児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ致傷、被害者匿名の一審破棄 「法令違反」(宮崎支部h28.6.30)

 h27.7.29起訴の事件
 南日本新聞で起訴の報道がありました。
 1審の弁護人も、控訴審の弁護人も、訴因不特定という有利に使える論点をどうして放棄してしまうのでしょうか。

参考文献
「起訴状匿名化をめぐる議論について」大阪弁護士会 刑弁情報46号
 初澤由紀子「起訴状の公訴事実における被害者の氏名秘匿と訴因の特定について」 安富退職記念号慶応法学31号p61
「性犯罪事犯等の刑事手続における被害者氏名等の秘匿 警察学論集67巻9号」
 酒巻「被害者氏名の秘匿と罪となるべき事実の特定」町野朔先生古稀記念 刑事法・医事法の新たな展開
 名古屋高裁金沢支部h27.7.23(福井の事件)→上告中
 名古屋高裁金沢支部h27.7.23(富山の事件)

性犯罪、被害者匿名で起訴/鹿児島地検、保護を優先し先月2件
2015.08.08 南日本新聞
 鹿児島地検が、女性暴行罪で7月に起訴した男の起訴状で、被害者の氏名を匿名にしていたことが7日、分かった。性犯罪などの二次被害防止のため、全国の地検が被害者名を記述しないケースが相次ぐ中、県内では初めてとみられる。県警は男の逮捕状で被害者の氏名を匿名にしており、足並みをそろえた形となった。
 地検によると、起訴は7月3日付。起訴状は被害者の氏名部分を「女性」とし、犯行場所と年齢の記載にとどめた。7月29日には、強制わいせつ致傷事件でも被害者を匿名で起訴し、裁判員裁判で審理される。
 地検は「被告と被害者に面識がない場合や、被害者から申し出があった場合などに匿名とする」と説明。女性暴行罪で起訴された男の担当弁護士は「被告が事実を認め、争いがなかったため、匿名に同意する意見を出した」と述べた。
 最高検は被害者の匿名化について、指針は示さず、各地検が状況に応じ事件ごとに柔軟に対応することにしている。県警は2013年から被害者の氏名を記載しない逮捕状を執行。今年7月までに少なくとも22件に上る。
 被害者の匿名化は、12年の神奈川県逗子市のストーカー殺人事件がきっかけ。警察が逮捕状執行時に読み上げた内容などから元交際相手の男が被害者の住所を特定、犯行に及んだ可能性が浮上した。
 刑事訴訟法256条は起訴状に犯罪の日時や場所、犯行手段などを可能な限り明示するよう求めている。被告に反論の材料を提供したり、犯罪事実を特定させたりするためだ。
 鹿児島大学法科大学院の中島宏教授(刑事訴訟法)は「起訴状は審理する範囲を決める裁判の大前提。被害者保護も重要だが、匿名ではどの事実を起訴したのか特定できない場合もある。安易に特例を広げず、慎重な運用が必要」と指摘した。県弁護士会犯罪被害者支援委員会副委員長の溝川慎二弁護士は「逮捕状や起訴状などで各機関が足並みをそろえないと、被害者は守れない。法による規定が必要」と話した。(山下翔吾、西悠宇)

http://digital.asahi.com/articles/ASJ7P42BYJ7PTNAB00S.html
強制わいせつ致傷、被害者匿名の一審破棄 「法令違反」
 女性に路上でわいせつな行為をしたとして、鹿児島市の無職の男(73)が強制わいせつ致傷罪で起訴された事件の控訴審で、福岡高裁宮崎支部(岡田信裁判長)が6月、「起訴状で被害者を特定しておらず、一審の訴訟手続きに法令違反があった」として一審・鹿児島地裁判決を破棄していたことがわかった。
 高裁支部判決によると、男は昨年7月7日午後9時45分ごろ、同市の路上で当時18歳だった女性の下半身を触り、その際にけがを負わせたとして起訴された。
 一審で検察側は、女性の実名を記載すると被告が女性の自宅を突き止める恐れがあり、女性の母親が二次被害を心配しているなどと、起訴状に女性の名前を記載しなかった理由を説明した。鹿児島地裁は昨年12月、男に懲役4年を言い渡した。
 これに対し、岡田裁判長は判決で「実名を記載することで具体的な支障は生じないのに、服装などの情報しか記載せず、検察側は特定性に乏しい方法をあえて選択した」と指摘。「訴因を明示して記載しなければならない」とする刑事訴訟法に反しているとして、「訴因不特定のまま漫然と判決を出しているので、原判決の破棄は免れない」と結論づけた。その上で、検察側が被害者の記載を実名に改めると口頭で説明したことを受け、一審の事実認定を踏まえて改めて男に懲役4年を言い渡した。

http://www.yomiuri.co.jp/kyushu/news/20160721-OYS1T50017.html
被害者名を匿名にして起訴された強制わいせつ致傷事件の控訴審で、福岡高裁宮崎支部(岡田信裁判長)が、「被害者を特定しておらず、訴訟手続きに法令違反がある」として、1審・鹿児島地裁判決を破棄する判決を言い渡していたことがわかった。二次被害を防ぐため、被害者を匿名にして起訴されるケースは相次いでいるが、被害者の匿名を認めた1審の判断が覆るのは異例だ。
 判決は6月30日付。1、2審判決によると、鹿児島市の無職男(73)は、昨年7月7日夜、鹿児島市内の路上で、暗がりを歩いていた女性(当時18歳)に背後から抱きつき、「騒いだら殺す」などと脅して体を触った。女性は逃げようとした際に転倒、ひざに軽傷を負った。
 検察側は、〈1〉女性は犯行現場の近隣の町に住んでおり、男が被害者名を知れば、自宅を突き止める恐れがある〈2〉女性の母親が二次被害を心配している――などとして、起訴状で女性について、当時の年齢と「白色半袖ポロシャツに紺色ショートパンツを着用し、眼鏡をかけ、紺色のサンダルを履いた女性」と記載、実名は出さなかった。1審では匿名について争われず、昨年12月、男が過去に同種の性犯罪を行ったことも踏まえ、懲役4年(求刑・懲役5年)の実刑判決が言い渡された。
 今年4月の控訴審第1回公判でも弁護側は匿名について争わなかったが、岡田裁判長は「被害者の実名がなく、訴因が特定されていない。補正しなければ公訴を棄却する」とした。検察側は第2回公判で、紙に記した実名を裁判官、男、弁護人に見せた。岡田裁判長は判決で、今回の起訴状について「被害者の実名を記載することに支障があったとはうかがわれないのに、服装などの情報しか記載されていない」とし、1審判決を破棄。そのうえで、検察側が実名を示したことなどを踏まえ、改めて懲役4年とした。検察側、被告側とも上告せず確定した。

福岡高裁宮崎支部h28.6.30
論旨に対する判断に先立ち,職権で調査すると,検察官は,本件強制わいせつ致傷被告事件について公訴を提起するに当たり,起訴状に,公訴事実として, 「被告人は,平成28年10月11日午後6時23分頃,大阪市北区123番地先路上を通行中の黒色半袖Tシャツと黒色スカートを着用し,サングラスをかけ,黒色サンダルを履いた女性(当時78歳)を認め,同人に強いてわいせつな行為をしようと考え」 と記載した上で,同人に対し強いてわいせつな行為をして,その際,同人に傷害を負わせた旨の記載をするにとどまり,被害者の実名を記載していないことが認められる。
ところで刑訴法256条3項によれば,公訴事実は,訴因を明示してこれを記載しなければならず,かつ,訴因を明示するには, 「できる限り,日時,場所及び方法をもって罪となるべき事実を特定してこれをしなればならないとされている。原審記録によれば,本件勾留状には,被疑事実の要旨として被害者の実名が記載されており,実名を記載することについて支障があったことはうかがわれず,その後も,被害者は犯行現場の近隣の町に住んでおり,被告人が被害者の名前を覚えた場合には被害者宅を突き止めるおそれがあること,被害者の母が二次被害について心配していること等検察官の釈明を踏まえてもなお,実名を記載することについて具体的な支障が生じたことはうかがわれない。しかるに,本件起訴状には,公訴事実として,被害者の実名に代えて,その服装等の可変的な情報しか記載されていないのだから,検察官は,殊更特定性に乏しい方法をあえて選択し立ものといわざるを得ない。そうすると,本件起訴状の公訴事実は, 「できる限り」罪となるべき事実を特定したものとはいえず,刑訴法256条3項に反していることが明らかである。このような場合,裁判所としては,まずは検察官に対し,実名の記載に改めるなど適宜の方法により公訴事実を補正するよう求めるべきであり,検察官が補正に応じた場合には実体審理に入り,補正に応じなければ刑訴法338条4号により検察官の公訴を棄却すべきである。それにもかかわらず,原審裁判所は,検察官に対し,上記補正の機会を与えることなく,訴因不特定のまま,漫然と実体判決をしたのであるから,原審の審理には訴訟手続の法令違反があり,かっ,その違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
よって,論旨について検討するまでもなく,原判決は破棄を免れない