますが、これにつきましては、前科等のない犯人が
被害者に対して最善の慰謝の措置を尽くすなどしたにもかかわらず、酌量減軽
をしてもなお、およそ執行猶予を付し得ないことには問題があるとの観点か
ら、法定刑の下限について、酌量減軽をした場合において、執行猶予を付する
ことができる限界である懲役六年を超えるものとすることは相当ではないと考
えられます。
 集団による強姦という悪質性については、引き上げられた法定刑の範囲内で
量刑上適切に考慮することによって適切な科刑が可能となります。したがいま
して、強姦罪及び強姦等致死傷の罪の法定刑の下限を引き上げることに伴い、
集団強姦等の罪及び同罪に係る強姦等致死傷の罪については廃止することとし
たものでございます。

○宮崎(政)委員 次に、強姦罪の暴行、脅迫要件について伺いたいと思いま
す。
 まず、強姦罪の成立に必要な暴行、脅迫の程度であります。これは判例で確
立されておりまして、強盗罪のように相手方の反抗を抑圧する程度のものであ
ることを要せず、反抗を著しく困難ならしめる程度のものであれば足りると解
されてきたところでありますけれども、今回の改正後の強制性交等罪について
もこの点については変更がないのか、刑事局長にお尋ねをします。

○林政府参考人 強制性交等罪における「暴行又は脅迫を用いて」との文言
は、改正前の強姦罪における「暴行又は脅迫を用いて」との文言と同じ意味で
あると考えて用いております。
 したがいまして、これまでの強姦罪等における解釈の変更を意図するもので
はございませんで、暴行、脅迫の程度は、委員御指摘のとおり、相手方の反抗
を著しく困難ならしめる程度のものであれば足りると解されるところでござい
ます。

○宮崎(政)委員 それでは、現在の実務において、今御説明のあった強姦罪
の成立に必要な暴行、脅迫について具体的にどういった事情を考慮して事実認
定をしていくのか、刑事局長に御説明いただきたいと思います。

○林政府参考人 暴行、脅迫が相手方の反抗を著しく困難ならしめる程度のも
のであるかどうか、これにつきましては、判例等によりまして、被害者の年
齢、精神状態、行為の場所、時間等諸般の事情を考慮して、社会通念に従って
客観的に判断されなければならないものと解されているところでございます。

○宮崎(政)委員 今概要を御説明いただいたわけでありますが、要はさまざ
まな事情をあわせ考慮するということですが、被害者の方々のお話を伺ってい
ると、処罰すべきものが処罰できていない、激しい抵抗をしなければ暴行、脅
迫が認定されないじゃないか、こういったことから、この暴行、脅迫要件につ
いては撤廃をしてほしい、緩和をしてほしいという意見がたくさん寄せられて
います。
 実は、きょうもこの法務委員会の席に、これまで多大にこの改正に向けて活
動されていただいた皆さん、いろいろな団体があるんですけれども、学者の先
生、それぞれの団体の皆さんが来ておられます。わけても「刑法性犯罪を変え
よう!プロジェクト」というのを進めておられた四団体の皆さんは、出版物も
出したりとかいろいろなことをして御尽力されてこられました。きょう、委員
会も傍聴していただいております。皆さんの取り組みに心から敬意を表した
い、そして感謝を申し上げたいと思います。
 実は、この暴行、脅迫要件、私も弁護士として二十年仕事をしている中でさ
まざま事件に出会ったときに、加害者側から、合意があったと思った、こうい
う弁解とも関連する場合が非常に多いんです。
 例えば、具体的なケースでいいますと、被害者が行きずりの被害に遭ったよ
うな場合、加害者が被害者に暴力を振るったり刃物を突きつける、こういうよ
うなことがあれば暴行、脅迫というのは認められやすいわけでありますけれど
も、では、そこまでいかなかったケースはどうなるのか。人けのない夜道でい
きなり声をかけられて腕をつかまれる、普通の女性であれば、驚いて、恐怖で
固まってもう声も出ない状況になります。よほど訓練を受けているとか、日ご
ろから、何かあったときにはきちっと対処しようというイメージトレーニング
を重ねているような人でない限りは、逃げたり抵抗したりすることはできない
わけです。まさに反抗を著しく困難にされた状態と言えるわけでありまして、
被害者の方のこの状況は、例えばフリーズとか解離、こういったように言われ
る、言ってみれば正常な反応であります。
 しかしながら、これが事件化されていって、例えば事情を聞く段階になった
りすると、何で大声を出さなかったのかとか、通りかかった人がいたのに何で
助けを求めなかったのかというふうに聞かれることも多くて、それをもって合
意があったと言い張る加害者の側もおるわけであります。
 しかし、通りがかりの人に声をかけるといってみても、その人が助けてくれ
る保証はありませんし、面倒なことに巻き込まれたくないという人もいるでし
ょう。また、助けを求めたけれどもその人に聞こえなかったという場合には、
加害者が今度は激高して、もしかしたら殺されるんじゃないか、こういう恐怖
心を被害に遭われている方が抱くのはある意味当然であります。相手は行きず
りで強姦をしてくるような人間なのであります。
 さらに、事案によっては、被害に遭われている方が服を脱がされているとい
う場合もあるでしょうから、恥ずかしくて声をかけられない場合もあるでしょ
う。それをもって、自分から声をかけなかった、助けを求めなかった、だから
加害者が合意と思っても仕方がない、こういうようなことになっているのでは
ないか、そんな声も上がっています。
 法務当局の考えを刑事局長に聞きたいと思います。

○林政府参考人 暴行、脅迫の認定が厳し過ぎる、あるいは激しく抵抗しなけ
れば暴行、脅迫があると認定されないといった声、そういった批判の声がある
ことは十分に承知しております。
 その上で、暴行、脅迫の程度につきましては、先ほども申し上げましたが、
諸般の事情を考慮して、社会通念に従って客観的に判断されるべきものである
と解されるところでございまして、これは、具体的な状況によりますれば、単
にそれのみを取り上げて観察すれば反抗を著しく困難ならしめる程度には達し
ていないようなものでありましても、例えば行為の時間、場所等諸般の事情に
よっては反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行、脅迫が認められ得る、こう
いうふうにされているところでございます。
 したがいまして、真に強姦罪等により処罰されるべき事案について、暴行、
脅迫要件のみが障害となって処罰されていないという状況にはないのではない
かと認識しているところでございます。
 例えば、被害者が、加害者との人間関係や恐怖感から抵抗できない場合にお
いて抵抗していなかった、このことのみをもって暴行、脅迫が認められないと
いうものではなく、こういった場合につきましても、先ほどのような客観的な
事情、状況を考慮してその暴行、脅迫というものが認定され得ると考えており
ます。
 反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行、脅迫の立証が足りないとして無罪
となった事案の中においても、暴行、脅迫の要件のみが認められないというこ
とを理由としているものではなくて、そのような場合には、被害者の供述の信
用性がその事案において認められなかったものでありますとか、被害者が性交
に同意していた可能性が否定できないことを理由として無罪とされているもの
もあると考えております。
 なお、暴行、脅迫の認定に当たりまして、犯罪被害に直面した被害者が反射
行動により抵抗できなくなるような場合があるということ、そういった心理状
態を適切に考慮する必要があるということはまことにそのとおりでございまし
て、それは重要な指摘であろうかと考えております。
 法務・検察におきましても捜査、公判に携わる検察官に対して経験年に応じ
た各種の研修をしておるわけでございますけれども、そういった中におきまし
ても、こういった被害者の心理状態といったものについての理解について、今
後も引き続きその研修の充実というものを図ってまいりたいと考えておりま
す。

○宮崎(政)委員 今、刑事局長が答弁された点、それでも多くの方々から、
必死に抵抗しなかったら暴行、脅迫要件が認められないんだという厳しい御指
摘があることは事実なんです。どうかこれは重く受けとめていただいて、さま
ざま研修等の言葉も今ありましたけれども、受け手がどう受けとめるか、事件
に遭われて被害を申し出ている人がどう受けとめるかということも重要な観点
でありますので、ぜひこの辺の周知はしっかり図っていただきたいと思いま
す。
 同様の趣旨で、最高裁判所にもお尋ねをいたします。裁判所においても、性
犯罪に直面した被害者の心理であるとか、フリーズであるとか解離といった反
応が生じることなど、事情を十分に考慮した上で暴行、脅迫要件の認定をして
いくことが絶対に必要であると考えておりますが、最高裁のこの点についての
見解を伺います。

○平木最高裁判所長官代理者 どのような場合に強姦罪の暴行、脅迫を認定す
るかは、個別の事件におきまして各裁判体が判断すべき事項ではございます
が、一般論として申し上げますと、昭和三十三年六月六日の最高裁判決は、
「当裁判所判例は、刑法百七十七条にいわゆる暴行脅迫は相手方の抗拒を著し
く困難ならしめる程度のものであることを以つて足りると判示している。しか
し、その暴行または脅迫の行為は、単にそれのみを取り上げて観察すれば右の
程度には達しないと認められるようなものであつても、その相手方の年令、性
別、素行、経歴等やそれがなされた時間、場所の四囲の環境その他具体的事情
の如何と相伴つて、相手方の抗拒を不能にし又はこれを著しく困難ならしめる
ものであれば足りると解すべきである。」と判示しておりまして、各裁判体
は、このような判例の趣旨も踏まえながら暴行、脅迫の存否を適切に判断して
いるものと承知しておるところでございます。

○宮崎(政)委員 最終的に裁きを下す裁判所においても、今回の法改正の、
冒頭刑事局長が説明してくれた経緯、そして今回のこの国会審議の中で出てい
る、被害に遭われた方、またこれを支援している方、さまざまな方々からこの
暴行、脅迫要件については意見が出ていることが研修等で十分に伝わるように
配慮していただきたい、そして適正な裁判が進められるようにお願いをするも
のであります。
 次に、強盗・強制性交等罪について伺いたいと思います。
 今回の法案では、強盗が強姦をした場合に重く処罰する規定である強盗強姦
罪、刑法の二百四十一条でありますけれども、この構成要件を見直して強盗・
強制性交等罪に改めるというふうになっております。
 まず、この趣旨を簡潔に御説明ください。

○林政府参考人 現行法上、強盗犯人が強姦をした場合には強盗強姦罪が成立
いたします。他方で、強盗と強姦の双方を行った場合でありましても、例えば
強姦行為の後に強盗の犯意を生じて強盗をした場合には、強盗強姦罪は成立せ
ず、強姦罪と強盗罪の併合罪が成立するにとどまりまして、法定刑は強盗強姦
罪と大きく異なる結果となっております。
 これは、同じ機会にそれぞれ単独でなされてもなお悪質な行為でありますと
ころの強盗行為と強姦行為すなわち改正後は強制性交等の行為の双方を行うこ
との悪質性、重大性に鑑みますと、その先後の関係の違いをもって科すことの
できる刑に大きな差異があることは合理的に説明が困難でございます。
 そこで、今回、法改正によりまして、同一の機会に強盗行為と強制性交等の
行為とが行われた場合につきまして、その行為の先後関係を問わず、強盗・強
制性交等罪といたしまして、現行の強盗強姦罪と同様の法定刑で処罰すること
としたものでございます。

○宮崎(政)委員 確認ですけれども、この強盗・強制性交等罪というのは、
強盗の罪と強制性交等の罪に同時に着手した場合であるとか、この先後が明ら
かでない場合も成立するという理解でよろしいでしょうか。

○林政府参考人 強盗・強制性交等罪は、強盗行為と強制性交等の行為との先
後関係等にかかわりなく、同一の機会に強盗行為と強制性交等の行為とを行っ
た場合を処罰しようとするものでございます。
 したがいまして、この強盗・強制性交等の罪は、強盗の罪また強制性交等の
罪の両方の罪に同時に着手した場合であっても、またどちらが先に行われたか
不明な場合におきましても、同一の機会に行われたことが認められる場合には
成立をいたします。

○宮崎(政)委員 改正後の二百四十一条の一項の条文では、強盗・強制性交
等罪は、強盗の罪または強制性交等の罪の一方を犯した者が他の一方をも犯し
た場合に成立するという、「をも」という表現を使っているわけであります
が、今御説明があった点がこの「をも」という表現の中に入っているという理
解でよろしいかどうか、御説明をお願いします。

○林政府参考人 今回の法改正により、強盗強姦に関する解釈を変更しようと
するものではありません。したがいまして、現行法の強盗強姦罪について、判
例上、強姦は強盗の機会に行われれば足りるものと解されていることを踏まえ
まして、改正後の二百四十一条第一項におきましては、強盗の罪と強制性交等
の罪が、その先後関係を問うことなく、同一の機会に行われた場合にはこの強
盗・強制性交等罪が成立するものと考えております。

○宮崎(政)委員 ありがとうございました。
 あともう一点ですけれども、この二百四十一条の一項の文言なんですが、強
盗罪ではなくて強盗の罪、強制性交等罪ではなくて強制性交等の罪という条文
上の表現が用いられております。この意義というか射程範囲について御説明を
お願いします。

○林政府参考人 今回の法改正により、現行の強盗強姦に関する解釈というも
のを変更しようとするものではございません。したがいまして、改正後の二百
四十一条一項におけます強盗の罪といいますのは、現行法の強盗強姦罪におけ
る強盗と同様に、二百三十六条の狭義の強盗罪だけではなく、強盗の罪として
論じられる二百三十八条の事後強盗罪や、二百三十九条の昏酔強盗罪が含まれ
ます。また、改正後の二百四十一条一項におけます強制性交等の罪につきまし
ても、百七十七条の狭義の強制性交等罪だけではなく、強制性交等の罪の例に
よるとされていますところの百七十八条の準強制性交等罪が含まれます。
 もっとも、十八歳未満の被害者を監護する立場にある者がそのことによる影
響力に乗じて性交等に及ぶ場合において、その性交等と同一の機会に暴行、脅
迫を用いるなどして財物奪取にまで及ぶという事態は実際上想定しがたいこと
から、改正後の二百四十一条第一項における強制性交等の罪からは監護者性交
等罪は除いてございます。

○宮崎(政)委員 あともう一点、この強盗・強制性交等罪ですけれども、現
行の強盗強姦罪と同様に、不幸にして被害者が死亡された場合に、さらに重い
法定刑を置いています。
 もっとも、現行の二百四十一条というのは結果的加重犯で、殺意がある場合
には成立しない、殺意がある場合には強盗殺人と強盗強姦が成立をするという
ふうに処理されるわけでありますけれども、この点について、改正後の二百四
十一条三項においては殺意がある場合を含むのか、条文上の表現では人を死亡
させた者はというふうになっておりますので、この点を明確に御説明くださ
い。

○林政府参考人 改正後の刑法二百四十一条三項の罪には、強盗・強制性交等
罪に当たる行為によりまして殺意なく人を死亡させた者だけではなく、殺意を
持って人を死亡させた者もその対象に含むものとしております。
 条文上も殺意がある場合を含むことを明らかにするために、一般に、いわゆ
る結果的加重犯のみをその対象とし、殺意がある場合を含まないものと解され
ている現行法の強盗強姦致死罪のように、よって死亡させたとの用語は用いず
に、第一項の罪に当たる行為により人を死亡させたときと規定しているところ
でございます。

○宮崎(政)委員 ありがとうございました。
 次に、非親告罪化の件について御質問させていただきます。
 今回、強姦罪準強姦罪、強制わいせつ罪及び準強制わいせつ罪を親告罪
する規定を削除して非親告罪とするとともに、わいせつ目的、結婚目的の略取
誘拐罪なども非親告罪とする内容としております。
 これまで性犯罪が親告罪とされてきた趣旨は、一般に、公訴を提起すること
によって被害者のプライバシーなどが害されるおそれがあるので、被害者の意
思を尊重して、被害者を保護するためであるというふうに指摘がされておりま
す。ただ、冒頭申し上げたとおり、親告罪であるということが、被害に遭われ
た方に非常に重いもの、不利益と言えるようなものを背負わせている点もあっ
たことも事実であります。
 今回、このような形で非親告罪化することの趣旨について御説明ください。

○林政府参考人 委員御指摘のとおり、現行法上、強姦罪等につきましては親
告罪とされておりまして、その趣旨は、公訴を提起することによって被害者の
プライバシー等が害されるおそれがあって、被害者の意思を尊重するためであ
る、このように解されてきたところでございます。
 もっとも、近年の性犯罪の実情等に鑑みまして、性犯罪被害者やその支援団
体関係者等からのヒアリング等を行ったところ、現在の実情といたしまして
は、犯罪被害によって肉体的、精神的に多大な被害を負った被害者にとって
は、告訴するか否かの選択が迫られているように感じられたり、また、告訴し
たことにより被告人から報復を受けるのではないかとの不安を持つ場合がある
など、親告罪であることによりかえって被害者に精神的な負担を生じさせてい
ること、このことが少なくない状況に至っていると認められたところでござい
ます。
 そこで、このような実情等に鑑みますと、これを非親告罪化して、親告罪
あることにより生じている精神的負担を解消することが相当であると考えられ
たことから、今回の法改正により非親告罪化することとしたものでございま
す。
 また、現行法上、わいせつ目的または結婚目的の拐取に係る罪につきまして
も、強姦罪と同じくいわゆる性犯罪と位置づけられ、親告罪とされておりま
す。その趣旨も、一般に、強姦罪と同様に被拐取者のプライバシーの保護のた
めなどとされております。
 このことからしますと、今回、強姦罪等を非親告罪化しようとする以上、こ
れと同様に、わいせつ目的または結婚目的の拐取に係る罪につきましても非親
告罪化するのが相当であると考えたところでございます。

○宮崎(政)委員 私も冒頭指摘させていただきましたとおり、親告罪である
ということの意味はプラスにもマイナスにも働く。だから、今後も、もちろん
被害に遭われた方の中にはさまざまな御見解の方がおられるので、刑事当局で
は被害者の方の心情を十分配慮していただきたいというふうに思っておりま
す。
 非親告罪化に関連して、法改正の前後での取り扱いについてお尋ねをしたい
と思います。
 今回の附則の二条二項では、改正法が施行される前の被害であったとして
も、原則として非親告罪化するとしています。まず、これがどういう趣旨であ
るのかということとあわせて、法改正前のものでも告訴がなくても処罰できる
という点で、例えば遡及的に被疑者、被告人に不利益になるという意味で罪刑
法定主義に反することはないのかどうか、御説明いただきたいと思います。

○林政府参考人 まず、趣旨でございますけれども、今般の強姦罪等の非親告
罪化、これは被害者の精神的負担の軽減のために行うものでございます。こう
いった趣旨、目的に鑑みますと、被害者の負担を軽減するためには、できる限
り広く非親告罪化することが適切であると考えられましたところから、今回の
法改正に際して、附則の二条二項により、原則として、改正法施行前の行為に
ついても非親告罪として取り扱うこととしたものでございます。
 そして、改正法施行の時点において将来的に告訴がされる可能性がある事件
につきましては、告訴がなされれば、公訴が提起され、有罪判決が出される可
能性があるものでありまして、これを非親告罪化したとしましてもその被疑
者、被告人の法律上の地位を著しく不安定にするものとは言えないことなどか
ら、改正法施行時に告訴がされる可能性があるものについては、改正法施行前
の行為を非親告罪として取り扱いましても、被疑者に不利益な改正法をさかの
ぼって適用するものではなく、罪刑法定主義等に反するものではないと考えて
いるところでございます。

○宮崎(政)委員 ありがとうございました。
 次に、被害者の方々への配慮に関する点についてお尋ねをしたいと思いま
す。
 被害に遭った方の中には、被害に遭った直後、警察に行くこともできなく
て、医療機関にだけ何とかやっと行くことができたという例も少なくないと思
います。こういった場合に、例えば体液であるとか髪の毛とか、そういう証拠
になるもの、証拠の保全について、これをしっかりやっていただくということ
がその後の適正な処罰のためには重要だと思います。
 まず、現状、こういったことについてどういった取り組みがされているの
か、警察当局に伺いたいと思います。

○高木政府参考人 警察庁におきましては、政府の犯罪被害者等基本計画に基
づきまして、医療機関における性犯罪証拠採取キットの試行整備を実施してい
るところでございます。
 これは、協力の得られる医療機関等に対して性犯罪証拠採取キットをあらか
じめ整備し、警察への届け出を行うかどうか迷っておられる性犯罪の被害者が
当該医療機関を受診した場合に、医師等が被害者の同意を得た上で身体等に付
着した証拠資料の採取等を行い、証拠資料の滅失や被害の潜在化の防止を図る
というものでございまして、現在、十四都道県に所在する二十一の医療機関
で試行しているところでございます。

○宮崎(政)委員 この第三次犯罪被害者等基本計画の推進は非常に重要であ
ります。これまで取り組みが十分でなかったと言わざるを得ない面もたくさん
あります。ワンストップ支援センターみたいなものをしっかりと政府挙げて支
援していくことは重要でありますので、ぜひ、今の答弁に納得しているという
わけではないんですけれども、引き続き、この計画に従って速やかに対処を進
めてもらいたい。これは各省庁にまたがる点でありますので、ぜひよろしくお
願いしたいと思います。
 同じ文脈で、法務当局はどういう取り組みをしているのか、刑事局長に伺い
ます。

○林政府参考人 法務当局といたしましては、やはり被害者の方々との関係で
捜査、公判というものを担っていくわけでございますので、こういった場合に
つきましては、まずは被害者とコミュニケーションを非常に密にいたしまし
て、被害者の心情に配慮した捜査、公判に努めていく必要があると考えており
ます。そういった場合には、関係者の名誉、プライバシー等の保護等について
は特に配慮しながら、捜査、公判の遂行に努めていく必要があると考えており
ます。

○宮崎(政)委員 また、被害に遭われた方々から、被害を届け出た事件が結
果不起訴になったけれども、十分説明を受けたとは思えない、到底納得できな
いという声も聞かれます。今回、刑法の改正を求める活動をされているさまざ
まな団体からもこういった趣旨の声を聞きました。
 こういった指摘に対して、刑事局長の御認識を聞きたいと思います。

○林政府参考人 今委員御指摘のような声につきましては、数年前からもこう
いった問題提起がなされておりまして、検察におきましても、こういった性犯
罪の被害者の捜査、公判に当たるに当たっては、犯罪被害者の希望に応じて、
関係者の名誉、プライバシー等の保護の要請に配慮しつつも、不起訴処分の内
容でありますとか理由を丁寧に説明して、被害者の方の気持ちにできるだけ応
えられるよう努める、こういった取り組みをこれまでもしてきたところでござ
います。検察の現場に対してのその旨の中央からの通知等も発出しているとこ
ろでございます。
 そういった中でも、不起訴になった理由を十分に説明してもらえなかった、
納得できなかったという点をやはりまだ聞くことがございますけれども、納得
できなかったかどうかというところはともかくといたしましても、理由を十分
に説明していないという声につきましては、やはりこれまでの取り組みにつき
ましては、さらにこれを、十分にこういった丁寧な説明、被害者の心情に配慮
した捜査、公判というものに対しての取り組みをさらに進めていきたいと考え
ております。

○宮崎(政)委員 これは先ほど質問したほかの質問とも共通するんですけれ
ども、やはりこの犯罪の性質を踏まえてみて、よくよく、その被害に遭われた
方、関係者の方の声を本当に丁寧に深く聞いてもらうことが必要な犯罪類型だ
と思います。そのことについて、今答弁をいただきましたけれども、さらにそ
の趣旨を各所に徹底していただく必要があると私は思います。それによってこ
ういった十分じゃないという声に応えた形での今回の法改正ということになる
と思いますので、ぜひ特段の取り組みを求めるものであります。
 裁判所にもお伺いしたいと思います。
 被害に遭われた方からは、公判段階でもプライバシーの保護だとか被害者へ
の配慮が不十分だという声はお聞きしております。
 今、例えば現行の刑訴法でも、二百九十条の二で被害者特定事項の秘匿の決
定をすることができますね。裁判で秘匿決定、これは、氏名とか住所とか、被
害者を特定する可能性のある事項について公判の手続において明らかにしない
ということでありますけれども、裁判の場で被害者の氏名を読み上げないとな
っているのに、裁判官や弁護人などが被害者の名前を読み上げる例があるとい
うことは巷間聞いているところであります。
 また、訴訟の中では証人尋問ということが行われるわけでありますけれど
も、この証人尋問で、事件そのものと関係がない、被害に遭われた方の過去の
性体験であるとか職業について質問してくるというようなことで、被害に遭わ
れた方からすれば言ってみれば二次被害に遭っているような状況であったり、
偏見に基づいた取り扱いがいまだにされるんだ、こういう声が上がっているこ
とは事実です。
 こういった指摘があることに対して、最高裁判所の認識を伺います。

○平木最高裁判所長官代理者 裁判所といたしましても、公判段階における被
害者への配慮は重要であると認識しております。被害者特定事項の秘匿決定が
なされた事案におきまして、被害者の氏名や住居が法廷で読み上げられるとい
うようなことはあってはならないことであると認識しております。
 また、証人尋問について申し上げますと、みだりに証人の名誉を害する事項
には及んではならないとされておりますので、このような規定に基づいて適切
に訴訟指揮をすることが重要であると認識しております。
 裁判所といたしましては、被害者に対する配慮につきまして、引き続き、法
の趣旨にのっとって適切な運用に努めてまいりたいと考えております。

○宮崎(政)委員 刑事裁判というのは峻厳なものであるべきだと私は思って
います。人が人を裁く、その場面で訴訟関係者が間違いを起こしてはやはりい
けないんだと思うんです。もちろん、人間ですから間違いはあるというのは当
然ですけれども、やはり刑事裁判の場でこういう間違いが起きてはいけないと
私は思います。それは刑事裁判だからです。
 だから、どうか、このようなことが二度と起きないように、ぜひ最高裁の方
から各地の裁判所に、今回の法改正に当たってそういった声が上げられて、国
会の議論の中で指摘があったということを伝えていただきたいと思いますし、
そういったことをしていただくことが、刑法を改正しようといって苦しい中か
らも今日まで取り組んでくださった多くの関係者の皆様の御労苦に応えること
だと思います。
 次に、裁判における氏名の秘匿ではなくて、起訴状の段階でそもそも被害者
の名前は書かない、この取り扱いについてお聞きをしたいと思います。
 性犯罪の被害に遭われた方の中には、当然のこととも言えますけれども、起
訴状では被害に遭った自分の名前は秘匿してほしい、被告人、犯人に自分の名
前は知られたくないと思うのが普通でしょう。
 しかしながら、昨年六月に、強制わいせつ致傷の事案で、起訴状に被害者の
氏名を書かずに起訴された事例について、公訴事実が、できる限り罪となるべ
き事実を特定したものではないとして、刑訴法二百五十六条三項ですけれど
も、法令違反になったという福岡高裁宮崎支部の判決がありました。
 裁判ですので、被告人側の防御権の問題もあるし、事案によってさまざまだ
とは思いますけれども、昨年五月に刑事訴訟法を改正する法律が成立しました
けれども、その附則の九条三項では、起訴状等における被害者の氏名の秘匿に
係る措置については、この刑訴法の改正法成立後検討を行うということも定め
られております。こういったことが累次の法改正でも今日に至るまでされてき
たことも事実であります。
 まず、刑事局長に、昨年の刑訴法改正後の起訴状等における被害者の氏名の
秘匿に係る措置の検討状況がどうなっているのか、御説明いただきたいと思い
ます。

○林政府参考人 委員御指摘の改正刑事訴訟法附則九条三項によります政府の
検討につきましては、現在、刑事手続に関する協議会というものを開催してお
ります。これは、最高裁判所法務省、日本弁護士連合会そして警察庁、こう
いった構成によりますものでございます。この刑事手続に関する協議会におき
まして、この起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置等の事項につき
ましても協議、意見交換を行っているところでございます。

○宮崎(政)委員 この検討は、多角的な検討が必要であることはよくわかり
ます。ただ、これまでも、被害に遭われた方、刑法の改正を求める運動を進め
てこられた方、さまざまな立場の方からの声が多数上がっておりますので、ぜ
ひ慎重かつ速やかな検討をしてもらいたいと私は思っております。
 当然、この問題の先にあるのは、では判決書をどうするんだという問題もあ
るわけでありまして、言ってみれば、先ほど申し上げたとおり、人が人を裁く
という刑事裁判の峻厳さと、そして、被害に遭われた方が被害から立ち直って
いって社会生活を営んでいただけるようにするための一助として、ここにかか
わる司法、法曹の関係者だけではなくて、全ての国民がここに真摯な目を向け
て、また温かい取り組みをしてこの困難な課題の解決に向けて取り組んでいか
ないといけないというふうに思っております。
 今回、明治四十年の刑法制定以来百十年たって、性犯罪に関する規定の改正
がされるわけでございます。どうか、こういった真摯な取り組みを、この国会
の審議、そして改正法を成立させていただいた後の全ての関係者の取り組みに
反映されることをお願い申し上げまして、質疑を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。

○鈴木委員長 次に、今野智博君。

○今野委員 自由民主党今野智博です。
 本日も法務委員会での質問の機会をいただきましたことを、心から感謝、御
礼申し上げます。
 既に、主な論点に関しまして、宮崎委員の方から大分詳しく、また多くの質
問がされております。私は、先ほどの質疑に関連した範囲内で、少し違った角
度から質問をさせていただきたいと思います。
 この刑法改正、強姦罪等の改正が主な改正となりますけれども、この間、多
くの被害者団体、各種団体の皆様から、私のところにも足しげく足を運んでい
ただき、さまざまな点について御指摘をいただきました。本当に示唆に富む内
容でありまして、今回の改正に多くの部分は反映されておりますけれども、ま
だ残念ながら反映されていない意見というものも数多くございます。
 そのような被害者団体、各種団体の皆様からのさまざまな声をいただいて、
私としては、きょうはそれを質問の中にできる限り反映させていければという
ふうに思っております。
 まず最初に、今回の改正、強姦罪の百七十七条、以前の条文でありますと、
「暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、」
というふうな規定が置かれております。それを今回の改正においては「十三歳
以上の者に対し、」ということで、まず行為の類型を広げるに当たって客体を
女子から者ということで、先ほどの質疑にもありましたとおり、男性にも被害
があり得るということを明確にしたということでございました。
 私がそれに関連してお聞きしたいのは、今、我が国においても、いわゆる性
的マイノリティーの方々、LGBTと言われるような方々は多数おられます。
そうした方々が例えば性転換手術によって人工的な膣あるいは陰茎を具有する
ようになった場合、今回の改正による強制性交等罪の客体あるいは主体となり
得るのかどうか。まず、これについて御答弁をお願いいたします。

○林政府参考人 強制性交等罪におきます性交とは、膣内に陰茎を入れる行為
をいいます。ここでいう陰茎、膣は、基本的には医学的な陰茎、膣を指すもの
と考えております。
 もっとも、強制性交等罪の保護法益が性的自由また性的自己決定権であるこ
とや、強制性交等罪において性交等を重く処罰する趣旨を踏まえますと、個別
の事案によりますけれども、性別適合手術により形成された陰茎または膣であ
りましても、生来の陰茎または膣と実質的に変わりがないということ、そうい
った認定ができる場合があり得ると考えております。具体的には、形状が生来
の陰茎または膣に近似しているかどうか、あるいは陰茎または膣としての実質
をどの程度有しているかなどの要素を勘案して判断されることになると考えら
れます。
 したがいまして、性別適合手術によって人工的に形成された陰茎や膣が生来
の陰茎または膣と実質的に変わりがないと言うことができる場合には、当該手
術によりそのような陰茎や膣を有するようになった方々、こういった方々は強
制性交等罪の客体または主体になり得ると考えております。

○今野委員 貴重な御答弁をいただきました。
 ただ、残念ながら、我が国においてこうした法改正をしてそれを広く周知し
ていくということがもちろん必要ではありますけれども、まだまだ性犯罪に関
しては被害の潜在化というところが拭い去れないわけであります。もちろん、
さまざまな事情があってそうした状況が生まれているということは私も承知し
ておりますけれども、その被害の潜在化がまた新たな被害を生んでいく。性的
な犯罪者に関しては常習性が薬物事案並みにあるのではないかというような話
もされておりますけれども、そうした常習的な犯罪者によって新たな性被害者
が生まれていく、それを食いとめるためにも、潜在化を防止して、処罰をきち
っと適正に与えていく、そうした体制が必要であるというふうに私は思ってお
ります。
 今回の改正によって男性も被害者、客体となる、そしてまたLGBTの方々
も被害の主体、客体としてみなされる。ただ、そういう人たちに関しての被害
に遭った場合の相談窓口などは、恐らく今までは女性を中心とした窓口の支援
体制がとられてきたのではないかなと思います。
 今回の改正に当たって、あるいは以前からもそうした事態があると思います
けれども、相談窓口などの支援体制はどのようになっているのか、教えていた
だけますでしょうか。

○高木政府参考人 警察におきましては、各都道府県警察にそれぞれ性犯罪専
門の相談窓口等を設けているところでございまして、御指摘のありました新た
な対象の方々につきましても、そういったところで適切に対応してまいりたい
と考えております。

○今野委員 ぜひ、人員の配置も含めて、より細やかな配慮ができるような相
談体制をとっていただきたいというふうに思います。
 それで、先ほど宮崎委員の質疑の中にも出ておりました犯罪の被害の潜在化
というところにも絡むんですけれども、被害者が被害に遭った場合に当然警察
にまず相談に行く。今回、親告罪非親告罪としたということは一つ前進だと
思いますけれども、先ほど刑事局長の答弁の中にも、被害に遭われた方の名
誉、プライバシー等の保護に十分配慮した捜査、公判の進め方ということが出
ておりました。
 まずは、被害に遭われた方からすれば、その被害を外部に知られたくない、
あるいは犯罪者から逆恨みされるのが恐ろしいというようなことも被害申告を
ためらわせる要因ではもちろんありますけれども、私は、それだけではなく
て、捜査、公判ということを踏まえた場合、どうしても被害者から詳細な供述
を得なければいけない、それがやはり我が国の捜査の基本であると思います。
ですから、その段階で、物すごくつらい記憶、経験を繰り返し繰り返し捜査側
に供述しなければいけない、当時の記憶をまた呼び起こさなければいけない、
それはかなり心理的にも負担になるだろうと容易に想像されるわけでありま
す。
 その点に関して、先ほどの被害の潜在化を防止するという観点からしても、
いかにしてこれを軽減できるか。とりわけ、年少者の方々にとってはそうした
ものを繰り返し繰り返し供述するというのは一般成人から比べてもかなり負担
になるだろうと思います。そうした負担をいかに捜査機関の側で軽減できるの
か。今までの対策も含めて、あるいはこれからどのような負担軽減策をとって
いくのかについて、少し教えていただければと思います。

○高木政府参考人 御指摘にもありましたように、性犯罪事件捜査に当たりま
しては、二次的被害をできるだけ生じさせないよう心がけるとともに、捜査に
伴って発生する負担をできる限り小さくするよう心がけるといったことが非常
に重要であるというふうに認識しております。
 こうした中、特に児童の性犯罪被害の場合につきましては、警察、検察とい
った捜査機関のほか、児童相談所においても聴取を行うといったことがあるた
め、警察庁におきましては平成二十七年十月に検察及び児童相談所との連携強
化について通達を発出したところでございまして、具体的には、警察におきま
しては、児童を被害者等とする事案を認知した際には、検察、児童相談所との
早期の情報共有を行った上で、対応方針を相互に検討いたしまして、例えば代
表者による聴取を行うなどの取り組みを通じまして、児童の負担軽減と供述の
信用性の担保の双方に資する形の事情聴取を実施するよう努めているところで
ございます。

○今野委員 ワンストップ支援体制という話も出ておりましたけれども、そう
した負担をいかにこれから軽減していけるか。そうした地道な捜査機関の運
用、取り組みが、被害の潜在化を防止する上では大きな要素になってくるんだ
ろうというふうに思います。
 最後、ちょっと時間がなくなってきたので、今回新たに新設される監護者等
の規定。監護者が影響力に乗じてわいせつ行為をすることを防止するというこ
とで新たな規定が設けられたところでございます。
 私は、監護者の定義とか意義とかは恐らくこの後に吉田先生が詳しくやって
いただけると思うんですけれども、一つちょっと気になっているのが、監護者
ではない人がただ立場上被害者となる方に影響力を行使できる事例というの
は、この社会の中で数多く考えられる話だと思います。例えば、何かスポーツ
の指導者ですとかあるいは宗教の教祖とか、そういった方々が対象者に対して
かなり強い影響力を行使できる、その影響力があるがために被害者が抵抗でき
ないということも当然想定されるわけでありまして、今回、主体に対して監護
者等といった限定を設けたがために、監護者に当たらない人たちが影響力に乗
じてわいせつ行為等をした場合に、不当にその処罰のすき間、間隙が生まれて
しまっているのではないかということを私は何となく懸念しております。
 そこに関して、間隙が生じているのか、いないのかというところを含めて御
答弁をいただければと思います。

○林政府参考人 委員御指摘のとおり、例えばスポーツのコーチなど、監護者
ではないということを前提として、その監護者でないという者が十八歳未満の
者に対して実際有している影響力に乗じて例えばわいせつな行為をした場合で
ありましても、今回の監護者わいせつ罪等には該当しないわけでございます。
 もっとも、現行法におきましても、直接であると間接であるとを問わず、十
八歳未満の児童に対しまして事実上の影響力を及ぼして児童に淫行させた場
合、これについては法定刑が懲役十年以下の児童福祉法違反というものが成立
するわけでございます。また、被害者が、抗拒不能すなわち心神喪失以外の理
由で、社会一般の常識に照らして、具体的な事情のもとで、物理的、身体的あ
るいは心理的、精神的に抵抗できないか、または抵抗することが著しく困難な
状態にある、こういったことの状況に乗じて性的な行為に及んだ場合には、準
強制わいせつ罪や準強制性交等罪が成立することになります。
 したがいまして、そのような児童福祉法違反でありますとか準強制わいせつ
罪、準強制性交等罪において処罰されるということはあるわけでございまし
て、実際に、裁判例といたしましても、高校のソフトボール部の顧問兼監督が
抵抗しない女子部員に対して脱衣を命じて行ったわいせつな行為、こういった
ものについては、心理的に抵抗することが著しく困難で抗拒不能の状態で行わ
れたとして、準強制わいせつ罪が認められた事案もあるところでございます。

○今野委員 現行の条文においてもそうした対応が可能だということで御答弁
をいただきました。ぜひ、不当に処罰の間隙が生じることがないように、適切
にこれを運用していただきたいと思います。
 社会は今、目まぐるしく変わっておりまして、特にこうした性犯罪の関係に
おきましても、法改正がなかなかその実態に追いついていかない。私はこれは
不断の見直しが恐らく必要な分野であろうというふうに思っております。
 今回の改正を受けて、まずは捜査当局、捜査機関においてその趣旨をしっか
り周知徹底して、本当に被害者の気持ちに寄り添いながら、被害の潜在化を防
いで、犯罪者に対して的確に処罰していくという体制を運用の中でしっかり心
がけていただきたいということをお願い申し上げまして、質問を終わらせてい
ただきます。
 本日はありがとうございました。

○鈴木委員長 次に、吉田宣弘君。

○吉田(宣)委員 おはようございます。公明党の吉田宣弘でございます。
 本日も質問の機会を賜りましたこと、心から感謝を申し上げます。
 今般の刑法の一部を改正する法律案について、これは百十年ぶりのいわゆる
性犯罪の規定の改正であるというふうにお聞きをしております。
 性犯罪の被害者の方から、被害者にも責任があるんじゃないかというふうな
社会的風潮に対する懸念の声に触れさせていただきました。私は、性犯罪とい
うものは一〇〇%加害者が悪いんだ、被害者には全く責任がないんだ、そうい
った社会的理解に向けた大切な第一歩であろうと、今般の改正の意義を重く受
けとめております。
 この質問に臨ませていただくに当たりまして、被害者団体の皆様に数多くの
御示唆を賜りましたこと、深く感謝と敬意を申し上げて、質問に入らせていた
だきたいと思います。
 まず、強制性交等罪について御質問いたします。先ほどの宮崎先生の質問に
もございましたけれども、大切な点なので、私からも確認の意味を込めて質問
させていただきます。
 本罪の成立には、従前のとおり、反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行、
脅迫が必要であると構成要件上明記されている。この点、先日の我が党の國重
理事の代表質問にありましたとおり、被害者団体の皆様からは、抵抗できなか
ったがゆえに暴行、脅迫が認定されなかった、また、被害に直面した際に生じ
る生理的反応や心理状況が理解されていない、そのような御指摘があったとこ
ろでございます。
 そこで、この暴行、脅迫の認定に当たっては、被害者が拒否できなかった事
実をしっかり前提に踏まえて、なぜ拒否できなかったのか、被害者の心理的
況と行為すなわち加害者の行為との関係において総合的に評価していかなけれ
ばならないと私は考えておりますけれども、まず、この暴行、脅迫の認定のあ
り方について刑事局長から所見を伺いたいと思います。

○林政府参考人 強姦罪等における暴行または脅迫につきましては、判例上、
反抗を著しく困難ならしめる程度のものであれば足り、そうした程度のもので
あるかどうかにつきましては、被害者の年齢、精神状態、行為の場所、時間等
諸般の事情を考慮して判断されるべきものと解されております。具体的な状況
によっては、単にそれのみを取り上げた場合、そして観察した場合には反抗を
著しく困難ならしめる程度には達しないと認められるものでありましても、行
為の時間、場所、被害者の精神状態、年齢等によりましては反抗を著しく困難
ならしめる程度の暴行、脅迫が認められ得ると考えているところでございま
す。

○吉田(宣)委員 暴行、脅迫の形態はさまざまあろうかと思うんですね。暴
行というと有形力の行使、脅迫というと何か相手方を威圧するような言動とい
うことになるのかもしれませんけれども、例えば、被害者の立場に立ってみれ
ば、さまざまな状況があるかもしれませんけれども、加害者からにらみつけら
れただけでも、これは著しく抵抗できないというふうな状況に陥ることもあろ
うかと思います。
 そういった被害者心理というものをやはりしっかり、これは調査研究を踏ま
えていただきたいと思っておりますし、先日の國重理事の代表質問の主張にも
ありましたけれども、被害者の心理状況などについてしっかり調査研究という
ものを進めていただきまして、検察官、裁判官の研修にコミットしていってい
ただきたいことを私からも申し上げておきたいと思います。
 次に、監護者わいせつ罪、監護者性交等罪についてお聞きをしたいと思いま
す。構成要件の中身をお聞きしたいと思いますので、よろしくお願いいたしま
す。
 まず、この犯罪のいわゆる創設の背景についてお聞きしたいんですけれど
も、親子間における性的虐待について現状把握をしている実態や、その処罰の
状況について、前提として刑事局長からお聞かせいただきたいと思います。

○林政府参考人 親子間の性的虐待事案の実態を把握しているところについて
申し上げますと、例えば、実の親あるいは養親等の監護者による十八歳未満に
対する性交等が継続的に繰り返されて、監護者と性交等をすることが日常的な
ことになってしまっていたり、さらには、監護者の日ごろの言動等によりまし
て、十八歳未満の者が、監護者と性交等をすることが当たり前のことである、
このように思い込んでしまっているといったようなことなど、こういった場合
がございまして、事件として日時、場所等が特定できる性交等の場面だけを見
ますと、これが暴行、脅迫などを用いることなく、また抗拒不能にも当たらな
いといった事態であるけれども、実際には十八歳未満の性的自由を侵害して性
交等が行われている、こういった事案が存在するものと承知しております。
 こういった事案については、現行法の強姦罪準強姦罪により対処すること
が困難な場合が多くて、法定刑がより軽い児童福祉法違反等で処理されている
実情が認められると承知しております。
 当局で把握した限りにおきまして言いますれば、平成二十五年、平成二十六
年に起訴された事件または第一審の判決宣告があった事件のうちで、親子間に
おける姦淫行為を伴う事案の適用罪名について見ますと、強姦罪または準強姦
罪が二十四件、児童福祉法違反が四十三件、条例違反が三件ということでござ
いました。

○吉田(宣)委員 この犯罪の被害者は十八歳未満の未成年ということでござ
います。先ほど刑事局長からのお話にもあったとおり、自分が被害に遭ってい
ることを精神的な未成熟さゆえに十分把握できないというところについて、こ
れは犯罪なんだということを明らかにすることによって保護していかなければ
いけないということなんだろうと思っております。
 そのような今の刑事局長のお話にあった処罰の状況の現状も踏まえて今回の
監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設するというふうに理解しておりま
すけれども、これらの罪を新設する趣旨について改めて確認させていただけれ
ばと思います。

○林政府参考人 先ほど御紹介させていただきましたが、親子間の性的虐待
案については法定刑がより軽い児童福祉法違反等で処理されている実情が認め
られます。
 しかし、一般に、十八歳未満の者は、精神的に未熟である上に、生活全般に
わたって自己を監督し、保護している監護者に精神的にも経済的にも依存して
おるわけでございまして、監護者がそのような依存、被依存ないし保護、被保
護の関係により生ずる監護者であることの影響力があることに乗じて性交等を
することは、強制性交等罪と同じく、これらの者の性的な自由、性的自己決定
権を侵害するものであると考えられます。
 そこで、このような行為類型については強制性交等罪等と同等の悪質性、当
罰性が認められると考えたことから、今回新たに犯罪類型として監護者性交等
罪及び監護者わいせつ罪を設けて、強制性交等罪などと同様に処罰することと
したものでございます。

○吉田(宣)委員 ありがとうございます。
 その趣旨を踏まえて、これから構成要件の中身を少しお聞きしたいと思いま
す。
 まず、構成要件にある現に監護する者の意義について教えてください。

○林政府参考人 今回の法において監護するというのは、民法八百二十条に親
権の効力と定められているところと同様に監督し、保護することをいいまし
て、十八歳未満の者を現に監護する者とは、十八歳未満の者を現に監督し、保
護している者をいいます。
 本罪の現に監護する者に当たるか否かは個別の事案における具体的な事実関
係によって判断されることとなりますが、民法における監護の概念に照らしま
して、現にその者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点でありま
すとか生活上の指導監督などの精神的な観点、このようなものから依存、被依
存ないし保護、被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められ
るということが必要であると考えております。

○吉田(宣)委員 今、継続性というキーワードが一つ示されたかと思いま
す。
 次に、同じく構成要件で、今度は、現に監護する者であることによる影響力
という文言がございます。この意義について、刑事局長からまたお教えいただ
ければと思います。

○林政府参考人 監護者わいせつ罪及び監護者強制性交等罪における影響力と
は、人の意思決定に何らかの作用を及ぼし得る力をいいます。
 その上で、現に監護する者であることによる影響力とは、監護者が被監護者
の生活全般にわたりまして、衣食住などの経済的な観点や生活上の指導監督な
どの精神的観点から、現に被監護者を監督し、保護することにより生ずる影響
力のことをいいます。
 したがいまして、本罪の現に監護する者であることによる影響力といいます
のは、ある特定の場面における特定の行為に関する意思決定に直接かかわるも
のに限るものではありませんで、意思決定を行う前提となる人格、倫理観、価
値観等の形成過程を含めまして、一般的かつ継続的に被監護者の意思決定に作
用を及ぼし得る力に含まれていると考えております。

○吉田(宣)委員 現に監護する者であることの影響力を今お話しいただきま
したけれども、構成要件はさらに、影響力があることに乗じてと規定されてお
ります。この規定の意義について、加えて御説明いただければと思います。

○林政府参考人 乗じてとの用語でございますが、先ほど答弁いたしました現
に監護する者であることによる影響力が一般的に存在し、当該行為時において
も、その影響力を及ぼしている状態で性的行為を行うということを意味しま
す。
 すなわち、性的行為を行う特定の場面におきまして、監護者からこの影響力
を利用する具体的な行為がない場合でありましても、このような一般的かつ継
続的な影響力を及ぼしている状態であれば、被監護者にとっては監護者の存在
を離れて自由な意思決定ができない状態であると言えます。
 その上で、被監護者である十八歳未満の者を現に監護し、保護している立場
にある者がこのような影響力を及ぼしている状態で当該十八歳未満の者に対し
て性的行為をすることは、それ自体が被監護者にとって当該影響力により被監
護者が監護者の存在を離れて自由な意思決定ができない状態に乗じていること
にほかならないと言えます。
 よって、乗じてと言えるためには、性的行為に及ぶ特定の場面において影響
力を利用するための具体的な行為は必要なく、影響力を及ぼしている状態で行
ったということで足りると考えております。

○吉田(宣)委員 状態で足りるということでございました。
 次に、今野先生の質問とも関連また重複するかもしれませんけれども、私か
らも改めてお聞かせいただきたいのは、今の刑事局長からの御説明で構成要件
というものは改めて明確にはなっていると思っておりますが、その上で、十八
歳未満の者に対する影響力を及ぼす立場の者としては、これは監護者だけに限
った話ではなくて、学校の先生であったりスポーツのコーチの方であったり、
そういった方もいるんだろうと思います。これらの者については処罰の範囲と
はなっていないというふうに今の刑事局長からの御説明で私は理解をしており
ますけれども、この点、改正が不十分ではないかという御意見もありまして、
私自身もそういったお話を直接聞く機会がありました。
 法務省の見解についてお聞かせをいただければと思います。

○林政府参考人 委員御指摘のように、監護者性交等罪の監護者の範囲に限定
するものでは処罰対象として不十分ではないか、こういう意見があることは十
分に承知しております。
 その上で、今回、例えばスポーツのコーチでありますとかあるいは教師な
ど、こういった者についてはやはり通常は、生徒等との間に生活全般にわたる
依存、被依存ないし保護、被保護の関係が認められないことから、現に監護す
る者に当たらない場合が多いと考えております。
 現に監護する者以外の者につきましては、十八歳未満の者が生活全般にわた
って精神的、経済的に依存しているとは言えないわけでございますので、この
者に対する影響力も、監護者による影響力の場合とは異なりまして、十八歳未
満の者において、その者の言動の当否等を適切に判断することが常に期待しが
たい、こういった状態に常にあるとは言えないわけでございます。また、その
者の力が及ばない状態で精神的、経済的に自立して生活することが常に困難で
ある、こういった形で類型的に捉えることもちょっと困難な事案であろうかと
思います。
 そうしますと、今回の法案での主体の範囲を現に監護する者以外の者にも拡
張していく場合には、これは被害者の同意の有無を問わない構成要件であると
することは相当ではなくて、結局、行為者と被害者との関係、具体的な影響力
の内容や程度、被害者の同意の有無や意思決定の過程などを考慮した構成要件
をつくらざるを得なくなります。個別の事案ごとに、こういったものについて
は、さらに行為者の故意というものも必要となってくるわけでございます。
 こういった構成要件を考えた場合に、結局、監護者性交等罪を設けることに
よって対処しようとする事案については、基本的に個別の具体的な事案ごとに
立証が求められるわけでございまして、逆に、類型的な今回のような監護者に
限った形の構成要件ではなく、個別にその被害者の同意があるかないかなどと
いったものを構成要件に組み込んだような構成要件を考えますと、それは立証
することがかえって困難になるということも考えられます。そういったことを
しますと、本罪を創設していく趣旨というものについても結果的には合致しな
いことになるのではないかと考えられるわけでございます。
 そこで、今回の改正案では主体を現に監護する者に限定することとしまし
て、その場合には被害者の同意の有無を問わないというような構成要件として
監護者性交等罪を創設する、これをもって、性犯罪の実態というものに即した
対応をこのような形で行おうとしたものでございます。

○吉田(宣)委員 構成要件の機能であったり、また立証であったりというふ
うな技術的な側面というのは今私も半分ぐらいは理解をしたところであります
が、釈然としないところは少し残るかというふうな気がしておりますので、そ
ういった意味においては、今後も法務省においてはしっかり検討は継続をして
いっていただきたいなというふうに思います。
 以上、刑事局長に構成要件についての細かな中身について確認をさせていた
だきましたが、これ以降は法務省以外の省庁にもぜひお話をお聞かせいただけ
ればと思っております。
 昨年の十二月に、与党の性犯罪・性暴力被害者支援体制に関するPTという
会から「性犯罪・性暴力被害根絶のための十の提言」というものを申し入れさ
せていただいております。この申し入れは、性犯罪、性暴力は、被害者にとっ
て身体面のみならず精神的にも長期にわたる傷跡を残す重大な犯罪であり、許
すことができない、加害者への厳正な対処及び性犯罪、性暴力被害者の支援は
極めて重要な課題であるとの認識のもと、申し入れをさせていただいたところ
でございます。
 以下、この申し入れも踏まえた形で数点質問をさせていただきたいと思いま
すので、よろしくお願いしたいと思います。
 監護者わいせつそれから監護者性交等罪の被害者が十八歳未満であるという
ことは明らかでございますけれども、捜査、公判にわたって未成年者の特性に
応じた配慮というのはやはり重要になってくるのであろうと思っております。
 この点、先日の國重理事の代表質問に対し、金田大臣から、済みません、少
し飛ばすところもありますが、児童相談所、警察及び検察の三者間において協
議し、いずれかが代表して聴取を行って被害者の負担を軽減するなど、監護者
性交等罪の被害者につきましてもこのような取り組みが一層推進されるという
ふうな答弁をいただいたところでございます。
 未成年者に最大限配慮した刑事手続の運用というものはぜひお願いをしたい
ところでございますけれども、本罪の被害者たる未成年は身体的にも精神的に
も、また精神的な未成熟さゆえに深い傷を負っているということは想像にかた
くないのであろうと私は思っております。
 その意味におきましては、刑事手続における配慮以外にも、刑事手続外の部
分について、例えば医療であったり心理的なケアであったり、そういったもの
が必要になってくるというふうに私は思っております。
 そこで、改めてお聞きしたいのは、刑事手続外のケアについて、警察庁並び
厚生労働省から御説明をいただければと思います。

○西川政府参考人 お答え申し上げます。
 性犯罪は、被害者の尊厳を踏みにじり、身体的のみならず精神的にも極めて
重い被害を与えるものでございます。監護者わいせつ罪、監護者性交等罪の被
害者は、中長期にわたり心身に有害な影響を受けるおそれが極めて高いことか
ら、そのケアは大変重要であると認識しております。
 昨年四月に策定されました第三次犯罪被害者等基本計画におきまして、未成
年の性犯罪被害者を含む犯罪被害者等の精神的、身体的ケアに関する取り組み
が盛り込まれております。具体的には、警察における性犯罪被害者に対するカ
ウンセリングの充実、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー
の配置による学校におけるカウンセリング体制の充実及び関係機関との積極的
な連携促進、児童虐待の被害者等の保護に関する警察及び児童相談所等の連
携、精神保健福祉センターにおける犯罪被害者等に対する心の健康回復のため
の支援等の施策が盛り込まれております。
 警察庁といたしましては、第三次基本計画に基づきまして、引き続き、関係
機関、団体等と連携し、未成年の性犯罪被害者を含む犯罪被害者等の精神的、
身体的ケアに関する取り組みを推進してまいる所存でございます。
 以上であります。

○山本政府参考人 お答え申し上げます。
 議員御指摘のとおり、性犯罪の被害者は心や体に深い傷を負っており、被害
を受けた児童に対しては児童相談所などの関係機関において適切な支援が行わ
れるようにすることが重要と考えております。
 このため、性犯罪の被害児童に対しては、児童相談所において、安全確保が
必要な場合に児童の一時保護を行っております。また、これに加えまして、被
害児童の身体的、心理的なケアを行うため、児童心理司によるカウンセリン
グ、それから専門的な医療的ケアのための医療機関受診に関する援助などの支
援を実施しております。
 また、国におきましては、「子ども虐待対応の手引き」において、性的虐待
を受けた児童に対するケアについて留意しなければいけない事項について取り
まとめ、自治体に周知しております。
 こうした従来からの取り組みに加えまして、昨年五月に成立した改正児童福
祉法において、児童心理司等の専門職の配置を新たに法律に位置づけるととも
に、昨年四月に策定した児童相談所強化プランに基づき、児童心理司等の専門
職を平成三十一年度までの四年間で一千百二十人増員することを目指すなど、
児童相談所の体制強化を図っているところでございます。
 今後とも、性犯罪の被害児童への支援を適切に行うとともに、児童相談所
体制や専門性を着実かつ計画的に強化していきたいと考えております。

○吉田(宣)委員 きめ細やかな対応をお願いしたいし、また警察と厚生労働
省はやはりしっかり連携をとっていただいて、未成年者に対するケアというも
のに全力を挙げていただきたいとお願いしたいと思います。
 加えまして、私は、重大な心身にわたる傷を負った被害者というのは、あっ
てはならぬのですけれども、やはり自殺に追い込まれてしまう場合というもの
があるのではなかろうかと思っております。私に示唆を与えていただいた被害
者団体の方の著作にも、そのような、自殺に駆り立てるような苦しい心の思い
を読ませていただきました。私は、被害者の方が思い、苦しみ、最終的にみず
からの命を絶ってしまうような事態というのは絶対にあってはならないことだ
と思いますし、そういった意味においては自殺対策というものが極めて重要で
あろうと思っております。
 その上で、性暴力被害者支援と自殺防止対策事業との関連をぜひ強化してい
ただきたく、強く要望させていただきたいと思いますけれども、厚生労働省
ら受けとめをお聞かせいただければと思います。

○中井川政府参考人 お答え申し上げます。
 性犯罪や性暴力の被害を受けた方の中には、自殺を図るおそれのある方もい
らっしゃるため、御指摘のとおり、被害者支援と自殺対策との連携は非常に重
要であると考えているところでございます。
 政府の自殺対策の指針でございます自殺総合対策大綱の見直しに向けた有識
者による検討会の報告書、これは去る五月十五日に報告をいただいたわけでご
ざいますが、その報告書におきましても性犯罪、性暴力の被害者支援のさらな
る充実が必要とされておりまして、こういった支援を進めていきたいと考えて
いるところでございます。
 具体的には、例えばいわゆるいのちの電話として電話相談を行う民間支援団
体による相談支援を引き続き後押ししていくこと、それからもう一つは、現
在、福祉、医療などの従事者を対象に、性暴力被害者に対しPTSD等に対応
した専門的な心のケアを行えるよう研修を実施しているところでございますの
で、自殺対策の現場におきましてもこうしたスタッフも活用していく、こうい
うことによりまして自殺対策の観点からも性暴力被害者に寄り添った相談支援
等の充実を図ってまいりたい、かように考えている次第でございます。

○吉田(宣)委員 さまざま進んでいることとお聞かせいただきました。しっ
かり、ただでさえ苦しい思いをされている方がみずから命を絶つことなきよ
う、ぜひ寄り添っていただければと思います。
 済みません、話の流れからして、もう一度この法律の側面に戻らせていただ
きますけれども、私からもちょっとお聞かせいただきたいのは非親告罪化につ
いてでございます。
 親告罪というのはそもそも起訴の適否を被害者の意思に係らしめる制度であ
ると承知しているところでございますが、これを非親告罪化するということ
は、被害者の意思にかかわらず起訴できるような制度に変えるということであ
ると承知しております。
 しかし、さまざま先ほどから御説明もありましたけれども、非親告罪化する
意義も私も十分承知はしておりますけれども、一方で、自分の意思に反して事
件が公になってしまうということを恐れる被害者の思いにもやはり寄り添わな
ければならないと思っております。
 その上で、先日の國重理事の代表質問に対する金田大臣の御答弁にも、事件
の処分等に当たって被害者のプライバシーや心情に配慮することが重要である
と認識をしていただいているということで、検察当局においてもこれまでも被
害者の意思を丁寧に確認するなどしてきたものと承知しておりますが、性犯罪
非親告罪化された後においても今回の改正の趣旨を踏まえて一層の配慮に努
めるというふうにお話ししていただいております。
 その上で、今の大臣の御答弁にありました中身から、私はさまざまな配慮が
されているということはよくわかるところでございますけれども、では具体的
にどういうことが現状なされているのかについて、御説明をいただければと思
います。

○林政府参考人 刑事手続における被害者のプライバシーまた名誉を保護する
ための方策あるいは負担を軽減するためのものについては、現在、制度として
幾つかのものがございます。
 公開法廷における被害者特定事項の秘匿、証拠開示の際の証人等の安全につ
いての配慮、あるいは証人尋問の際の付き添い、遮蔽、ビデオリンク方式によ
る証人尋問、こういった制度がございます。また、運用といたしましても、現
在、起訴状における記載方法についての配慮、あるいは証拠開示をする場合に
一定部分をマスキングして証拠開示をする、こういったようなことを運用とし
ても行っているわけでございます。こういったことを十分に活用することによ
ってその被害者のプライバシー、名誉を保護するということを行っておりま
す。
 また、被害者との関係におきましては、当然、捜査、公判に当たりまして被
害者と十分にコミュニケーションをとって、被害者の心情に配慮した捜査、公
判活動をしなくてはいけないわけでございますが、そういったコミュニケーシ
ョンをとっている際においてもこういった制度があるということについては十
分に御説明しないといけないと考えております。
 そういったことも含めて、これは非親告罪であった性犯罪においてもこれま
で当然のように行っていることでございますが、今回の全体が非親告罪化され
るということにつきましては、こういった被害者への配慮というものもさらに
十分に進めていかなくてはいけないと考えております。

○吉田(宣)委員 本法案の成立を機に、より一層進めていただきたいという
ふうにお願いしたいと思います。
 次に、性犯罪というものは潜在化しやすい傾向があることは皆様御承知のと
おりだと思います。したがって、犯罪被害の暗数も極めて大きいという意味か
らすれば、実態を把握するのはなかなか難しい状況でもあるんだろうと思いま
すが、対策を打つためにはこの実態調査というものがやはり前提として極めて
重要であると思っております。本法案の成立を踏まえれば、男性や性的マイノ
リティーの方々も含めた性犯罪、性暴力被害の実態をより正確に把握していか
なければいけないというふうに思っております。
 調査の対象や調査項目をこの法律の成立を機にやはり拡充していっていただ
きたいというふうに思っておりますけれども、政府の側から御所見をいただけ
ればと思います。

○大塚政府参考人 お答えいたします。
 実態調査の件でございますが、内閣府では男女間における暴力に関する調査
をこれまで三年に一度実施しておりまして、これまでの調査の中では、本人の
意に反して異性から無理やりに性交された経験という問いにつきまして、これ
は女性を対象にこれまでは調査を行ってきたところでございます。
 この調査は新たなものを本年度実施することにしておりまして、その実施に
当たりましては、本改正法案の趣旨も踏まえまして、調査対象あるいは調査項
目について所要の見直しを行うなど、今後、引き続き、性犯罪、性暴力被害に
つきましてその実態把握に努めるとともに、被害者支援の充実に取り組んでま
いりたい、かように考えております。

○吉田(宣)委員 よろしくお願いしたいと思います。
 最後に、性犯罪のワンストップ相談センターの設置について、お願いという
形で質問させていただきたいと思います。
 私は地元が福岡県でございますが、福岡県はワンストップ相談センターが設
置されております。特色がありまして、センターがどこにあるのか誰も知らな
いんです。電話番号だけしか明らかにされていない。ということは何を意味す
るかというと、徹底的に秘密を守れる体制が組まれている。その上で、そこに
電話をすれば、警察にも弁護士にも、また医療機関などにもきちっと連携がと
れるような体制をとられております。
 私は、初当選直後の予算委員会の第一分科会において、このワンストップセ
ンター、当時、九州では福岡県と熊本県、それから沖縄にもあったんですけれ
ども、それ以外の県にはありませんでした。そのことを踏まえて、ぜひこのワ
ンストップセンターというのを最低でも各都道府県に一つずつはつくっていた
だきたいというお願いをさせていただいたところでございますけれども、政府
の皆様と各自治体の御努力もいただきまして、九州では各県に一つでき上がっ
ております。
 ただ、先日お話を伺ったところ、まだ全ての県には整っていないということ
でございますが、このワンストップ支援センターをぜひ各県に一つつくるよう
にしっかり政府として後押ししていただきたいと思っておりますし、第四次男
女共同参画基本計画の中にも平成三十二年を目途に頑張るというふうなことが
書いてありますけれども、これはぜひ前倒ししていただいてやっていただきた
いと思います。
 あわせまして、暗数が多い性被害の方々、警察に被害を相談できない方に対
するケアというものも私は大切だと思っております。そういった点についても
しっかり国として各都道府県をバックアップしていただきたいと思いますけれ
ども、受けとめをお聞かせいただければと思います。

○大塚政府参考人 お答えいたします。
 お尋ねのワンストップ支援センター、第四次の基本計画で平成三十二年度ま
でに各都道府県に最低一カ所という成果目標を掲げました。これは現在三十八
都道府県に設置というところまで来たわけでございます。昨年十二月の与党の
提言もいただきましたので、できるだけ早期設置を目指していく、加えて、設
置したセンターの安定的な運営を図るという意味から、今年度予算に初めて性
犯罪、性暴力被害者の支援交付金を計上させていただいたところでございま
す。
 この交付金によりまして、具体的には、相談員の人件費等の運営経費ですと
か、委員御指摘のありました、やむを得ない事情によりまして警察に相談でき
ない被害者の医療費あるいはカウンセリング費用といったものにつきましても
この交付金の対象といたしまして、都道府県を財政的に支援することとしたと
ころでございます。
 この交付金を活用していただきまして、御指摘のございました全都道府県で
できるだけ早期に設置していただき、かつ安定的な運営を図っていただく、加
えまして関係機関ともきちっと連携して、今後とも、引き続き、地域のいろい
ろな実情に応じました被害者支援の充実に取り組んでまいりたいと考えており
ます。

○吉田(宣)委員 終わります。

○鈴木委員長 次に、井出庸生君。

○井出委員 民進党、信州長野の井出庸生です。
 冒頭、先週の金曜日、本会議で性犯罪の刑法改正の審議が始まり、きょうが
事実上最初の質疑の日であるにもかかわらず、本日をもって議論が終局し、採
決に至るというこの運びについて強く抗議を申し上げます。
 ことしの先月二十九日、性暴力禁止法をつくろうネットワーク、こうしたさ
まざまな活動をされてきた皆さんからも緊急声明が出ております。緊急声明に
は、刑法性犯罪の改正よりも共謀罪の審議が与党の合意によって先行されたこ
とについての深い憤り、その上で、刑法の改正を放置することは許されない
と。そしてまた同時に、一方で、この改正案には強姦罪の暴行、脅迫要件の緩
和等数々の積み残された論点があり、審議に当たっては当事者の声に耳を傾
け、改正案に盛り込まれなかった論点も含め十分に議論することを強く求める
とあります。
 私は、ここまで、当事者の方の声を、当委員会に参考人として来ていただい
て、御意見をいただきたいということを申し上げてまいりました。しかし、そ
の一方で、残念ながら、昨日の理事会では、私のそのような発言に対して、そ
れではこの法案の早期改正というものを諦めることに等しいというような発言
があり、断じてその発言は認められない。
 私は、性犯罪刑法の改正の早期の実現と慎重審議、その両方をこれまで訴え
てきたつもりでございます。そこは委員長もおわかりいただいていると思いま
すが、一言いただきたいと思います。

○鈴木委員長 重く受けとめております。

○井出委員 その上で、質問に入ってまいりたいと思います。
 今回、被害当事者の方々が、与党、野党を超えて一年以上にわたる活動をこ
こまでされてまいりました。そのことについては、先日の本会議でも申し上げ
ましたが、深く感謝を申し上げます。
 大臣にお伺いしますが、当事者の方と直接会話をされて、そうした皆さんの
声を直接聞かれた機会はこれまであったかどうか、伺います。

○金田国務大臣 井出委員の御質問にお答えいたします。
 そういう機会を持って、お話を伺ったことはございます。

○井出委員 実際にお話をされたと。私も、少ない回数ではありますが、そう
した方々とお話をさせていただきました。
 また、きょう、本を持ってまいりましたが、山本潤さんという方が「十三
歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル」という本をこの刑法
改正と時を同じくして出版されました。本を読ませていただいて、少しでもそ
うした当事者の方々に思いをはせる、もし自分や自分の身近でそういうことが
あったらどうなのかということに思いをいたして、この本から深く思いを受け
とめさせていただいたつもりでございました。
 しかし、この本の終盤に、山本さんは御自身の体験から、性暴力被害に遭わ
れて、普通の感覚を取り戻すにつれてわかってきたことがある、彼らは知らな
いだけなのだと。彼らというのは私も含めた社会全体のことを指していると思
います。彼らは知らないだけなのだ、そのような恐怖を感じる世界があること
を想像もできないだけなのだ、被害を受けているときには選択の自由などな
く、彼らが後から言うような、逃げられたり誰かに助けを求められたりする状
況など存在もしなかった、こうしたことを理解できないだけなのだと。
 本の最後にそのように書かれておりまして、私は思いをしっかりと受けとめ
ながらこの本を読ませていただいたつもりでありますが、それでも、終盤のこ
の一節には、改めて、私もそうしたところに思いをはせるのに至らないと。再
びまた振り出しに戻るような思いをいたしました。
 この法案の審議というものは、そうした当事者の方々に少しでも思いをはせ
るということが大変重要であると思いますが、その点について大臣の見解を伺
いたいと思います。

○金田国務大臣 委員の御指摘につきましては、私もそのように考えておりま
す。

○井出委員 質疑を続けてまいります。
 今回、当事者の皆さんが特に強く要望されたものの一つに、強姦の構成要
件、暴行、脅迫要件というものがございます。
 私どもも強姦罪の構成要件を何とか少しでも外形上きちっと基準を引きな
がらも解釈を広げられないか、また、強姦罪の定義を変えることができなくて
も、準強姦罪の方の抗拒不能という考え方、そこを判例に合わせて、心理的
反抗不能ないし著しく困難、こうした文面などを用いることによって準強姦罪
の構成要件を変えることで、それがひいては強姦罪の解釈も変えていくことが
できないかとさまざま検討を重ねている最中でありました。こうしたことを形
にすることができずに、大変残念でなりません。
 刑事局長でも構いませんが、伺います。私は、強姦と準強姦というものを、
本会議では、法定刑は同じである、強姦も準強姦も強姦であるということを申
し上げましたが、強姦と準強姦は本質的にどのようなものを罰するのか。私
は、本質的な罰となる対象というものは重なっている、同じではないかと思い
ますが、本質的な処罰対象について伺います。

○林政府参考人 強姦と準強姦は別の構成要件、別の罰条として掲げられてお
りますけれども、それを処罰する趣旨及びその保護法益というのは同一でござ
いまして、その意味で重なっていると考えております。

○井出委員 保護法益、性的自由といったところを指して、今お話があったか
と思います。
 強姦罪の成立の経過を振り返りますと、明治十年、日本帝国刑法草案、これ
ボアソナードが起草しております。その草案では強姦罪に暴行、脅迫という
文字が盛り込まれました。しかし、強姦の強という字に暴行、脅迫という意味
合いが含まれるのではないか、そうした議論もありまして、最終的に旧刑法
条文では、明治十三年の制定になりますが、強姦罪に暴行、脅迫の文言がござ
いませんでした。
 その当時の三百四十八条は、十二歳以上の婦女を強姦したる者は懲役に処
す、薬酒等を用い人を昏睡せしめまたは精神を錯乱せしめて姦淫したる者は強
姦をもって論ずと。
 ボアソナードは、強姦について、承諾を待たず、そうした考え方を持ってい
たと言われ、強姦罪の制定の最初のときから、強姦罪の本質が任意の同意のな
い姦淫にあるということは創設当時から共通認識であった。
 今読み上げましたものは、二〇一四年六月に発行されました「性犯罪・被害
 性犯罪規定の見直しに向けて」、女性犯罪研究会代表岩井さんという方の書
かれている本なのですが、制定当初から、そうした任意の同意のないものを罰
するというものがこの法律の出発点であったということを述べております。そ
のことは現在も変わりがないのか、確認を求めたいと思います。

○林政府参考人 同意がないということ、それによる性交であるということ、
このことについて、その本質が変わりがないという点はそのとおりであろうか
と思います。
 今のは、ボアソナードの時代に、強姦罪の本質は何なんだろうか、こういう
ことを検討したときに、今委員が言われたように、被害者の同意のない性交で
あるということにそこの本質がある、そういうことを言われたんだろうと考え
ます。

○井出委員 この本には、強姦罪の本質は任意の同意のない姦淫にある、それ
を処罰することにある、そして、暴行、脅迫というものは被害者の承諾が不存
在であることの証拠であると。ですから、これは、逆から考えれば、暴行、脅
迫がなければ強姦が成り立たないということではないんだ、あくまでも本質は
承諾不存在の行為を罰することであるということに言及しております。
 ただ、さはさりながら、ボアソナード自身も、不承諾の確たるものとして暴
行、脅迫というものを強姦の規定に置くことをその後行いました。その一方
で、準強姦罪を制定する際にも、ボアソナードは、睡眠などに乗じた姦淫は被
害者の承諾がないという点で暴行、脅迫による強姦と何ら変わりのないもので
あった、そのように発言しているとあります。
 その後、さまざまないきさつを経て現状の刑法の規定になっていくわけです
が、もう一度確認をさせていただきます。
 強姦と準強姦、名前は違いますが、対象となる処罰の本質は一緒であり、そ
してそれは不同意、不承諾の性的犯罪を取り締まるという解釈が出発点であっ
た。それが法律上明確な線引きということでさまざまな構成要件というものを
明示しておりますが、その出発点というものは今も変わらず。そして、今回こ
こがいじれなかったということは私にとっては最大の痛恨の事態ではあります
が、この出発点をこれからも維持して議論を続けてまいりたいと思います。
 刑事局長の見解を伺います。

○林政府参考人 明治の時代での立法の出発点が今委員が御指摘になったとこ
ろにあるかどうかということについては私が直ちにお答えすることは困難であ
りますけれども、今から振り返りまして、そのように、明治の時代の立案、立
法の時点での強姦罪であるとか準強姦罪の本質は何であるのかということにつ
いて、それが同意のない性交であるということに本質を求めるという見解、こ
れについては十分に考え得るところの見解であろうかと思います。
 歴史的に、立案当時にそれを出発点としたかどうかということについては私
はお答えすることができませんけれども、そういったことに強姦罪あるいは準
強姦罪の本質を求める、同意のない性交であるということに本質を求めるとい
う見解は十分に成り立ち得る考え方かなと思います。

○井出委員 十分に成り立ち得ると言っていただきました。
 この本の最後の部分には、例えば面識のある相手からのそうした行為につい
ては、特に暴行、脅迫を用いなく、しかも巧妙に意思の自由を奪うことは可能
である、準強姦罪創設の背景には、暴行、脅迫という手段によらず、その他の
手段を用いた場合でも被害者の任意の承諾なき姦淫は許されないという理念が
あったと。
 午後に一時間、また時間をいただいておりますので、午後から具体論に入っ
てまいりたいと思います。
 一旦終わります。

○鈴木委員長 次に、阿部知子君。

○阿部委員 民進党阿部知子です。
 本日は、この貴重な法務委員会の質疑のお時間を頂戴いたしまして、理事初
め委員長に感謝をいたします。
 私は、日ごろ厚生労働委員会に所属しておりますので、めったにはこの法務
委員会の質疑に立たせていただくことがないのですが、冒頭、きょう、与党の
御質疑の中にも野党の御指摘の中にも、この法案、百十年ぶりの改正に大きく
動きをつくられたさまざまな関係者、被害者の皆さんのお声が反映されるよう
にという御指摘がありました。これは与党も野党も同じ思いだと思います。
 もう一点、では、そのお声がどういう形で国会審議というものに残されるで
あろうか。私は、参考人の質疑と申しますのは、やはり、議事録に残り、日ご
ろの取り組みについても国会が共有できる貴重な場であるし、この性暴力を含
めた刑法の改正にそうした場がないということに著しい違和感を覚えます。
 事の発端が皆さんの運動であったにもかかわらず、引用することは容易だと
思います、誰それがこう言ったと。でも、やはり、そうした活動してこられた
方の声というものが議事録に残る、御自身の発表として残るということが大事
と思いますが、委員長についてはなぜそういう行程がとられていないのか。ま
た、委員長御自身は、国会審議のあり方として、こういう国民の声、取り組ん
できた声が、この場で、委員会質疑で取り入れられることの意味はどうお考え
か。冒頭、伺います。

○鈴木委員長 理事、委員ともに同じ思いとは思いますが、国会の日程上、や
むを得ずこういう日程になったことを御理解ください。

○阿部委員 委員長はちょっと早口で、よくわかりませんでしたが、私は、何
度も申しますが、やはり、さまざまな御意見を議事録に残していくということ
は、歴史的な改正である分、絶対に不可欠なんだと思います。
 きょう採決やに言われておりますが、引き続き与野党の理事並びに委員長に
はぜひお考えを深めていただきたいと思い、私の質問に入らせていただきま
す。
 今回の法改正は、主に四つの大きな柱になっておりまして、一番目が強姦罪
の構成要件並びに法定刑の見直し、二番目が監護者わいせつ罪及び監護者性交
等罪の新設、そして三番目が強盗強姦罪の構成要件見直し、そして四番目に強
姦罪等の非親告罪化という四点になっているかと思います。
 私は、きょうは、特に四番目の非親告罪化ということについてお尋ねをいた
します。
 さきの質疑の中でも既に林局長からは御答弁があったと思いますが、改めて
金田法務大臣に、今回この強姦罪非親告罪化されたことのメリット、何が大
きな前進なのだろうという点をお尋ねいたします。

○金田国務大臣 阿部委員の御質問にお答えをいたします。
 現行法上、強姦罪、強制わいせつ罪等は親告罪とされております。その趣旨
は、一般に、公訴を提起することによって被害者のプライバシー等が害される
おそれがあって、被害者の意思を尊重するためである、このように解されてお
ります。
 もっとも、性犯罪被害者やその支援団体関係者等からのヒアリング等を踏ま
えて検討いたしました結果、現在の実情としては、犯罪被害によって肉体的、
精神的に多大な被害を負った被害者にとりましては、告訴するか否かの選択が
迫られているように感じられたり、告訴をしたことによって被告人から報復を
受けるのではないかとの不安を持つ場合があるといったようなことなど、親告
罪であることによりかえって被害者に精神的な負担を生じさせていることが少
なくない状況に至っているものと認められたわけであります。
 このような実情に鑑みました場合には、これを非親告罪化して、親告罪であ
ることにより生じている被害者の精神的な負担を解消することが相当であると
考えられたことから、今回の改正案において強姦罪等を非親告罪化するという
ことにしたものであります。

○阿部委員 確かに、人を告訴、告発するというのは、大変に精神的にも負担
が大きい。プラス、今大臣がおっしゃったように、しかし、非親告罪化された
ときに、プライバシーというものがどうなっていくのか、自分が本当は望まな
い告訴という形になってはいけないということは、今の大臣の御答弁でも確認
をされたと思います。
 その上で、お手元の資料を見ていただきますが、ここには、いわゆる強姦あ
るいは強制わいせつなどで、告訴欠如という形で、その方が告訴をしないとい
う形で不起訴になった件数の推移がございます。当然ながら、一般犯罪より
は、告訴欠如、告訴をしないということの比率は多いと思います、一般犯罪で
二から三%ですから。
 しかしながら、強姦とか強制わいせつ罪の特殊性で、あるいは相手から示談
などがあって、結果的に告訴欠如となったもの、強姦では近々の資料で二四・
八%、そもそも不起訴が六二・六ですから。また、強制わいせつ罪でも二九・
八%。すなわち、四件に一件あるいは三件に一件は、告訴欠如という理由で告
訴がされない。嫌疑不十分というものと並ぶほど、告訴欠如というものが強姦
ではふえております。
 先ほどの井出委員とのやりとりで、強姦と準強姦は、自由な意思による性交
ではないという意味で、根本的に、本質的に同じものであると。私もそう思い
ます。意思を奪われた上での性交あるいはわいせつでありますから、そこが起
点、出発点と思います。
 と同時に、いわゆる強姦と準強姦、意識がない状態、アルコールや薬物やい
ろいろな中で意識がない状態でそうした行為が行われた場合には、なおさらに
この事態を告訴するためのハードルが高いと思います。すなわち、告訴欠如に
至る比率が高いのではないかと思います。これは、告訴しようにも、そのとき
の記憶等々が取り戻せないというのもあるやもしれません。
 そこで、これは担当並びに金田法務大臣にお伺いをしたいと思いますが、な
ぜ、集計上、強姦と準強姦は分けられず告訴欠如という中でカウントされてい
るのか。いろいろな資料を拝見しましたが、準強姦だけを分けたものが見当た
りません。この点について、私は、分けてきちんと現状を把握すべき。普通の
犯罪に比べて強姦は告訴をされていない率が高い、さらに準強姦では高いので
はないかと思います。すなわち、自由意思が表明できない状態では告訴欠如に
なる率が高いのではないかと思いますが、これについて、大臣、お願いしま
す。

○井野大臣政務官 先生の御趣旨は、準強姦事件に特有の分析を可能とするた
め、強姦罪と区別して統計をとるべきということだと思われますけれども、準
強姦事件については、強姦事件と比較して立証が困難であるなどとは我々とし
ては一概に考えてはおらず、また、検察当局においても、個別具体の事案に即
して、法と証拠に基づいて適切に起訴、不起訴の判断をしているものと我々は
承知をしております。
 したがいまして、強姦罪準強姦罪を区別して統計で把握することが必ずし
も必要であるとは考えていないということでございますが、もっとも、法務省
としても、今後とも、今回の法改正を機に、性犯罪の動向を注視してその実態
を把握するよう努めることは重要なものであると認識をしているところでござ
います。

○阿部委員 立証が困難かどうか把握できるためのデータがないということだ
と思います。立証が困難かどうか把握していないというのは、個別の事案はさ
まざまであります、しかし、そのとき、意識がない状態下で起こる、告訴、告
発には結びつきづらい、それが本当にデータ上そうであるのかそうでないのか
も、分けられておらなければわからないわけです。
 私は先ほど、法のというか刑の根本、何が問題なのかというと、自由意思に
よらない性交ということが犯罪の構成要件だと思いますが、それでもさらに薬
物が使われ、あるいはアルコールが使われ、準強姦という事態が起きていると
いう現実が多々ある中で、その方たちが果たして本当に妥当な捜査を保障さ
れ、告訴まで道がつながっているかというと、そうではないと思いますので、
データがないということをもって、立証困難かどうか、差がないと言わず、デ
ータにのっとっておっしゃっていただきたい。それは物の理でありますから。
 金田大臣、今後、この法律が成立したときに、準強姦罪におけるアルコール
や薬物の使用というのは非常に深刻な問題。もちろん脅迫、暴行要件も重大で
す。でも、そもそも自由意思をなくさせられている中で起こることで、それが
プラス薬物、アルコールをもって行われ、なかなか告訴に結びつかないと思い
ますから、そういう観点で分析をしていただきたいが、いかがですか。

○金田国務大臣 今委員御指摘の点につきましては、一般的に申し上げます
と、今後とも性犯罪の動向というものをしっかりと注視してその実態を把握す
るように努力していく過程の中で非常に重要な御指摘の一つだ、このように思
っております。

○阿部委員 ありがとうございます。
 と同時に、今回、非親告罪化したことで、最も意思を表明できない子供の問
題、未成年の問題は私は大きな前進をしていると思います。大臣にあっては、
子供が被害者の犯罪、また子供たちへの支援ということについてはどんなお考
えをお持ちか、お願いいたします。

○盛山副大臣 今、阿部委員が御指摘のとおり、子供が性犯罪の被害者となっ
た事案におきましては、被害の認識あるいは表現の能力が乏しいという子供の
特性を踏まえた対応が大変重要であると我々は考えております。
 検察当局におきましても、このような認識に基づきまして、例えば児童相談
所などの関係機関との十分な情報交換、あるいは親権者ほかとのコミュニケー
ションを行うなどして、その特性に配慮した対応に努めているところでござい
ます。

○阿部委員 この件につきましては、後ほど民進党山尾志桜里さんも取り上
げられることと思います。
 本来は、こうした場で、子供の性暴力の支援に当たっている方から私はぜひ
御意見を賜りたいと思います。本当に潜在化して、親子の力関係の中で、性暴
力を受けたとしても、それは自分が悪いんだ、あるいは、言ってしまえばお父
さん、お母さんが罰せられる、だから自分が全部抱え込まなければと思ってい
るのが子供の実情であります。今回の法改正からさらに本当に子供の人権の回
復に向かうよう、この点については後ほど質疑の中で取り上げさせていただき
たいと思います。
 私は、きょう、ワンストップ支援センターと内閣府で言っておられる、私ど
もは性暴力被害者支援センターと名づけておりますが、被害者がそうした事態
に出会ったときにまずそこに相談をして保護されるような仕組み。それは、今
申し上げました子供たちにも、あるいは、なかなか警察に行って告訴というプ
ロセスをとりがたい方々にとっても、いわゆる性暴力、性犯罪として警察が把
握するものは、というか、警察に行くということ自身が一桁のパーセンテージ
だと思いますから、それ以外に、氷山の、海の中にあるような事態についてど
ういう受けとめをしていくべきかということで、このワンストップ支援センタ
ーについてお伺いをいたします。
 内閣府にお願いしたいと思います。実は、ワンストップ支援センターは平成
二十三年の第二次犯罪被害者支援計画の中に明文化をされておりますが、この
経緯とお取り組みについて教えてください。

○大塚政府参考人 お答えをいたします。
 ワンストップ支援センターでございますが、性犯罪、性暴力被害者の支援の
ため、いろいろな支援を一元的にそこで提供するということで、今お話のござ
いました計画、さらには第四次の男女共同参画基本計画に基づきまして、今、
都道府県に一カ所を設置すべく、私どもの支援も含めて推進をしているとこ
ろでございます。
 現在、三十八都道府県、箇所数でいいますと三十九カ所で設置されていると
ころでございまして、引き続き、この全都道府県設置に向けまして、私ども、
支援を進めてまいりたいと考えております。

○阿部委員 恐縮ですが、これはとても重要なことなので、この設置の目的と
いうこと、何を目的としているのかを明示していただけませんでしょうか。言
葉で表現していただきたいと思います。目的とは何でありましょう。お願いし
ます。

○大塚政府参考人 お答えをいたします。
 設置の目的でございますが、これは、性犯罪、性暴力被害者に対しまして、
被害直後からの総合的な支援、この総合的な支援と申しますのは、産婦人科
療、相談・カウンセリング等の心理的支援、さらには捜査関連の支援、法律的
支援、こういったものを可能な限り一カ所で提供することによりまして、被害
者の心身の負担軽減、健康回復、さらには警察への届け出促進、被害の潜在化
防止を図る、これを目的とするものでございます。

○阿部委員 ありがとうございます。
 私は、今回の法改正が、もちろん、起こした罪への刑罰を強化するという点
は評価いたしますが、同時に、犯罪には被害者がいて、その方たちの人権回復
というのは車の両輪で、その意味で、こちらの支援の側が薄いというか、現状
において追いついていないという点を大変懸念しておりますので、今確認をさ
せていただきました。
 そして、ワンストップ支援センターは、お手元の資料にございますように、
いただきました資料ですと、現在三十九カ所という私の手元の表、そして、都
道府県にするとたしか三十八であると思いますが、ずっと見ていただきます
と、病院あるいは病院連携型というのは九つしかなく、いわゆる連携型と呼ば
れるものがほとんどであります。
 しかしながら、そもそも内閣府がつくられたワンストップ支援センター開設
・運営の手引というものがありまして、これを見ますと、地域事情もあろうか
と思いますが、病院拠点型や相談センター拠点型ということの方が望ましい、
それは、病院機能とすぐにタイアップできる、あるいは病院そのものが支援セ
ンターになるということですが、しかし、でき上がってみると、確かに数はふ
えておりますが、相談連携型といって、各医療機関にはタコ足のように連携を
お願いしながらやっていくというものがふえております。
 この現状についてはどう改善していかれるおつもりでしょう。お願いしま
す。

○石原副大臣 委員御指摘のとおり、性犯罪、性暴力被害者支援のためのワン
ストップ支援センターは現在三十八都道府県で三十九カ所設置されており、そ
のうち病院拠点型については九カ所というふうに承知しております。
 内閣府では、個々の都道府県の詳細な状況については十二分に把握しており
ませんが、病院拠点型が少ない主な理由としては、拠点となる病院の不足、医
療関係者や支援者などの人材不足などが原因であるというふうに考えておりま
す。
 一方で、病院がワンストップ支援センターの拠点としての役割、機能を担う
ことは難しい場合でも、委員が言われたように、協力病院や連携病院といった
形で、支援のネットワークの中で一定の役割を担っているケースがあるという
ふうに考えております。
 こうした状況は地域によりさまざまと考えられるので、都道府県の実態やニ
ーズに応えられるように、今年度予算で設けた性犯罪・性暴力被害者支援交付
金を効果的に活用して把握をしてまいりたいというふうに考えております。

○阿部委員 確かに今年度、支援交付金が出まして、医師の研修並びに看護師
さんの研修等には多少の費用がつきますが、後ほど御紹介しますが、病院拠点
型というと、医師が当直をしていて二十四時間対応ができる、そして夜の方が
暴行事件は多いわけで、本当にいつでも即つながるという意味では、これは内
閣を挙げて病院拠点型に持っていく必要があります。確かに、医師が不足して
いる、あるいはもろもろ地域事情もあると思いますが、後ほど私がこういう案
はどうだろうということを提案させていただきますので、またそのときに機会
あれば御答弁をお願いいたします。
 そもそも、先ほど、警察に駆け込んでいかれるというのは大変少ない、ハー
ドルが高いということを申し上げましたが、その警察が、もしそういう被害者
の方が助けを求めて来られた場合に、窓口の警察官の対応というのはどのよう
に教育されているであろうか、これについて御答弁をお願いいたします。

○高木政府参考人 性犯罪被害者の精神的負担の軽減あるいは被害の潜在化防
止といったことを図るためには、特に被害者に対する対応が適切になされるこ
とが極めて重要であるというふうに認識しておりまして、そういった観点か
ら、捜査員に対する教育、研修の充実等に努めているところでございます。
 具体的には、教育訓練の中では、被害者の心情に配慮した対応、初動捜査の
具体的方法、被害者聴取のあり方等を具体的に教えているところでございまし
て、今後ともこういった指導教養をさらに充実してまいりたいと考えておりま
す。

○阿部委員 私が今、警察の初動というか警察が何をしているのかということ
でお尋ねいたしましたが、先ほど、司法の場でも必ずしも被害者の心情に配慮
がない場合もあるということがあったと同じように、警察の場でも警察による
二次被害ということが従来から言われております。犯罪の特殊性だと思います
が。
 事例の紹介を一例だけさせていただきますが、私は神奈川で、選挙区は藤沢
ですが、すぐ近くに横須賀があって米軍基地がございます。そこで二〇〇二年
に起きたジェーンさんという女性の強姦事件であります。
 この方は警察に行かれましたが、十時間近くも警察にとめ置かれ、アメリカ
等々ですとレイプクライシスセンターというのがあって、犯人の証拠をとるた
めに病院機関にすぐ連れていかれて、そして外傷があればケアを受けて、情況
証拠を採取して、そして、そこからまたいろいろな取り調べに持っていくとい
うところなのですが、このジェーンさんの件は十時間横須賀の警察署にとめ置
かれたということです。
 これはもちろん、二〇〇二年の事案ですから、その後、彼女は国賠訴訟を起
こしまして、その対応がきちんと本当に自分の人権を守ったのかどうかという
ことを起こされましたので、警察庁としても改善していると思いますが、た
だ、さまざまな、犯罪捜査規範や被害者対応要綱、あるいは内部規律などの中
に、本当に、被害者に迅速に医療が必要なんだということをちゃんと紹介し
て、道をつないでいるだろうかという点で、私は今も懸念が残ります。
 というのは、被害を受けた当事者の女性は、もう本当に判断が不能な状態
で、今すぐ医療的にやらなければいけないことがあるというふうには考えられ
ない、とにかく何でもいいから助けてほしいとそこに行くわけで、そのときの
初動の警察官に、医療の必要性から、その方の人権への配慮というのは極めて
重要となりますので。
 また、きのう、警察庁の中で何か使っているマニュアルとか本はないのです
かと伺いましたが、各都道府県でやっておりますというので、どんな指導が具
体的になされているかをいただけませんでしたので、これは心にとめていただ
きまして、二次被害が起こらないようにお願いをしたいと思います。
 さて、私が先ほど来強調しておりますように、性犯罪の特殊性は、即医療が
必要になるものが多いということで、一つ御紹介したいのが、大阪にございま
すSACHICOというワンストップ支援センターであります。
 皆様のお手元に資料をつけさせていただきましたが、このSACHICO、
性暴力支援センター大阪。セクシュアル・アソールト・クライシス・ヒーリン
グ・インターベンション・センター・オオサカ、これを全部略すと、たまたま
SACHICOといういい名前になるということです。
 基本理念ということで、ここは病院型の支援センターですが、被害直後から
の総合的支援ができる。二十四時間体制のホットラインと、支援員が常駐して
心のサポートをすると同時に、二十四時間の産婦人科救急医療体制と継続的な
医療を行い、警察、弁護士、カウンセラーなどの機関への連携を行っている。
当事者が告訴するしない、あるいはその後どう生きていくかを自分で選べるよ
うな体制と、究極的には性暴力のない社会の実現を目指しているということで
す。
 ここに、二〇一〇年から二〇一五年三月までの実績がございます。この五年
間で、相談件数は九百八十三。ここを受診された、カルテの枚数であります。
大体年間二百件くらい。正直言って、ワンストップ支援センター、他の支援セ
ンターで、ここほどたくさんの件数を受け入れて、実際の支援につなげている
ところはないと思います。
 ちなみに、性虐待も二百十三件。これはとても警察に上がる数ではありませ
ん。また、DVあるいはレイプ、強制わいせつでは、未成年の比率が大変多
い、五百七十七件中三百十六件となっております。今、もっと件数はふえてい
ると思いますが。
 このSACHICOの活動は、チャートで、次に絵がございますが、阪南中
央病院という院内にあって、女性医師が二十四時間対応をしていて、そしてホ
ットラインを持ってやっているというところでございます。
 次に、また開いていただきますと、レイプ、強制わいせつ被害者の診療とい
うのは、時間外が多くて、時間もかかる。被害者への診療は平均百十三分であ
ります。状況を聞きながら、証拠を採取する。時間外の受診が六〇%、深夜帯
が一三%。すなわち、拠点病院でないと、とてもこれだけはできない。
 もちろん、警察が連携して、善意の先生方がいろいろ協力はしてくれる。レ
イプのときの証拠採取セットというのがあって、それを医療機関に渡しておく
のですけれども、そういうやり方では、なかなか全体の、レイプに対しての対
応が持ち上がっていかない。もちろん、お医者さん側は善意で一生懸命やって
くれていますが、まだまだだと思います。
 すなわち、時間と人員と場所が必要で、当然それを配置するにはお金が要る
ということです。入り口も別にします。普通の産科、出産の入り口と、夜中に
生まれる赤ちゃんも多いですから、でも、こちらで起きた不幸に対応するとき
の窓口は変えて、裏からわからないようにしてなどの施設の改築も必要です。
 その下に書いてありますが、レイプ、強制わいせつの被害者五百七十七人に
どんな対応がされたか。緊急避妊薬の処方、性感染症の検査、そして犯人の精
液などの採取。あるいは、少しおくれて来た方は、妊娠をしておられる方も五
十三人。七十二時間以内に避妊措置をしないと本来はいけないのですけれど
も、なかなかたどり着かなくて、妊娠してからという方もございます。その
他、弁護士紹介、カウンセリング紹介などとなっております。
 ここで金田法務大臣にお伺いいたしますが、先ほど被害者の方とか支援団体
とお話をされたことがありますかという質問がほかからもございましたが、私
は、こういう現場で支援に携わっている、大変件数も多い、そして性被害とは
何かということを理解していただくために、金田大臣にあってはぜひ視察もし
ていただきたいし、きちんとこれを定着化させるために御尽力いただきたい
が、いかがでしょう。

○金田国務大臣 阿部委員から、ただいま、性暴力救援センター大阪、SAC
HICOの取り組みについてさまざまな御説明を賜りました。
 私は、犯罪の被害に遭われた方々の声に真摯に耳を傾ける、そしてその保
護、支援に取り組むということは非常に重要なことであろう、このように認識
をいたしております。
 このSACHICOのケースは、性犯罪、性暴力被害者に被害直後からの総
合的な支援を可能な限り一カ所で提供するということによりまして、被害者の
心身の負担を軽減し、その健康の回復を図るとともに、警察への届け出の促
進、被害の潜在化防止を目的とするワンストップ支援センターである、このよ
うに認識をいたしております。
 ワンストップ支援センターが一番初めに整備されたのは恐らくこの大阪のS
ACHICOなんだろうと思うんですね。ですから、そういう意味において
も、先頭を切って頑張っておられるということに非常に感心をして拝聴してお
りました。
 そういう中で、私は、性犯罪や性暴力の被害者というのは、多大な精神的な
苦痛あるいは身体的な苦痛を受けてさまざまな支援を要するんだということか
ら、その心身の負担を軽減し、心身の健康の回復を図るというワンストップ支
援センターの取り組みというのは極めて重要なものであるなという思いを抱い
てお聞きしておりました。
 犯罪被害者等基本法によります基本計画、その第三次基本計画においてはワ
ンストップ支援センターの設置促進が施策として明示されておりますことから
も、さらなる拡充が図られるということを私としては期待していきたい、こう
いうふうに思っております。

○阿部委員 私がぜひお願い申し上げたいのは、やはり医療型の拡充というこ
とには人件費もかかりますし、病院の体制整備も必要であります。石原副大臣
にお伺いいたしますが、これは内閣を挙げてそういう支援をしていただけるこ
とが大変重要だと思います。ことし、二十九年度からいろいろな交付金が始ま
っておりますが、まだほんのスタートで、ちっちゃな芽であります。しかしな
がら、これは本当に、こういう被害者にとっては、病院というのは不思議なこ
とに、そこに駆け込めばちょっと守られるということも同時に感ずる場所であ
りますので、ぜひさらなる支援というかバックアップをお願いしたいですが、
いかがでしょう。

○石原副大臣 お答え申し上げます。
 当該交付金は、ワンストップ支援センターの全都道府県での早期設置とその
安定的な運営を図るために、今年度予算に新たに設けたものであります。今、
金額はまだ小さいというお話がございましたけれども、まずはこの今年度新設
した交付金を適切に施行していくことが何よりも重要であるというふうに考え
ております。
 その上で、今後のあり方については、各都道府県における取り組み状況など
を勘案しながら、引き続き内閣府として検討してまいりたいというふうに考え
ております。

○阿部委員 ずっとモデル事業以来、必ずしもスピードアップした取り組みで
はない。ただ、これは緊急性のあるものですし、一方で法改正がされて非親告
罪化されているわけですから、やはりもう一つの被害者支援ということは、私
は並び走っていただきたいと思います。
 引き続いて、最近大変に目にとまることが多い、学生あるいは医学部の学生
並びに医師による集団の強姦事件についてお尋ねをいたします。
 金田大臣にも最後のページをお開きいただきたいのですが、ここには、大学
生等による主な集団暴行事件というのを新聞等々に出ている限りにおいて拾わ
せていただきました。
 古くは、二〇〇一年、早稲田大学のイベントサークル、スーパーフリーとい
うところの学生たちが起こした事件、それから、京都大学が二〇〇五年の十二
月、京都教育大学が二〇〇九年の二月。おのおの特徴的なのは、女性を酒に酔
わせて、飲ませて暴行を集団で働くという、ひきょう者のきわみだと思います
が、こういう事件が多く起きております。
 特に二〇一六年は、立て続いて四件ですね。起きたところは、おのおの、東
邦大学の医学部の卒業生である研修生が、千葉の船橋中央あるいは東京慈恵医
大等々に勤めていて、研修をやっていて、これもお酒を飲ませて暴行した。専
用のマンションの一室を借りてやっていた。東京大学でも、大学生と大学院生
五人が、同じように、女性を酒に酔わせてわいせつ行為に及ぶ。慶応大学で
も、神奈川県の葉山の合宿施設で、ミス慶応コンテストを主催して、そのとき
に被害女性を集団で強姦する。そして千葉大学、これも医師が関係しています
が、千葉大学医学部の男子学生らが、飲食店で女性を酒に酔わせてトイレで暴
行する。医学生三人と医師一人、東邦大学の方も研修医と現役学生一人という
ことで、どの事案を読んでも、大変に社会の風紀がもう本当に乱れていて、深
刻な実態と私は思います。
 ここでお尋ねですが、今回、集団の強姦あるいは準強姦などについては、集
強姦罪というものを廃止することになっております。
 平成十六年に、集団で強姦するとは、共謀して強姦するわけですから、普通
の強姦よりはやはり問題が大きいだろうということで、集団強姦罪と別途、や
はり法律というのは国民へのメッセージですから、こういうものはやってはな
らない、より厳密に罰するぞということで、平成十六年に改正が行われまし
た。
 今回廃止となっておりますが、果たしてこれで国民へのメッセージを誤るこ
とがないのか。これだけ事件が起きているときに廃止をして、例えば、強姦の
実際の量刑が上がったから、わざわざ集団強姦罪だけ別にしなくてもいいんで
すという考え方かと思いますが、法律とは何か。国民へのメッセージだと考え
れば、現時点で集団強姦罪をなくす意味は何でありましょう。

○盛山副大臣 阿部委員の御指摘のとおり、今こういうような事案が大分ふえ
ているというのは、本当に残念なことだなと思います。私もいろいろ感想を述
べたいわけでございますけれども、法務省として述べることではないでしょう
から、ちょっとそれは残念ながら別の場でということにさせていただきます
が。
 お尋ねの集団強姦罪廃止の件でございますけれども、現行法におきまして
は、集団強姦罪の法定刑の下限が懲役四年でございます。今回の法改正では、
強姦罪の法定刑の下限を懲役三年から五年に引き上げるということで、現行の
集団強姦罪の法定刑の下限を上回るということになります。
 ということでございまして、集団による強姦の悪質性については、引き上げ
られた法定刑の範囲内で量刑上適切に考慮することによって適切な科刑が可能
であるといったことから、集団強姦罪を廃止することが相当と考えますし、ま
た、集団強姦罪を廃止する以上、集団強姦致死傷罪についても廃止するのが相
当と考えたところであります。
 そして、阿部先生御指摘の、誤ったメッセージを発することになるのではな
いか、こういうことでございますけれども、集団的形態の強姦、準強姦につい
ては、暴力的犯罪としての凶悪性が著しく強度である点で悪質であるという点
では私どもも同感でございます。
 しかしながら、今回、強姦罪の量刑を引き上げるということとしたものでご
ざいますので、仮に、今般の強姦罪、強姦致死傷罪の法定刑の下限の引き上げ
に合わせてさらに集団強姦等の罪等を引き上げるとすれば、例えば、集団強姦
罪の法定刑の下限を、通常の強姦罪の懲役五年を超える例えば懲役六年などと
して、そして、集団強姦等に係る致死傷罪の法定刑の下限を、通常の強姦致死
傷罪の懲役六年を超える例えば懲役七年といったことが考えられるわけでござ
います。
 しかしながら、現行法上、集団強姦等に係る致死傷罪の法定刑の下限につき
ましては、酌量減軽をした場合において執行猶予を付することができる限界で
ある懲役六年とされております。この趣旨は、犯行に加担した者の中でも関与
の度合いが比較的軽微な者であって前科等のない犯人が、被害者に対して最善
の慰謝の措置を尽くすなどしたにもかかわらず、酌量減軽をしても執行猶予を
付し得ないことには問題があると考えられたからでありまして、この趣旨は現
在も妥当することから、法定刑の下限を懲役六年を超えるものにすることは適
当ではないといったようなことでこういった結論になっているということを御
理解いただきたいと思います。

○阿部委員 今御答弁いただいたのは単に量刑の年数の問題であって、私が申
し上げたいのは、法は社会へのメッセージ。その数量化されたものが何年とい
う刑ではありましょう。しかしながら、これだけ集団の強姦事件が起きている
中で、集団強姦罪そのものが廃止ということは、やはりその名前を残すことだ
ってできるわけです。何がいいことで何が悪いことなのか、何をやるべきでは
ないのかというメッセージがこれでは明らかにならない、法の持つ意味が後退
をすると私は思います。
 大臣、普通に常識で考えて、これら、今まで随分、強姦しても、確かに執行
猶予がつくものが多いのです。懲役三年でも執行猶予がつくとか、現実には強
姦しても罰せられないというメッセージにもなりかねないから、その法定刑を
上げていくということはいいと思います。しかし同時に、集団強姦罪そのもの
がなくなるというものではない。その行為に対する考え方というものは明示さ
れるべきだと思いますが、金田大臣、いかがですか。

○金田国務大臣 委員御指摘の点は先ほどから拝聴いたしておりました。
 私どもがこのたびの改正に際しまして申し上げたいことは、ただいま副大臣
から申し上げたとおりであります。

○阿部委員 この刑法改正に当たって、特に子供たちを性暴力から守るために
ぜひ改正をと言っておられた方からの言葉なんですけれども、法律は大人から
子供へのメッセージというふうに言っております。これを読みかえると、法律
は時々の社会がどうあるべきかのメッセージであります。私は、大事なところ
が抜けているように思います。物事の軽重だけではかっていって、執行猶予に
なる年限がどこからかなどでやっていくということは、そもそも残すこともで
きたはずですから、今の御答弁については承服しかねますが、そうされたとい
うことは、御説明ですから、承りました。
 そして、では、どうして私たちの社会はこうなってしまったのかということ
で、医学部教育のあり方ということも、特に東邦大学千葉大学は、医師にな
る方たちが率先して強姦を起こすなんということは本当に厳しく罰せられるべ
きだし、また、教育課程でそういうことはきちんと、女性の人権、ジェンダー
は教えられるべきですが、一体文部科学省はどう取り組んでおられるのかにつ
いてお伺いいたします。

○樋口大臣政務官 将来医師を目指す医学生には、とりわけ高い倫理観や人権
意識が求められていると認識をしております。
 医学教育において、学生が卒業時までに身につけておくべき必須の実践的診
療能力の学修目標を提示いたしました医学教育モデル・コア・カリキュラムに
おいて、医の倫理と生命倫理に関する規範に関する項目が盛り込まれていると
ころでございます。
 これらに基づきまして、各医学部において、一般社会倫理から医の倫理まで
広く学び、これらを深く学んで理解する、倫理、心理、社会問題に対応できる
能力を養うといった、医師として求められる倫理観や人権意識を涵養するため
の教育が実施されていると認識をしております。
 さらに、平成三十年度から運用予定の医学教育モデル・コア・カリキュラ
ム、平成二十八年改定でございますが、これにおいては、医師として求められ
る基本的な資質、能力として、新たに、医師としての尊厳と責任を自覚し人格
を高めることや、法規範の遵守及び法秩序の形成に努めることが明示された日
本医師会の医師の職業倫理指針に関する規範を概説できるといった項目を盛り
込むなど、医の倫理にかかわる学修目標を充実しているところでございます。
 文部科学省といたしまして、このような取り組みを通じて、医師としての職
責や倫理に関する教育がさらに充実をするよう、各大学に対して促してまいり
たいと思います。

○阿部委員 今の御説明を聞いても、やはり、女性の人権やこういう強姦とい
うことについて、ほとんど具体的にそれでは教えられないと私は思います。そ
ういう方がお医者さんになって本当に女性たちが安心してかかれるだろうか
と、恐怖すら覚えます。
 私の提案は、先ほど石原副大臣がいろいろこれから充実させるとおっしゃっ
た、ワンストップ支援センターを各大学医学部に置くことです。二十四時間で
きるのですから。そして、そういうことが自分のそばにある、何がこれは問題
なのかということを、OJTではありませんが、日々学ぶことであります。事
態は非常に深刻です。
 これは、次に、厚生労働政務官にお伺いいたしますが、多くの大学病院は同
時に特定機能病院で、患者さんに対してハイレベルな医療を提供する、当然高
い倫理性も求められる。例えば、特定機能病院にワンストップ支援センターの
医療型を設置するとか、何らかの具体的なことがなければ、倫理規範といって
こうやって読んでも、正直だめなのです。
 本当にこういうことが根絶されるように、私は前、厚生労働委員会でこれを
取り上げたことがありますが、ぜひ、文科省と協力して、特定機能病院ないし
は大学病院、特定機能病院の八割以上は大学病院ですから、人材はおられるは
ずです、できるはずです、お取り組みいただきたいが、いかがでしょう。

○堀内大臣政務官 阿部委員御指摘のように、性犯罪、性暴力被害の支援を行
うに当たって、医療機関の果たす役割は大変重要だと認識しております。
 しかしながら、性犯罪、性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
は、先ほど阿部委員がお配りくださった資料の四にございますように、病院拠
点型のみならず相談センター拠点型などの多様な形態がありまして、特定機能
病院や医療機関以外の類型も含めどのような主体がその役割を担うべきかにつ
いては、地域の実情に応じて検討される必要があるものではないかと思ってお
ります。
 厚生労働省といたしましても、引き続き、文科省内閣府と連携しつつ、ワ
ンストップ支援センターの設置に向けて、関係団体や都道府県に対する周知、
協力依頼、そういったものを行ってまいりたいと思っております。

○阿部委員 国としてやるべきことを地域の実情に逃げたら私はだめだと思い
ます。
 私たち五つの野党で、ワンストップ支援センター医療型を設置してほしいと
いう法案を実は提出しております。それは、やはりそこに政治の意思の優先順
位を置けということであります。
 被害者をきちんと受けとめられる支援センター、もちろん、相談型でも、な
いよりはずっといい、連携型もそうであります。でも、絶対必要な産婦人科
療の部分がきちんとそこに常時確保され、そこで性暴力とは何かということを
自覚した医師が育ち続けるということが、社会から性暴力を根絶していく大き
な道だと思うし、同時に、学生たちが逆に言うと安易にこういう事件を起こさ
ない、そうしたことを保障していくと私は思います。
 ちなみに、私がこれだけ力説するのは、今、大変問題になっております、T
BSの元記者が詩織さんという女性を準強姦したかもしれないと言われている
事件がございます。これが、もしも病院拠点型に来ていただくと何が違うの
か。
 実は、先ほど申しました性感染症があるとかあるいは避妊措置をとるとか、
いろいろありますが、それと同時に、血液を必ず採取して保存しておきます。
そうすると、今多い、集団強姦も全部そうですが、酒に酔って、あげくに強姦
をするわけです、血中のアルコール濃度、あるいはデートのときに相手の意識
をなくすために使う薬物などの濃度も、きちんとそこがチェックできます。
 医療は常に、例えばそれがいろいろな中毒ではないか、何が起きたのかとい
うことを検証するために冷凍保存を、このワンストップ支援センター、SAC
HICOに行っていただけばわかりますが、血液をとってやっております。恐
らく、警察の窓口に行かれても、それだけの体制がある病院につながらないこ
とも多いと思います。
 私がわざわざ準強姦と強姦を分けたのは、そのとき女性に記憶がない、もち
ろん、同意によらない性交は一緒です、でも、情況証拠を固めていかないと、
告訴にも結びつかない、結局不起訴になっちゃう。それでは本当に魂の殺人と
言われるレイプの犠牲者は後を絶ちません。
 金田法務大臣にもう一度伺います。
 私は、そういうことをきちんと見てきていただきたいのです。病院拠点型の
支援センターとはどんな体制で、ここは何が保障されているのか。最後に、金
田大臣、私は、今これだけ世上騒がれている強姦の問題、女性たちの虐げられ
た人権の問題、どうやっても政治が意思を持って解決していかなければならな
いと思いますが、視察を兼ね、そして状況を見ていただいて、本当の充実、本
当の支援のために先頭に立って御尽力いただきたいが、御答弁をいただきたい
と思います。

○金田国務大臣 阿部委員の先ほどからの貴重なお話を伺っておりました。ワ
ンストップ支援センターの設置促進は非常に重要であるということ、それに加
えて病院拠点型が非常に意味があるというお話、そういう一つ一つになるほど
なという思いを持って先ほどからお聞きしていたことを繰り返し申し上げたい
と思います。
 このたびのこの法案のことにつきましては、今までも可能な限り、たくさん
の皆様の思いやお話や経験をお聞きしてこの改正に至ったわけですけれども、
私たちの努力というものはこれで終わりとかいうものではありません。これか
らも、法案の成立を見た暁には、それをベースにした対応をやはりしっかりと
行政としても考えていかざるを得ませんし、そしてまた、その法律に足らざる
ことがあれば、それはまた次の機会を考えていく、そういう努力を続けなけれ
ばいけないなという思いを改めて感じた次第であります。

○阿部委員 ありがとうございます。
 最後に、この五年間の被害者とつき合って見えてきたことというSACHI
COの取りまとめをお伝えしたいと思います。
 一つ、警察に行けない被害者も多い。一つ、妊娠してからの来所が多い。一
つ、アルコール使用、ネットでの接触、集団レイプが多い。一つ、障害を持つ
人の被害の発見と対応がおくれがちである。一つ、子供の性被害が多い。
 これらは全て潜在化しやすいもので、このワンストップ支援センター医療型
が大きな役割を果たしたということであります。
 大体、年間三千万から五千万の維持、運営、管理費が必要です。石原副大臣
にも御尽力いただきますが、政府を挙げて、そして厚労省文科省も御尽力を
いただきたい。
 以上で終わらせていただきます。ありがとうございます。

○鈴木委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたし
ます。
    午後零時六分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時開議

○鈴木委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。山尾志桜里君。

○山尾委員 民進党山尾志桜里です。
 きょうは性犯罪厳罰化法改正案の質疑ということですけれども、当事者が早
期の実現を強く望んでいるということを理由に本日採決ということであるなら
ば、私は強く抗議をしたいと思います。
 皆さんのお手元に、性暴力禁止法をつくろうネットワークの皆さんが五月二
十九日に出された緊急声明をお配りいたしました。
 まず第一段落目、最初の文章を見てください。「与党の合意により組織犯罪
処罰法改正案の審議が刑法性犯罪の改正案の審議より先行されたことにより、
今国会期間中での刑法性犯罪の改正実現が危ぶまれる事態となりました。」こ
のように書かれています。
 当事者の皆さんは御存じです。この性犯罪厳罰化法の審議がおくれにおくれ
ているのは、自民党公明党の皆さんが後から共謀罪を数の力で強引に押し込
んできたことが唯一最大の原因であります。自民、公明の皆さんは、きょう一
日で質疑、採決、こういう全く不十分な日程を強行している責任は御自身にあ
るということを認識すべきだと思います。
 二点目、この緊急声明の最後の段落をごらんください。「審議にあたって
は、当事者の声に耳を傾け、改正案に盛り込まれなかった論点も含めて十分に
議論することを強く求めます。」と。
 私たちは、何よりも当事者の声をこの法務委員会で聞くべきだと参考人質疑
を強く求めてまいりましたが、自民党公明党はこれを無視しました。性犯罪
はその多くが密室で行われ、被害者にしか届けられない叫びがあります。しか
し、つら過ぎて声を上げられないたくさんの被害者の方もいらっしゃいます。
そういう被害者の方の思いをしょって、実名を出して声を届けてきた当事者の
方がいるんです。その当事者の方が、これまで、本で、メディアで、集会で、
どんな思いで筆をとり、マイクをとって演壇に立って活動を続けてきたか。そ
して、その方々が、いよいよこの法案を審議する国会で、この法務委員会で声
を届けたいとおっしゃっていることを無視してその機会を握り潰すというの
は、私は、大変恥ずかしいことを与党の皆さんはしていると思います。
 三点目、改正案に盛り込まれなかった論点を十分に議論してほしいと書いて
あります。
 その議論の時間は、自民党公明党の判断で、きょう一日しかこの衆議院
はありません。私も持ち時間の中で全力で当事者の思いを伝えるつもりですけ
れども、重要な論点に絞っても恐らく時間は足りないでしょう。
 百十年待った当事者の思いが、ようやくこの百九十三回国会で受けとめられ
ようとしています。その国会で縁あって法務委員を務めさせていただいている
にもかかわらず、なぜ与党の皆さんは、せめて当事者が議論してほしいと提示
している論点をできる限り議論する時間を確保する努力をしないんですか。
 こういった論点は、被害者の方が体を、心を削られるような思いで被害体験
の記憶を何度も何度も喚起して言葉にして人前に出してきた、こういう思いの
結晶です。今回の法案でその全てに立法措置を施すことは難しくたって、その
論点を議論して議事録にとどめて、今後の見直しの建設的な検討に結びつけて
いくことが、せめてものこの部屋の中にいる法務委員の責務だと私は思いま
す。
 参議院での共謀罪審議を例えば一旦とめて、正当な手続どおり最初に提出さ
れたこの性犯罪厳罰化法を審議すれば、この衆議院だってあと一日でも二日で
も日程をとった上で今国会で成立させることはできるんです。あるべき姿に戻
すだけのことです。そんな当たり前の努力すら放棄しながら、きょう一日で採
決まで強行して、地元などで、性犯罪厳罰化法を通しました、こんなふうに報
告する、こういう姿は、申しわけないけれども、与党の皆さん、大変恥ずかし
いやり方だ。これは私の意見として申し上げ、論点に入りたいと思います。
 時効の論点です。
 六月二日の本会議、この性犯罪厳罰化法の審議入りに当たって、四人の議員
が代表質問に立ちました。維新を除く三人の議員全員、我が党の井出議員、公
明党の國重議員、共産党の池内さおり議員、三人とも、魂の殺人という言葉を
使ってこの性犯罪の重大性を訴えました。
 大臣にお聞きします。性犯罪は魂の殺人であるという表現、適切だと思われ
ますか。

○金田国務大臣 山尾委員の御指摘にお答えをいたします。
 先般の六月二日の本会議において質問をいただきましたが、そのときに確か
に魂の殺人というお話もございました。私も、そのお話をしっかりと聞かせて
いただいたと思っております。

○山尾委員 しっかりと聞いたかどうかということではなくて、別に私は、リ
ーガルターム、法律用語としてこれが当たるのか当たらないのか、そういうこ
とは聞いていませんけれども、魂の殺人という表現は法務大臣にとってどうい
う表現として受けとめていらっしゃいますか、まさか不適切だとは思われてい
ないと思いますけれども、そういった点をお伺いしております。

○金田国務大臣 非常に重い御発言だと思っております。

○山尾委員 なぜ、この性犯罪がほかの犯罪と異なり、魂の殺人とまで表現さ
れているのか、そのゆえんはこの犯罪のいかなる特徴にあるというふうに大臣
は考えていらっしゃいますか。

○金田国務大臣 やはり、このたびの法案に出てまいります強制性交等罪など
の性犯罪というのは、被害者の人格やその尊厳というものを著しく侵害するも
のであるという点において私は認識をしているつもりであります。

○山尾委員 それでは、殺人で時効の撤廃がなされたにもかかわらず、魂の殺
人と言われる性犯罪について、未成年者を被害者とする場合の公訴時効の停止
すら今回盛り込まれなかった理由はなぜですか。

○金田国務大臣 お答えをいたします。
 年少者が被害者である場合の性犯罪被害の深刻さ、あるいは、そのような犯
罪について厳正な対処が必要であるということは認識をいたしております。
 もっとも、公訴時効期間の進行を停止したとしても、特に年少者の記憶につ
いては変容するおそれが大きいということなどを考慮いたしますと、犯罪事実
の立証が困難である場合も少なくないということ、あるいは、性犯罪について
は被害者の供述が唯一の証拠である場合もあって、そのような場合には、被疑
者、被告人の防御という観点からも証拠の散逸が問題となってくるといったよ
うなことから、年少者が被害者である性犯罪について、公訴時効の停止という
ものには慎重な検討を要するというふうに考えておる次第であります。

○山尾委員 年少者の記憶が変容する、そういう類型的な特徴を持っていると
いうことは、私も、そういった未成年者の性犯罪被害者、検事のときに何度も
事情聴取をさせていただいていますので、わかっております。そして、この性
犯罪という密室で行われる類型的な特徴を持っている犯罪ですから、こういっ
た供述が唯一の証拠である場合があり得るということもわかっております。
 それでは、大臣にお尋ねをします。被害を受けた子供には何の落ち度もあり
ません。その子供の記憶が変容するからもしかしたら有罪をかち取れないかも
しれない、こういうリスクをなぜその被害児童のみが負わなければならないの
ですか。

○金田国務大臣 確かに、被害者が年少の場合には公訴時効を停止する制度を
設けておくことはどうかという点についてなんですが、事案によっては有罪の
立証が可能な場合もあり得ることは否定できないと思われるわけであります。
 例えば、性犯罪に特有の問題ではないかもしれませんが、およそ犯罪一般に
該当するものであって、被害者が年少の場合の性犯罪に限って公訴時効を停止
するという合理的な理由になると言えるかどうかという疑問があること。それ
から、被告人に有利なものも含めて、被告人の防御という観点からも、証拠の
散逸の問題を考慮する必要がある、先ほども申し上げたんですが。鑑みます
と、被害者が年少の場合の性犯罪に限って取り扱いを異なる形にすることは慎
重な検討を要するという思いを申し上げております。

○山尾委員 今、大臣は二点おっしゃいました。未成年者の性被害、このこと
に限ってこういった時効停止ということをとるのがいいのか、本当にこれだけ
なのか、もしかしたらそのほかもあるのではないか、そういうようなことを一
点おっしゃいました。そして、二点目は、被告人、被疑者の防御の観点という
ことをおっしゃいました。
 まず、一点目について重ねてお尋ねをいたします。
 未成年者が被害者となる性犯罪については、特徴的な二つの点があります。
大臣みずからがおっしゃったように、未成年者でありますから、そもそも自分
が性被害を受けているのかどうか、それ自体が認識できない。そして、それが
認識できないにもかかわらず時効だけが進行していき、認識できる年齢になっ
たときには時効が完成しているというのは、明らかにほかの場合に比べて正義
にもとるのではないか。こういう特徴があるから、未成年者の性被害について
は、せめて例えば成年に至るまでは時効を停止するべきではないか、こういう
ことを申し上げています。ほかにもあるのではないかという論点とは全く異な
ることだと思いますね、これは非常に特徴的な話ですから。
 大臣、この点についてはいかがお考えですか。

○金田国務大臣 ただいまの御指摘に対しましては、局長から答弁をさせま
す。

○林政府参考人 未成年者について委員御指摘のような問題があるということ
については、そのとおりであろうかと思います。それゆえに、他国において
も、こういった時効を停止するという制度を持っているところがございます。
 他方で、今回、そういったことの御指摘も踏まえながら、やはりこの問題に
ついては、未成年者の問題というのも性犯罪特有の問題ではないわけでござい
ます。性犯罪に限って公訴時効を停止する合理的な理由になるかどうかは疑問
があるという点。それから、実際に公訴時効制度を変えることによってそうい
った起訴、処罰に実際に至るのかということを考えますと、必ずしもそういう
ことにはならず、依然としてその証拠がないために起訴、処罰できないという
ことも考えられるわけでございます。
 やはりこういった問題については、公訴時効の制度をもって解決するという
ことではなくて、子供たちの権利を守って、被害者を救済するためには、早期
にその児童の性的虐待というものを発見し、またこれを顕在化して、適切に刑
事手続につなぐようにしていくことが重要ではないか、こう考えている次第で
あります。

○山尾委員 一つ一つ反論させていただきたいと思います。
 まず、早期に発見する努力をするべきだということはそのとおりです。しか
し、それでも早期に発見できない事例というのは必ず残ります。なので、早期
に発見する努力をするべきだというのは、私は、正面からの理由になってない
というふうに考えます。
 そしてまた、未成年者については、性被害以外についてもそういった記憶の
減退等々があり得るので、性被害に限る合理的理由があるのかどうか、こうい
う疑問を提示されました。
 しかし、未成年者については、今の法体系の中でも、十三歳未満は同意があ
っても犯罪が成立する、こういった特殊な法規定が置かれております。ほかの
暴行とかそういったものとは違うわけですね。
 なぜそれが違うのか。ほかの犯罪態様、被害態様と性被害は違うからです。
法自身が、例えば十三歳未満であれば、やはり少なくとも、性に対する被害を
受けている、こういうことを認識できない、あるいはしっかりとした認識のも
とに有効な同意ができない、そういった判断を法が下しているわけですね。
 例えば、十三歳未満の被害者としましょう。そして、法みずからが、そうい
った者にはやはり性犯罪、性被害を受けているという認識に欠けているんだ、
なかなか有効な同意ができるまでのそういう能力に至っていないんだ、こうい
うことを認めているにもかかわらず、時効だけが進行して、結局、その能力を
身につけたときには時効が完成してしまう。こんなのは法の中で矛盾してしま
いますし、正義にもとるというふうに思うんですけれども、この点、大臣はい
かがお考えですか。

○金田国務大臣 先ほどの刑事局長の答弁の引き続きの御質問でございますの
で、引き続き刑事局長に答弁させます。

○林政府参考人 十三歳未満の者について、暴行、脅迫等を伴わなくても強姦
罪が成立する、こういったことにしているのは、当然それは、性的な自己決定
権、性的な自由というものを、そういった場合には同意することができないよ
うな年齢なわけでございますので、そこに着目して、その者については、暴
行、脅迫はなくても犯罪が成立するようにしているわけでございます。そうい
ったことと、時効制度をどのように考えるかということとは直接は結びつかな
い話だと思います。
 委員御指摘のとおり、時効制度を、ここの場合に、これは性犯罪に限らなく
てもいいのかもしれませんが、年少の者について、大人になるまであらゆる時
効をとめるということ、公訴時効の停止といった制度を持つ、あるいはそうい
った考え方そのものについて、私は否定するつもりは全くございません。
 しかしながら、現在の公訴時効制度というのは、やはり時の経過による証拠
の散逸等に基づく法的安定の要請と、一方で被害を受けた方から見た犯人処罰
の要請、こういったものを調和する制度でございまして、そういったことから
考えますと、この制度の中で性犯罪のみについてこういった公訴時効の制度と
いうことを援用させることについては合理的な理由を見出せないと考えている
わけでございます。
 その合理的な理由というところの一番大きな点は、やはり子供の記憶という
ものについては変容のおそれが大きいということを考慮いたしますと、こうい
った公訴時効期間制度を停止したといたしましても、これについて、証拠の散
逸から、あるいは記憶の変容から、犯人処罰の要請というものを満たすことに
はなり得ない。いや、なりにくい。なり得ないということではございません。
必ずそういったものを満たせるわけではないものですから、そういったこと
で、今回、公訴時効の制度というものについては、これを援用させることを考
えなかったということでございます。
 もとより、委員が御指摘になるような公訴時効制度でこの問題についても対
応する、そういった対応の仕方というものがあることは重々承知しております
けれども、今回、検討の結果、そのようにしたということでございます。

○山尾委員 大臣が局長に聞けと言うから、局長に答弁いただいても、私は、
性被害特有の事情がありますよねと、合理的な理由を申し上げたと思うんです
ね。それをお聞きになっているにもかかわらず、答弁の中で、性被害以外でも
いいのかもしれないというような言葉を紛れ込ませて論点を拡散したり、ずら
したりするのであれば、私は大臣に答えていただきたいというふうに思います
よ。
 性被害という特有の事情があるから、未成年者の性被害については、この時
効を成年まで停止させるということには合理的な理由があると思いますよ。だ
って、性被害をそれと認識できずに、被害申告して時効を中断することが不可
能なのに、不可能を前提にして時効を進行させて、可能になったときは時効が
完成している、これはどう見たってこの問題特有の不正義じゃないですか。な
ぜそれを放っておくんですか。
 今、何か、今回はこういう方法があることは承知しているけれども入れない
ことにしたと。理由になっていないじゃないですか。
 そして、最後の方にもう一回おっしゃいましたね。結局、証拠が散逸してい
るから、実際に有罪にできるのかと。なり得ないというのを、なりにくいと訂
正されましたけれども。
 そういった、裁判にチャレンジをし、そして立証にチャレンジをし、そこで
実際有罪をかち取れるかどうかは、それはわかりません。でも、大人になっ
て、自分が受けていたのはやはり性被害なんだ、決して、わからずに受け入れ
ていた自分が悪いのではないんだ、その犯罪に及んだ相手が悪いんだというこ
とをやはり社会にしっかり認識してもらいたい、チャレンジしたい、こういう
当事者がいるときに、なぜ、いやいや、やったって有罪になるかどうかわから
ぬよと。チャンスを奪う理由にはならないと私は思います。
 刑事局長の答弁は理由にならない答弁ばかりだったというふうに思います
し、イギリスは性犯罪について公訴時効がありません。フランスは、未成年者
に対する強姦の時効は成年に達したときから進行します。韓国も同様です。ド
イツは、主たる性犯罪について、被害者が二十一歳になるまで停止です。なぜ
日本は今回これだけの改正をする中でこの程度の正義すら実現できないのかと
いうことを、私は大変不思議に思います。
 政府はできない理由ばかりおっしゃいますけれども、性犯罪の罰則に関する
検討会、確かに有識者の方は話し合われました。法制審議会刑事法部会、これ
も外部の方が話し合われました。
 例えば、この検討会の委員あるいは刑事法部会の委員としてこの時効停止を
猛反対されたのが、共謀罪のときにも法制審幹事として、このときは全面賛成
の立場に立たれた井田教授。検討会、審議会の中で、この未成年者レイプの問
題については、時効停止について猛反対をされています。
 そういった立場で意見をおっしゃるのは専門家として自由ですから、それに
対して私が感じたことを申し上げたいと思います。なぜなら、政府と同じ方向
だから。
 例えば、この井田教授は、未成年者レイプの時効停止の反対理由として、法
制審で、性犯罪の場合だけ時効の進行をとめるというのは、性犯罪の場合に
は、時間が経過してもなお正しい裁判ができるという特殊性があると言えて初
めて合理化できる、正当化できると。相当、被疑者防御の観点を重視されてお
られました。
 一方、共謀罪における参考人質疑では、私が、捜査時期が早まって捜査の範
囲が広がる危険があるのではないか、こういうふうに丁寧にお尋ねをしました
が、誤った人を捜査の対象にしてしまうおそれというのは、それは全ての刑罰
法規につきものであって、それはやはりそれに対応していかなければならない
のであって、今回の法案がとりわけ危険が高いわけではないというように、包
括的共謀罪においては、明らかな特殊性を度外視して、私から見るとかなり弛
緩した答弁をされていました。
 私は、未成年者レイプについても共謀罪においても、被疑者防御の観点は非
常に重要だと思っています。ダブルスタンダードは、私も含めて、こういった
議論のプレーヤー一人一人が厳に自分を戒めるべきだというふうに思っていま
す。結論ありきで、そういった被疑者防御の要請を、この犯罪については重視
したり、こっちの犯罪については軽視したり、そういうことがあってはならな
いように気をつけなきゃいけないというふうに私も思っています。
 そして、この未成年者を対象にした性犯罪の時効停止は、もちろん密室犯罪
です、第三者の存在が考えにくい、客観証拠が残りにくい、当事者の記憶に基
づく供述証拠への依存度が高まりやすい、被疑者防御の観点から課題があるこ
とはわかります。だからこそ、時効の撤廃とは言わずに、成年までの時効の停
止ではいかがか、こういうふうに提案をしているわけです。
 そういった、被疑者防御、冤罪というリスクを何ら落ち度のない未成年者の
性犯罪被害者に全て転嫁させて、裁判で事実を明らかにする努力すら国家が、
社会が、政府が放棄するというのは私はやはり正義に反すると思うので、大
臣、本会議では、慎重に検討すべき事項だ、こういうふうにおっしゃっておら
れましたが、私としては積極的にこの改正法実現を契機に検討していただきた
いと思いますけれども、大臣自身の言葉で、特に紙を見てどうのということで
はないと思いますので、この点について最後に答弁をお聞きしますので、大臣
の考えをお伺いします。

○金田国務大臣 山尾委員の御質問に、先ほどから刑事局長がお答えをいたし
ております。その上で、私に再度御質問でございますので、自分の考えを申し
上げるとすれば、公訴時効制度は、犯罪一般について、時の経過による証拠の
散逸等に基づきます法的安定の要請と犯人処罰の要請というものの調和を図る
ものである。この趣旨は、性犯罪の被害者にも及ぶものであると考えておりま
す。
 なお、この点に関しては、先ほど話題に出ました性犯罪の罰則に関する検討
会におきましては、公訴時効制度を変えることによって加害者を起訴、処罰で
きるのかというと、そのようなことにはならず、依然として証拠がないために
起訴、処罰できないと思われるという指摘があったことは申し上げておきます
し、また、子供たちの権利を守り被害者を救済するためには、早期に児童の性
的虐待を発見、顕在化して、適切に刑事手続につなげるようにしていくことな
どが重要だという指摘も出たところでございました。そういう中で私どもは判
断してきたという部分を申し上げたいと思います。

○山尾委員 今大臣がおっしゃったことは刑事局長がおっしゃったことで、私
はそれに対する反論をもう既に申し上げていますから、再反論をいただきたい
んですね。そちらが答弁されて、それに対して私が反論して、もとの答弁に戻
ったのでは、議論の積み上げにならないんですよ。
 この時効について、結局、本会議の答弁は慎重に検討するということであり
ましたけれども、私はしっかりと、この改正を契機に検討の俎上に積極的に上
げていただくべきだと、これからも強く主張申し上げたいというふうに思いま
す。
 次に、暴行、脅迫要件についてお話をします。
 当事者の方々からは、暴行、脅迫要件が、判例では反抗を著しく困難ならし
める程度、こういった形で要求されていることも含めて、かなり本来有罪であ
るべき者が無罪になっているのではないか、こういう指摘があって、この暴
行、脅迫要件の見直しをしてほしいと多くの声が寄せられていますし、大臣の
もとにも寄せられていたと思います。
 今回この件について見直しがされなかったのはなぜですか。

○金田国務大臣 ただいまの御質問にお答えをいたします。
 強姦罪における暴行または脅迫の程度というものは、判例上、反抗を著しく
困難ならしめる程度のものであれば足りると解されております。具体的には、
被害者の年齢、精神状態のほか、行為の場所の状況、時間等諸般の事情を考慮
して、事案に即した適切な判断がなされているものと考えております。
 御指摘のように、より軽度な暴行等が用いられた場合にも強制性交等罪が成
立すると考えることについては、暴行または脅迫が要件とされている趣旨をも
踏まえて、慎重な検討が必要であるというふうに考える次第であります。

○山尾委員 私の疑問は、反抗を著しく困難ならしめる程度が要求されている
のはなぜなのかということなんです。
 なぜ、困難が著しくなければ反抗できるだろう、こういう話になるんでしょ
うか。この著しいという要件を所与のものとしてこの要件解釈を続けると、大
臣、暴行、脅迫があって、しかも性行為があった、そして本人は同意していな
いと言っている、だけれども、結局、その暴行、脅迫が著しく反抗を抑圧する
程度のものでなかったから強姦罪にならない、こういうことが起きているんで
すね。
 なぜ、著しいということが必要だというふうに大臣は考えているんですか。
あるいは、なぜ、著しいということを必要としている判例の解釈が適切だとい
うふうに考えているんですか。

○井野大臣政務官 暴行、脅迫についてお尋ねでございます。
 確かに、判例上、暴行、脅迫については、反抗を著しく困難ならしめるもの
の程度というふうになっておりますけれども、そうした程度のものであるかど
うかについては、被害者の年齢、精神状態、行為の場所、時間等の諸般の事情
を考慮して判断されるべきものと解されておりまして、具体的な状況によって
は、確かに、単にそれのみでは、取り上げて観察すれば反抗を著しく困難なら
しめる程度には達しないと認められるものであっても、行為の時間、場所、諸
般の事情によっては反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行、脅迫が認められ
得るというふうに考えております。
 現に、判例、具体的な事例においても、例えば手首をつかんで引っ張る、背
後から抱きつく、ソファーに押し倒すなどの有形力の行使のみが認定された事
案で、被告人と被害者の体格差や、犯行場所に二人きりであったなどの事情を
踏まえ、反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行、脅迫があったと認定されて
いる事案があるというふうに承知しております。

○山尾委員 こういった判例解釈のもとで適切に事案を当てはめて適切な判断
を下している判例があるということは、私もそう思います。ただし、適切な判
断を下している判例があるということは、必ずしも適切ではないんじゃないの
という判例もあるからこういうことが問題になっているのであって、いや、中
にはちゃんと有罪になっていますよということは、これのままでいいという理
由には全くならないんですね。
 それで、私から、これはちょっとやはり問題を感じるべきだという、判例
ついて、有罪、無罪の判断が、全部を詳細に検討して間違っているとか正しい
とか言うつもりはありません、ただし、幾つかのこういった性犯罪の事案につ
いて、少し判示の文言を引きながら、本当にこういった判示を許すような要件
解釈でいいんですかということをお伝えしたいというふうに思います。
 例えば、東京高裁、平成二十六年九月十九日の判例です。これは、二十五歳
の成人男性が十五歳の小柄な女子中学生を、夜の学校の校庭、人けのない裏
側、暗い場所で姦淫した事件で、暴行、脅迫が抵抗を著しく困難にする程度の
ものとまでは言えず、無罪となった事例です。
 その判示の一部を読みます。被告人は、女生徒の肩を押して背中をコンクリ
ートブロックに押しつけた以外は、合意の上での性交の場合にも伴うような行
為に及んだにとどまり、女生徒の抵抗を排除するような暴行、脅迫は加えてい
ない、さらに、ここは大事です、性交の際の両者の体勢によれば、女生徒が足
をばたつかせるなどしさえすれば、性交を容易に妨げることができたと言える
と。足をばたつかせれば逃げられたでしょうと言っているんですね。
 でも、この事案では、この被害女子は、当時、左膝の靱帯をけがしていたこ
とが事実認定されています。そうすると、当然、足をばたつかせるなどの抵抗
も困難だったんじゃないのか、こういう問題も提起されるとも思われるのです
けれども、判例は、この女生徒は、この性交の現場まで二キロ以上歩き、性交
の際にもズボンをおろされないようつかんだり、被告人の手を押さえるなどの
抵抗をしたというのであるから、それなりの運動能力を保持していたと言え
る、こういうふうに判示されているんですね。
 そもそも性犯罪被害者が、恐怖の余りフリーズしたり、感情の麻痺が起こっ
てしまったり、何かすればよりひどいことをされるんじゃないかというふうに
思って当たり前の状況が十分にあり得るにもかかわらず、こういった事情は十
分に考慮されず、ましてや、ズボンをおろされないようつかんだ行為とか、手
を押さえるなどの抵抗をした、こういうことは認めながら、そういう抵抗をし
たということをある意味逆手にとって、こんなこともできたのだから運動能力
はあったでしょう、足をばたつかせることもできたはずでしょうと。著しい抵
抗をしていない、つまりこの被疑者の暴行、脅迫は抵抗を著しく困難にする程
度のものではない、したがって無罪と。
 こういう事案は、今の事案ですね、専門家の間でもその判断に疑問が呈され
ている判例ですけれども、裁判例ですけれども、個々の判例を知らなくても当
たり前だと思いますが、大臣、この事案を聞いたことはありますか。

○金田国務大臣 今、詳しく教えていただきました。

○山尾委員 スルーすればいいんですけれども、私、そういう答弁は嫌いなの
で、申し上げますね。
 詳しく伺いましたというのは、簡単には知っていたんですか。私は、知らな
かったと思いますよ、この事案は。知っていたか、知らなかったかと聞いてい
るので、どうぞお答えください。

○金田国務大臣 全く知らなかったかと言われれば、そうではありません。

○山尾委員 では、こういった事案を御存じの上で、本会議のとき大臣は、こ
の暴行、脅迫要件の裁判所の判断について、事案に即した適切な判断がなされ
ている、こういう答弁をされているんですか。

○金田国務大臣 先ほど、私が最初にこの課題について答弁をしたとおりであ
ります。
 強姦罪における暴行または脅迫の程度は、判例上、反抗を著しく困難ならし
める程度のものであれば足りると解されており、事案に即した適切な判断がな
されているものと考えておるわけであります。

○山尾委員 この性犯罪厳罰化法は、みんなで成立させて、しかし、残された
課題をちゃんと顕在化して議事録に残そうという思いで質問をしていますし、
無罪に対して疑問が呈されている判例というのはたくさんあるので、別に知ら
なくていいんですよ。
 ただ、こういう事案を知っていただいて、この場でも共有すれば、やはりち
ょっとこの問題は今後この法務委員会でも、あるいは大臣としても、ちゃんと
検討していかなきゃいけないよね、みんなでそういう問題意識をちゃんと共有
しようという思いで聞いているんですから、何か答えられないようなときに、
全然関係ない、最初に答弁したとおりと、もとの、全然関係ない答弁ブロック
に戻るような不誠実な姿勢はちょっとやめていただきたいというふうに思いま
す。(金田国務大臣「委員長」と呼ぶ)いや、結構です、私の質問に答えてい
ただければ。
 もう一つ、事案をお話しさせていただきましょう。
 鹿児島地裁名瀬支部、平成十四年の事案です。被害女性に自動車で自宅まで
送るように言って、被疑者を自宅まで送り届けた被害女性に対して、被疑者が
自分の部屋で姦淫し、傷害を負わせた強姦致傷の被疑事件です。これも同じよ
うに、暴行、脅迫の程度が足りないということで無罪になっています。
 この判決では、こういうふうに書いてあります。被告人による暴行も、手を
つかんで引っ張ったり、胸を突いて倒したり、馬乗りになるといった程度のも
のであり、強姦行為の際に多く見られる殴打、扼首などの激烈な脅迫がなされ
た形跡はないとして、無罪です。なおかつ、この判示のなお書きで、翻ってみ
るに、被害女性が格別の抵抗行動をとらなかったことから、被告人はこのよう
な抵抗排除手段をとる必要がなかったと言うこともできると。
 先ほど政務官が、判例の解釈の中でも、ソファーに押しつけたというか、こ
ういう事案でも認められていることがありますよと。あるんでしょう。でも、
さっき申し上げたように、コンクリートブロックに押しつけた場合でも認めら
れていない判例もあるんですね。
 さっき政務官が、手をつかんで引っ張った、暴行、脅迫でもこういうような
認めている事案はありますよと。あるんでしょう。でも、このように、手をつ
かんで引っ張ったりという程度のもので、殴打とか首絞め、扼首とかこういう
激烈な脅迫はなかったということで、結局無罪にしている判例もあるんです
ね。
 ただ、周辺事情が違うので、一概にそれが適切だとか不適切だとか、ここで
それを確信的に判断するつもりはありません。だけれども、こういった判示が
なされていることは事実なんですね。だから、きちっと被害者に寄り添った判
断をする判例もあれば、疑問が呈されるような判例もある。
 私は、今、裁判所、裁判官個々の資質も一つの論点としてあるでしょう、で
も、やはりこういったかなり幅の広い解釈が当てはめの中でされてしまうとい
うことは、つまるところ、構成要件の設定にやはり問題があるのではないです
か、こういうことを申し上げているんですね。
 だから、やはりこの暴行、脅迫要件をもう少し被害者の声に寄り添って考え
直す、検討し直す、こういうことは私はやるべきだというふうに思いますけれ
ども、大臣、この点はいかがですか。

○金田国務大臣 先日の本会議において私が述べたその考え方を先ほどお尋ね
になりました。したがって、最初の申し上げたことと同じことを申し上げるこ
とになった経緯はあります。
 そして、今また改めて聞かれているわけですから申し上げますが、事案に即
した適切な判断がなされているものと考えてはおりますが、御指摘のように、
強制性交等罪が成立する際の、暴行または脅迫が要件とされているその趣旨を
も踏まえて慎重な検討が必要であり、また、委員から御指摘があったそういう
ことの課題が、今御指摘されているその背景というものも踏まえて、私もそう
いう御指摘もあるんだなというふうに改めて受けとめておる次第であります。

○山尾委員 今大臣がおっしゃった暴行、脅迫が要件とされている趣旨は何で
すか。

○井野大臣政務官 あくまでも保護法益が、女性というか被害者の性的自由意
思を抑圧というか反するというか、そのために、明確にするために暴行、脅迫
というものがあるというふうに考えております。

○山尾委員 政務官のおっしゃるとおりだと思います。
 本質は、その意思に反して性的自由が奪われている、これが本質である、た
だし、その意思に反しているかどうかというのは内心、主観面だから、それを
客観面、客観的な要件として顕在化させておかなければ逆に被疑者防御の観点
にやはり問題がある、そういった主観的な内面のものを客観面にある意味転化
させた、顕在化させた構成要件が暴行、脅迫だ、そのとおりだと思います。
 私も、さっき申し上げたように、この性被害であったって被疑者防御の観点
は重要だと思うから、何らかの形でそういった客観面の構成要件をきちっと摘
示し続けて、外延をはっきりさせておくことは重要だと思う。
 だけれども、そうであれば、暴行、脅迫というものを仮に必要とするとして
も、何も著しく反抗を困難にする程度の暴行、脅迫である必然性は全くないの
ではないかというふうに思うんですけれども、政務官、いかがですか。

○井野大臣政務官 あくまでも構成要件上は暴行、脅迫という文言のみでござ
いまして、著しく反抗を困難ならしめる程度のものというふうな、判例による
解釈でございますので、場合によっては、こういった議論を通じて裁判所、最
高裁の裁判例とかの変更があるかもしれませんし、それはまた事案のケースに
よるものなのかもしれません。ここまでしかちょっと答えられないということ
で御理解いただければと思います。

○山尾委員 先ほどの大臣や政務官がおっしゃっている規範は、恐らく昭和三
十三年の最高裁判例の規範をおっしゃっていると思います。何年前でしょう
か。昭和三十三年だから、五十九年前か。
 そろそろ、裁判所の判例が変わるかもということではなくて、やはり立法府
立法府の意思でこの構成要件の変更ということに取り組む時期に来ているん
じゃないですか。今回の刑法改正だって一つの大きな取り組みだと思いますけ
れども、やはりその次に、ここにもしっかり立法府が責任を持って検討してい
く、対処していくということが私は大事だと思いますので、そういった観点で
しっかりと今後も法務委員会で議論していきたいというふうに思います。
 その次に、少しだけ監護のことについて論点提示をしたいと思います。
 今回、いわゆる現に監護する者による性犯罪については暴行、脅迫がなくて
も犯罪化するということが提示をされております。このこと自体は一歩前進だ
と思いますが、私が検事をやっていたときに、忘れられない映像があるんで
す。暴行、脅迫はない、しかし、明らかに少女の意思に反して、その性的自由
が大人、学校の先生によって踏みにじられている強姦の撮影動画です。そうい
う映像をたくさん見てきました。学校内で先生が生徒に、スクールセクハラな
んという言葉ではおさまりませんね、強姦、レイプをして、そしてそれを動画
に撮っているんですね。そういう事例をたくさん見てきました。その動画もた
くさん見てきました。
 私は、全ての先生と生徒に対して、まさに今回の現に監護する者に当たるか
どうかということについては、これは個別具体的な判断があってしかるべきか
もしれません。
 ただ、大臣は答弁の中で、今回の現に監護する者の解釈を本会議でおっしゃ
っています。一般論として申し上げれば、教師については、通常は、生徒との
間に生活全般にわたる依存、被依存ないし保護、被保護の関係が認められない
ことから、当たらない場合が多い、こういうふうに答弁されていますね。
 だから、規範として生活全般にわたる依存、保護の関係が必要だ、こういう
前提に立っているんですけれども、なぜ生活全般にわたることが必要なのか。
 小学生、中学生、やはり年端のいかない学生にとって学校という場は、生活
の全般、全てではないかもしれないけれども、ほとんど自分の世界がそこにあ
るという、大変大変、そこからなかなか自分の意思で逃れられない一つの社会
です。その中でこういう事案が起こるのであれば、現に監護する者の中に場合
によってはやはり先生というものが入ってしかるべき事例が私の感覚でいくと
相当あるのではないかというふうに思いますけれども、大臣、いかがですか。

○盛山副大臣 山尾委員の御質問についてでございますけれども、監護者わい
せつ罪そして監護者強制性交等罪において、監護するというのは、民法に親権
の効力として定められているところと同様に監督し、保護することをいい、十
八歳未満の者を現に監護する者とは、十八歳未満の者を現に監督し、保護して
いる者をいうわけでございます。
 学校の先生であり、あるいは学校の先生に限らないと思いますけれども、ど
の程度その被害者にとって、先生は生活の中でほとんど全てとおっしゃいまし
たけれども、それはやはりケース・バイ・ケースということになるかと思うも
のですから、具体的ケースに応じて見ていかなければわからない。ですから、
当たる場合もそれはある、そういうことじゃないかと思います。ケース・バイ
・ケースだと思います。

○山尾委員 ケース・バイ・ケースという御答弁をいただきました。一般的に
は当たらないと言い切ってしまうよりは、やはりケース・バイ・ケース、個別
具体的な事案によるんだ、こういう答弁が私は正確だろうというふうに思いま
すし、こういった答弁をいただいたことで、やはり今回の監護者、監護する者
によるこういった性犯罪というのは暴行、脅迫がなくたって犯罪なんだという
ことがしっかり社会に周知をされることは大事だというふうに思います。
 この点は、これが成立した暁に、実際にどういった運用がなされ、どういっ
た事例で判断が争われ、そしてどういった事例において監護する者に当たった
り当たらなかったりして、そこにはやはり処罰のすき間というのがあるのかな
いのか、そういったことを法務省としては丁寧に今後検証、分析していただき
たいというふうに思います。
 その次に、配偶者間にも強姦罪が成立するということを明示すべきではない
か、こういう論点がございました。今回この明示規定を見送った理由について
お尋ねしたいと思います。

○金田国務大臣 お答えをいたします。
 そもそも、条文上、配偶者間における強姦罪あるいは改正後の強制性交等罪
の成立は否定されておりません。これに反する判例もありません。むしろ、配
偶者間に限って明文の規定を設けた場合には、配偶者以外の親密な関係におい
ては強姦罪が成立しないかのような誤解を招きかねませんので、かえって問題
が生じ得るのではないかと考えられます。
 したがいまして、配偶者間においても強姦罪や強制性交等罪が成立し得る旨
の明文の規定を置くことには慎重な検討を要するものと考えておる次第であり
ます。

○山尾委員 いつも出てくる、ほかの親密な関係には成立しないという誤解が
招かれるというのは、私はためにする答弁だなと思っていつも聞いているんで
すけれども、そんなことはないですよ。別に一般的に強姦が成立するという刑
罰法規がちゃんとあって、配偶者間でも当然ですよということを置くことによ
って、何で突然、そのほかの親密な関係は成立しないという誤解が招かれるん
ですか。これは全く反論にならない反論だというふうに私は思っています。
 それに対して今大臣が、条文上否定されておらず、反対する判例がないとい
うふうにおっしゃったので、私は指摘をしたいと思いますけれども、例えば広
島高裁の判例、婚姻関係の破綻を強姦罪成立の要件としています。ひっくり返
せば、破綻していなければ強姦罪は成立しない、むしろそういう誤解を招きか
ねない判例ですね。あるいは、性交渉を夫の妻に対する権利の行使と捉えて、
暴行、脅迫を伴うような場合は、これは適法な権利行使じゃないからだめだ
よ、こういう東京高裁の判例もあります。
 私は、実際法文上は否定されていないし、判例もしっかり、当然夫婦間だっ
て、これは庇護の対象だから、こういう文脈だけで言っているんじゃないんで
すよ、夫婦だって個と個の人間関係ですから、夫婦だからということをもっ
て、個人の尊厳が傷つき、実際は犯罪であるものが犯罪でないかのように扱わ
れるのはおかしい。
 条文に明示されていないけれども、ちゃんとそれが、判例もきちっとわかっ
て、毎回毎回ちゃんと裁判例を出してくれるならいいけれども、実際には婚姻
関係の破綻がなければ強姦罪は成立しないとかそういう判例があるので、これ
は明示をしたらいいんじゃないですか、こういうことを申し上げているんです
けれども、いかがですか。

○井野大臣政務官 私は、これは恐らく、大臣が答弁されたとおり、夫婦間で
も当然否定されていないわけですし、かえって、夫婦間のみでも成立するよと
いう規定を置くこと自体も、ちょっとそれは不自然なのかなと。いろいろな恋
人関係もありますし、いろいろな親密な関係があるわけですから、夫婦間だけ
なぜ規定が置かれるんですか、逆にそういった疑問点も出てくるのではないか
なというふうに思いますので、夫婦間のみ規定を置くというのはちょっと適切
ではないというふうに思いますが。

○山尾委員 夫婦間だから性交渉を夫の妻に対する権利の行使と捉えている判
例があるから、そういう誤解があるから、夫婦間でも、いや、おかしいよ、こ
ういう明示の規定を置く必要性があるんじゃないか。必要性がなければ要らな
いんですよ、別に。でも、あるんじゃないですかということを私は申し上げて
いるわけです。
 もう一つ私はお伺いしたいんですけれども、この明示の規定について、国家
権力が家庭内に介入することは危険なんだ、こういう理由でこの明示を反対さ
れている方もおられます。大臣はこういう考えをとられているんですか。

○金田国務大臣 私の考え方は、先ほど申し上げたとおりであります。
 細目的な話になりますので、刑事局長に答弁させます。

○鈴木委員長 速記をとめてください。
    〔速記中止〕

○鈴木委員長 速記を起こしてください。
 金田法務大臣

○金田国務大臣 明示の規定を置くべきかという御質問であろう、こういうふ
うに思いますが、それであれば、私が先ほど申し上げましたが、配偶者間に限
って明文の規定を設けた場合には、配偶者以外の親密な関係においては強姦罪
が成立しないかのような誤解を招きかねず、かえって問題が生じる、このよう
に考える次第であります。

○山尾委員 私の質問は、要するに、配偶者間の規定を明示しなかった理由に
ついて、国家が家庭内に介入することは危険だからやめた方がいい、こういう
論を張る方もいらっしゃいます、大臣としては、これは理由に入っているんで
すか、入っていないんですかという質問です。

○金田国務大臣 お答えをいたします。
 御指摘のような考え方はとっておりません。

○山尾委員 こういう考え方はとっていないということでした。国家権力が家
庭内に介入することはよくないから入れないんだという考えはとっていないと
いうことですね。
 私の考えをこの件について申し上げます。
 家庭内で犯罪が起きている場合は、必要があるならしっかり権力が介入すべ
きだと思います。だけれども、自民党憲法草案にあるように、相互に助け合う
義務のように、全く犯罪と関係ない家庭内、夫婦間、こういった規律について
国家が介入する必要は全くないし、すべきでもないということを私は申し上げ
たくて今お聞きさせていただきました。
 最後に、済みません、時間が本当に少しになってしまいましたけれども、司
法面接の話を伺いたいと思います。
 司法面接、要するに、年少者が性被害に遭ったときに、繰り返し、警察官、
検察官、児童相談所の職員、お医者さんに何度も何度も被害状況を尋ねられる
ことによる精神的な負担を軽減し、そしてまた、何度も尋ねられて供述が変わ
っていくことによって信用性を否定されて無罪になる、こういうことを防ぐた
めに、できるだけ専門家が連携して、可能な限り一度で終わらせよう、これが
司法面接の考え方です。
 そこで、まず法務省にお尋ねします。
 平成二十七年十月二十八日に、最高検察庁警察庁厚労省の三者が一斉
に、多機関連携を進めようと通知を出されました。ここからどうなったか。以
後、司法面接は、法務省は何件やりましたか、厚労省は何件やりましたか、警
察庁の把握するところでは何件やりましたか。

○盛山副大臣 今、山尾先生御指摘の、平成二十七年の通知以降、我々法務省
と関係の省庁で密接な連携、検討をしております。
 具体的には、警察庁厚生労働省などの関係府省庁が参加する児童虐待防止
対策に関する関係府省庁連絡会議を設置して、情報の共有その他、連携策の強
化をしているところであります。
 具体的な件数につきましては、局長の方から答えさせたいと思います。

○林政府参考人 件数を申し上げます。
 平成二十七年の十月二十八日の通知発出以降平成二十八年九月三十日までの
間に、百八十八例ございます。

○堀内大臣政務官 厚生労働省では、実施状況について四半期ごとに都道府県
などから報告を求めておりまして、先ほどと同じ期間、平成二十七年十月から
平成二十八年九月までに、合計二百十四件実施されているというふうに報告を
受けています。

○高木政府参考人 警察庁におきましては、都道府県警察から報告を求めるに
当たりまして、刑事事件として立件したものに限定して報告を受けているとこ
ろでございますが、お尋ねの期間におきまして、関係機関による協議を行った
上で代表者による聴取を実施し、事件を送致した人数につきましては、合計百
三十九名の児童でございます。

○山尾委員 ちょっと時間が来ていますが、一点だけ法務省に追加で聞かせて
いただいて、問題提起で終わりたいと思います。
 では、法務省、百八十八件ということですけれども、例えばその中で、最も
の趣旨である、結局、一回で終わらせることができたのか、二回以上になって
しまったのかとか、信用性が争われたのは何件だったのかとか、無罪になって
しまったのは何件だったのかとか、ちゃんと録音、録画でその信用性を担保で
きた、こういうものは何件だったのかとか、百八十八件という件数以外に、こ
の司法面接を今後連携してやっていくに当たって、必要な項目、リストといっ
たものをちゃんと分析されているんでしょうか、いないんでしょうかという質
問です。

○林政府参考人 今、幾つか言われましたが、例えば二回以上の事情聴取が行
われた事例というのは、先ほどの事例の中で三十四例ございます。それから、
無罪判決というものはございません。それから、録音、録画が実施された事例
というのは百五十例ございます。

○山尾委員 時間が過ぎたので終わりたいと思いますが、この司法面接をぜひ
しっかり前に進めていただきたいんです。きょう浮かび上がったのは、結局、
三者で定義がばらばらなんですね。警察は立件したものを数えている、厚労省
は二百十四件、法務省は百八十八件というふうに、定義が統一されておりませ
ん。しっかりと連携して、きちっと必要な定義を統一して情報共有していただ
きたいというふうに思います。
 そして、私は、実際法務省にはきのう聞いたんですよ、何件ありましたか
と。そうしたら、その時点では数えていないということだったんです。でも、
きのう、きょうにかけて頑張って数えていただきました。百八十八件、そして
二回以上が三十四件とか今局長はおっしゃいました。きのうからきょうにかけ
て数えていただきましたが、大臣、それではだめなんですね。せっかく通知を
出して三者で連携していこうとおっしゃっているんだから。しっかりまず中央
で三者の、名前はいいです、情報共有のための検討会なり協議会を立ち上げて
ください。そうでないと、それぞればらばらの定義で、結局、何が必要なのか
共有できないままこの試みは雲散霧消してしまいます。
 ぜひそのことを大臣にしっかりとお伝え申し上げ、そして、実際に論点が終
わらないんです、きょう一時間いただきましたけれども。最初に申し上げまし
た、刑法の改正は今国会で実現をするんでしょう。でも、残された論点がたく
さんあり、しっかりとそれを解消していくのは私たち立法府の役目なんだとい
うことをこの委員会全員で共有して、私の質疑を終わらせていただきたいと思
います。
 ありがとうございました。

○鈴木委員長 次に、井出庸生君。

○井出委員 午前に引き続き時間をいただきまして、ありがとうございます。
 午前中の質疑で、強姦それから準強姦の罰すべきその本質は不同意、不承諾
の行為である、そこに、その証左として暴行、脅迫ですとかいろいろな構成要
件が来ていると。最後に付言しましたのは、その不同意、不承諾の一連の行為
というものは、面識のない者より面識のある者同士の方が、外形上見えない形
で、暴行、脅迫とかがなくても、不同意、不承諾というものが鮮明化しない中
で性犯罪が行われることが起こりやすいと。ある本の一節を紹介させていただ
きました。
 そこで、まず、きょうお配りをしている資料、新聞でございますが、きょう
だいの兄が加害者、妹が被害者になってしまった事例を御紹介します。「許さ
ない:性暴力の現場で」「兄からの虐待 逃げ得…納得できない」、二〇一六
年十二月三日、毎日新聞地方版、群馬県内版の連載の第四回目でございます。
 少し御紹介します。
 うそでしょうと母は言い放った。兄を訴えたい、許せない、裁判で罪を償っ
てほしい、そう願ったが、親から反対され、警察には届けなかった。
 ナツキさん、仮名は、小学生のころの記憶がほとんどない。五歳上の兄のわ
いせつ行為が始まったのは小学校に入ってすぐのころだった。
 中学一年の冬、学校で警察官による防犯講話が開かれた。警察の言葉に、初
めて兄の行為が強姦という犯罪だと知った。
 ねえ、何でそんなことするの。その日の夜、思い切って兄に聞いた。返って
きたのは、何となくの一言。何となく。頭が真っ白になった。はらわたが煮え
くり返る。私の人生を壊しておいて、何となくって何なの。
 翌日、学校のスクールカウンセラーのところに駆け込んだ。すぐに担任教諭
と教頭が加わり、家庭に連絡が入った。駆けつけた母親は、娘の顔を見るなり
こう言い放った。うそでしょう、お兄ちゃんがそんなことするはずない。親戚
宅を経て、県内の児童養護施設に移った。
 親族の冠婚葬祭には極力出席しない。兄と顔を合わせたくないからだ。兄は
普通に就職し、恋人がいる。あのときの母の心情を思えば、息子を犯罪者にし
たくなかったのだろう。でも、納得はできない。
 記事をかいつまんで、ストーリーを御紹介しました。この記事では、こうし
たきょうだいの加害者、被害者の問題、今回改正項目の中に盛り込まれており
ます十八歳未満の子供に対する監護者の性暴力の罰則が親子の間にとどまる、
きょうだいの間、きょうだいというものは含まないことになったという問題提
起をされております。
 この記事は、このナツキさんという仮名の方が、小学生のころの記憶がほと
んどない、五歳上のお兄さんのわいせつ行為だと。そうしますと、お兄さんは
中学生ぐらいからそういうことをしていたのかなと推測されるわけです。そう
いうことを考えますと、先ほど山尾委員が指摘をされました、被害者が幼いと
きの時効というものをどう考えるかということもこの事例で考えることができ
るかと思います。
 私がきょうこの事例でまず伺いたいのは、きょうだいでそういうことがあっ
たときに、親が事を荒立てたくない、その結果、被害者が大きな傷を負うこと
がある。このケースは、家族とその後離れて、きょうだいは離れて暮らしてお
るようですが、場合によっては、きょうだいですから、離れたくても離れられ
ないようなケースもあるかもしれません。私自身、こういったものはそもそも
把握や対策というものが難しい、それを承知の上で、一体行政機関においてど
ういう把握また把握の仕方があるのか、その取り組みについて伺いたいと思い
ます。
 一応、通告は法務、文科、厚労とお願いをしているんですが、法務省は何か
ございますか。なければ、あるところから。では、お願いいたします。

○山本政府参考人 お答え申し上げます。
 きょうだい間で子供に対し性暴力が行われているにもかかわらず、保護者が
それを放置している場合は、児童虐待の一類型であるネグレクトに該当すると
考えてございます。
 ネグレクトの件数は児童相談所における虐待相談対応件数の内容別件数とし
て把握しているところでございますが、きょうだい間の性暴力など、その細目
の内訳の件数については現時点では十分な把握ができておりません。
 被害者が子供であるきょうだい間の性暴力のうち、児童相談所が関与してい
るケースについては児童相談所が把握しており、国として性暴力事案について
どのような形で把握することが適当か、児童相談所や関係者の御意見も伺いな
がら検討していきたいと考えております。

○神山政府参考人 お答え申し上げます。
 特にきょうだい間の性暴力に限定したものではございませんが、性暴力被害
者のケアや加害者の更生のための取り組みは大変重要なものであると認識して
ございます。
 このため、文部科学省におきまして、性暴力被害者のケアにつきましては、
まず学校におきまして日常の生徒指導や健康観察などを通じて児童生徒の問題
を早期に発見するようにしていますとともに、養護教諭、スクールカウンセラ
ー、スクールソーシャルワーカーなどの教職員が被害を把握した場合には、児
童相談所を初めとする関係機関と連携して対応することとしております。
 加害者の更生につきましては、文部科学省として特にこれに直接の取り組み
は行っておりませんが、再犯を防止するという観点から、例えば加害者のうち
希望する者に対しまして、学び直しを支援するためにその機会の提供を行って
いるところでございます。
 今後とも、性暴力被害者のケアに取り組みますとともに、再犯の防止につき
ましても、関係省庁と連携し、取り組みを行ってまいりたいと考えてございま
す。

○井出委員 法務省は、もし特に何かあれば。なければないでも結構ですが。

○林政府参考人 法務省としましては、きょうだい間の性暴力等について、具
体的な事案をどのようにつかむかという観点ではなくて、本法案の立案の過程
で、きょうだい間の性暴力についてどのような実態に触れたかということでお
答えいたします。
 法務省においては、性犯罪の罰則に関する検討会とか法制審議会の議論の参
考とするために、地位、関係性を利用した性的行為の起訴事例というものを調
査しました。その中には、実の親子間あるいは養親子間の事案のほかに、きょ
うだい間、兄妹等の事案についてがございました。兄について、強姦罪や児童
福祉法違反の罪で起訴された事例もございました。
 また、きょうだい間、兄妹間の性暴力の実態につきましては、法制審議会の
部会の中で行われたヒアリングにおきましても、兄と父親による性暴力の被害
者であって、近親姦虐待被害当事者のための自助グループの活動をしている方
から、兄妹間の性暴力の実態等について御意見をお聞きしたところでございま
す。
 その際、お聞きした方からは次のような意見が述べられておりました。
 誰かに気づいて助け出してほしい気持ちと同時に、世間にばれることで自分
や家族がその先どうなるか不安で、誰にも怖くて言えなかった。加害者になる
前の、大好きであった父や兄が処罰されるということについても抵抗があっ
た。被害者も加害者も社会全体も性被害に遭うことを恥と認識しており、この
認識を変えることで被害を訴えやすい社会になると思う。子供は助けを求めた
り何らかのサインを発信しているが、それをキャッチしたり安全に介入できる
ような知識や経験のある人たちにつながらなければ見過ごされ、状態を悪化さ
せ、結果的に諦めてしまう。
 こういったような意見が述べられていたところでございます。

○井出委員 このきょうだい間の事案というもの、この新聞の事例ですと、き
ょうだい間の強姦という話でありますので、れっきとした犯罪であると思いま
す。また、子供同士の性非行という言葉がふさわしいのかどうかわかりません
が、いろいろなケースも想定されます。
 あくまでこれは一般論なんですが、犯罪の被害に遭われた方というのは、加
害者に対するきちっと処罰をしてほしいという感情と、それともう一つ、犯罪
被害者の思いとして、どうしてそういうことをしたのか、真相究明。当然、犯
罪というものは加害者に責任がありますので、謝罪して許されるということで
はございませんが、謝罪を求められる被害者の方もいらっしゃいます。新聞記
事は、このお兄さんは本人から直接聞かれたときに何となくと答えていると。
 今、各省からそれぞれ話を伺いまして、私自身もこれは物すごく表面化しに
くい類型の話なのかなと思っております。こうしたものをどうしていくべきか
ということで、一つ、きょうは性教育の話について取り上げたい。
 性教育は、男性、女性の身体的な発達の経過を教科書で紹介する。それか
ら、高校生の教科書では、例えば結婚生活とか家庭生活ですとか、そういった
ものも紹介されております。その一方で、ならぬものはならぬ、こういうこと
をしてはいけないというような記載は余りというかほとんど見当たりません
し、あと、そもそも、私は本会議のときにも申し上げたのですが、男性と女性
が初めて性交渉を持つような年代というものもどんどん低年齢化していると言
われている。
 そういうときに一番しっかり教えなければいけないのは、本会議でも触れま
したが、やはり両者の同意である。それも、単に興味本位で、うん、いいよと
いう話ではなくて、一体それがどういうことで、どういう結果をもたらすか、
それに責任を持てるか。うなずくのも、嫌だと言うのも自分に委ねられてい
る。そういったことも含めて、その内容を理解し、対等性があり、強制性がな
く、そういった真の意味での同意というものを教えるべきではないか。
 小学生のときからそれを教えるかどうかは大変議論もあるかと思いますが、
少なくとも高校生には教えておく必要があると思います。中学生だって場合に
よっては教える。全ての子に教える必要があるかどうかはわかりませんが、そ
ういうことも検討すべきではないか。
 そこで、どうしてそういった同意についての記載というものがないのか、そ
の点についてまず伺いたいと思います。

○瀧本政府参考人 お答え申し上げます。
 学校における性に関する指導は、学習指導要領に基づき、児童生徒が性に関
して正しく理解し、適切に行動をとれるようにすることを目的に実施されてお
ります。具体的には、体育科、保健体育科、特別活動を初めとして、学校教育
活動全体を通じて指導することとしております。
 また、指導に当たりましては、委員からも今御指摘がありましたとおり、発
達段階を踏まえること、あるいは学校全体で共通理解を図ること、保護者の理
解を得ることに配慮するとともに、個々の児童生徒間で発達の差異が大きいこ
とから、集団で一律に指導する内容と、個々の児童生徒の抱える問題に応じ個
別に指導する内容を区別して指導することとしています。
 こうしたことを踏まえまして、中学校や高等学校の保健体育科の学習指導要
領におきましては成熟に伴う変化に対応した適切な行動が必要となることとし
ており、指導要領の解説において、自分の行動への責任感や異性への尊重な
ど、性に関する適切な態度や行動の選択が必要となることを理解できるように
しているところであります。
 また、御指摘のとおり、直接に同意ということについては明記をしておりま
せんが、性に関する教育に当たりましては、例えば道徳における、異性の特性
や違いをきちんと受けとめ、相手の人格をとうとぶ姿勢を育成すること、ある
いは特別活動において、男女相互の理解と協力の指導に関連して、性に関する
指導との関連を図った指導を工夫することといったものも行っておりまして、
学校教育活動全体を通じた性に関する指導の充実に努めているところでござい
ます。
 文科省としては、引き続き、こうした点についての指導について努力をして
いきたいと思います。
 以上であります。

○井出委員 今、いろいろお話をいただきました。
 少し私からも御紹介をさせていただきますと、例えば中学校の教科書、東京
書籍の「新編 新しい保健体育」。ここには「異性の尊重と性情報への対処」
という項目がありまして、一時的な感情に流されちゃいけない、自分の気持ち
や行動をコントロールして、お互いの心や体を大切にすることが必要ですとい
うような記述があります。これなどはまだ、同意とは書いていないんですが、
そう解釈もできなくないかなと。
 それから、高校で広く使われていると言われている大修館書店の「現代高等
保健体育」。男女の人間関係は、何よりも人間として対等で平等な関係を前提
として成り立つ。このあたりは、多少その後を先生が補足していただけば、そ
うした同意というものにつながっていくのかなと思うんですが。
 いかんせん、高校や中学の学習指導要領を見ますと、お話があったように、
相互の理解ですとか、尊重、責任感ですとか、正しく理解する、適切に行動す
るというものが中学校も高校も至るところに出てくるんですが、男女間の同意
であるとか、そういう具体のことは出てこない。正しく理解とか、相互の理解
とか、尊重、責任感という言葉で同意というものを読み込め、そういうことな
のでしょうか。

○瀧本政府参考人 お答え申し上げます。
 委員から御指摘のあった保健体育科を中心にいたします指導においては、性
教育の文脈においての異性の尊重という点が学習指導要領やその解説に記載さ
れており、それを具現化する教科書においても今紹介いただいたような記述が
あるところでございますが、これに加えて、先ほど申し上げたとおり、特別活
動において男女相互の理解と協力の指導という一般論としての指導のところが
ございますが、ここであえて指導要領の解説においては、性に関する指導との
関連を図るようにと。
 このことは、道徳科におきます、異性の特性や違いをきちんと受けとめ、相
手の人格をとうとぶ姿勢を育成する、ここにつきましてもあえて、保健体育科
における性に関する指導との関連を生かした指導の工夫をということで望んで
いるところでございまして、保健体育科を中心としつつも、学校におきます性
に関する指導は、道徳であったり特別活動であったり、さまざまな分野の教育
活動を通じて全体として行われているところでございます。こうした中で、先
生のおっしゃるような趣旨も含めて指導を行っていると考えております。
 以上であります。

○井出委員 教科書が大変何か抽象的で、前向きと言えばいいかもしれません
が、オブラートに包んだ表現であっても、先生の中にはきちっと説明される方
もいるかもしれません。また、いないかもしれませんので、一概に現状の性教
育がいいとか、だめだとか、そういうことを申し上げることはなかなか難しい
と思うんです。
 道徳の教科書、たまたま私は三年ぐらい前に文部科学委員会におりましたの
で、「私たちの道徳」という中学校の教科書、そこにもきちっと「異性を理解
し尊重して」という項目があります。
 好きな異性がいるのは自然のこと。あしたを生きるエネルギーにできたらい
いと思う。それは私もそう思います。だけれども、二人だけの殻にこもってし
まうと周りが見えなくなって、人間としての幅を狭めてしまうかもしれない。
考えてみよう、男女交際のあり方を。
 あとは何かメモ書きみたいなものがあって、好きに考えてくれ、あとは先生
次第というような形です。
 子供同士の話がなかなか表面化しにくいということは先ほど申し上げたとお
りです。被害に遭うか遭わないかというのはその二人の関係もありますので一
概に言えないんですが、やはり断るべきときは断る、断られたときはそれはだ
めなものだと認識する、そういうことを含めても、やはり性教育のあり方を少
し考えていかなければいけない。
 もっと言えば、性教育は、小学校も中学校も高校も、まず男性と女性の人体
の解説図から始まるわけですね。授業は四十五分、五十分が一こまで、何回や
るのかちょっと詳細には存じていませんが。その最後の方にそういう心の部
分、それも、尊重するとか、相互に理解するとか。よく歴史の授業が最後まで
行かないじゃないかというようなことを従前から言われておりますが、果たし
て心の、男女間の尊重ですとか、平等ですとか、そういうところまで指導が行
っているのかというところも大変疑問です。
 今回の法改正は、先ほど山尾委員もおっしゃいましたし、私も午前中申し上
げましたが、法律の改正だけで全てが解決する問題では到底ございません。子
供間の問題は、厚労省文科省法務省にお聞きしましたが、全部すぐに一〇
〇%行政がきちっと対応することがかなり難しい問題であるということはおわ
かりいただけたかと思います。
 必要なのは、性犯罪に対する理解というものを今回の法案審議をきっかけに
世の中に問題提起したい。それにはやはり当事者がここでしゃべっていただく
ことも私は必要だったと思います。性教育については、本会議でも申し上げま
したが、今回の法改正を高校だったらストレートに法改正があったと教えても
いいかもしれませんし、それは伝え方はあるかと思いますが、今回の法改正の
趣旨、それは世の中のいろいろな声があって、百十年間の積み重ね、遅きに失
したと思いますが、ここに至っているわけですから、このことをぜひ教育の分
野できちっと周知していただく。
 周知の仕方は私の方からきちっとは求めませんが、文科省の方で検討され
て、やはり年齢の高いところから考えていくとしても、高校、中学あたりには
このことをきちっと、通知、通達というものを出していただきたいと改めてお
願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。

○瀧本政府参考人 お答え申し上げます。
 今回の改正法にかかわりまして、その内容の周知、あるいはその中でとりわ
け児童生徒としても理解しておくべき点、ないしは教職員がきちんと理解して
おくべき点、例えば性暴力に遭った高校生や中学生が当然い得るわけですか
ら、そういう点で教職員はより深くきちんと理解しておく必要があるのだろう
と思っておりますので、今御提案のございました通達、通知を発出することの
検討を含めまして、文科省としては引き続き学校における性に関する指導の充
実に努めてまいりたいと考えております。

○井出委員 刑法の改正という長年なかったことの契機でございますので、何
としても通知、通達というものを強く検討を求めたいと思います。
 次の話題に行きたいと思います。
 きょう採決が予定されておりますが、昨日、少しその修正というものを御提
案、協議をさせていただきました。また、修正に至らなかったところについて
は、附帯決議というものも各党間で御相談をさせていただきました。後ほど提
案をさせていただきます。
 そのことを前提に少しお話ししたいのですが、今回、大変さまざまな御意
見、ここを改正してほしい、ここを改正してほしい、見直し規定は入れてほし
い、こういうものは附帯決議に入れてほしいというような御意見をいただいて
おります。その中で、今回の改正にとどまらず、落ちた論点もございますの
で、見直し規定を入れてほしいというお話がありました。
 そこで、法改正をきっかけに、この法律案の附則に、三年後を目途として、
性犯罪における被害の実情、法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案
し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策のあり方について
検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講
ずるものとする規定を追加しよう、そういう修正を考えております。
 今、早口で言って、何を言っているかわからないということになってしまっ
てはいけないので、御提案させていただいた趣旨をここで明確にしておきま
す。
 この見直し規定の趣旨は、性犯罪に対処するための施策の全体的なものを、
この法律が施行されてから政府に対し検討を求めていくものだ。その施策全般
とは一体何か。事案の実態に即した対処を行うための施策として、一つは、処
罰規定の整備、議論のありました構成要件の見直し、監護者わいせつ罪の主体
の拡大、性交同意年齢の引き上げ、暴行、脅迫要件の緩和など、今回、法制
審、その前の検討会からいろいろな御意見があった中で成案が得られなかった
ものについて引き続き議論をしていただきたい。それから、公訴時効の停止と
いうものも引き続き議論をしていただくべきだと思いますし、法律のみなら
ず、性犯罪被害者の支援策。これまでの質問の中に出てまいりました、ワンス
トップセンター、司法面接。与党の先生からもお話がありました、二次被害
なくすように、いわゆるレイプシールドといった考え方。
 そういうあらゆる施策を引き続き検討していくという趣旨を込めて、今回こ
の修正案を御提案させていただいております。当然、刑事局長、大臣におかれ
ましてはその趣旨を御理解いただいていると思いますが、改めて今申し上げた
ことについて答弁をいただきたいと思います。

○林政府参考人 今回の法務省としての本法案の提出に当たりましては、これ
まで申し上げましたように、検討会あるいは法制審議会の過程でかなりさまざ
まな御意見というものを伺って検討してまいりました。
 その中で、やはり今回法改正に至ったものと至らなかった論点というものが
ございますけれども、いずれにしましても、問題の所在あるいは改正の方向と
いうようなものについては、真摯にそれを受けとめて検討してきたものでござ
います。ある意味改正の方向性のベクトルについては基本的に同じような立場
に立ちながら、さらにどこまでそれを実現するかというような形で、今回一応
の結論を出させていただいたわけでございます。
 そういった意味におきましては、本法案の内容につきまして、さらにこの施
行状況を検討して、もう一度制度について見直しをするということについて
は、十分に真摯に受けとめて、適切な検討を行っていきたいと考えておりま
す。

○金田国務大臣 ただいま井出委員からお話がございました。
 私どもの刑事局長から申し上げたとおりでありますが、今回の法案の提出に
当たりましては、さまざまな観点からの御要望や御意見をお出しいただき、そ
れを踏まえて、法制審議会での審議も経て、十分に検討を行ってきたものとは
認識をいたしております。
 しかしながら、本法案の内容がそれで十分で、さらに課題となるものはない
のかという話になりますと、その後もさまざまな指摘をいただいているとおり
であります。
 したがって、今後また引き続いて、修正の趣旨やあるいは附帯決議の趣旨と
いうものを踏まえながら、そして必要な議論をいただいたことを踏まえながら
検討を続けていくということになるんだろう、こういうふうに考えておりま
す。

○井出委員 この見直し規定を御提案させていただくに当たりまして、刑法の
見直しを断続的にやっていくということが刑法の法律の安定性から見てどう
か、そういう御意見もありまして、私も昨晩、質問をつくりながら考えまし
た。
 しかし、大臣、聞いていただきたいんですが、きょうの冒頭の質疑で、旧刑
法から刑法をつくるまで、強姦の構成要件に暴行、脅迫という文言は最初は旧
刑法にはなかった、それからそれが出てきた、準強姦ができた、そして、準強
姦と強姦が一体となった文案が検討された時期も明治三十三年にありました。
そういう紆余曲折を経て、現行の刑法の構成要件というものができておりま
す。
 ですから、刑法を、百十年ぶりの改正ですから、これは物すごく歴史的な改
正で、一回変えたら百年、二百年にわたって普遍的なものでなければいけない
というようなことも最初は頭をかすめておりましたが、旧刑法から刑法に至る
までのいきさつを見ますれば、やはり適宜適切なものを追求していくための検
討というものは当然できるべきだし、過去の歴史においてはそれをやっていま
すので、そのことについてはぜひお願いしたいと思います。
 答弁いただいてもいいですか、もう一回。さっきいただいたんですけれど
も。

○金田国務大臣 井出委員のただいまの御指摘に対しましては先ほど申し上げ
たとおりでありますし、ただいまおっしゃっていることも私は理解しているつ
もりであります。

○井出委員 それから、もう一つ。
 附帯決議も幾つかお願いさせていただくことを予定しておりますが、大方、
今回は与党の先生方から御提案いただきまして、その中身も深く御検討いただ
いたものと評価をさせていただいております。
 その中で、性犯罪の起訴、不起訴の処分を行うに当たって、被害者の心情に
配慮するとともに、必要に応じてその処分の理由等について丁寧な説明に努め
ると。被害者の側に立って説明責任をしていこう、そういう趣旨のものも提案
を予定しておるのですが、先日私が本会議で国家公安委員長に尋ねた件につい
て、きょうは政府参考人ですが、伺いたいと思います。
 国家公安委員会の役割というものは、私が承知しておりますところ、警察行
政の政治的中立性の確保、警察運営の独善化の防止。この警察運営の独善化の
防止について、具体的に国家公安委員会というものはどのような取り組みをさ
れているのか、教えてください。

○高木政府参考人 国家公安委員会は、国民の良識を代表する民主的管理機関
としまして、警察行政の民主的運営と政治的中立性を確保するために警察庁
管理するという役割を担っております。
 具体的には、国家公安委員会は大綱方針を定めまして、警察庁がそれに即し
て事務を行うということとされておりまして、各種の報告等を受けた上で大綱
方針を定める、こういった活動をしているところでございます。

○井出委員 国家公安委員会と、また都道府県単位でもそれに準ずる組織があ
るかと思いますが、大綱を定めて、恐らく全国の警察が均一にと申しますか適
正に仕事ができるようにという観点かと思いますが、警察に対して指導をした
り調査をしたり。国家公安委員会というものは、今おっしゃったように警察か
ら離れた有識者的な方がなられると思いますが、その有識者、第三者的な立場
を発揮して調査、指導をするというような業務はあるのか、教えてください。

○高木政府参考人 国家公安委員会ないし都道府県公安委員会は、それぞれ、
国家公安委員会については警察庁都道府県公安委員会については都道府県警
察でございますけれども、そういった警察の執行組織を管理する機関というこ
とでございまして、所要の報告等を警察機関から申し上げますし、国家公安委
員会ないし都道府県公安委員会からは必要な報告を求めて、その上で管理を行
う、そういった業務を行っているところでございます。

○井出委員 報告を求めるというお話がございました。
 六月二日の国家公安委員長の答弁、私がある事件について尋ねたものでござ
いますが、その事件について、告訴を受理し、法と証拠に基づき必要な捜査を
遂げた上で、関係書類及び証拠物を東京地方検察庁に送付したものであり、ま
た、送付を受けた検察庁においても必要な捜査が行われたものと承知していま
すと。
 この承知というものは、報告を受けたのであって、必要な捜査を遂げたもの
国家公安委員会がみずからお調べになって認識したということではございま
せん、そういうことでよろしいですか。

○高木政府参考人 お尋ねの件につきましては、警察庁から国家公安委員会
員長に対しまして国会で御答弁申し上げるに際しまして事案の概要等を報告申
し上げた、こういった趣旨でございます。

○井出委員 報告があったと。
 その後、警視庁において必要な捜査が尽くされ、また、検察庁で不起訴処分
となっていることなどを踏まえ、検証を行うことは考えておりませんと。この
必要な捜査が尽くされたという点は、警視庁、警察庁の報告をもとに必要な捜
査が尽くされていると認識されているのか。それでよろしいですか。

○高木政府参考人 お尋ねの件につきましては、警視庁におきまして告訴を受
理し、法と証拠に基づいて必要な捜査を遂げた上で、関係書類及び証拠物を東
地方検察庁に送付したものでありまして、また、送付を受けた検察庁におい
ても必要な捜査が行われたものというふうに承知しておりますが、そのような
旨警視庁から警察庁に対しまして報告をいただき、警察庁から国家公安委員会
委員長にも報告を申し上げた、こういったことでございます。

○井出委員 全て警察庁、警視庁からの報告ベースであると。
 それから、最後に、そうしたことを踏まえ、検証を行うことは考えておりま
せんと。そもそも国家公安委員会は、あと都道府県の公安委員会は、個別の事
件について検証を行う権限があるのかないのか、伺いたいと思います。

○高木政府参考人 検証の権限ということになるといろいろな場合があると思
いますので、一概に申し上げることは難しいところでございますけれども、基
本的な制度の仕組みといたしましては、公安委員会は大綱方針を定めて警察機
関を管理する、こういった役割を担っているものというふうに認識しておりま
す。

○井出委員 基本的には報告を受けることが主な業務であって、この事件を離
れて、これまで例えば冤罪事件ですとかいろいろな事件について検証といった
ものが捜査機関において行われてきた、それは検察庁であったり警察庁であっ
たり各都道府県警であったりもするかと思うんですが、国家公安委員会がそう
いう検証をしたというものは私は聞いたことがございませんし、そういうこと
は恐らくされていないから、今のような少しまろやかな答弁になっているのか
なと思います。
 そうしますと、検証を行うことを考えておりませんというのは、検証する必
要があるなし以前の問題で、そもそも国家公安委員会は検証する立場にない、
そういうことをこの答弁でおっしゃったんじゃないですか。

○高木政府参考人 警察庁からの報告を受けて、国家公安委員会委員長として
もそのように御判断された、こういったことかと考えております。

○井出委員 先ほど冒頭に申し上げましたが、警察運営の独善化の防止であり
ますとか、その下へ行けば、警察庁の民主的な管理ですとか、そういったこと
も役割として入っているようではございますが、その実態、事実上というとこ
ろはきょうの御答弁のとおりなのではないかと思います。
 この事件は、私は細かく踏み込んで取り上げてはおりませんが、少なくとも
検察審査会への申し立てがされている。それは、本会議でも申し上げました
が、公正な捜査を尽くしてほしいと。被害を訴える方からすれば当然の心理で
ある。
 検察審査会について伺いますが、検察審査会というものは、私の理解です
と、最初になされて不起訴となった捜査の中身をもう一度調べるところであっ
て、捜査のプロセスとか公正さとか、誰がどう判断したとか、そういうものを
調べるところではないと思いますが、その点についてはいかがでしょうか。

○林政府参考人 検察審査会制度は、一般の国民の中から無作為に抽出して選
任された十一名で構成される検察審査会が検察官の不起訴処分の当否を審査す
ることを通じて、検察官が行う公訴権の実行に民意すなわち一般国民の感覚を
反映させてその適正を図ることを目的としているわけでございます。
 その審査の対象というのは検察官の不起訴処分の当否でございまして、その
審査に必要な部分について検察審査会が審議、検討を行うということになると
思います。

○井出委員 当否というのは、私が申し上げたように、やはり証拠関係ですと
か事件の中身そのものの検討だと思いますが、では、捜査の体制がどうだった
とか、誰がどう判断したとかというのも、当否に影響するようであれば検察審
査会も当然調べるということですか。

○林政府参考人 検察官の不起訴処分というものは、証拠関係がどのようにな
っていたのか、それについてその検察官の不起訴処分が当を得たものであった
かどうかを審査するわけでございまして、そういった場合に、証拠の収集過程
とかいったことが検察官の不起訴処分の当否を審査することに影響があるので
あれば、そういったことについては検討されることとなります。ということ
で、やはり、不起訴処分の当否を審査するに必要な範囲で審議し、検討される
ということだと考えます。

○井出委員 不起訴処分の当否を判断する上で、捜査の判断のいきさつとか体
制とか、そういうものも必要であれば検討の対象になり得るか、そこが必要か
どうかはやってみなきゃわからぬということだと思います。
 でも、きょうは恐らくそういうものは検察審査会の対象には一〇〇%なり得
ないと思って質問に立っておりましたので、その可能性がわずかでもあるので
あれば、国家公安委員会、警察の方でこの検証をするつもりがないというお話
があることは大変遺憾ですが、まだ検察審査会の状況を見守りたいと思いま
す。
 それと、本会議でもこれは触れさせていただきました。あと、先ほど、二次
被害という話も午前からございました。性犯罪の被害を訴えられる方、まさに
今回のように、事件の中身というものは、いろいろ報道されておりますが、検
察審査会に付されておりますので私は申し上げませんが、ただ、被害を訴えら
れている方がいる。これは今回の事件に限らずいらっしゃると思います。そう
した方に対する例えば容姿ですとか過去の経歴ですとかいったことに対する批
判というもの、私は本会議でも、そういうことはやはりあってはならないし、
支援というものは社会を挙げて取り組むべきだと申し上げました。
 恐らくその答弁を人権局長がしていただくということでよろしいんでしょう
か。済みません、参考人はいつも一任しておりますので。そうであれば、人権
局長から答弁を求めたいと思います。

○萩本政府参考人 個別の事案を離れて、あくまで人権擁護の観点から一般論
として申し上げることになりますけれども、犯罪被害者は、性犯罪に限りませ
んけれども、犯罪そのものが人権侵害の最たるものの一つということになりま
すし、被害あるいはその被害の後遺症で苦しんでいるところに追い打ちをかけ
るように、今委員御指摘のとおり、二次的な被害による重大な人権問題が現に
起きているという認識でおります。ですから、そのような人権問題にもしっか
り対処していかなければいけないという認識でおります。

○井出委員 一般論でお話をいただきまして、冒頭に、報道等を承知しており
ますがと言ってくれればなおよかったのですが、そこまではきょうは求めませ
ん。
 もう間もなく時間になると思いますので、このまま審議が終わってしまうの
は大変残念ではございますが、また、修正案が見直し規定にとどまったという
ところも、私自身は大変力不足を実感しております。
 この法務委員会は共謀罪等いろいろございまして、私も法務委員会で今まで
三年ほどやってきた中でいろいろな紆余曲折がありました。私自身、例えば強
行採決でまさか委員長の横に行くなんということは思ってもおりませんでし
た。度が過ぎたなと反省しなければいけないところもあるかと思います。
 しかし、きょうの性犯罪の、性に対する理解というところで、道徳の中学生
の教科書を読んでおりましたら、フランスの啓蒙思想ボルテールの言葉がご
ざいました。互いの知識を持ち寄り、互いに許し合わなければならない、たっ
た一人の者が見解を異にしたとしても、この者を大目に見なければならない。
その下に、アンドレ・ジッド、フランスの小説家の言葉。一つの立場を選んで
はならぬ、一つの思想を選んではならぬ、選べば君はその視座からしか人生を
眺められなくなる。
 私も反省するべきところはあるということはさきに申し上げました。これか
らの法務委員会の運営、国会の運営にこの言葉を一言添えまして、私の質問を
終わりたいと思います。
 ありがとうございました。

○鈴木委員長 次に、逢坂誠二君。

○逢坂委員 民進党逢坂誠二でございます。
 今回の性犯罪の厳罰化法案でありますけれども、多くの方が一日も早い成立
を望んでいるということでありまして、私も基本的方向については了とするも
のでありますし、早く成立をさせたい、そう願っております。
 しかしながら、きょうの法案審議が、実質上、法務委員会で始まってたった
一日でこれを質疑終局、採決というのはやはり余りにも乱暴だというふうに思
いますし、参考人の皆さんの声も全く聞いていない、これも乱暴なことだとい
うふうに思います。早く成立させたいということを人質にとってこういう荒っ
ぽい法案の審議をするというのは、私は厳に慎むべきだというふうに思いま
す。
 これまで私もいろいろな団体の皆さんからの話を聞いてきました。例えば
「刑法性犯罪を変えよう!プロジェクト」といったような皆さんの話でありま
すとか、あるいはそのほかの皆さんからも話を聞いてきましたけれども、きょ
うの法案審議に当たって、先ほど私にある一枚のペーパーを託されましたの
で、そのペーパーをちょっと朗読させていただきたいと思います。
 発信元は、性暴力禁止法をつくろうネットワークという方々のペーパーであ
ります。宛先は「衆議院法務委員会委員長鈴木淳司様」ということでありま
す。題名が「当事者の声を反映した刑法性犯罪の改正を求めます」。
  「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」は、被害者、支援者、弁護士、
研究者など様々な立場から性暴力に関する包括的な法整備を求めて十年以上活
動してきた全国組織です。
  この六月七日にも刑法性犯罪の改正案を採決するとの報道に接し、大変驚
愕しております。
  今回の改正案では、未成年や十八歳未満の、近親者から被害にあっても逃
げられない被害者が救済され、これまで声を上げられなかった男性・セクシュ
アルマイノリティの被害が正当に取り扱われるようになります。何としても早
期改正が望まれています。
  しかし、一方で、今回の改正案には、暴行脅迫要件、配偶者間の強姦につ
いての明文化、性交同意年齢の引き上げ、公訴時効の撤廃もしくは停止、地位
・関係性を利用した性行為の処罰規定の対象の拡大など重要でありながら盛り
込まれなかった事項がたくさんあります。
  やっとのことで警察に訴えても被害者として認められず、さらに二次被害
によって、苦痛に満ちた生活を送ることを余儀なくされる性犯罪・性暴力被害
者が少しずつ声を上げ始めています。改正の審議にあたっては、このような被
害当事者の声に国会議員が直接耳を傾け、被害実態に即した改正を実現する必
要があります。
  百十年も顧みられてこなかった刑法抜本改正について、形ばかりの審議で
終わらせてしまうのは全く納得できません。
  今次改正案は「魂の殺人」と言われる性犯罪・性暴力被害者を一刻も早く
救済し、悪質な加害者を野放しにしないためには、まだ不十分な点が多くあり
ます。
  当事者の声を反映した改正の実現こそが望まれています。
  実行ある性暴力被害の実態に即した改正を実現するために、当事者の声を
直接聞き、十分に審議を重ねることを強く要望します。
ということで、この文書の内容、このペーパーの内容を鈴木委員長にお伝えさ
せていただきます。
 鈴木委員長からの御答弁は不要でございますけれども、この声を重く受けと
めていただきたいと思いますし、たまたま今、これは性暴力禁止法をつくろう
ネットワークの皆さんの意見でありますけれども、多分ほかの方もそう思われ
ているのではないか。一刻も早い成立は望む、だがしかし、国会での審議もし
っかりしてほしいということだと思いますので、鈴木委員長、ぜひ重く受けと
めていただきたいと思います。

○鈴木委員長 重く受けとめております。

○逢坂委員 それでは、少し個別的事項について質問をさせていただきます。
通告が必ずしも十分ではなかった部分もあろうかと思っておりますので、もし
通告が十分ではなかったので答えられないというものがあれば、それについて
は答弁を留保いただいても構いません。
 まず最初でありますけれども、子供の被害者全般に対する司法面接のことに
ついてお伺いをします。
 六月二日の衆議院本会議で、法務大臣がこのように答弁されております。児
童相談所、警察、検察の三者連携の仕組みを利用し、適切に対処をするという
答弁をされているわけでありますけれども、子供の被害者というのは、あらゆ
性的虐待といいましょうか、性犯罪といいましょうか、そういうものが対象
になるのか、この三者連携の仕組みを利用しというものは何らかの限定がある
のか。もしおわかりになれば、刑事局長、よろしくお願いします。

○林政府参考人 検察庁における取り組みは、このようにしております。児童
が被害者である事件や児童が目撃者等の参考人である事件、こういったものを
対象にこの取り組みを行うということとして、通知文書を出しております。

○逢坂委員 ということは、これは、今、林刑事局長が言うところからすれ
ば、対象にならないものはないという理解でよろしいでしょうか。子供がそう
いう性犯罪の被害に遭うといったようなことについては、あらゆるものについ
て対象にするということでよろしいですか。

○林政府参考人 この取り組み、被害者に配慮した事情聴取というようなこと
について取り組んでおりますので、これは犯罪の罪名を問わず、児童が被害者
である事件についての事情聴取、また、被害者ではなくて児童が目撃者という
ものについても刑事司法としては事情聴取を行わなくちゃいけない場合があり
ます。そういった場合にもやはり児童の特性に配慮した事情聴取というのを行
わなくちゃいけないという観点からこの事件の対象を定めておりますので、事
件の罪名等については限定を加えておりません。

○逢坂委員 了解いたしました。
 それでは、次にお伺いをしますけれども、この大臣が言うところの、三者連
携の仕組みを利用し、適切に対処をするということでありますけれども、これ
をいわゆる司法面接と言ってよいのかどうか、いろいろあるんでしょうけれど
も、ここで言われていた内容、訴訟手続においてこの内容の扱いというのはど
ういうふうになるのか。これを証拠として扱うのか、それは個々具体の事例に
応じて判断されるのか、一律の考え方はこれについて何かあるのか、この点は
いかがでしょうか。

○林政府参考人 今委員御質問の中で、司法面接と言っていいかどうかという
ことを留保されましたけれども、実際に、この司法面接という言葉にはさまざ
まな意味がございます。
 一番、制度として司法面接というものを構築すべきだということを言ってお
られる意見の中には、やはり、実際に捜査段階で例えば児童の性犯罪の被害者
を事情聴取した場合に、それを証拠として、あるいはビデオで録音、録画して
おきまして、その後それが裁判所において直接証拠として扱われる、すなわ
ち、裁判所において、公判において、もう一度その被害に遭った児童が証人と
して尋問を受けることがないように、そこまで制度として証拠能力も与えた上
で、直接の証言にかえて証拠として採用できる、こういったものを構築すると
いう、ここまでを、そういった制度がセットになったものが司法面接である、
こういう考え方がございます。
 もとより、それについては刑事訴訟法の中で規律しなくちゃいけないことで
ございますので、現在三者で取り組んでいるものについては、そこまでの内容
は含んでおりません。
 したがいまして、捜査段階あるいは福祉の段階で、児童が性犯罪の被害に遭
った場合に、そういった児童に対して事情の聴取を行う場合には極力その回数
を減らす、そのためには、三者の中でできれば代表を決めて、その代表の者が
調べるということにおいて、なるべく一回で終える、そういったことによっ
て、被害者の聴取回数を減らすことによって負担を軽減する、こういった実務
の運用の中での取り組みだと御理解いただければと思います。

○逢坂委員 今の答弁からしますと、いわゆる司法面接というものを林刑事局
長に説明いただきましたけれども、三者連携の仕組みは必ずしも、刑事局長の
言う司法面接の機能を十分に現行法の中では備えていないという認識でよろし
いでしょうか。一部そういう側面はあるけれども、必ずしも十分ではない。そ
の辺はいかがでしょうか。

○林政府参考人 司法面接は多義的であると申し上げましたが、委員が御指摘
になったような意味での司法面接ということであれば、そういった機能は備え
ておりません。
 実際に、司法面接であるところの証拠としての取り扱いということについて
は非常に議論が当然ございます。公判になりますと、弁護側、被告人側の防御
権というのがございます。その場合に、反対尋問権というものが憲法で保障さ
れているわけでございますので、それとの関係で、司法面接というもので、捜
査段階で聴取した例えば録音、録画の記録媒体が必ず証拠になりますといった
ことを制度化するということについては、これは非常に大きな議論があるわけ
でございまして、そういったことを内容とする制度を司法面接というのであれ
ば、当然そこまでの内容を含むものではないということでございます。

○逢坂委員 それでは、金田大臣にお伺いをするんですが、金田大臣の答弁
は、三者連携の仕組みを利用し、適切に対処するという答弁をされていたかと
思うんですが、適切に対処するというのはどういう観点、どういう意味、どう
いう意図なんでしょうか。

○金田国務大臣 検察当局においては、より早い段階から警察や児童相談所
情報交換を行った上で、被害児童の事情聴取に先立って、その負担を軽減する
という観点から対応方針を協議するといったような取り組みを行うというこ
と、それに、代表者による事情聴取を相当数行うなどの対応をしてきたもので
ある、検察当局においての対応をこのように承知いたしております。
 今後とも、より一層の工夫、改善を加えながら、警察及び児童相談所との検
察当局側からのさらなる連携強化を図っていく、そういうことを申し上げたつ
もりであります。

○逢坂委員 適切に対処をするというのは、検察当局側との連携強化、そうい
う意味合いだということでよろしいですか。うなずいておられますので、そう
いうことだと。わかりました。
 多分、これだけでは必ずしも十分ではないのだというふうに思いますので、
この点についてはより議論を深めて、今後どう変えていくかというか、どうい
う対応をしていくかということを、もっと議論を深めなきゃいけないのではな
いかというふうに思います。
 それでは、次の点をお伺いしますけれども、これも未成年の場合の代理人の
制度についてちょっとお伺いをします。
 今回の性犯罪被害の被害者が未成年の場合、その親権者が原則として法定代
理人につくということが想定されようかというふうに思いますが、これはこれ
でよろしいですか。

○林政府参考人 今委員が言われた法定代理人というのは、何か就任するとい
うことではなくて、未成年者については親権者が法定代理人とされているとい
うことでございます。

○逢坂委員 その場合に、法定代理人そのものが加害者であるとか、いわゆる
親にも話しにくいというような事情、あるいはそのような性的被害を受けた場
合、何らかの救済措置、そういうものが被害者である子供に対してあるんでし
ょうか。

○林政府参考人 そういった救済措置というものが法定されているわけではご
ざいません。
 ただ、今回の立案の中で、今の文脈で関係することとしますれば、従来、例
えば母親が法定代理人であった場合に、その内縁関係の夫あたりから性被害に
遭った子供がいたとしますと、これが親告罪となっていますと、法定代理人
告訴権を有するわけでございますが、その告訴権者たる法定代理人が、自分の
内縁の夫という者との関係を危惧してなかなか告訴に踏み切れないというよう
なことがあり得たわけでございます。
 そういった場合に、今回は、親告罪というものを非親告罪といたしましたの
で、そのことによって、そういった場合の法定代理人である者がしかるべき正
しい告訴をしない、そのことによって犯罪が立件できない、あるいは起訴がで
きないということはなくなるということとされております。

○逢坂委員 そこの点は理解いたしました。
 それで、重ねてでありますけれども、いわゆる法定代理人としてそもそも
さわしくないといいましょうか、そういう事情がある場合に、第三者が子供被
害者の代理人となるといったようなことは、法的にはそういう余地はあるでし
ょうか。

○林政府参考人 委員御指摘の代理人という意味がちょっと理解できませんの
で、その代理人というのは、どのような意味での代理人なのでございましょう
か。

○逢坂委員 要するに、親権者が法定代理人、原則そうなっていると。その親
権者が法定代理人としての機能を果たし得ないということは、例えば、親には
絶対話せないような内容であるとか、あるいは親そのものが加害者であると
か、そういったような場合に、被害者である子供はどうしますかということで
す、もっと平たく言えば。

○林政府参考人 実態としてどうするかということについて、事案によるかと
思いますが、例えば、刑事訴訟法において、被害者の法定代理人が被疑者であ
るといった場合には規定を設けておりまして、そのときは、被害者の親族が別
に独立して告訴をすることができるという形で、そういった特別な事情がある
場合に告訴権者を拡張している規定がございます。

○逢坂委員 この点、実は私自身もまだ勉強がちょっと十分ではないのであり
ますけれども、そういうケースは実際に多分あるんだろうなというふうに思わ
れますので、こうしたところもこれからまだまだ詰めていかなければいけない
ポイントの一つだと私は思っています。
 それでは、次に、ちょっと話題をかえまして、きょうは豊田内閣府大臣政務
官にお越しをいただいておりますけれども、ワンストップ支援センターについ
てお伺いをしたいんです。
 ワンストップ支援センターについては、先ほど来答弁がありましたとおり、
全国の全ての都道府県に設置ができるようにということで準備を進めていると
いうことでありますけれども、現在想定されているワンストップ支援センター
の仕組みというのは、対象者というのは誰を想定されているのか。例えば、成
人女性被害者だけを想定しているのか、あるいは、そうではない、男性、女性
を問わず、LGBTの方々といった幅広い対象者を想定されているのか、この
あたりについていかがでしょうか。もし想定されていないというのであれば、
現時点ではまだそこまで明確には想定していないんだということであれば、そ
れはそれで構いません。

○豊田大臣政務官 お答えを申し上げます。
 性別は問わないということでございます。

○逢坂委員 性別は問わないと。
 それから、LGBTなどの被害者の方についても、これは対象になるという
ことでよろしいですか、性別を問わないということであれば。

○豊田大臣政務官 そのような理解でよろしいと思います。

○逢坂委員 あと、これらの財政支援についてですけれども、財政支援を予定
しているということであります。設立当初のイニシャルコスト、これへの財政
支援というのは多分予定されているんでしょうけれども、ランニングコスト
ついてはどのように考えておられるでしょうか。

○豊田大臣政務官 相談員の人件費等の相談センターの運営に要する経費、相
談員等の研修費及びワンストップ支援センターの広報啓発費、そして、やむを
得ない事情により警察に相談できない被害者の医療費及びカウンセリング費用
などに関して、都道府県を財政的に支援していくということでございます。

○逢坂委員 今の答弁から、ランニングの一部は支援の用意があるというふう
に理解をいたしました。
 そこで、ちょっと政務官にお願いなんですけれども、各県一つずつ当面設置
することを予定しているということでありますが、各県一つであれば、北海道
は全くこれは機能しないというふうに思います。多分、北海道に設置するのな
ら札幌に設置するんだろう。私が住んでいる函館から札幌まで、特急で三時間
三十分、今はもうちょっとかかりますかね、JR北海道はいろいろあるもので
すから。そういう状況ですから、場合によっては東京から大阪へ行くより遠い
んですよ。
 だから、そういう意味では、各県一つにこだわらずに、地域の実態に応じ
て、北海道のことだけを言うつもりはありませんけれども、柔軟な対応をお願
いしたいというふうに思います。これはお願いだけでございますので、答弁は
不要でございます。
 そこで、大臣、実は、きのうの夕方、私はある手紙をいただきました。それ
は、性犯罪被害者の方ではなくて、性犯罪の加害者の方から手紙をいただきま
して、今まだ服役中だということであります。この方の手紙、私も慎重に読ま
せていただいたのでありますけれども、今回の法改正には基本的に賛成である
といったようなことが書いてありました。若干その内容を読ませていただきま
す。これは基本的に賛成だということを前提にしてお聞きいただきたいんで
す。
 今回の法改正を実現させたとしても、性犯罪が蔓延する社会の現状に大きな
変化をもたらすことはできないだろうと思っています、今回の法改正で影響を
与えられる範囲は被害の事後のことに限られます。そう言われれば、確かにそ
のとおりなんですね。被害に遭ってしまった後では、どんな救済策をもっても
被害者を救うことはできません、事件の記憶という被害は一生消すことのでき
ない被害として残ってしまうと思うからですというようなことを手紙の中で述
べられております。性犯罪というのは、被害に遭ってからでは遅いのです、被
害後の対策を拡充すると同時に、被害を未然に防ぐ方策を真剣に議論すべきで
はないでしょうか、被害に遭ってからでは遅いという厳然たる事実を、本物の
被害者の痛みも理解できていないのではないかと思わずにいられません。
 こういったちょっと非常に厳しいことも書かれているんですが、御自身が性
犯罪の加害者になって長い間服役をされている、そして、どうも服役をされて
いる間にさまざまなことを勉強され、いろいろなお気持ちになられているんだ
と思います。
 そこで、大臣、これは特に通告をしておりませんので、大臣の思い、考えを
お聞かせいただきたいんですけれども、今回の刑法の改正というのは、被害が
起きてしまったときにその罪をどう判断してどう罰するかということでありま
すけれども、被害を起こさないために、性犯罪被害を発生させないためにどん
な取り組みが必要だというふうに大臣は個人的に思われるか。大臣がこう言っ
たからだめだとか、いいとかということではないと思うんですよ。私は、ここ
のところはもっと柔軟に社会の中で幅広く考えておくべきことではないかなと
いうふうに思うんですが、大臣、いかがお考えですか。

○金田国務大臣 逢坂委員の非常に貴重なただいまの御指摘だったと思いま
す。加害者の立場から、非常に参考になることも御紹介いただきました。
 事後のことに限られるというお話がありました。今回の法改正というのは、
近年における性犯罪の実情等に鑑みて、事案の実態に即した対処をするための
ものであります。ですから、性犯罪への対策の推進のための重要な一環をなす
ものであるんですけれども、単に罰則を強化するだけで性犯罪を抑止するのに
はなかなか十分ということは難しいんだろう、私もそういう思いはあります。
記憶という被害は残るんだ、したがって、未然に防ぐ必要があるんだ、まさに
私はそのとおりだというふうに思います。
 でも、政府全体として協調のとれた取り組みというものはどういう形でどこ
までやればいいのか。これは本当に、私たち政治家が共通して、この法案を仮
に成立させていただけるものであれば、その後も、直ちに引き続いて検討を重
ねていかなければいけない、そういうテーマだというふうに思っております。
 いずれにしても、性犯罪の抑止を図るということ、未然にどういう対応をし
ていくのか、いろいろな面があろうと思います。きょう出席をいただいた各省
庁にもそういうさまざまなテーマがあると思いますし、私は、やはりこれは、
これとこれとこれだというふうに申し上げられるような話ではなく、各立場に
おられる皆さんの熱い心をもって取り組んでいかなければいけない、そういう
テーマなんだろうというふうに思いますので、委員の御指摘もありましたが、
私たち政治家が肝に銘じて、この法案の処理をした後も、日々そういう方向に
向けて議論を重ね、そして思いを重ねて努力をしていくべきである、このよう
に思っております。

○逢坂委員 私は、先ほど井出委員が指摘をした教育というのが、一つやはり
重要なポイントだというふうに思います。これは法務省の問題では必ずしもな
いのかもしれませんけれども、やはり政府を挙げてというか、我々も含めてで
ありますけれども、どういうふうに未然に発生させないかということが最も大
事なポイントだと思います。
 教育に関して言いますと、諸外国のこの分野の教育を見ますと、やはり、日
本よりも、より具体的で、実際の事例に切り込んで学校の現場でも議論をして
いるように私には見受けられますので、そういったことも念頭に置いて、これ
からしっかりした対応ができるように力を尽くしてまいりたいというふうに思
います。
 それから、この手紙の中でもう一つ重要なことが指摘をされておりまして、
平たく言ってしまうと、この受刑者の方が、出所後、再犯、もう一回それを犯
してしまうのではないかということであります。しかも、こういうふうに書い
てあるんです。年々上昇する再犯率の高さを考えれば、刑務所が更生の準備施
設として機能していないのは明らかな事実です、法務省の性犯罪者処遇プログ
ラムを受講しましたが、質、量とも不十分との感触は否めませんでしたし、プ
ログラムで学んだことを刑務所内で実践、練習しようとすると、刑務所自体か
ら無効化、否定される現状には非常な困惑を覚えていますという指摘なんです
ね。
 私、実は、こうしたことが刑務所の中で行われていることを知ったのも初め
てですし、こういう声を聞く、こういうことを直接、今まさに受刑者の方から
聞くのも初めてなんですけれども、この点、通告をしておりませんので大臣に
感想は求めませんけれども、こうした事実もあるということで、ぜひしっかり
心にとめておいていただきたいと思いますし、この問題については、この法案
はきょうで審議が終わってしまう、非常に残念ではありますけれども、どこか
の機会でまたやらせていただきたいというふうに思います。
 以上で終わります。

○鈴木委員長 次に、池内さおり君。

○池内委員 日本共産党の池内さおりです。
 ジャーナリストで、準強姦被害を検察審査会に訴えている詩織さん、私、会
見を拝見しました。真っすぐに顔を上げて、被害者らしく弱い存在でいなけれ
ばならないという状況に疑問を感じる、隠れていなければならない、恥ずかし
いと思わなければならない、そういう状態にとても疑問を感じたと述べていら
っしゃいました。
 私は、本当に、被害者というのは全く悪くないというふうに思います。自分
の体は自分のもので、意に反する性的接触で自分の境界を侵害されていいはず
がありません。性暴力は許されない、被害者を守る社会に変えるために今回の
刑法改正が力とならなければならないというふうに思います。
 本会議で大臣も、被害者のプライバシー保護や心情への配慮を徹底するなど
含めて、被害が潜在化しないように取り組みを進める、このように御答弁され
て、被害暗数を減らし、申告をふやすことの重要性を答弁されました。
 非親告罪化は重要な改正だと思います。一方で、被害当事者の小林美佳氏
が、プライバシーや生活が守られる仕組みや安全が完全に確保される必要があ
る、このように発言されているように、非親告罪化に伴う被害者のプライバシ
ー保護の徹底がますます必要になっていると思います。
 改正によって新たな措置というのは講じられるんでしょうか。

○林政府参考人 委員御指摘のとおり、この非親告罪化に伴いまして、被害者
のプライバシー保護というのは非常に重要なことであると考えております。
 この被害者のプライバシー保護といいますのは、これまでにも、性犯罪被害
者に限ったものではないわけでございますが、刑事手続における被害者のプラ
イバシーあるいは名誉、こういったものを保護するための方策、あるいはその
負担を軽減する方策として、制度として次のようなものがございます。
 公開法廷における被害者特定事項の秘匿、あるいは証拠開示の際の証人等の
安全についての配慮及び被害者特定事項の秘匿、また証人尋問の際の付き添い
及び遮蔽及びビデオリンク方式による証人尋問、こういった制度がこれまでつ
くられてきたわけでございます。
 さらには、これは運用としてでございますけれども、性犯罪等の被害者特定
事項について、起訴状における記載方法の配慮、これは運用の中でこういった
配慮を行っておるわけでございます。また、証拠開示におけるマスキングとい
うことも行っております。
 こういった、これまでにも構築されてきた制度あるいは運用というものを、
今後とも、性犯罪の非親告罪化に伴いましてさらに拡充、徹底して行うことが
求められていると考えております。

○池内委員 つまりは、新しい措置はないということだと思います。
 大きな負担となっているのは、捜査、裁判という刑事手続の中で、またマス
コミやネットに情報が流れることで二次被害セカンドレイプを受けることで
す。警察や検察、加害者側弁護士がしばしば被害者に、あなたにもすきがあっ
たんじゃないか、うそをついているんじゃないか、あなたも楽しんだんでしょ
うと、こんなことを聞いている。これが実態であって、被害者はこうした事実
を恐れています。
 事件とは関係のない性経験を詳細に聴取され、プライバシーが侵害されてい
る、この実態を大臣は御存じでしょうか。これが被害申告をためらう大きな要
因になっている、大臣にはそうした認識はありますか。

○金田国務大臣 池内委員にお答えをいたします。
 性犯罪の被害者にとりましては、その被害状況に関する聴取を受けるという
ことは精神的負担が大きいものであることは申し上げるまでもない、このよう
に受けとめております。
 検察当局においては、被害者の方の聴取に際しましては、その名誉、プライ
バシーそして心身の状況といった点に十分配慮しているものと承知をしている
わけでございまして、事件とは何ら関係のない性経験を詳細に聴取するような
実態があるとは私は受けとめておりません。万一そのように受けとめられてい
るとすれば被害申告をためらう要因となりかねないことは、御指摘のとおりで
あります。
 そして、検察当局においては、引き続き、被害者の心情等に配慮した捜査、
公判活動に努めるとともに、被害者の思いに沿いながら、現在取り組んでいる
被害者保護の施策について広く周知をするように努めていくものと考えておる
ところであります。

○池内委員 あると受けとめていないと。これは、ぜひ現場の実情を大臣には
知っていただきたいというふうに私は改めて思います。
 二〇一三年七月、鹿児島地裁の準強姦の強制起訴事件において、裁判長が、
被害者、これは当時未成年の女性ですけれども、判決に向けて被害者の人とな
りを知るためだ、このように言って、性体験に関する質問を行い、指定弁護人
から異議が出されるという事態が起きました。裁判長自身が、未成年者、この
被害者のプライバシーをさらすかのような、これは辱めを与えているではない
かと思うんですね。
 こうしたことは、この事件に限ったことではありません。こうした事実、出
来事を防ぐための一つの手段がレイプシールド法。アメリカの州、そしてその
他の国々のレイプシールド法について説明を願います。

○林政府参考人 いわゆるレイプシールド法といいますのは、被害者の性的経
験や傾向に関する証拠を裁判に提出することを原則として禁止する、こういっ
た内容とする外国の法制度でございます。
 当局において全て網羅的に把握できておりませんが、例えばアメリカ、米国
の連邦証拠規則におきましては、被害者が他の性的な行為にかかわっていたこ
とを立証するための証拠、また被害者の性的傾向を立証するための証拠につい
ては、一定の場合を除きまして、性犯罪に関する刑事訴訟で立証に用いること
は許容されない、こういった内容、規定になっているものと承知しておりま
す。

○池内委員 諸外国でも、被害者の過去の性的な経験、被害者の人格や供述の
信頼をおとしめ、加害者の減刑のために利用されてきたという事実があって、
事件とは無関係な被害女性の性行動の情報を証拠採用できなくするというふう
にすることでプライバシーを保護し、裁判官に偏見を持たせる証拠を避けるこ
とができる。アメリカでは、今お答えがあったように、被害者の性的経歴につ
いての無関係な証拠の採用を禁じているし、オーストラリアにもこのような法
律はあるし、インドですよ、インドも二〇〇三年に改正をしています。
 我が国でもこうした仕組みがあれば被害者はもっと訴え出ることができるよ
うになるんじゃないでしょうか、大臣。

○井野大臣政務官 先ほど法務省刑事局長の方から御紹介がありましたレイプ
シールド法についてでございますけれども、我が国においては当然まだこれを
採用しているわけではございません。
 その理由としてですけれども、憲法で保障されている被告人の反対尋問権の
制約にならないかどうかであったり、また、現行法では、刑事訴訟法の規定に
よって、事件に関係のない被害者の性的な経験や傾向に関する尋問等について
は裁判長の適切な訴訟指揮によって制限することが可能で、そのように予定さ
れているというふうに我々は考えております。
 したがいまして、現時点において、レイプシールド法については、その要否
を含めて慎重な検討を要するのではないかというふうに考えております。

○池内委員 一日も早く日本にも導入すべきだということを強く求めたいと思
います。
 暗数を減らすために、このレイプシールドというのは不可欠だと私は思いま
す。現にアメリカでは、この法のもとで被害者に敬意を払った対応というのが
進んで、被害者が通報するようになりました。
 刑法改正だけでは、被害者は訴え出ることなんてできません。本来ならば、
刑法改正を諮問する際に同時に諮問すべきだった課題だと思う。早急に、これ
は本当に求めたいと思います。
 捜査や公判のこうした過程で、性的偏見によって被害者のプライバシーが侵
害をされている。
 ジェンダーバイアスについてお聞きしますけれども、文化的、社会的に醸成
された当たり前のこととして受容されている性差別に基づく偏見のことです。
性犯罪の捜査、司法におけるジェンダーバイアスは理解されているんでしょう
か。
 きょうお配りの配付資料をごらんいただきたいんですけれども、この資料
は、ゴルフ練習場経営者で、指導も行っている六十代の男性が、教え子の当時
十八歳の高校生だった女性への準強姦罪に問われた事件です。最高裁まで争っ
て昨年無罪となり、けれども、民事訴訟で女性に損害賠償が認められました。
 この事件は、性犯罪として初めて検察審査会による強制起訴が行われたもの
です。検察官は、嫌疑不十分として不起訴の判断をしました。検察審査会が二
度の議決を行いました。二度目の議決では、下線部ですけれども、犯行は計画
的であった、被疑者は、度胸をつけるためだと言葉巧みに申立人をゴルフの指
導を口実にホテルへ連れ込み、申立人が抵抗できないように、部屋を施錠して
密室状態をつくり出し、ゴルフの弱点を指摘するなど三十分間説教しており、
申立人のおとなしく従順な性格を利用して、心理的、精神的に被疑者からの姦
淫行為を受け入れざるを得ない状況に追い込んで、被疑者は申立人を抗拒不能
の状態に陥れた、十分に被疑者の故意を認定できるというふうに議決しまし
た。そして、被疑者が、性交の承諾はなかったが嫌がっているとも思わなかっ
たとしていることに対し、申立人の供述の信用性を認めて起訴相当という議決
をした、これが流れです。
 これに対して、高裁の判決は驚くべきもので、被害者の抗拒不能を認めなが
ら、加害者が弱者の心情を理解する能力や共感性に乏しい無神経な人物で、被
害者の強い抵抗がないことを消極的な同意と受けとめた可能性が否定できな
い、そのため、被害女性が抗拒不能状態にあったことを認識して、これに乗じ
て性交したとまでは認められないと、無罪判決が下されました。最高裁では、
上告棄却ということになりました。けれども、こんな事案はフランスの刑法で
あれば加重強姦に当たる、そういう事例です。
 検察審査会市民感覚と、起訴をしなかった検察官、無罪判決を下した裁判
官に著しい認識の乖離があるように思います。つまり、深刻なジェンダーバイ
アスがあるのではないか。これは最高裁と刑事局長にお聞きします。
    〔委員長退席、今野委員長代理着席〕

○平木最高裁判所長官代理者 一般論として申し上げますと、各裁判官は、一
件一件証拠に基づいて適切に判断しているものと承知しております。もっと
も、裁判所といたしましても、被害に遭ったときの被害者の心理状態等をよく
理解し、適切に事実認定を行うことは重要であると考えております。
 そこで、司法研修所では、刑事事件を担当する裁判官を対象とした研究会に
おいて、性犯罪の被害者の支援に長年携わっている大学教授を講師としてお招
きして、被害時の被害者の心理状態やその後の精神状態等について理解を深め
る講演を行っていただくなど、被害者への配慮に関する研修を行っておりま
す。
 裁判所といたしましては、このような研究会を通じて被害者の心理状態等の
理解に努めてまいりたいと考えております。

○林政府参考人 御指摘の事案において検察官の判断それから検察審査会の判
断が分かれたわけでございますが、検察当局におきましては、個別具体的事案
に即しまして、法と証拠に基づいて事件を処理したものでございます。
 すなわち、特にその証拠の評価というものについて意見が分かれたわけでご
ざいますけれども、これが、検察官にジェンダーバイアス、性差に基づく偏見
があり、それに基づいてこのような評価が分かれたというふうには認識してお
りません。
 いずれにいたしましても、個人が性別にかかわりなく尊厳を重んぜられて、
その人権が尊重されるべきことは言うまでもありませんので、検察当局におい
ては、今後とも、引き続き、それを前提といたしまして、法と証拠に基づいて
捜査、公判活動に当たっていくものと承知しております。

○池内委員 加害者が無神経だったことを理由に無罪にされる、こんな犯罪が
ほかにあるでしょうか。こういう価値判断をしてしまうところに、歴史的に社
会的に醸成されてきた性差別意識があるのではないか、これを問うたのであり
まして、きちんと答弁いただきたかったというふうに思います。
 本当に嫌ならもっと激しく抵抗したはず、逃げられたのになぜそうしなかっ
たのか、こういう強姦神話が被害者のリアリティーからかけ離れて、抵抗が弱
いから同意していたとされている。しかし、トラウマ研究の進展で、突然の性
暴力という異常な体験に対して、被害者がフリーズ反応を引き起こしたり、衝
撃が強くて感情が麻痺をして、事件の次の日も平気で仕事に行っていたという
ふうに解されてしまう、そのように外形上は見えてしまう、そういうことも往
々にしてあることが明らかになっている。
 裁判官は強姦神話にとらわれていないんでしょうか。被害者の行動、トラウ
マ被害を十分に認識しているのでしょうか。

○平木最高裁判所長官代理者 先ほども申し上げましたとおり、裁判所といた
しましても、被害に遭ったときの被害者の心理状態をよく理解して適切に事実
認定を行うことは重要であると考えておりまして、先ほど申し上げましたよう
な研究会を通じるなどして被害者の心理状態などの理解に引き続き努めてまい
りたいと考えております。

○池内委員 裁判官が個人的な経験則やまた思い込みによって価値判断を下す
ようなことがあったら、本当に大変なことだと思います。
 裁判員制度の導入の後、性犯罪の量刑というのは、特に強姦致傷罪では若干
重い方へとシフトしています。この点で、裁判員に性犯罪を裁かせることは危
険ではないかと職業裁判官が危惧していましたけれども、むしろ真の危険は、
性犯罪の違法性、保護法益、被害の実態が正確に理解されず、経験則もジェン
ダーバイアスや時代おくれの強姦神話に基づいており、罰せられるべき加害者
が無罪や不当に軽い刑に処され、逆に被害者は二次被害セカンドレイプやP
TSDに苦しんできた、日本の刑事裁判そのものに潜んでいたのではないかと
強調したいと、島岡まな大阪大学教授が厳しく批判をしています。私は、この
ことを肝に銘じるべきだというふうに思うんです。
 強姦罪の起訴率の低下が著しい。一九九八年の七二・三%から徐々に低下を
して、強姦罪の下限が二年以上から三年以上に引き上げられ、これが二〇〇四
年でしたけれども、この二〇〇四年を経て、二〇〇五年からは低下の一途をた
どっています。一昨年は三五・三%に半減しました。
 嫌疑不十分による不起訴が増大しています。不起訴のうち嫌疑不十分が四割
から五割を占めている、この理由は何でしょうか。内閣府の女性に対する暴力
専門調査会では、学識経験者の方がこう言っています、検察は顔見知りの事件
を起訴しない傾向があると。この指摘はどうでしょうか。
    〔今野委員長代理退席、委員長着席〕

○林政府参考人 御指摘の強姦罪の起訴率、ここ十年ほど低下傾向にあるとい
うことは承知しております。ただ、これは刑法犯全体についても同様の傾向が
見られております。強姦罪に限って起訴率が低下しているものとは認識してお
りません。
 また、この起訴率でございますが、個別具体の事案に即しての起訴、不起訴
の判断の集積でございますので、起訴率の低下について、その原因あるいは評
価を一概に述べることはやや困難であろうかと思います。
 その上で、顔見知りの場合と顔見知りでない者との判断で検察官の評価が違
うかどうかということでございますが、この強姦罪について見れば、既に検挙
件数のうち半分半分、顔見知りの者による犯行あるいは顔見知りでない者の犯
行、これはほぼ半々でございます。
 捜査、公判の実務におきましては、被疑者となっている者については半分が
顔見知り、半分が顔見知りでない、そういった件数になっておりまして、こう
いった状況のもとで、検察官が、顔見知りの場合にはどのような起訴をする傾
向があるか、あるいは顔見知りでない場合にどのような起訴をするのかという
ことについては、その判断の中で全くその傾向はないものと考えております。

○池内委員 今、強姦罪の起訴率が低下しているということはお認めになって
いる。
 ほかのも起訴率は下がっていると言ったんですけれども、でも、強盗の起訴
率というのはおおむね六割から七割で推移していますよ。殺人罪だって実質五
割程度。強姦罪は格段に、これはほかとは比べられないぐらいに低下している
ということは私は言っておきたいし、また、半分半分だとおっしゃったけれど
も、暗数が物すごく多いということを考えれば、本来であればもっと性犯罪と
してちゃんと処罰しなきゃいけないものが隠れているということを私は指摘し
たいというふうに思います。
 二〇〇八年六月の大阪地裁の強姦罪無罪判決は、二十四歳の被告が出会って
二日目の十四歳の少女を姦淫した事件ですけれども、被害少女が性交に同意し
ていなかったことを認めながらも、加えられた暴行の程度に関し、被告人が被
害少女の足を開く行為及び被害少女に覆いかぶさる行為が、犯行を著しく困難
にする程度の有形力の行使であるとは認めがたいというふうにしました。結
局、叫ぶほどの拒絶、本気で抵抗するべきものという裁判官の強姦神話、女性
に対する厳格な貞操維持の義務を求めているとしか思えない判決じゃないかと
思います。
 起訴した検察は、こうした無罪判決が出ると、負けてしまうんだったら起訴
しないという方向に流れるんじゃないですか。

○林政府参考人 検察官といたしましては、法と証拠に基づきまして、その場
合に検察官として起訴するかどうかについては、的確な証拠によって有罪判決
が得られる高度の見込みがある場合に限って公訴を提起するという運用が行わ
れてきております。
 この点につきましては、性犯罪あるいは強姦罪とかいうものの罪名にかかわ
らず、全体として、検察官の処理といたしましてはそのように行っているとい
うことでございます。

○池内委員 これだけ不起訴がふえています。その理由が何なのか。暴行、脅
迫要件の立証が困難なのか、故意の認定が困難なのか、顔見知り、監護者以
外、親族からの被害がどの程度かなど、さまざま要因があると思うんですね。
 法務省自身が、なぜここまで不起訴がふえているのか検証していただきたい
し、研究者などがその内容をトレースできるように情報も提供すべきだと私は
思います。この点も強く検討を求めたいというふうに思います。
 次に、内閣府の調査では、性暴力事件の七割から八割程度が顔見知りの加害
者によって行われている、このことが明らかになっています。これは、民間団
体の相談現場での実感や、諸外国の傾向とも重なるものです。
 顔見知りの間でこそ、暴行、脅迫を立証しにくい、被害が潜在化している。
嫌疑不十分の不起訴というのがこれだけふえているというのは、私は何度も繰
り返していますけれども、ますます潜在化していくのではないか。積極的に起
訴すべきじゃないでしょうか。

○林政府参考人 先ほど申し上げましたが、被疑者と被害者が顔見知りである
か否かによってその被害者の例えば信用性を判断している、そういったことは
ございません。やはり個別の具体的な事案に即して、関係証拠の中で起訴すべ
き事件は適切に起訴しているものと承知しております。

○池内委員 顔見知りの間だと、暴行、脅迫というのは必ずしも必要ない場合
がやはり多いわけですよね。必ずしも必要ではない。そうすると、この暴行、
脅迫要件というのが被害者にとってはどう働くかといえば、やはり被害の選別
化に働いているのではないか、みずからの被害を立証するときに物すごく大き
なハードルになっている。性行為の同意の有無こそ、構成要件にすべきじゃな
いですか。

○林政府参考人 同意の有無そのものを直接の構成要件にした場合、これにつ
いては、同意というものの立証というのは非常に困難なものがございます。そ
ういったことによりまして、同意の有無を直接構成要件にした場合に、かえっ
てその立証のハードルが高くなるといったことはあり得ることと考えます。
 さらには、立証のみならず、同意の有無で構成要件を考えた場合に、どの場
合に犯罪が成立するかということになりますと、交際関係のある例えば男女の
場合に、どのような場合に犯罪が成立し、どの場合に犯罪が成立しないかとい
うことについては、当事者にとりましてもなかなか予測が困難、可能性が低く
なる、こういった問題もございます。
 そういったことから、同意の有無そのものを構成要件とするということ、す
なわち、例えば暴行、脅迫という構成要件を撤廃して、構成要件の中に同意が
あるかないか、同意がない場合の性交を犯罪とする、こういうふうに定めた場
合には、その立証の点におきましてもそうですが、当事者における犯罪成立の
予測可能性というものもかなり低くなってしまう、そういった問題があろうか
と思います。

○池内委員 現実に、被害者がどれだけ抵抗したかということが常に問題にさ
れる。でも、被害者からすれば、嫌なものは嫌だし、つまり、ノー・ミーンズ
・ノーと世界の女性たちが声を上げているように、嫌なものは嫌なんですよ。
 立証が難しいとおっしゃった。でしたら、なぜ同意があると思ってしまった
のか、加害者の側に挙証責任を負わせるべきじゃないですか。

○林政府参考人 もちろん、仮に加害者の側に同意があったものの挙証責任を
負わせるという形にすれば、立証は非常に容易なものとなると思います。しか
しながら、刑事訴訟法におきましては全て検察官が挙証責任を負うというのが
大原則でございまして、その部分について挙証責任を転換するということにつ
いては、刑事訴訟法の基本構造との関係で、かなりそれは問題が大きいものと
考えます。

○池内委員 刑事訴訟法の基本構造で個人の人権が虐げられるというのはおか
しいと思います。性犯罪のときにやり方を変えるということは幾らでもできる
んじゃないか。今おっしゃいましたよね、挙証責任を加害者に負わせれば立証
は大分やりやすくなる、容易になると。だったら、やってください、被害者の
個人の人権を守ってくださいよということを私は言いたいと思う。
 実は今、私が何だかとっぴなことを言っているとお感じになるかもしれない
けれども、世界ではこのような法改正が進んでいるということなんです。
 欧米諸国では三十年から四十年前から刑法を改正してきて、韓国もそうです
ね、我が国が参考にしてきたドイツでも、昨年の改正で、被害者の明示した意
思に反すれば暴行、脅迫は不要、このように改正をしました。そのほかにも、
加害者と被害者の年齢差や、社会的地位、親族からの被害や、教師と教え子、
地位や関係性を利用した類型を処罰するという法改正が何度も重ねられていま
す。レイプシールド法とあわせて、被害者が身の安全を確保する、訴えやすい
状況を社会としてふやしてきているわけです。こうした刑法や刑事司法の手続
の改革が、女性が積極的に被害を訴えられるように変化をもたらしている。
 法務総合研究所の研究が指摘しているフランスの事例を読み上げてくださ
い。

○高嶋政府参考人 御指摘の箇所は、法務総合研究所研究部報告三十八の十六
ページ目、下から五行目から十七ページ目三行までの八行ということでよろし
いかと思いますが、読み上げます。
  フランスにおける性犯罪の発生件数は増加傾向にあるが、この背景には、
性犯罪を警察に届け出やすい環境の整備(例えば、既述の性犯罪に関する公訴
権の消滅時効に関する法改正等)及び国民、特に女性の権利意識の変化がある
ようである。すなわち、以前は性犯罪の被害、特に家庭内や親族間で起きた強
姦事件等については、被害者である女性が警察に被害届を出さない傾向が見ら
れたが、二十年ほど前から、女性の人権意識(自己の権利はだれにも侵される
ことのない絶対的で崇高な性質のものであるとの意識)の高揚とともに、自ら
警察への被害届や通報をためらわずに行うなど、女性の性犯罪の被害に関する
意識が徐々に変化しており、これが統計的に性犯罪の増加をもたらした大きな
要因の一つであると考えられている。
以上でございます。

○池内委員 声を上げやすい、暗数を減らす、こういう努力があれば、女性た
ちはエンパワーメントされて、自分の被害を被害として認識し、立ち上がるこ
とができる。ぜひ、この方向での改正をさらに求めていきたいと思います。
 次に、構成要件についてお聞きします。
 改正百七十七条は行為者及び被害者の性別を問わないとした点、ジェンダー
中立化が図られて、評価ができる、本当に大事なことだというふうに思いま
す。しかし、あくまでも男性器の挿入行為に限定をされ、強制性交と強制わい
せつでは法定刑が全く違っています。性的侵入に対する重大性の認識が極めて
浅いのではないかと思います。
 性的侵入を男性器に限って重く処罰する国というのは一般的なんでしょう
か。

○林政府参考人 諸外国の制度を網羅的に把握はしておりませんけれども、当
局が把握している限りでは、強姦罪の対象行為を男性器の挿入に限定して、男
性器以外の例えば異物挿入に関する罪について、これとは別に軽い法定刑を定
めている国あるいは州としましては、アメリカにおけるニューヨーク州、それ
から大韓民国があるものと承知しております。

○池内委員 つまり、世界的に見て、男性器に限っている国は本当に少数派で
す。しかも、韓国では男性器と異物を分けているけれども、法定刑の上限は三
十年以下で一緒です。イギリスでは性的侵入は何でも、別に男性器であろうが
指であろうが異物であろうが、上限は終身刑となっています。しかし、日本で
は男性器以外の挿入というのは強制わいせつ罪になって、強姦罪とは大きな法
定刑の差がある。
 こうした状況について、刑法学者からは、男性器の女性器への挿入行為を特
別に扱い、それ以外と区別する発想は、家父長制度のもとで男系の血統の維持
を目的とした従前の強姦法の考え方を引きずったもの、このように批判をされ
ています。こうした批判をどう受けとめますか。被害者からすれば、とりわけ
子供にとっては、異物挿入であっても極めて深刻な事態じゃないでしょうか。

○林政府参考人 御指摘は、例えば膣や肛門等への異物等の挿入について、強
制わいせつ罪よりも重いけれども強姦罪よりは軽い犯罪、こういったものを処
罰類型としてつくってはいかがか、そういったものをしないのは、男性器挿入
ということについて、今委員が御指摘のような考え方に立っているのではない
かという御質問だと思います。
 異物を膣や肛門等に入れる行為につきましては、異物にもさまざまなものが
ございます、類型的に強制わいせつよりも重く処罰する異物の範囲、これを定
めることは困難であると考えます。
 また、異物の挿入は、その異物の性状や行為態様に応じて、法定刑の上限が
懲役十年であるところの強制わいせつの枠内で、事案の実態に即した対処をす
ることが可能であります。そのようなことから、異物の挿入行為につきまして
は強制わいせつ罪よりも重い犯罪を設けて処罰することは今回はしていないと
いうことでございます。
 他方で、異物の挿入が強姦罪、今回でいう強制性交等罪と全て同質の当罰性
があるかと言われましたら、そうではないと考えておりますので、今回、そう
いった考え方から、このような異物挿入について特別の類型とすることにしな
かったものでございまして、男性器挿入というものにこだわっている、そうい
うものではございません。

○池内委員 被害者のリアリティーからはかけ離れた答弁だったと思います。
その認識自体が世界から物すごくおくれているという自覚をぜひ持っていただ
きたいと思うところです。
 今回の法改正ではまだまだ足りない、構成要件をもっと強化して改正すべき
だと思います。子供を保護するという観点で極めて不十分です。
 今回、監護者わいせつ及び監護者性交等罪が新設されますが、この規定だけ
では、先ほどの鹿児島のようなスポーツ指導者と教え子、こうしたケースは救
えないということになります。欧米諸国では、子供への性被害は加重する、こ
れが当たり前です。
 今回の改正は、新設された罪はありますけれども、法定刑を見ればそのよう
にはなっていません。成人するまでの公訴時効の停止、撤廃も盛り込まれてい
ない。いわゆる性交同意年齢についても、一般的に日本人よりも未成年者の成
熟度が早いと言われている欧米諸国でも十五歳、十六歳が通常で、つまりそれ
だけ子供を性的被害から国家として保護している。
 明治時代の十三歳にとどめおいていいんでしょうか。我が国の子供は、欧米
諸国、韓国などと比べて格段に性暴力、性犯罪からの保護のレベルが低いと、
大臣、思いませんか。

○盛山副大臣 今回の法案というのは、我々としては、児童に対する性犯罪へ
の厳正な対処という視点での改正というふうに捉えることができるのではない
かと考えております。
 法制審議会の刑事法部会におきましても、年少の児童に対して口腔性交をし
た等の事案が多くあるとの指摘があるところ、口腔性交につきまして、これま
では強制わいせつ罪で対処するほかなかったわけでありますが、今回の法案に
より、強制性交等罪として重く処罰することが可能となっております。
 また、家庭内における児童に対する性犯罪は、新設された監護者性交等罪に
よって、より事案の実態に即した処罰が可能になると考えております。
 さらに、家庭内の性的虐待事案では親からの告訴が得られにくい事案もある
と承知しているところ、今回の法案により性犯罪が非親告罪になることから、
この種の事案について、告訴がなくとも早期に警察等が介入することが可能と
なると考えております。
 また、教師やスポーツのコーチ、こういったことにつきましても、先ほども
御答弁したところでありますが、事案に応じて準強制わいせつ罪、準強制性交
等罪、児童福祉法違反が成立し得ることとなりますので、この点においても、
児童の保護という点については我々も考慮したつもりでございます。

○池内委員 今御答弁されたような事実を認識されたということはとても大事
だと思うんですけれども、でも、もっと幅広く視野を持っていただいて、限り
なく全ての性暴力を許さない、きちんと性犯罪として取り締まるのだ、こうし
た構えで子供たちを守っていきたいし、その点ではやはり不十分だと言わない
といけないと思います。
 今や世界では、法律、政策など、あらゆる領域とレベル、社会の隅々におい
ジェンダー平等を目指すジェンダー主流化、この潮流が当たり前になってい
ます。
 私がきょうずっと明らかにしてきたように、今、検察官も裁判官も約八割が
男性で、男性中心の物の考え方、物の見方が社会規範として浸透しています。
そして、その浸透してしまったジェンダーバイアス、とらわれた目で見ている
と、何が不正義かはわからなくなります。気づきにくい。
 自分の中に内面化されているこのジェンダーを自覚して、そしてこのジェン
ダーバイアスを取り除いていくという訓練は一朝一夕ではできない。私は、本
当にこれはやらなきゃいけない課題だし、男女平等というのが単なるつけ足し
じゃないんだったら、この改革こそ必要だというふうに感じています。
 刑事司法におけるジェンダーバイアスをなくすための教育、一九八〇年代か
らアメリカを初め諸外国で既に行われています。こういう事例を参考にジェン
ダー教育を強化していくというのはいかがでしょうか、裁判所そして刑事局
長。

○堀田最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。
 司法研修所におきましては、性差に関する問題について裁判官が理解を深め
るということの必要性を理解しておりまして、そういった理解のもとに、これ
までも裁判官に対しまして、性犯罪、DV、セクシュアルハラスメント、女子
差別撤廃条約等に関する研修を実施してきたところでございまして、今後も、
研修の必要性を踏まえました上で適切に研修を実施してまいりたいと考えてい
るところでございます。

○林政府参考人 検察官の研修につきましては、必ずしもジェンダー教育とい
う位置づけをしているものではございませんけれども、性犯罪被害者等の立場
を踏まえた捜査、公判のあり方といった教育及び男女共同参画に対する理解を
深めるための教育、このようなものを実施しているところでございます。

○池内委員 どちらも今お答えいただいて、裁判官の研修の資料をいただきま
したけれども、これを見ても、性暴力に特化したもの、またジェンダーに特化
したものもありません。検察の方は、過去七年間を振り返っていただきました
けれども、性犯罪被害の心理に配慮した取り調べ、この研修が四百八十九時間
の間にわずか二時間三十分行われただけ。やはりこれでは、被害者は真の意味
で救われないというふうに思うんですね。
 今回の刑法の改正は本当に第一歩、今後検討を進めるに当たっては検討会や
法制審議会の委員の人選が非常に重要だと私は思います。ジェンダー法学専門
有識者を多数選任するように求めます。

○小山政府参考人 お答えを申し上げます。
 法制審議会についてのお尋ねでございます。
 法制審議会は、民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議
することなどを目的とするものでございまして、このような性格から、法制審
議会の調査審議に当たりましては、法律専門的な調査検討のほか、経済社会の
急激な変化及び複雑化に適切かつ迅速に対応する必要があるものと認識してお
ります。
 このような観点から、法制審議会の委員につきましては、幅広い意見を述べ
ていただくために、公正かつ均衡のとれた構成になるよう配意いたしまして、
法律専門家あるいは一般有識者といった多様な立場の方々を適切に任命してい
るものと認識しております。
 また、この委員の人選につきましては、総会、部会のいずれにいたしまして
も、今委員の御指摘がございましたようなさまざまな観点から御意見をいただ
いてきたところでございます。
 今後とも、この委員の人選につきましては、さまざまな御意見を踏まえまし
て、先ほど述べました法制審議会の設置の趣旨、目的に照らしまして、委員に
より代表される意見、知識経験等が公正かつ均衡のとれた構成になるよう留意
し、適切な人選に努めてまいりたいと考えております。

○池内委員 適切かつ迅速にジェンダー主流化を実現していただきたいと思い
ます。
 最後に、百十年ぶりのこの刑法改正が国民の意識にどのように反映していく
のか、継続的な調査をぜひ行っていただきたいと思いますが、いかがですか。

○金田国務大臣 池内委員の御質問にお答えをいたします。
 今回の法改正は、これまでも何度もお話が出ておりますが、明治四十年に現
行刑法が制定されて以来初めて、性犯罪の構成要件等を大幅に見直すものであ
ります。今回の法改正を機に、性犯罪が決して許されないものであるとの意識
を社会全体にさらに醸成するということが重要であると考えております。
 そこで、私ども法務省としましては、ホームページへの掲載を初めとする広
報活動のほか、国会での御審議や記者会見などのさまざまな機会を通じまして
丁寧に御説明をすることにより、御指摘のように国民に法改正の内容を浸透さ
せていきたい、このように考えております。
 現時点では、法改正が国民の意識にどのような影響を与えるのか、その中身
がどの程度国民に浸透するのかについて直接の調査を予定しているものではな
いわけですけれども、今後とも、刑法等の罰則を可能な限り時代の要請にかな
ったものとするために必要な検討や調査を行ってまいりたい、このようにも考
えておる次第であります。

○池内委員 時間なので終わりますが、きょう質問できませんでしたが、加害
者更生プログラム、こうした取り組みも本当に重要だというふうに認識してい
ます。私も性暴力を絶対許さない日本社会をつくるために頑張る決意を申し上
げまして、質問を終わります。
 ありがとうございました。

○鈴木委員長 次に、畑野君枝君。

○畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
 刑法の一部改正案について質問いたします。
 先ほどからお話がありますように、百十年前の制定から初めての性犯罪に係
る刑法改正です。きょう一日の委員会審議でなく、参考人の皆さんの御意見な
ど、しっかりした論議を尽くすべきであったということを最初に強く申し上げ
たいと思います。
 私はきょうは、この間お話を伺ってまいりました山本潤さんの著書、「十三
歳、「私」をなくした私」を少し御紹介させていただきたいと思います。冒頭
にこのように述べられています。私は父親からの性的虐待のサバイバーだ、私
が十三歳のとき、父は私に性加害をするようになり、それは父と母が別れるま
で七年間続いた、私の心は人生の早い時期に殺されてしまったのだと述べられ
ております。そこから立ち直って、このような本を書かれるまで、どれだけの
年月が、そしてどれだけの苦しみ、悲しみがあったか。まさに魂の殺人と言わ
れる問題です。
 そこで、私は、短い時間ですが、今回の法案で、百七十九条、監護者わいせ
つ罪及び監護者性交等罪の新設がされたことについて伺いたいと思います。
 監護者が性的虐待を行うということは、本来助けを求めたい人に虐待を受け
ることですから、被害者の心理的ダメージは本当に強いものがあります。そこ
で、伺いますが、法案の現に監護する者とは何か。そして、地位、関係性を利
用した性的行為に関して、例えば教師と生徒、雇用関係、障害者施設や福祉施
設の職員と入所者、医師と患者、スポーツコーチや協会役員と選手など、現に
監督する者に含まれる場合があるのではないかと思いますが、大臣、いかがで
しょうか。

○盛山副大臣 先ほども御答弁申し上げたところでございますが、監護者性交
等罪の現に監護する者とは、十八歳未満の者を現に監督し、保護している者を
いいます。これに当たるか否かは個別の事案における具体的な事実関係によっ
て判断されるものですが、一般的には、現に生活全般にわたって依存、被依存
ないし保護、被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められる
ことが必要であると考えております。
 教師、スポーツの指導者という御指摘がございました。一般論として申し上
げれば、御指摘の教師やスポーツ等の指導者については通常は、児童生徒との
間に生活全般にわたる依存、被依存ないし保護、被保護の関係が認められない
ことから現に監督する者に当たらない場合が多いと考えられますが、繰り返し
申しますが、これも具体的なケース・バイ・ケースということになります。
 福祉施設の職員等につきましてもさまざまな場合が考えられ、一概に申し上
げることは困難ではありますが、同居の有無、居住場所に関する指定等の状
況、指導状況、身の回りの世話などの生活状況、生活費の支出などの経済的状
況、未成年者に関する諸手続等を行う状況などの要素を考慮して、実態として
生活全般にわたって依存、被依存ないしは保護、被保護の関係が認められ、か
つ、その関係に継続性が認められる場合には、現に監護する者に該当する場合
もあると考えております。

○畑野委員 刑罰法規である以上、構成要件は明確でなくてはならないと思い
ます。法務省として明確な見解を示すべきだということを申し上げておきたい
と思います。
 二〇一五年二月十八日付神奈川新聞に次のような記事が載りました。
 特別支援学校の小学部に通う長女には知的障害がある。放課後に通う放課後
等デイサービスで、昨年一月、二〇一四年ですが、職員の男が利用者の女児に
わいせつな行為に及んでいたことが発覚。警察からの電話は発覚から四カ月後
だった。警察署で、男性が撮影したという動画を見せられた。長女だとわか
り、女性は泣き崩れるしかなかった。
 私は、この横浜市の女性から直接お話を伺いました。そのお母さんは、何回
も動画を見せられ、警察、裁判所などで同じ話をさせられた、一年以上心療内
科から処方された薬を服用しても夜眠れなかった、家族全員が苦しんだとおっ
しゃっております。子供が性犯罪の被害に遭ったときに、心理的負担に十分に
配慮して面接を行い、事実の確認とケアをすべきだというふうに思います。
 そこで、厚生労働省として、二〇一五年十月二十八日に、子供の心理的負担
に配慮した面接の取り組みに向けた警察、検察との連携強化についてという通
知を出しております。
 私、先日、神奈川県伊勢原市にあります子どもの権利擁護センターかながわ
に伺いまして、先ほどあった司法面接、診察室があって、虐待を受けたことが
疑われる子供のためのワンストップセンターとなっている、連携もしていると
いうことも伺いました。
 厚生労働省に三つ質問をお願いしているんですが、まとめてお答えいただけ
ますか。
 この通知によって、子供の心理的負担の軽減がどのように制度として図られ
ているのか。そして、年齢別の性的虐待の件数、協同面接の実施件数、具体的
な対策についてどうか。最後に、法改正に伴って児童相談所について対応が充
実されることが必要だと思いますけれども、また、先ほど紹介したような医療
機関との連携も進める必要があると思いますが、その点はいかがでしょうか。

○山本政府参考人 お答え申し上げます。
 心に深い傷を負った子供から被害状況等の聞き取りを行う際は、被害児童に
とって二次被害にならないように十分配慮する必要があると考えております。
 先生御紹介になりましたとおり、平成二十七年十月に通達を出しておりまし
て、児童相談所、警察、検察の三機関で面接、聴取方法等について協議するよ
うに通知をしているところでございます。
 この協同面接等により、必要な情報を一人の面接者が集中して話を聞くこと
で、被害の詳細を語ることが子供にとって出来事の再体験となる二次被害を回
避または緩和することができるなど、子供に与える負担をできるだけ少なくし
ているものと考えております。
 それで、実績でございますが、私どもとしては四半期ごとに都道府県等から
報告を求めておりまして、平成二十七年十月から二十八年九月までに合計二百
十四件の三機関による協同面接または二機関による面接が実施されているとこ
ろでございます。
 面接、聴取方法を児童相談所が警察、検察に協議した事例二百四十七件のう
性的虐待の件数は百三件ということでございますが、年齢別の内訳を見ます
と、学齢前児童、ゼロ歳から六歳が六件、小学生、七歳から十二歳までが三十
四件、中学生、十三歳から十五歳までが四十三件、高校生その他、十六歳から
十八歳が二十件というふうになってございます。
 こうした児童相談所における協同面接が円滑に実施されるように、厚生労働
省では、児童相談所強化プランに基づく専門職の増員を図るとともに、昨年五
月に成立しました改正児童福祉法において、児童福祉士等の専門職に研修の受
講を義務づけております。その研修のカリキュラムにおいて警察、検察など関
係機関との連携について盛り込んでおりますので、二十九年度から取り組みが
進んでいくものと考えております。また、平成二十八年度から協同面接を実施
するための設備等を整備するための費用への補助を実施しております。
 今回の刑法改正法案が成立した際には、その趣旨や内容等について、法務省
とも十分に相談させていただきながら、児童相談所に対して十分に周知を図っ
てまいりたいと思っております。
 また、今後の体制強化につきましては、昨年四月に策定した児童相談所強化
プランに基づきまして、児童福祉士等の専門職を平成三十一年度までの四年間
で千百二十人増員することを目指すなど、児童相談所の体制整備を図っていき
たいと考えております。
 また、先生御紹介になりましたように、子どもの権利擁護センターかなが
わ、こちらでは子供の心理的負担に配慮した面接と診察をワンストップで実施
する取り組みが行われているところでございまして、こうした民間団体とも十
分に連携した子供ケアを図っていきたいというふうに思っております。

○畑野委員 時間がもうなくなってしまいました。警察庁検察庁内閣府
来ていただいたんですが、積み残しでございます。
 最後に、金田大臣に伺いたいと思います。まだまだこれから、法改正そして
運用の改善を含めていろいろな支援を進めていく必要がある、財政的にも必要
になってくると思います。その御決意を伺って、私の質問を終わります。

○金田国務大臣 畑野委員にお答えをいたします。
 このたびの本法案の提出に当たりましては、さまざまな観点からの御要望や
御意見をいただきました。これを踏まえて、法制審議会での審議を経て十分に
検討を行ったものと認識いたしております。
 もっとも、本法案の内容が不十分であるという御指摘もあることにつきまし
ては真摯に受けとめた上で、今後とも適切に検討を行ってまいりたい、このよ
うに考える次第であります。
 また、検察当局におきましては、これまでも警察や児童相談所と連携するな
どいたしまして児童の負担軽減及び供述の信用性確保に努めてきたところでご
ざいますが、今後とも、児童はもちろんのこと、性犯罪の被害に遭われた方々
の心情やプライバシー等に十分配慮した捜査、公判を行っていくものと承知し
ておりまして、私ども法務省としましても、関係府省庁と連携いたしまして性
犯罪被害者への配慮、支援の充実に積極的に取り組んでまいりたい、このよう
に考える次第であります。

○畑野委員 終わります。

○鈴木委員長 次に、木下智彦君。

○木下委員 日本維新の会木下智彦でございます。
 大体半年ぶりぐらいになるかと思います。この法務委員会、時間をいただき
まして、本当にありがとうございます。何かちょっと懐かしい思いで、前にい
らっしゃる方々も、後ろの方に座っていらっしゃる方々もほとんど変わらない
中でお話ができるので、きょうの機会をいただいたことを非常にうれしく思っ
ております。
 今回の件なんですけれども、実は、去年、私の方から質問させていただいた
内容を真摯に受けとめていただいて、こういう形で今回審議ができるというこ
とで、これも本当にうれしい話なんです。
 先ほど来、野党の皆さん、いろいろ言われておりました。非常に大事な法案
で、たくさんの審議時間をかけるべきものだと。私はこの委員会を外れてい
て、いろいろ横目に見ていたんですけれども、例のテロ等準備罪の話であると
か、その審議入りをする前にも、この刑法については非常に重要だから先に審
議するべきだというふうな話も出たりしておりました。
 ただ、ちょっと思ったのが、そうであるならば、これは中であったかどうか
は、私は知らないところで言うのは恐縮なんですけれども、例えば、こういう
委員会の定例日だけではなくて予備日の提案をするであるとか、本当にそうい
うふうな審議を充実させるためのことがやられたのかどうかというところがな
かなか見えないので、ちょっとそこがどうだったんだろうなという気がして、
聞いておりました。
 それから、もう一つあるんですね。
 重要な法案であるという中で、先週の金曜日に本会議場でこれの質疑があり
ました。そのときに、それがいけないとか、これがいけないとかという話じゃ
ないんですけれども、個別の案件で、ジャーナリストの方が性的な危害を若い
女性の方に加えたという話がありました。
 これを取り上げるなという話では私はないと思っています。当然、こういっ
たことも個別の案件としてはあったんだということで、取り上げるのはいいと
思うんですけれども、その日の夜のニュースを見ていて、ほとんどのテレビ局
がこの刑法改正の中身については全く報道しないんです。言っていたのは何か
というと、警視庁の刑事部長がその逮捕をとめた、それについて質問したとい
うような感じなんです。これって本当にいいのかなと。質問する側もその辺は
ぜひ考えていただきたいと思うんです、これは非常に申しわけない話ですけれ
ども。
 ましてや、例えば、これが政局にとらわれて、メディアに事前に、こういう
ことを話をするからぜひテレビで流せとか言っているようなことであったとし
たなら、そうだとは言いませんけれども、あったとしたならば、これは、本当
に大事な法案だと言っていることとちょっと矛盾するんじゃないかなというふ
うに私は思っているので、そうでないことを祈りたいなというふうに思いま
す。
 なぜこういう話をするかと……(発言する者あり)そうじゃないと。それな
ら、安心です。名誉のために、そうじゃないというふうにおっしゃられていま
したので、そうじゃないということだと思います。
 なぜこういう話をするかというと、昨年、私、この法案についてこの委員会
で話をさせていただいたときに言ったんですけれども、あの当時、法制審議会
でいろいろと話がされたこと、そういったことについて報道があったんです。
そのときには、これも重要だとは思うんですけれども、今回の刑法の改正、百
十年ぶりというふうに言われている中で、こういった性的な被害者の、これを
親告罪でなく非親告罪化するんだということが新聞報道の前面に出ていたんで
すね。
 私は、当然これも非常に重要なことだと思うんですけれども、もっと、もっ
とと言うとこれはまた語弊があるかもしれませんけれども、重要だなと思うと
ころは、先ほど共産党の池内委員も言われていましたけれども、主体と客体
が、今までは、これは強姦罪に関してですけれども、被害者は女性、そして加
害者は男性というふうに限定されていた、これは、主体と客体というふうなも
のが、捉え方を変えて、本当に今の現実に即した形になっていく改正案だとい
うことで、非常に評価すべきものなのではないかなというふうに思ったので、
あの当時に言ったのは、そういったことをやはり報道してほしいし、そう思っ
たからこそ、あの場に立たせていただいて質疑をさせていただいた、そういう
くだりでございます。
 前置きが非常に長くなって大変申しわけないんですけれども、では、まず、
今回の法案で変わるところ、評価できるところだと思うんですけれども、そう
いったところで、その内容についてちょっと詳しく教えていただきたいところ
があるので、まず一番最初に話をさせていただきたいことがあります。
 それは、強盗、それから、今回の法案である強盗・強制性交等罪及び同致死
罪についてという形で話をさせていただきます。今までは、今までというのか
現在の法律では、強盗強姦罪というのがありました。今度の強盗・強制性交等
罪、これで具体的にどういったところが変わるのかというところを聞きたいん
ですね。
 その中で、特に、今までは、強盗強姦罪の場合、未遂というふうに言ったと
きに、調べてみると、どっちを未遂したときが未遂罪に当たるのか、強盗なの
か強姦なのか、この辺はどういうふうになっていたのか。それから、今回、強
盗・強制性交罪の未遂罪というふうになったときに、どういう違いがあるの
か。ここの部分を、その理由も含めて教えていただけますでしょうか。

○林政府参考人 まず、現行法の強盗強姦罪、この未遂罪でございますが、こ
れは、強盗に着手した犯人が、それ以後に強姦に着手することを前提といたし
まして、強盗の既遂、未遂にはかかわらず、強姦が未遂に終わった場合、この
場合に強盗強姦未遂罪が成立するものと解され、そのように判例もなっており
ました。
 これに対しまして、今回、強盗・強制性交等罪を新設したわけでございます
けれども、これにつきましては、二百四十一条二項で任意的な減軽が認められ
る範囲は、まず、着手の先後を問わず、強盗の罪と強制性交等の罪のいずれ
も、両方が未遂に終わった場合、この場合に任意的減軽が認められるとしたも
のでございます。
 したがいまして、強制性交等の罪に先に着手した場合にも減軽をなし得るこ
ととなるのはもちろんでございますが、先に着手した強盗の罪が既遂、後に着
手した強制性交等の罪が未遂で、この場合には現行法であれば強盗強姦未遂罪
が成立するというわけでございますが、今回の二百四十一条二項にはこれでは
該当しませんで、刑の減軽を認めないこととなります。
 要すれば、いずれにしても、今回の新たに設けた強盗・強制性交等罪におい
ては、強盗の罪と強制性交等の罪のいずれもが未遂に終わったこと、その場合
にのみ任意的減軽が認められるということになります。

○木下委員 ありがとうございます。
 要すれば、今までは未遂が強姦のみだった、それにこれが適用されていたと
いうことだと思うんですね。それが今回で変わる。現実に即しているといえば
即しているんだと思うんですけれども、ここでもうちょっと聞きたいんです。
 その二百四十一条、私はここは非常に重要な点だというふうに思っているん
ですけれども、今まで聞いたところでいうと、強盗を働いた者が強姦をした場
合、それから強姦を目的にして行ってその後強盗をした場合、この場合で今ま
で違ったというんですね。刑量が違うというふうになっていたと思うんですけ
れども、これは何でそうだったのか、なぜそうだったのか、どうして今回それ
をよしとせず変えたのか。これはしっかりその理屈を教えていただきたいんで
す。

○林政府参考人 これまでの現行法における強盗強姦罪につきましては、主体
は強盗犯人、強盗がというふうに条文はなっておりますが、強盗犯人が強姦を
した場合、この場合にのみ強盗強姦罪が成立する、このようになっておりまし
た。これは、主体が強盗となっていたからでございます。
 そして、他方で、強盗と強姦との双方を行った場合でありましても、強姦の
行為が先で、強姦行為の後に強盗の犯意を生じて強盗をした場合、この場合に
は、今申し上げた理由により強盗強姦罪は成立しませんで、結局、強姦罪と強
盗罪との併合罪が成立するということにとどまっておりました。
 こうなってまいりますと、処断刑というものは、強盗強姦罪の場合とそれか
強姦罪と強盗罪の併合罪の場合とでは大きく異なる結果となります。
 しかし、同じ機会にこれらそれぞれ単独でなされてもなお悪質な行為であり
ますところの強盗行為と強姦行為との双方を行うこと、このことの悪質性ある
いは重大性に鑑みますと、こういった強盗行為と強姦行為との先後関係であり
ますとか犯罪の発生時期の違いをもってこのように科すことのできる刑に大き
な差異があるということは、これは合理的に説明することは困難であります。
 そこで、今回の法改正におきましては、強盗行為と強制性交等の罪に当たる
行為が同一の機会に行われた場合におきましては、その行為の先後を問わず
に、強盗・強制性交等罪として、これまでの強盗強姦罪と同様の法定刑で処罰
することを可能とするようにしたものでございます。

○木下委員 ありがとうございます。
 先後を問わずこうするのが普通だろうという御答弁がありました。確かにそ
うするべきだと思うんですね。ですから、今回の法案、非常に評価できるポイ
ントかなというふうに思ったんです。
 聞いていて思ったんですけれども、百十年間、ここの部分は変わっていなか
ったんですね。これによって刑量が違う罪を着た人たちがいる、この現実とい
うのをしっかり捉まえなきゃだめだと私は思うんです。百十年前と今は違う
と。しかし、今というのも、今回の改正がなければ、ここ五年、十年の間にで
も同じようなことをし、そういうふうなことに対して被害者の人たちの感情が
左右されてきたということ、これをしっかりと捉まえた上でこのポイントを理
解しなければならないのかなというふうに今思いました。
 次に、もう少しここを突っ込んでお話しさせていただきたいと思うんですけ
れども、この二百四十一条の部分で、同じところですね、現法において強盗強
姦というふうな形がされて、そしてそれが致死、死に至った場合、この場合に
係る被疑者の殺意の有無の取り扱いと今回の法案の取り扱いの違いというとこ
ろをちょっと聞かせていただきたいんですね。
 いろいろと私の方でも調べさせていただいたんですけれども、ちょっと整理
があれなんですけれども、まず聞きたいのが、例えば、殺意があった場合とい
うのを、この二百四十一条のもともとのところで含んでいた場合には、一つ、
強盗強姦致死罪というふうな形で捉えられることがある、ただ、今は、この殺
意の有無というのが含まれていない。それで、強盗強姦罪とそれから強盗殺人
罪、この二つが、観念的競合というんですかね、これによって判断されて、今
判例としてこの捉え方をしている。これはさまざまな、いろいろな考え方が
ある。
 さっき言ったのは、強盗強姦罪と強盗殺人罪というのが競合しているという
形。それからもう一つは、強盗強姦罪殺人罪が競合しているという形。これ
はともすれば法定刑が軽くなる可能性があるので、これはいけないだろうとい
うふうに言われていた。それから、強盗強姦致死罪とそれから殺人罪が競合す
るという考え方もある。この場合は、強盗強姦致死、致死というのと殺人とい
うのが両方重なっているので、これは二重評価なんじゃないかという話である
とか。もしくは、強姦罪と強盗殺人罪が競合性がある。
 この中で、今までは、判例としても、強盗強姦罪それから強盗殺人罪という
ものの競合関係というのを捉まえていたというふうなことなんですけれども、
これは今までどうしてそういうふうな形になっていたのかということ。それか
ら、今回で、どういう形で、その観念的競合というのと、それから先ほども言
われていた併合罪と、この辺の関係をちょっと体系的に整理していただきたい
と思います。

○林政府参考人 強盗強姦致死罪がどのような場合に成立するかという解釈に
つきましては、これはもちろん、この法律自体が明治にできた法律でございま
して、その後、裁判例によって確定されてきた経緯がございます。
 これについて、どのように考えるべきかというのは、学説によってはさまざ
まな意見があるわけでございます。しかしながら、非常にたくさんある学説の
中で、裁判例としてはこのように確定した解釈をしてまいりました。
 まず一つは、現行の強盗強姦致死罪につきましては、強盗の機会に行われた
姦淫行為またはその姦淫行為の手段である暴行、脅迫から死の結果が生じた場
合に成立するものである、こう考えていました。強盗強姦致死罪については、
姦淫行為またはその手段である暴行、脅迫から死の結果が生じた、こういった
場合にのみこの強盗強姦致死罪は成立する、こう考えていました。
 また、判例上、この強盗強姦致死罪はいわゆる結果的加重犯である、このよ
うに理解していました。したがいまして、殺意のない場合に限り強盗強姦致死
罪は成立する、このように考えていました。
 したがいまして、委員御指摘のあったように、強盗犯人が被害者を強姦して
故意に殺害した、このような場合には、これは強盗殺人罪がまず成立します。
さらに、致死を除いた強盗強姦も成立しますので、結局、この強盗殺人と強盗
強姦が観念的競合になる。これがこれまでの判例の確定した解釈でございまし
た。
 これに対しまして、今回、改正後の二百四十一条の三項の罪は、強盗の罪と
強制性交等の罪とが同一の機会に犯された場合において、その行為の先後関係
を問わずに、いずれかの罪に当たる行為から死の結果が生じた場合について成
立するものとしております。現行の強盗強姦致死罪は、先ほど申し上げました
ように、後に行われた行為である強姦に係る行為から死の結果が生じた場合に
ついてのみ成立したということでございますので、それと比較しますと、いず
れかの罪に当たる行為から死の結果が生じた場合にも成立するという点で、現
行の判例の解釈よりも成立範囲は拡大するということになります。
 また、殺意の点で申し上げますと、改正後の二百四十一条の三項の罪には、
強盗の罪または強制性交等の罪のいずれかの罪に当たる行為により殺意なく人
を死亡させた者だけではなくて、殺意を持って人を死亡させた者もその対象に
含むものとして今回制定しております。したがいまして、この点におきまして
も、現行の強盗強姦致死罪に比べまして成立の範囲は拡大するということにな
ります。

○木下委員 ありがとうございます。今非常に細かく説明していただいて、よ
くわかったと思います。
 今の話を聞いていても、殺意があったか、なかったか、行為がどっちだった
かということにかかわらず、今回の改正で範囲が広がる、それが、立法事実と
いうんですかね、実際に求められるものに近づいているというふうに、私は今
の質問させていただいた御答弁で感じました。
 では、次の話をさせていただきます。
 これもいろいろな委員の方々が言われていたことなんですけれども、今まで
強姦罪、今回の強制性交等罪の要件の暴行、脅迫、それから、準強制性交等
罪の要件として心神喪失もしくは抗拒不能、金曜日に私は本会議場でもやらせ
ていただきましたけれども、ここは、こういう形の表現であれば狭過ぎるんじ
ゃないのというふうな話をさせていただきました。現実に即して考えたら、い
ろいろなときがあるでしょう。きょうもいろいろなことをケースとして言われ
ていて、それについては、細かくその状況等々で判断していくんだというふう
に言われていました。
 いま一度ここの部分を確認したいんですけれども、例えば強姦罪のところで
言われていた、反抗を著しく困難ならしめる程度、これは具体的にどういうこ
となんですか。これはどういう形になったときのことをおっしゃられている
か。

○林政府参考人 まず、暴行、脅迫というものは、刑法において、ほかの罪名
においても使われております。
 まず、相手方の反抗を著しく困難ならしめる程度のものであれば強姦罪にお
ける暴行、脅迫は足りるということの意味でございますが、まず一点は、強盗
罪との比較がございます。
 強盗罪における暴行、脅迫は、相手方の反抗を抑圧する程度のものという判
例の解釈がございます。そのような、相手方の反抗というものを前提として、
それを抑圧する程度のものである必要があるというのは、強盗罪の暴行、脅迫
においてはその程度までが必要でございますが、強姦罪についてはそこまでは
必要がない、反抗を著しく困難ならしめる程度のものであれば足りる、このよ
うに判例で解釈されました。
 その上で、さらに、反抗を著しく困難ならしめる程度の内容というものにつ
きましても、それに続く判例におきまして次のような判示がなされておりま
す。
 暴行または脅迫の行為、単にそれのみを取り上げて観察すればこれが反抗を
著しく困難ならしめる程度には達しないと認められるようなものでありまして
も、その相手方の年齢、性別、経歴、その場合のなされた時間、場所の環境、
こういった状況を考慮して、相手方の反抗を著しく困難ならしめる程度で足り
るということを解すことができる、このように判示もされているところでござ
います。
 したがいまして、累次の判例によりまして、これまでの強姦罪における暴
行、脅迫の内容というものはそのように判例で判示されてきたものでございま
す。
 具体的な事例で申し上げれば、例えば、手首をつかんで引っ張る、背後から
抱きつく、下着を脱がせる、ソファーに押し倒す、こういった有形力の行使の
みが認定された事案で、被害者と被告人の体格差でありますとか、犯行場所に
二人きりであったことなどを踏まえまして、これは反抗を著しく困難ならしめ
る程度の暴行、脅迫があったものと判示されたものがございます。
 また、深夜、カラオケ店の個室内で被告人と二人になっていた、こういった
被害者に対して、上半身を押す、下着を脱がせる、両足を広げるなどの有形力
の行使のみが認定されて、この場合、被害者は被告人から抱きつかれたりして
も強く抵抗していなかったというような事案においても、このような、反抗を
著しく困難ならしめる程度の暴行、脅迫があったと認められた事案があるとい
うことでございます。

○木下委員 ありがとうございます。
 あわせてもう一つ聞きたいんですけれども、準強制性交等の要件というとこ
ろで、これは金曜日のところで御答弁があったんですけれども、同じようなこ
とを言われていましたけれども、物理的、精神的、身体的状況、こういうこと
を判断してと。まあ、状況によって程度の差はあるのかもしれないですけれど
も、これも、今御答弁されたことと同じように、そういう状況を判断してやっ
ている、言葉の意味合いだけでやっているんじゃないよというふうに捉えてい
いんですか。
 というのは、私どもが金曜日に言わせていただいたのが、この準強制性交等
の要件というところで、心神喪失ではなくて心神耗弱でもいいんじゃないの、
抗拒不能ではなく抗拒困難という状態であっても、これを要件として認めるべ
きなのではないかというふうな話をさせていただいたんですね。
 だから、そこは、言葉の使い方はあるとしても、今言われていたような、物
理的、精神的、身体的状況、こういったものによって判断されるべきものであ
り、言葉の使い方は、そこの部分も範疇に含めているという考え方、先ほどの
強制性交等罪のところの要件も含めてですけれども、そういう解釈をしていい
のかどうか。

○林政府参考人 委員御指摘の準強制性交等罪の要件であります抗拒不能とい
うものにつきましては、裁判例におきまして、心神喪失以外の理由で、社会一
般の常識に照らして、当該具体的な事情のもとにおいて、物理的、身体的ある
いは心理的、精神的に抵抗できないか、または抵抗することが著しく困難な状
態にあること、このように判例ではなされておりまして、学説上もこの点につ
いては同様に解されていると認識しております。

○木下委員 ありがとうございます。
 ということは、ちょっと強引な解釈かもしれないですけれども、困難という
場合も含まれているんだ、そういうふうに捉えられたと思います。だから、こ
こはそういうことも含めて非常に評価できるのではないかなと今判断しまし
た。
 では、今度は、先ほども言われていたんですね、被害者の年齢、精神状態、
そういうことも状況の中で考えられると。
 ここで、これも金曜日に話した話なんですけれども、十三歳未満の子供た
ち、十三歳未満であった場合には、同意があろうがなかろうが、今までは、女
の子供に対して行った場合は、これはもう強姦罪というふうなたてつけだった
と思うんですね。
 ここで言わせていただきたいのが、もうその時点で、被害者の年齢それから
精神状態、こういったものも含めて、反抗を著しくできない状態だと私は思っ
ている。その解釈の中で行われる行為が、これも先ほど来いろいろな方々が言
われていましたけれども、姦淫の行為自体が、男性器、陰茎を用いた挿入行為
というふうなもの、これが今までは膣だった、それが口腔もしくは肛門等々に
も広がるというふうな話だったんですけれども、これだけでいいのかなとやは
り思ってしまうんですね。
 前後がありますから、この話についてちょっと先に言わせていただきますけ
れども、今の状態で、被害者の年齢、精神状態を含めてそうであったときに、
先ほども言われていました、手や指、それから、何と言われましたかね、私は
器具というふうに言ったんですけれども、異物というふうなものの挿入行為に
ついてと。
 今まで野党の方々が聞かれていたのは、これは全般的な話として聞かれてい
たと思うんですね。別に十三歳未満の子たちというのではなくて、大人も含め
てそういった行為があったときに、これはさまざまなものがあって、その被害
が性交と同等とまでは言えないというふうな答弁をされていたかと思うんです
けれども、これは、十三歳未満に関しては違うんじゃないかなと私は思うんで
す。
 といいながら、いろいろなものがあります。どういった目的で、例えば医療
行為なんかで指だとかを入れる場合は除かれるべきだと思っていますし、それ
に準ずる形で、器具等を使って検診するとかということもあるかと思うんです
けれども。さまざまなものがある、さまざまなもので除外すべきものがあるか
ら、さまざまなものがあるからここの部分に関しては含めなかったというふう
におっしゃられていたんですけれども。
 これは特に十三歳未満、私は思っているんですけれども、なぜそうかという
と、これもこういうところで言うのは非常に忍びないですけれども、本当に、
子供たちに対しての犯罪、実際を見ていたら、今までのを見ていると、結局、
何とかそういう形で、押さえつけたりそういうことをして挿入行為をしようと
する、でも、小さい子供たちですから、なかなかそうはうまくいかない。
 その中でどういう犯罪が実際にあるかというと、これは全てではないですけ
れども、できないがために、例えば、それこそ手を入れたり、それこそ器具を
使ったり、そういうこともありますけれども、最終的に、よくあるというふう
に言ったらこれはいけないのかもしれないですけれども、先に殺してしまうん
です。殺害をした上で死姦したりとか、こういった行為が非常に多い。その過
程の中で、まず最初に、生きている間にどういうことをするのかと考えたら、
挿入行為、実際の陰茎の挿入行為ができる前にそういうことが起こっているん
ですね。
 だから、そういうことも含めて考えたときに、現実的にそんなことがあって
はならない、それを防ぐ必要があると思うので、これは、実際に除外される行
為というのはどんなことが考えられるんですか。さまざまなとおっしゃられて
いますけれども、そのさまざまなの中で除外され得るべきものというのはどう
いうものを考えられているか、これを答えてください。

○林政府参考人 今回、この性交等という概念については、膣、肛門あるいは
口腔内、このものに陰茎を入れる、陰茎というものについての挿入、これを性
交等だと考えたわけでございます。
 これは、陰茎等の挿入ということについては、極めて濃厚な身体的接触を強
いられるという点で、この点を重く、これまでの強制わいせつ罪の加重要件で
あったところの強姦罪ということが、加重要件と考えていますので、類型的に
そこは重く処罰すべきであると。
 では、その処罰すべきものが、ほかにどのようなものを挿入した場合に類型
的にそこと同等の処罰をすべきかというところになりますと、もちろん、委員
御指摘のとおり、異物の物次第によっては、あるいはその挿入の仕方によって
は、極めて陰茎が挿入される場合と同等程度の身体的に濃厚な接触を強いられ
るという態様があることは、それはそのとおりであろうかと思います。
 ただ、この場合に、ではどこまでが陰茎等の挿入と同程度の身体的な接触な
のかということを考えた場合に、ですから、あらゆる異物、さまざまなあらゆ
る異物を全て挿入した行為を性交等罪、今までの強姦罪と同等に処罰する、こ
れは困難だろうと思います。
 そうした場合に、ではどこまでの範囲をこれまでの強姦罪と同等に処罰すべ
きかとなりますと、重く処罰する行為の範囲、外延というのは、非常にこれを
定めることは困難であります。したがいまして、今回、陰茎等の挿入というも
のに限定して加重するということにしたものでございます。
 以上でございます。

○木下委員 ありがとうございます。
 わかるんです、今の言葉でわかるんだけれども、でも、さっき言われていま
したよね、被害者の年齢であるとか精神状態であるとか、そういうことを考え
て、それでやる、その状況によって判断していくんだというふうに言われてい
たのであれば、特に十三歳未満の子供たちに対しては、陰茎の挿入と同等な濃
厚な挿入行為は処罰の対象にすると書けばいいじゃないですか。
 類型的にどうかといったときに、その状況で判断するんだとまで言われてい
たのであれば、逆にそこの部分については、私は保護すべき対象にしてもいい
んじゃないか。これはすごく体系的には難しいことかもしれません。そうする
とあっちが出ればこっちが出ないということはあるということは理解しながら
も、私は、特に十三歳未満の子供たちに対してはそういうことをやっていくべ
きなのではないかなと。
 これはすぐに対応できることかどうかはわかりません。ただし、常日ごろ、
実際に犯罪がどういうふうにして行われて、そしてどんなふうな状況だったの
かということをしっかり見て、これをどんどんどんどん改正していくべきだと
思うんです。
 ですから、百十年間、刑法をこの部分については改正しなかった、これから
先は、もっと時代の流れに沿った改正、すぐにでも検討できる改正というのを
しっかりとやっていただきたいと思います。
 大臣、せっかくきょう久しぶりに来たので、先ほど同じような御答弁をされ
ていましたけれども、そういうことを念頭にやっていただきたいと思いますの
で、最後に一言いただけますでしょうか。

○金田国務大臣 木下委員のただいまのお話、今回のこの法改正、いろいろと
皆様の御意見やお考えをベースに仕上げた法案だというふうに受けとめてはお
りますが、引き続き、これが成立した後でも、その後、皆さんと一緒にまた考
えたり議論したりして刑法のあり方を考えていくことになろうか、このように
考えている次第であります。

○木下委員 大変ありがとうございました。
 以上で終了いたします。

○鈴木委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。
    ―――――――――――――

○鈴木委員長 この際、本案に対し、平口洋君外四名から、自由民主党・無所
属の会、民進党・無所属クラブ、公明党日本共産党及び日本維新の会の共同
提案による修正案が提出されております。
 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。井出庸生君。
    ―――――――――――――
 刑法の一部を改正する法律案に対する修正案
    〔本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――

○井出委員 ただいま議題となりました修正案につきまして、提出者を代表
し、その趣旨を御説明申し上げます。
 本修正案は、法律案の附則に、政府は、この法律の施行後三年を目途とし
て、性犯罪における被害の実情、この法律による改正後の規定の施行の状況等
を勘案し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策のあり方に
ついて検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措
置を講ずるものとする規定を追加するものであります。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

○鈴木委員長 これにて修正案の趣旨の説明は終わりました。
    ―――――――――――――

○鈴木委員長 これより原案及び修正案を一括して討論に入るのであります
が、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。
 内閣提出、刑法の一部を改正する法律案及びこれに対する修正案について採
決いたします。
 まず、平口洋君外四名提出の修正案について採決いたします。
 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕

○鈴木委員長 起立総員。よって、本修正案は可決いたしました。
 次に、ただいま可決いたしました修正部分を除く原案について採決いたしま
す。
 これに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕

○鈴木委員長 起立総員。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。
    ―――――――――――――

○鈴木委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、平口洋君外四
名から、自由民主党無所属の会民進党・無所属クラブ、公明党、日本共産
党及び日本維新の会の共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出され
ております。
 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。國重徹君。

○國重委員 ただいま議題となりました附帯決議案につきまして、提出者を代
表して、その趣旨を御説明申し上げます。
 案文の朗読により趣旨の説明にかえさせていただきます。
    刑法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
  政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配
慮をすべきである。
 一 性犯罪が、被害者の人格や尊厳を著しく侵害する悪質重大な犯罪である
ことはもとより、その心身に長年にわたり多大な苦痛を与え続ける犯罪であっ
て、厳正な対処が必要であるものとの認識の下、近年の性犯罪の実情等に鑑
み、事案の実態に即した対処をするための法整備を行うという本法の趣旨を踏
まえ、本法が成立するに至る経緯、本法の規定内容等について、関係機関及び
裁判所の職員等に対して周知すること。
 二 刑法第百七十六条及び第百七十七条における「暴行又は脅迫」並びに刑
法第百七十八条における「抗拒不能」の認定について、被害者と相手方との関
係性や被害者の心理をより一層適切に踏まえてなされる必要があるとの指摘が
なされていることに鑑み、これらに関連する心理学的・精神医学的知見等につ
いて調査研究を推進するとともに、司法警察職員、検察官及び裁判官に対し
て、性犯罪に直面した被害者の心理等についてこれらの知見を踏まえた研修を
行うこと。
 三 性犯罪に係る刑事事件の捜査及び公判の過程において、被害者のプライ
バシー、生活の平穏その他の権利利益に十分な配慮がなされ、偏見に基づく不
当な取扱いを受けることがないようにし、二次被害の防止に努めるとともに、
被害の実態を十分に踏まえて適切な証拠保全を図り、かつ、起訴・不起訴等の
処分を行うに当たっては、被害者の心情に配慮するとともに、必要に応じ、処
分の理由等について丁寧な説明に努めること。
 四 性犯罪被害が潜在化しやすいことを踏まえ、第三次犯罪被害者等基本計
画等に従い、性犯罪等被害に関する調査を実施し、性犯罪等被害の実態把握に
努めること。
 五 刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成二十八年法律第五十四号)附
則第九条第三項の規定により起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置
についての検討を行うに際しては、性犯罪に係る刑事事件の捜査及び公判の実
情や、被害者の再被害のおそれに配慮すべきであるとの指摘をも踏まえて検討
を行うこと。
 六 性犯罪が重大かつ深刻な被害を生じさせる上、性犯罪被害者がその被害
の性質上支援を求めることが困難であるという性犯罪による被害の特性を踏ま
え、被害者の負担の軽減や被害の潜在化の防止等のため、第三次犯罪被害者等
基本計画に従い、ワンストップ支援センターの整備を推進すること。
以上であります。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

○鈴木委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
 採決いたします。
 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕

○鈴木委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決
しました。
 この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められて
おりますので、これを許します。金田法務大臣

○金田国務大臣 ただいま可決されました刑法の一部を改正する法律案に対す
る附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処をしてまいりたい
と存じます。
 また、最高裁判所に係る附帯決議につきましては、最高裁判所にその趣旨を
伝えたいと存じます。
    ―――――――――――――

○鈴木委員長 お諮りいたします。
 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきまして
は、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
    〔報告書は附録に掲載〕
    ―――――――――――――

○鈴木委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これに
て散会いたします。
    午後五時十一分散会

住居侵入強姦1件で懲役3年6月(鹿児島地裁H29.4.11)

 改正後の事件は、5年になるのか、従前の量刑相場を維持するのか

鹿児島地方裁判所平成29年04月11日
国選弁護人 野平康博
主文
被告人を懲役3年6月に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、平成23年6月4日早朝飲酒して帰宅する途中に性欲が高まり、女性を強姦することを企て、同日午前7時頃、A市内の被害者方に、無施錠の玄関ドアから侵入し、その頃、同所において、被害者(当時21歳)に対し、その身体を布団に押し倒し、足の上にまたがり、右手首を左手で押さえつけるなどの暴行を加えるとともに、「騒いだら殺すぞ」などと言って脅迫し、その反抗を抑圧した上、強いて被害者を姦淫した。
(法令の適用)
1 罰条
  住居侵入の点 刑法130条前段
  強姦の点 刑法177条前段
2 科刑上一罪の処理 刑法54条1項後段、10条(住居侵入と強姦との間には手段結果の関係があるので、1罪として重い強姦罪の刑で処断)
3 未決勾留日数の算入 刑法21条
4 訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
 被告人は、早朝マンションの一室に侵入し、独り住まいの被害者には逃げ出すことも抵抗することも困難な状況の中、強姦に及んだ。暴行の程度は強くないものの、「殺すぞ」などと強い脅迫を加えた上で、口淫を強要したり、陰部に手指を挿入したりするなど、屈辱感を与える卑劣なわいせつ行為に及んだ挙げ句、姦淫を遂げている。無関係な女性を対象にし、住居侵入やわいせつ行為を伴う悪質な犯行である。被害者は、本来最も安全で安心できるはずの自宅で就寝中に突如このような被害に遭ったものであり、被害から長期間経過した現在でも精神的な苦痛は癒えず、結果は重大といえる。
 被告人は、飲酒後帰宅中に性欲が高まり、女性を強姦しようなどと思い立つと、女性の独り住まいを狙ってマンションを何軒も物色した挙げ句、たまたま無施錠であった被害者宅に行き着いて遂に犯行に及んだ。計画性は高くはないが、強い強姦の犯意に基づく身勝手な犯行であり、自宅で就寝していた被害者に落ち度はない。
 以上の行為責任を前提とした上で、宥恕は得られていないものの、両親の助力を得て200万円を支払って被害者との間で示談が成立していることも踏まえ、単独犯による強姦既遂1件のうち、被害者との間で示談が成立している事件類型の中で本件をみると、被害者宅に侵入し、悪質性の高いわいせつ行為を伴っている上、被害者に落ち度のない身勝手な犯行であることなどからすれば、本件は、中間より重い部類に属し、実刑をもって臨むべき事案といえる。
 その上で、被告人には前科がなく、公判廷で事実を認め反省の弁を述べていること、飲酒をすると性欲が抑えられなくなる傾向にあることを自覚し、断酒を約束するとともに、性犯罪加害に関する精神科治療計画まで作成していること、両親が更生を支援する旨誓約していることなど更生可能性に関連した事情を考慮し、主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(検察官の求刑:懲役5年、弁護人の量刑意見:保護観察付き執行猶予)
刑事部
 (裁判長裁判官 冨田敦史 裁判官 福田恵美子 裁判官 大竹泰章)

師弟関係の児童淫行罪で逮捕→起訴猶予事案(大阪府警)

 判例がいうような児童淫行罪の「影響関係」の立証ができないときは、青少年条例違反を検討することになりますが、大阪府では欺罔威迫困惑が要件になるので、条例違反も立たなくなって、師弟関係の性行為を処罰することができなくなります。適法行為になります。
 結局 淫行を撮影した製造罪だけが処罰されて、淫行は処罰されなくなっています。

最高裁判所第1小法廷決定平成28年6月21日
 そして,同号にいう「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170623-00000110-jij-soci
同庁によると、教諭は4月に女子生徒と府内のホテルでみだらな行為をしたとして、府警に児童福祉法違反容疑で逮捕。5月にはデジタルカメラで生徒との行為を撮影したとして、児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)容疑で再逮捕された。

 児福法違反は容疑を認めていたものの不起訴に、ポルノ禁止法違反では略式起訴され、大阪簡裁から罰金50万円の略式命令を受け納付した。

 同庁人事課の話 生徒や保護者の信頼を失墜させ申し訳ない。服務規律の確保に努める。 

大阪府内での青少年との淫行について「非常に難しい判断ですが、本当に恋をした上での性行為であれば罪には問われません。」という弁護士

「威迫し、欺き、又は困惑させて、」という手段の限定があるので、真剣交際であってもなくても、「威迫し、欺き、又は困惑させて、」がなければ、青少年条例違反にはなりません。


大阪府青少年健全育成条例の解説h26
(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)
第 34 条何人も、次に掲げる行為を行ってはならない。
(1)青少年に金品その他の財産上の利益、役務若しくは職務を供与し、又はこれらを供与する約束で、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11 年法律第52号)第2条第2項に該当するものを除く。)
(2)専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫し、欺き、又は困惑させて、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。
(3)性行為又はわいせつな行為を行うことの周旋を受け、青少年に対し当該周旋に係る性行為又はわいせつな行為を行うこと。
(4)青少年に売春若しくは刑罰法令に触れる行為を行わせる目的又は青少年にこれらの行為を行わせるおそれのある者に引き渡す目的で、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。
旧第18 条繰下[平成3年条例第42 号]・旧第23 条繰下
一部改正[平成15 年条例第18 号]・旧第25条繰下[平成17 年条例第110号]
旧第28 条繰下一部改正[平成23 年条例第10 号]
【趣旨】
性の商品化が進み、性に関する意識が大きく変化する中で、出会い系サイトなどの利用により、少女買春など性風俗に安易に関わる青少年と、その青少年の性を、欲望の対象として取り扱う大人の背徳的な行為が深刻な社会問題となっている。
本条は、このような実態に鑑み、青少年の性を弄ぶ心ない大人から青少年を保護し、行為者の社会的責任を追及するとともに、青少年に正しい性意識を持たせる一助とするため設けられたものである。
なお、運用に当たっては、プライバシーその他の人権を不当に侵害することのないよう、取り締まりの対象行為を、その動機や手段において社会的に非難を浴びるような四つの性的行為に限定している。
【解説】
青少年に対し、青少年の健全な成長を阻害するようなみだらな性行為やわいせつな行為を行うことを禁止するものであり、この規定に違反すると、第47 条の規定により、2 年以下の懲役又は100 万円以下の罰金に処せられる。この淫行規定については、青少年を性の欲望の対象として取扱う大人の背徳的な行為を処罰する規定であり、実効性をより高めるため、平成20年の改正で罰則を条例で定め得る上限まで強化を図った。
行為の相手方である青少年の同意又は承諾がある場合でも本条は成立するが、婚姻又はこれに準じる真摯な交際関係にある青少年との間で行なわれる性的行為を含む趣旨ではない。
青少年の性的行為に関する法令については、刑法、児童福祉法及び売春防止法、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律等がある。
しかし、刑法では、13 歳未満の女子に姦淫した行為には強姦罪が、13 歳未満の青少年に対してのわいせつな行為については強制わいせつ罪が、暴行又は脅迫を用いなくとも適用されるが、13歳以上の青少年に対しては、暴行又は脅迫を伴う場合にのみ適用されるなど、本条が設定されるまでは、13歳以上の青少年に対するみだらな性行為やわいせつな行為については、法律上の規制が及ばず、青少年の健全育成上の盲点となっていた。
また、売春防止法では、売春を禁止し、人を売春の相手方となるよう勧誘、あっ旋、あるいは売春を行う場所を提供したもの等には罰則が適用されるが、売春の相手方には罰則規定(禁止規定はある)はない。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律では、児童(18歳未満の者)に対し、対償を供与し又は供与の約束をして性交等を行なう行為等と規定し、経済的対価が前提とされていることから、対償を伴わない行為については適用されない。
児童福祉法では、児童に淫行させる行為を対象としているが、児童に淫行させる行為とは、「行為者が児童をして第3 者と淫行させる行為のみならず、行為者が児童をして行為者自身と淫行させる行為を含むと解する。」と最高裁決定がなされたことにより、行為者も処罰の対象となったが、「淫行させる行為」の内容が、個々の場合で判断されることから、必ずしも処罰の対象となるとは限らない。
このような法律の隙間を埋めるために、本条が定められたものである。なお、平成11年11月に施行された「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の成立により、この法律と重複する部分については失効している。
ア 「何人も」とは、府民はもとより、旅行者や滞在者を含み、また成人であるか未成年であるかを問わず、現に大阪府内にいるすべての者をいう。なお、行為者が青少年の場合でも、本条の違反に該当するが、第54 条の規定により罰則は適用されない。
イ 「してはならない」とは、青少年を相手に、性行為やわいせつな行為を行うことを一切禁止しているものである。また、性行為等の相手方が青少年であることを知らないで行った場合についても、当該青少年の年齢を知らないことを理由として処罰を免れるものではない。
1 第1号
青少年に金品等を提供し又は提供する約束で、青少年を相手として性行為又はわいせつな行為を行うことを禁止するものである。
ア 「金品」とは、金銭や物品をいう。
イ 「その他財産上の利益」とは、動産・不動産・債権の譲渡、債務の免除、飲食の提供などをいう。
ウ 「役務」とは、一定の労力やサービスを提供することであり、例えば、仕事を紹介・斡旋したり、タレントに会わせることなどが該当する。
エ 「職務」とは、自らの所で当該青少年を雇用し、仕事を与えることをいう。
オ 「供与」とは、財産上の利益等を相手方に移転する一切の行為をいう。供与又は供与を約束する相手方は、必ずしも性行為等の相手方となる青少年に限定されない。
カ 「約束で」とは、行為者の申出に対する青少年の黙示の認容で足り、その約束が結果的に履行されたか否かは問わない。
キ 「性行為」とは、性交のほか性交類似行為も含まれる。
ク 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的に廉恥嫌悪の情を起こさせる行為をいう。
典型的なものとして、性器に指で触れる行為や乳房を弄ぶ行為、キスなどの接触行為が典型的であるが、裸にして写真を撮る行為、陰部を露出させる行為など、接触行為以外のものでも該当する。
2 第2号
性的欲望を満足させるため、心身ともに未熟な青少年を、正常な判断を行わせないような状態において、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うことを禁止するものである。
ア 「専ら」とは、概ね7割ないし8割程度以上をいうが、「専ら」に該当するかは、当該者の行為の態様、動機などを総合的に勘案することになる。
イ 「満足させる目的で」とは、行為者自らだけでなく、第三者の性的欲望についても含めるものである。
ウ 「威迫し」とは、暴行、脅迫に至らない程度の言語、動作、態度等により心理的威圧を加え、相手方に不安の念を抱かせることをいう。例えば、暴力団の構成員であると言ってすごむことなどが挙げられる。
エ 「欺き」とは、嘘を言って相手方を錯誤に陥らしめ、又は真実を隠して錯誤に陥らしめる行為をいう。例えば、婚姻をするつもりはないのにもかかわらず婚姻をするつもりであると言うことなどをいう。
オ 「困惑させて」とは、立場を利用したり、言語や態度により相手方を惑い困らせることをいう。例えば、雇用や金銭融通の恩義その他義理人情の機微につけ込むことや、職場の上司、教師などの立場を利用することにより、青少年が拒否の意思表示をできなくすることなどをいう。

http://blogos.com/article/229654/
NEWSポストセブン2017年06月18日 16:00
示談成立の小出恵介 懲役3年から5年の可能性もあった?
「淫行条例の内容は自治体によって違います。例えば東京なら、相手が18才未満だと知らなければ性行為を行っても条例違反には問われません。今年1月に未成年との淫行で問題視された狩野英孝が、刑事罰に問われず、“謹慎”で済んだのはこのケースだからです。ところが大阪の条例の場合、18才未満とは知らずに関係を持っても条例に抵触する可能性があります。違反すれば2年以下の懲役または100万円以下の罰金と定められています」(「弁護士法人・響」の徳原聖雨弁護士)

 ただし、仮に女性が18才未満であっても、ふたりが「恋愛関係」にあれば、いわゆる淫行条例違反にはあたらないケースもある。

「非常に難しい判断ですが、本当に恋をした上での性行為であれば罪には問われません。例えば、ふたりで指輪を見に行ったとか、親に挨拶をして家を行き来しているとか、一緒にお墓参りに行っているとか。過去には、17才の女子高生と不倫関係だったにもかかわらず、男性側に無罪判決が出たこともあります」(前出・徳原さん)<<

「教職免許状(教員免許)に関する事務を司る教育委員会は、教員の採用を内定したら、内定者の本籍地の市区町村の戸籍係に前科の有無を照会することができます」(村木弁護士)といっても、照会しても罰金前科は出てこない

「教職免許状(教員免許)に関する事務を司る教育委員会は、教員の採用を内定したら、内定者の本籍地の市区町村の戸籍係に前科の有無を照会することができます」(村木弁護士)といっても、照会しても罰金前科は出てこない

 報道によれば、2013.7月に罰金50万円になっているようです。
 教育公務員の欠格事由は他の公務員と同じで禁錮以上ですので、前科照会しても罰金前科は回答に出てきません。

地方公務員法
第一六条(欠格条項)
 次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
一 成年被後見人又は被保佐人
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
三 当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
四 人事委員会又は公平委員会の委員の職にあつて、第六十条から第六十三条までに規定する罪を犯し刑に処せられた者
五 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

https://www.bengo4.com/internet/n_6256/
教育委員会「免許状がある以上、性善説が前提になっていた」

いずれにしても、前科を書けば採用される確率は非常に低くなるし、バレるまではお咎めなし。本人の申告以外にチェック方法はないのだろうか。

「教職免許状(教員免許)に関する事務を司る教育委員会は、教員の採用を内定したら、内定者の本籍地の市区町村の戸籍係に前科の有無を照会することができます」(村木弁護士)
しかし、今回、教員が逮捕された知立市教育委員会によると、こうしたチェックはなかったそうだ。担当者は次のように話す。
「現実的にはそこまでできていません。履歴書に前任校などがあれば、問い合わせはしますが、今回は記載がありませんでした。教員免許状をとったのが埼玉県なので、県をまたいだやりとりも難しい。
いずれにしても、大きな問題があれば、教員免許状は持てないので、免許状がある以上、『性善説』が前提になっていました。臨時任用講師の数が足りていなくて、人選が限られているという面もあります」(担当者)
教育職員免許法では、教員が禁固以上の刑に処せられたり、懲戒免職になったりすると、教員免許状は「失効」することになっている(同法10条)。また、度を超えた非行などに対しては「取り上げ」の処分もある(同法11条)。しかし、今回の教員の場合、免許状は生きたままだった。

口腔性交・肛門性交を強姦罪に取り込む議論~井田良「性犯罪の保護法益をめぐって」研修806号2015.8月

井田良「性犯罪の保護法益をめぐって」研修806号2015.8月
 口腔性交・肛門性交の分化が見られます。

このように男性の女性に対する膣性交の強制のみを特別扱いすることとは諸外国の立法例に鑑みてというばかりでなく, 上述の保護法益の観点から正当性がないと考えられる。立法論としては, 現行法の「強姦」の範囲を拡大すること, すなわち,強姦に加えて一定の「性交類似行為」を強制わいせつ行為の中から切り出してこれを強姦と同じく扱うべきではないかが問題となる。いいかえれば, 二分法を前提として,加重類型(いわば「加重強制わいせつ罪」) として類型化されるべき行為の範囲が問題となるのである。
ここには二つの異なった問題が生じよう。まず, 強姦と同視され
るべき性的侵害行為の範囲である。前述のような性犯罪の法益の本質から考えるならば,膣性交と並んで、肛門性交及び口淫については加重類型に加えるべきである。なぜなら,後者の二つの場合も
も男性器の身体内部への挿入をともなうという点において,いずれより濃厚な性的接触であり, 身体的内密領域への侵害性が高いと理解されるからである。膣性交, 肛門性交,そして口淫の三つは,同じ重い評価に値するグループに属すると考えられ,諸外国の立法を見ても,それらが足並みそろえて基本的に同じ評価に値する行為としているのは理由のあるところであろう。
このうち,口淫については,膣性交及び肛門性交とは現象的形態がかなり異なるとする意見もありうるが, しかし強姦事件の際に,口淫があわせ行われる例が多いことに示されているように,性的欲求の対象となる度合いが高くそれだけ被害者の強い保護が要請されるという点で,膣性交・肛門性交と同じに扱うべきものであろう。なお,口淫は被害者の顔に近いところで行われまたそれは排池のために使う身体部位を食事のために使う器官の中に入れるのであるから,身体的内密領域の侵害という点で顕著なものがあるということも付け加えることができょう。
次に,犯人が自己の膣・肛門・口腔に,被害者の男性器を挿入させる行為についてどのように考えるべきかが問題となる。結論を先に述べれば,これらの(被害者の)男性器を「挿入させる行為」も(加害者の)男性器を「挿入する行為」と同一に扱い,加重類型(したがって,強姦と同ーの類型)に加えるべきであろう。なぜなら,男性器の身体への挿入をともなう濃厚な性的なコンタクトの経験の共有を強いるという,行為の本質的部分においては,「挿入する行為」の場合と何ら相違がないからである。行為の外形に拘泥し従来の強姦のイメージを固定しておいて,それとの距離を測るという見方をするのではなく,保護法益の実質と性的行為の本質に遡って考えるときには,これらを区別する理由はない。また,「挿入する行為」と「挿入させる行為」とを区別して刑の重さに差異を設けるとすると,ジェンダーニュートラルな規定にならないという問題も生じる。そして,その差別的扱いの根拠を尋ねられたときには,直感や感覚を引き合いに出すほかなくなってしまうのである。

強制わいせつ罪に時々出てくる「口淫させる」行為は、口腔性交罪か?

 法文には「第三者」という言葉はなくなりましたが、こういう行為が強制性交等罪として処罰されるのですが
  自己 陰茎 → 相手方 膣・肛門・口腔
  第三者 陰茎 → 相手方 膣・肛門・口腔
  相手方 陰茎 → 自己 膣・肛門・口腔
  相手方 陰茎 → 第三者 膣・肛門・口腔
 口腔性交というのは、「(暴行脅迫して、無理矢理)被害者の口に陰茎を挿入する(口に突っ込む)」という意味で、「口淫」の内、舐めるさせるのは含みませんよね。「口淫」のうち、被害者が陰茎を口に含ませるのが含まれるのかは不明ですが、多分、突っ込むのと同視するという判例ができるでしょう。


 法制審議会でも「これまでの議論においては,口腔内に陰茎を入れる行為を「口淫」という言葉で表現することも多かったのですが,この言葉は必ずしも口腔内に陰茎を入れる行為に限らず,もう少し広い意味,例えば女性器を舌でなめる行為などについても使われる場合があることから,従前の要綱(骨子)の内容を明確に示す意味では,この「口淫」という言葉ではなくて「口腔性交」との用語が適切であると考えたものです。」という説明があります。

法制審議会−刑事法(性犯罪関係)部会 > 第7回会議(平成28年6月16日)
http://www.moj.go.jp/content/001199100.txt
 これに対し,今回の要綱(骨子)修正案においては,「十三歳以上の者に対し,……性交……をした」という構成要件としており,客体の性別を問わないものとしておりますことから,「性交」との文言で,男性が女性の被害者の膣内に陰茎を入れる行為だけでなく,男性の被害者の陰茎を女性の膣内に入れる行為をも当然に含むものとして表現できていると考えています。
  同様に,「肛門性交」及び「口腔性交」についても,被害者の肛門内や口腔内に陰茎を入れる行為だけでなく,被害者の陰茎を肛門内や口腔内に入れる行為をも含むものとして表現できているものと考えています。
  また,修正案においては,誰の陰茎を誰の膣内等に入れるのかについて限定していませんので,被害者に第三者と性交等をさせる場合をも含むものとして表現できていると考えています。
  なお,これまでの議論においては,口腔内に陰茎を入れる行為を「口淫」という言葉で表現することも多かったのですが,この言葉は必ずしも口腔内に陰茎を入れる行為に限らず,もう少し広い意味,例えば女性器を舌でなめる行為などについても使われる場合があることから,従前の要綱(骨子)の内容を明確に示す意味では,この「口淫」という言葉ではなくて「口腔性交」との用語が適切であると考えたものです。
  さらに,括弧書きの定義を置かないこととしたことに伴い,括弧書きの中に書き込まれていました「相手方」という文言を用いる必要がなくなりましたので,この際,刑法176条の強制わいせつ罪と同様の構文として,「十三歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いて性交,肛門性交又は口腔性交……をした」という表現を用いることとしております。
  以上が要綱(骨子)修正案第一についての説明です。

http://www.moj.go.jp/content/001162242.pdf
別紙
要綱(骨子)
第一強姦の罪(刑法第百七十七条)の改正
暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の者を相手方として性交等(相手方の膣内、肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ、又は自己若しくは第三者の膣内、肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為をいう。以下同じ。)をした者は、五年以上の有期懲役に処するものとすること。
十三歳未満の者を相手方として性交等をした者も、同様とすること。

http://www.moj.go.jp/content/001224163.pdf
第二編第二十二章の章名中「姦淫」を「強制性交等」に改める。
第百七十六条中「男女に」を「者に」に改める。
第百七十七条の見出しを「(強制性交等)」に改め、同条中「暴行」を「十三歳以上の者に対し、暴行」に、「十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年」を「性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年」に、「女子を姦淫した」を「者に対し、性交等をした」に改める。
第百七十八条の見出し中「準強姦」を「準強制性交等」に改め、同条第二項中「女子」を「人」に、「姦淫した」を「性交等をした」に改める

「性的不可侵性」を侵害する行為~山中敬一「強制わいせつ罪の保護法益について」研修817号(2016年)

「性的不可侵性」を侵害する行為~山中敬一「強制わいせつ罪の保護法益について」研修817号(2016年)
 こうなると行為を列挙するしかないかなあ

山中敬一「強制わいせつ罪の保護法益について」研修817号(2016年)
(3)解釈的帰結(わいせつ行為の意義)
強制わいせつの罪の保護法益について, その根底にあるのは人の「性的不可侵性」であるとし,その侵害をその態様に応じて構成要件を設け,処罰するのが,強制わいせつの罪の節の趣旨であるとすると, その法益論からも実行行為の一部としての「わいせつ行為」の解釈にも影響するはずである。
性的不可侵の侵害態様に照らしこれを分析しておこう。
(a) わいせつ行為の類型
わいせつ行為の第1の類型は,被害者の性的領域(性器・乳房・臂部・肛門・唇)への接触を基本とする行為である。
接吻(注28),抱きすくめる行為,着衣の上から瞥部をなでる行為(注29)等がある。
直接の接触.媒介物を用いての接触を問わない。
この類型の行為は,行為客体が1) 13歳以上の者, 2) 13歳未満の者, 3)抗拒不能状態にある者を問わず,性的刺激を引き起こす部分への接触によって性的不可侵性への侵害となる。
第2類型の行為は,接触を伴わない,人間の知覚.感覚(主として視覚)を通じて性的刺激を惹起する行為である。
この類型の行為が完成するためには,被害者の「知覚・感覚」に作用することを要する。
したがって,原則として, 1)被害者に知覚能力があることが必要である。
知覚能力がある状態であっても,被害者が知らないうちに裸の姿を覗き見られていたといった場合は,それのみでは被害者の性的不可侵性の侵害はない。
2) 13歳未満の者に対しても,(乳幼児は除いて)わいせつ行為の意味を理解することができる年齢であれば,このグループのわいせつ行為は可能である。
3)植物状態に陥った者ないし就寝中の者については,抗拒不能に乗じるだけでは,性的不可侵性の侵害とはいえないであろう。
1)の被害者に知覚能力がある場合,および3)の「ない」場合に共通するのは,現に「わいせつ」という知覚がないときは, ここにいうわいせつ行為とは言えないのが原則である(注30)が,加害者が被害者の性的不可侵な領域の侵害可能状態を創出してそれを利用した場合には,例外的に,それらの行為を一体として「わいせつ行為」と評価することができるということである。
したがって,例えば,適法.違法を問わず,女性を裸にさせておいて気づかれずにビデオでそれを撮影する場合がこれにあたる。
つまり,抗拒不能の状態に「乗じた」わいせつ行為は, これらの類型においては,被害者の性的領域の露出等の惹起に加害者が関与することが必要と解すべきである。
第3類型のわいせつ行為は,被害者に性的行為を強要する行為である(注31)。
被害者が13歳以上の者か,未満の者か,あるいは,知覚能力のある者かは, この類型の行為には影響を及ぼさない。
第3類型に属する行為としては, 「内縁関係にある男女を脅迫して裸体にさせ性交の姿態及び動作をとらせる行為」(注32)がこれにあたる。
ただし,強要された行為が行為者ないし第三者に何等かの形で知覚されることが必要である。
(b)第2類型のわいせつ行為の問題点問題となるのは,第2類型の「わいせつ行為」である。
判例においては, まず,女性を裸にしてカメラで撮影しようとして暴行を加え,傷害を負わせたが,裸にすること,撮影することは未遂に終わったという強制わいせつ致傷罪(181条1項)の事案(注)がある。
この事案は,①「裸にする」ないし②「カメラで撮影する」というわいせつ行為は実際には行われていない。
①は,第1類型に属するわいせつ行為であり,正当な理由のない限り処罰に値する行為であるが,②の行為がわいせつ行為に当たるかについても, この場合は,被害者に写真を撮られるという点につき知覚があり問題はない。
次に,判例においては,医師が,診察の際に各2名の13歳未満の女児の着衣をずらして乳房を露出させた際,女児およびその親権者の同意を得ることなく, 自動車の鍵のように見せかけて机上に設置した小型カメラで各女児の乳房をビデオ撮影する行為(注)をわいせつ行為としたものがある。
この場合,女児は,撮影を知覚していないが,撮影の前段階で医師は着衣をずらすよう促す行為を行っており,乳房の露出状態を創出している。
したがって,撮影に正当な理由がない限り,先述の例外にあたる場合である。
その他,熟睡中の女性に向けて1メートル前後の距離から射精する行為(注35)は,抗拒不能の状態に乗じて, わいせつな行為を行うという178条1項の準強制わいせつ行為にあたるとしたものがある。
本判決は, 「その就寝中という抗拒不能の状態を利用して自ら性欲のはけ口としたものであるから,被害女性の性的自由を侵害するものであることも明らかである」とする。
この場合,精液が被害者に接触しているわけではない。
被害女性は就寝中であって知覚能力が制限されている。
女性の就寝状態を創出したわけでもない。
したがって,第1類型における接触の未遂ととらえ,せいぜい準強制わいせつ行為の未遂(179条) とすべきである。

「わいせつな行為」について、性的性質を有する一定の重大な侵襲という定義~樋口亮介「性犯罪の主要事実確定基準としての刑法解釈」法律時報2016.10

「わいせつな行為」について、性的性質を有する一定の重大な侵襲という定義~樋口亮介「性犯罪の主要事実確定基準としての刑法解釈」法律時報2016.10
 新定義でも、結局わいせつ行為は定義されず、判例集積を待つしか無いそうです。

樋口亮介「性犯罪の主要事実確定基準としての刑法解釈」法律時報2016.10

(1)基準となる刑法解釈
一わいせつな行為の定義
佐藤によれば、①わいせつ概念はドイツの学説の影響を受けており、元来は肉欲の罪という見地からわいせつの意図と風紀の乱れを問題にするものであった。その後、②我が国の議論は独自化し、175条の解釈としていわゆるわいせつ3要件が発展し、176条でも同様の定義を採用する裁判例も現れた。一方、③ドイツでは、刑法の脱倫理化の結果、性的関連性とその質的重大性を要求するという形で、我が国に影響を与えた時期とは議論の内容が全く異なっている。
以上の議論を踏まえ、我が国の176条の「わいせつな行為」について、性的性質を有する一定の重大な侵襲という定義を佐藤は提案する。佐藤の提案は、性的自由ないし性的不可侵性の保護という基本的視点5)に忠実であること、176条の法定刑に相応する処罰価値を反映していることに加えて、従来の定義の沿革を明らかにすることで現在はその定義を維持する理由がないことを示している点で説得的である。

5)性的不可侵性という表現は、山中敬一「強制わいせつ罪の保護法益について」研修817号(2016年) 9頁による。
・・・
(3)今後の検討課題
性的性質を有する一定の重大な侵襲という評価は抽象的であって、個別の事実について、性的侵襲性の存否、及びその重みについて一定の指針を形成することが有益である'5)。その際には、性的という評価は社会の価値観に依存する以上、量刑の数値化同様、事例判断を積み重ねて平均的判断を形成していく他ない問題であることを踏まえるべきであろう。性に対する価値観の多様化を是認するとともに、性的侵襲に厳格に対処する現在の社会状況からすると、例えば、フェティシズム行為について、従前よりも「わいせつな行為」該当性を拡げるという方向もありえよう。

自撮り規制について青少年問題協議会委員の坪井節子様からのコメント

 確かに児童ポルノ法の方は、規制派の言われるままに細かく規制入れてますから、条例で補充する必要はないんじゃないですかね。
 自撮り規制を入れなかったのは、立法の故意か重過失。

第 3 1 期 東京都青少年問題協議会
第 5 回 児 童 健 全 育 成 部 会 (拡大 専門部会 )
平成 29 年5月 16 日(火)
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/singi/seisyokyo/31ki-menu/senmon5/gijiroku.pdf
○部会長 では、また後で何かあればと思いますけれども。
本日ご欠席の坪井委員からコメントを頂戴しているということですので、本日の議論をより深いものとするために、ご披露したいと存じます。
事務局からご紹介いただけますでしょうか。
○青少年課長 ご紹介いたします。
自画撮り被害防止に関する諮問に対する意見書案について。
青少年問題協議会委員の坪井節子様からございます。
ご多忙の中、被害の実態を確かめ、施策の検討をなされ、意見書の作成に当たられた委員の皆様のご尽力に敬意を表します。
本日の拡大部会に出席がかないませんので、事前に私の意見をお伝えしておきたいと思います。
子供たちが曝されている自画撮り被害の深刻さを受けて、この被害防止のための策を早急に講じるとする意見書の目的には、異論はありません。
自画撮り被害は、子供たちの性を商品化した経済的利益をあげる性的搾取、子供たちの性を自らの欲望の対象として傷つけ、顧みない性的虐待のいずれの被害にも繋がるものであり、加害者のSNS内での個別の働きかけの容易さに比して、その後の被害の甚大さ、拡大の深刻さが子供の予想をはるかに超えるものとなるという点において、画像を送信すること自体を防ぐための措置が必要であることも、理解できます。
第1、教育上の課題。
個人間の通信の中で行われる加害行為であって、外部からの介入が著しく困難であるという特質からするなら、一刻も早くその実情を多くの大人たち、子供たちが知り、被害から身を守るすべを身につけることが何よりの防止策だと思います。
その意味において、私は何より重要なのは、教育現場における子供たち、そして保護者への性被害の予防方法の周知だと思います。
この点において教育現場の取組について、次の3点について、さらに検討を頂ければと思います。
1)性教育について。
性が人間の尊厳に深く関わる事柄であり、その内実の豊かさと大切さを理解すると共に、性の搾取、虐待がどれほどに深刻な被害を子供に与えるかを踏まえて、性を考える教育に真剣に取り組むことでございます。
学校教育における性教育の取組は、残念ながらネット上に氾濫する子どもに誤った知識、偏った情報を与える性情報に太刀打ちできるレベルにはありません。
人権としての性教育が行われないまま、性侵害が深刻な被害をもたらすという恐怖だけを植え付ければ、子どもたちが性を嫌悪、忌避し、将来的に豊かな人間関係の形成、また出産、子育ての喜びを実感できなくなっていく危険もございます。
子供たちの性を本当に守りたいのと思うのであれば、教育庁区市町村教育委員会の協力を得て、学校現場で躊躇することなく、正面から子どもの性に向き合い、性を大切にすること、そして加害者、被害者にもならない方法を共に考えていく姿勢を持たなければならないと思います。
2)SNS東京ルールについて。
SNS東京ルール、SNS東京ノートが学校現場に導入されることによりネット上のいじめ、犯罪被害防止に着実に成果をあげていることが報告されています。
自画撮り被害についても、教育庁の協力を得て、このルールに明記するなど改訂版を作成し、子どもたち、保護者への周知を行うことが必須だと思います。
3)保護者への周知啓発活動について。
子どもたちのネット被害、自画撮り被害について、保護者に実情と防止策を周知するため、PTAの主催による家庭教育学級等のテーマとしてとり上げてもらい、講師派遣もできることについて広く情報提供してください。
区の教育委員として、PTA会長の方たちと懇談会などでお会いしますと、ネット被害の実情などについて、どこからどのように情報を得ればいいのかわからないという戸惑いがあることがわかります。
対策本部から市区町村の教育委員会等を通じ、小学校、中学校のPT22A連合会に情報提供があれば、かなりの関心を集めることと思います。
第2、技術上の課題。
子どもたちが自画撮り被害の勧誘に対し、子ども自身が困惑しながらも、その場で、自ら「NO」を表明することができなければ、被害の未然防止には至らないだろうと思います。
ネットに関する技術的な知識はないのですが、子どもたちにとってスタンプの送信により気持ちを表すということは、言葉で断るよりもハードルが低いのではないかと思います。
LINEのスタンプアプリで、勧誘者に対し、「お断りします」、「少し待ってください」、「ちょっと東京都に相談してみます」、「これって自画撮り被害じゃないですか」、「自画撮り被害というのがあると学校で聞きました」などを表現するユーモアのあるスタンプを開発し、子どもたちに配布する工夫はできないでしょうか。
第3、規制上の課題。
自撮りを勧誘すること自体を犯罪と適示し、被害防止に繋げたいという狙いは理解できないわけではありません。
しかし子供の権利擁護のためではあっても、罰則規定を伴う通信の秘密という重要な人権にかかわる法的規制には、慎重であるべきだと思います。
今回の条例における罰則規定の追加については、送信前の行為の摘発は事実上非常に困難であり、効果が期待できないこと、構成要件が曖昧で現実の適用において、プライバシー侵害にかかわる微妙な問題発生が予想されること、捜査段階での通信の秘密の侵害などの捜査権乱用につながる危険があることなどの懸念があります。
また児童ポルノ規制法においては、画像の提供、作成等に加え、単純所持の処罰規定も盛り込まれました。
勧誘者が自撮り画像を取得した時点で単純所持罪は成立するわけですが、その規制、摘発すら実効性を発揮していない現状で、勧誘段階での、このような罰則をさらに設けることには疑問があります。
これらの点について十分ご審議くださいますよう、お願いいたします。
という内容でございます。

児童ポルノという表現は、青少年や保護者にとっては加害者が作成( 撮影) するものというイメージが強いと。自分で撮影・送信させられる自画撮り被害のイメージとはなかなかなじみにくいという発言~第31 期東京都青少年問題協議会第3 回専門部会

 児童ポルノ法では製造罪の主体から児童自身が除外されてないので、児童が行為主体となることも予定しているので、自撮の場合はまず児童が「加害者」としてを疑われることになるというのが法律ですが、東京都条例ではそれはそう読まないようですよ。

http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/singi/seisyokyo/31ki-menu/index.html
第31 期東京都青少年問題協議会
第3 回専門部会
平成29 年4 月13 日( 木)

○ 坂元委員 啓発や相談において、児童ポルノという言葉が使われているわけですけれども、今では随分なれたのですけれども、自画撮り問題については、個人的にはややしっくり来ないような気がしているところでございます。児童ポルノと言われると、加害者が撮影をするという印象を受けるのでございますけれども、
それが自画撮り問題の啓発や相談におきましても、児童ポルノ問題1 つとして、その言葉を使って啓発されている場合が多いのかなというふうに思われるわけでございます。これは少し誤解を招いたり、不能率な面がないのかなと感じられまして、このあたりは検討課題になるんではないかと思われるところでございます。
○ 木村部会長 ありがとうございます。
確かに構成要件を明確にするという意味では、児童ポルノという言葉自体は固まったものがありますので、重要なのかなと思いますけれども、それと啓発・教育というのは、全く同じにする必要もないかと思うので、いろいろな工夫があろうかと思います。重要なご指摘、ありがとうございます。
他にもしご意見あれば。よろしいですか、お願いします。
・・・


http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/singi/seisyokyo/31ki-menu/senmon4/gijiroku.pdf
第31 期東京都青少年問題協議会
第4 回専門部会
平成29 年5 月11 日( 木)
○ 重成青少年課長
p13
また、委員の発言からの児童ポルノという表現は、青少年や保護者にとっては加害者が作成( 撮影) するものというイメージが強いと。自分で撮影・送信させられる自画撮り被害のイメージとはなかなかなじみにくいのではないかというご発言がございました。都は、普及啓発に当たっては、青少年や保護者に伝わりやすい文言で発信するなどにも留意すべきであると考えてございます

強制わいせつ罪・強姦罪等の親告罪規定廃止は遡及する

「既に法律上告訴がされることがなくなっているもの」というのは告訴取消等をいいます。
 それ以外は改正法施行前の事件でも、非親告罪になります。

現行法
第一八〇条(親告罪
 第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2前項の規定は、二人以上の者が現場において共同して犯した第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪については、適用しない。

改正後
http://www.moj.go.jp/content/001224163.pdf
第百七十八条の二及び第百八十条を削る。
(経過措置)
第二条この法律の施行前にした行為の処罰については、なお従前の例による。
2この法律による改正前の刑法(以下「旧法」という。)第百八十条又は第二百二十九条本文の規定により告訴がなければ公訴を提起することができないとされていた罪(旧法第二百二十四条の罪及び同条の罪を幇助する目的で犯した旧法第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪を除く。)であってこの法律の施行前に犯したものについては、この法律の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き、この法律の施行後は、告訴がなくても公訴を提起することができる。
3旧法第二百二十九条本文の規定により告訴がなければ公訴を提起することができないとされていた罪(旧法第二百二十四条の罪及び同条の罪を幇助する目的で犯した旧法第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪を除く。)であってこの法律の施行前に犯したものについてこの法律の施行後にする告訴は、略取され、誘拐され、又は売買された者が犯人と婚姻をしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、この法律の施行の際既に附則第四条の規定による改正前の刑事訴訟法(昭和二十
三年法律第百三十一号)第二百三十五条第二項に規定する期間が経過しているときは、この限りでない。
4旧法第二百二十四条の罪及び同条の罪を幇助する目的で犯した旧法第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪であってこの法律の施行前に犯したものについてこの法律の施行後にする告訴の効力については、なお従前の例による

法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会
要 綱 ( 骨 子 ) 修 正 案
http://www.moj.go.jp/content/001185581.pdf
一及び二の適用範囲
一及び二に係る規定(以下「改正規定」という。)により非親告罪化がされる罪であって、改正規定の施行前に犯したものについては、改正規定の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き、改正規定の施行後は、告訴がなくても公訴を提起することができるものとすること

・・・
http://www.moj.go.jp/content/001183733.txt
第5回会議(平成28年3月25日開催)
ただいま,御説明がございましたように,事務当局において要綱(骨子)第四のとおり法改正をする場合,その適用範囲をどのようにすべきかという問題について検討され,改正法の施行前に行われた行為につきましても,一定の場合を除いて非親告罪として取り扱うこととするのがよいのではないかと考えるに至ったということでございます。
  この点につきまして,改正法施行前に行われた行為についても,非親告罪として取り扱うことの当否等を中心に御意見のある方はお願いしたいと思います。
  いかがでございましょうか。
○小木曽委員 今の事務当局の御説明をなぞるようなことになりますけれども,一つは憲法の問題があります。遡及適用の問題ですが,新たな罪を作るわけではなく,また,告訴がなければ裁判ができないということであったもの,すなわち国家の刑罰権自体はあるけれども,被害者への配慮からその処罰意思が確認できなければ裁判をしないという制度であったものを,被害者の処罰意思を訴訟条件としないという制度にするという変更ですから,これは憲法第39条の規定する事後法の禁止条項には触れないと思います。
  そうすると,あとは立法政策の問題になるわけですが,この資料31を見ますと,従来の法制度では,遡及適用しないというものもありますし,それから今回は大きな改正でもありますので,法が施行されるときを基準に将来的に適用するという考え方もあるだろうと思いますけれども,他方で,改正の趣旨が被害者の負担軽減ということであれば,施行前に犯された罪についても適用するという提案も否定されるものではないと考えます。
  また,罪は罪として成立するわけですので,告訴がなければ訴追されないという被疑者の期待を保護する必要があるかというと,そのような必要はないと考えることができるのではないかと思います。
○井田委員 今の小木曽委員のお考えと基本的に同じだと思うのですけれども,一言私の意見を申し上げます。手続法規定の適用に関する原則論から言えば,やはりそれは法律の施行と同時に,今現在,進行中の手続にそのまま適用するというのでなければいけないと思います。たとえ犯罪自体は施行日以前の出来事であったとしても,実体法ではなく手続法に関する法改正なのですから,遡及適用ということにならない。また,それは「改正」であり,非親告罪化という形でよい方向に法の規定を変えるという前提で考えるのですから,それはもう施行と同時にすぐ適用するのが当然で,そうでなければ筋が通らないことになるだろうと考えます。これが原則論ではありますが,ただし,仮にそれが行為者の側の正当な法的利益を侵害するというのであれば,ただちに施行するのは適切ではない,ちょっと待ちましょうということになるのだと思います。
  そこで,ここでの問題は,果たして行為者側にとって自分の犯罪が親告罪であるということが,果たして正当な法的利益であるとして主張できるものであるのかどうかということになります。
  確かに,一定の事実上の利益があることは否定できないかもしれません。しかしそれは法改正により実現される被害者側の正当な利益と拮抗して,それを凌駕するような正当な利益とは言えないでしょう。公訴時効期間の延長とか,そもそも公訴時効の廃止とかでさえ,潜在的被疑者の正当な法的利益を害するものではないというのが,平成22年の刑訴法一部改正の前提であり,またそれは最近の最高裁判例によっても支持されているのです。そうであるとすれば,親告罪であるということはますます法的に保障されているような利益ではないと考えなければならないと思います。
  ただもう既に施行前に告訴の可能性がなくなっているようなものについてはどうかということになると,確かに公訴時効の場合とは違います。既に公訴時効が完成している場合にはそもそも公訴権がない,訴訟追行権が消滅しているということで,これを法改正により復活させることはできないとも考えられる。これに対して,告訴の可能性が事実上なくなったという場合だと別に公訴権がなくなるとか,訴訟追行権がなくなるということではないということにもなりそうなのです。それはそうなのですけれども,法的安定性という見地から,それを再び動かすまでのことはないので,そういう事件については除きましょうというのが一つの考え方であり,政策的な判断としてはそれが適当であろうと考えられるのです。
○宮田委員 私は逆に,これは実体法の条文ではないとしても,刑法典の中に定められている部分であり,その重要な変更であるということを考えますと,過去の昭和22年改正,昭和33年改正の例などもございますので,同様に不遡及でいくべきではないかと考えます。
  確かに実体法上の条文ではありませんが,例えば立件されていない事案について示談がされる,あるいは告訴しないと話が付いているような事例などは,十分あり得るかと思います。こういうものは絶対に掘り起こさないという政策についての確約でもあればよろしいのですが,非親告罪化されることによって,一旦示談してもうお話が付いていたものについて,あまりいい例ではないかもしれませんが,示談金を更に取得しようとする乱用的意図で被害が届けられることも出てき得るのではないでしょうか。加害者が,自ら進んで被害者との関係を修復する動きをしたものについて,それが掘り起こされて起訴されるというようなことがあってはいけないのではないか。
  そういう意味で,非親告罪化は,公訴時効と違って,実体的な判断に関わってくるような部分もあるように思われるのです。
  犯罪を犯した方の側の立場の不安定性というのが免れないことを考えますと,遡及には反対の立場を取りたいと思います。
○橋爪幹事 1点,質問がございます。今,宮田委員の方からも御指摘がございましたが,本日配布の資料31番では,刑法の一部改正につきまして,非親告罪化に関する先例を2点御紹介いただいておりますが,昭和22年改正も昭和33年改正も,ともに非親告罪化については「なお従前の例による」旨の経過規定が設けられておりますので,今回の改正については,これらの先例とは趣旨が異なるという説明が必要になってくるかと存じます。もし事務当局の方でお分かりであれば,昭和22年改正,昭和33年改正の趣旨につきまして,ご教示いただければと存じます。
○中村幹事 それでは,事務当局から御説明申し上げます。この親告罪であったものが非親告罪化されるという改正があった場合に,改正法施行前の行為についてそれを適用するかどうかといいますのは,先ほど申し上げたとおり,理論的な問題というよりも,むしろ政策的な判断の問題ではないかと考えているところでございますけれども,その上で個々のそれぞれの法改正の際に,それぞれの政策判断がそれぞれなされたということかなと思っております。
  その上で申し上げますけれども,昭和22年の刑法改正についてでございますけれども,これは現行の日本国憲法が制定されたことに伴いまして,刑法が改正されたというところでございます。そのうちの一つとして,暴行罪につきまして,従前は親告罪であったものが,非親告罪とされるとともに,法定刑につきまして引き上げられるという改正がされています。これにつきまして,経過規定では,この改正以外の部分につきましても含めた上で,なお従前の例によるとされたものでございます。
  このときの暴行罪の非親告罪化の趣旨でございますけれども,当時の説明などを見てみますと,このように要は単なる暴行でとどまる場合については,その訴追というのを被害者の意思如何に係らしめるのを適当とするという考え方に立っていたということなのですけれども,この憲法が新しいものとなり,民主主義体制の下においては,暴力というのはやはり否定する必要があろう,傷害を伴わない暴行と言えども軽微な罪ということではなく,国家として処罰する必要があるだろうという趣旨から,非親告罪化し,法定刑が引き上げられたというものであると承知しておりまして,そうであるとするならば,今回の非親告罪化につきましては,被害者が告訴するかどうか判断を迫られるというその負担の軽減であるというところとは,非親告罪化の趣旨が異なるという説明は可能なのかなと思っております。
  また,昭和33年の輪姦的形態による強姦罪につきまして,非親告罪化されましたけれども,このときもこの法律の施行前の行為については,なお従前の例によるという形で,施行前の行為については非親告罪化しないという扱いがされたところでございます。このとき,このように判断されたのがなぜであったのかというところにつきましては,必ずしも明確でないところもあるわけでございますけれども,当時の輪姦的形態でなされる強姦罪等が非親告罪化された趣旨につきましては,この輪姦的形態でなされる強姦罪というのは,非常に凶悪なものであり,その訴追については被害者の利益のみによって左右することは適当でないと考えられたものと説明されているところでございまして,先ほど申し上げた今回の非親告罪化の趣旨とは異なるということは言えるのではないかと考えるところでございます。
○橋爪幹事 ありがとうございました。今,御説明を伺いますと,これまでの先例が統一的な論理的根拠に基づいているわけではないよう,過度に先例を重視する必要はなく,飽くまで今回の立法趣旨に従って個別的に判断をすれば足りるように思いました。
○池田幹事 先ほど宮田委員からも御指摘がありました,告訴がされて取り消されたわけではないけれども,告訴をしないという取決めが被害者との間でなされているという事案は,確かに存在するのだと思います。ただ,そういう事件について,非親告罪化したからといって,検察が被害者の意思の如何を問わず起訴するということにはならないのだということが,非親告罪化をする方針について賛成する際にも議論されていたと思います。つまり,そのような事案が仮にあるとしても,実務上,個別的に対応がなされるのであって,全ての事案が直ちに起訴されるということにはならないものと理解をしております。
○森委員 今,池田幹事に代わりにお答えいただいたような気がいたしますけれども,確かに以前も申し上げましたとおり,検察官としましては非親告罪化されたとしましても,被害者の意思を尊重して処分を考えていくという点は,何ら変わるところがないと考えております。ですので,ちょっと宮田委員がおっしゃった事案とは異なりますけれども,例えば被害者がもういいですと言って告訴しませんと言って不起訴になった事案につきまして,検察官の方がそれを新たに掘り起こして,被害者の意思に関係なく起訴してしまうというようなことはまずないと思っていただいていいと思います。
  それから宮田委員がおっしゃったのは,被害者がもう告訴しません,示談が成立しているので告訴しませんと言って事件化されなかったような改正法施行前の事案について,被害者がやはり処罰してほしいと言い出した場合,その事案が立件されることになるとしたら,被疑者の立場から見た場合問題ではないかということだったかと思うのですけれども,その点につきましては,現行法の下でも告訴が一旦なされて取り消されたのではなく,元々告訴がないのであれば,改めて被害者がやはり処罰してほしいということで告訴をすれば,それは処罰の対象になりますので,現行法の下と非親告罪化した後の対応とで何ら変わるところはないと考えております。
○塩見委員 私も非親告罪化して,それを遡及させるという御提案に賛成を致します。こだわるというか,細かいことを申しますと,暴行罪のときと非親告罪化の趣旨が異なるというお話が出ましたけれども,刑罰を引き上げて,それに伴って非親告罪化しているという点では,やはり今回も一緒ではないのかという気はしております。
  第1回目の刑事法部会におきまして,私が申して佐伯委員から御批判を受けたことなのですけれども,非親告罪化を支持する理由としまして,やはり重く処罰される,そういう重い責任評価を受けるに至った性犯罪であることが挙げられると思います。そういう場合にはやはり刑事訴追を被害者の意思に委ねるのは妥当でないという点がやはり私はあると考えますので,暴行罪の場合と今回の場合とは違いますと割り切るというのは,ちょっと抵抗感を感じないわけではありません。
  いずれにしましても,結論的には,被害者保護の観点から,親告罪ではなくて非親告罪にするという要請が政策的判断として強いということで,すぐに適用した方がよいという判断は支持できると思います。そういう意味で御提案に賛成したいと考えております。
○山口部会長 ほかにいかがでしょうか。
  今日のところはこれでよろしゅうございましょうか。ありがとうございました。
  それでは,事務当局におかれましては,ただいまの御意見を参考に更に御検討いただきたいと思います。
  では,本日の審議はこれをもちまして終了ということにさせていただきたいと思います。
  次回でございますが,次回につきましては冒頭で御議論いただきましたように,ヒアリングについて,日程等を含めて事務当局と検討させていただきたいと思いますので,委員・幹事の皆様には,追って御連絡することとさせていただきたいと思います。
  なお,本日の会議の議事につきましては公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することにさせていただきたいと思いますが,そのような取扱いでよろしゅうございましょうか。
(一同異議なし)
○山口部会長 ありがとうございました。では,そのようにさせていただきます。
  では,これをもちまして終了といたします。本日はどうもありがとうございました。
−了−

痴漢掲示板利用の虚偽告訴・逮捕事件

 痴漢掲示板の事件は承諾ありと偽った強制わいせつ事件として和歌山で発生したと記憶しています。
 警察官利用の間接正犯の被疑事実って長そうですね。
 迷惑条例違反罪は社会的法益で、承諾があっても必ずしも「羞恥」「不安」の要件が失われることはないと思われますが、弱くはなるでしょう。

大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
(卑わいな行為の禁止)
第六条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所又は公共の乗物において、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。
解説
第6 卑わいな行為の禁止(第6条関係)
1 この条は、痴漢行為、のぞき見行為、隠し撮り等卑わいな行為を規制することにより、人にしゅう恥心又は不安感を抱かせる行為を防止し、個人の意思及び行動の自由を保護しようとするものである。
2 第1号関係
( 1 ) 「人」とは、自然人をいい、性別、年齢又は国籍を問わない。
(2 ) 「著しく」 の程度は、具体的にどの程度と明示することは非常に困難であるが、社会通念上、容認し難い程度のものであれば足りる。
(3 ) 「人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような」とは、社会通念上人に著しく性的恥じらいを感知させ、又は不安を覚えさせるであろう程度のことをいい、被行為者が行われた言動を認識する必要はあるが、当該言動によって実際に性的恥じらいを感知し、又は不安を覚えたか否かは問わない。この場合において、被行為者とは、言動の直接的な対象となった人はもとより、言動の直接的な対象となった人が当該言動の内容を理解できない場合において、それを理解し得る能力があり、かつ、当該言動を認識し得る状態にある間接的な対象となった他の人も含まれる。

http://www.sankei.com/west/news/170621/wst1706210095-n1.html
同署によると、容疑者は、大阪市浪速区に住むパートの女(26)=同容疑で逮捕、釈放=に対し「男にわざと痴漢させて警察に突き出せば示談金が取れる」などと持ちかけ共謀。ネットの掲示板に「痴漢してもらいたいです」と書き込み、連絡を取ってきた京都市内の男性(50)に、痴漢行為に合意する内容の返信をしていた。
 逮捕容疑は5月22日夜、大阪市営地下鉄堺筋線の車内で、男性に女の胸や下半身を触らせた後、天神橋筋六丁目駅で降りた男性に「痴漢をしただろう」と言って取り押さえ、「この男が犯人です」と虚偽の申告をして警察官に引き渡したとしている。男性は大阪府迷惑防止条例違反容疑で現行犯逮捕された。
 容疑者は、男性が痴漢する様子を動画で撮影していたという

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http://digital.asahi.com/articles/ASK6P5K0XK6PPTIL015.html
電車内でわざと痴漢させて被害をでっち上げ、取り押さえた男性を警察に引き渡したとして、大阪府警は21日、容疑者(21)を逮捕監禁と虚偽告訴の疑いで逮捕したと発表した。
 曽根崎署によると、容疑者は5月22日夜、インターネットで知り合った大阪市浪速区のパートの女(26)=同容疑で逮捕、釈放=と共謀。京都市の男性(50)に大阪市営地下鉄堺筋線の車内で女の胸などをわざと触らせた後、容疑者が男性の腕をつかんで取り押さえ、警官に虚偽の痴漢被害の申告をした疑いがある。容疑者は「弁護士がつくまで話すことはありません」と話しているという。

 容疑者は、女に「痴漢させて示談金をもらういい稼ぎ方がある」と持ちかけ、女がネット掲示板に「痴漢してもらいたい」と投稿。応じた男性に服装や乗っている車両を教えていたという。男性が府警に「掲示板で知り合った女性と勘違いしました」などと話し、虚偽だと発覚。男性は翌日未明に釈放された。
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http://www.jiji.com/jc/article?k=2017062101254&g=soc
ネットで誘い、痴漢でっち上げ=示談金目的か、容疑で男逮捕-大阪府警
 「痴漢をしてほしい」とインターネットに投稿し、痴漢をさせて被害をでっち上げたとして、大阪府警曽根崎署は21日までに、虚偽告訴などの疑いで容疑者(21)を逮捕した。容疑を否認している。同署は示談金を取ることが目的だったとみて、調べている。
〔写真特集〕私たちが許しません
 逮捕容疑は大阪市のパート従業員の女(26)=同容疑で逮捕、釈放=と共謀。5月22日夜、ネット掲示板に「痴漢してほしい」と投稿し、大阪市営地下鉄の車内で、呼び出した京都市の男性(50)に女の胸などを触らせた後、取り押さえ、警察官に虚偽の申告をした疑い。
 同署によると、容疑者はネットで知り合った女に「痴漢をさせて示談金を取らないか」と勧誘。女は掲示板を見て連絡してきた男性に「今からお願いしたい」と、外見の特徴や乗る電車をメールで知らせて呼び出し、胸や下半身を触らせていた。
 下車した直後に容疑者が「痴漢したやろ」と通報。女は被害を訴え、同容疑者も「犯行を目撃した」などと申告した。
 男性が合意があったと主張し、女の携帯電話にもやりとりが残されていたため発覚。女は犯人に仕立てようとしたことを認めているという。(2017/06/21-20:15)

「わいせつな行為」とは、「性的性質を有する一定の重大な侵襲」である。佐藤陽子「強制わいせつ罪におけるわいせつ概念について」 法律時報2016.10

「わいせつな行為」とは、「性的性質を有する一定の重大な侵襲」である。佐藤陽子「強制わいせつ罪におけるわいせつ概念について」 法律時報2016.10
 「わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。(最判昭26・5・10刑集5-6-1026)」という定義を捨てろというのに、定義づけできてない。
 わいせつ意図と治療意図が併存するときには、準強制わいせつ罪にはならないわけで、わいせつ医師とかわいせつ整体師に甘いと思います。
 最高裁が求めているのは、今強制わいせつ罪で処罰されている行為がそのまま処罰される定義だと思います。

佐藤陽子「強制わいせつ罪におけるわいせつ概念について」 法律時報2016.10
小特集 性犯罪処罰の基本問題 
本稿のように、性的意図をわいせつな行為の一考慮要素とすれば、①治療行為や②フェティシズム行為において、性的意図がどのような影響を与えるかが問題になろう。
①我が国の裁判例においては、治療行為についても性的意図を重視する傾向にあるように思われる45)。しかし、治療行為は社会通念上、およそ性的性質を有さないであろう。同じ陰部に指を挿入する行為であっても、婦人科医が診察行為としてそれを行う場合はもはや社会的評価が異なるといえる。さもなければ、客観的に全く正当な治療行為46)をおこなった医師に犯罪が成立しうることになるだろう。確かに、仮に行為者の性的意図が被害者に明らかになれば、被害者の蓋恥心が著しく害されることになるだろうが47)、内心に性的意図が隠れていることだけを理由として、客観的に正当な治療行為を処罰することは不当であろう48)。
②性的意図だけで処罰できないという点では、フェティシズム行為も同様であろう。たとえば、女性が嘔吐する姿に性的興奮を覚える者が、女性の口に指を入れて嘔吐させる行為49)は、社会通念上ほとんど性的性質を有さない行為であるため、単に行為者に性的意図があったことを理由に、176条で処罰すべきではないだろう50)。
・・・

4 おわりに
本稿では、176条の保護法益に鑑み、176条における「わいせつな行為」の新たな定義付けを試みた。本稿の理解によれば、「わいせつな行為」とは、「性的性質を有する一定の重大な侵襲」である。
また、「性的性質を有する一定の重大な侵襲」か否かは、全事情を評価の基礎とし、一般人の通常の感覚をその評価の基準とする。全事情の中でも、(i)関係する部位や(ii)接触の有無・方法は、評価の基礎として重要であり、(ⅲ)継続性、(ⅳ)強度も一定の重要性を有する。他方、(v)性的意図、(vi)その他の状況は考慮に値するものの、(i)~(Ⅳ)の要素よりは幾分劣った重要性を有するといえよう。これらのものが総合的に考慮され、わいせつな行為の有無は導かれるべきである56)。

42) BGH NStZRR 08,339を参照。なお、松山地判平成17年12月12日LEX/DB28115029は、肛門にバイブレーターを挿入するなどSM行為を強いた事案を暴行罪としている。
46) ここでいう「全く正当な治療行為」には、治療行為自体は正当だが、その際に裸の写真を秘密裏に撮影したり、ひそかに自慰行為に興じるなどした場合は含まれない。全体的に観察すれば、それはもはや正当な治療行為ではないからである(ただし、平成23年5月26日LEX/DB25471443は本稿の見解とは異なりうる)。
48)佐伯仁志「強制猥褻罪における猥褻概念」判夕708号(1989年) 66頁を参照。
50) ただし、フェティシズム行為自体の性的性質および重大性は、時代によって変わりうる。たとえば、イギリスでは、靴フェチが女性の足から靴を脱がす行為について、かつてはおよそ性的ではありえないものとされていたものを、その後、性的になりうるものと解した(仲道祐樹『イギリスにおける性犯罪規定」刑ジャ45号(2015年) 28頁注107を参照)。
56) 具体的な適用例については、樋口亮介・本小特集88頁を参照。

参考文献も引用しておきます

佐伯仁志「強制猥褻罪における猥褻概念」判例タイムズ 第40巻29号
必要説には以下のような根拠が考えられるが、いずれも充分なものではないと思われる。
第一に、強制猥褻罪を自己を性的に堕落させる罪と考える者はいないであろう。
第二に、強制猥褻罪は社会的風俗に対する罪としての性格を有しているから性的意図が必要であるという見解もあるが、なぜ社会的風俗に対する罪だと行為者の性的意図が必要になるのか明らかでないし、社会的風俗に対する罪である猥褻物頒布罪ではこのような性的意図は要求されていない。
第三に、保護法益を性的自由と解しながら、強制猥褻罪の成立には法益侵害に加えて行為者の性的意図が必要であるとする(17)見解があるが、強制猥褻罪に限ってこのような「書かれていない構成要件要素」が必要な理由が明らかでない。この見解は、治療目的や懲戒目的の場合を猥褻行為から排除しよういう意図を{18)もつのかもしれない。しかし、客観的に治療行為、懲戒行為とみられる行為の違法性が、行為者の意図によって左右されるのは妥当でない。
もし左右されるという立場に立ったとしても、正当化事由の主観的正当化要素として構成すれば足り、強制猥褻罪一般について性的意図を要求する理由とはならないであろう。
第四に、性的意図の存在は被害者の性的羞恥心の侵害に影響を(19)与えるという見解がある。
たしかに、強制猥褻罪では行為者に性的意図のあることが通常であるし、その性的意図が被害者の性的羞恥心に影響を与えることも有り得るであろう。
しかし、性的意図の存在は限界事例においては非常に微妙な問題であり、犯罪の成否を分ける基準としては適当でないし、客観的に性的自由を侵害する行為であれば、このような意図を重ねて要求する必要はないと思われる

(18) 青柳文雄「傾向犯について」法学研究三六巻四号(昭38) 二、八頁は、このような特殊な場合にのみ、強制猥褻罪は傾向犯であるとする。
(19)西原•前掲(注1)三七頁参照。
西原教授が例として挙げられる、性的意図のないことが外部的に明らかで被害者の性的羞恥心を侵害しないような行為は、当該具体的事情の下で客観的に猥褻行為でないと言ってよいように思われる。

青柳文雄「傾向犯について」法学研究三六巻四号(昭38) P2
傾向犯の例として一般に引用されるのは猥褻罪の例であって、医師が婦人の診察に当ってその主観的な性的傾向が行為者を行為へと導いた場合にはじめて猥褻罪を構成すると論じられる。しかし、このような特殊の場合にだけ猥褻罪が傾向犯になるのであって一般の差恥感情を害することを処罰する猥褻罪全部が傾向犯なのではない

西原春夫 強制猥褻罪における主観的要素 刑法判例百選Ⅱ各論第二版 36頁 1984年4月発行
ところが、最近にいたり、違法性をできるかぎり法益侵害性に近づけょぅとする試みがふたたび登場し、それにつれて、主観的違法要素を否定ないし制限的にのみ認めようとする見解が生じた(中山・刑法総論二三九頁以下、内田・刑法I総論一六六頁。平野・刑法総論も全体としてそのような方向を持つ)。
このような見解によれば、医師が女性患者の診断.治療中に猥褻の意図を持ったとしても、行為が診断.治療としての外形を保っているかぎりは猥褻行為にならないとされる。
通説によれば、その意図ないし内心傾向が証明された場合には、やはり猥褻行為の存在を肯定することとなろう。
このような刑法総論の根本にかかわる問題をここで簡単に解決してしまおうとは思わないが(私見につき、西原・刑法総論―四六頁以下参照)、少なくとも各論の問題としてまず明らかにしなければならないのは、通説により強制猥褻罪が目的犯ないし傾向犯とされる理由いかんである。
被害者の性的自由の侵害という法益侵害性に加えて、行為者側の破廉恥な欲望の満足という側面をプラスし、両者あいまって刑法上の違法性を構成するというのが、おそらく通常考えられている理由であると思う。
しかし、この考え方によれば、法益侵害性があっても破廉恥な動機・目的・内心傾向がない場合には処罰されないこととなるが、はたしてそのような結論を維持すべきかどうか疑問である。
被害者の側からみて、性的自由を侵害される何らの理由がないのにそれが侵害されたとしたら、そこには端的に、刑法によって保護さるべき利益の侵害が認められるのではなかろうか。
行為者の目的や内心傾向がどのようであるかは、その際問題となってこないはずである。
もっとも、法益侵害性は同じなのに行為者が一定の目的のもとに行為した場合にのみ処罰する規定は、他にも、たとえば営利誘拐罪に関する刑法ニニ五条などがある。
しかし、この規定は、行為者が営利、猥褻、結婚の目的を持つような場合には、一般に被拐取者の行動の自由の侵害の度合いが強くなるおそれがあるから、そのような危険性の点に着眼してその種の目的のある場合をとくにとり出して処罰の対象としたものと考えられる。
ところが、強制猥褻罪の場合には、少なくとも猥褻の目的あるいは内心傾向を要求する理由を右のように解する立場に立っと、そのような目的あるいは内心傾向があることが性的自由をより害するということにはならない。
このようにみてくると、強制猥褻罪について猥褻の目的あるいは内心傾向を要求する理由を右のように解するのは、適切でないように思われてくる。
それでは、そのような王観的要素は必要でないのかというと、そこまで行ってしまうことにはやはり問題がある。
なぜなら、行為者に猥褻の目的あるいは内心傾向があることが被害者にとって明らかな場合には、たとい診断.治療・懲戒というような合法的な外形をとっていたとしても、その羞恥心はそのような外形のない場合と同様に著しく害されることになるし、ひいて性的自由の侵害が考えられるからである。
逆に、行為の外形上行為者に猥褻の目的あるいは内心傾向がないことが明らかな場合には、それがある場合とくらべ、同じ行為に対しても羞恥心の著しい侵害を感ずることはないであろう。
このように、強制猥褻罪における主観的違法要素は行為者の動機の反倫理性を基礎づけるものと解すべきではなく、法益侵害性を決定する要素として理解すべきであると考える。
このような立場によれば、もし猥褻の目的あるいは内心傾向があるとしたら当然性的自由の侵害が考えられるような外部的行為の行われた事例においては、そのような目的あるいは内心傾向がない場合にもそのないことが被害者に明らかでないかぎり法益侵害性は失われないことになり、したがって違法性は否定されないことになる。
本件のような場合も同様であって、その意味で本判決の多数意見は結論において相当でなく、一、二審判決および少数意見は理由において相当でない。